適正なディスクロージャーと厳正な会計監査の確保に向けた対応策について

 金融庁では、平成16年4月から施行された改正公認会計士法によって新たに設置された公認会計士・監査審査会等の関係機関とも連携して公認会計士監査の充実・強化に努めてきました。
 そうした中で、公認会計士をめぐる昨今の非違事例については、改正公認会計士法の施行前の問題ではありますが、監査の信頼性を揺るがしかねない事態が生じているものと認識し、厳正な会計監査を通じた適正なディスクロージャーの確保に向け、追加的にどのような方策を講ずることが適当かつ可能か検討を重ね、本年10月25日に、公認会計士・監査審査会とともに「適正なディスクロージャーと厳正な会計監査の確保に向けた対応策について」を公表しました。
 その中では、具体的に、以下の方策を推進することとしています。


.4大監査法人に対する早急な検査等の実施
 公認会計士・監査審査会は、
 
(a)  4大監査法人に対し、順次、日本公認会計士協会による品質管理レビューの審査及び検査を行う。その際、改善すべきものが認められれば、所要の措置を講じる。
(b)  検査で指摘された事項の改善状況について、各法人に対しフォローアップを行い、1年以内に改善が進捗しない場合には、所要の措置を講じる。
(c)  4大監査法人における監査の品質管理の全般的な実態について公表することにより、会計監査に対する信頼確保に資するよう努めることとしました。


.公認会計士に係るローテーションルールの見直し
 監査人の独立性確保等の観点から、現行継続監査期間7年、インターバル2年となっているローテーションルールについて、4大監査法人の主任会計士においては、今後、継続監査期間5年、インターバル5年へと見直しを図るためのルール整備を日本公認会計士協会に要請することとしました。


.品質管理基準の策定等
 監査の品質管理の強化の観点から、監査の品質管理基準を速やかに策定し、これを受けて各監査法人においては、来年3月までに品質管理システムの整備を行うことを求めることとしました。また、会計監査において、企業や企業環境についての十分な理解に基づき、虚偽の表示が生じるリスクを的確に分析し、リスクの態様に応じた適切な監査手続が選択されていくよう、監査基準を改訂することとしました。なお、10月28日に、企業会計審議会は、改訂監査基準等をとりまとめ公表しています。


.開示企業における財務報告に係る内部統制の整備
 開示企業における財務報告に係る内部統制の有効性に関して、経営者による評価と公認会計士による監査のあり方について、企業会計審議会における基準等の検討作業を加速するとともに、制度面での整備についても検討を進めることとしました。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「適正なディスクロージャーと厳正な会計監査の確保に向けた対応策について(平成17年10月28日)」にアクセスしてください。

保険金等支払管理態勢の再点検及び不払事案に係る再検証の結果について


.報告徴求の概要
 適切な保険金等の支払いを行っていくことは、保険会社として生命保険事業を運営していく上で必要不可欠なものです。しかしながら、今般、明治安田生命において、詐欺無効の規定を不適切に適用し、死亡保険金等を不払いとする不適切な取扱い等の生命保険事業の信頼を損なう事象が発生しました。このような事態を踏まえ、7月26日に、生命保険会社全社に対して、
 
(1)  平成12年度から平成16年度までの間の保険金・給付金(以下「保険金等」)の不払事案について、各年度毎に、法令、当時の募集状況、約款及び事業方法書等に照らし、真に適正であったか否かの再検証の結果
(2)  保険金等支払いに関する重要な事項の決定等についての経営陣の関与の状況等、支払管理態勢の再点検の結果
 について、保険業法に基づき、9月30日を期限として、その結果について報告を求めたところです。


.各社からの報告の取りまとめ結果
 
(1)  不払事案に係る再検証の結果
 不適切な不払件数は、保険金、給付金の何れにおいても、明治安田生命の件数が他の38社合計に比べて突出しています。
 なお、不適切な不払いと判断した事案に係る各社の追加支払額は、明治安田生命が保険金49.4億円、給付金2.6億円、他の38社合計が保険金19.3億円、給付金0.7億円となっています。

