特集:「金融経済教育を考えるシンポジウム」の開催

第2回:パネルディスカッション(前編)

〜未来を担う世代のために、いまできること〜
平成16年1月31日(土)

 前月号に引き続き、金融庁金融研究研修センターの主催により、「未来を担う世代のために、いまできること」をテーマに開催した「金融経済教育を考えるシンポジウム」について掲載します。
 今回は、パネルディスカッションの前半の模様をご紹介します。なお、後半につきましては来月号に掲載する予定です。

 

○ はじめに

パネルディスカッション司会  それではディスカッション、「未来を担う世代のために、いまできること」を始めさせていただきます。早速、パネルディスカッションに出演の皆さんをご紹介してまいりましょう。
 まず、都立国立高等学校教諭の新井明先生です。続きまして、野村證券専務執行役の柳谷孝さんです。続きまして、東京大学教授でNPO法人、金融知力普及協会理事長の伊藤元重さんです。続きましては、先程お話をしていただきました金融担当大臣、竹中平蔵さんです。そして、司会はジャーナリストの野中ともよさんです。それでは野中さん、よろしくお願いいたします。

野中(コーディネーター)
  皆様、こんなにお天気のいい土曜日の大切なお時間をお運びいただきまして本当にありがとうございました。でも、「来てよかったな」とまず、大臣の基調講演をお聞きになった時点でお思いいただけたのではないでしょうか。あんなに短い時間の中で、実は不良債権処理も大事だけれども、本当はこれをやりたいんだという思いがふつふつと伝わる良いお話をありがとうございました。
 私もずっと大昔に経済番組をご一緒させていただいたときに、経済というのはプロのものでも何でもなく、何のことはない、デートをしても、ここへお運びいただく電車賃を払うという、そういうこともすべからくGDPである。経済とは、私たちの営みが作っているんだというのを教えていただいたのが、実は大臣でございました。
 今日は皆様がここの会場にお入りいただいたときと、さようならを言わせていただくときの心持ちが変わるような素晴らしいシンポジウムになると自信を持っております。
 早速、柳谷さん、先程の大臣のお話、どんなふうにお聞きになったか、まず感想から伺ってみたいと思います。
 戦後の日本の社会では、「証券会社っていうのはやっぱり騙されちゃうから」という感じや「善良な市民は株には手を出さんほうが良いよ。やけどするから」というようなこともささやかれていたのは事実でございますよね。そこからして、大臣のお話をどんなふうにお聞きになりましたか。

柳谷  私はかねがね、「株に手を出す」という日本語が残っているうちは十分、ご理解をいただけてないのではないかなと考えているわけです。大臣のお話にもありましたように、戦後築き上げてきた色々なシステムがあります。年功序列、終身雇用、あるいは安い医療費、豊かな年金、こういった社会システムに新たなリスクが発生してきている。それから土地神話、あるいは銀行神話といった言葉も崩壊してきた。
 そういった状況の中でこの21世紀は一人ひとりが自立して、自らの教育資金とか、あるいは住宅資金、あるいは老後への備えといったものを準備していかなければいけない時代に入ってきました。お金の役割、あるいはお金と社会の関わりについて、知識を持たなければいけない。そういう時代に入ったと考えておりまして、大臣のお話は、これからの新しい方向性を見据えた上でのご指摘であったのではないかなと感じております。

野中  ありがとうございました。
 新井先生、今日のタイトル、「〜未来を担う世代のために、いまできること〜」と、こういうふうに金融庁の方が考えてくださった。つまり、先程大臣のお話にもありましたが、大人たちが本当に懸命になって働いて、社会基盤、すごいものを作ったけれども、もちろんその大人たちも学習し直さなければいけない。でも、アカデミアというか、教育現場で実はお金のことというのは、私も高度経済成長と一緒に大きくなってきた世代なのですが、どこでも習ってこなかったんですよね。それを現場ではどんなふうに認識していらっしゃるのですか。

