アクセスFSA 第236号

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金融庁主催 サステナビリティ開示に係る国際カンファレンスの開催

1.背景

資本市場では、企業の価値創造に不可欠なサステナビリティ情報への注目がこれまでにないほど高まっています。サステナビリティ情報に対するニーズに応えるため、世界中の様々な基準設定主体や各法域・地域において、サステナビリティ開示基準の策定に向けた取組みが大きく進展しています。

このような状況の中、2021年11月、国際会計基準(IFRS)財団は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、サステナビリティ開示のグローバル・ベースラインの策定作業を進めています。ISSBは、2023年前半に最初の2つの基準(全般的要求事項と気候関連開示)を最終化する予定です。さらに、ISSBは今後2年間の作業計画の策定に向けて、今後の優先アジェンダについての意見を募集するため、同じく2023年前半に情報要請を行う予定です。また、G7・G20は、ISSBの作業への支持を継続的に表明しており、日本が議長国を務める本年のG7においても、サステナビリティ開示は重要なテーマの1つです。

金融庁では、本年3月3日に、この「サステナビリティ開示」に焦点を当て、大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンター及びオンラインにてサステナビリティ開示に係る国際カンファレンスを開催しました。

本稿では、本カンファレンスの概要をご紹介します。

2.カンファレンスの概要

企業、投資家、市場参加者、証券取引所、監査法人、基準設定主体、規制・政策当局が一堂に会し、各法域・地域におけるサステナビリティ開示への取組み、グローバル・ベースラインの策定に向けたこれまでの進捗状況、さらには気候に続く次の優先課題について、約20名の登壇者の方々にご登壇いただき、議論を行いました。なお、金融庁がサステナビリティ開示にテーマを絞って国際カンファレンスを開催するのは初めてです。当日は、会場・オンラインの参加を合わせ、約1,000名に参加いただきました。

◆  開会挨拶①

岸田内閣総理大臣からビデオメッセージが寄せられ、「新しい資本主義」の一環として、人的資本・多様性や気候変動対応などのサステナビリティに関する情報の記載欄を有価証券報告書に新設することの紹介がありました。また、人的資本に係る開示ルールの整備が重要であり、本年、日本が議長を務めるG7においてもサステナビリティ開示の分野で国際的な議論をリードしていくことが述べられました。

◆  開会挨拶②

国際会計基準(IFRS)財団評議員会議長のリーカネン氏から、本カンファレンスがサステナビリティ開示の推進の重要な機会である旨や、本年、G7議長国を務める日本の役割への期待が述べられました。

◆  パネルディスカッション①「サステナビリティ開示のフレームワークの発展に向けて」

金融庁 長岡審議官ら日米欧の当局者及び証券監督者国際機構(IOSCO)代表理事会議長のセルベ氏によるパネルディスカッションが行われました。各法域・地域のサステナビリティ開示に関する最新の動向を紹介いただいたほか、セルべ氏からはISSBによる基準開発を歓迎する旨が述べられました。

写真:パネルディスカッションの様子

◆  特別インタビュー:グローバル・ベースラインの構築に向けて―これまでの進捗と今後の展望―

ISSB議長のファベール氏に対して、IFRS財団評議員の田代氏がインタビューを行う形式で、本年6月に予定されている、ISSBの全般的要求事項と気候関連開示基準の最終化にあたっての主な論点について、ファベール議長より最新の議論を紹介いただきました。また、ISSBの次の基準開発のアジェンダに関しては、日本政府が重視している人的資本などの4つの候補が挙がっており、G7やG20を含む様々なステークホルダーと議論している旨の説明がありました。また、東京のIFRS財団アジア・オセアニアオフィスが、アジア・オセアニア地域におけるISSBの拠点として果たす役割への期待が述べられました。

◆  基調講演

BlackRockのCEOであるFink氏からビデオメッセージが寄せられました。脱炭素化などのサステナビリティ課題の解決が進むことへの期待に加え、こうした課題の解決に向けては資本市場におけるサステナビリティ開示の充実が重要でありISSBによるサステナビリティ開示基準の開発を歓迎する旨が述べられました。