【不適切な不払件数】
【不適切な不払件数】

 不払件数に占める不適切な不払いの比率についても、明治安田生命が保険金、給付金とも38社合計に比べて突出しています。

【不払件数に占める不適切な不払いの比率】
【不払件数に占める不適切な不払いの比率】

 不適切な不払いの内容を事由別に見ると、保険金では明治安田生命の詐欺無効・重大事由解除が突出しており、給付金では明治安田生命の重大事由解除が突出しています。
 主な不適切な不払いの事例としては、明治安田生命においては、本人が病名を承知していないものに対して詐欺無効を適用したものや、告知義務違反が解除期間、除斥期間を超過して問えなくなったものへの代替措置として、重大事由解除を適用したものなどがあり、他の38社においては、手術内容を給付非該当のものと誤認して支払事由非該当としたものや、請求事由と不告知事項の因果関係が問えないものへの告知義務違反解除を適用したものなどがあります。
【不適切な不払いの内容:保険金】
【不適切な不払いの内容:保険金】

【不適切な不払いの内容:給付金】
【不適切な不払いの内容:給付金】

 不適切な不払いの年度別推移では、明治安田生命が平成13年度から件数が急増している一方で、38社合計の動向を見ると、概ね50件から100件程度で横ばいとなっています。
【不適切な不払いの年度別推移】
【不適切な不払いの年度別推移】

 不適切な不払いの発生原因について、不払事由区分と組み合わせて分析したところ、明治安田生命では、詐欺無効の不適切な適用や約款等に基づく不払事由を拡大解釈して適用するなど、意図性に基づくものであり、他の38社合計では、事実関係の調査確認不十分、事務的な確認不十分によるものが中心であり、内容面でも相違があることが認められました。

(2)

 支払管理態勢の再点検の結果

 明治安田生命以外の38社から報告された再点検の結果を見ると、不適切な不払事案の発生に直ちにつながるような共通の問題点は認められませんでしたが、以下のような要改善点が認められました。
 
(a)  支払査定基準の改定等に関して、相当数の社において、例えば支払担当役員や部長限りで決定がなされるなど、取締役会等や他部門による検証が十分に行われていない。
(b)  社外の法的専門家や学識経験者等もメンバーに加え、外部による支払査定の適切性をチェックする仕組みを設けている社はない。
(c)  経営陣に当然報告されているべき不払状況について、取締役会等に全く報告がなされていない社が全体の四分の一を超えている。
(d)  支払担当部門への牽制機能に関して重要な役割を果たすべき不払いや苦情への対応について、支払担当部門内部で処理している社が全体の三分の一を超えている。


.当局における今後の対応
 当局としては、今般の報告徴求により把握した問題点を踏まえ、検査・監督を通じて各社における保険金等支払管理態勢の改善・整備を促して参るとともに、保険金等の不適切な不払いという重大な問題を招いた原因の分析結果等を踏まえ、保険会社向けの総合的な監督指針の改訂を含めた何らかの方策を考えていきます。
 なお、10月28日に、生命保険協会に対して、保険金等の不払全般に関する業界自主ガイドラインの策定、苦情・相談対応体制の強化などを含め、迅速かつ適切な保険金等支払管理態勢の確立及び保険契約者等の保護に十全を期するための方策についての検討を、平成18年1月末を期限として求めています。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「保険金等支払管理態勢の再点検及び不払事案に係る再検証の結果について」(平成17年10月28日)をアクセスしてください。

貸出条件緩和債権の規定の見直し及びQ&Aの公表について

 本年10月28日に策定・公表した「主要行等向けの総合的な監督指針」においては、貸出条件緩和債権に関する銀行法施行規則の解釈について、(a)経営再建・支援目的の明確化、(b)基準金利の設定方法等の規定の明確化、(c)その他解釈の明確化を実施し、併せて、当該規定に係る関係者からの質問等をQ&Aのかたちで取りまとめ、「貸出条件緩和債権関係Q&A」として同日公表しました。

