先の第156国会で「公認会計士法の一部を改正する法律」が成立しました。昭和23年に制定された公認会計士法は、昭和41年に監査法人制度の創設等の改正が行われて以来、ほぼ制度全般に及ぶ大幅な改正となり、証券市場の公正性及び透明性を確保し、投資者の信頼が得られる市場を確立する等の観点から公認会計士制度は大きく変わることになります。
 そこでアクセスFSA第11号においては「公認会計士法改正特集」として、特別座談会「公認会計士法改正をめぐって」と法令解説を掲載します。公認会計士制度への理解を深めていただく上でお役に立てれば幸いです。
 

特別座談会 公認会計士法改正をめぐって

 
奥山 章雄 様 (日本公認会計士協会会長)
永嶋 久子 様 ((株)資生堂顧問)
平松 一夫 様 (関西学院大学学長)   (五十音順)
 
【聞き手:羽藤秀雄 金融庁総務企画局企業開示参事官】
 
― 資本市場の活性化による経済社会の再生は、金融行政にとっての喫緊の課題となっております。特に、資本市場と企業経営の透明性と信頼性の向上ということが不可欠であり、そのための制度的な環境の整備に金融庁として積極的に取り組んでいるところであります。
 昨今、内外の企業経営にとっては監査の充実が重要な課題になっており、またそれは監査のみならず、企業会計、開示(ディスクロージャー)、更にはコーポレート・ガバナンスの強化のように、密接に関連する諸課題が広がりと深まりを見せています。今日は、公認会計士の監査制度について、それぞれのお立場からのお話をいただきたいと思います。
 そこで、まず、早速ですけれども、平松先生に企業経営や会計、監査を巡る内外の最近の環境、あるいは大きな流れということについて、お話をいただければと思います。

平松学長  一言で申しますと、今、我が国の企業や公認会計士等はグローバルな波に晒されていると言えます。とりわけ企業経営につきましては競争環境もグローバルに厳しいものになっております。会計と監査につきましても、やはり企業がグローバル化するに伴って、非常にグローバルな展開をしております。
 そうした中で、我が国の企業は最近とりわけ大きな変化を求められています。それは、あまり良い表現ではないかもしれませんが、銀行その他の特定業種にあったような、いわゆる護送船団方式から、自己責任に基づいて企業が自らの力で、しかも透明性の高い形で企業経営をしていくことを求められているということです。
 従いまして、企業のコーポレート・ガバナンスの仕組みについても、我が国でも法制度に修正が加えられましたし、企業の実態も変わっていかざるを得ないと思われます。会計については、とりわけ象徴的であったのがアメリカのエンロン事件、ワールドコム事件といった、会計不信につながるような出来事でした。日本でも同じような状況が無くはないわけで、国内だけでなく国際的にも透明性の高い企業経営、あるいは世界に向けて、言わば尊敬されるような会計・監査の仕組みを我が国が作り上げていくべき過渡期にあるのではないかと思うのですね。そういう意味で、企業や会計・監査の世界は今、非常に大きな環境変化に晒されているというふうに理解しております。

― 今お話にありましたように変革期、過渡期という中で、ちょうど公認会計士制度が生まれてから55年が経っているわけではありますけれども、この5月に国会で公認会計士法が改正されました。
 この法改正の背景、あるいは今もお話がございましたけれども監査を巡る環境について、監査人のお立場からはどのようにお考えでしょうか。

奥山会長  実はこの直前に、日本取締役協会という中間法人の団体があるのですけれども、そこ主催のシンポジウムで、言わば時の経営者、オリックスの宮内さんとか、資生堂の弦間さんとか、日興コーディアルの金子さんとか、私とでやってきたわけです。私が基調レポーターで、経営と会計という話についてさせていただいたわけです。こういう一つのことを見てもお分かりの通り、従来では考えられなかったような会計に対する経営者の姿勢というものが変わってきたように思います。当然そこには適正な会計情報ということで、それを担保として支える監査人の立場というものも評価されて来たのだろうというふうに思います。
 そういう監査あるいは会計というものを巡る環境は、数年前と大変、激変と言っても良いくらいに変わりまして、そういう意味では私共監査人としても社会に信頼される監査ということについて、本当にきちっと前向きで考えなければいけないと思うようになっております。
 そういう中で今回の公認会計士法改正というのは、私共にとっては手厳しい中身を持っていますけれども、逆に社会からの期待ということを今のように考えた場合に、そこはきちっと受け止めて積極的に対応していくということが必要だろうというふうに思います。

― それでは、改正された公認会計士法の具体的な内容に従ってお話をお伺いして参ります。まず、今回の法改正の大きなポイントとして、公認会計士の使命と職責の規定が定められたということが挙げられています。
 経済界、産業界のお立場からは、公認会計士の使命や職責についてはどのようにお考えでしょうか。

永嶋顧問  公認会計士につきましては、これまで使命や職責の規定が置かれていなかったと言いますが、私が関係している美容師についても、法律として、その使命は明確に規定されております。公認会計士に使命や職責の規定がこれまで無かったことの方が不思議に思っております。今回、この点について明記されましたことは非常に重要な意義があると思っております。
 特に監査及び会計の専門家として独立した立場において、財務に関する情報、信頼性の確保を通じまして、会社等の公正な事業活動、投資家及び債権者の保護を図ることによって、国民経済の健全な発展に寄与すると明確に使命に規定されましたことは、失礼ですが一般の方々にとってはあまり馴染みのない公認会計士という職業について、社会的意義に対する理解を深めることになり、また公認会計士自身の自覚を促すことにもなるものだと思っております。

― 今もお話がありましたけれども、法律の第一条で使命の規定が定められ、その中心が「財務情報の信頼性を確保する」ということですけれども、一口に「信頼性を確保する」と言いましても、いわゆる伝統的な会計監査の領域から業務監査と言われるような領域へと、例えば、コーポレート・ガバナンスであるとか、内部統制のような事項であるとか、監査人の立場としてはなかなか判断が難しい分野を対象とするようになっているというふうに思います。この点に関してはどのようにお考えでしょうか。

平松学長  公認会計士、あるいは会計監査人という立場からは、やはり会計監査が中心になるわけですが、それだけで財務情報の信頼性が確保されるわけではありません。公認会計士の監査は、当然のこととして業務監査をベースにしています。アメリカを参考にするだけでは駄目なのですがあえてアメリカの場合を考えてみますと、アメリカという国はそういう会計不祥事等も先にたくさん経験している国ですから参考になることが多くあります。そのアメリカでは従来から内部統制を通して、企業内部で不正を起こさない仕組みを作ることに真剣に取り組んできました。それに基づいて公認会計士が監査するのであって、やはり財務情報の信頼性を確立するためのまず第一の責任は経営者にあるという考え方が強くあるわけですね。しかもその上で外部・第三者の立場で、独立した会計士が監査するという仕組みを作ってきたわけです。これは非常に大事なことだと思います。
 そういう意味では我々が財務情報の信頼性という場合に、単に会計監査というだけではなくて、企業全体のコーポレート・ガバナンスを含めて財務情報の信頼性を確保する企業内部の仕組みに依存しながら外部の公認会計士の監査があるわけです。そういう仕組みを今、我が国としてどう作っていくのかということが大切な問題だというふうに思っております。