新井  現場の人間として大変お恥ずかしいのですが正直言って、正面切って取り扱うチャンスはなかった。それが実態です。

野中  新井先生は社会科の先生でいらっしゃいますよね。その社会科の教師として、時代も大きく変わり、子供たち自身も変わってきたと思うんです。そのなかで金融庁からぜひ新井先生の活動もご紹介したいという形でご推薦いただいたのですが、いつごろから問題意識をお持ちになり始めたのですか。

新井  私自身は、先程の稼ぐことも資産を運用することも、実はそんなに得意ではない人間です。学校の教員全体が比較的そういう環境の中にいますので、先程のお金を正面切って取り上げられなかったという部分の一端はやはり教える側の問題です。私自身がこういう経済の教育に関心を持ち始めてから、約15年ぐらいです。きっかけは幾つかあるのですが、社会の変化の中でどうしても、大げさに言えば次世代の子供たちに対してあるメッセージを伝えたいという思いがありましたので、それで取り組んでいるという状況です。

野中 そうすると有志の方、同志の方がまず集まってというのが活動の始まりだったのですか。

新井  そうですね。先程の大臣のお話の中に「経済学の社会教育の分野」という言葉がありました。それに関連して言いますと、「経済教育」という言葉もあります。経済をいかに生徒にわかりやすく面白くきちんと教えられるのか、教えるべきなのかに関して研究する分野です。我が国ではそういう領域に関心を持っている教員も、それから実際にやっている教員も非常に少ない。それが今までの私たちの学校社会の大きな問題点でもあったと私は思っているのですが、そういう中で制度的にお金に触れるチャンスはあります。お金の教育が全くないわけではない。ただし、それをきちんと正面切って据えて取り組む時間的な余裕も人材もその条件も、今まではなかった。それではいけない事態に今なっている。

野中  問題意識として出ていらしたんですね。
 伊藤理事長。経済学あるいは商学部にいてビジネスに関すること、これを大学生になると習うという人はいたけれども、本当に初等、中等教育の部分ではなかった。加えて、社会の変化の中でこのNPOを立ち上げられたという点を、大臣のお話への感想も含めて。

伊藤  大臣がケインズというイギリスの経済学の話をしたのですが、ケインズの弟子にジョーン・ロビンソンという人がいて、この女性の経済学者は何を言っているかというと、経済学を勉強する目的は何だろうか。経済学者に騙されないために勉強するんだと。
 あの時代はもう何十年も前ですから、経済学者は騙したのかもしれませんが、今の言葉に置き換えますと、何で経済をみんな勉強しなければいけないかというと、世の中の色々な俗説というのがありますよね。結構いい加減な議論が多いんです。
 自分の中で一回考えてみるということはすごく大事で、そのためには一人ひとりが経済だとか、金融というものを知るというのは非常に大事だと思います。それが広がってくることが、先程大臣がお話になったのですけれども、いわゆる社会の力みたいなことだと思うんです。
 そういうことで金融知力普及協会を一緒に始めさせていただいたのですが、目的はとにかくできるだけ多くの人に経済について触れてもらおうと。実はこれは私の先生から習ったことですが、経済を見るときに一番本質が見えるのは金融なんです。金融を知らないと経済は見られない。これは色々な方から教わったことです。
 我々は非常にわかりやすい教材を作ったつもりなのですが、すでに1万人ぐらいの方がそれを使って、勉強してくださって、大変良いことだと思います。これからこれをぜひ地域に即した形にしていきたいと思っています。例えば地域で色々なことを考えるために、地域子供教室といったところで、ぜひ金融とか経済とかということについてみんなで話してもらうという、そういうところに参加できたらなと思います。

野中  皆さんにご報告がありまして、今日お運びをいただいた皆さんのうち、私たちは金融経済教育を考えるということなので教育界の方々がほとんどかなと思って、ふたを開けさせていただいたら、金融関係者の方たちが45%でした。
 社会的責任をご自覚いただいたのだと思いますが、教育関係者が学校教育・教育関係者合せて、18%だったんですね。だから、まだ学び舎においては、これは教えるべき事柄のプライオリティはあまり高くないということなのでしょうか。

 