 貸出条件緩和債権は、銀行法施行規則で規定されている不良債権(リスク管理債権)の一類型です。同規則第19条の2第1項第5号ロ(4)では、「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金」と定義されています。
 同規定が平成10年12月に施行されたことを受け、11年3月末に「事務ガイドライン第一分冊:預金取扱い金融機関関係」が改正され、貸出条件緩和債権の要件の一つである「債務者に有利となる取決め」の例示として、「金利減免債権」、「金利支払猶予債権」、「元本返済猶予債権」等が定義され、開示基準が明確化されました。
 その後、15年5月、産業再生機構の設立を契機に、企業再生に関わる関係者の予見可能性を高めるため、同ガイドラインの改正が行われ、開示基準の更なる明確化が図られました。具体的には、貸出条件緩和債権の判定・卒業の基準に基準金利を導入するとともに、産業再生機構を始めとした企業再生の関係者が、貸出条件緩和債権からの上方遷移の予見可能性を高めるための規定の整備が行われました。
 当時の改正において、基準金利は「当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利」と定義され、また、「経済合理性に従って設定されるべき」と規定されました。ただ、事務ガイドラインのレベルではその「経済合理性」の解釈を明確に示しておらず、「設定が恣意的でなく、信用リスクに見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できるもの」という考え方が一般的な理解として普及していたため、独自に設定した方法に基づき算出した個々の債権ごとの理論値を基準金利として用い、その金利が「通常適用される新規貸出実行金利」と大幅に乖離したものとなっているケースが一部にみられたところです。

 このように基準が必ずしも明確でなかったことによって発生していた実務上の問題等を踏まえ、今般、「主要行等向けの総合的な監督指針」の策定を機に、基準金利の設定方法の明確化を含む貸出条件緩和債権の規定全般の見直しを行うことし、さらに、そのQ&A(「貸出条件緩和債権関係Q&A」)も公表した次第です。Q&Aでは、今回の改正のポイント、中小・地域金融機関への適用の仕方、改正内容の適用時期や、今回明確化した規定についての運用上の詳細等について説明をしています。
 以下、貸出条件緩和債権の規定の今回の改正内容について概要をご説明します。まず、「(a)経営再建・支援目的の明確化」についてですが、今回の改正では、「債務者の経営再建・支援目的」が無いと認められる場合には、貸出条件緩和債権に該当しないことを明確化しました。そして、Q&Aでは、経営再建・支援目的が無いと認められる事案を例示しています(例えば、当該条件緩和が、他の金融機関との競争上の観点から決定されたものであったり、当初約定時点から決められていたものであったりする場合など)。
 次に、「(b)基準金利の設定方法等の明確化」についてですが、今回の改正では、債務者の信用リスクに応じた適切かつ精緻な区分を設け、区分ごとの新規貸出約定金利を加重平均した「新規貸出約定平均金利」を基準金利とし、ある区分において、「新規貸出約定平均金利」が、信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利(区分ごとの平均的な信用リスク等を反映した理論値)を著しく下回る場合には、当該金利(理論値)を当該区分における基準金利とすることとしました。そして、Q&Aでは、新規貸出約定平均金利や理論値の算出方法等について、詳細な説明をしています。
 最後に、「(c)その他解釈の明確化」についてですが、今回の改正では、個々の貸出条件緩和類型の規定、貸出条件の変更を行っていない貸出金の取扱い、卒業基準、「実現可能性の高い抜本的な計画」の要件等について、見直し・明確化を行いました。そして、Q&Aでは、これらについてより詳細な説明を加えています。

 今回の貸出条件緩和債権の規定の見直し及びQ&Aの公表により、貸出条件緩和債権の規定が明確になるとともに、従来生じていた実務上の問題が解決されることを期待しています。また、今後、今回明確化された規定について実務上の問題が判明すれば、当該規定或いはQ&Aの内容を適宜柔軟に改定していきたいと考えています。
 


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「「貸出条件緩和債権関係Q&A」の公表について」(平成17年10月28日)にアクセスしてください。

平成17事務年度証券会社向け監督方針の公表について

 金融庁では、本年7月15日に策定・公表した「証券会社向け総合的な監督指針」(以下、「監督指針」という。)を踏まえて、「監督に当たっての重点事項を明確化するため」に、去る10月4日に「平成17事務年度証券会社向け監督方針」(以下、「監督方針」という。)を策定・公表しました。本監督方針の概要は、以下のとおりです。
 (注)平成17事務年度:平成17年7月から平成18年6月
 