― 今もお話がございましたけれども、第一の責任は経営者にあるということで、最近はメディアにおいてもいろいろな形で公認会計士、あるいは監査法人の仕事が取り上げられているわけですけれども、なかなか一般には馴染み難いこととして監査の「二重責任の原則」ということがあるのだろうと思います。企業経営者が財務に関する情報を適正に把握して開示するということがそもそも大前提となっているわけですけれども、いかに会計基準や監査基準が整備されても、あるいは監査人が独立した立場から判断すると言いましても、経営環境が変化をしたり、企業の経営方針や戦略の変更があったりしますと、それを前提として監査人としては判断をせざるを得ないということになるのだと思うのです。
 目まぐるしく環境が変化をしているという経済社会の中で、この点に関してはどのようにお考えでしょうか。

奥山会長  仰るように、私共としては会計基準が企業の実態を表すという意味では、実質判断をしていかなければならないというふうに思っているわけですけれども、やはり経営者の意思とか、経営者の考え方とか、まさしく今仰った経営者の戦略とかが大きく会計の適用に係るわけですね。ですからそれを無視してただ客観的に会社の状態というのが分かるわけではありませんので、そこは大変難しい部分があると思います。
 例えば、最近の事例でも日産でゴーン氏が社長になられて、一挙に大変巨額の損失を出したとか、つい最近ではりそなでも経営者が代わって細谷氏が巨額の損失を出すという意思表示をしたとか、これはまさしく経営環境の変化を受けて代わった経営者が自ら意思を貫徹してやっていこうという場合に、自分なりの判断でそういう政策をお採りになったのだろうと思います。ですから、そうではない時に同じ経営者がいたら同じ結果が出たかというと正直言って分かりません。私共としては、何が経営実態か、企業実態かという時に本当に難しい部分だと思います。
 ただ、会計というのはやはりその時々の環境に応じてきちっと示すということが大事なのであって、環境が変わって、あるいは経営者が代わって新しい政策を採った時にそれを以前にフィードバックしてやれという考えは、私共にとってはそれは違うのだと言いたい点です。やはりそれぞれの環境に立つ中で、ベストを示すものは何かというふうに判断せざるを得ないのであって、後から新しい環境が出来たからそれを元に戻してやったらどうだという、いわゆるフィードバックさせるような状況の判断というのを迫られても何ともし難いということが会計の本質なのだなというふうに思います。

― そういう中でも、しっかりと使命、職責ということは、財務状況の信頼性を確保するということで果たしていただくように大きな期待があるということだと思います。今回の法改正のもう一つの大きな柱として監査人の独立性を強化するということで具体的な措置がいくつか導入されています。その内容については国際的な方向性にも沿ったものであると言えると思うのですが、そもそも、職業倫理という観点から見ますと、監査人としての独立性というのは当然のことではないかと思うのですが、この点に関してはどのようにお考えでしょうか。

平松学長  仰るとおり、我々は監査人というものに独立であることをまず期待しています。しかも、高度な専門性と倫理観を持って、独立して業務に当たっていただく、それが投資家の信頼を勝ち得て、経済の健全な発展に資するという貢献をするわけですね。今回、例えばローテーションですとか、インターバルですとか、そういう仕組みが導入されています。更に、アメリカでいうピア・レビューを改善する形で第三者が評価するような仕組みによって監査人の独立性を強化するという方向は、国際的に見ても、今現在の時点で考えられる最善の方向ではないかと思います。これについてはもちろん様々な意見があるとは思いますし、国際的な視点でみますと「職業倫理」が、今、特に典型的にアメリカでの事件を契機にして、非常に重要な問題として取り上げられていると思います。私は研究・教育に携わる人間ですから、実務よりそちらの方向からものを見るわけですけれども、国際的な学会でもコーポレート・ガバナンスでどういうふうに企業の健全性を持たせるか、それから倫理、特に最近は会計人の倫理、あるいは企業経理担当者の倫理ということが、非常に大きなテーマになってしきりに議論されています。これらのテーマはまだ解決されたわけではありませんが、その中で、私共もやはり、我が国においてとりわけ企業と公認会計士の倫理という観点から新たな展開をする必要が求められていると思っております。そうした中で、公認会計士が自らを律することにより独立性を保つという動きというのは非常に大切なことだと思っております。

― 法制度で措置される問題と、その前提としての職業倫理の問題があるということですけれども、やはり職業専門家の自主的な規律というところに委ねられているものが大きいと思います。これまでも公認会計士協会としてもこの点については積極的に取り組んで来られたと思うのですが、協会長としてのお考えをお聞かせいただけますでしょうか。

奥山会長  公認会計士の監査において一番重要なポイントは独立性、紛れもなくその点だと思います。私共はその独立性を、まさしく職業の中心に捉えて、当然のこととして自主規制として、この独立性を維持するために、教育の面、あるいは実際に倫理で縛る規則の面という両面から会員に促していきたいということで、この辺は今後、実際にやっていく中でぜひ見ていただきたいと思います。

― 経済界、産業界のお立場からは、監査人の独立性の強化についてはどのようにお考えでしょうか。

永嶋顧問  今回の改正における公認会計士の独立性の強化の取り組みについては、公認会計士の監査が被監査会社から独立した立場で、より行われるようにするためのものであり、良い改正であると私は考えております。ただ、一定の非監査証明業務の同時提供の禁止の規定に関しましては、企業側と致しましては公認会計士に監査だけではなく、財務に関して様々なアドバイスをしてもらう場面や今まで気付かなかったような非常に適切なご助言をいただくことがあります。そういった面を期待している部分も実はございます。今回の改正で、そうした助言等が全て駄目になるということはないと思いますが、効率性などの観点からも監査に関連した内容はある程度可能になるよう、細部をご検討されます際にはご配慮をいただきたいと考えております。

― 監査以外の分野での期待というものにも非常に大きなものがあるとのお話でしたが、公認会計士や監査法人は、これから判断は厳しいものを迫られる、責任は増してくるという中、今のような大きな期待もあります。公認会計士、監査法人がいろいろと活動を行っていくためには、どうしてもそのコストというものを経済社会全体、あるいはサービスの相手方との関係でどのように考えていくかという点が非常に重要な問題だと思うのですが、そのコストの問題についてはどのようにお考えでしょうか。

奥山会長  私は元々、社会的責任を果たして、それを社会が評価して、そういう中でコストが、報酬が付いてくるという考え方の持ち主なのですけれども、今の現実はなかなかそうはいかないという面があります。限りなく監査に期待が持たれる中で、また、今のようにアドバイス業務に期待するという中で、やはりきちっとした監査を行わなければならないということは当然のこととしてあります。しかし、きちっとした監査を行っていく中では、やはり私共も職業ですから、それなりにコストがかかった中で報酬というものはいただきたいという部分もあります。
 今の状況でいきますと、監査は益々時間がかかるし、責任は重くなる。しかし、報酬は増えるどころか減るかもしれない。これは、監査が現実には衰退していくということも考えられますので、ぜひこの辺は社会全般、また経営者にもご理解をいただいて、適正な報酬は支払うのだということについては一般的なご理解を得られるようにしていただきたいと、私共もそういう方向には動きたいと思っております。

