【法令解説】

 このコーナーでは、先に閉会した第161回国会で成立した金融庁関連の法律について、その経緯や内容を詳細に説明します。本号は、「改正信託業法」「金融先物取引法の一部を改正する法律」についてです。
 
改正信託業法の概要について

 信託業法は、昨年、大正11年以来、実に82年ぶりに改正されました。改正信託業法は、経済社会の様々な信託のニーズに対応するため、○受託可能財産の範囲の拡大、○信託業の担い手の拡大、○委託者・受益者の保護が図られ誰もが安心して利用できる仕組みの構築を主な内容としています。

I

.改正に至る経緯
 信託業法の見直しについては、信託活用に係るニーズの高まりを受け、平成14年6月以降、金融審議会金融分科会第二部会に「信託に関するワーキンググループ」を設置し専門的な観点から本格的に議論がなされ、「信託業のあり方に関する中間報告書」(以下「中間報告書」という。)として、平成15年7月28日の金融審議会金融分科会第二部会において報告されました。
 信託業法の見直しについては、「規制改革推進3か年計画」(平成15年3月)や「知的財産の創造、保護および活用に関する推進計画」(平成15年7月知的財産戦略本部決定)においても早期の対応を求められておりました。
 信託業法案は、平成16年3月5日、第159回通常国会に提出され、同年4月22日に衆議院本会議にて趣旨説明、質疑が行われましたが、審議日程が十分確保できなかったため、継続審議となってしまいました。しかし、第161回臨時国会において衆参両議院において審議がなされ、同年11月26日に全会一致で可決成立し、同年12月3日に公布され、同月30日に施行されました。

II

.受託可能財産の範囲の拡大
 旧信託業法では受託可能財産が金銭、有価証券、金銭債権等に限定されていましたので、特許権等の知的財産権などを信託することはできませんでした。
 近年、特に知的財産権等を信託することへのニーズが高まってきたことを受けて、今回の法改正において、受託可能財産の範囲の限定を撤廃しましたので、改正信託業法においては、信託法第1条で定める「財産権」一般について信託することが可能となります。

III

.信託業の担い手の拡大
 
.参入基準等
 
(1)  信託業の区分
 信託は、受託者に対する「信認」を背景に財産権等の所有権を受託者に移転するスキームでありますので、信託を業とする者については、受益者保護の観点から、一定の参入基準を満たすものでなければなりません。
 信託会社として行おうとする管理処分行為の態様は多様であることを考慮し、信託会社が行う信託業の機能及び業務内容に応じて、信託財産の運用を行う運用型信託会社と管理型信託会社とに区分し、参入基準を区分しております。
 管理型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり処分したりせず、その財産の通常の用法に従って保存・維持・利用のみを行うか、又は委託者等の指図に従ってのみ処分を行う信託会社をいい、運用型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり、運用や処分を行います。
 そして、運用型信託会社については、免許制とした上で、裁量性が低い業務のみを営む管理型信託会社については、一定の拒否要件に該当する不適格者を排除する登録制とし、より緩やかな基準のもとで参入を認めることとしました。なお、管理型信託会社については、定期的に登録拒否要件に該当するか否かチェックして不健全な業者を排除することができるよう3年毎の更新制としています。

(2)

 免許・登録審査基準
 
 人的構成
 免許、登録の申請がなされた場合には、内閣総理大臣は、定款及び業務方法書の規定が法令に適合し、かつ、信託業務を適正に遂行するために十分であるか、人的構成に照らして、信託業務を的確に遂行することができる知識及び経験を有しているか等について審査します(法第5条第1項、第10条)。
 的確に信託業を遂行できる人的構成を有するか否かは、免許ないし登録申請書に添付された業務方法書に記載された具体的な業務内容に則して審査することとします。