I.基本的考え方
 

.証券業の現状認識
 平成16年12月に公表された「金融改革プログラム」においては、利用者の満足度が高く、国際的にも高い評価が得られるような金融システムを「民」の力によって実現することを目指すこととされています。このような「金融サービス立国」の実現に向けた改革を通じて、間接金融に偏重している我が国の金融の流れが直接金融や市場型間接金融にシフトし、「貯蓄から投資へ」の流れが加速されることが期待されています。
 証券業を取り巻く状況については、「金融改革プログラム」以前から、金融行政当局が証券市場の仲介者である証券会社の新規参入の容易化や業務の自由化等の環境整備を行ってきたこともあり、
 
(a)  株式売買委託手数料の自由化による収益構造の変化、
(b)  上場投資信託を始めとした各種投資信託や証券化商品の増加に見られるような商品の多様化
(c)  インターネット取引の増加や証券仲介業の開始等に見られる販売チャネルの多様化、
(d)  コングロマリット化の進展、
(e)  いわゆる投資銀行業務(M&A等の助言、証券化関連業務等)や伝統的な証券業務以外の業務(プリンシパル・インベストメント業務等)の増加、といった変化が見られます。
 こうした状況変化の下で、利用者満足度の高い金融システムを実現するためには、証券市場の仲介者・参加者である証券会社が利用者ニーズを重視し、投資者保護を意識した適正な業務運営を行うことが期待されています。


.基本的考え方

 証券業についてのこのような現状認識の下、「監督指針」に基づき、以下の基本的考え方に留意しつつ厳正で実効性のある監督行政を遂行することとしています。
 

(1)

 検査・監視部局との適切な連携の確保
 検査・監視部局との間で適切な連携を図り、実効性の高い証券会社の監督を実現するため、監督部局がオフサイト・モニタリングを通じて把握した問題点を検査・監視部局に還元することとしています。また、検査を通じて把握された問題点については、証券会社による問題点の改善状況をフォローアップし、その是正を促すとともに、必要に応じて、行政処分等の厳正な措置を講じることとしています。

(2)

 証券会社との十分な意思疎通の確保
 監督指針に基づき、証券会社との間での日常的なコミュニケーションの確保に努めるとともに、監督当局からの情報発信として、証券法令解釈事例集の内容の拡充やノーアクションレター、一般的な法令解釈に係る書面照会手続等を通じて証券会社等の法令理解の向上を促すこととしています。
 また、監督指針の内容の周知徹底を図ることとしています。

(3)

 証券会社の自主的な努力の尊重
 監督当局は、証券会社の自己責任原則に則った経営管理、業務運営等を法令等に基づき検証し、問題の改善を促す立場にあることを踏まえ、証券会社の業務運営等に関する自主的な努力を尊重するよう配慮することとしています。

(4)

 効率的・効果的な監督事務の確保
 限られた監督資源を有効に利用する観点から、効率的かつ効果的な監督事務を行う必要があります。
 その際には、自主規制機関については、市場の実情に精通している業者が自らを律していくことにより投資家からの信頼を確保する機能を担っていることを踏まえて、監督当局と自主規制機関の間で連携を密接に行うこととしています。
 コングロマリットの監督に当たっては、関係部局との間で連携を図りつつ、「金融コングロマリット監督指針」を踏まえた適切な監督行政を遂行することとしています。
 また、証券会社の監督を行うに当たっては、特に以下に掲げる事項に重点を置いた適切な監督を行うこととしています。
 
II.重点事項

 本監督方針においては、(a)経営管理の強化、(b)適正な業務運営の確保、(c)財務の健全性の確保の3つの分野における監督上の重点事項を明確化した上で、それぞれの事項について、ヒアリング等を通じて、証券会社の取組みを検証するとともに、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。
 


.経営管理の強化
 
(1)  経営者の法令等遵守意識の向上
 証券会社の適正な業務運営を確保するためには、第一に法令等の遵守の徹底が求められるところであり、そのためには、経営者が率先して法令等遵守態勢の整備に取り組む必要があります。
 しかしながら、最近の行政処分の事例によれば、経営者自身による法令違反への関与、経営者の独断専行に対する取締役会の不十分な牽制、経営者の法令等遵守態勢の整備への不十分な関与が散見されます。
 こうした状況を踏まえ、行政処分後の改善状況のフォローアップ及び総合的なヒアリング等を通じて経営者の法令等遵守意識の向上や法令等遵守態勢の整備に向けた経営者の取組み状況を重点的に検証することとしています(法令等遵守態勢・内部管理体制についての個別の重点項目については、「 2.適正な業務運営の確保」参照)。