― 続いて、監視・監督の機能の充実と強化という点についてお話を伺いたいと思います。
 法改正の基本的な考え方は、事前監督から事後監視へ、自主的な措置を尊重して行政がモニタリングによって補完をすると、そういった考え方に立っております。特に、これまで公認会計士協会でも監査の質を確保するという観点から、「品質管理レビュー」に取り組んでこられたわけですが、これが今回の法改正によって「公認会計士・監査審査会」がモニタリングをするという措置が新たに制度化されたわけです。この点については、これまで自主的に取り組んでこられたこととの関係で、どのように受け止めておられますか。

奥山会長  私自身は資本主義社会の中で、監査は社会全体の自主規制の一環だという捉え方をしておりましたから、やはりそれに対して政府の手が入るということについてはかなり懐疑的な立場でした。しかしながらそういう理屈を言ってもですね、海外で、アメリカを始めとして各国が国あるいはそれに準ずる機関が、公認会計士監査を具体的にチェックしていこうという動きが強まっている中で、日本だけがそうではないと言ってもこれは始まらないなということを思いまして、やはり国際的に信頼される監査ということも私共は意識しておりますので、そういう意味では協会が自主規制として行っている品質管理レビューを国がモニタリングしていくというのは次善の策だというふうに思います。
 アメリカみたいに、いわゆるPCAOBという機関を作って、そこがダイレクトに監査事務所をチェックするということは、私はこれは行き過ぎではないかと、本来資本主義社会では自主規制が尊ばれる中でいかがなものかという思いを持っておりましたけれども、そこは日本は公認会計士協会の品質管理レビューを尊重していただいて、それをモニタリングするということですから、私はこれは積極的に受け止めて日本型のものになっていくように、私共も力を尽くしたいと思いますし、金融庁の方にもそのように力を尽くしていただきたいというふうに思います。

― 永嶋顧問には、公認会計士審査会の委員も務めていただいておりますけれども、監視・監督の機能の充実・強化という観点から公認会計士・監査審査会の機能が強化されていくということになるわけですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

永嶋顧問  私が現在委員をしております公認会計士審査会を改組して、公認会計士・監査審査会として監査法人等に対する立ち入り検査を含めて監視・監督体制を充実・強化すると聞いておりますが、私はかねてより身内によるチェックではどうしても限界があるというふうに思っておりました。今回の改正で、第三者である行政のチェックが入るということは、大変良いことであるというふうに考えております。公認会計士監査制度の根幹をなす監査の公平性・中立性・有効性を担保するとの観点からもしっかりと取り組んでいただければありがたいと考えております。

― 平松先生、先程、奥山会長からもお話がありましたけれど、アメリカでは企業会計改革法いわゆるサーベインズ・オクスリー法が7月の末にできて、PCAOBという「公開企業会計監視委員会」と訳されているようですけれど、そこが会計事務所に対するチェック監視をやるということで規制の強化と言うのでしょうか、倫理基準までを策定するというふうなところまでこの組織が動くということで、アメリカはそのような流れになっているようでありますけれども、会計あるいは監査を巡っては国際的に見てこのような規制強化ということになっていくのでしょうか。それともこれまでの自主的なあるいは国際的にも自主的な団体あるいは組織化ということで、グローバルな環境の中で、各国による規制が強化されるということよりもむしろ職業団体あるいは職業専門家自身の手で一定の規律を作っていこうということでしょうか。その点についてはどのようにこれを捉えていけばよろしいでしょうか。

平松学長  個人の考えですが、やはり今仰ったうちの後の方ですね、つまり規制でなくて職業会計人の団体が自主規制をするという方向で従来は来ておりましたし、その方向で上手くいきかけていたわけですね。おそらく今後もその方向を模索すべきだと思うのですが、しかし典型的にアメリカにおいて大きな事件が起こってしまったわけです。これを改善するためには従来のやり方ではだめだという反省があると思います。そういう意味で非常に影響力のある国でこういうことが起こりますと、少なくとも一時的にせよ規制という方向に行かざるを得ないのだろうと思います。これは議会を動かしての話でしたから、とてつもなく大きな事件であったわけです。しかし私が期待するのは、時間はかかるかもしれませんが、企業も公認会計士も一緒になってこういった事態を乗り越える仕組みを作っていく必要があると思います。更に事件によって会計不祥事、会計不信と言われることを引き起こされましたが、それを克服したあかつきには、法律で縛り上げる罰則を設けるというのではなくて、やはりより健全な自主規制のような形で上手くいけばいいなと、私は思っております。
 ただ、まだあの事件がつい最近のことで、しかもアメリカという非常に影響力の大きい国でしたから、我々がそれに取って代わる仕組みを提示しても、国際的には受け入れられないでしょう。ですから今むしろ我々は地道に我が国独自の方式というものを模索するとことが必要かなと思います。もちろんその時でもアメリカの行き方は参考にしながら行かないといけません。無視してやったのではまた、日本は国際的には全く違う異質のものだというふうに言われてしまいますから、これは非常に難しいところです。そういう努力を奥山会長の下で、あるいは企業の方々も一緒になってやっていくということが望まれているのかなと、思っております。

― 奥山会長、そういう観点では自主的にしっかりやるということが基本であるわけですけれども、この点についてあるいは補足はございますか。

奥山会長  今回、先程申し上げましたように、あくまでも協会の自主規制がきちんと行われるという前提の中で政府の関与を強めるというやり方を採っていただきましたので、これは日本的なやり方ではないかと思います。そういう意味ではぜひそれを良い実務に導くように努力していきたいなと思っております。

― それでは次に公認会計士試験制度の見直しについてお話をいただきたいと思います。
 永嶋顧問、今回の法改正による公認会計士試験制度の見直しのポイントですけれども、多様な人材を「監査と会計の専門家」として我が国の経済社会に幅広く生み出していって活動を期待したいという、そういう考え方がありますけれども、この点に関しては、経済界・産業界の方からご覧になってどのようにお考えでしょうか。

永嶋顧問  これまで学生又は大学卒業者以外はなかなか公認会計士試験を受け辛かったというふうに聞いておりますが、今回の改正によりまして試験体系の簡素化だとか、あるいは実務経験を有するものに対する試験免除の導入など、社会人を含めた多様な人材にとっても受験しやすい制度になったことは、非常に良いシステムであります。企業の中にいる者にとってもキャリアアップにもつながりますし、また財務等に携わっている者にとってもは大変魅力的な事だと思っております。
 また一定の資質を持った人材が多数輩出されることによって、それらの方が企業の中に入り、財務諸表の作成や内部監査の事務に携わることによって、企業経営のプラスになると考えるわけですので、そうした方々の評価が高まりまして、ルートとして定着することも期待したいと思っております。
 ちなみに公認会計士試験制度によるシステムは、実は私が関係している美容師の養成システムと非常によく似ております。試験に合格しただけでは直ぐに業務が行えるわけではありません。また、通信科では実際に美容院で働いている人も受験したりいたしまして、多様な人が受験をいたしております。また合格者もいろいろな業界で活躍をいたしております。

