アクセスFSA 第237号

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「企業会計審議会総会」の開催 ~ 鈴木大臣への意見書の手交 ~

本年4月7日、企業会計審議会総会を開催※1し、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、「内部統制基準・実施基準」)の改訂及び「開示・会計監査を巡る国内外の動向」、「国際会計基準への対応」について議論が行われました。

○「内部統制基準・実施基準」の改訂について

内部統制報告制度は、2008年に導入されてから15年余りが経過しておりますが、財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えられる一方で、経営者による内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例などが一定程度見受けられており、経営者が内部統制の評価範囲の検討に当たって財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか等の制度の実効性に関する懸念が指摘されておりました。

こうした中、企業会計審議会内部統制部会において、財務報告に係る内部統制の実効性向上を図る観点から、 2022年10月より審議・検討を開始し、「内部統制基準・実施基準」の改訂案が取りまとめられました。

今回の内部統制基準・実施基準の改訂案では、経営者が内部統制の評価範囲を検討する際に適切なリスクアプローチを徹底するとともに、その評価範囲の決定の考え方について充実した開示を求めることとしました。併せて、国際的な内部統制の枠組みの改訂を踏まえ、内部統制の基本的枠組みを見直すこととしました。

本総会では、堀江内部統制部会長より、「内部統制基準・実施基準」の改訂案等の説明が行われた後、企業会計審議会総会として「内部統制基準・実施基準の改訂について(意見書)」が取りまとめられました※2 。徳賀会長から鈴木大臣へ同意見書を手交し、大臣よりご挨拶をいただきました。

写真:徳賀会長から鈴木大臣へ意見書の手交

○最近の会計監査・会計基準を巡る主な動向、国際会計基準への対応について

併せて、以下について事務局より説明の後、議論が行われ、「四半期開示の見直しに伴う監査人のレビューに係る必要な対応」については、今後、監査部会にて審議すること、「国際会計基準への対応」については、今後、会計部会でも審議することが承認されました。

  • <事務局説明内容>
    • ●開示・会計監査を巡る国内外の動向
      • (1) 四半期開示の見直しに関する法案の概要
      • (2) サステナビリティ開示に関する内閣府令の改正
      • (3) 改正公認会計士法に伴う政府令の改正
      • (4) 監査証明府令の改正
      • (5) 国際監査基準における主な改訂
    • ●国際会計基準への対応

※1 議事次第及び配布資料については、 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20230331.htmlをご参照ください。

※2 本年4月7日公表 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について: https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230407/20230407.html


「FIN/SUM2023」
~国内最大級のフィンテックカンファレンス~

金融庁と日本経済新聞社は、国内最大級のフィンテックカンファレンスである「FIN/SUM 2023」を、本年3月28日〜31日の4日間、開催しました。

1. 「FIN/SUM2023」開催概要

本年は感染症対策に万全を期しながら、登壇者と来場者ともに対面での参加を呼びかけました。結果、国内外から1,300名を超えるフィンテック事業関係者等に会場へお越しいただきました。

写真:開会挨拶をする中島長官

2.金融庁主催シンポジウムについての概要

29日の金融庁主催シンポジウムでは、“Empowering People with Responsible Innovation”をテーマに、学術界や事業者、金融当局や中央銀行等の専門家を招聘し、多様な視点からディスカッションを行いました。冒頭では、中島長官が開会挨拶を行い、金融デジタル化のさらなる進展、日本におけるweb3.0ビジネスの優位性、さらには伝統的金融分野におけるイノベーションについて言及しました。29日に行われた計7セッションの概要をご紹介します。 ※敬称略・*はモデレーター

①産官学連携が紡ぐWeb3.0の未来

金融緩和が転換点を迎え、大手暗号資産交換業者の破綻等のリスクも顕在化している中で、真に持続可能なイノベーションに向けた産官学連携の可能性について議論しました。

登壇者
アラン・リム(シンガポール金融管理局)
伊藤 穣一(デジタルガレージ)
松尾 真一郎(ジョージタウン大学)
ミシェル・コーバー(米・Andreessen Horowitz)
*有泉 秀(金融庁)
写真:セッション①の模様

②金融規制とイノベーション ~クリプトの冬を超えて~

暗号資産のリスクへの対応を求める規制当局者と、分散型金融の可能性を重視するビジネスサイドのパネリストたちが暗号資産と規制の在り方を議論しました。

登壇者
ワイジェー・フィッシャー(米国証券取引委員会)
サンドラ・トブラー(瑞・Futurae)
ジェニファー・スカルプ(米・Cato Institute)
天谷 知子(金融庁)
*ジェマイマ・ケリー(英・Financial Times)
写真:セッション②の模様