(2)

 リスク管理部門及び内部監査部門の強化
 経営者が社内で法令等の遵守を徹底し、あるいは、リスクを適切に管理する上で、リスク管理部門及び内部監査部門が果たすべき役割は大きいものと考えられます。特に、業務が大規模又は複雑になるほど経営者の目が十分に行き届かなくなるおそれがあることから、これらの部門の重要性は増してくると考えられます。
 こうした認識に基づき、総合的なヒアリング等において、経営者が、これらの部門の重要性を適切に認識した上で実効的な体制を構築しているかを重点的に検証することとしています。
 具体的には、システムリスクや役職員が事故・不正等を起こすことにより証券会社が損失を被る事務リスクを含めたリスクについて、リスク管理の方針等が適切に策定され、それに基づき実効性のあるリスク管理を行うためのリスク管理部門が構築・運用されているか検証することとしています。
 また、内部監査部門については、内部監査報告書等に基づく内部監査の実施状況についてのヒアリング等を通じて、内部監査体制が実効性のあるものになっているか、特に、法令等遵守態勢及びリスク管理態勢の実効性についての同部門による検証が適切になされているかどうか検証することとしています。

(3)

 金融コングロマリットの経営管理についての対応
 証券会社が金融コングロマリットに属する場合は、「金融コングロマリット監督指針」を踏まえ、当該金融コングロマリットの経営管理会社による管理の実効性及び経営管理会社と証券会社の連携関係について検証することとしています。
 なお、金融コングロマリットにおいて、グループ全体で経営管理会社により直接ビジネスラインごとの管理が行われている場合であっても、当該金融コングロマリット内の証券会社の経営者は、自社の各ビジネスラインの業務を的確に把握し、適切な管理を行う必要があります。


.適正な業務運営の確保
 
(1)  利用者本位の業務運営のための態勢の整備
 
(a)  説明・勧誘態勢の確立
 近年、個人投資家等向けの商品としてデリバティブを組み込んだ投資信託や仕組み債が増加しているなど投資商品が多様化する一方、販売チャネルについても登録金融機関や証券仲介業者への拡大が見られるところです。こうした状況下で、投資家層の裾野を広げ「貯蓄から投資へ」の流れを着実に加速させるためには、証券会社は、顧客の知識、経験、財産の状況及び投資性向を踏まえた上で、適切な勧誘・説明を行う態勢を確立する必要があります。
 最近の行政処分の事例等においては、複雑な商品についてリスク特性の説明が不適切であったり、投資信託の乗換え勧誘時に、乗換え手数料等の重要事項の説明がない等の例が見受けられます。
 こうした現状を踏まえ、ヒアリング等を通じて、どのような法令等遵守態勢の下で、顧客属性、顧客の理解力等に照らしてどのような説明・勧誘を行っているのかについて、実際に証券会社が取扱う商品・サービスに則して検証し、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。

(b)

 相談・苦情への適切な対応
 証券会社が利用者からの相談・苦情に対して真摯に対応することは、利用者保護上重要な活動の一つであり、「金融改革プログラム」においても利用者の目線に立った金融機関の相談・苦情処理体制の整備が求められているところです。このため、証券会社が顧客からの相談・苦情に対して誠実かつ適切に対応する体制を整備しているか検証することとしています。

(c)

 顧客情報の管理態勢の確立
 個人情報の保護に関する法律等が施行された本年4月以降においても、個人情報の紛失等の事実が発生していることを踏まえ、顧客情報の漏えい、滅失又はき損の防止を図るための管理態勢の構築を改めて促すとともに、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。

(d)

 分別保管の徹底
 顧客が安心して証券取引を行うことを可能にするためには、証券会社による顧客資産の分別保管の徹底が不可欠です。証券会社においては、分別保管制度の正確な理解に基づき、顧客資産残高の正確な把握とそれに見合う適切な分別保管がなされる体制を自ら構築する必要があります。こうした認識の下、問題があると認められる場合には、速やかに是正を求めるとともに、必要に応じて監督上の厳正な対応を行うこととしています。

(2)