 財産的基礎
 信託会社は、信託業務を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有していることが必要でありますので、最低資本金を法律で定めました。最低資本金は、委託者および受益者保護の見地から、信託財産に対する最終的な担保となります。
 運用型信託会社は、他人の資産の運用の判断を自らが行うとともに、自らが財産の管理者となり分別管理等の受託者責任を履行して財産を的確に管理しなければならないことから、最低資本金を1億円としました(施行令第3条)。
 これに対し、管理型信託会社については最低資本金を5000万円としました(施行令第8条)。管理型信託会社は、自らの判断で運用を行わないので、最低資本金額は運用型信託会社より低いものとしましたが、財産が受託者名義となり、分別管理が履行されないと受託者の破産等によって受益者に損害が生ずるというリスクを抱えた業務である点では運用型信託会社と同様であり、単なる財産の管理業者よりも高い経営の安定性が求められるためです。
 信託会社は、受益者保護の見地から、最低資本金(1億円又は5000万円)を上回る純資産額を維持することも義務付けられます(法第5条第2項第2号)。そして、開業後に純資産額が最低資本金に満たなくなった場合、内閣総理大臣は、監督上必要な措置を命令できます。


 組織形態
 信託会社の組織形態については、業務の安定的な継続性及び会社の機関間の相互監視機能に優れている「株式会社」形態を原則としています。


 主要株主規制
 主要株主(20%以上の議決権付株式の保有等)の影響により経営が歪められることを防止し経営の健全性を確保するため、一定の欠格事由(取締役の欠格事由と同等の欠格事由等)を定め(法第5条第2項第9・10号)、その遵守を届出制によってチェックすることとしました。


.業務範囲等
 信託会社については、受益者保護の見地から、他業との利益相反行為を防止するなど信託業務の適正な遂行を確保し、信託会社の財務の健全性を確保し、また信託業に専念することが要請されます。そこで、原則として信託業以外の他業を禁止され、内閣総理大臣の承認を受けた場合に限り、兼業が認められることとしました。
 兼業承認の可否は、信託業務(本業)に与える影響及び信託業務との関連性により判断されます(法第21条第2項)。
 兼業業務が信託業務に関連するかどうかは、信託会社が営む信託業務の内容に応じて具体的に判断すべき事柄でありますが、例えば、不動産の管理処分信託を行う信託会社における不動産管理・販売業務、有価証券管理処分信託を行う信託会社における証券業や投資顧問業等が、一般的には信託業務に関連するものと認められるものと考えられます。
 なお、信託兼営金融機関については、従来から、幅広い分野に及ぶ総合的な信託業とあわせて併営業務を行ってきており、また金融機関として自己資本比率規制等により固有財産の健全性やリスク管理を確保する仕組みも存在することに鑑み、引き続き併営業務を営むことができるものとしました(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)第1条第1項)。
 その他に、利用者の誤認防止と信頼確保のための商号規制(法第14条)、経営の安定性確保のための取締役の兼職制限(法第16条)を規定しております。


.信託業務の第三者への委託
 受託者は、委託者から信認を受けた者として、基本的には自ら信託財産の管理を行わなければなりません(信託法第26条第1項)。
 しかしながら、金融の分業化や専門化、資産運用におけるグローバル化等が進む現代において、信託業務のすべてを受託者が行うことは、信託業務の効率的かつ適切な遂行の観点から現実的とは言えないということも事実です。
 そこで、改正信託業法においては、信託契約に委託先(未確定の場合は選定基準及び手続)について定めがあり、委託先が委託された業務を的確に遂行できる者であり、委託契約において分別管理等が規定されているといった要件を充足する限りにおいて、信託会社は、信託業務の一部を第三者へ委託することができることとしました(法第22条第1項)。この場合には、受益者保護の見地から、委託先も信託業法の規定の適用を受けます(法第22条第2項)。
 しかし、信託業務の全部を委託することは、信託業の引受けを免許制又は登録制とした本法案の趣旨を逸脱することから、認められません。
 法第22条第1項に規定する信託業務の委託先としての「第三者」に該当するか否かは、当該第三者が信託財産の管理又は処分に関する裁量を有すると認められるか否かにより判断することとし、定型的なサービスを利用する場合や単純な事務処理を行わせる場合には、これに該当しないものと考えます。
 また、受益者保護に欠けることのないよう、信託会社は委託先が受益者に与えた損害の賠償責任を負うこととしました(法第23条)。


