【集中連載】
 
金融検査に関する基本指針(案)の概要について(第1回:策定に当たってのスタンス及び「I 基本的考え方」の概要について)

 金融検査に関する基本指針(案)(以下「本基本指針(案)」という。)は、昨年12月24日に公表された「金融改革プログラム」及びこれを受けた「金融改革プログラム工程表」(本年3月29日公表)を踏まえた「金融庁の行動規範(code of conduct)の確立」の一環として、検査等の実施に当たっての基本的な考え方及び検査の具体的な実施手続等を示すものです。検査等に関連して発出される通達等の解釈及び運用に当たっては、今後、本基本指針(案)を基に行うこととなります。
 去る4月28日(木)にその案をパブリック・コメントに付し、5月27日(金)まで意見を募集しています。本稿では、その案の策定に当たってのスタンス及び概要について紹介します。


.「本基本指針(案)」策定に当たってのスタンス
 検査を取り巻く状況をみると、主要行の不良債権問題が平成17年3月期までの半減目標の達成に向けて、順調に低下している状況下において、「金融改革プログラム」にみられるように、金融行政は転換を迎えつつあります。すなわち、同プログラムでは、「金融システムの安定」を重視した金融行政から、「金融システムの活力」を重視した金融行政へ転換を図り、利用者の満足度が高く、国際的にも高い評価が得られるような金融システムを、「官」の主導ではなく「民」の力によって、実現するよう目指すこととされています。

 こうした中で、金融行政の重要な一翼を担う検査が、今後、どのような機能を発揮すべきかは、重要かつ緊急の検討課題です。金融庁検査局は、本基本指針(案)の検討に際し、検査の「原点」をもう一度見直し、そのプロセスを総点検することから、作業を始めました。
 
(注 )この検討に当たり、金融庁検査局において、17回にわたりワーキンググループによる検討が行われました。

 その結論は、今後、新たに展開される金融情勢の下において、各金融機関の経営実態を的確に把握し、そのリスクや問題点を適切に指摘するための金融検査が、引き続き、有効かつ効果的に機能するためには、以下の点を重視した運用が求められるということです。
 

(1)

 検査の具体的な実施手続を明確化し、そのプロセスの予測可能性等を高める必要がある。

(2)  検査の運用に当たっては、各金融機関の自主的・持続的な経営改善に向けた取組みを促進することに配慮する必要がある。

(3)  検査の有効性を維持しつつ、その効率化をすすめ金融機関の負担軽減に努めていく必要がある。

(4)  「民」の活発な金融機能の展開の結果生じる、新たなリスクや経営実態に的確に対応して、適切な検査が実施できるよう態勢を整備する必要がある。

 上記のスタンスに基づき、金融庁検査局は、本基本指針(案)を検討・作成したところです。


.「本基本指針(案)」の概要
 
I 基本的考え方
 

.金融検査のミッションを明確化
 本基本指針(案)においては、まず、冒頭で検査部局のミッションは、「立入検査の手法を中心に活用しつつ、各金融機関の法令等遵守態勢、各種リスク管理態勢等を検証し、その問題点を指摘すること」としています。したがって、その後の経営改善に向けた対応策の措置を促すことは、監督部局の役割です。


.5つの基本原則
 上記「1.」を踏まえて、以下のような検査等の5つの基本原則を掲げています。
 
(1)  利用者視点の原則
 一般の利用者及び国民経済の立場に立ち、その利益保護を第1の目的。
(2)  補強性の原則
 検査は、自己責任原則に基づく金融機関の内部管理と、会計監査人等による厳正な外部監査を前提としつつ、「市場による規律」などを補強。
 他方、金融機関の自主的な経営改善に向けた取組みの促進に配慮し、金融機関との「双方向の議論」(注)を重視。
 
(注 )事実を的確に把握し、客観的に問題点を示したうえで金融機関の主張を十分に聴取し、その理解や認識を確認するプロセス。
(3)  効率性の原則
 検査は、金融機関の監査機能や検査・監督における関係部署と十分な連携等を保ちつつ、効率的に実施(メリハリのある検査)。
(4)  実効性の原則
 検査における指摘が金融機関の適時適切な経営改善につながるよう、監督部局との緊密な連携等。
(5)  プロセス・チェックの原則
 原則として、各金融機関の法令等遵守態勢・各種リスク管理態勢に関して、そのプロセス・チェックに重点を置いた検証。

