【金融ここが聞きたい!】


 このコーナーは、記者会見における質疑・応答(Q&A)などの中から、金融を巡る時々の旬な情報をセレクトしてお届けするものです。もっと沢山ご覧になりたい方は、是非、金融庁ホームページの「記者会見概要」のコーナーにアクセスしてください。
 


:例えば、株価のボトムであった4月における実体的な判断と、今における実体的な判断に非常に大きな差があるというふうには思っておりません。我々の実体経済に対する判断は、月例経済報告を見ていただければ、我々としては非常に客観的にその時点での評価をしているつもりであります。もちろん、全く同じであるということでもありません。特に企業の収益とか、それを反映した期待、それに大きな変化があるからこそ実際の株価は動いているのだと思います。
 我々としては、いずれにしても実体経済をしっかりと見つめて、それを良くしていくこと。そうした中で構造改革の姿を明確に描くことによって、将来に対する期待を更に高いものに持ってもらうこと、これが政策当局の役割だと思います。
平成15年7月8日(火) 竹中大臣記者会見抜粋)

 景気回復のエンジンとして当面期待されるのは輸出と設備投資であると思います。設備投資は先行指標である機械受注は良くなっておりますので、先行きに対する明るい見通しはありますが、現状において、設備投資の持ち直しは緩やかであり、特に大きな変化はありません。また、輸出は横ばいであります。そういう意味で足元の実体経済を非常にステディに見て判断したと考えております。
平成15年7月11日(金)2 竹中大臣記者会見抜粋)

 株価は、いろいろな要因で変動いたします。特に、短期の変動というのは様々な要因で変動するし、振れたりいたしますから、その意味では短期的な動きで何か中・長期的なものを判断するというのは適切でない面もある。基本的には、株価の上昇、取引の活発化というのは大変歓迎されることだというふうに思っておりますが、我々としては、やはり経済の根底をしっかりさせるという意味で、日々の動きに一喜一憂することなく、改革をしっかり進めたいと思います。
平成15年7月4日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)

 株価によって、銀行の財務がもちろん影響を受けるわけでありますから、株価が上昇するということは、これは銀行の財務にとってもちろんよい影響を与えるということである、これは間違いないと思います。
 しかし、我々として重要なのは、資産査定をきっちりとして、自己資本を充実して、ガバナンスを強化する、その3つの観点から銀行システムがどのように進化しているかということを見ることが重要だと思います。りそなの公的資金注入というのは、自己資本の充実とガバナンスの強化という点では、私はプラスに作用するということを期待しておりますし、さらにはことし3月期の決算から、DCF(注)を初め資産査定の厳格化というのがより着実に進んだというふうに思っておりますので、この3つの視点に沿って、やはり着実に事態をよくしていくことが我々の努めだと思います。
平成15年7月11日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)
 

(注)

 DCF(法)とは、Discounted Cash Flow Methodの略で、貸出債権から生ずる元利払いなど将来のキャッシュ・フローを一定の割引率で割引くことによって、その債権の現在価値を求める方法です。米国において、DCF法は個別引当として認められる手法の一類型として広く採用されており、「金融再生プログラム」においても、「主要行において要管理先の大口債権者については、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式を基礎とした個別引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する」とされております。
(アクセスFSA創刊号【金融ここが聞きたい!】より)


 7月11日の月例経済報告をご覧になりたい方は、内閣府経済財政政策のホームページの月例経済報告等から平成15年7月の月例経済報告にアクセスしてください。
 また、りそなの公的資金注入について詳しくは、アクセスFSA第7号の【トピックス】「りそな銀行に対する預金保険法第102条に基づく金融危機に対応するための措置(資本増強)の必要性の認定及び同行に対する資本増強の決定について」にアクセスしてください。
 


