お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム(千葉)パネルディスカッション・セッション1「金融経済教育の必要性を考える」
 
 前号に引き続き、金融庁、関東財務局、千葉県の共催により開催した「お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム〜お金活き活き、まち活き活き〜」について掲載します。
 今回は、パネルディスカッションのセッション1「金融経済教育の必要性を考える」の模様をご紹介します。


(司会) それでは、これよりパネルディスカッションに移ります。 本日ご出演を賜ります方々のプロフィールを私の方からご紹介させていただきます。
  まず、最初に、このパネルディスカッションのコーディネーターをお願いいたしました、シンクタンク・ソフィアバンク副代表の 藤沢久美 ふじさわくみさんです。藤沢さんは、96年、日本初の投資信託評価会社アイフィスを設立。2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画され、現在は副代表として、各地での講演やテレビ、ラジオ、雑誌などのメディアで幅広く活動をされております。
 続きまして、FPアソシエイツ&コンサルティング株式会社代表取締役の神戸孝かんべたかしさんです。神戸さんは、三菱銀行、日興證券を経て、99年より現在の会社の代表取締役としてご活躍されています。資産運用に強いファイナンシャルプランナーとして評価が高く、相談業務を行う傍ら、独立系ファイナルシャルプランナーのための支援も手掛けていらっしゃいます。
 続きまして、千葉大学法経学部教授の中原秀登なかはらひでとさんです。中原さんは、山形大学講師、千葉大学法経学部助教授を経て、2000年より現在の千葉大学法経学部の教授としてご活躍されています。また、千葉県経済活性化会議委員や千葉県事業可能性評価委員会委員などの活動を通して、県内のベンチャーや中小企業の活性化に携わっておられます。
 続きまして、ビジョナリー・エクスプレス株式会社代表取締役社長の板庇明いたびさしあけるさんです。板庇さんは、95年に株式会社シー・イー・エスを設立。2005年に社名をビジョナリー・エクスプレス株式会社に変更され、従来の子供から社会人向けの能力開発プログラムの開発・販売に加え、コーポレート・コミュニケーション支援事業にも携わっておられます。

 〜楠本くに代くすもとくによ氏(金融消費者問題研究所代表)より「金融消費者教育の視点と課題」、河井惠子かわいけいこ氏(千葉市生活デザイン研究会会長)より「楽しい金融学習」と題して発表いただいた後、両氏を交えて次のとおりパネルディスカッションが行われました。〜
(藤沢) それでは楠本さんと河井さんにもご参加いただきまして、早速パネルディスカッションに入っていきたいと思います。 さて、なぜ、金融経済教育の必要性が高まってきたのか。これは今楠本先生からもお話しいただいたのですが、改めてパネリストの神戸さん、日頃資産運用のアドバイス、相談を受けていらっしゃると思うのですが、必要性というのは感じられますか。
(神戸) これまでは金融の部分というのは、非常に規制が厳しく個人に責任がかかってくる部分が非常に少なかったと思います。社会全体が、これまで結果として「公平な社会」であり、同じことをしていれば大体同じ結果が得られたというのがあったと思うのですが、段々変化して、「公平な社会」から「公正な社会」への転換というのが今、進んでいると思います。
 公正というのは何かというと、機会は均等だけれども、結果はばらばらだということです。事前規制型から事後チェック型に段々規制緩和が進むにつれて、自分が何を選択したか、あるいは自分が何を行ったかということによって、結果がばらばらになってしまうのですね。そうなってくると、意思決定の前提となる教育・知識というものがまさに自分の生活に関わってきますから、金融経済教育の必要性というのはどんどん高まってきていると思います。
 いわゆる「貯蓄から投資へ」ということが意味するものを考えていただいてもお分かり頂けると思うのですが、預貯金とか保険というのは、一般的には結果が平等な金融商品です。同じ所で買えば同じ利息なり、同じ配当金が得られます。それが、今後主流になっていく金融商品というのは、例えば株であれば、同じ銘柄でもいつ買っていつ売るかによって、結果はばらばらですよね。そういうタイプの商品が中心になってくる中、教育とか知識というのはたいへん重要になってくると思います。