.行為規制
 
(1)  販売勧誘ルール、ディスクロージャー
 信託商品は実績配当が基本であり(信託法第19条)、受益者の自己責任が求められることや、信託商品スキームは極めて複雑となり得ることを踏まえ、信託に係る取引の公正を確保し、委託者の保護に欠けることがないよう、販売勧誘ルール、ディスクロージャーについて規定しました。
 


 虚偽の説明、断定的判断の提供、損失補てんの約束、特別の利益提供等が禁止されます(法第24条第1項)。
 委託者の知識、経験及び財産の状況に照らした適切な信託の引受けをしなければなりません(法第24条第2項)。
 信託契約の締結に先立ち信託契約の内容の説明を義務づけられます(法第25条)。これによって委託者が重要な事実について認識しないまま信託関係に入ることが防止できます。
 信託契約成立時に信託契約の内容を記載した書面交付を義務づけられます(法第26条)。これによって契約内容の明確化が図られています。
 計算期間毎に受益者に対して信託財産の状況報告書を交付するよう義務づけられます(法第27条)。これによって、受益者に対するディスクロージャーの強化が図られています。
 なお、元本補填契約付信託については、預金類似の商品ですから、受益者保護のため、預金取扱金融機関としての健全性規制の備わった信託兼営金融機関のみが、引き続き提供できることとしました(兼営法第5条の4)。

(2)

 受託者責任
 信託会社は、信託の本旨に従って、善良な管理者の注意をもって信託の事務を処理し(善管注意義務、法第28条第2項)。自己又は自己の利害関係人の利益を優先することによって受益者の利益を害する取引を行ってはならない(忠実義務、法第28条第1項)等の受託者責任を規定しました。
 さらに、信託財産の保護を図るため、信託契約において当該取引を行う及び当該取引の概要について定めがあり、かつ、信託財産に損害を与えるおそれがない場合を除き、信託財産と固有財産間の取引(自己取引)を行ってはならないとしました(法第29条第2項)。実際に自己取引が行われた場合には、信託財産の計算期間ごとに、当該取引の状況を記載した書面を作成し、受益者に対して書面の交付を義務づけられます(法第29条第3項)。これにより、一層の信託財産の保護が図られるものと考えます。
 また、受託者たる信託会社は、信託財産と自己の固有財産及び他の信託財産との分別管理体制の整備その他信託財産に損害を生じさせ、又は信託業の信用を失墜させることのない体制の整備を義務づけています(法第28条第3項)。

(3)

 営業保証金
 信託会社等が業務を営むにあたって、上記のように定める管理失当や十分な説明義務を尽くさなかったことにより、信託商品を取得した顧客に損失を与える可能性があります。そこで、委託者・受益者の保護を図る必要から、営業保証金制度を採用し(法第11条)、信託の受益者に優先弁済権を認めました。
 必要な営業保証金額は、信託会社については2500万円、管理型信託会社は1000万円としました(施行令第9条)。


.監督
 
(1)  内閣総理大臣は、必要に応じて、信託会社に対し、立入検査を行うとともに、業務改善命令、業務停止、免許ないし登録取消し、役員解任の命令といった監督上の措置をとることができます(法第42〜45条)。内閣総理大臣は、業務運営の状況を把握する観点から、信託財産に関して取引する者(信託業務の委託先、受益者等)に対しても報告を求めることができます。

(2)