:長期金利が上がるということは、2つの側面があるのだと思います。1つは、やはり経済全体に対する期待の上昇という側面があると思います。しかし、一方で日本経済が歩まなきゃいけない道というのは非常に狭くて、中・長期的に金利が上昇しても大丈夫なような、そういうしっかりとした経済になっていかなければいけないという側面と、しかし一方で巨額の財政赤字を抱えていますから、その財政赤字の反映としての金利上昇というのは避けなければいけない。そこは、非常に狭い道を我々は通っていかなければいけないと思っています。
 ここ数日間の市場動向で、今申し上げたようなことが大きく何か変化したとは、まだ申し上げられないと思いますけれども、我々としてはしっかりと、この狭い道だけれども、経済を安定的に発展させていくような道を歩みたいと思います。
平成15年7月4日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)

 前から専門家の間では、金利が何%上がれば国債金利が何%上がって、債券の価格が何%下がれば、それによって評価損がどのぐらい生じると、そういう計算は存在していると思います。その意味では、今金融機関が国債を大量に抱えている中で、債券市場におけるリスクというのも銀行は潜在的に背負っているということになります。
 そうした観点から、まず第一には、やはり我々としては、とにかく財政を健全化して、国債市場の信任を維持していくということが大変重要だと思いますし、銀行は銀行として、自らのポートフォリオの中で、リスクを出来るだけ低下していく努力は当然のことながらしていただけると思っています。
 仮定の議論を余りしても仕方ないと思いますので、我々としては、そうした基本方針を確認した上で、しっかりと対応していきたいと思います。
平成15年6月20日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)
 


:正に資本を注入して、その十分な資本基盤の上に立って、やはり非常に思い切った経営改革が必要だと思います。その体制がスタートするということで、新しい経営者、経営陣には思う存分その力を発揮してもらいたい。それが今回の政策を効果あるものにする、やはり一番重要なポイントであると思っています。
 我々としては、しっかりと検査・監督をしていく立場に引き続きありますけれども、そのもとで経営陣の力を思う存分発揮してもらいたいと思っています。
平成15年6月27日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)


【金融便利帳】


 このコーナーは、とかく専門的でわかりにくい金融に関する用語や様々な疑問について、わかりやすく解説するものです。
 今月のキーワードは「インフレとデフレ」です。


 インフレインフレーションinflation)の略で、継続的に物価が上昇し続ける状態のことです。物価はお金と物のいわば交換レートですから、物価が上昇していくということは貨幣価値が低下していくということと同義です


 インフレは、それが小幅かつ安定的に推移するならば、経済活動にとってプラスに働くという見解もあります。まず、消費者は、企業の売上や生産の増加を受けて労働所得が増加するため、その分財布の紐が緩む(所得効果)とともに、物価が継続的に上昇していく中では、「現金を保有するよりも少しでも安いうちにを買っておいた方が有利」と考え、消費を活発化させます。
 また、インフレの下では借金の負担が軽くなっていくので、借金してでも自動車のような耐久消費財住宅といった大きな買い物をしようとし、家計の資産と負債すなわちバランスシート膨張していきます。ちなみにinflationとは「膨張」という意味です。


 企業では、どんどん物が売れ、また一般にその販売価格も上昇するため、販売量の増加販売価格の上昇という両面で売上収入が増えていきます。こうした中、企業は工場などの設備を拡張したり、在庫を積み増そうとしたり、積極的な「攻め」の経営に出て、設備投資在庫投資を盛んに行うようになります。
 企業も積極的に資金の借入れなどにより資金調達を行い、この資金を設備投資や在庫投資に回します。こうして、企業のバランスシートも家計同様に膨張していきます。


 なお、物価の上昇に伴い、企業や家計が保有している不動産株式資産価値が上昇します。資産価値が上昇すれば、これら経済主体の消費投資意欲を刺激し(資産効果)、経済活動の拡大につながります。