(藤沢) なるほど。ありがとうございます。今のお話を伺うと、何を選択したかということで大きく差が出るというお話でしたけど、考えてみれば人生って、もともとみんな選択をして生きてきているので、結果は人によって様々ですね。しかし、人生じゃなくてお金や金融商品ということになると、別のものとして考えてしまうというところもあります。 さあ、それでは中原先生にも伺ってみたいと思いますが、先生はどちらかというと中小企業の方々の支援をされていますので、個人的な感覚として、こういう経済や金融の教育について、ご自分の経験から、どのようにお感じでいらっしゃいますか。
(中原) 僣越ながら、私も一応教育を行う立場にあります。金融経済教育ということでありますが、実際その中身は後でお話があるかもしれませんが、簡単そうで意外とそうではないと思います。例えば、誰だってお金を見て知っています。お金で物が買えるということは、わざわざ教えないでも誰だって知っています。しかし、物を買うのになぜお金が必要なのか、或いはお金の意義についてはそうではありません。
 一方、我々大学では、どういうことを教えているのかと言いますと、このペットボトルの水がなぜ100円の値段がついているのかというのを教えるわけですね。これを欲しがっている人と、これを提供する企業の両者の合意のもとではじめて、100円という値段が決まりますよということを、我々大学では教えているわけですよ。なぜこうした値段がつくのかということを、知っている方は知っているかもしれませんけれども、大学でも改めて理論的に教えているということです。
 つきましては、この金融経済という教育に関して、これから金融経済教育というのが必要になってくるというのは、神戸先生もお話になられたように、もう皆様方も重々承知だと思いますが、それでは教育の中身をどうするかというのは、今現場サイドの我々にとっても大きな課題となっています。
 実際に大学に入れば、物の値段といった初歩のことから、更に詳しい金融のゲーム理論的な講義もありますが、どういう内容を教えていったらいいのかというのが、金融経済教育の大きな課題であり、内容自体がこれから問われてくる時代になってきたなと考えています。
(藤沢) はい。ありがとうございます。大変鋭いご指摘ですね。金融庁と一緒に、金融経済教育をどうやっていくかという議論をさせていただいたりもするのですが、やはり何をお伝えすればいいのか、どこから始めたらいいのかというのは、本当に難しいところだと思います。皆さんもご家庭の中でお子さんたちに少し金融のことについて、お金のことについて教えようと思っても、どこから何を始めていったらいいかお悩みの方も多いと思います。さあ板庇さん、実際にお子さんたちに色々な教育をされているわけですが、何から、どう教えていったらいいとお考えですか。
(板庇) 実際私どもは、5歳の幼児から起業教育というのを実践しております。自社でやっておりますのは、元々はすべてイギリスのプログラムです。
 それで最初に5歳の子に、「あなたは誰ですか?」という質問をします。まず自己認識、アイデンティティーをはっきりさせる。次に、「家族は誰ですか?」と家族、周りの人々というところに入っていきます。「その中であなたはいったいどんな存在ですか?」というような、ちょっと難しそうですけれども、5歳にも分かるような質問をし、そうやってスタートをしていくわけです。
 そうやって、まず自立心というのを身につけまして、その後、大きくなっていくにしたがって、どうしても「経済」ということを知らなければ世の中で生きていけないので、経済について学び始めます。経済のイロハは7歳ぐらいからはじめますが、子供に分かるように教えていきます。
 それで、経済とか職業を学ぶのですが、その先に今度は金融ということがありまして、「お金とは何か?」というようなことを分からないといけないということを教えます。お金というものが世の中を回っているというようなことを教えまして、その次に金利ということを教えます。すべてのお金には金利がつくということですね。金利を上回った商売をしないと、返済できないわけですから、常に金利というものが、隅々にまでかかわってくるというようなことをやっています。