 このうち、(2)〜(4)は、既に金融検査マニュアルで基本原則として明記されていましたが、今回(1)及び(5)を新たに基本原則として明記しました。特に(1)は、金融検査が、そもそも一般の利用者及び国民経済の立場に立ちその利益の保護を第一の目的としていること及び金融改革プログラムにも利用者の視点が第一にあげられていることに鑑み、今回明確化しました。なお、(2)は後段の意味合いを今回追加しています。


.検査官の心得(検査官の行動規範)
 これらに加え、検査官は、高い自己規律のもと適切な検査を実施する必要があることから、検査官の心得(検査官の行動規範)を明記しました。具体的には、(1)国民に対する使命、(2)デュー・プロセスの確保、(3)検査の信頼の醸成、(4)自己研鑽に努めること、(5)チームワークの精神、といった5つの内容で構成しています。
 次回は、『「II 検査等の実施手続等」の概要について』です。


 平成17年4月28日に公表した「金融検査に関する基本指針(案)」の全文をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「金融検査に関する基本指針(案)について」(平成17年4月28日)にアクセスしてください。

【法令解説】

 このコーナーでは、第162回国会で成立した金融庁関連の法律について、その経緯や内容を詳細に説明します。本号は、「保険業法等の一部を改正する法律」についてです。
 
保険業法等の一部を改正する法律の概要について
 
I .改正の経緯・背景

 「保険業法等の一部を改正する法律」(平成17年法律第38号。以下「改正法」といいます。)は、平成17年3月11日に内閣より第162回通常国会に提出され、原案のとおり、4月11日に衆議院において可決、4月22日に参議院において可決・成立し、5月2日に公布されました。
 今回の法改正は、平成16年1月16日に金融審議会金融分科会第二部会において「保険に関する主な検討課題」として「保険契約者保護制度の見直し」及び「無認可共済への対応」が示されたことを受けて、同部会に設置された「保険の基本問題に関するワーキンググループ」における審議、これに基づき同年12月14日に取りまとめられた同部会報告書「PDF根拠法のない共済への対応について」及び「PDF保険契約者保護制度の見直しについて」を踏まえたもの(※ 注1)であり、(a)根拠法のない共済への対応に係る改正(下記II.)及び(b)保険契約者保護制度等の見直しに係る改正(下記III.)の二つを主たる内容としています。
 今回の法改正の背景としては、(a)に関しては、特別な法律上の根拠なく任意団体等で共済事業を行うもの(※ 注2)が急増しており、その中には不適切な販売方法をとるものや財務基盤の脆弱なものがある等との指摘がされていること、(b)に関しては、平成10年に現行の保険契約者保護制度が創設されて以降(※ 注3)、生命保険会社・損害保険会社の実際の破綻事例を踏まえた指摘・要望等が行われていたこと、平成15年4月の保険業法改正(※ 注4)による生命保険契約者保護機構の財源に係る時限措置が平成17年度末までとなっていたことなどが挙げられます。
 
II .少額短期保険業の創設
 


.保険業の定義の改正

 保険業法では、不特定の者を相手方として保険の引受けを行う事業を保険業として規制の対象としてきましたが、今回の法改正では、保険業の定義を見直し、特定の者を相手方として保険の引受けを行う事業についても保険業に含めることとし、原則として保険業法の規定を適用することとしました。ただし、他の法律に特別の規定のあるもの、会社等が役員・使用人等を相手方として行うもの、労働組合が組合員等を相手方として行うもの、学校が学生等を相手方として行うもの等については、引き続き、保険業法の規定は適用されません(改正後の保険業法第2条第1項。以下、引用条文は、特記ない限り、改正後の保険業法のものとします。)。


.少額短期保険業の創設

 保険期間が2年以内の政令で定める期間以内で、保険金額が1000万円を超えない政令で定める金額以下の保険のみの引受けを行う事業(少額短期保険業)者については、その特性を踏まえて、以下のような保険会社と異なる新たな規制の枠組みを導入することとしました。
 

(1)