 破産により信託会社の免許・登録は失効するとともに(信託業法第46条第1項、第41条第2項第3号)、信託会社の受託者としての任務は終了します(信託法第42条第1項)。
 裁判所は、信託会社の監督権を有していた内閣総理大臣と連絡、協力しつつ、破産手続を進めることが合理的であることから、必要な連絡・協力体制を講じるための規定を設けています(法第50条第1項、第2項)。


.信託会社の特例
 
(1)  同一の会社集団に属する者の間における信託の特例
 グループ企業各社が保有する知的財産権を親会社などが集中管理し、当該会社が、グループ全体として戦略的・効率的活用を図る方法として信託を活用しようとするニーズがあり、これに対応するため、グループ企業内の信託であって、かつ、受益者がすべてグループ内に収まっている場合には、受託者が信託会社としての免許・登録を要せず、届出のみで信託業を営むことができることとしました(法第51条第1項)。
 この場合には、グループ企業以外に受益者が存在せず、また、グループ企業内での相互監視機能が働くことが期待されますので、営業として行われる信託であったとしても、信託業法で求める各種の規制(参入規制や行為規制・監督規制)は適用されません。

(2)

 承認TLO(Technology Licensing Organization)
 「大学等技術移転促進法」に基づき主務大臣の承認を受けた技術移転機関(承認TLO)についても、特例を設けました。
 承認TLOは、事業の実施計画が主務大臣(文部科学大臣及び経済産業大臣)の承認を受けていること、知的財産戦略本部決定(平成15年7月8日)において、信託業への「グループ企業内の管理会社やTLOの参入は原則自由とするよう、2003年度中に所要の法整備を行う」とされたことなどを考慮し、管理型信託会社の登録拒否要件の一部を緩和した登録制としました(法第52条第1項)。
 承認TLOについては、株式会社でなくても、信託業を営むことができ、しかも、信託会社と異なり、最低資本金額規制がかからない、登録の更新が不要である、商号の使用は強制されない、取締役等の兼職制限や主要株主規制はかからないといったように、信託業への参入が容易になるように配慮しております。
 信託業参入後については、委託者及び受益者保護を図るため、承認TLOに対しても、管理型信託会社に対するものと同様の行為規制・監督規制が課されることになります(同条第3項)。

IV

.信託サービスの提供チャネルの拡大
 
.信託契約代理店
 信託契約締結の媒介及び代理を営業として行うことを認めることは、信託サービスの提供チャンネルの拡大や信託の利用者のアクセス向上の観点から適切と考えられますので、今回の改正により、「信託契約代理店」制度を整備しました。
 顧客(委託者)の保護の観点から、信託契約代理店については、不適切な者の参入を排除するために登録制としました(法第67条第1項)。
 信託契約代理店は、信託会社と異なり、法人、個人を問わず営むことができます。
 信託契約代理店は、信託会社の委託を受けて信託契約代理業を営まなければなりませんが(法第67条第2項、所属信託会社制)、所属信託会社の数については法律上限定されませんので、複数の信託会社に所属して信託契約代理業を営むことは可能です。
 信託契約代理店は、信託契約締結の代理又は媒介を行うときは、あらかじめ、顧客に対し、信託契約の内容等の説明をし、顧客から預かった財産を自己の固有財産その他の信託契約の締結に関する財産と分別して管理し、顧客に対して不適切な勧誘を行うことが禁止されます(法第74〜76条)。
 信託契約代理店が、信託契約の締結の代理又は媒介につき顧客に損害を与えた場合には、所属信託会社も損害の賠償責任を負うことになります(法第85条)。
 このように、改正法においては、実質的に所属信託会社が、信託契約代理店の業務の適切な運営を確保させる仕組みをとっております。


