保険会社のセーフティネットの見直しに関する政省令等の概要

I

.目的及び経緯
 平成17年5月2日に公布され、平成18年4月1日に施行された「保険業法等の一部を改正する法律」(平成17年法律第38号。以下「改正法」といいます。)は、(a)根拠法のない共済への対応に係る改正及び(b)保険契約者保護制度等の見直しに係る改正、の二つを主たる内容としています
 このうち、(b)保険契約者保護制度等の見直しに係る改正の施行に伴う所要の改正等を行うため、政省令等の改正案が平成17年10月12日に公表され 、意見募集期間中に同案に対し寄せられたご意見等を踏まえたうえで、以下のとおり政省令等が公布され、平成18年4月1日に施行されました。
 


 「保険業法施行令の一部を改正する政令」(平成18年政令第33号。同年3月10日公布。少額短期保険業に係る改正を含みます。以下「改正政令」といいます。)
 「保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令の一部を改正する命令」(平成18年内閣府令・財務省令第3号。同年3月13日公布。以下「改正府省令」といいます。)
 「保険業法施行規則及び内閣府の所管する金融関連法令に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令」(平成18年内閣府令第10号。同年3月13日公布。以下「改正府令」といいます。)
 「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」(平成18年内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第1号。同年3月13日公布)
 「保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令第一条の六第四項の規定に基づき金融庁長官及び財務大臣が定めるところにより算出される率等を定める件」(平成18年金融庁・財務省告示第2号。同年3月13日公示。以下「高予定利率契約関係告示」といいます。)

 本法令解説は、政令の概要(下記II.)、内閣府令・財務省令、内閣府令等の概要(下記III.)の順に、保険会社のセーフティネットの見直しに関するこれらの政省令等の概要を解説するものです
 なお、保険契約者保護制度は従来「保険のセーフティネット」と通称されてきましたが、上記(a)根拠法のない共済への対応に係る改正により、保険業を行うものの保険会社(外国保険会社等を含みます。以下同じ。)ではなく保険契約者保護機構による資金援助等の対象にもならない者(「少額短期保険業者」(改正法による改正後の保険業法(以下「新保険業法」といいます。)第2条第18項)、「特定保険業者」(改正法附則第2条第3項)等)が存在することとなったのに伴い「保険会社のセーフティネット」と称することが適当となったと考えられ、本法令解説においてもそのようにしているところです。

II

.政令の概要
 
.はじめに
 保険会社のセーフティネットの見直しに関する政令は、改正法により生命保険契約者保護機構の財源措置の見直しが行われたことに伴う所要の改正等を行うものです。


.概要
 
(1)  特例会員の定義
 改正法による見直し後の財源措置は、平成18年4月1日から平成21年3月31日までの3年間に管理を命ずる処分(保険業法第242条第1項)を受けた生命保険会社(外国生命保険会社等を含みます。以下同じ。)その他政令で定める生命保険会社(「特例会員」(新保険業法附則第1条の2の14第1項))を対象とする時限措置であり(同項)、この政令で定める生命保険会社として、当該3年間に更生手続開始の申立てが行われた生命保険会社等を定めることとしました(改正政令による改正後の保険業法施行令(以下「新施行令」といいます。)附則第8条の5)

(2)

 生命保険契約者保護機構の借入残高の基準日等
 改正法による見直し後の財源措置の大枠は、特例会員の破綻に係る資金援助等に要する費用を原則として生命保険会社からの負担金により賄うこととしつつ、生命保険契約者保護機構(以下この(2)において「機構」といいます。)の借入残高に当該費用として要すると見込まれる額を加えた額が、機構の長期的収支を勘案して政令で定める額を超えることとなる場合には、新保険業法附則第1条の2の14第1項に規定するおそれが認定されることを条件として、政府の補助を行うことができる、というものです(同項)。
 この大枠の要素をなす額等に係る委任(同項)を受けて、当該額等について以下のとおり定めています。
 