 登録
 内閣総理大臣の登録を受けた者は、保険料収入が政令で定める基準を超えない範囲で、少額短期保険業を行うことができることとします。内閣総理大臣は、申請者が、
 
(a)  株式会社又は相互会社でない場合
(b)  資本等の額が政令で定める額に満たない場合
(c)  会社やその役員に行政処分歴がある等の場合
(d)  保険契約の内容が保険契約者等の保護に欠ける恐れのあるもの等である場合
(e)  少額短期保険業を的確に遂行することができる人的構成を有しない場合
等は、登録を拒否しなければなりません(第272条・第272条の4)。

(2)

 責任準備金の積立て、供託の義務付け
 少額短期保険業者は、保険契約上の義務を履行するため責任準備金等を積み立てなければならないこととします。また、保険契約者等の保護のため必要かつ適当な額の金銭を供託所に供託する必要があります(第272条の5、第272条の18において準用する第116条等)。なお、少額短期保険業者については、取扱商品や資産運用((3)参照)の限定等により、事業活動に伴い生じるリスクが相当抑制されること等を前提に、セーフティネットは設けられません(第262条第1項・第265条の2第1項)。

(3)

 兼業規制、資産運用規制
 少額短期保険業者は、原則として少額短期保険業とこれに付随する業務以外の業務を行うことはできず、保険料として収受した金銭その他の資産の運用は、預金、国債の取得等に限定されます(第272条の11・第272条の12)。

(4)

 情報開示
 少額短期保険業者は、事業年度ごとに、業務・財産の状況に関する説明書類を作成し、各事業所に備え置く必要があります(第272条の17において準用する第111条)。

(5)

 報告又は資料の提出及び立入検査
 内閣総理大臣は、少額短期保険業者の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは、少額短期保険業者等に対し、業務等の状況に関する報告・資料の提出を求め、又は職員にその施設に立ち入らせ、質問等をさせることができます(第272条の22・第272条の23)。

(6)

 募集規制
 少額短期保険の募集を行う者は一定の者を除いて、少額短期保険募集人登録簿に登録しなければならないこととし、保険会社の保険募集人と同様、保険募集時における虚偽表示や重要事項の不告知の禁止等の保険募集に関する禁止行為についての規定や監督についての規定等を適用します(第276条・第294条・第300条・第305条・第306条等)。


.経過措置等
 

(1)

 改正法の施行の際に特定保険業(改正法の規定の適用を受ける保険の引受けを行う事業のうち、改正前の保険業法に規定する保険業に該当しないものをいいます。)を行っている者は、施行日から起算して2年を経過する日までの間は、原則として引き続き特定保険業を行うことができることとします(改正法附則第2条)。

(2)

 特定保険業者の届出
 特定保険業を行っている者(以下「特定保険業者」といいます。)は、施行日から起算して6月以内に特定保険業を行っている旨を内閣総理大臣に届け出る必要があります(改正法附則第3条)。

(3)

 特定保険業者に対する保険業法の規定の適用
 上記(1)により特定保険業者が引き続き特定保険業を行う場合には、当該特定保険業者を少額短期保険業者とみなして、業務運営に関する措置、募集規制、業務報告書の提出、内閣総理大臣による検査・監督、保険契約の包括移転等に関する保険業法の規定を適用します(改正法附則第4条)。

(4)

 公益法人等に関する経過措置
 改正法の施行の際に特定保険業を行っている公益法人等は、当分の間、引き続き特定保険業を行うことができることとします。この場合、当該公益法人等を少額短期保険業者とみなして、募集規制に関する保険業法の規定を適用します(改正法附則第5条)。

(5)

 その他の経過措置等
 その他特定保険業者による規制対応の円滑化のための措置等所要の経過措置が設けられます(改正法附則第6条・第8条・第15条・第16条)。
 
III .保険契約者保護制度等の見直し
 


.保険契約の特性等に応じた補償の内容の見直し等
 現行の保険契約者保護制度は、保険契約の存続を図りつつ、保険契約者保護機構からの資金援助等により保険契約の価値を一定割合まで補償することを基本的仕組みとしています。また、資金援助等による補償率は、原則として、保険契約の種類、内容等にかかわらず責任準備金の90%とされています。
 今回の法改正においては、以下のとおり、自動車保険等の損害保険契約について保険契約の存続を前提としない新たな仕組みを導入する((1))とともに、保険契約の種類、内容等に応じた補償率の見直し(具体的な保険契約の区分及び補償率は内閣府令・財務省令事項)を行うこと((2))等としました。
 

(1)