― 多様な方々がそれぞれの資質を発揮をしていく、監査と会計の専門家、質の高い専門家、職業専門家を多数輩出していくという役割がこの試験制度自体に期待をされているわけでありますけれども、アメリカ各州で行われている会計士試験に比べましても我が国の公認会計士の試験はこれまでもその質において相当高い水準を保って来たと思いますし、試験を実際に施行していく立場にあります審査会そして我々事務局の立場としては、しっかりとその質の水準を確保しながら、多様な方々に受験をしていただいて、多用な方々に活躍をしていただきたいと考えています。平松先生、平松先生ご自身が、そういう意味では冒頭にも仰られましたように、グローバルな環境の中で職業専門家としての会計士の育成について、国際的なスタンダードの策定などをはじめとして積極的に取り組んでこられたと伺っておりますけれども、その基本的な理念あるいはそこで期待される会計士のあり方という点についてはどのようなものであって、そして、そのためには特に我が国においては何が必要となっていくかという点についてのお話を伺いたいのですか。

平松学長  たった今も話題になりましたけれども、我が国の公認会計士試験は非常に水準が高いのです。従って既に公認会計士になっておられる方々は、押しなべて非常に資質の高い方なのです。しかし、いかんせん数が少ないという問題があります。そして今永嶋顧問も仰いましたように、より広く、多様な人材を得てその人達が試験を受け、活躍するような仕組みに変わるようになりますと、日本の経済の活性化に資するというふうに私は思っております。
 つまり、現在は非常に難しくて質が高い試験であり、それに合格をする人達はものすごく勉強をしているわけですけれども、逆にそのために門戸を閉ざしているというニュアンスのところが無きにしも非ずでありました。ここでやはり質を下げるのではなくて、多様なバックグラウンド、背景、多様な能力を持った人達がこの業界に入ってきて、監査法人だけでなく、企業も官庁関係も含めて、日本の会計・監査に貢献することによって日本の経済全体を下支えする、あるいは発展に貢献する、そういう仕組みを期待しております。
 繰り返して言いますが、私は、研究・教育に携わる人間ですから、多くは研究の国際会議あるいは教育の国際会議で海外に出かけます。国際的にみますと、残念ながら日本の会計・監査はよく理解されていないと思いますし、「尊敬」されていません。日本の我々がアメリカやヨーロッパを理解しようとしてきたことに比べて、また理解している水準に比べて、その逆に先方が日本を理解する程度は驚くほど低いのです。その結果が、日本の会計への誤解につながっていて、結果として尊敬されないことになってしまっています。これには文化だとか言語が絡んでいますから、そう簡単には改善できないのですが、これからの公認会計士あるいは公認会計士試験を受ける人達は、国内は言うに及ばず、グローバルな視点で、かつ世界から尊敬されるような働きをして頂きたいと思います。そういう意味では、私はやはり教育面においても、これは自省の念を込めて申しますけれども、大学あるいは大学院で国際的に通用する会計・監査の教育をする必要があります。そして教員自らも自らを高めながら、国際的に通用するような教育水準に持っていくことが、いま期待されているわけです。非常に単純に言ってしまいますと、グローバルに通用する国際水準の会計人を育成するということが、今非常に大事だというふうに認識しているわけです。

― 奥山会長は、今回の法改正による新しい試験制度、あるいはこれから公認会計士を目指す方々、あるいは既に公認会計士になっておられる方々、こういった方々の職業教育のあり方については、どのようにお考えでしょうか。

奥山会長 公認会計士の素養を持った人間というものはですね、公認会計士の監査業界のみならず企業においても、あるいは政府においても、非営利部門においても多数いてよろしいじゃないかというふうに思っております。そういう意味では、今回のいろいろな改正論議の中で企業側の方から、企業にも欲しいんだということで、試験制度を改善する提案を出してきたということは、私はすばらしいことだというふうに思います。そういう理念は良いのですけれども、これから難しいのは本当に実施に至った段階でですね、多数の合格者が出てきた時に実際にそのような適用がされていくのだろうかと、これは現場を抱える立場としてはやはり若干の恐れ、不安を持っています。ぜひ、試験制度の新しいところを活かして、あらゆる分野で公認会計士の素養を持った、言わば公認会計士試験合格者という形でご活躍願えるように、世の中の理解も欲しいし、また公認会計士の受験者自身もそういうふうに広がって欲しいなということを思っています。
 会計士教育の方ですけども、これは既にCPE(継続的専門研修)と称してですね、毎年40単位を取った教育をしていくということで掲げておりますけれども、これは当然のこととして、教育をきちっと会計士自らやっていかなければいけないというふうに理解すべきだろうと思います。これはどんな社会にいこうがですね、どんな立場にあろうが公認会計士として世の中に見られている限りは自ら教育をして欲しい、そのような環境を作るように今後とも努力をしていきたいと思っております。
 私共、公認会計士の試験を合格しただけでは、やはり公認会計士としての登録を認めるには早すぎるというふうに思っておりまして、従って当然実務ということを重視し、実務を経験して、経験したことで公認会計士として今後やっていけるという確認をさせていただきたいということで、今度、平成18年から三次試験というものがなくなりますけれども、公認会計士協会としては実務をきちんと経験したかどうか、そういう意味での実務補習を終えたかどうかという点について、公認会計士協会として考査をしたいと思っています。そういう意味では教育ということについて責任を持ちたいと思っております。

― 先程、平松先生からのお話の中に、国際的に通用する人材という観点のお話を伺いました。今も奥山会長からは、受験生の広がりが重要であるというご指摘がありましたけれども、そういう観点では今回の新しい公認会計士試験制度は専門職大学院というふうに言われていますけれども、高度な専門的な履修、専門職大学院の修了者とのリンケージが公認会計士試験の中に取り込まれています。そこで平松先生が学長を勤めておられる関西学院大学においても専門職大学院の構想について、今具体化の取り組みみがあるというふうに伺っておりますが、この点についての考え方あるいは狙いという点をご紹介いただけますでしょうか。