◆ パネルディスカッション②「次の基準開発アジェンダへの期待」

本年前半に、ISSBによる気候の次のアジェンダについての情報要請の実施が予定されていることを踏まえ、国内外からサステナビリティ分野の有識者をパネリストに招き、次の基準開発アジェンダへの期待について議論いただきました。パネリストからは、人的資本や生物多様性などについての民間での取組みの紹介があり、ISSBに対してこれらの取組みを踏まえた基準開発への期待が寄せられました。

◆  閉会挨拶

中島長官から、本カンファレンスの振り返りのコメントがあったほか、本カンファレンスが、サステナビリティ開示への理解や議論を深めるための推進力となることへの期待が述べられました。

写真:中島長官による閉会挨拶の様子

3.結び

本カンファレンスは、日本国内のみならず、海外からも会場・オンラインで多くの方々にご参加いただきました。

末筆になりますが、参加いただいた皆様、イベントの周知にご協力くださった国内外の関係者の皆様に感謝申し上げるとともに、本カンファレンスがサステナビリティ開示の充実の一助となることを願っております。


「Regional Banking Summit(Re:ing/SUM)」×「日経地方創生フォーラム」の開催

◆はじめに

金融庁では、2020年より、地域金融機関の関係者が、様々な分野の有識者との間で、地域の経済・社会の活性化にまつわる多様なテーマについてディスカッションする「Regional Banking Summit (Re:ing/SUM)」を毎年開催しています。

本年度は、信用金庫や信用組合を中心とする金融機関職員をはじめ現場の第一線でご活躍されている方々にご登壇いただき、「地域活性化」「金融教育」「こどもの貧困」「スタートアップ」「組織活性化」など、金融の枠に収まらないような幅広いテーマについて、熱のこもった議論をしていただきました。

本稿では、本イベントの概要をご紹介します。

◆イベントの概要

●開会挨拶  内閣府特命担当大臣(金融) 鈴木 俊一

イベントの開催にあたり、鈴木大臣より、事業者の方々への経営改善・事業再生などの支援の重要性が一層高まっている中での本イベントの開催が、地域金融機関が地域や事業者のために果たす役割や、自身の持続可能なビジネスモデルのあり方等について考える良い機会となることを期待しているとのメッセージが寄せられました。

●パネルディスカッション

【地域社会の一員として】

  • 信金・信組による地域貢献・地域活性化の取組み

信用金庫及び信用組合において地域貢献・地域活性化に取り組んでいる方が登壇し、地域の特性を活かした事例が紹介されたほか、小規模な金融機関であっても、金融機関同士の連携や自治体や事業者と一体となった取組みなど、どのように地域経済に貢献できるかについて意見交換が行われました。

  • 地域のサステナビリティ〜地域のこどもの貧困問題に取り組む意義〜

こどもの貧困問題やSDGsに関わる有識者が登壇し、こどもの貧困という目には見えづらいものの将来的には地域のサステナビリティにも関わりうる課題であるとして、地域にその存立基盤を有する地域金融機関が取り組む意義やメリットについて意見交換が行われました。

  • 安定的な資産形成の促進と地域連携について
●セッションオープニングメッセージ  内閣府大臣政務官 鈴木 英敬

鈴木政務官より、投資未経験者の知識不足による不安を払拭するためには、個人の金融リテラシーの向上やライフプランに沿った適切な資産形成など金融経済教育の提供が重要で、地域金融機関には、顧客に近い立場から新NISA制度の普及促進や金融経済教育を積極的に進めていただきたいとのメッセージが寄せられました。

セッションでは、金融教育に取り組む金融機関や有識者等が登壇し、地域住民や企業に近い立場である地域金融機関が、顧客に資産形成を自分事として関心を持ってもらうための取り組み例が発表されるとともに、金融教育が潜在的な資産形成の需要喚起につながっているといった具体的な効果が語られました。

【地域の事業者のために】

今後の事業者支援に向けた支援機関同士の連携と人材育成について地域金融機関や信用保証協会で事業者支援に取り組んでいる方が登壇し、地域における支援機関同士の連携の重要性のほか、支援機関の人材育成手段として、個人のスキルアップをはじめ、出向やトレーニー制度の活用等、組織レベルでの取組み等について議論しました。