○ 金融経済教育のネットワーク作りの重要性

(竹中平蔵 金融担当大臣)竹中  私も以前、大学で教えていまして、経済学を教えるわけです。経済学の単位を取りにきているのですから、基本的には経済学のことを勉強したいと思ってきているはずです。ところが私自身の体験からいっても、大変申し訳ないのだけれども、日本の大学で経済学を勉強したときは実はあまり面白くなかったんです。それで経済学は面白いんだ、経済のことは大事なんだと生徒をいかにアトラクトするかというのは大学の先生の一番最初の仕事です。これはもちろん小中高、そういうことをやっていただきたいのだけれども、まず経済を勉強しようと思って単位を取りに来ている人ですら、なかなか取っ付きにくい面がある。
 先程、野中さんも伊藤先生も言われましたけれども、経済は私たちの生活そのものなんだということを分かってもらうことがまず基本だと私は思うんです。どんな活動をやっても何をやっても、必ず経済が付いてくる。そのこととちゃんと向き合おうではないですか。そういうふうに言って、少しずつ色々なことを説き起こしていくと、結構、皆さん、自分の人生をやはり大切にしたいと思っていて、自分の人生に興味があるから、経済に対しては段々興味を示してくださる。
 考えてみると、そういうノウハウが言わば今は、例えば先生、新井先生も伊藤先生もそうですけれども、個人の技みたいなところに依存しているんだと思うんです。しかし、そこが出発点で、私は考えてみたら、そういうことのベスト・プラクティスを交換する場所がなぜなかったんだろうかと思うんです。
 ここからすごく議論が先走ってしまうかもしれないのですが、ぜひ皆さんにご検討いただきたいので、今日皆さんに言いたいことを最初に申し上げさせていただきたいんです。
 伊藤先生は非常に近いところでわかっていただけると思うんですが、私は大臣になる前に、学者のときに政策分析ネットワークという組織を作ったことがあります。例えば大学の政策学部、それとシンクタンクのネットワークです。これはアメリカに同様の組織があるんです。それを意識して作りました。つまり、問題意識を共有する専門家のネットワーク。役人の方も参加するし、シンクタンクのエコノミストも参加するし、学者も参加するし、学生も参加するし、一般の方も参加して、そういう色々なことで話し合おうではないか。
 実は金融経済教育のネットワークをぜひ作らなければいけないんだと私は思うんです。野中さんや伊藤先生にその中心になっていただきたい。政策の分析ネットワークを作って、私が最初、代表になったのですが、私はいま政府の中にいますので、伊藤先生が今の代表なんです。代表になってくれているんです。
 それで年に2回コンファレンスを開いて、そこでまさにベスト・プラクティスを色々持ち寄る。シンポジウムを開く。今度の場合だと、今日は金融の方が多いとありましたけれども、例えばフィナンシャルプランナーの方とかアドバイザーの方はお客さまにどんな説明をしたら良いのだろうかと、そういうようなことで日々ものすごく悩んでおられるんだと思うんです。そういう方にも入っていただいたら良い。高校の先生にも入っていただきたい。学生さん自身も入ってくるかもしれない。
 そういうものがあって、今日みたいな集まりを、もっと大きな集まりを年2回ぐらい持ってベスト・プラクティスを交換する。いや、それを作ればすべてうまくいくなどとは言いませんが、そういうことをどこか念頭に置いていただきたいなと思うんです。いかがでしょうか。これは政府主導ではだめなんです。あくまで個人の資格で皆さん、入れば良いと思うんです。

野中  個人の資格ですね。

伊藤  色々な方が参加するとすごく面白いです。今の政策分析ネットワークの話をすると、前回会議をやったときに、例えば政府にいる立場の人と民間にいる立場の人が行ったり来たりしたときに、どういうことに悩まれるか。例えば日銀の副総裁も参加していただいてお話いただく、そういう生の声を聞いていただくと、皆さん、そこから非常に問題意識を持つわけです。金融についてもそういう場があれば、たいへん良いと思います。

 

