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中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の策定について(第1回:「基本的な考え方」)

 去る5月31日、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を策定・公表いたしました。
 この監督指針の策定により、多面的な評価に基づく総合的な監督体系の確立を図っております。
 そこで、アクセスFSAでは、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の内容についてより多くの方に知っていただくため、今号より4回にわたって詳細な解説を連載いたします。
 第1回目は、監督指針の趣旨や基本的な考え方について解説します。
 
はじめに

 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、昨年3月に公表したアクションプログラムに基づき、リレーションシップバンキングの機能強化に向けて、多面的な評価に基づく総合的な監督体系の確立を図ることを目的として策定されました。中小・地域金融機関に特化し、その業務の特性を踏まえた初の監督体系になります。
 この監督指針は、従来の事務ガイドラインと同様、中小・地域金融機関の監督を担当する行政官の手引書という位置付けです。また、監督上の着眼点や事務処理上の留意点等、事務に必要な情報を極力集約したオールインワン型となっており、通称として「監督ハンドブック」と呼ぶこととしています。
 従来の事務ガイドラインと比較すると、(1)経営管理、地域貢献等の新たな監督上の評価項目を追加したこと、(2)金融監督上の基本的考え方を明記し、監督体系を分かり易く整理したこと等が抜本的な変更点となっています。
 監督ハンドブックの策定により、ガバナンスや地域貢献といった、中小・地域金融機関の健全性の向上にとって特に重要な観点を重視した経営が行われるとともに、金融行政に関する透明性が高まり、金融機関、更には国民一般の理解が向上することを期待しています。
 
監督ハンドブック策定の趣旨・目的

 監督ハンドブックの策定の趣旨については、金融審議会金融分科会第二部会報告「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」(平成15年3月27日)において示されているとおり、以下のようにまとめられます。
 中小・地域金融機関は、(1)特定の地域や業種に密着した営業展開、(2)主要な融資対象は中小企業又は個人、といった業務の特性があり、我が国のリレーションシップバンキング(間柄重視の地域密着型金融)の主要な担い手となっていますが、地域の金融ニーズに一層適切に対応するとともに、持続可能性(サステナビリティー)を確保するためには、その機能強化を図る必要があります。
 そのためには、中小・地域金融機関自らの取組みに加え、経営に対する外部からの規律付けを図る必要があり、情報開示等による規律付けとともに、当局による規律付けの必要性も大きいと考えられます。
 具体的には、中小・地域金融機関の業務の特性等を踏まえ、従来の財務の健全性等の観点に加え、新たにコーポレートガバナンス、経営の質、地域貢献が収益力・財務の健全性に与える影響等の観点も取り入れ、多面的な評価に基づく総合的な監督体系の確立を図ることが適当と考えられます。
 このような監督を実施することにより、金融機関による機能強化計画の実施や情報開示の充実ともあいまって、リレーションシップバンキング(間柄重視の地域密着型金融)の機能強化を図り、中小企業の再生と地域経済の活性化とともに、不良債権問題の解決を目指すこととしています。
 
監督ハンドブックの構成

 監督指針の構成は、まず第I章として、中小・地域金融機関に共通の監督に関する「基本的考え方」を示しています。次に、第II章が「銀行監督上の評価項目」、第III章が「銀行監督に係る事務処理上の留意点」となっています。第II章が当局と銀行の関係を規定しているのに対し、第III章は当局内部の事務処理について規定しています。さらに、第IV章において、協同組織金融機関に関し、所要の固有項目及び読み替え規定等を整理しています。
 
基本的考え方

 従来の事務ガイドラインにおいては、基本的考え方は示されていませんでしたが、監督ハンドブックにおいては、公正かつ透明な金融行政を確保する観点から、監督指針全体を通じてベースとなっている考え方を示しました。
 まず、我が国の金融監督システムが、オフサイト(監督)とオンサイト(検査)の双方のモニタリングから構成されており、両者の手法の適切な組み合わせが実効性の高い金融監督の実現に不可欠である中で、検査と検査のインターバル(地域銀行で平均2年7ヶ月)においても、継続的に情報の収集・分析を行い、金融機関の経営に関する問題を早期に発見し、早め早めに改善を促していくというオフサイトモニタリングの役割の明確化を再確認しました。
 次に、監督に当たっての基本的考え方として、(1)検査部局との適切な連携の確保、(2)金融機関との十分な意思疎通の確保、(3)金融機関の自主的な努力の尊重、(4)効率的・効果的な監督事務の確保を掲げています。この部分は、監督部局の職員が常に心がけるべき基本哲学であり、今後の監督行政に当たってのいわばドクトリンとして、我々が目指すべき理想的な監督行政のあり方を示しています。
 さらに、中小・地域金融機関の業務の特性等を踏まえた多面的な評価による総合的な監督体系の確立を図る必要性について、金融審議会金融分科会第二部会報告(平成15年3月27日)等を踏まえ、監督指針策定の趣旨を示しています。

 次回は、「監督上の評価項目」のうち、「経営管理」について解説します。


 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」について、詳しくは金融庁ホームページの「報道資料など」から、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針について」(平成16年5月31日)にアクセスして下さい。
 金融審議会金融分科会第二部会報告(平成15年3月27日)については、金融庁ホームページの「審議会など」から「金融審議会」の「答申・報告書等」のうち、PDF「平成15年3月27日 「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」(金融審議会金融分科会第二部会報告)」にアクセスして下さい。