  • 事業承継支援を通じた地域課題の解決

地域で喫緊の課題となっている事業承継問題について、実際に支援に当たっているパネリストが、後継者不足を含む内部承継の課題や対応策、第三者承継の有効性やその具体的支援のあり方、地域金融機関への期待や関係者との連携の重要性について議論を展開しました。

  • 世界と日本のスタートアップと、地域企業や地域金融機関の連携

スタートアップ支援に取り組む方が登壇し、①アジア・世界、②サステナビリティ、③デジタル、④人的資本・ダイバーシティの観点から、地域金融機関や地方自治体など関係者の役割、注目されるビジネス、地域金融機関・地方自治体への期待等について議論しました。

【金融サービスのイノベーション】

  • 地域金融機関による海外フィンテック企業との協業

海外フィンテック企業及び同企業と協業している地域金融機関の方が登壇し、地域金融機関が海外フィンテックのサービスを導入した実例を交え、協業に至る経緯、具体的な協業内容、メリット・留意点等について議論しました。

  • スマホ決済が生み出す地域経済活性化

地域でスマホ決済を提供する金融機関が登壇し、誰もが使える制度設計と高齢者の利用促進を図るアイデア、地域の一体感を生み出す仕掛け作りなどの実例報告とともに、自治体や地元企業との協力体制をはかる上で地域金融機関がリード役を務める重要性などを議論しました。

  • 地域金融機関によるフィンテック仲介業の利活用

顧客利便性の向上に地域金融機関がフィンテック仲介業を利活用できるかの観点から、有識者やフィンテック事業者、金融機関が登壇し、金融機関との連携に関する要望や懸念点について議論されたほか、中小企業と多くの顧客接点を持ち地域データを利活用するフィンテック事業者との連携促進など、地域金融機関ならではの効果的な連携について意見が交わされました。

【金融機関の組織】

  • 多様な人材の活躍に向けて(女性活躍推進による組織活性化)

女性を含む多様な人材活躍の観点から組織活性化に取り組む信用金庫、信用組合及び事業会社の方が登壇し、自らの経験や職場における組織活性化の取組みも交えながら、女性職員の不安払拭、時間と場所の制約解消、意識改革の重要性など、「誰もが輝ける」改革の推進に向けた様々なアイデアについて議論が行われました。

  • 女性の起業支援~地域金融機関が応援できること~

女性の起業を支援する金融機関や業界団体と実際に起業した方が登壇し、女性限定の起業セミナー開催や女性創業者のコミュニティ作りのほか、商工会議所や金融機関が連携して補助金等の情報提供や相談対応を行っている事例や、相談窓口に女性担当者を増やして相談しやすい体制を取っている事例などが紹介され、女性の起業を支援する取組みについて議論しました。

  • シニア・ミドル世代の活躍(モチベーションアップ)による組織の活性化

現役で活躍中のシニア・ミドル世代と30代の若手世代の金融機関職員が登壇し、組織活性化の観点から「シニア・ミドル世代の経験や人脈、情報が業務に付加価値を生む」、「中堅・若手世代の育成に携わる喜び」など、定年延長で増加したシニア・ミドル世代のモチベーションアップにつながるアイデアを議論しました。

◆終わりに

本イベントを通じて、事業者や地域社会・経済の課題認識の共有が図られ、それらの課題解決に向けた取組みの後押しの一助となり、ひいては、地域金融機関の活動が、地域経済の持続可能性確保に繋がり、それが地域金融機関の経営基盤の安定にも繋がるという好循環が実現されていくことを期待しています。


 本イベントの模様は、金融庁ウェブサイト・金融庁YouTube・日経チャンネルよりご視聴いただけますので、是非、ご覧ください。


中小企業の金融の円滑化等に関する意見交換会

本年3月7日、金融庁は、新型コロナウイルス感染症や昨今の物価高騰等の影響により、依然として厳しい資金繰り状況に直面している事業者が多いことや、年度末に向けて、運転資金等の需要が高まることを踏まえ、中小企業の金融の円滑化等について、鈴木大臣をはじめとする政府当局者と官民の金融関係団体等の代表者との意見交換会を開催しました

写真:意見交換会で発言する鈴木大臣

意見交換会においては、冒頭に鈴木大臣から、増大した債務の返済負担に苦しむ事業者に対する収益力改善・事業再生・再チャレンジの支援に、能動的に取り組んでいただくことをお願いしました。また、経営者保証改革プログラムの一環として、融資の際に個人保証を求める手続を厳格化するなどの措置を盛り込んだ監督指針の改正が本年4月より適用開始となることを踏まえ、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けて、経営トップによる強いリーダーシップの発揮を期待していること等について発言しました。