 しかしながら、インフレには問題点が多いのも事実であり、必ずしも経済にプラスとして働くわけではありません。
 そもそも「物価」というのは、ものやサービスの価格を全体として捉えたものであり、個々の価格にとって、いわば「ものさし」の役割を果すものです。例えば、りんごが平均すれば1個100円で売られているとすれば、これがりんごの価格の「ものさし」となり、我々消費者は、これを基準に、各店で売られているりんごが「高い」とか「安い」といった評価を行うことになります。
 しかしながら、インフレの下では、物価が大きく変動し、この「ものさし」の役目を果さなくなってしまうと、個々の価格をシグナルとして、個人や企業が消費や投資の判断を的確に行うことが難しくなり、効率的な資源配分が行われなくなります。上の例で言えば、今日平均価格が1個100円であったりんごが明日は130円、明後日は190円といったように急激に高騰していくとすれば、消費者からすれば、ある時点におけるある店舗で販売されているりんごが、「高い」のか「安い」のかを判断する基準がわからなくなってしまう恐れがあります。


 また、通常、物の種類によって価格の上昇率は異なりますが、一般に物価が大きく変動するようなときには、その価格上昇の幅は物によって一層大きく異なることになります。例えば、これまで、安定的な経済の下で、りんご1個100円とみかん1個20円であれば、消費者は両者を同じ価値(=無差別)と判断していたとします。このように、消費者は、りんごとみかんの相対的な価格をみながら、りんごを買ったり、みかんを買ったりしているのです。でも、インフレの下で、りんごが1個150円、みかんが1個40円に価格が上昇したとします。物価が大きく変動する状況の下では、両者の相対価格も大きく変動してしまうため、消費者は「りんごとみかんを比べてどちらが安いか」という判断を下すために必要な基準もわからなくなってしまう恐れがあります。
 このように、インフレの下では、絶対価格の変動相対価格の変動の違いが不明確になってしまい、そうした価格機能の攪乱によって、消費・投資行動が阻害されることにもなりかねません。


 さらに、先ほど、インフレの下では負債の負担が小さくなると言いましたが、確かに、インフレは債務を負っている人には有利ですが、他方で、債権を有している人にとっては不利に働きます。特に金額が固定的な所得を得ている人―例えば、定期預金や定額郵貯など一定期間金利が固定されている金融資産を保有している場合や、物価スライド制が完全ではない年金受給者―からすれば、インフレは、自身の資産を目減りさせる厄介な経済状態ということになるのです。例を出すまでもないかもしれませんが、元本100万円、金利年率1%、預入期間1年で定期預金を有している場合、その預金者は年間1万円(便宜上税金は考慮しないものとします)の利子が得られます。仮に物価が上昇していない場合には、預入時に1万円であったバッグを、1年後に、その利息により購入することが可能になりますが、物価が上昇している場合には、利息だけでは購入することが出来ず、いくらか現金を懐から別途足してやる必要が出てしまいます。
 また、現在のように大量の国債残高が存在する状況において、急激なインフレが生じたとすれば、国債の実質的な価値は大幅に下がり、国債の保有者は大きな損失を被ることになってしまいます。


 このようにして、インフレは、債務者と債権者の間で、強制的な所得再分配を行う機能を有しておりますが、それは、極端な場合、「借金棒引き」といった形で、債務者にとって一方的に有利なものになりかねず、国民経済全体の見地からみて、公正でかつ望ましいものである保証はまったくありません。歴史的にみても、第1次世界大戦のドイツなどで、国債の償還負担を減らすために、大量の紙幣増刷により意識的に大インフレ(ハイパーインフレーション)を発生させ、国の借金負担を大幅に軽減させるということが何度となく繰り返されてきたところです。


 これに対して、現在、日本経済が直面し、そして世界的にもその広がりが懸念されているのがインフレの反対の現象であるデフレデフレーションdeflation)です


 デフレはインフレとは反対に継続的に物価が低下し続ける状態のことです。逆に貨幣価値は上昇していきます。物の値段が下がっていくので、物を買うより現金で持っていた方が有利です。自ずと消費は低迷します。