○ 学校現場における金融経済教育の現状

野中  良い提言をいただいたと思います。今日は壇上でシンポジウムをやって、それでおしまいという会ではございません。
 この後、後半のところでは高校生、大学生、そして学校の先生方、沖縄からもどういうふうにして自分たちの問題意識を実現されてきたかなど、この4月から日本初めての商業高校にファイナンス学科、金融学科を作るために大馬力で動かれた先生方のプレゼンテーションも、皆さんにお聞きいただこうと思うので、具体的なアイデアもお持ち帰りいただけると思います。
 サラリーマンの経験者は、ご自分のかつての初任給で税金がいくら持っていかれて、年金がいくら引かれていたか、ご記憶の方いらっしゃいますか。
 しかもその年金が何%で運用されていたかということをチェックなさるサラリーマンはほとんどいらっしゃらなかったと思う。なぜかといえば、税金を払うというのはタックスペイヤーの義務ですけれども、「これを小泉さん、竹中大臣、あなたたちの給料で使って良いよ。その代わり、良いことに使ってよ」というタックスペイヤーの意識がないまま、「えーっ、税金抜かれちゃった」「えっ、年金抜かれちゃった」。
 でも、いちいちそんなことに目配りしないで、私たちは、一生懸命に労働すれば、お父さんは大体偉くなれたし、給与も右肩で上がっていきました。それがついこの間まで続いた日本のシステムだったから、これは良い悪いを申し上げたいのではなくて、世界一の債権国になれたんだと思います。
 ところが、そのシステムが「どうもうまくいかないね」と言われ始めて10年近くが経ちました。でも、まだ教育の現場ではそういうふうに世界が変わったからどうしなければいけないかということを、具体的に教えてくれるコンテンツもマニュアルも何も出てきていないということに、おかしいなという声を挙げてくださり始めたのが新井先生たちのグループであると思います。新井先生、どんな問題意識でどんなことを始められたかというのをご紹介くださいますか。

新井  それでは制度の説明をさせていただくところから始めたいと思うんです。というのは、ここには学校のことについてあまりご存じない方が半分以上いらっしゃると思います。ですから、先程の日本の経済も世界の経済も含めて、大きく変化をしているのに、どうして学校がそれに対応できないのか、できていないのか。そこらへんから少し話をさせていただきたいなと思っています。
 先程もちょっと言ったのですが、お金に触れるチャンスとか経済を学ぶチャンスをきちんと文部科学省は作ってくれています。社会科や公民科という教科のなかで当然、そういう領域はあるわけです。私は高校ですので高校を中心にして話をしますけれども、経済に触れるチャンスは端的に言いますと、1年間に多くて50分の授業で20時間あるかないかです。
(新井明 都立国立高等学校教諭) その中で日本経済がこんなに変わったんだよとか、世界の経済は大変なんだよとか、そういう経済の現状の話もしなくてはいけないし、さらに経済理論の話もしなくてはいけない。とにかく触れるチャンスはあったとしても、時間的な制約は非常に大きいです。
 そういう意味ではお金も含めて、金融ということになったらもっと少ない。その少なさの端的な証拠を見せますけれども、これは高校の新しい教科書です。この大きさです。この薄さです。2単位で、約200ページです。当然、政治経済ですから経済はその半分。それで金融というのは、この教科書は比較的金融について触れているのですが、それでも4ページ程度です。もう一つお見せします。これはアメリカのハイスクール用のテキストです。とにかく厚さを見ていただければその違いはわかります。

野中  大体その厚い本のタイトルが「Economics」ですからね。

新井  日本では、学問を高校まで教えてはならないという。要するに高度な内容に関しては教えないことという事項があるんです。経済について教えることは構わないけれども、経済学は教える必要がない。

野中  つまり「学」を教えるということよりも、自立する市民として生きていく、その形で役立つことを教えなさいと。

新井  経済知識。領域で言えば、マクロの日本経済については紹介するけれども、その中で私たちがどういうふうに日々生きているのか、「選ぶ」という言葉や「選択」という言葉そのものは全然出てきません。一番根本的なものがない。何があるかというと経済知識の網羅的な体系、それを何十時間の中で教えなさいという形ですね。
 これは大学入試問題とセンターテストの問題をご覧になっていただくと、ああ、こんなことまで教えているんだということがおわかりいただけると思います。でも、教わっている側から言えば、それは単なる知識でしかないし、つまらない知識なのかもしれません。暗記かもしれません。
 そういうものでしかないから、なかなか経済について生徒が関心も持たない。必要だという認識は当然あるんですよ。本当は関心もあるんです。でも、それをきちんと教える仕組みが残念ながら、ない。そういうのが現状です。