また、全国銀行協会の代表者から、これまで同様、資金繰り支援に最優先で取り組んでいくといった声や、スタートアップは、社会全体として取り組むべき重要なテーマであることも踏まえ、「スタートアップ支援に関する申し合わせ」を1月に公表し、一層のスタートアップ支援に務めていくと言った声が聞かれました。

鈴木大臣政務官から、全国銀行協会の代表者に対して、申し合わせを迅速に公表いただいたことに感謝を申し上げるとともに、他の代表者に対しても、申し合わせを参考にしていただき、それぞれの事業者に応じたきめ細かな支援をいただくようお願いをしました。

この他、出席した代表者から、借換保証制度も活用し、財務・非財務の両面から収益力回復や事業再生に向けた、きめ細やかな対応を進めていくといった声が聞かれました。

意見交換会の最後には、結びの挨拶として、藤丸副大臣から官民の金融関係団体等の代表者に対して、年度末に向けて、引き続き事業者の立場に立った最大限柔軟な資金繰り支援をいただくようお願いをしました。

さらに、同日付にて、官民の金融関係団体等に対して、鈴木大臣等からお願いした内容を含む資金繰り支援等に関する要請文を発出するとともに、当該要請文を公表し、要請内容の周知徹底を図りました。

写真:鈴木政務官による挨拶
<意見交換会参加金融関係団体等>
全国銀行協会、全国地方銀行協会、第二地方銀行協会、信託協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会、全国労働金庫協会、農林中央金庫、日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行、全国信用保証協会連合会、住宅金融支援機構

※ 意見交換会の議事次第等は、https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20230307.htmlをご覧ください。


第51回金融審議会総会・第39回金融分科会合同会合の開催

本年3月2日、第51回金融審議会総会・第39回金融分科会合同会合が開催されました※1。今回の合同会合では、はじめに、会長の互選が行われました。続いて、鈴木政務官の挨拶の後、新たに諮問が行われたほか、「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」、「市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」、「顧客本位タスクフォース中間報告」、「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ報告」についての説明などが行われました。

1.会長の互選

本年1月25日の委員改選後、初めての金融審議会総会・金融分科会であることから、委員の互選によって神田秀樹委員が金融審議会会長及び金融分科会会長に選任されました。

2.諮問

公開買付制度や大量保有報告制度について大きな見直しを行った2006年以降、企業買収の多様化や、取引所市場内の取引を通じた非友好的な買収事例が増加しているほか、パッシブ投資の増加や、中長期的な企業価値の向上に向けた企業と投資家の建設的な対話の重要性の高まりなど、市場環境が変化してきています。こうした状況を踏まえ、金融審議会に対し、新たに次の諮問が行われました。

諮問

○公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討
 近時の資本市場における環境変化を踏まえ、市場の透明性・公正性の確保や、企業と投資家との間の建設的な対話の促進等の観点から、公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方について検討を行うこと。

上記の諮問について、具体的な検討を進めていくため、金融審議会の傘下にワーキング・グループを設置することが決定されました。

写真:諮問文を読み上げる鈴木政務官

3.報告

「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」、「市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」、「顧客本位タスクフォース中間報告」、「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ報告」について説明が行われました。それぞれの概要は以下の通りです。

(1)ディスクロージャーワーキング・グループ報告

四半期開示(第1・第3四半期)について、コスト削減や開示の効率化の観点から、金融商品取引法上の四半期開示義務を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」するべく、具体案を取りまとめています。

また、サステナビリティ開示について、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)で今後策定される開示基準を、法令上の枠組みの中で位置づけていくことを提言しています。くわえて、サステナビリティ開示基準、開示内容に対する第三者による保証、といった今後の検討課題を議論したほか、我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップについても示しています※2