(a)  機構の借入残高の基準日
 機構の借入残高の基準日を、当該特例会員について更生計画認可の決定があった日等としました(新施行令附則第8条の6)。これは、政府の補助はあくまで最終手段であることから、借入残高は返済に従い漸減することに着目し基準日をできるだけ後に設定しようとするとともに、上記大枠の要素として十分な明確性を法令上有すると認められる日を、基準日として採用することとしたものです。
(b)  未納負担金及び延滞金並びに余裕金がある場合の取扱い
 機構の借入残高の基準日(上記(a))において納期限までに納付されていない負担金及び延滞金がある場合には、政府の補助はあくまで最終手段であることから、当該未納負担金及び延滞金に相当する金額が借入金の返済に充当されたものとして借入残高の判定を行うこととしています(新施行令附則第8条の7第3号)。
 また、借入残高の基準日において保険契約者保護資金に余裕金が存在する場合にも、同様の取扱いとしています(同条第2号)。
(c)  機構の長期的収支を勘案した額
 機構の長期的収支を勘案して政令で定める額は、4600億円としています(新施行令附則第8条の8本文)。
 なお、上記各規定のみでは、複数の生命保険会社が連続して破綻した場合に、借入残高の基準日(上記(a))が接近・連続することにより機構の負担が不当に重くなりかねないため、そうした事態が生じないよう所要の規定を置いています(同条ただし書)。

(3)

 特例会員の破綻の場合の認定の手続等

 特例会員に関する政府の補助の実施の手続規定が政令に委任されたこと(新保険業法附則第1条の2の14第2項)を受けて、当該手続について定める(新施行令附則第8条の9)とともに、政府の補助の要件となる新保険業法附則第1条の2の14第1項に規定する「おそれ」の認定の権限については、金融庁長官に委任せず内閣総理大臣の権限とすることとしました(新施行令附則第14条の2)

(4)

 生命保険契約者保護機構の借入金の限度額の特例の廃止

 特別会員(保険業法附則第1条の2の13第2項)を対象とする財源措置が「平成15年度から平成17年度までの破綻について、改めて、5000億円(業界対応分:1000億円、国対応分:4000億円)のセーフティネットを整備」するものであったことに対応して、生命保険契約者保護機構の借入金の限度額について、本則の4600億円(保険業法施行令第37条の4)10に対し当分の間9600億円とする特例が設けられていましたが(改正政令による改正前の保険業法施行令附則第13条)、改正法による見直しに伴いこれを廃止する(特別会員に係る借入金限りとする)こととしました(新施行令附則第13条)。

III

.内閣府令・財務省令、内閣府令等の概要
 
.はじめに
 保険会社のセーフティネットの見直しに関する内閣府令・財務省令、内閣府令等の主たる内容は以下の三つであり、順に解説することとします。
 
 損害保険契約その他の保険契約の種類、予定利率等を踏まえた補償率等の見直し(下記2.
 「運用実績連動型保険契約」に関する規定の整備(下記3.
 その他の改正(下記4.
 


.損害保険契約その他の保険契約の種類、予定利率等を踏まえた補償率等の見直し
11
 
(1)  損害保険会社のセーフティネットの見直し
 
(a)  損害保険会社に係る補償対象契約の範囲に関する改正
 
 補償対象契約の範囲(保険契約の種類)の拡大
 金融審議会第二部会「保険契約者保護制度の見直しについて」(平成16年12月14日)(以下「第二部会報告書」といいます。)において「損害保険について、保険種類による区分は廃止する・・・ことが適当であると考えられる」とされたことを受けて、損害保険会社(外国損害保険会社等を含む。以下同じ。)に係る補償対象契約の範囲を、日本における元受保険契約一般とすることとしました(改正府省令による改正後の保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令(以下「新保護命令」といいます。)第50条の3第1項12。ただし、下記ロ及び下記3.(3)参照)。
 補償対象契約の範囲(保険契約者の属性)に関する規定の整備
 第二部会報告書において「一般的に情報収集力等が低く保護の必要性が高いと認められる個人・小規模企業者(例えば、従業員数20 名以下の企業)が保険契約者となっている保険契約を補償対象とすることが適当であると考えられる」とされたことを受けて、自動車保険以外のいわゆる第二分野(損害保険)の保険契約(家計地震保険契約及び自動車損害賠償責任保険契約を除く。)については、個人、「小規模法人」又は管理組合が保険契約者であるものに限り補償対象契約とすることとしています(新保護命令第50条の3第1項第6号・第2項・第3項)13,14
(b)  「特定補償対象契約」の範囲
 管理を命ずる処分を受けた後も「特定補償対象契約解約関連業務」を停止することを要しない保険契約として新保険業法第245条第2号に規定する特定補償対象契約(「補償対象契約のうち保険契約者等の保護のためその存続を図る必要性が低いものとして内閣府令・財務省令で定めるもの」)を、以下の保険契約としています(新保護命令第1条の6の3第1項)。
 