③日本のWeb3.0戦略

日本政府によるWeb3.0に係る戦略を紹介するとともに、米国等の海外動向との比較も行いつつ、Web3.0・デジタル資産の可能性や更なる発展に向けた課題や取るべき方策等について議論を行いました。

登壇者
シーラ・ウォレン(米・Crypto Council for Innovation)
渡辺 創太(Astar Network)
平 将明(衆議院議員)
栗田 照久(金融庁)
*楠 正憲(デジタル庁)

④日本市場の可能性

日本市場参入を果たした海外フィンテック事業者や海外事業者の日本進出支援を行う団体などを交え、日本のフィンテック市場の特徴や魅力の紹介とともに、市場参入時の課題・論点とその解決策についても議論を行いました。

登壇者
沖田 貴史(ナッジ)
李 暢(Plug and Play Japan)
有友 圭一(東京国際金融機構)
ピーター・ケネバン(米・PayPal )
*堀本 善雄(金融庁)

⑤デジタル金融最前線 ~技術が拓く決済の未来~

送金や決済手段の変化は利便性を高めている一方で、決済システムのリスクも変容させる可能性があるとの指摘もある中、国内外の既存・新興の決済サービス提供者や中央銀行を交えて、決済システムの未来について議論を行いました。

登壇者
中山 一郎(PayPay)
谷崎 勝教(三井住友FG)
ディアナ・アヴィラ(英・Wise)
中島 淳一(金融庁)
*別所 昌樹(日本銀行)

⑥トークナイゼーションがもたらす証券市場のフロンティア

デジタル証券は、グローバルに見ても未だ発展途上ですが、プログラマビリティを生かした決済の効率化や投資家との関係構築など、従来の証券市場とは異なる可能性を秘めているとされます。そこで、国内外事業者や取引所の立場から、デジタル証券の可能性と発展に向けた課題について議論を行いました。

登壇者
齊藤 達哉(三菱UFJ信託銀行)
小林 英至(Securitize Japan)
朏 仁雄(大阪デジタルエクスチェンジ)
佐々木 俊樹(Boostry)
*柳瀬 護(金融庁)

⑦現実を超えた未来へ ~メタバース内の新たな社会構築~

非金融の領域も含め、国内外の企業による最先端のメタバースに関する取組みを紹介するとともに、金融へのインプリケーションについても議論を行いました。

登壇者
中馬 和彦(KDDI)
山口 明夫(日本IBM)
河合 祐子(Japan Digital Design)
ヤット・シウ(香港・Animoca Brands)
*眞下 利春(金融庁)

閉会挨拶では藤丸副大臣がフィンテックの更なる発展に向けた事業者への期待と今後のFIN/SUMの展望を語りました。FIN/SUMを拡充する形で2024年3月に「Japan FinTech Week」を創設し、一層の国際化と規模拡大を図ることを宣言しました。

写真:藤丸副大臣による閉会挨拶

3.FinTechサポートデスク出張相談

金融庁では2015年よりフィンテックに関する一元的な相談・情報交換窓口「FinTechサポートデスク」を設置しています。当デスクでは、フィンテックをはじめとした様々なイノベーションを伴う事業を営む、または新たな事業をご検討中の皆様から、具体的な事業・事業計画等に関連する事項をはじめとした様々な点について、幅広く金融面等に関する相談を受け付けています。

FIN/SUM会期中、会場(丸ビル)の一部に相談ブースを設けて、FIN/SUM開催日のうち3日間(3月28日~3月30日)出張相談を実施しました。2020年度・2021年度はコロナの影響でオンライン面談のみであり、対面では初の試みとなりました。規制に係る事項の相談だけでなく、事業に関する一般的な意見交換も行われました。また、内閣官房「規制のサンドボックス制度」の出張相談も併設し省庁間の連携をはかりました。

写真:出張相談の様子

通常は電話にてご相談を受け付けております。下記の連絡先まで、金融庁FinTechサポートデスク担当宛にお電話ください。

  • 受付時間:平日9時30分~18時15分
  • 電話番号:03-3506-7080

4.サイドイベント等について

様々なフィンテック関係のイベントが一週間に集中して催される来年の「Japan FinTech Week」に向けた試験的な取り組みとして、金融庁主催のレセプションディナーや、フィンテック協会・Plug and Play Japan等と連携して複数のサイドイベントを開催し、海外からの参加者を含む数百名が出席しネットワーキングを行いました。ここでは、その一部をご紹介します。