 消費の低迷により物が売れませんし、物価が下がっていくので企業は自社製品価格を値下げせざるを得ず、インフレの時とは反対に販売量縮小販売価格下落の両面で売上収入が減っていきます。このように業況が奮わない中、企業は「守り」の経営に出て、設備投資や在庫投資にも消極的になります。投資意欲の減退から資金需要も縮小し、金融機関からの借り入れにも消極的になっていきます。


 デフレ下では、貨幣価値が上昇していくので、借金の負担はどんどん重くなっていきます。もともと売上が減少する中で資金需要も縮小していくわけですが、それに加えて借金の負担が重くなっていくのでは、益々借り入れに消極的になっていきます。借金をして投資をするという「攻め」に出ないだけでなく、少しでも借金の負担を減らそうとして、売上収入が入ってきたら何よりもまず借金の返済に回そうとするという極端に消極的な「守り」の行動をとります。このような中で企業のバランスシートは収縮していきます。ちなみにdeflationとは「収縮」という意味です。


 デフレ下では、労働者の所得も減少していきます。ただし、物価下落・売上減少にそのまま連動して給与水準を引き下げるわけにもいきませんので(賃金の下方硬直性)、企業はリストラなどによって経費を削減しようとします。経費削減努力によっても売上減少や借金負担の増大に耐えられずに、倒産する企業も出てきます。労働者は給与引き下げやリストラによる所得減少や、リストラや倒産によって失業するのではないかといった不安感から財布の紐をきつくします。消費は益々低迷し、企業の売上は益々減少します。
 デフレ下では、借金の負担が重くなっていくので、消費者は借金をして買い物をすることを控えます。買い物をするより現金で持っていた方が有利なので、給料が入ってくると、せっせと借金返済貯蓄に回します。家計のバランスシートも収縮していきます。


 なお、デフレ下では、企業や家計部門が保有する資産価値が下落しますが、これがこれら経済主体の消費・投資意欲を減退させ、経済活動の縮小につながることになります。


 インフレもデフレも経済の安定と成長にとってどちらも望ましいものではありません。ただ、それぞれの性格は全く正反対です。よく、インフレは「陽気な妖怪」、デフレは「陰気な妖怪」といわれるゆえんです。


 ところで、物価が継続的に下落していく状態がデフレであると先に述べました。物価はどうして下がっていくのでしょうか。
 物の値段(価格)は需要供給市場で出会うところで決まります。需要が増えれば値段が上がり、需要が減れば値段が下がります。また、供給が増えれば値段が下がり、供給が減れば値段が上がります。これが市場における価格メカニズムです。


 これとは別に、財・サービスの供給構造そのものが変化することによって値段が上がったり下がったりすることがあります。例えば、日本は石油を中東諸国などからの輸入に依存しておりますが、石油の輸出国が協調して価格を引き上げれば、仮に需要や供給の量が変化しなかったとしても石油の値段は上がります(注)。1970年代の石油ショックがそれです。逆に技術革新によって製品の供給構造が変わり、その値段が下がることがあります。例えば、かつて自動車は大金持ちしか手が出ない超高級品で庶民にとっては高嶺の花でした。しかし、自動車王ヘンリー・フォードは自動車の製造工程に大量生産技術を導入し、T型フォードを大衆的な価格で世に送り出しました。価格の大幅な低下により自動車は大衆の乗り物となりました。
 

(注)

 石油の価格が上がれば需要は縮小しますが、エネルギーや様々な工業製品の元である石油の輸入をストップすることはできないので、需要の縮小には限界があります。


 さらに、先にも述べましたように物価とはいわば物とお金の交換レートであり、そのような見方からは、世の中に出回っているお金の量が増えれば物価は上がり、お金の量が減れば物価は下がることになります。世の中に出回っているお金には、現金だけでなく預金もあります。現金と預金を合わせたマネーサプライが世の中に出回っているお金の量です。
 