 家計地震保険契約(同項第4号)
 第二分野の補償対象契約(家計地震保険契約及び自動車損害賠償責任保険契約を除く。)(同項第4号)15
 いわゆる海外旅行傷害保険契約のうち加入時に保険契約者等が告知すべき重要な事実等に被保険者の過去の健康状態等が含まれないもの(「特定海外旅行傷害保険契約」(同項第3号))
 保険期間が1年以内のいわゆる傷害保険契約のうち加入時に保険契約者等が告知すべき重要な事実等に被保険者の現在又は過去の健康状態等が含まれないもの(「短期傷害保険契約」(同項第1号))
 いわゆる第三分野の保険契約(特定海外旅行傷害保険契約及び短期傷害保険契約並びに以下のものを除く。)の積立部分(同項第2号)
 
 年金払型の積立傷害保険契約(同項第2号イ)16
 いわゆる財形傷害保険契約(同項第2号ロ)
 いわゆる確定拠出年金傷害保険契約(同項第2号ハ)
(c)  「特定補償対象契約解約関連業務」関係
 管理を命ずる処分を受けた後も「特定補償対象契約解約関連業務」を行うことができる期間(新保険業法第245条第2号)は、第二部会報告書の指摘(下記(d)参照)等を踏まえ、管理を命ずる処分を受け保険会社がその業務(同条各号に規定するものを除きます。)を停止した時等から3か月とすることとしました(新保護命令第1条の6の2第1項本文)。
 なお、保険契約者等の保護の観点から、上記期間の末日が休日に当たるときはこれを算入しないこととする(同項ただし書)とともに、上記の業務停止時の後遅滞なく、金融庁長官は上記期間及びその末日を公告するものとしました(同条第2項)。
(d)  「特定補償対象契約」の補償率
  第二部会報告書において、
 「こうした性質に鑑みれば、損害保険契約については、破綻後一定期間、保険事故の発生に対する保険金の支払は全額保証することとし、その間に他の健全な保険会社への円滑迅速な乗換えを促す仕組みを導入することが適当と考えられる。
 保険金支払の全額保証を行う期間については、保険契約者が破綻保険会社との契約を解約して、他の保険会社に乗り換える手続きを行うための猶予期間となるとの趣旨を踏まえ、3ヶ月程度とすることが適当と考えられる。」
 とされたことを受けて、特定補償対象契約の上記(c)の期間を経過するまでの間に発生した保険事故に係る保険金の補償率を、100%とすることとしました(新保護命令第1条の6第1項第3号ただし書・第6号ただし書等)17
 なお、第二部会報告書において「一定期間内の保険金の全額保証により保険契約者保護制に要する費用が増加することに配意して」も「早期解約控除を行わないこととすれば、現行90%の補償率を例えば80%程度に引き下げたとしても、保険会社の破綻後早期に他の保険会社への乗換えを行うことが想定される多くの保険契約者については、実質的に現行なみの補償水準を維持することができるものと考えられる」とされたことを受けて、上記(c)の期間を経過するまでの間に発生した保険事故に係る保険金の補償率を除き、特定補償対象契約に係る補償率は80%としています(新保護命令第1条の6第1項第3号本文・第4号・第6号本文、第50条の5第1項第3号本文・第4号・第6号本文等)18

(2)