平松学長  関西学院大学の場合は、2005年4月の開学を目指して、いわゆるビジネススクールと、いわゆるアカウンティングスクールの二つの専攻を、一つの組織の中に設置することを計画しております。当然、我々が直接関わるのは会計専門職大学院、いわゆるアカウンティングスクールの方なんですけれども、そこではやはり先程来申しておりますように、国際的に活躍できる会計人の育成ということがまず必要だという問題意識をもっています。また、そのためにふさわしいカリキュラムにしたいと考えております。具体的には、国際会計士連盟が国際教育基準なるものを幾つか出しておりますが、その中で資格取得前のことについて決めている基準に沿ったカリキュラムを展開してみようということが一つあります。併せて、当然会計専門職大学にくる学生、大学院生になりますが、この院生は公認会計士試験に合格しようと思って来るわけですから、試験に通らないと意味がないということがあるのです。国際的な会計人の育成という目標と、試験に合格するという目標は、場合によれば相反するかもしれないのですが、あえてそれを目指していこうと考えています。経営的には専門職大学院は赤字になると思いますが、本学の社会的使命の一つとしてそれに取り組むということを決めたわけです。
 そして更にグローバルという視点では、アカウンティングスクールとは別の専攻であるビジネススクールの中に、英語だけでMBAが取れるコースを併設します。これにより、公認会計士試験だけでなく当然英語による授業科目も取れるような仕組みを本学としては考えております。英語だけが国際的というわけではないのですが、英語は必要だという発想です。専門職大学院というのは、従来の大学院と異なっています。従来は大部分いわゆる学者が教えてまいりました。専門職大学院でももちろん学者が核になっているわけですが、実務家教員を例えば2割以上そろえるような仕組みが必要とされるのです。このように、専門職大学院はやはり優れた実績を持っておられる実務家の方々に教えを受けるということで、公認会計士という実務の世界に入りやすくなるのです。もちろん高度な理論的な教育もするわけですから、そのために優れた研究者を採用することになります。新しい試験制度では一部科目の免除がありますから、より突っ込んだ勉強ができるという仕組みを作ります。そういう中で優れた資質を持つ、いわゆる受験勉強に特化するのではないけれども、試験にも通れるような学生を育成していきたいと考えているわけです。
 試験に合格する前、すなわち資格取得前の教育は大学が担いますが、いわゆる試験に合格した人をきちっと教育する役割というのはおそらく公認会計士協会が担われるということになるかと思います。

― 改正された公認会計士法は来年の4月からの施行、試験制度については平成18年1月から新しい試験制度の施行ということで、私どもとしても今施行に向けての準備を急いでいるところであります。
 他方、そのような新しい法制度が仕組みとして動き始めることを待つまでもなく、会計あるいは監査を巡っては、日々具体的な課題が大きくございます。
 奥山会長、冒頭にも言及がございましたけれども、例えば、時価評価といったことについては、これまでもいろいろと議論がございました。また、事業会社の再生、大企業の新しいビジネスモデルを睨んでということで、それらに対する監査について先程も話がございましたし、また、特にこの3月の決算においては、ゴーイング・コンサーンと言われる企業の継続性の判断について、監査人としても相当苦慮をされながら判断が難しい点があったのではないかと思いますけれども、こういった今日的な課題についてどのようにお考えになっているかという点について、お話をいただけますでしょうか。

奥山会長  これは金融庁の味方になるのか、敵になるのか、実感を若干申し上げますと、時価評価の問題については私共は企業実態を示すのに必要なら時価評価をやるということであり、海外が時価評価をやっているから日本もやれという単純な意味で私共は申し上げているわけではありません。あくまでも企業実態を示すのに時価評価が適当ならそれを採用すべきだという意味で、今の時価会計の一部採用ということについて、積極的に賛成しているわけでございまして、この辺がどうも自民党のあるいは経営者の一部においてですね、誤解をされているのではなかろうかというふうに思います。決して時価評価をしたから企業の状況が悪くなったというわけではないと、そこはぜひ逆さまな議論をしないようにお願いしたいというふうに思いました。これは金融庁も一生懸命抗弁していただいたので大変ありがたいと思っております。
事業会社の問題、あるいは最近では銀行もそうなんですけれども、監査によって生き死にが出ると言われるくらいに、監査の判断がその企業の生死を決めるような言い方をされております。これはある意味では止むを得ないという部分もあるのですけれども、逆にですね、それだけ会計の適正性を示すということが企業の生き死にを決めるようなそういう環境になってきたのかなあという意味では、私共、監査の重要性ということについて改めてその責任を含めて認識をさせていただいております。
 私共が、今、監査法人にお願いをしているのは、経済社会の中でその企業の存続が大事だよと、あるいは地域的な経済に影響を与える大きさを考えると変な結論を出すなとかいうことを言われたとしてもそれはあえて聞くなと、やはり私共がやらなければいけない立場というのは、その企業が出した情報が適正かどうかということを担保することにあるのだから、情報が適正だということを担保した結果、企業がおかしな形になった。例えば具体的に言うと、銀行から融資が止まって倒れるとかですね、銀行自身もおかしなことになったと言われてもですね、これは止むを得ない。そこははっきりと会計士の役割というものを認識して、立ち向かうべきではなかろうかということを申しております。
 ゴーイング・コンサーンも同じです。ゴーイング・コンサーン情報を出されたら企業が非常に弱くなるということを一部の方は仰ってですね、非常のこれについてめったに出さないでくれというふうな考え方もあるかと思いますけれども、やはり財務情報を読む読者においては、企業継続をしていくということがどうなのかということについては大変重要な情報ですから、ここはきちんと出さざるを得ないだろうと、現実にこの3月決算でも多くの会社において企業の継続性の情報について出しています。私は、これから大事なのは企業の経営者と監査人とが常時ディスカッションをして、相互理解をしていくということじゃないかと思います。今までは監査は経営者から見ると言わば経理部が相手するところということで余り関係がないというふうなお考えもあったかもしれない。それから監査人の方もですね、経営者と会って話をするほど大それたことはしたくないというふうなことがあったかもしれません。
 しかし、こういうふうな事態に立入ったらそれはとてもじゃないけれども持たないのではないかということで、ぜひそこは今後経営者と監査人がより良いディスカッションを通じてですね、企業の適正な情報開示ということを心がけていただきたいなというふうに思っております。

― 今も企業経営者に対する期待のお話があったわけですが、最後に、今後の課題あるいは関係者に対する期待という観点からお伺いしたいと思います。
 まず、永嶋顧問からは公認会計士や監査法人に対しての期待という点でお話をお願いいたします。

永嶋顧問  最近ほど会計や監査の重要性が取り上げられていることはこれまでには余りなかったのではないかと思っております。これから、この重要性というものも益々高まっていくと思いますし、その担い手であります公認会計士に求められます資質であるとか、監査法人に求められる品質管理も大変高い水準になっていくものと思っております。公認会計士が新しい制度の下で普段の努力を重ねられまして、我が国の経済のインフラとしての重要な役割を果たしていただくことを期待いたしております。

― 奥山会長からは、監査を行う、あるいは会計に関するサービスを提供するという事業会社、あるいはいろいろな活動の幅が広がってくる経営活動の主体に対する期待という点についてはいかがでしょうか。

奥山会長  監査を受ける会社と言いますのは、やはりそれなりに社会的に責任が重い会社だと思います。その会社が倒産したら、やはり販売先とか仕入先に迷惑をかける。あるいは雇用している従業員に迷惑をかけるという意味では社会的責任は重いのだと思います。その社会的責任が重いということは、逆を言えばその会社の状況が常にディスクローズされるという必要性があるということでありまして、そのディスクローズするということに対して経営者はぜひ自覚を持っていただきたい、責任を持っていただきたいということが期待の一つです。
 それからもうちょっと小さい期待はですね、ぜひ監査の重要性を受け止めて監査報酬については十分ご理解をお願いしたいと申し上げたいと思います。