(藤沢) はい。ずいぶん難しいことから、最初は哲学からですね。でも確かに、自分のことが分からないと、なかなかどう生きていきたいかということにも考えが及びませんね。神戸さん、資産運用のアドバイスなんかをされると、やはりどう生きていきたいかというのがないとお金の話までいかないものですよね。
(神戸) そうですね。実際に我々は資産運用・管理のご相談をさせていただいているわけですけど、以前の日本ですとやはり、もっと儲けたいとか、増やしたいという方が投資の相談をされたと思います。しかし、私どもの所にお見えになるお客さんというのは、そういう方は少なくて、むしろしっかり管理したい、守っていきたいという方が大半です。まあそれだけ日本人が豊かになってきたからだと思うのですが、そういう方が多いわけですね。
 そうすると、やはりお金というのは目的ではなくて手段でありまして、何のために、何をするために、いくらかかるの? というところがないといけません。我々はそのゴールにご案内するのが仕事なのですが、ゴールがないとご案内のしようがありません。ですから実際、お金の運用の相談と言いながらも、客観的に見て半分くらい、場合によっては、半分以上のこともありますが、このゴールの設定、つまり、何をしたいのか、どういう活がハッピーな状態なのか、というところを確認するのに時間を費やしています。

(藤沢)

 なるほどそうですよね。実際にゴールの設定が重要ですよね。楠本先生にも伺ってみたいのですが、実際にお勉強を教えられる時には、どのようなご注意をされながら、どのようなところから始められますか。
(楠本) 金融教育で一番難しいことは、対象が非常に多様であるということだと思います。私は対象を2つに分けてアプローチを考えなければいけないのではないかと、いつも思っています。
 1つはやはり学生ですね。今、仰ったように、5歳、10歳から大学生、そういう人たちです。こういう人たちは、自分のお金を将来どういうふうに積み上げて、どういう人生を作っていけばいいのかというようなことを学ぶ必要があります。今、仰ったように、「あなたは誰?」というようなことから、自立心、経済、金融について、段階を踏んで、ロジカルに教えていかなければいけないだろうと思います。学校教育に消費者教育を採り入れるということは、将来のすべての消費者に平等に公平に教育を与えるということで、これが一番効果のある、大切なことだと思います。
 2つは、貯蓄から投資、こういう政策の流れの中で、本当に今まで貯蓄しか知らなかった方が、投資を考えなければならない事態に追い込まれており、こうした方々に教育を行わなければならないと考えています。こういう方々は、本当に投資というものをご存じない。そしてうまいことを言われると、それについて全く疑いの目を持たずに、信じてしまわれる。そこで先程副大臣が仰ったような、色々な被害が金融市場で生じてきているわけです。
 このような方々には、やはり視点を変えて、今何が問題になっている、どういう被害がある、そして、そういう被害を避けるためには、基本的にこういう商品にはこういうリスクがある、こういうリスクをしっかり理解してからでなければ、金融市場に出てはいけない、というスタンスで情報を提供していかなければならない。これは非常に緊急避難的な問題だと思います。私は、このように、対象により異なる2つのアプローチが必要だと思います。
(藤沢) なるほど。ありがとうございます。大変すっきりと整理していただいて、議論も次に展開をしやすくなってまいりました。学生さんや子供たちを対象とする場合は、そういう哲学のところから始めなければいけないけれども、実際に大人は確かに仰る通り、道具としてのお金をもう既に使っているわけですから、やはり問題から入っていくというのは仰る通りだなと思います。
 それでは、今、この2つに分けてお話をいただきましたので、まずはその学生、子供たちに対してはどういうふうに教育をしていったらいいのか、学校教育の必要性ということもあったと思いますが、板庇さんに聞いてみましょう。
 実際に板庇さんが今やっていらっしゃる教育も、実は学校がやってもいいのかもしれないと思うのですが、このあたり、学校教育ではやはりできないのでしょうか。民間でやったほうがいいのか、学校でもできるのか、どうお考えになりますか。