 保険契約の予定利率に応じた補償率の見直し
 
(a)  「高予定利率契約」の定義及び「基準利率」
 新保険業法第245条第1号・第270条の3第2項第1号等において保険契約の予定利率に応じ補償率を異なるものとすることができることが明確化されたことを受けて、低い補償率を適用すべき「高予定利率契約」の定義を、「その保険料又は責任準備金・・・の算出の基礎となる予定利率・・・が基準利率を過去五年間常に超えていた保険契約(保険期間・・・が五年を超えるものに限る。)」としました(新保護命令第50条の5第3項)19
 なお、上記定義中の「基準利率」を「・・・免許の種類ごとに、当該免許の種類に属する免許を受けたすべての保険会社・・・の過去五事業年度における年平均運用利回り(過去五事業年度における各事業年度の運用利回りの総和を五で除して得た運用利回りをいう。)を基準とし、かつ当該年平均運用利回りを超えるものとして金融庁長官及び財務大臣が定める率」とし(新保護命令第1条の6第4項第2号)、具体的には、生命保険会社、損害保険会社それぞれにつき、ともに年3%と定めています(高予定利率契約関係告示第2条)。
(b)  「高予定利率契約」の補償率及び「補償控除率」
 平成17年2月16日の金融審議会第二部会において「高予定利率の契約について、保険契約者保護制度による責任準備金の補償率を他の契約よりも引き下げることとする」20との方向性が承認されたことを受けて、補償対象契約のうち補償率が90%であるもの(「元受生命保険契約等」(新保護命令第1条の6第2項))が「高予定利率契約」(上記(a))に該当する場合には、当該補償対象契約の補償率を「九十パーセントから補償控除率を減じた率」とすることとしました(同項・新保護命令第50条の5第2項等)。
 この「補償控除率」については「・・・予定利率のうち基準利率を超える部分を基礎として金融庁長官及び財務大臣が定めるところにより算出される率」とし(新保護命令第1条の6第4項第1号)、具体的には、「過去五年間における各年の予定利率から」基準利率「をそれぞれ減じて得た各率の総和を二で除して得た率」と定めています(高予定利率契約関係告示第1条)。
 
 
例〕過去5年間における各年の予定利率がすべて年5% / 基準利率年3%
償控除率=(5−3)×5÷2=5
  補償率= 90 − 5 = 85%
 
   ただし、保険契約者保護機構による補償はあくまで、倒産法に基づく破綻処理に対し保険契約者等の保護のため特別に設けられた制度によるいわば《上乗せ》であることから、「九十パーセントから補償控除率を減じた率」が倒産法に基づく破綻処理を想定した場合の見込弁済率(「基準弁済見込率」)を下回ることとなる場合には、当該見込弁済率を補償率とすることとしています(新保護命令第50条の5第2項・第5項)21


.「運用実績連動型保険契約」に関する規定の整備
22
 
(1)  「運用実績連動型保険契約」その他の特別勘定を設置すべき保険契約の範囲
   新保険業法第118条第1項により特別勘定の設置を義務づけられる保険契約(「運用実績連動型保険契約(その保険料として収受した金銭を運用した結果に基づいて保険金、返戻金その他の給付金を支払うことを保険契約者に約した保険契約をいう。)その他の内閣府令で定める保険契約」)を規定しました(改正府令による改正後の保険業法施行規則(以下「新施行規則」といいます。)第74条・第153条)。
 その内容はきわめて技術的であるため、ここでは、新施行規則第74条各号の規定に実際のどのような保険契約が含まれることとなるかを以下に示すこととします23
  「運用実績連動型保険契約」に関する規定の整備

(2)

 「運用実績連動型保険契約」に係る特別勘定の管理に関する規定の整備
   保険会社の更生計画において運用実績連動型保険契約に係る債権について他の保険契約に係る債権に比して有利な条件を定めることができることが明記される(改正法による改正後の金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第445条第3項)前提として、「特別勘定に属する財産の管理の方法その他特別勘定に関し必要な事項」を内閣府令に委任する新保険業法第118条第3項が新設されたことを受けて、運用実績連動型保険契約に係る特別勘定(「特定特別勘定」(新施行規則第75条の2第1項))に属する財産を一般勘定に属する財産及び特定特別勘定以外の特別勘定に属する財産と分別して管理するための体制を以下のとおり整備しなければならないこととしました(同条・新施行規則第154条の2)。
 