― 最後に平松先生に締め括りとして、お話をお願いしたいと思います。我が国の公認会計士監査制度に対する期待、あるいは課題という点についてお話をお願いします。

平松学長  これは既に奥山会長がご説明になりましたが、例えば時価評価、あるいは繰延税金資産とか、ゴーイング・コンサーンの問題を通じて、会計・監査が我が国の中で大きな話題になりました。会計・監査がこれほど大きな社会的反響を呼んだことというのは、これまで余りなかったのではないかと思います。そういう意味では、逆に今、会計・監査が非常に注目されていて、変化の時代にあって非常に興味深い、言葉は適切ではないかもしれませんが、ある意味でおもしろい時代だと思います。経済のソフト・インフラというのは非常に重要ですが、私はその根幹を支えているのが会計士の監査制度だと考えています。しかも一方でこの会計士の監査を受ける企業は、数では非常に少ないのですが、実はその企業が日本経済を本当に動かしているわけですから、ここを一歩間違うと日本経済はこれからとんでもないことになると思います。ですから今非常に苦しい時期でありますけれども、先程奥山会長が指摘されましたように、やはり監査したから会社の業績がどうなったという議論ではないと私も思うんですね。企業も公認会計士もお互いに辛いと思うのですけれども、やはりあるべき姿を双方が緊張関係をもって追及していくということにより、日本企業の健全な発展というのがあって、そのことがおそらく国際的な信任を得る基本になると思うのです。今まさに試練の中にある日本の公認会計士制度ですが、昭和41年以来になる公認会計士法の大改正により、私は新しい時代に向けた公認会計士制度が今から始まるという期待をしております。そしてその中で我が国が国内できちっとするだけでなくて、国際的に信認され、尊敬される公認会計士の監査制度を樹立し、企業の経理システムも樹立することが大事だと思います。併せて私の立場から申しますと、だからこそ次の時代を担う人達がこの分野に関心を持ってチャレンジし、様々な能力を持った多くの人達がこの分野に参入するべく挑戦してくれるということを期待しているのです。そのことが日本全体にとってプラスになると考え、非常に大きな期待を寄せているのです。

― ありがとうございます。本日いただいた貴重なお話を金融庁としても十分に参考にさせていただきながら、行政としての職責を果たすことに
努めてまいりたいと考えます。
 本日は誠にありがとうございました。


【法令解説】
 
  このコーナーでは、先に閉会した第156回国会で成立した金融庁関連の法律について、その経緯や内容を詳細に説明します。本号は、「公認会計士法の一部を改正する法律について(平成15年法律第67号)」についてです。
 
 
I 改正の背景、経緯等
 先に閉会した第156国会で「公認会計士法の一部を改正する法律」が成立しました。今回の改正は、証券市場の公正性及び透明性を確保し、投資者の信頼が得られる市場を確立する等の観点から、市場のインフラである公認会計士監査の充実・強化を図るため、(a)公認会計士の使命・職責の明確化、(b)公認会計士等の独立性の強化、(c)公認会計士等に対する監視・監督体制の充実・強化、(d)公認会計士試験制度の見直し等の措置を講じるほか、監査法人の社員の責任の一部限定や規制緩和の要請に基づく見直しなどの諸措置が盛り込まれており、昭和23年に制定された公認会計士法としては、昭和41年の監査法人制度の創設等の改正が行われて以来、ほぼ公認会計士制度全般に及ぶ大幅な改正となりました。
 なお、今回の公認会計士制度の見直しに関しては、金融審議会公認会計士制度部会において、エンロン社等の企業会計不正事件に対する米国政府の対応などの国際的動向も踏まえ、資本市場に対する信認をいかに確保し、その機能を向上させるべきかという観点から公認会計士監査制度のあり方について精力的・集中的に審議され、審議結果が、昨年12月、部会報告「公認会計士監査制度の充実・強化」として公表されました。政府は、この部会報告を受け、法律改正を要する事項についてさらに検討を進め、「公認会計士法の一部を改正する法律案」としてとりまとめ、本年3月14日に国会に提出しました。同法案は、5月22日に衆議院、5月30日に参議院でそれぞれ可決・成立し、6月6日に公布されました。
 本法律は、平成16年4月1日(試験制度の改正に係る規定は平成18年1月1日)から施行することとされています。
 以下、改正の概要について紹介します。

図1 公認会計士法の一部を改正する法律(P26)
 
II 改正の概要
 
(1)  公認会計士の使命・職責の明確化
 今日の我が国の経済社会において、公認会計士には、不断の自己研鑽による専門的知識の習得、高い倫理観と独立性の保持により、監査と会計の専門家としての使命と職責を果たすべきことが求められています。このため、公認会計士の社会的意義に対する理解を深め、また、公認会計士自身の使命・職責に対する自覚を促すためにも、現行法に規定のなかった使命・職責を法律上明確化しました。
 具体的には、公認会計士は、監査及び会計の専門家として、中核的業務である監査証明業務を独立した立場で行い、会社等が作成する財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等における不正の発見、正確な財務情報の開示等を通じて会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命として規定しました(第1条、以下、特に断りのない場合は改正後の法律の条文を示しています。)。
 なお、公認会計士がその財務情報の信頼性を確保する対象は、私企業だけではなく、公益法人などの公的な活動主体なども広く含んでいます。
 また、「公認会計士は、常に品位を保持し、その知識と技能の修得に努め、公正かつ誠実に業務を行わなければならない。」との職責を新たに規定しました(第1条の2)。

(2)

 公認会計士等の独立性の強化
 米国におけるエンロン社等の不正会計事件や近年の我が国における虚偽証明事件の背景には、監査人の被監査会社からの独立性に問題があったとの指摘がなされていました。
 これらの指摘を踏まえ、監査の公正性・信頼性の向上を図り、公認会計士等が、被監査会社等から独立していることを実質的にも外観的にも維持するため、独立性強化の措置を講じました。
 
 (a)  監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供の禁止
 公認会計士又は監査法人が、大会社等から一定の非監査証明業務により継続的な報酬を受けている場合には、当該大会社等に対して監査証明業務を行うことを禁止することとしました(第24条の2、第34条の11の2)。
 (b)  継続的監査の制限(いわゆるローテーション)
 
.公認会計士が、7会計期間以内の政令で定める期間継続して同一の大会社等に対して監査関連業務を行った場合には、政令で定める会計期間、当該大会社等に対して監査関連業務を行うことを禁止しました。ただし、やむを得ない事情があると認められる場合において、会計期間ごとに内閣総理大臣の承認を得たときは、この限りでないこととしました(第24条の3)。
.監査法人は、7会計期間以内の政令で定める期間継続して同一の大会社等に対して監査関連業務を行った社員に対して、政令で定める会計期間、当該大会社等に対する監査関連業務を行わせてはならないこととしました(第34条11の3)。
 (c)  公認会計士又は監査法人の関与社員の関与先への就職制限及び関与社員の再就職先に対する監査証明業務の制限
 公認会計士等が会社等に対して監査証明業務を行うに際して、近い将来に関与先に就職することが見込まれているような場合には、現在の監査証明業務が不当に歪められるおそれがあります。このため、監査証明業務を行った翌会計期間終了までの間は、被監査会社等の役員等に就職すること自体を禁止しました(第28条の2、第34条の14の2)。合わせて、監査法人の社員が関与した会社等の役員等に就任した場合には、当該監査法人は翌会計期間まで当該会社等に対して監査証明業務を行ってはならないこととしました(第34条の11)。
 (d)  公認会計士の共同監査の義務付け
 大会社等の監査証明業務を行うに当たっては、複数の公認会計士による組織的な監査を行うことが望ましいとの観点から、公認会計士が、大会社等に対する監査証明業務を行う場合には、他の公認会計士、監査法人と共同監査を行うか、又は他の公認会計士を補助者として使用しなければならないこととしました。ただし、当該公認会計士に内閣府令で定めるやむを得ない事情があるときはこの限りではないこととしました(第24条の4)。