 法令等遵守態勢・適正な内部管理体制の整備
 
(a)  いわゆる投資銀行業務等に係る法令等の遵守の確保
 昨今の新規公開及び企業再編・買収の増加に伴い、証券会社が新規公開及び企業再編・買収の助言並びにそれに伴う多様な資金調達のアレンジ等の業務を行う機会が増加しています。また、証券化商品の組成に関連する業務も増加しており、これらの業務における法令等の遵守を確保することの重要性はますます高まっています。
 このため、ヒアリング等を通じて、過去の引受け等の事例に基づき(a)引受け業務に関して、証券会社は公正な市場を形成するためのゲートキーパーとして、株主間の公平性の確保の観点も含めた適切な引受け審査態勢を整備しているか、(b)募集・売出しの取扱いにおいて、証券会社が投資者への配分に関して公表している基本方針に従って適切に配分する態勢を確立しているか、(c)証券会社は、チャイニーズ・ウォールを整備し、法人関係情報の管理を徹底する態勢を構築しているか、(d)証券会社の業務が伝統的な証券業務以外の業務に多様化する中、証券会社が広範囲の業務の間での利益相反の防止を適切に行っているか等について検証し、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。
 なお、上記(d)の利益相反の防止については、証券会社グループがプリンシパル・インベストメント業務を行っている場合に一層重要となることに留意します。

(b)

 売買管理・審査態勢の構築
 証券市場において公正な価格形成が行われるためには、市場仲介者たる証券会社がルールに則った適正な売買が行われるための売買管理・審査態勢を構築する必要があります。
 しかしながら、最近の行政処分の事例等によれば、(a)顧客の注文が作為的相場形成に該当することを知りながら当該注文を受託する例、(b)自己売買に特化する証券会社が自ら作為的相場形成を行う例が見受けられます。
 また、近年のインターネット取引の増加に伴い、電子的に受託する売買注文の適正な管理態勢の構築が大きな課題となっています。このため、平成15年には証券会社の売買管理が十分ではないと認められる状況が法令違反に追加された他、現在、金融庁からの要請を受けて、各証券取引所と日本証券業協会のワーキンググループにおいて、インターネット取引の売買管理・審査態勢についての検討が行われています。
 こうした現状を踏まえ、証券会社の売買管理・審査態勢について検証し、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。

(c)

 最良執行義務の導入
 証券会社に対しては、平成16年の証券取引法改正により最良執行義務が導入されたところです。最良執行方針等の作成、公表、執行、交付及び最良執行説明書の交付等を適正に行っているか検証するとともに、問題があると認められる場合には、監督上の厳正な対応を行うこととしています。

(d)

 システム管理態勢の適切性の確保
 証券会社の情報伝達システムが高度化・複雑化し、インターネット取引等の電子的システムを利用した取引が増加するなかで、コンピュータシステムのダウン、誤作動等のシステム障害発生が顧客に与える影響が大きくなっています。このため、証券会社のシステム管理態勢について、ヒアリング等を通じて重点的に検証を行うこととしています。また、システム障害が発生した場合の対応やシステム管理態勢について問題が認められる場合には監督上の厳正な対応を行うこととしています。
 さらに、合併等に伴うシステム統合やシステムに大きな負担がかかることが想定される新サービスの提供等によりシステム障害の発生が懸念される場合には、システム統合等に向けたスケジュール及び進捗状況について、的確に把握することとしています。


.財務の健全性の確保

 自己資本規制は、証券会社が財務の健全性を維持しつつ業務を行う上で極めて重要な規制であることから、仮に自己資本規制比率が法令に定める水準を下回った場合や自己資本規制比率の算出方法を誤っていた場合には、速やかに改善を求めるとともに、自己資本規制比率の変動が大きい証券会社についても適切な対応が検討されているかについて、ヒアリング等を通じて適切にモニタリングを行うこととしています。
 プリンシパル・インベストメント業務を拡大している証券会社グループについては、同グループ全体のリスク管理態勢を検証し、証券会社の財務の健全性に与える影響を的確に把握することとしています。
 国際的に活動する証券会社グループについては、金融コングロマリット監督指針を踏まえつつ、グループ全体でリスクに見合う適正な自己資本が確保されているかについて決算ヒアリング等を通じて検証することとしています。