 「特定補償対象契約」に係る新たな仕組みの導入
 自動車保険等の損害保険契約については、(a)生命保険のような再加入困難性がないこと等の理由により保険契約の存続を図る必要性が低いこと、(b)保険金額の一部が削減されるだけでも保険契約者等が高額の自己負担を負うこととなること、などの特性が認められます。
 このため、これらの保険契約については「特定補償対象契約」(第245条第2号)として、保険会社の破綻後内閣府令・財務省令で定める一定期間内は保険金額の全額の支払を保証するとともに、その間に他の健全な保険会社への乗換えを促す(破綻後内閣府令・財務省令で定める一定期間は、破綻処理のための業務停止にかかわらず、解約に係る業務(解約返戻金等の支払を除きます。)を停止することを要しない)こととしました(第245条・第247条第1項。支払率100%の定めは内閣府令・財務省令事項)。当該一定期間経過後の保険金の支払率及び責任準備金の補償率は、80%とすることとしています(第245条第1号・第270条の3第2項等)。
 なお、保険契約の存続を図るために従来設定されている早期解約控除(※ 注5)は、特定補償対象契約についてはこれを設定する合理的理由がないことから、これを明示的に禁止することとしました(第250条第1項、改正後の金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(以下「改正更生特例法」といいます。)第445条第2項)。

(2)

 予定利率の高い保険契約に係る補償率の見直し
 予定利率が高いと認められる保険契約(内閣府令・財務省令で定める率を超える予定利率に基づく保険契約)については、保険契約者間の公平性等の観点から、原則的な補償率から一定程度、補償率を引き下げることとし、このことを明らかにするため、具体的な補償率を内閣府令・財務省令において定める際に予定利率を勘案することができることを法律上明記することとしました(第245条第1号・第270条の3第2項等)。
 具体的には、内閣府令・財務省令において、予定利率の高い保険契約については、内閣府令・財務省令で定める率を超える部分に相当する率を基礎として算出される率を、原則的な補償率から減じることにより、補償率を算定することが想定されています。

(3)

 保険会社の更生手続における「運用実績連動型保険契約」の取扱い(※ 注6
 その保険料として収受した金銭の運用の実績が全面的に保険契約者に帰属することとなる 保険契約(最低保証の付されていないいわゆる団体年金特別勘定が主として想定されています。)については、保険会社の経営悪化に対する当該特別勘定に係る資産運用リスクの影響が認めがたいこと、したがって他の保険契約と同じように責任準備金を削減する理由が薄いことなどが指摘されてきています。
 このため、このような保険契約については「運用実績連動型保険契約」として、厳格な分別管理を義務づける(第118条)とともに、このことを前提として、保険会社の更生手続において、更生計画の中で運用実績連動型保険契約について他の保険契約に比して有利な条件を定めることとしても、更生計画に係る平等原則に反しないことを確認する規定を設けることとしました(改正更生特例法第445条第3項)。


.生命保険契約者保護制度の財源措置の見直し

 上記I.のとおり、生命保険契約者保護機構(以下この3.において「機構」といいます。)に対する政府の補助の制度は、平成17年度末までの生命保険会社の破綻に係る時限的制度とされていました(保険業法附則第1条の2の13第2項)。また、政府の補助の要請の前提となる、機構の会員(生命保険会社)の負担金によりまかなわれるべき金額(いわゆる業界負担枠)についても、同様に平成17年度末までの破綻について、1000億円と規定されていました(保険業法附則第1条の2の13第2項、同施行令附則第8条の3)。
 このため、今回の改正において、平成18年度以降の機構の財源措置のあり方について見直しを行うこととし、機構の会員の負担金によりまかなわれるべき範囲のあり方、政府の補助の制度、のそれぞれについて、以下のように改めることとしました。
 