(3)

 公認会計士等に対する監視・監督体制の充実・強化
 米国における不正会計事件を教訓として、我が国においても、監査の質の確保と実効性を図るため、日本公認会計士協会(以下「公認会計士協会」といいます。)による「自主規制」の限界を補完し、公認会計士監査制度の公平性・中立性・有効性を確保するとの観点から、行政の公認会計士等に対する監視・監督体制の充実・強化を図ることとしたものです。
 
 (a)  公認会計士協会が行っている「品質管理レビュー」の行政によるモニタリング
 「品質管理レビュー」は、監査事務所が行う監査の品質管理状況をレビューする制度であり、公認会計士協会の自主規制として平成11年からスタートし、現在、個人事務所を含め公開会社を監査している約300の監査事務所に対し、「監査事務所としての品質管理」と「個々の監査業務の品質管理」の双方をレビューする、いわゆる「フルレビュー」を実施しています。
 米国では、昨年成立した企業会計改革法によって、それまでの監査事務所同士のレビュー(ピアレビュー)中心の監査事務所の監督体制を、SECが認可した民間機関である公開企業会計監視委員会(PCAOB)による監督体制に改めました。また、昨年10月に、証券監督者国際機構(IOSCO)から、監査人の監督については、職業専門団体から独立した機関等が行うべきであるとの提言がなされています。
 こうした動きも踏まえ、我が国においても、公認会計士協会の「品質管理レビュー」を前提としつつ、「自主規制」の実効性を高めるべく、公認会計士協会から独立した行政によるモニタリングを制度的に導入することとしたものです。
 モニタリングの担い手としては、金融庁が直接行うべきであるとの議論もありましたが、公認会計士監査制度に関する客観的・専門的知見を有する公認会計士審査会(今回の改正により「公認会計士・監査審うことが最適であると判断し、合わせて、事務局の設置など審査会の機能の充実を図ることとしました。査会」に改称)が行
 また、「品質管理レビュー」のモニタリングの実効性を制度的に担保するため、「公認会計士・監査審査会」に監査法人等に対する検査権限を付与し、モニタリングの結果に基づき、監査法人等又は公認会計士協会に対する行政処分その他の措置について内閣総理大臣に勧告することができる権能を整備しました(第35条)。
 (b)  懲戒事由を前提としない行政による立入検査
 現行は、公認会計士等に懲戒相当事由があると思料される場合についてのみ行政の立入検査権限を規定していましたが、内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当と認めるときは、監査証明業務に関し、懲戒処分を前提としない、例えば、業務の適正な運営の確保のために行う内部管理体制等に関する立入検査を行うことができるようにしました(第49条の3第2項)。

(4)

 公認会計士試験制度の見直し
 公認会計士は、監査・会計の複雑化・多様化・国際化を背景とした監査証明業務を中心とする公認会計士業務の質的量的な需要の増大に対応していくことのみならず、監査の質と実効性の向上のために、企業などにおける財務諸表の作成、内部監査従事等の専門的な実務の担い手として、経済社会における重要な役割を担うことが求められています。
 したがって、一定の資質を有する多様な人材を多数輩出していくことができるよう、(a)社会人を含めた多様な人材にとっても受験しやすい制度、(b)一定の要件を満たす実務経験者などに対する試験科目の一部免除の拡大、(c)専門的人材育成の教育課程との連携などの観点から、公認会計士試験制度の見直しを行うものです。
 なお、今般の公認会計士試験制度の改正においては、一定の資質を有する多様な人材を経済社会に多数輩出していくことを目指していますが、試験の水準を切り下げてまで数を増やすということを念頭に置いているものではなく、金融審議会公認会計士制度部会報告における「平成30年頃までに5万人」という記載についても、試験制度を管理し運営していく立場にある行政の見通しとして、一定の条件の下で「5万人」という規模が必要になるのではないかとの試算を得たものです。
 
 (a)  現行の試験体系の簡素化、試験科目の見直し
 現行の試験制度においては、受験者の負担が著しく大きくなっているとの指摘があり、社会人も含めた多様な人材が受けやすい試験制度とするとの観点から、現行の3段階5回の試験体系を短答式及び論文式から構成される1段階2回の試験へ改組するとともに、試験科目も見直し、短答式4科目、論文式5科目(うち1科目は選択科目)としました。
 試験科目は、例えば、文科系以外の受験者も受験しやすくするとともに、近時の公認会計士に求められているIT関連の素養も確認できるようにするとの観点から「統計学」を選択科目に追加するなど、全般的な見直しを行いました。
 なお、新制度においては、公認会計士試験に合格しただけでは、直ちに公認会計士となることができず、「実務補習」を含む実務経験が必要です。したがって、公認会計士となるまでの間に、公認会計士試験に対する学習に加えて、「実務補習」等において実務的な面を中心とした学識や応用能力を身に付けることが必要になるものと考えています。
 (b)  試験科目の一部免除の拡大
 
 イ .試験科目の一部免除
 社会人を含めた多様な人材が受けやすい制度にするとの観点から、現行の試験科目免除対象者(大学教授、博士学位取得者、司法試験合格者等)に加えて、一定の専門資格者(税理士)、一定の企業などにおける実務経験者、専門的人材育成教育課程修了者に対して試験科目の一部を免除することとしています(第9条第1項、第9条第2項、第10条第1項)。
 ロ .短答式試験の免除措置
 短答式試験合格者は、論文式試験を受験するために必要な学識等を有していると考えられること、及び受験者の負担軽減の観点から、短答式試験の免除措置を導入します。ただし、恒久的な免除は、知識の陳腐化等の観点から適当ではないとの考えから2年間の有効期間を設けることとしました(第9条第3項)。
 ハ .論文式試験の科目合格制
 現行の一括合格制は、特に社会人等の受験者にとって大きな負担となっています。科目合格制を導入することにより受験者にとって勉強がしやすくなるが、科目ごとに合否を判定する方式では得意科目で不得意科目をカバーできず、また、受験者の能力の総合的な判断に結びつかないのではないかとの指摘がなされていました。
 このため、一括合格制を基本としつつも、不合格者のうち、受験した科目に一定以上の成績を得た科目がある場合には、申請によりその後2年間、当該科目の試験を免除することとしました(第10条第1項)。
 (c)  実務経験の位置付けの変更
 現行では、第3次試験の受験要件であり、社会人等にとっては負担が重いとされたていた業務補助等と実務補習について、その位置づけを公認会計士の登録のための要件としました。
 