【金融ここが聞きたい!】


 このコーナーは、記者会見における質疑・応答(Q&A)などの中から、金融を巡る時々の旬な情報をセレクトしてお届けするものです。もっと沢山ご覧になりたい方は、是非、金融庁ホームページの「記者会見概要」のコーナーにアクセスしてください。
 
Q: 主要行の16年3月期決算が発表になり、不良債権比率が5.2%と着実に減っていますが、不良債権比率半減目標の実現に向けての今後の取組を聞かせてください。また、不良債権処理と収益力向上に向けた銀行の取組に対する評価と期待を聞かせてください。


:不良債権比率を来年3月までに4%台にするという政策目標、この政策目標を掲げた時点では、大変困難である等々というように多くの御指摘を受けたのでありますけれども、この目標は、恐らく今のペースでいけば、半年前倒しで達成できるだろうというところに差しかかっておりますので、しっかりと政策目標の実現に向けて、一層の努力をしたいと思います。
(中略)これは、やるべきことは「金融再生プログラム」にもう明確に示しておりますので、それをルールどおりにしっかりと実行に移していくと。その実行を、銀行業界、銀行の皆さん方にお願いしていくということ、これに尽きると思っております。何か新しい目先のことをやるということではなくて、「金融再生プログラム」に則って、しっかりと着実に実行していくということに尽きると思っております。
(中略)これは、それぞれ正に選択と集中、自分の得意分野をどのように見出すかということを、各社がしっかりと経営努力をしておられる。その中で、これは当然のことながら、ある程度時間はかかるわけですけれども、収益力の向上についても、努力を今していただいているというふうに思っています。
 そもそも、業務純益そのものは、決して低くない水準にあるわけでありますから、まずはその不良債権の処理のコストを小さくするということが、トータルとしての収益力を高める極めて重要な第一歩になるわけです。今回の決算の1つの重要なポイントは、不良債権の処理コストが、トータルで見て明らかにその業務純益の中に収まったということでありますから、この不良債権を処理していくということ自体が、収益力を高める非常に重要な一歩になる。その上で、それぞれの銀行がそれぞれの競争力を生かして、選択と集中の中で更に努力していってもらうということだと思います。
平成16年5月25日(火) 竹中大臣記者会見抜粋)

 
 主要行の平成16年3月期決算の概要については、アクセスFSA本号の「トピックス」から「主要行の平成15年度決算について」、更に金融庁ホームページの「報道発表など」から「主要行の平成15年度決算について《速報ベース》」(平成16年5月24日)にもアクセスしてください。

 

Q: 「金融機能の強化のための特別措置に関する法律」が6月14日に成立しました。この制度の活用は金融機関の経営者の判断によるわけですが、期待するところを聞かせてください。


:ずっと私も申し上げていますけれども、日本の金融は危機ではないけれども健康体ではないと。そのグレーゾーンであるところにあるという状況が続いてきた、それが全体としては、かなり健康体に近づいてはいると思います。
 私はこういう機会に、経営者に大いに野心的になっていただきたいと思います。こういう枠組みをしっかりと活用して、一気にそのグレーゾーンから健全なところに飛び出すという、非常に大きなチャンスだと思います。それは経営体――銀行にとっても良いことだし、何よりも地域経済に資するし、そして日本経済に資する、そういう大きな視点から、この機会を大いに活用するという、そういう野心的な経営をしていただきたいと思っております。
平成16年6月15日(火) 竹中大臣記者会見抜粋)

 
 改正法をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「国会提出法案」から「第159回国会における金融庁関連法案」に入り、金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成16年2月6日提出、平成16年6月14日成立)にアクセスしてください。

 

Q: 先日閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」の中で、「金融重点強化プログラム」(仮称)の策定が盛り込まれましたが、どういった内容になりますか。


:この点については、本当に幅広く是非議論をしていきたいと思います。これまで我々が取り組んできている「金融再生プログラム」というのは、大変重要なプログラムだと思いますが、私がよく申し上げるところのリアクティブなものがやはり前面に出るわけですね、不良債権の処理であります。
 しかし、不良債権を処理して全て問題が片づくわけでは、これはないわけです。収益力を高めて、最高の金融サービスが提供できるような状況になっていかなければいけない。その中身については、私はぜひ幅広く議論をしたいと思います。まず、庁内で幅広く議論をしたいと思いますし、金融庁の若い職員の皆さんにもこの議論にぜひ参加していただきたいと思っていますし、また幅広く社会全体で御議論をいただくべき問題だと思います。
 前回の「金融再生プログラム」の時は、本当に時間的な制約の中で、私が就任してから約1カ月程度でその基本的な方策を取りまとめろという総理からの御指示をいただいていました。そういう中の状況と、やはり今は違っていると思っています。「金融再生プログラム」をまず終結させると言いますか、その目標を達成すること、これはまだ、あと1年近くあります。その間に、しっかりと幅広く議論していきたいと思います。
平成16年6月4日(金) 竹中大臣記者会見抜粋)

 
 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」について、詳しくは経済財政諮問会議のホームページから「会議情報」の「閣議決定」のうち、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」にアクセスしてください。

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