 ・  明確かつ判然とした分別管理
 ・  特定特別勘定に属する財産の管理の委託先が上記明確な分別管理を行うことを確保するための体制の整備
 ・  所定の帳簿書類の作成及び保存の義務
 また、所要の経過措置を設けています(改正府令附則第2条)。
   なお、上記帳簿書類について、電磁的記録による保存及び作成を認めること等としています(改正府令による改正後の内閣府の所管する金融関連法令に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則別表第一・第二・第三)。

(3)

 補償対象契約からの除外

 第二部会報告書において「とりわけ、最低給付保証が付されていない団体年金保険に関しては、類似の金融商品である年金信託との平仄から、保険会社の破綻時にも実質的に対応資産が保全されるように、厳格な分別管理を前提として責任準備金を削減しない取扱いを可能とする制度整備が望ましく、これが実現すれば、保険契約者保護制度の対象外とすることが適当であると考えられる」とされ、平成17年2月16日の金融審議会第二部会において「特別勘定で経理される団体年金保険等(最低給付保証のないもの)について、厳格な分別管理を義務付けた上で責任準備金を削減しない取扱いを可能とする制度整備を行うとともに、保険契約者保護制度の補償対象外とする」24との方向性が承認されたことを踏まえ、運用実績連動型保険契約のうち特定特別勘定に係る部分を補償対象契約から除くこととしました(新保護命令第50条の3第1項)。


.その他の改正
 
(1)  責任準備金の補償に係る資金援助の対象としての責任準備金と生命保険契約者保護機構の会員の負担金の算定基礎となる責任準備金とに関する規定の整備
 
(a)  責任準備金の補償に係る資金援助の対象としての責任準備金の範囲の明確化
 意見募集手続(上記I.参照)において寄せられたご意見に応答するかたちで25、責任準備金の補償に係る資金援助(保険業法第270条の3)の対象としての「責任準備金」とは、保険業法に基づき保険会社の会計上の負債として計上される《業法上の「責任準備金」》ではなく、個々の保険契約につき被保険者のために積み立てられるべき金額としての《個別的「責任準備金」》であることを明確化しました(新保護命令第50条の4第1項第1号)。
(b)  生命保険契約者保護機構の会員の負担金の算定基礎となる責任準備金に関する規定の整備
 いわゆる変額年金保険等の最低保証リスクに係る保険料積立金26上記(a)によれば責任準備金の補償に係る資金援助の対象としての「責任準備金」に当たらないことに鑑み、受益と負担のバランスの観点から、当該保険料積立金の額の2分の1を、生命保険契約者保護機構の会員の負担金の算定基礎となる「責任準備金」から除くこととしました(新保護命令第25条の2第1項第2号)27,28。なお、所要の経過措置を設けています(改正府省令附則第4項)。

(2)

 保険契約者保護機構の透明性の向上に関する改正
   第二部会報告書において「機構における手続きを透明化し、情報開示を一層充実させることも、利益相反によるデメリットの発生を防ぎ、機構の運営に対して規律付けを行う観点から重要であるとの意見もあった」とされたことを受けて、以下のとおり、保険契約者保護機構の透明性の向上を図ることとしました。
 
 運営委員会及び評価審査会の構成、議事等の開示等に関する規定の整備(新保護命令第8条第5項・第12条の2・第15条第5項・第19条の2・第37条)
 保険契約者保護機構の財務諸表等の備置期間の延長(新保護命令第39条の2)
 なお、所要の経過措置を設けています(改正府省令附則第2項・第3項・第5項)。

(3)

 保険契約者保護機構制度
29に関する保険契約者等の理解の確保に関する改正
 
(a)  募集時の説明義務
 第二部会報告書において「制度変更後、募集の際にも、保険契約者にとってわかりやすく制度説明が行われるよう工夫が必要である」とされたこと、高予定利率契約に係る補償控除率制度(上記2.(2))が導入されたこと等を踏まえ、日本における元受保険契約の保険募集に際し、書面の交付その他の適切な方法により、補償対象契約の範囲に関する説明(元受生命保険契約等(上記2.(2)(b))のうち保険期間が5年を超えるものの募集の際にあっては、補償対象契約の範囲及び高予定利率契約に係る補償控除率制度に関する説明)を行う義務を課すこととしました(新施行規則第53条第1項第8号)。
(b)  実際の破綻処理における理解の確保
 第二部会報告書において「実際の破綻処理において契約条件の変更を行う際には、例えば、それぞれの保険契約に係る保険金額等への具体的な影響などについて、保険契約者にわかりやすく説明がなされるようにすべきである」とされたこと等を踏まえ、保険契約の移転等の公告及び契約条件の変更に係る公告(保険業法第251条第1項・第255条第1項・第255条の4第1項)の付記事項として、以下の事項を追加しました(新保護命令第1条の10第2号イ・ロ、第1条の13第3号イ・ロ)。
 