 イ .業務補助等
 公認会計士となるためには、単に試験に合格するだけではなく、公認会計士の中核的業務である監査証明業務についての実務経験が不可欠です。このため、現行制度と同様に、2年間以上、公認会計士又は監査法人を補助(業務補助)するか一定の監査類似の実務に従事することが必要であるとしました。ただし、新制度では、公認会計士試験合格の前後を問わないこととし、既に業務補助等に従事していた者にとっては、合格後に改めて当該業務に従事する必要はないこととしました(第3条、第15条)。
 ロ .実務補習
 公認会計士となるのに必要な技能を修得するため、内閣総理大臣の認定を受けた実務補習団体等において認定を受けたカリキュラムに従い実務補習を受け、実務補習修了後は内閣総理大臣の確認を受ける必要があります(第3条、第16条)。
 実務補習の具体的な内容については、内閣府令で定められることになりますが、現行の1年以上という期間ではなく、所定の単位の修得を要件とし、単位の認定には、適宜習熟度の確認を行うとともに、全課程が修了した者に対しては、実務補習全体の習熟度の確認を公認会計士協会が実施する「統一考査」で行い、「統一考査」の合格者が実務補習の修了の確認を受けることができる旨を規定することを予定しています。
 (d)  会計士補の資格の廃止
 第二次試験の廃止に伴い、会計士補の資格を廃止します(現行第3条)。
 図2 新たな公認会計士試験制度等のしくみ(P27)

(5)

 監査法人制度の見直し
 
 (a)  監査法人の設立等の認可制から届出制への変更
 昭和41年に組織的監査を有効適切に行うことを目的として創設された監査法人制度については、規制緩和等の観点からの要請を踏まえ、監査法人に対する監視・監督体制について、従来の「事前監視的な監督」から「事後監視的な監督」へ重点を置くこととしたものであり、監査法人の設立、解散、合併及び定款変更の手続を認可制から届出制に変更することとしました(第34条の7、現行第34条の8、第34条の9の2、第34条の10、第34条の18及び第34条の19)。
 (b)  指定社員制度の導入
 現行の監査法人制度は、商法の合名会社の規定を大幅に準用し、全社員に業務執行権を付与すると同時に無限連帯責任を負わせています。しかしながら、主として大規模法人においては、社員の相互監視と相互牽制を前提とした制度は現実にそぐわない面がでてきています。
 したがって、真に責任を果たすべき立場にある者がその責任を全うすべきであるとの観点から、特定の監査証明について業務を担当する社員(指定社員)を指定することができることとし、当該監査証明(指定証明)に関しては指定社員のみが業務を執行し、法人を代表するとともに、無限責任を負う(第34条の10の4、第34条の10の5)こととしました。一方、指定社員以外の社員の責任については、監査法人への出資金の範囲に限定しました。ただし、被監査会社等以外の第三者からの損害賠償請求については、従来どおり、監査法人の全財産をもって完済できない場合は全社員が連帯してその弁済を行うこととなります。
 (c)  広告規制の廃止、監査法人の会計年度の弾力化
 規制緩和の観点から、公認会計士法に規定されている広告規制を廃止し、虚偽・誇大広告については、公認会計士協会の自主規制によることとしました(現行第28条、現行第34条の13)。また、繁忙期に重なり負担となっていた監査法人の会計年度についても、1か年を1期とした上で、開始時期を弾力化しました(第34条の15)。

(6)

 その他
 
 (a)  公認会計士協会
 
 イ .監督上の命令
 公認会計士協会が行う「品質管理レビュー」を公認会計士・監査審査会がモニタリングすることとされましたが、その実効性を担保する等の観点から、内閣総理大臣は、公認会計士協会の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、監督上必要な措置を命じることができることとしました(第46条の12の2)。
 ロ .役員の解任命令の廃止
 内閣総理大臣が公認会計士協会の役員の解任を命令できるとの規定を削除しました(第46条の13)。
 ハ .標準報酬規定の削除
 規制緩和等の観点から、公認会計士協会の会則記載事項から「標準報酬規定」を削除しました(第44条)。
 (b)  公認会計士等に対する指示・処分
 内閣総理大臣は、公認会計士や監査法人が公認会計士法や命令に違反したときや監査法人の監査証明業務の運営が著しく不当と認められる場合において、業務の適正な運営を確保するため必要であると認めるときは、現行の懲戒処分等に加えて、業務改善等の指示が行えるようにしたものであり、当該指示に従わなかった場合には、懲戒処分等の対象となります(第31条、第34条の2、第34条の21)。
 また、公認会計士制度に対する信認の維持・向上の観点から公認会計士等に対する懲戒処分等のうち業務停止の上限を1年以内から2年以内とするとともに、登録抹消の処分を受けた公認会計士の欠格期間を3年から5年へと見直しました(第4条、第29条、第30条、第34条の21)。
 (c)  罰則
 懲戒処分を前提としない立入検査の検査忌避等に対する罰金や公認会計士等の就職制限違反、監査法人の社員による定款又は会計帳簿等の不実記載に対する過料など公認会計士等に対する監督上の新たな規制を導入することに伴う罰則を新設しました。また、公認会計士試験に合格しただけで、公認会計士の資格を有さずに監査証明業務を行おうとする者に対して、一定の抑止効果を働かせる必要があると考えられることから、無資格者の監査証明業務に対する罰則を引き上げました(第50条、第53条、第54条、第55条の2)。
 
III.施行期日、経過規定
 
(1)  施行期日
 今回の改正のうち、公認会計士試験制度の改正に係る規定以外は平成16年4月1日から施行することとしています。公認会計士試験制度の改正に係る規定については、受験者等への周知の期間が法令改正後2年程度必要であるとの観点から平成18年1月1日から施行することとし、同日以降に公告する公認会計士試験から適用することしました(附則第1条)。
(2)  経過措置
 
 (a)  会計士補に関する経過措置
 今回の改正により平成18年1月1日から会計士補制度は廃止されますが、その際に現に会計士補である者は、新法施行後も「会計士補」として引き続き業務を行うことができるほか、それまでに行った業務補助等及び実務補習の新制度への引き継ぎを認めるなどの経過措置を規定しています(附則第2条、附則第9条、附則第10条)。
 (b)  第二次試験合格者に対する経過措置
 今回の改正で第三次試験が廃止されることから、現行の第二次試験合格者の取扱いを明確化しました。すなわち、現行の第二次試験合格者は、新試験において、短答式試験並びに論文式試験の会計学、企業法及び選択科目が免除されることになります(附則第5条)。


(文中意見にわたる部分は筆者の私見です。
金融庁総務企画局市場課企業開示参事官室 野村昭文)




 改正法をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「国会提出法案」から「第156回国会における金融庁関連法案」に入り、公認会計士法の一部を改正する法律(平成15年3月14日提出、平成15年5月30日成立)にアクセスしてください。

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