 マネーサプライについては、アクセスFSA第4号【竹中大臣に質問!】にもアクセスしてみてください。


 さて、これらのことを踏まえて、今、日本でどうして物価が下がっているのだろうかということを考えますと、いくつかの要因が考えられます。
 まず、需要が少ないということが考えられます。先にも述べましたように所得の減少資産価値の下落、さらには雇用に対する不安感などから財布の紐をきつくしているということがあります。不安の原因は雇用だけでなく、例えば、年金はどうなってしまうのだろうか、自分の老後はどうなってしまうのだろうか、といった社会保障制度の将来に対する不安感もあるかもしれません。


 供給が多過ぎるということもあるでしょう。企業は、バブルの時代に大量に借金をして設備投資を拡大した結果、現在、工場店舗などの過剰設備過剰供給構造を抱えております。これが需要不足とあいまって物価を下落させている面があります。


 供給構造の変化もあります。一つは、技術革新です。かつてのT型フォードのように、IT(情報技術)の分野などで技術がどんどん進歩し、パソコンなどの値段がどんどん下がっております。
 いま一つは流通合理化です。並行輸入の実施や国内の中間流通過程の省略により、中間マージンなど商品の移動に伴うコストや在庫コストを圧縮することが可能となり、それが販売価格の低下という形で反映されてきました。


 供給構造のもう一つの大きな変化は中国です。中国はすさまじい勢いで生産技術を向上させています。日本よりもはるかに安いコストで、日本製品とほぼ同等の高付加価値の製品を中国は生産しております。デパートに行ってみましょう。様々な商品がmade in China のクレジットが付けられて、ついつい手が出てしまうような安い値段で売られています。


 世の中に出回っているお金の量、すなわちマネーサプライが増えないということも物価が下がる要因の一つです。マネーサプライは企業や家計が保有する現金と預金の合計ですが、割合的には預金の方がずっと多いのです(現金と預金の比率は1対9です)。中央銀行日本銀行)は取引関係にある銀行に対して現金日本銀行券貨幣)や中央銀行預金日本銀行当座預金)の形でお金を供給します。これらの中央銀行が供給するお金をベースマネー(あるいはマネタリーベース)といいます。ベースマネーを受け入れた銀行は、その一部を預金の払い戻しなどに備えた準備として手元に置き、残りは貸出に回します。貸出を受けた企業は借り入れたお金の一部を、例えば、仕入れなどの代金に充てたりしますが、当座、支払いに充てる必要のないお金は銀行預金として保有します。そして、これを受け入れている銀行は、またその一部を現金準備として手元に置き、残りを貸出に回します。このように銀行を介してお金が預金・貸出とぐるぐる回っていくにつれ預金の量が増えていきます。これを信用創造といいます。信用創造によって預金は増えていきますが、元をたどれば中央銀行が取引関係にある銀行に供給したベースマネーにたどりつきます。ベースマネーを元に、銀行による信用創造によって預金が増え、マネーサプライが増えていくのです。


 今、日本の金融機関は多額の不良債権を抱えていることもあって信用創造機能が低下しており、マネーサプライが十分に増えていないのです。つまり、ベースマネーが供給されても、多額の不良債権を抱えている金融機関は企業の健全な資金需要に応じる余力がなく(金融仲介機能の低下)、貸出が伸びず、信用創造によるマネーサプライの伸びにつながらないという側面があります。(注)
 

(注)

 マネーサプライが伸びないのは、先にも述べましたように、デフレ下において企業や家計の資金需要が低迷していることによるという側面もあります。


 さて、物価が下がることそれ自体はそれほど悪いことではありません。物価が下がれば安い値段でより多くのものが買えるようになるので消費者にとっては結構なことです。しかし、消費者も天からお金が降ってきて、それでただ消費しているわけではありません。一方で働いて、その稼ぎで消費をしているという労働者の側面を持っております。そして、労働者という側面で見たとき、デフレは給与カットやリストラ・倒産などによる所得減少を招く忌み嫌うべき存在になります。