 高予定利率契約に該当する元受生命保険契約等(上記2.(2)(b))に対する補償控除率制度の適用に関する事項
 契約条件の変更と保険契約者等の保険金等に係る権利の変更との関係に関する事項(当該事項を図示したものを含みます。)
(c)  各保険会社の拠出した負担金の額の開示
 第二部会報告書において
「保険契約者保護制度は、保険会社の破綻時に機構が資金援助等を行うことにより破綻保険会社の保険契約者等を保護する仕組みであり、その費用は他の保険会社が負担することが原則である。
 ただし、この保険会社の負担は最終的には保険契約者の負担につながっていると考えられる。これについては、制度の目的が保険契約者の保護にあることから合理的なことであるが、保険契約者の理解を高めるため、負担の明示等、よりわかりやすい説明に努めるべきとの意見があった。」
 とされたこと等を踏まえ、各保険会社が拠出した負担金(保険業法第265条の33第1項)の額を、説明書類(保険業法第111条。いわゆるディスクロージャー資料)の記載事項に加えることとしました(新施行規則別表(第59条の2第1項第3号ハ関係(生命保険会社))・別表(第59条の2第1項第3号ハ関係(損害保険会社)))。なお、所要の経過措置を設けています(改正府令附則第3条)。

(4)

 保険契約の承継等を申し込むことができる場合の拡大
  第二部会報告書において、
「現行制度において、機構による保険契約の引受けは、救済保険会社が現れる見込みがない場合に限り行うことができるとされている。しかし、特に損害保険会社の破綻の場合には、短期の契約が多いこと等から迅速な処理が求められるにもかかわらず、救済保険会社が容易には見つからず、早期の手続開始ができないおそれがあるとの問題が指摘されている。こうした問題に鑑みれば、迅速な手続きの開始が適切であると合理的に判断される場合には、破綻後の早い段階でも機構による引受けを決定できるようにすることが適当であると考えられる。」
 とされたことを受け保険契約の承継等を申し込むことができる場合等が内閣府令・財務省令に委任されたこと(新保険業法第267条第1項・第2項)を受けて、当該場合の一つとして、損害保険会社の破綻において「救済保険持株会社等・・・が当該破綻保険会社に係る保険主要株主等認可を早期に受ける見込みがないこと及び当該救済保険持株会社等を除き救済保険会社又は救済保険持株会社等が現れる見込みがないことにより保険契約の移転等を行うことが困難な場合」を追加するとともに所要の規定整備を行いました(新保護命令第48条の2第2号・第48条の3第2号)。

IV

.終わりに

 改正法及び上記政省令等による新しい保険会社のセーフティネットのごく簡単な概要については、金融庁ホームページの「一般のみなさんへ・保険を契約している方へ」から「保険契約者保護機構制度(保険会社のセーフティネット)」のページでご紹介しています。
 また、生命保険契約者保護機構及び損害保険契約者保護機構の各ホームページにおいて、詳しい制度案内が行われていますので、併せてご覧ください。
 


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「保険業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)に対するパブリックコメントの結果について(保険のセーフティネットの見直し関係)」(平成18年3月10日)または、「保険業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの結果について(保険のセーフティネットの見直し関係)」(平成18年3月13日)にアクセスしてください。
 