(板庇) やはり一番いいのは、学校の正規の教科として入れるのがいいと思います。イギリスのように、週に1時間、1コマですね。金融経済教育なり、どういう呼び名になるかは別ですが。全国津々浦々、小学校に音楽の時間が1週間に1コマあるわけですから、同じウエートで入れていくべきだと、イギリスのようにやっていくべきだというのがゴールです。私どもが今民間でやっておりますのは、学校が導入しないからです。
 日本人は、これまで金融経済教育を子供の時に受けておらず、受けた人も本当にごくごくわずか、しかも家庭で受けているだけであり、これが金融経済教育の浸透の壁となっていると思います。しかし、学校は子供たちに、将来の実社会で強く生きていく材料を提供すべき所だと思いますので、やはり将来生きていくにあたって、必ず関わっていく金融経済教育を早く導入してほしいと思います。
(藤沢) ありがとうございます。ちょうど櫻田副大臣もいらっしゃっていますので、学校教育は是非宜しくお願いしますと申し上げたいと思います。学校教育で採り入れる時に1つ問題になるなと思うのは、そもそも先生方がその知識があるのだろうかということです。そういう教育を受けてきた人間が日本にはほとんどいないわけですけれども、中原先生、なんか失礼な質問になってしまいますけど、やはり先生自身のこういう教育というのは必要ですよね。
(中原) 実際、小中学校の義務教育ではどういうことを教えなければいけないかという、共通のカリキュラム的な縛りもあり、なかなか難しいかもしれません。我々のような大学ではそういう縛りはありませんので、ある程度自由なテーマで考えさせることもできますが。
 また、お金とは何かということを小学校の時に教えてくださいといっても、お金が何なのかが明確に定義されていないと、何を教えていいのかがわかりません。
 更に、アメリカとか海外では、実践を通して学んでいこうという考え方がありますが、1つ注意していただきたいのは、起業家教育とキャリア教育を区別していただきたいということです。日本ではビジネスを自ら起こすという意識をもった方が少ないため、小さい時から起業家教育をやっていこうという考え方があります。しかし、例えばよく小さい時に「将来あなたは何になりたいの?」と尋ねたら、「花屋さんになりたい」、或いは「ケーキ屋さんになりたい」と答えますが、この「花屋さんになりたい」、或いは「ケーキ屋さんになりたい」というのと、起業家というのは違います。この花屋さんというのは1つの職業なので、そのための教育がキャリア教育です。それに対して、起業家として実際に企業を起こすために必要な法的なことやお金を集めることなど、色々なことを教育していくことが起業家教育なのです。これらを小さい時から実践的に学んでいこうというのは、なかなか困難なことではないのかなと思います。実際の起業家教育と、通常の金融経済、或いはそれら基本的な知識の教育を、学校でどういう形で区別して教えていくのかというのも課題だと思っています。
(藤沢) そうなのです。まさに仰る通り、この金融経済教育の中には、先程の哲学の「私は誰?」という考え方もありますし、起業という意味では会社を起こすというのもあるでしょうし、金融市場の仕組みということもあるでしょうし、働くということもやはりお金の教育の中に入ってくるでしょうし、非常に幅が広いので、これをどう整理していくかというのは大きな課題だと思います。おそらく板庇さんの所では、こういう整理をされた教育をされていると思うのですが、是非時間があったらご披露いただきたいと思います。
 さて、学校教育にできれば入れてほしいという話がありました。金融経済教育懇談会の時にも、お金というのは道具であるので、色々な教科の中にお金の話を組み入れていけるのではないかという話がありました。神戸さんいかがでしょうか。
(神戸) そうですね。例えばアメリカの学校教育でも、小学生の算数の時間で「比」の勉強をする際に取り入れているそうです。教材の中に、「サラ金(アメリカではシャークローンという。)から年利20数%でお金を借りると5年間でいくら金利を払うでしょうか?」という問題があるわけですね。それで実際にその金利の金額を計算すると、それは大変だということに気づきます。「こんなローンを皆さん借りますか?」というと、子供は「ノー」と言う。そういう自然な形で教科の中に組み込まれていると効果があると思います。