 ただ、所得減少と同じだけ物価が下落すれば、経済的には中立的で消費者ないし労働者の生活水準にプラスでもマイナスでもないということになります。企業の売上収入と仕入れの支払い、家計の給与所得と生活費の支出といったフローのお金の出入りが双方パラレルに物価が下がっていけば、企業や家計の財務にとって中立的といえます。


 ならば、デフレというのは大した問題ではないのか、というとそんなことはありません。企業にしろ家計にしろ、ストックの面で借金を抱えていると事態は全然違ってきます。先に述べたように、デフレ下では借金の負担がどんどん重くなるからです。例えば、ある企業が毎月100万円ずつ元利払いする約束で1億円の借金をして原材料などを仕入れ、それで製品を作って1個1万円で売り、その売上収入から借金を返済しているとします。1億円の借金、毎月100万円の元利払いは、デフレ下で物価が下がっていっても変わりません。しかし、デフレ下で物価が下落する中で、自社の製品価格も下がっていくと、これまで1万円で毎月100個売れば借金が返せたのに、9,000円に値下がりして112個売らなければ借金が返せなくなってしまいます。しかも、デフレ下で消費が低迷する中で売上を伸ばすというのは至難の業です。かくて、企業の財務内容はどんどん悪くなり、借金返済が滞ってくるとこの企業に対する金融機関の貸出は不良債権になってしまいます。
 


 不良債権については、アクセスFSA創刊号【金融便利帳】「不良債権」にもアクセスしてみてください。


 そして不良債権の増大は金融機関の金融仲介機能・信用創造機能の低下を招き、マネーサプライの伸びの鈍化からデフレを長引かせ、デフレが長引くと不良債権の新規発生が増大するという悪循環に陥ります。このようにデフレと不良債権問題との間には相互関係があり、デフレ克服と不良債権処理を一体的に図るため、政府日銀一体となって取り組んでいくことが重要です。


 また、雇用不安社会保障不安から需要が低迷しているということがあるのであれば、そのような不安を取り除く施策が必要になりますし、過剰供給の問題があるならば、不良債権問題と裏腹の関係にある産業・企業の過剰債務・過剰供給構造の問題を解決し、産業と金融の一体的再生を図る必要があります。このように、デフレ克服のためには、様々な施策を総動員して強力かつ総合的に取り組んでいくことが重要です。


 そのような政府日銀一体となった取り組みの中で、金融庁としては、「金融再生プログラム」に基づき平成16年度に不良債権問題を終結させるという目標の実現に取り組んでおります。


 金融庁ホームページの「金融再生プログラム」のコーナーや内閣府ホームページの「経済財政諮問会議」の「閣議決定等」から「閣議決定」に入り、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003 概要」や「構造改革と経済財政の中期展望について(改革と展望―2002年度改定―)」にもアクセスしてみてください。


【お知らせ】

〇 金融庁ホームページに「証券投資がより身近になりました!」のコーナーを開設
 政府は、「貯蓄から投資へ」の流れを促進させるため、平成15年度税制改正において証券投資の大幅減税を行うとともに、今国会(第156回国会)において証券取引法等を改正し、証券取引を国民の皆様にとってより身近なものにするための様々な制度整備を図りました。そして、この7月を「証券減税PR強化特別月間」として、政府広報等の各種媒体を通じて、今回の証券減税を含めた証券投資全般について集中的かつ強力に広報活動を展開しているところです。その詳しい内容につきましては、アクセスFSA本号【証券投資特集】「『証券減税PR強化特別月間』における各種広報展開」をご覧頂きたいと存じますが、金融庁ホームページでは、この機会に、従来より平成15年度証券税制改正の内容についてわかりやすく説明してきた「証券税制の大幅な改善について」のコーナーを、今回の証券取引法等の改正の内容も含め、証券投資についてより幅広く解説する「証券投資がより身近になりました!」のコーナーにヴァージョンアップしました。政府広報オンラインなどにもリンクを張っております。どうぞアクセスしてみてください。