 ただし、改正法附則第1条第1号に掲げる規定は、「保険業法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成17年政令第240号。同年7月13日公布)により、平成17年8月1日に施行されています。また、改正法附則第 1条各号に掲げる規定以外の規定が平成18年4月1日に施行されたのは、「保険業法等の一部を改正する法律の施行期 日を定める政令」(平成18年政令第32号。同年3月10日公布)によるものです。▲戻る
 改正法の概要については、「【法令解説】保険業法等の一部を改正する法律の概要について」アクセスFSA第30号(2005年5月26日発行)(以下「改正法解説」といいます。)をご覧ください。▲戻る
 「「保険業法等の一部を改正する法律」の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)、内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等の公表について」(平成17年10月12日) ▲戻る
 意見募集の結果は以下のとおり公表されていますので、併せて参照してください。
 
 ・  「「保険業法等の一部を改正する法律」の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)に対するパブリックコメントの結果について(保険のセーフティネットの見直し関係)」(平成18年3月10日)(ここで公表されている「コメントの概要とコメントに対する金融庁・財務省の考え方(保険業法施行令(案)関係)」を、以下「施行令案の考え方」といいます。)
 ・  「「保険業法等の一部を改正する法律」の一部の施行に伴う内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの結果について(保険のセーフティネットの見直し関係)」(平成18年3月13日)(ここで公表されている「コメントの概要とコメントに対する金融庁・財務省の考え方(保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令(案)及び関連告示(案)関係)」を以下「保護命令案等の考え方」と、「コメントの概要とコメントに対する金融庁の考え方(保険業法施行規則(案)関係)」を以下「施行規則案の考え方」といいます。)▲戻る
 なお、「保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令」、「保険業法施行規則」等については、その後さらに、「会社法」(平成17年法律第86号)及び「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17年法律第87号)の施行(平成18年5月1日)に伴う整備等が行われており(「保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令」については「資産再評価法施行規則等の一部を改正する命令」(平成18年内閣府令・財務省令第6号。同年4月26日公布、同年5月1日施行)により、「保険業法施行規則」については「船主相互保険組合法施行規則等の一部を改正する内閣府令」(平成18年内閣府令第59号。同年4月27日公布、同年5月1日施行)によります。)、本法令解説においても、この整備等を前提としています。▲戻る
 改正法解説III.,3.にほぼ対応する部分となります。▲戻る
 期間が異なるのみで、その内容は、平成15年4月から平成18年3月までの3年間の財源措置の対象となっていた生命保険会社(「特別会員」(保険業法附則第1条の2の13第2項))に関する規定(保険業法施行令附則第8条の2)と同様です。▲戻る
 既に、特別会員に関する政府の補助の手続規定が政令に委任されたこと(新保険業法附則第1条の2の13第3項)を受けて、当該手続について定めが置かれるとともに、政府の補助の要件となる保険業法附則第1条の2の13第2項に規定する「おそれ」の認定の権限について、金融庁長官に委任せず内閣総理大臣の権限とされていました(「保険業法施行令の一部を改正する政令」(平成17年政令第241号。同年7月13日公布、同年8月1日施行)による改正後の保険業法施行令附則第8条の4・第14条の2)。▲戻る
 保険業法の一部を改正する法律」(平成15年法律第39号。同年5月9日公布、本件関連部分は同年6月8日施行)の「概要」▲戻る
10  この「本則」としての「4600億円」の詳しい意義については、「施行令案の考え方」番号7を参照してください。▲戻る
11  改正法解説III.,1.,(1)及び(2)にほぼ対応する部分となります。▲戻る
12  なお、改正府省令による改正前の保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令第50条の3は、生命保険会社、損害保険会社それぞれに別の項を立てて補償対象契約の範囲を規定していましたが、新保護命令第50条の3では、いわゆる第三分野本体相互参入等の動向にも鑑み、こうした免許の種類に大きく依存した規定振りは廃しています。▲戻る