(藤沢) ご家庭でお子さんに算数を教えてあげる時にも、お金の金利の計算なども入れながら、教えていただくことができればと思うのですが。
(神戸) そうですね。私は、お金の教育は多分3段階ぐらいに分けて考えることができるという気がしています。こずかい帳をつけるなどの金銭教育と言われている部分、そしてそれから今貯蓄から投資へと言われている、投資教育という部分と、その間をつなぐ部分で、マネー教育とでも呼ぶべき分野があると思います。いわゆるライフプランニングやリスクマネジメントなどの効能としては、マイナスを防ぐための知識ですね。プラスを生むための知識、教育というのと、マイナスを防ぐための知識・教育というのがあると思うのですが、やはり義務教育レベルでやるのは、マイナスをきちんと防ぐための知識をしっかり身につけていただくことかと思います。投資教育となると、勝ち組と負け組にどうしても分かれてしまうみたいなところもあり、学校教育にどこまで馴染むかという側面もありますので、そこを区別しながらやっていく必要があると思います。
 先程、楠本さんのお話の中で、毎月分配型ファンドでいくら売る側が説明してもお客様は聞きたいことだけを聞いているというお話がありましたが、そうならないためにも、一番基本となるセオリーや分からない場合には自己過信しないでセカンドオピニオンを確認すべきことなどを知っておく必要があると思います。櫻田副大臣が5つのポイントの中で仰っておられましたけれど、そういうセオリーを身につけさせるということぐらいまでは、学校教育できちんとやっておくべきではないかと思います。

(藤沢) なるほど。ありがとうございます。お金の教育を今、神戸さんが見事にまとめてくださいました。金銭教育とマネー教育と投資教育ですね。子供も必要なのですが、特に大人はマネー教育と投資教育の所が大事で、河井さんのご発表いただいた話の中で、トラブルの話、スキミングの話、これはまさにマネー教育のトラブルの所だと思います。河井さん、投資教育のあたりはいかがですか。実際に勉強会をされていて、こういうトラブル系のもの、投資にもトラブルに関わるものは毎月分配金みたいにあるのですけれども、積極的に資産を投資に向けていこうという場合はどんな勉強をされていますか。また、ニーズはありますか。

(河井) 儲ける方の勉強はしておりません。実際の仕事では、苦情として、逆に、適合性の原則と言われますが、ふさわしくない方、全然その知識がない方、適合性がない方を勧誘するといった例をよく知っていますので、とにかく石橋を叩いて渡るということを勉強しています。今後は、より積極的なプラスの方の勉強もできたらとは思っております。
 それから、先程哲学という話がありました。ライブドアとかこのところ不祥事が多いですが、結局哲学がないことが原因ではないかと思います。昔だったら道徳としてそんなことしないのは当たり前と思っていることが、今の若い人たちは、とにかく見つからなければ、捕まらなければ、何をしてもいいという風潮があるように私には思えます。そういう意味で、道徳みたいな、哲学を含んだ教育が必要ではないかなと思っております。
(藤沢) ありがとうございます。仰る通りですね。先程の神戸さんのお話でもありましたけれども、お金は手段であり道具です。ということは、道徳がなければ、道具の使い方を間違ってしまいますから、刃物と同じになってしまいます。
 また、「投資は危ないから橋を叩きながら」という話がありましたが、私もこれが大切だと思います。楠本先生はいかがでしょうか。こういう投資ということに関しますと、教育をどのように考えていらっしゃいますか。
(楠本) 教育にも色々な段階があると思います。余り投資に詳しくない高齢者等の教育ということでお話しますけれども、そういう方々に対してはまず、今後、自分が生きている間、例えば80とか90までの間に、どれぐらいお金がかかるかを考えていただきます。それから、今持っているお金、これから入ってくるお金(主として年金)の全体を見ていただいて、それをライフ資金と準備資金と利殖資金の3つに分類していただいています。私が教育の対象にしているような方々に対しては、まずはライフ資金、準備資金、利殖資金の見極めから始めなければいけないと思っています。