(2)市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理

日本経済全体の付加価値を引き上げ、持続可能で一段高い成長経路に乗せるとともに、家計の金融リテラシー向上や適切な金融商品の選択を通じて、その成長の成果を還元させる、「成長と分配の好循環」に向けた諸施策について、主に①市場インフラの機能強化、②スタートアップ企業等への円滑な資金供給、③その他の環境整備の3つの観点から整理しています※3。今後、第二次中間整理において具体的な対応策を示した事項は順次実施し、その他の事項は、引き続き、市場制度ワーキング・グループにおいて検討を進めます。

(3)顧客本位タスクフォース中間報告

「家計の安定的な資産形成」・「経済成長の成果の家計への還元促進」に向けて、①インベストメント・チェーン全体における顧客等の最善の利益を考えた業務運営の確保、②顧客への情報提供・アドバイス、③資産運用業の高度化、④金融リテラシーの向上の4つの観点における幅広い施策について取りまとめています※4。今後、中間整理において具体的な対応策を示した事項については順次実施し、その他の事項については、引き続き、顧客本位タスクフォースにおいて検討を進めます。

(4)事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ報告

金融機関が不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくなり、事業者が無形資産を含む事業全体を担保に成長資金等を調達しやすくなる環境を実現するため、新たな担保権として事業成長担保権の創設を提言しています。

また、当該担保権の設定、効力、実行手続、労働者保護といった論点について、一定の方向性を示しています※5

金融庁としては、成長・事業再生資金の円滑な供給やコーポレートガバナンス改革等を通じて我が国経済の持続的な成長を実現するとともに、国民の安定的な資産形成を促進するため、金融審議会での議論を踏まえ、金融面での環境整備を行ってまいります。

写真:金融審議会総会の様子

※1 議事次第および配付資料については、https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/2023_0302.htmlをご参照ください。

※2 「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」について、詳しくはhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221227.htmlをご参照ください。

※3 「市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」について、詳しくはhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221221.htmlをご参照ください。

※4 「顧客本位タスクフォース中間報告」について、詳しくはhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221209.htmlをご参照ください。

※5 「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ報告」について、詳しくはhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210.htmlをご参照ください。


金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告について

企画市場局総務課 信用制度参事官室

課長補佐 水谷  登美男

係長       岡野  佑香   

係員         吉田  紗枝子

本年2月10日、金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(座長 神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)(以下、「事業融資WG」)の報告をとりまとめました。本稿では、現在の融資実務や担保制度との対比に係る部分を中心に、その概要について解説いたします。

1.議論の経緯

日本企業の資金調達環境は、長年にわたり課題が指摘されています。例えば融資においては、不動産等の有形資産担保や経営者保証等がなければ、借入れを行うことが難しい、と指摘されてきました。特に有形資産に乏しい事業の創業時や経営者保証の取扱いが課題となる承継時等の局面にある企業(以下「成長企業等」という。)の場合には、上記の課題は特に顕著になっています。また、デジタル化の進展を含む産業構造の変化により、必ずしも不動産等の有形資産を持たない企業が増加している中、金融機関は、有形資産担保や経営者保証に依存することなく、事業の価値創造を支え、企業・経済の持続的成長に貢献することが求められています。

これまでも、資金調達の選択肢が広がり充実するよう、資本市場や金融機関に関わる法制度や検査・監督のあり方の見直しが進められてきました。デットに関連する選択肢を充実させる観点からは、諸外国のリレーションシップバンキングやベンチャー・デット等の融資実務を参考としつつ、成長企業等への融資実務のあり方が模索されてきています。近年では、金融庁も、2019年の金融検査マニュアルの廃止や監督指針の改正等を通じ、各金融機関が、その経営戦略や与信管理、人的投資等において多様な創意工夫を発揮し、事業者の多様なニーズ・資金調達に対応することが可能となるよう、環境整備に努めてきました。

事業成長担保権に係る議論は、こうした成長企業等への融資実務の発展を後押しするための施策の一つです。諸外国では、類似の制度が、リレーションシップバンキングやベンチャー・デット等の融資実務において広く活用されています。当該制度は、破産時の保全・回収手段というよりも、成長企業等への融資の基礎となる事業者・金融機関の緊密な関係構築や金融機関に事業の実態や将来性の的確な理解を動機付けるものとして位置付けられています。

2.期待される実務

事業成長担保権を利用する場合、成長企業等は、事業の現状・見通しを金融機関との間で共有し、金融機関はそれに基づき融資判断を行うことを想定しています。また、融資後も、定期的に、成長企業等と金融機関との間で事業の状況を共有・フォローアップすることが想定されています。