13  改正府省令による改正前の保険契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令第50条の3第2項においても、火災保険について、補償対象契約となる範囲を保険契約者の属性(個人、「小規模企業者」等)により限定する規定が置かれていました。
 ただし、新保護命令第50条の3第2項等においては、常用従業員等の数の基準時が明記される等の明確化等が行われています。▲戻る
14  自動車保険については、見直し後も引き続き、保険契約者の属性を問わず補償対象契約としている(新保護命令第50条の3第1項第5号)のは、第二部会報告書において「現在において自動車保険が迅速な被害者救済等の観点から重要な役割を果たしていることを重視すれば、自動車保険については、中規模以上の企業者が保険契約者である場合であっても引き続き補償対象とする取扱いも考えられる」とされたことを踏まえたものです。▲戻る
15  自動車損害賠償責任保険契約が特定補償対象契約とされていないのは、自動車が道路において運行の用に供されている限り解約が法令上厳しく規制されていること(自動車損害賠償保障法第20条の2)によるものです。▲戻る
16  新保護命令第1条の6の3第1項第2号イは補償対象契約の類型を明確化する観点から定量的な定義規定となっているため、いわゆる「年金払積立傷害保険」(新施行規則第212条の2第1項第4号)とは完全には一致しないことに注意が必要です。
 詳しくは、「保護命令案等の考え方」番号8・9を参照してください。▲戻る
17  なお、自動車損害賠償責任保険契約及び家計地震保険契約の保険金については、上記期間中に保険事故が発生したか否かにかかわらず、見直し前と同様、補償率は100%としています(新保護命令第1条の6第1項第5号等)。▲戻る
18  特定補償対象契約は「保険契約者等の保護のためその存続を図る必要性が低い」保険契約でありむしろ破綻処理期間中の解約が想定されているものであることから、保険契約の存続を図るために行われる早期解約控除(用語の意義については、改正法解説注5を参照してください。)を必要とする理由が認められず、特定補償対象契約については早期解約控除は禁止されています(新保険業法250条第1項。なお、改正法による改正後の金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第445条第2項)。
 新保護命令第1条の9の2各号は禁止されるべき特定補償対象契約に係る早期解約控除の設定の対象となる給付金として典型的なもの(任意脱退に伴うもの)を掲げることとしているところ、いうまでもなく、同条各号に掲げられた給付金以外の金額について早期解約控除の設定を許す趣旨ではありません。▲戻る
19  なお、保険期間が5年を超える保険契約のうち破綻時に加入後5年を経過していなかったもの(加入から破綻までの間の予定利率が基準利率を常に超えていたものとします。)については、保険期間が5年以下である保険契約(加入から破綻までの間の予定利率が基準利率を常に超えていたものとします。)とのバランスの観点から、高予定利率契約の定義に該当するものではないと解することが相当と考えられます。▲戻る
20  金融審議会第二部会資料「生命保険の保険契約者保護制度の見直しについて(案)」(平成17年2月16日)▲戻る
21  なお、補償対象保険金の支払率に係る補償控除率制度を定める新保護命令第1条の6第2項には新保護命令第50条の5第2項・第5項のような基準弁済見込率を下限とする規定がありませんが、これは、補償対象保険金の支払が行われる破綻処理期間中には基準弁済見込率の算定が困難であると考えられるためです。
 破綻処理手続の進行を経て算定された基準弁済見込率が、補償控除率を減じて得られた補償対象保険金の支払率を上回ることとなった場合には、当然に所要の追払いが行われることが想定されています。▲戻る
22  改正法解説III.,1.,(3)にほぼ対応する部分となります。▲戻る
23  なお、「施行規則案の考え方」番号7では、改正府令による改正前の保険業法施行規則第74条各号をも含めた表が示されています。▲戻る
24  金融審議会第二部会資料「生命保険の保険契約者保護制度の見直しについて(案)」(平成17年2月16日)▲戻る
25  「保護命令案等の考え方」番号19・20を参照してください。▲戻る
26  概要については「変額年金保険等に係る責任準備金積立ルール等改正の概要について」アクセスFSA第23号(2004年10月28日発行)をご覧ください。▲戻る
27  補償対象保険金の支払に係る資金援助(保険業法第270条の6の7)の対象範囲(「保護命令案等の考え方」番号20を参照してください。)に鑑み、変額年金保険等の最低保証リスクに係る保険料積立金の全額を負担金の算定基礎から除くことは、していません。▲戻る
28  なお、いわゆる追加責任準備金(保険業法施行規則第69条第5項・第150条第5項)の額についても、負担金の算定基礎から除くこととしています(新保護命令第25条の2第1項第2号)。▲戻る
29  上記I.なお書と同じ趣旨から、従来「保険契約者保護制度」と通称されてきたものを、「保険契約者保護機構制度」と称することとしています。▲戻る

次の項目へ