野中  結局、私たちが心理的に何か出口なし、どうもうまくいかないという不安がなぜ起こっているのかと言うと、弱いから起こっているのではない。今まで当たり前だと思っていたお金を巡る、経済を巡るシステム、例えば保険のこととか年金のこととか、銀行に預けておけば何とかしてくれると思ったら、選ばないと潰れるかもしれないとかという、その当たり前だと思っていたことがすべからく、どうもクエスチョンマークが、黄色信号が出てきたぞということに対する不安が、出口なしという気持ちを起こさせているんだということに気付いていただきたいわけです。
 柳谷さん、いま学校の方では200ページ分の4ページということで、しかも私も初等中等で調べてみましたら、見開きですから2ページでございました。「あおものいちば」「うおいちば」「かぶしきいちば」。資金調達メカニズムとして資本主義を支える株式市場、マーケットとは何か、そんなことは1行も書いてはいなくて、「いちば」でございました。
 それに対して、一つひとつ金融機関のなかからも問題意識が出てきた。それでいまどういう動きが始まってきたかという問題意識のあたりからお話を伺えますか。

 

○ 金融機関における取組

(柳谷孝 野村證券専務執行役)柳谷
  私どもは4年ほど前から、「B&D活動」という取り組みを行っております。「B」は適切な資金循環を促していくという証券業のベースになっているところ、そこに立脚しているという意味のベーシックの「B」です。それから、「D」は色々な変化を先取りして、常に新しい価値を創造していこうよ、ダイナミックの「D」ということで、「B&D」という名前を付けた活動をしているわけです。
 これは大きく二つに分けて考えています。一つは事業性に立脚した対内的な活動、もう一つは公共性に立脚した対外的な活動です。この後者の代表が経済証券教育プログラムであります。未来を担っていく子供たちから金融知識をいま必要としている方々に至るまで、幅広く金融経済の学習の場を提供していこうという取り組みを行っています。
 具体的に申し上げますと、まず一つ目は大学です。今年度110を超える大学で証券教育講座を開催しました。私も今月都内のある大学で講義を行ってまいりましたが、野村證券ならびに野村総合研究所をはじめとした役職員、約400名が講師を務めております。受講されている学生の方々が約2万人、ほとんどの大学が単位を出すという形になっています。
 二つ目は、各地域コミュニティの生涯学習の場に証券学習の教材を含め、プログラムを提供しています。現在で約100の地域で提供しております。昨年末、都内のある生涯学習センターでは定員の約2倍のお申し込みをいただき、思った以上に盛況です。高齢化社会を迎えている中で勉強の必要性を感じていらっしゃる方が非常に増えていると思います。各地域で、例えば函館にあります亀田老人大学とか、東京都ですと各区に生涯学習センターというのがありまして、そういう場所に教材や人材を派遣しています。
 三つ目は日経ストックリーグです。これは日経新聞が主催しております中学生、高校生、大学生を対象にしました株式学習コンテストです。これに特別協賛をさせていただいていまして、昨年は256の中学、高校、大学が参加しまして、約5,000名の学生の方が参加したという状況になっています。
 それから、本日、この会場の受付に『お金のひみつ』という本を用意してございます。これは金融広報中央委員会のご協力もいただきまして、金融学習書として作りました。小学生の方に向けて、お金、あるいは銀行の仕事、証券会社の仕事といったことをわかりやすく解説した本です。これを昨年全国2万4,000の小学校と2,400の図書館に寄贈いたしました。未来を担う小学生から大人の方に至るまで、企業として金融経済教育に貢献していかなければいけないと考えています。

野中  ダイナミックに各世代に渡って、社会貢献の意味もあるし、結局はそういう動きをしていくことが、証券業界として生業をさせていただいている業界としての皆さんへの、今までしてこなかった部分ではありますよね。

 