.信託受益権販売業者
 改正法においては、信託の受益権の販売又はその代理若しくは媒介を行う営業を「信託受益権販売業」とした上で(法第2条第10項)、内閣総理大臣の登録を受けなければならないものとしました(法第86条第1項)。
 自らの資産を信託し、又は第三者から取得した受益権を反復継続して販売を行う場合や、信託受益権の保有者から第三者への受益権の移転(販売)の代理又は媒介を営業として行う者は、今後は、信託受益権販売業の登録を受けなければならなくなります。
 これは、今回の法改正により、受託可能財産の範囲及び信託業の担い手が拡大し、信託受益権がより一層多様化するとともに、資金調達の手段として信託スキームがこれまで以上に活発に利用されることが予想されますが、それとともに、信託受益権に関する取引の公正を確保し、信託受益権の取得者を保護することが必要となってくるからです。
 信託受益権販売業者については、3年の更新制(法第86条第2項、第3項)を採用して、登録後も一定期間毎に的確性についてチェックすることにより、不健全な業者を排除することを意図しております。
 なお、免許を受けて信託業を営む信託会社、外国信託会社、有価証券の販売を営む証券会社、登録金融機関については、信託受益権販売業者の登録を不要としました(法第105条第1項)。さらに、住宅金融公庫、中小企業金融公庫又は公営企業金融公庫についても、信託受益権販売業の登録は不要としています(法第105条第1項、第2項)。
 信託受益権の勧誘にあたっては信託受益権の内容やリスクの説明義務及び不当勧誘の禁止等のルールを設ける(法第94〜96条)とともに、信託受益権販売業者による帳簿書類の作成及び保存を義務付ける(法第97条)ことにより、顧客保護を図っています。
 さらに、信託受益権販売契約に関して発生した損害賠償責任等に備えるため、営業保証金の供託を義務付けることとしました(法第91条)。営業保証金の額は、顧客保護を考慮し、1000万円としました(施行令第19条)。


.外国信託会社
 外国の法令に準拠して外国で信託業を営んでいる者が、日本において支店を設け、免許・登録を受けることにより、日本の(運用型)信託会社、管理型信託会社の区分に応じて、(運用型)外国信託会社、管理型外国信託会社として日本で営業を行うことができることとしました。
 外国信託会社については、信託会社と異なり、主要株主に関する規定は適用しないこと、損失準備金に関する規定を設けること(法第55条)などの整備をしました。


.指図権者
 信託財産の管理又は処分の方法について、受託者たる信託会社に対し指図を行うことを営業とする者を「指図権者」とし、かかる者に対しては、信託の受益者保護の見地から、一定の行為規制が課されることとなります(法第65条、第66条)。

V

.その他
 
.特定債権等に係る事業の規制に関する法律(以下「特債法」という。)は、信託業法の附則により廃止しました(法附則第2条)。


.兼営法についても、信託業法改正に合わせて、信託兼営金融機関の業務範囲(第1条)、信託業法の規定の改正・追加に伴う準用範囲の見直し(第4条)、信託業法における罰則規定の整備に平仄を合わせた罰則規定の見直し(第10条〜第16条)等を行いました。


.銀行法等を改正し、信託会社を銀行等の子会社の対象に追加するなどの措置を講じました。また、担保付社債信託法についても、財産権一般が受託可能財産となり、信託業法上の免許ないし兼営法の認可を受けた者であれば担保権の信託を受託することは可能となりますので、これらの者については、改めて担保附社債信託法上の免許を取得することを不要とするための措置を講じることとしました。


 改正信託業法について、詳しくは金融庁ホームページの「改正信託業法が施行されました」にもアクセスしてください。
 
金融先物取引法の一部を改正する法律の概要について


.金融先物取引法改正の目的
 外国為替証拠金取引をめぐり、業者の執拗な勧誘や決済拒否を原因として、投資者が多額の損失を被ったり、資金が投資者に返済されない等のトラブルが多発しており、民事事件や刑事事件に発展しているものもあるなど、社会問題化しています。
 こうした事態を踏まえ、外国為替証拠金取引をめぐる被害の拡大を防止するために、当該取引やこれに類似する取引を業として行い、又は媒介等を行う者を金融先物取引業者の定義に含めることにより、規制の対象にするなどの措置を講じるべく、今般、「金融先物取引法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が提出され、平成16年12月1日に国会で成立し、同年12月8日に公布されました。(平成16年法律第159号)