〇 証券取引等監視委員会ホームページにインサイダー取引など不公正取引の情報提供を呼びかけるポスターを掲示
 証券取引等監視委員会は、市場の番人として、検査や市場監視、犯則事件の調査に努めておりますが、委員会に寄せられる情報はこれらの監視活動を行う端緒として有用性が高く、委員会では国民の皆様からの情報提供を積極的に受け付けております。そして、今般、委員会では情報提供の重要性に鑑み、「インサイダー取引、相場操縦、ディスクロージャー違反、風説の流布などに気づいたら 証券取引等監視委員会に情報提供をお願いします。 03-3581-9909 https://www.fsa.go.jp/sesc/watch 」と不公正取引に係る情報提供を呼びかけるポスターを作成し、掲出することといたしました。ポスターは証券取引等監視委員会のホームページ(金融庁ホームページ・トップページ下段「SESC」からも入れます)にも掲載しております。情報提供を宜しくお願いいたします。

〇 根拠法のない共済について金融庁ホームページで説明
 最近、金融庁に対して、根拠法のない共済(いわゆる無認可共済)についてのお問い合わせが寄せられております。根拠法のない共済は、保険業の免許を受けた保険会社ではないことから、当庁の監督下になく、契約者保護のための規制や制度が存在しないなど、保険会社とは異なる制度によって運営されています。このような根拠法のない共済への加入を検討される際には、保険会社との制度上の違いについても留意し、その財務及び業務の健全性等について確認されることが重要です。このような観点から、今般、金融庁ホームページの「インフォメーション」のコーナーに「根拠法のない共済について」の説明を掲載することといたしました。どうぞアクセスしてみてください。

〇 金融庁ホームページに「証券法令解釈事例集」のコーナーを開設
 証券会社等に対する行政処分等において行った証券関係法令の解釈については、同種の事案の発生を防止するとともに、証券会社等の法令遵守態勢を確保する等の観点から、早急に各証券会社に周知することが適当と考えられることから、今般、金融庁ホームページの「資料集」のコーナーに「証券法令解釈事例集」のコーナーを開設いたしました。どうぞアクセスしてみてください。

〇 金融庁ホームページの「免許・登録などを受けている業者一覧」に「投資顧問業者」を追加
 金融庁ホームページでは、預金・保険・証券取引・借入などの金融取引をご利用される方の保護や利便などを考え、銀行、保険会社、証券会社、貸金業者などの「免許・登録などを受けている業者一覧」を掲載しておりますが、今般、業者一覧に「投資顧問業者」を追加いたしました。どうぞご利用ください。

〇“References”のコーナーを開設するなど英語版ホームページの内容を拡充
 英語版ホームページにおいて、従来の“Topics”のコーナーの掲載情報を整理し、検索しやすくするとともに、海外からの関心が高い日本の金融に関する各種情報を新たに掲載するなど内容の大幅拡充を図った“Reference”のコーナーを新たに開設しました。
 また、日本語版ホームページの「金融早わかりQ&A」について、先般、大幅な改修工事を行ったところですが、これにあわせ、英語版ホームページの“Frequently Asked Questions”(FAQ)のコーナーについても大幅な改修を施しました。英語版ホームページには、金融庁ホームページ(日本語版ホームページ)のトップページ右上の“For English”からアクセスできます。こちらの方も是非ご覧ください。

〇 金融庁ホームページに平成14年度金融庁委託調査を掲載
 金融庁においては、平成14年度委託調査として、「諸外国における不良債権のディスクロージャー状況」「海外諸国の金融機関における償却・引当制度及び実務上の対応」を、それぞれ財団法人国際金融情報センターと中央青山監査法人に依頼しておりましたが、今般、それぞれの報告書が完成いたしましたので、ホームページに掲載し公表いたしました。
 いずれの報告書も、不良債権問題を巡るタイムリーな論点について興味深い調査報告を示しておりますので、どうぞご覧ください。