想定される設定時・期中の実務のイメージ

このような事業理解の共有や緊密な関係構築は、成長企業等に対する事業性に着目した融資に不可欠です。成長企業等において、事業に問題が生じた場合でも、早い段階で金融機関と協議して支援を得られれば、早期の経営改善に取り組むことができます。早期の経営改善が見込まれる(信用リスクが低下する)のであれば、金融機関は融資に取り組みやすくなります。

もっとも、事業成長担保権はあくまでも融資手法における選択肢の1つです。そのため、少なくとも当初は、現在の融資実務において課題が強く感じられている場面が利用の中心となることが想定されます。事業融資WGでも、業界団体から、例えば、有形資産をもたない事業者(スタートアップを含む。)や、事業承継に係るファイナンス、プロジェクトファイナンスにおいて、利用が期待できるとの声が寄せられました。

3.基本的な制度設計

事業成長担保権は、以上のような実務を支え、成長企業等への融資を動機付けるための制度です。そこで、事業融資WG報告では、総財産(事業活動から生まれる将来キャッシュフローも含む。)を一体として事業成長担保権の目的とする一方で、労働者や商取引先など、事業価値の維持や向上に資する者に対して、事業成長担保権者に優先して弁済する枠組みを組み込むことが提言されました。

成長企業等には、この事業成長担保権を利用して、金融機関やベンチャー・ファンドなど目利き力をもつ幅広い主体から融資を受けることが期待されています。なお、事業成長担保権を用いて融資をする者については、経営者の粉飾等があった場合を除き経営者保証を制限することが適当とされました。

また、事業成長担保権については、信託会社に信託することが求められることとされました。濫用的な利用がされないよう、信託会社が、成長企業等に制度内容を説明するなど、ゲートキーパーとしての役割を担うこととされています。

このほか、利用できる成長企業等については、株式会社や合同会社などの持分会社に限るほか、事業成長担保権の登記については、公示性の高い商業登記簿にすることが提言されました。

事業成長担保権については、先述のとおり、緊密なモニタリングを通じて企業の経営不振の芽を早めに把握して経営改善を図ることが想定されているため、実行に到るケースは少ないと想定されていますが、仮に実行に到った場合には、裁判所が選任する管財人によって、原則としてできるだけ事業価値を維持しつつ、スポンサー企業への事業の承継等を目指すべきことが提言されました。

4.最後に

事業成長担保権の議論は、日本の融資実務の幅を広げていこうという取組みの一つです。有形資産の価値に依拠した融資実務には馴染みにくいものですが、事業の将来性に着目した融資を発展させていくにあたっては、重要な役割を果たすと考えられます。

日本の金融機関が、事業の将来性に着目した融資実務により一層取り組みやすくなるよう、金融庁としても、本報告の提言を踏まえ、早期の法案提出を目指してまいります。また、審査・期中管理の態勢や貸倒引当金の評価など、実務的な議論について、先行する諸外国における事例や課題の研究や金融機関・実務家との議論を通じて、より具体的に検討を深めてまいります。

報告書における事業成長担保権(仮称)の概要
(参考)融資の考え方による違い

 本年2月10日公表 金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告の公表について https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210.html


地域金融機関の事業者支援能力向上を後押しする取組み(前編)

~『業種別支援の着眼点』の公表~

監督局銀行第二課地域金融企画室

課長補佐 渡辺  茂紀

課長補佐 三鬼  陽介

主査   松本  伸弥

(前)監督局総務課地域金融支援室

主査   鈴木  優太

1.地域金融機関の事業者支援能力の向上に向けて

地域金融機関は、地域経済の要として、事業者を支えることを通じ、地域経済の成長に貢献していくことが期待されています。特に足もとでは、幅広い地域・業種の多くの事業者において、新型コロナウイルス感染症や物価高等の影響が生じ、事業者にとって身近な地域金融機関が、効果的・効率的に支援に取り組む重要性が高まっています。

そこで、金融庁では、地域金融機関の事業者支援能力を向上させる「自助」の取組みを後押しするとともに、現場の事業者支援の担い手が組織を超えてノウハウを共有する「共助」の取組みを促進してきました。