 (a)  破綻処理に要する費用は、機構の借入限度額(保険業法第265条の42、同施行令第37条の4)までは、会員の負担金によりまかなわれるべきものとしました(附則第1条の2の14第2項及びこれに基づく政令)。いわゆる業界負担枠は、基本的に、機構の借入限度額から過去の破綻に係る借入残高を差し引いた金額となります。
 (b)  (a)を原則としつつ、生命保険会社における逆ざやの状況、過去の破綻に係る機構の借入残高の状況等に鑑み、平成18年度から20年度までに破綻した生命保険会社の破綻について、資金援助等の費用が(a)の業界負担枠を超え、かつ「資金援助その他の業務に要した費用を第265条の33第1項の規定により当該生命保険契約者保護機構の会員が納付する負担金のみで賄うとしたならば、当該生命保険契約者保護機構の会員の財務の状況を著しく悪化させることにより保険業に対する信頼性の維持が困難となり、ひいては国民生活又は金融市場に極めて重大な支障が生じるおそれがあると認める場合」には、予算で定める金額の範囲内において、所定の費用の全部又は一部に対し政府が補助を行うことができることとしました(附則第1条の2の14第2項及びこれに基づく政令)。
 
IV .その他の改正事項
 


.保険業法関係
 

(1)

 保険会社の業務等
 
(a)  保険会社は、内閣総理大臣の認可を得て、船主相互保険組合の業務の代理等を行うことができることとしました(第98条第1項第1号・同条第2項)(※ 注7)。
(b)  保険会社は、その業務を第三者に委託する場合には、当該業務の的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じなければならないものとしました(第100条の2)。

(2)

 保険会社・保険持株会社の子会社の範囲(※ 注8
 保険会社の行う業務に従属する業務(福利厚生業務等)を行う子会社(以下「従属業務子会社」といいます。)については、従来、専ら親会社である保険会社又はその子会社のためにその業務を営むことが必要とされていたのに対し、今回の法改正において、複数の保険会社等のためにその業務を営むことを認めることとし、複数の保険会社グループによる従属業務子会社の共同利用を可能としました(第106条第1項第12号・同条第7項。保険持株会社につき、第271条の22第1項第12号・同条第5項)。

(3)

 報告又は資料の徴求及び立入検査
 
(a)  保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るための内閣総理大臣による報告又は資料の徴求及び立入検査については、従来、内閣総理大臣が特に必要があると認める場合、その必要の限度において、保険会社等の子会社もその対象に含まれていましたが、今回の法改正において、保険会社及び保険持株会社が実質的支配力を有している会社も対象に含めることとしました(第128条・第129条・第271条の27・第271条の28)。
(b)  保険会社や外国保険会社等の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るための内閣総理大臣による報告又は資料の徴求及び立入検査について、内閣総理大臣が特に必要と認める場合、その必要の限度において、保険会社や外国保険会社等から業務の委託を受けた者も対象に含めることとしました(第128条・第129条・第200条・第201条・第226条・第227条・第271条の27・第271条の28)。

(4)

 株主
 
(a)  保険議決権大量保有者が提出すべき変更報告書の提出期限(5日以内)を、その保有する議決権の数に増加がない場合等には緩和することとしました(第271条の4第1項)(※ 注9)。
(b)  保険持株会社について、中間業務報告書を導入することとしました(第271条の24)(※ 注10)。


.船主相互保険組合法関係
 

(1)

 船主相互保険組合は、内閣総理大臣の承認を受けて、組合員のために行う損害保険会社の業務の代理等を行うことができることとしました(改正後の船主相互保険組合法(以下「改正船主相互保険組合法」といいます。)第4条)。この改正及びIV.1.(1)(a)の改正によって、損害保険会社と船主相互保険組合との間で双方向の業務の代理等を行うことが可能となっています。

(2)

 船主相互保険組合は、内閣総理大臣の承認を受けて、当該組合が組合員から引き受けた保険契約に係る船舶等に出資等をしている者(組合員及び組合員たる資格を有する者を除く。)の当該船舶等の運航に伴って生ずる費用・責任に関する損害保険事業を行うことができることとしました(改正船主相互保険組合法第4条)。(※ 注11)。
 
V .施行期日・経過措置・検討規定
 


.施行期日
 

(1)

 少額短期保険業の特例等に係る規定等
 少額短期保険業の特例(上記II.)に係る規定等、下記(2)・(3)以外の改正法の規定については、公布から1年以内の政令で定める日より施行されます(改正法附則第1条本文)。

(2)

 保険契約者保護制度等の見直しに係る規定等
 保険契約者保護制度等の見直し(上記III.)に係る規定及び運用実績連動型保険契約に係る規定等については、平成18年4月1日より施行されます(改正法附則第1条第2号)。

(3)

 保険議決権大量保有届出書に関する変更報告書に係る規定等
 保険議決権大量保有届出書に関する変更報告書に係る規定(上記IV.1.(4)(a))等については、改正法の公布から3月以内の政令で定める日より施行されます(改正法附則第1条第1号)。