〇 大臣・副大臣への質問募集中
 本号では休載させていただきましたが、アクセスFSAでは、読者の皆様から寄せられた金融を巡る大臣や副大臣へのご質問に、大臣・副大臣が直接お答えする【竹中大臣に質問!】、【伊藤副大臣に質問!】のコーナーを設けております。「金融庁のやっている金融行政って、よくわからないんだけれど、大臣・副大臣にこんなことを、是非、直接聞いてみたい!」というご質問がございましたら、金融庁ホームページの「ご意見箱」にお寄せください。その際、ご意見箱の件名の欄には、必ず「大臣に質問」あるいは「副大臣に質問」とご記入ください。また、本文の欄にご質問の内容をご記入下さい。ご意見箱のコーナーには、「45行以内」とありますが、「大臣に質問」、「副大臣に質問」の場合には、ご質問の趣旨を明確にさせていただくために、恐縮ですが100字以内に収めていただきますようお願いいたします。お寄せいただきましたご質問の中から1問選定させていただき、「アクセスFSA」において大臣または副大臣の回答を掲載させていただきます。大臣・副大臣へのご質問がございます方は、「ご意見箱」へどうぞ。また、「大臣・副大臣への質問募集中」にもアクセスしてみてください。

〇 新着情報メール配信サービスへのご登録のご案内
 金融庁ホームページでは、新着情報メール配信サービスを行っております。皆様のメールアドレス等を予めご登録いただきますと、毎月発行される「アクセスFSA」や日々発表される各種報道発表など、新着情報を1日1回、電子メールでご案内いたします。ご登録をご希望の方は、「新着情報メール配信サービス」へどうぞ。


【6月の主な報道発表等】
 
5日(木) 証券取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの結果
保険業法の一部を改正する法律の施行に伴う保険業法施行令の一部を改正する政令(案)及び保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)に対する意見募集の結果
 
6日(金) 都市再生ファンド運用株式会社に対する投資信託委託業者の認可
株式会社北國銀行に対する行政処分
東北地区における6労働金庫に対する行政処分
中国地区における4労働金庫に対する行政処分
大和証券SMBCに対する行政処分
第20回金融トラブル連絡調整協議会(平成15年4月21日開催分)議事要旨
 
9日(月) 事務ガイドライン(「金融監督にあたっての留意事項について(第二分冊:保険会社関係)」)の一部改正
 
10日(火) 株式会社りそな銀行に対する資本増強の決定等
 
12日(木) 株式会社ジャパンネット銀行に対する行政処分
 
13日(金) 法令遵守に関する情報の受付について
第21回金融トラブル連絡調整協議会の開催について
企業会計審議会第26回第一部会(平成15年3月27日開催分)議事録
第1回金融危機対応会議(平成15年5月17日開催分)議事要旨及び資料
全国労働金庫協会に対する行政処分
株式会社福井銀行に対する行政処分
 
16日(月) 東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント株式会社に対する投資信託委託業者の認可
 
20日(金) 株式会社横浜銀行に対する行政処分
 
24日(火) 証券取引法施行令の一部を改正する政令(案)及び会社関係者等の特定有価証券等の取引規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの結果
 
26日(木) FATFによる対抗措置該当国の解除及び非協力国・地域リスト等の公表
 
27日(金) 株式会社りそなホールディングス、株式会社りそな銀行の産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画の認定
 
30日(月) 証券会社に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの結果
事務ガイドライン(「金融監督にあたっての留意事項について(第二分冊:保険会社関係)」)の一部改正
事務ガイドライン(第一分冊:預金取扱い金融機関関係)の一部改正(信託兼営金融機関の受託者責任関係)
「根拠法のない共済について」の掲載について
事務ガイドライン(第一分冊:預金取扱い金融機関関係)の一部改正(リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム関係)
公的資金による資本増強行(地域銀行等)に対するガバナンスの強化について
 
マークのある項目につきましては、から公表された内容にアクセスできます。