○ NPOの役割

柳谷
  決して十分ではなかったのかもしれません。こういった教育を社会的な責任として、もっと積極的に取り組んでいく必要があると考えています。
 ただ、一方で先程来お話がありますように、証券会社が金融経済教育を提供すること自体が何か株式投資を誘導するように連想させてしまう傾向があることは認識しています。今後は、たとえば先程来出ていますNPO、より中立性のあるNPOに活躍していただく。もっと申し上げると家庭、教育の場、それから行政機関、NPO、そして私たちのような色々な企業もできることは一生懸命協力していく。そして社会全体としてトータルなシステムを完成させていくというのは非常に重要ではないかというふうに考えています。

野中  先程大臣がお話したような、全部が融合してフュージョンのように良いことをしていくという固まりを、そろそろ作ったほうが良いなということですね。

柳谷  そういう意味では今回のこういう企画、集まりは大変良いきっかけになるのではないかと思います。

野中  伊藤先生、いま野村証券の具体的な活動をご紹介いただいたのですが、我が金融知力普及協会、お金が本当にない。活動を細々としていたら、外資系からお声がかかった。あのお話をぜひ皆さんに。

伊藤  外資系のほうから、ぜひこういうことをやってほしいということで色々な寄付をいただいているんです。おそらく、特にアメリカの場合には、こういう経済を知ることが非常に重要だという認識が非常に強い。ちょっと話がそれるのですが、アメリカは1929年に株の大暴落が起こったんです。歴史的にも非常に重要で、その直後には25%の失業率、4人に1人が失業して大変な状況になったんです。
 そのときに株式業界に大きな反省が起こったんです。何かと言うと、金融はプロが勝手にやって良い話ではない。そうすると結局、普通の人たちは騙されたのではないかとか、あるいは何かおかしなことが起こっているんじゃないかと思ってしまう。
(伊藤元重 金融知力普及協会理事長) そこで業界自身がかなり熱心にいわゆる国民教育を始めるんです。それまでの、例えば新聞に出てくる証券会社の記事は、今度、こういう株を上場しますから、こういう会社が入りますというプロ向けだったのが、そのころから、そうではなくて、株というのはこういうリスクもあるけれども、こういう面白さもあります。あるいは株を使ってこういうことができますよと、色々なことを一般の人に知らしめるようになった。
 残念ながら、まだ日本にはそういう形でみんなが積極的に参加して、国民全体がそういうことを学ぶという機会が少なかったものですから、これまでなかったんです。我々がこういう活動を始めたときに、日本の企業ももちろんたくさん賛同してくれているのですが、そういう形で外資系の金融機関が賛同してやってくださっているというのは、今言ったような背景があるのかなと思います。

野中 日本でマーケットに参加させてもらっているので、一般の人たちに金融教育をしている金融知力普及協会をバックアップさせてくださいという形で、奨学金のバジェットをくださるんです。お手を挙げていただいた方100人分の奨学金ですから使ってくださいという。
 これは逆にいうと、そういう企業がCSR、最近よく出てまいりましたが、CorporateがSocial Responsibleな、社会的責任を果たしていく企業活動をしないと、IRとして、一般の株主の方からお褒めをいただけないんだという風土も一方である。また、一方ではTax deduction、寄付をするということに対して税制が非常にきちんと整っているので、企業も積極的にサポートしやすい。
 この二つを実際に我々はNPOを旗揚げしてみて、日本にまずシステムとして整備していただきたいなと思ったんですが、いかがなものでございましょうか、大臣(笑)。