 そして、収入がこれからほとんど無く、今ある資産を守っていかなければいけないという方々にとっては、基本的には投資は、利殖資金でやるものであるということを情報提供しています。100万円が場合によってはゼロになってもいい、そういうお金でやるのが投資ですよと伝えています。これが、私の投資教育の出発点になります。
 一方、若い方に関しましては、まだ十分時間の余裕がありますので、そういう方々はじっくり勉強して、資金の一部をリスクのある商品に勉強のために出していってもいいと思います。
(藤沢) なるほど、そうなのですね。ここで、そういった大人の教育を誰が担えばいいのか、というのが大きな問題になってくると思います。子供の場合は学校だとか家庭だとか色々、私たちも見えてくる部分があるのですが、大人の場合は学校という機会がなかなかありませんので。櫻田副大臣に基調講演をいただいた中で、信頼できるプロということで金融機関とかファイナンシャルプランナーなど、色々出ていたのですが、今日お集まりの方々も、今目の前のお金をどう守っていったらいいのか、誰に相談したらいいのか、誰に自分のパートナーになっていただいたらいいのか、悩んでいらっしゃるのではないかと思うのです。どなたにこの教育を担っていただき、支援していただいたらいいのかという点について、本当に個人的なご意見で結構ですので、伺いたいなと思います。板庇さんはどうですか。 (板庇)そうですね。やはり、自分で勉強するしかないと思います。
(藤沢) 厳しいですねえ。
(板庇) はい。偉そうに言いますけど、私は親からそういう教育を受けて育ちました。小学校の時から新聞を読んでいますし、中1ぐらいから会社四季報を読んでいます。会社四季報を開いた途端に、世界は広がりました。これを開いて一生懸命株の銘柄を探して買おうと考えた時に、「会社というのは一体どうなっているのか?」、「どうやって儲けているのか?」、「皆さんの給料はどこから来るのか?」、ということが見えてきます。色々なことが分かるので、まずは、はっきり言えば株をちょっと買ってみるということは、非常に大事なことではないかなと思います。
(藤沢) 株をまず買ってみる。どうでしょうか。私も、何でも始めてみることによって学ぶことは多いと思います。しかし、買ってみる時にもやはり、誰か先生が欲しいなと思うこともあるかもしれないのですが、中原先生、多分同世代の方でお金をどうしようか悩んでいる方もいらっしゃると思うのですが、どう思われますか。どなたにこれを担っていただきましょうか。
(中原) 各自が勉強していく際の担い手という点につきましては、1つは家庭であると思いますし、もう1つは本日みたいなこういったシンポジウムも、社会的な勉強の機会になると思います。
 こういった社会的な勉強の機会というのは、各自のやる気に大きくかかっていますので、そういったやる気をいかに起こさせるかというのが、金融庁などの使命になってくるかと思います。ただし、こういった活動への参加は義務ではありませんので、先程神戸さんも仰られたように、機会が均等じゃないと不公平となりますから、できるだけ公平にこういった情報を行き渡るようにしておかなくてはならないと思います。そしてこうした機会を利用して勉強するか、しないかというのは、自己責任ということになってくるのではないかなと思います。その結果、うまく活用し、能力アップできる方がいたり、できない方がいても致し方ないと思います。
 もう1つの担い手である家庭ですが、私は家の中でそういった教育というものを正直ほとんどやっていません。子供も、そういうことで私に意見なんて聞きません。それは、1つに親自身がそういった知識を体系的に持っておらず、教えるだけの力がないということによるものだと思います。したがってこれからは、親も子供に教えるだけの金融に係る知識を習得していかなければいけないのかなと思います。
(藤沢) はい、ありがとうございます。今中原先生のお話の中で、色々な情報をみんなが知る機会が必要だというようなことを仰いました。本日のこういうイベントも、金融庁、千葉県がやってくださったお蔭で、こうやって我々は触れることができているのですが、河井さんは勉強会をされている中で、こういう情報というのは、どのように集めたり取ったりしているのか、ちょっとご参考に伺えればと思います。