.登録金融機関と証券仲介業者に対する監督

 近年、登録金融機関及び証券仲介業者を通じたチャネルの拡大が急速に進んでいます。登録金融機関及び証券仲介業者に対する監督においては、各業態の特性に配慮しつつ、上記1.〜3.の重点事項を踏まえた監督を行うこととしています。
 その際、特に、登録金融機関については、銀行業等の他の業務と証券業務の利益相反の防止等について適正な法令遵守態勢・内部管理体制の構築が求められることに留意することとしています。
 また、証券仲介業者の所属証券会社が当該証券仲介業者の業務内容や勧誘態勢等を適切に把握する態勢がとれているかについても検証することとしています。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「「平成17事務年度証券会社向け監督方針」の公表について」(平成17年10月4日)にアクセスして下さい。

地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17年〜18年度)に基づく地域密着型金融推進計画の概要について


.はじめに

 中小・地域金融機関(地銀・第二地銀・信金・信組)は、本年3月に金融庁が公表した「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」(以下「新アクションプログラム」という。)に基づき、地域密着型金融(リレーションシップバンキング)の一層の推進を図るため、18年度までの「重点強化期間」における(a)事業再生・中小企業金融の円滑化、(b)経営力の強化、(c)地域の利用者の利便性向上、に向けた取組みについて、「地域密着型金融推進計画」(以下「推進計画」という。)を策定・公表するとともに、8月末までにその内容を当局に提出しました。
 金融庁は、去る10月26日、提出された推進計画について、その概要を取りまとめ、公表しました。


.推進計画の概要

 推進計画の策定・公表に当たっては、新アクションプログラムにおいて、各金融機関は、地域の特性等を踏まえた個性的な計画を策定した上で、その実施に当たっても、自主的な経営判断により、地域の特性や利用者ニーズ等を踏まえた「選択と集中」を通じてビジネスモデルを鮮明にし、自己責任と健全な競争の下、これを推進することを要請しています。
 今回、推進計画を策定・公表したのは585金融機関(地方銀行65行、第二地方銀行48行、信用金庫297金庫、信用組合175組合)ですが、それぞれが過去2年間の取組みや地域の特性や利用者ニーズ等を反映した多様な推進計画を策定、また公表方法にも工夫がみられました。
 

(1)

 金融機関の特色ある取組み事例等
 各金融機関の推進計画においては、以下のような特色ある事例等がみられました。
 この中でも、「創業・新事業支援機能等の強化」、「取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化」、「地域の利用者の利便性向上」に関しては、特色ある取組みが比較的多くみられます。これは各金融機関が自らの所在する地域の特性や利用者ニーズ等を踏まえて、ビジネスモデルを構築しようとする意欲の具体的な現われではないかと考えられます。
 他方、例えば、「事業再生に向けた積極的取組み」等に関しては、各地域共通の手法を挙げている計画が多く、その文面からは地域経済との具体的なかかわりがなかなか伝わってきませんが、個々のケースにおいては、各地域の産業構造等を踏まえつつ、地域のネットワークを通じて取組みがなされている例も多いものと思われます。
 
I「事業再生・中小企業金融の円滑化」に関する特色ある取組み事例
 

(a)  創業・新事業支援機能等の強化
 
 地元大学と共同で「特許公開プラザ」を開催し、大学の持つ特許を一般企業に個別に紹介する。また、支店長クラスの行員100名を地元大学の産学連携協力員として養成し、知的財産の橋渡しを行う。
 県内総生産に占める割合が高い、アグリビジネス(農業及びその関連産業)や医療・介護事業への取組みを強化する。

(b)  取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化
 
 県内情報にとどまらず、九州地区等からの情報を広く収集し、取引先のビジネスマッチング、M&A等の経営支援を図るため、第二地方銀行8行で創設した情報ネットワークを積極的に活用する。
 国際ビジネス支援業務として、中国において現地法人を設立する際のコンサルティング業務を商品化する。また、上海において同地に駐在員事務所を構える銀行が共同でビジネス商談会を開催する。

(c)  事業再生に向けた積極的取組み
 
 経営不振に陥っている複数の温泉旅館を、地域再生ファンドを活用して設立する新会社に経営統合し、実績のあるターンアラウンドマネージャーを招へいし、短期間に企業価値を高め、地元企業への売却を目指すことにより、温泉街全体(面)の再生に取り組む。
 府内の地域金融機関等で構成する「企業再生担当者会議」等にて情報交換、再生ノウハウの共有化を進める。