竹中  確かにアメリカの企業などの場合、そういった自分の分野、金融の場合だと金融経済教育とか、社会教育とか、そういう社会的貢献をしているかどうかというのが、広い意味での投資家の厳しい目にさらされている。それは広い意味でのコーポレート・ガバナンスの社会的熟度のような問題だと思うんです。
 コーポレート・ガバナンスというのは決して株主だけがしっかり利益を上げろというのではなくて、社会全体のボイスとして、社会的な存在としての企業が役割を果たしているか。ここは我々一人ひとりが社会の声としてやっていかなければいけない問題が一つあるんだと思います。
 社会の声の反映ということにも実はなるのですが、税制の問題は私も重要だと思います。私は実は内閣府のNPO担当の大臣でありまして、この税制改革について財務省に対してもう少し使い勝手の良い寄付税制にしてほしいということを要求する立場にあります。
 ご承知のように、今年度からでしたか、この税制はすごく変わりました。認定NPO法人ということで、寄付に対して免除を受けられるような法人の制度が今の時点ではかなり前進しているんです。最初やったとき、制度はあったけれども、そういう認定が実質的には受けられなかった。しかし、いま実情はかなり変わっております。ぜひそこはうまく使っていただきたい。その上で今の制度がどのぐらい、まだいったいどういう問題があるのかということは、不断に色々と議論していかなければいけないのではないかと思います。
 いずれにしても金融経済教育というのは、実は金融経済の問題は間口がすごく広いんだと思うんです。色々なことがすべて経済だ。間口が広いからこそ、興味を持とうと思ったら、すごく興味を持ちやすいという魅力でもあるんだ。しかし、間口が広いからこそ、非常に難しいという難しさにもなっていて、どこまで勉強してもなかなか達成感がないと言うか、どこから入って良いかもわからないし、一通りやったという満足感も得られない。そういう特徴を持っているんだと思います。
 その意味では非常に多様で、学校も重要です。NPOも重要です。それと金融に関係する会社の役割も重要です。個人も重要です。非常に多様で継続的な国民運動、そういうような位置付けをしていかなければいけない。そのために何が必要かということを、一人ひとり知恵を出していかなければいけない。そういうことだと思います。

 

○ −先進国の例−

(コーディネーターの野中ともよさん)野中  ようやくそこまで問題意識がきたのですね。
 アメリカの例ですが、1974年エリサ法という形で、年金を巡って、受託者は、その責任において労働者や委託をしてきてくれている人々、皆々様に経済や金融の情報提供をしなければならないというのを、もう70年代に決めているんです。そして、80年代の終わりぐらいから、NPOをどんどん作りなさいと。全てのアメリカ国民は、どんな人生を歩んでいても経済教育を受ける権利と義務がありまっせというふうなことを教育法に書いてあるんです。幼稚園生でもボーイスカウトでも、あるいは小学生でも、ご案内のように連邦制ですから、その州で色々な形をとって良いけれども、要するに「お金ってなぁに?」というようなことがどの人にも届く言葉を持った、先程の大臣の言葉で言うと経済を専門的に社会教育できる人たちの形を、教育省がバックアップしないとだめよという法律を作ったんです。
 一方で、イギリスのケースはどうかというと、これが全く違うんです。イギリスは80年代にサッチャー革命という改革、これは金融界でよく使われますが、実はサッチャーさんの革命は教育革命だと言われているんですね。若い人たちが地べたに座って失業率がべらぼうになっているというイギリスの中で、ここを変えるのには教育だ。
 それで、金融サービス庁と教育技能省、つまり日本で言うと文科省と金融庁と財務省が集まりまして、お国の一つの方法論として、日本とイギリスはやっぱり島国でちょっと似ているなという感じもしないではありませんが、津々浦々、「これでいきましょう」という形で上からカリキュラムを作ります。
 ところがこれが何かと言うと、シチズンシップと書いてあります。要するに地べたに座っている若者に自信を付けさせるために、何が大事だと考えたかというと、経済と金融がわかる国民を作ろうというので義務教育のところでばっちりカリキュラムを取り入れた。そして、一方で人材をシャッフルしながら、一方のシティを開放して、ウィンブルドン方式と言われていますが、ビッグバンの中で世界からお金が集まるようなシステムを同時に作っていくということをやったわけです。




 パネルディスカッション後半の模様については、来月号に掲載する予定です。
 金融庁では、金融経済に関する教育の推進に資するための副教材「インターネットで学ぼう わたしたちの生活と金融の働き」をホームページに掲載しております。
 この副教材に関するご意見及び授業における実践例等を募っております。
 

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ンターネットで学ぼう わたしたちの生活と金融の働き」
ホームページアドレス  http://www.fsa.go.jp/frtc/index.html
副教材に関する意見等のメールアドレス  fukukyouzai@fsa.go.jp

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