.経過措置
 少額短期保険業の特例については、上記II.3.のとおり所要の経過措置を設けています。なお、その他所要の経過措置を設けることとしています。


.検討規定
 

(1)

 少額短期保険業の特例に係る検討規定
 政府は、改正法の施行後5年以内に、少額短期保険業者の業務の状況、保険会社が引き受ける保険の多様化の状況、経済社会情勢の変化等を勘案し、改正法に規定する保険業に係る制度について検討を加え、必要と認められる場合は、所要の措置を講ずることとされています(改正法附則第38条第2項)。

(2)

 生命保険契約者保護機構に係る検討規定
 政府は、改正法の施行後3年以内に、生命保険契約者保護機構(以下「機構」といいます。)に対する政府の補助及び機構による資金援助等の実施状況、機構の財務状況、保険会社の経営の健全性の状況等を勘案して、機構の資金援助等の費用の負担の在り方、政府の補助の制度の存続の必要性等について検討を行い、適切な見直しを行うものとされています(改正法附則第38条第1項)。
 
VI .終わりに

 なお、改正法中、政令、内閣府令、内閣府令・財務省令等に委任されている事項については、今後、政令等の案をパブリックコメント手続に付す予定としています。




)平成16年12月14日の金融審議会第二部会報告書「保険契約者保護制度の見直しについて」において具体的な方向性が示されなかった事項のうち、生命保険契約者保護制度の見直しに関する一定の事項については、本年2月16日の同部会において更なる審議が行われました。今回の法改正は、同日の同部会において承認された方向性をも併せて踏まえたものとなっています。▲戻る

)共済事業については、自発的な相互扶助を基礎として、共同して社会生活を営む者が将来の危険に対して共同して生活の安定を図るものであり、基本的には保険業法による規制は不要とされてきました。このため、改正前の保険業法においては、特定の者を相手方として保険の引受けを行う事業については適用がないとされていました。また、農業協同組合(JA)等については、他の法律(農業協同組合法等)の規制を受け、主務官庁の監督を受けて事業を行う制度共済と位置付けられます。▲戻る

)「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」(平成10年法律第107号。同年6月15日公布、本件関連部分は同年12月1日施行。)による保険業法の改正。▲戻る

)「保険業法の一部を改正する法律」(平成15年法律第39号。同年5月9日公布、同年6月8日施行。)。▲戻る

)「早期解約控除」とは、保険契約の存続を図り、健全な保険収支のために十分な保険集団の規模を確保することを目的として、保険会社の破綻処理時の契約条件の変更において、破綻後一定期間内に解約(保険集団からの任意脱退)をする保険契約者に支払われる解約返戻金について、保険金等には行われない特別の控除(減額措置)を行うこと(又は当該控除部分)をいいます(改正前の金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第445条第2項参照)。▲戻る

)この改正は、「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」(平成17年3月25日閣議決定)(以下「平成17年3月規制改革計画」といいます。)の「II 16年度重点事項」の「(分野別各論)」 における項目「保険会社の経営破綻時における特別勘定の保全【第162 回国会に法案提出】」に関係するものです。▲戻る

)この改正は、内閣府規制改革・民間開放推進室への社団法人日本損害保険協会からの規制改革要望に関係するものです。▲戻る

)この改正は、「平成17年3月規制改革計画」の「III 措置事項」における項目「複数の保険会社による従属業務子会社等の保有を可能とする収入依存度規制の見直し」に関係するものです。▲戻る

)この改正は、「平成17年3月規制改革計画」の「III 措置事項」における項目「保険議決権大量保有者の「変更報告書」提出事由の簡素化」に関係するものです。▲戻る

10) 保険会社については平成16年9月期より、銀行持株会社については平成10年9月期より(銀行については昭和57年9月期より)、既に中間業務報告書の作成・提出が義務付けられています(保険会社については、「保険業法の一部を改正する法律」(平成15年法律第39号。同年5月9日公布、同年6月8日施行)附則第4条によります)。▲戻る

11) 近年、船舶の事故等が発生した際に、当該船舶の所有者等だけでなく、当該船舶に係る出資者等に対しても、損害賠償責任等の追及が行われる例が見られるようになっています。▲戻る

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