(河井) 私の場合、金融学習グループということで、3年間、金融広報委員会の補助を頂いたりして、本当に助かりました。そして金融広報委員会の、金融広報アドバイザーの先生方が本当に役に立っていただいています。お隣にいらっしゃる楠本先生はじめ、皆さん一流の方々ばかりで、本当に「ああ、この先生方に教われて良かったな」とそういう方ばかりですので、この会場にいらっしゃる皆さん方も、是非勉強会をしたいということで千葉県に先生の派遣を要請されると宜しいと思います。
(藤沢) はい、ありがとうございます。意外にそういうことを知らないものですよね。もちろん、金融機関の方も色々ご指導くださるのですが、もう1人誰かに話を聞きたいと思った時に、誰に聞けばいいのかというと、そういう県からも補助を頂けたり、そういう先生をご紹介していただけたりということですから、それはもう私たちも是非活用していかなければいけないと思います。
 先程、勉強するには、板庇さんが「まず株を買ってみたら」と仰いました。同じことだと思いますが、まず、自分で動いてみることによって、色々な先生と出会えたり、チャンスに出会えたり、勉強する機会が与えられるのかなと思います。
 では、この第1セッションのまとめに神戸さんに伺いたいのですけれども、この教育、特に大人ですね。もう大人で、これから老後を迎えるという方々に対して、誰がどうこの教育を担うべきか。ファイナンシャルプランナーの方でしょうし、金融機関もあるでしょうし、その辺をどのようにお考えか教えていただけますか。
(神戸) そうですね。本日櫻田副大臣がお話しされた通り、1,500兆円弱のうち大体半分は60歳以上の方がお持ちというお話ですから、その方々が行動を起こされない限りやはり変わらないですね。
 その際、以前の非常識が常識になったり、常識が非常識になったりということが今起こっているわけですので、お金の運用のリテラシーを上げるという部分でいえば、まずは国がリテラシー、読み書き能力は少なくともこの水準だというところをきっちり作って、リードしていくべきだと思います。
 ただし、国だけがやっていると、どうしてもスピード感が不足しがちですね。今日も金融庁さんが一生懸命やられていますけれども、毎日こういうイベントをやっても1年 365日で、365回しかできません。毎回何百人かの方が聴かれても、そうたくさんの方が機会を得られるわけではありません。そうすると、スピード感を持って機会の均等を実現していくためには、やはり、民の協力をどのように仰いでいくかということになると思います。それでは民とは具体的に何かなというと、藤沢さんとご一緒した金融経済教育懇談会でも議論が百出した分野なのですが、私の私見では、メディアとかあるいは金融機関などの協力も必要な局面が出てくると思っています。
 1,400兆円以上の個人金融資産というのは、まさに日本の繁栄を作ってこられた方々の努力の結晶なのですが、これからは、この金融資産にも働いてもらうことが、日本にとっても非常に重要な段階になってきているということを、できるだけ多くの方にご理解いただくことが必要ではないかと思います。
(藤沢) ありがとうございます。金融経済教育について、こうやって皆さんにお話を伺って、本当に色々なスタートポイントもあれば、色々な問題もあるということで、非常に複雑であるということを認識したわけですが、しかし、改めて分かったことは、もう今、動き始めなければいけないということだと思います。私たちは、実際に、お金を日々使って生きていますし、これからも使って生きていかなければなりません。もっと恐ろしいのは、これからネット社会になって、お金が目に見えにくい時代となるわけです。見えにくい所でお金が動き始める時代に、どうやって子供たちにお金の教育をするのかというと、今よりきっと難しくなってくるのではないかと思います。そんな時に、今日お集まりの方々が、実際に、どう自分で学んでいかれるか、学ぶ機会を作っていかれるか、そしてその機会をつくってほしいという声を、国や、県や、色々な所に上げていくか、これが実は、将来に対しても非常に重要なことなのではないかと思います。そのために、一歩踏み出すということの大切さを、今日パネリストの皆様、先生方から教えていただいたような気がします。どうもありがとうございました。


 次号では、「セッション2・市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」の模様をご紹介します。

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