前者については、令和4年度、①金融機関の現場職員が経営改善支援の初動対応において着目すべき点を業種別に整理するための調査、及び②金融機関による早期の経営改善支援につながるよう、AIを活用して支援に着手する事業者の優先順位付けを行うことについての調査・研究を行いました。本稿では、このうち①の成果として取りまとめた、『業種別支援の着眼点』(本年3月30日公表)(以下「本書」という。)についてご紹介します。

2.『業種別支援の着眼点』のコンセプト・特徴

事業者の経営改善支援では、業績が悪化した場合の事業再生の場合も含め、中小企業の経営改善に関する専門的知識や実務経験のある専門家や支援機関との連携が有効となりますが、その前提として、事業者との対話を通じて、事業者の置かれた状況について理解を深め、その課題について共有する「初動対応」の役割を、地域金融機関の営業現場の職員が果たすことが少なくありません。しかし、地域金融機関の営業現場では、若手職員など経験年数の浅い方が一線で活躍することが求められる場面もあると考えられます。

早期の経営改善支援に着手することで、打ち手の選択肢も多く、改善可能性も高い

そこで、本書では事業者支援のニーズが予想される業種を中心に、有識者の意見や知見を踏まえつつ、事業者支援に着手する際のポイントや事業者の特性に応じた支援ノウハウ等を業種別に整理しました。

整理にあたっては、①金融機関等の若手職員や経験年数が浅い方が、現場や支援の初動段階で手に取りやすい情報量・レベルとする点、②その業種の概観を俯瞰できることを目指し、フロー図や写真等を多く取り入れることで直感的に理解しやすいビジュアルを取り入れる点、③更なる対話の深耕や、より深い専門的知見を身に着ける契機となるように編集する点の3点に特に留意しました。

また、前述の「共助」の取組みとして実施している「事業者支援ノウハウ共有サイト」や各地域で開催された金融機関や信用保証協会等の現場職員の方たちの勉強会・意見交換等で収集した実務家の知見やノウハウを、別冊にて「よくある質問」として盛り込むことで、本書を補完しています。

3.『業種別支援の着眼点』の内容

本書では、建設業、飲食業、小売業、卸売業、運送業の5業種を取り上げています。例えば、各業種ならではの、決算資料に現れる特徴や、必ずしも数字に表れないポイント等の指標を理解するための背景情報、将来の成長の可能性、金融機関等による支援の参考事例等を紹介しています。

これらは、現場職員が事業者を訪問する前の準備や、訪問時に事業者との対話から現状把握する上でより深く理解すること、訪問後に支援の要否や方向感について検討することといった、事業者支援における「初動対応」を念頭に置いています。実際の事業者支援の場面では、「初動対応」の結果、何らか踏み込んだ経営改善を支援すべきとなった際には、金融機関本部の担当者や外部の支援機関等と連携して対応していくことを想定しています。

『業種別支援の着眼点』の特色

4.活用イメージ

本書は、PDF版だけでなく、PowerPoint版やAI音声による読み上げ動画版も作成しています(文末に記載のリンクから無料で入手・視聴いただけます。)。

PDF版を、タブレット端末にダウンロードすること等により、訪問前の準備、面談時の対話はもちろん、勉強会・研修の資料、自宅での学習等に活用いただくことを想定しています。

しかし、金融機関等によっては、自身の営業基盤特有の業種特性や予め有している知見等を盛り込んだものを作成するニーズもあると考えられます。そこで、PDF版に加えて、データを自由に加工できるPowerPoint版も公表しました。組織・個人で用途に応じた内容の追加などカスタマイズすることを可能とすることで、金融機関・支援機関間の目線合わせに使ったり、オリジナルの資料の作成に活用したりすることなどを期待しています。

さらに、若手職員の方などが効率よく学習いただくことの一助となるよう、AI音声による読み上げ動画版も作成しました。本書の内容を、業種等の点から、10分程度の動画(YouTube「金融庁チャンネル」)15本に分けることで、隙間時間での学習等に役立てていただければと考えております。

なお、本書はあくまで着眼点の一つを示ししたものであり、事業者の規模や状況等によって、取るべき方策(打ち手)は異なってくると考えています。実際に本書を活用する際には、それぞれの組織・個人において、より実践的な事業者支援に取り組んでいただくこと、必要に応じて本書に工夫を加えていただくことなどを通じて、それぞれの現場にあった形で活用していただくことを期待しています。