.金融先物取引法改正の主な内容
 
(1)  定義の改正
 一般顧客(金融先物取引に関する専門的知識及び経験のない者)を相手方として行う店頭金融先物取引又はその媒介等を「金融先物取引業」の定義に含め、当該取引等を取り扱う業者を「金融先物取引業者」として規制の対象とする等、定義規定を改めることとしました。

(2)

 金融先物取引業者の登録
 金融先物取引業を登録制とし、株式会社又は銀行等の金融機関でなければ行うことができないこととするほか、所要の登録拒否要件等を整備しました。

(3)

 行為規制の拡充
 
 ○  誠実公正義務
 金融先物取引業者並びにその役員及び使用人は、委託者等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならないこととしました。

 ○

 禁止行為
 金融先物取引業者が、勧誘の要請をしていない一般顧客に対して訪問又は電話による勧誘をすること等を禁止することとしました。

 ○

 適合性の原則
 金融先物取引業者は、顧客の知識、経験等に照らして不適当と認められる勧誘を行い顧客保護に欠けることとなること等のないように業務を行わなければならないこととしました

(4)

 自己資本規制比率
 金融先物取引業者(銀行等を除く。)は、資本等の合計額から固定資産等を控除した額の、その行っている金融先物取引等により発生しうる危険に対応する額の合計額に対する比率(自己資本規制比率)を算出し、内閣総理大臣に届け出なければならないこととなり、金融先物取引業者は、自己資本規制比率が120%を下回ることのないようにしなければならないこととしました。

(5)

 外務員登録
 金融先物取引業者は、その役員又は使用人のうち、金融先物取引の受託等を行う者について、登録を受けなければならないこととする等、外務員に係る規定を整備しました。


.改正法施行(平成17年7月1日)までの注意すべきポイント
 

(1)

 現時点で取扱業者に改正法に基づく許認可等は行っていないので注意が必要です。

(2)

 改正法により外国為替証拠金取引について、以下のようなトラブルを踏まえ、勧誘の要請をしていない顧客に対して訪問又は電話による勧誘が禁止(いわゆる不招請勧誘の禁止)されるほか、断定的判断の提供の禁止などの規制が導入されますが、それまでの間も十分注意することが必要です。
 

 ○

 改正法で禁止される、勧誘の要請をしていない顧客に対する電話や訪問での勧誘、誤った情報提供や詐欺的な行為などによるトラブルが生じており、多くの高齢者が被害にあっています。

 ○

 「必ず儲かる」などといった言葉や強引な勧誘によるトラブルが生じています。

(3)

 金融先物取引業者には登録が義務付けられますが、国会での審議においては、今回の法改正にあわせて悪質な業者が荒稼ぎをして足を洗おうと考えて駆け込み勧誘をするのではないかとの懸念が示されています。法施行の前後を問わず、信頼できる業者であるかどうか十分調べることや、信頼できる業者との確信がもてないときは、取引を控えるなどの注意が必要です。

(4)

 非常にリスクの高い取引のため、少額で取引できるとしても、差し入れた証拠金以上の多額の損失が生ずるおそれがあります。なお、金融商品販売等に関する法律(民法の不法行為の特則を定めたもの。)により、取扱業者には、リスク等の重要事項の説明義務があります。


 「改正法」や外国為替証拠金取引に係る注意点等について、詳しくは金融庁ホームページの「いわゆる外国為替証拠金取引について」にアクセスしてください。また、本号の「金融便利帳」の「外国為替証拠金取引」にもアクセスしてみてください。

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