(d)  担保・保証に過度に依存しない融資の推進等
 
 地元の地方銀行を幹事行とする全国版CLO構想を発表し、今後、全国の地方銀行において取組みが可能となるスキームを構築し、証券化を実施する。
 不動産担保・保証にかわる事業価値に着目した知的財産権担保融資、動産・債権譲渡担保融資等の導入を推進する。
 
 
II「経営力の強化」に関する代表的な取組み事例
 

(a)  リスク管理態勢の充実
 
 自己資本比率の算出方法の精緻化やリスク管理の高度化のための態勢整備に向けた取組みを進める。

(b)  法令等遵守態勢の強化
 
 顧客情報の管理徹底に向けた取組みを強化する。

(c)  ITの戦略的活用
 
 インターネットバンキングの機能拡充やICキャッシュカードを導入する。
 
 
III「地域の利用者の利便性向上」に関する特色ある取組み事例
 地域の利用者の利便性向上
 
 信用金庫の理事長・役職員が地域の小中学校を訪問し、金融の仕組みや地域金融機関とは何かを分かりやすく講義することにより、地域における信用金庫の存在意義を示しながら、地域活性化への取組みを推進する。
 環境・防災関連商品の提供を通じ、顧客と環境に対する配慮や防災意識を共有化する。
 代表的な地場産業である瓦の利用を促進するために、この瓦を利用した住宅を対象とした低利融資商品を推進する。

 「地域密着型金融推進計画」の概要及び具体的取組み事例については、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「『地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)』に基づく『地域密着型金融推進計画』の概要について」(平成17年10月26日)にアクセスし、PDF『「地域密着型金融推進計画」の概要について』PDF『「地域密着型金融推進計画」に記載された具体的な取組み事例(別添1)』を参照してください。

(2)

 数値目標を設定した取組み

 新アクションプログラムにおいては、推進計画の策定に当たり、目指すべき姿が地域の利用者に十分理解されるよう、自らの経営判断の下で、可能な限り、数値的な目標を含む、具体的かつ分かりやすい目標を盛り込むよう努めることを要請していたところです。
 これを踏まえ、各金融機関の推進計画においては、各種の経営指標に加え、取引先企業に対する経営改善支援やそれによるランクアップ、ベンチャー等の創業・新事業支援といった、新旧の借り手への一段踏み込んだ支援や、「目利き能力向上」のための足元の人材育成、といった個々の分野での取組み強化について、相当数の金融機関があえて自主的に数値目標を掲げ、改善を図ろうとしていることは注目に値するものと考えられます。
 「地域密着型金融推進計画」に掲げられた数値目標の主な事例については、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「『地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)』に基づく『地域密着型金融推進計画』の概要について」(平成17年10月26日)にアクセスしPDF『「地域密着型金融推進計画」に掲げられた数値目標の主な事例(別添2)』を参照してください。

(3)

 全体的な評価等

 以上のような各金融機関の推進計画について、全体としてみると、地域密着型金融の本質(注1)や地域の特性・利用者ニーズに応じた「選択と集中」を踏まえつつ、旧アクションプログラム(注2)における集中改善期間(15〜16年度)の成果の上に、それなりのメリハリを持った取組み、目標設定を行っているものと評価しています。
 

(注1)

金融機関が、長期的な取引関係により得られた情報を活用し、対面交渉を含む質の高いコミュ二ケーションを通じて融資先企業の経営状況等を的確に把握し、これにより中小企業等への金融仲介機能を強化するとともに、金融機関自身の収益向上を図ること。

(注2)

リレーションシップバンキングの機能強化の推進に関するアクションプログラム」(15年3月28日金融庁)


 金融庁としては、各金融機関が、自ら推進計画に盛り込んだ各種の取組みを着実に推進していくことにより地域密着型金融の一層の推進を図り、地域経済の再生・活性化、中小企業金融の円滑化、金融機関の経営力の強化を図るとともに、地域の利用者からの十分な信認が得られることを期待しています。
 なお、金融庁としては、今後、地域密着型金融の機能強化を確実に図るため、半期毎に推進計画の進捗状況についてフォローアップを行っていくこととしています。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「『地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)』に基づく『地域密着型金融推進計画』の概要について」(平成17年10月26日)にアクセスして下さい。

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