(参考)「事業者支援ノウハウ共有サイト」について

本稿では、地域金融機関の事業者支援能力を向上させる「自助」の取組みを後押しする本書の取組みを紹介しましたが、金融庁・財務局では、これまで、地域金融機関等の現場職員が、地域・組織・業態を超えて事業者支援のノウハウを共有する「共助」の取組みについても後押ししてきました。

具体的には、各地域の財務局・財務事務所や信用保証協会等が、事業者支援の知見を高めるために開催している現場職員の勉強会等に、金融庁職員も参加し、ファシリテーションへの協力や本書の紹介等の協力を行っています。

また、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の協力の下、金融機関及び信用保証協会職員向けに、Web上で事業者支援に関するノウハウを共有するためのプラットフォーム(「事業者支援ノウハウ共有サイト」)を令和3年より設置しています。ここでは、参加者同士が事業者支援に関する知見をやり取りするほか、参加者向けの勉強会等の各種情報発信等を実施しています。

なお、「事業者支援ノウハウ共有サイト」は、常時、参加を受け付けています。ご関心を持たれた金融機関及び信用保証協会の皆様は、「事業者支援ノウハウ共有サイト新たな参加機関・職員の募集等について」(https://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20220401/20220401.html)をご覧ください。

『業種別支援の着眼点』の入手はこちらから

市場へのメッセージ
~課徴金納付命令勧告の解説~

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、勧告事案等に関する解説記事を「市場へのメッセージ」として証券監視委ウェブサイトに掲載しております。

 ここでは、本年3月27日に掲載した「市場へのメッセージ」の内容についてご紹介します。


株式会社N・フィールド社員から伝達を受けた者による内部者取引及び当該社員による公開買付けの実施に関する事実に係る伝達行為に対する課徴金納付命令の勧告について

証券監視委は、取引調査の結果に基づいて、本年2月28日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました

【事案の概要】

本件は、ユニゾン・キャピタル株式会社が株式会社N・フィールド(以下「N社」という。)株式の公開買付けを行うにあたり、N社の社員であった課徴金納付命令対象者(以下「対象者」という。)(2)が、職務上知り得た当該公開買付け実施に関する事実(以下「本件事実」という。)を、知人である対象者(1)に伝達し、対象者(1)が本件事実の公表前にN社株式を買い付けたものです(インサイダー取引規制違反)。

対象者(2)は、知人である対象者(1)に対し、本件事実の公表前にN社株式の買付けをさせることにより対象者(1)に利益を得させる目的をもって、本件事実を伝達していました(情報伝達規制違反)。

【事案の特色】

本件は、規範意識を強く持って行動すべき上場会社の社員が、職務上知り得た内部情報を悪用し、知人に儲けさせてあげようと情報を伝達し、その知人がインサイダー取引を行った事案です。

事案の概要図

【証券監視委からのメッセージ】

本件の課徴金額は、情報を伝達した社員が17万円、インサイダー取引を行った知人が34万円と比較的少額ですが、証券監視委は、取引規模や利得額の多寡にかかわらず幅広く不公正取引を監視しています。たとえ少額の取引であったとしても、課徴金調査の対象となることを改めて周知することにより、違反行為を抑止する効果に期待したいと思います。


 本年2月28日公表、「株式会社N・フィールド社員から伝達を受けた者による内部者取引及び当該社員による公開買付けの実施に関する事実に係る伝達行為に対する課徴金納付命令の勧告について」は、https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230228-1.htmlをご参照ください。


先月の金融庁の主な取組み(令和5年3月1日~3月31日)


編集後記

今年度の新卒新規採用者として41名が金融庁に入庁しました。

新型コロナの影響をもろに受けて、思い描いていたような学生生活を送ることが難しかった世代だと思います。

来月には新型コロナの感染症法上の位置づけが見直されるなど、平時の社会経済活動が徐々に取り戻されようとする中、これまで我慢してきた分を取り戻すつもりで、新たな環境で存分に力を発揮し、活躍してくれることを期待したいと思います。

  • 金融庁広報室長 守屋 貴之
  • 編集・発行:金融庁広報室

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