Japan Fintech Festival

世界各国からフィンテック事業者や当局が集まり、国内外のフィンテック動向やグローバルな連携の重要性等について議論が行われました。参加者は120名を超え、柳瀬参事官が開会の挨拶を行いました。

「日本を国際金融都市にするには」powered by Plug and Play

東京、大阪、福岡の関係者が集まり、国際金融都市としての各地の現在地や今後の課題について語りました。

FIN/SUM sub-event Crypto Night 2023

IVSとCoinPost社が主催し、暗号資産関係業者を集めたネットワーキングを開催し、100名を超える関係者が集いました。

写真:金融庁主催レセプションの様子

金融活動作業部会(FATF) 暗号資産コンタクト・グループ会合の東京開催

1.はじめに

本年4月12日から14日にかけ、金融活動作業部会(FATF: Financial Action Task Force)の暗号資産コンタクト・グループ会合(Virtual Assets Contact Group)が、金融庁のホストにより、東京都内で開催されました。本稿では、当会合の概要をご紹介します。

当会合で議論された、暗号資産に係るマネロン等対策は、我が国が議長国を務める本年のG7のファイナンストラックにおいても、優先事項の1つとして掲げられております。我が国は、G7議長国として、FATFにおける取組の重要性をG7各国と共有し、G7として支持・後押しすべく、議論を主導していきたいと考えております。

2.背景及び概要

FATFは、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、及び大量破壊兵器の拡散金融(マネロン等)を防止するための国際基準を設定する政府間組織です。FATFは、暗号資産に関するFATF基準の採択を受け、2019年6月に暗号資産コンタクト・グループを設立しており、以来、金融庁が米国財務省とともに同部会の共同議長職を務めています。

同部会は、業界との対話、モニタリングに加え、基準実施の現状と課題を整理した報告書の取り纏めや、暗号資産ガイダンスの改訂などを含め、FATFにおける暗号資産の基準実施促進や、暗号資産関係の政策検討のハブとして機能してきました。

今回の東京会合では、我が国を含む19か国の当局者や国際機関関係者などが参加し、また、アウトリーチには約80名の民間関係者(暗号資産交換業者、ブロックチェーン分析会社、業界団体、金融機関等)が国内外から参加しました。

写真:鈴木政務官(中央奥)による開会挨拶の様子

会合では、鈴木政務官の開会挨拶に続き、以下のようなテーマについて議論が行われ、今後も、FATF及び各国として、暗号資産に関するFATF基準の効果的な実施を促進するとともに、新たなリスク等のモニタリングや対応の検討を行っていくことが重要、との認識で一致しました。

  • 暗号資産に関するFATF基準の各法域での実施状況とその促進策(ロードマップ)
  • トラベルルールの実施状況と効果的な実施に向けた課題
  • 新たなリスクへの対応(分散型金融(DeFi)、P2P取引を含むUnhosted wallets、NFT等)
  • 拡大するリスクへの対応(北朝鮮による暗号資産の窃取・悪用、国家主体による制裁回避、ランサムウェア攻撃、テロリストによる暗号資産の利用等)

FATFでは、会合の成果を踏まえた報告書を本年6月に公表予定です。

3.担当者から

新型コロナによる海外渡航制限も緩和され、久しぶりに国際機関による大規模な対面会合を日本で開催することができました。FATF事務局等と何度も調整を重ねて準備をしてきた甲斐あり、無事盛会に終わりました。遠く海外から来日してくださった60名弱の対面参加者と、時差を超えて議論に参加してくださった90名あまりのオンライン参加者の皆様に、改めて感謝申し上げます。

また、海外当局からは、会合後も各国との関係強化や信頼感の醸成に繋がった、とのフィードバックや、日本のホストに対する多くの謝意と賞賛をいただくことができ、担当者として、まずは安堵しています。

引き続き、国際的な議論に貢献し、また、国際的な議論を国内の対応強化につなげていくべく、日々の業務に取り組んでまいります。


※ 当会合の詳細については、金融庁及びFATFのウェブサイトにてご覧いただけます。


バングラデシュ証券取引委員会と金融庁の金融技術協力に関する覚書の締結

総合政策局総務課国際室兼フロンティア新興国支援ラボ

課長補佐 名古屋 智寛

1.背景

本年4月25日、バングラデシュ証券取引監視委員会(Bangladesh Securities and Exchange Commission、以下「BSEC」)と金融庁は金融技術協力に関する覚書(Exchange of Letters for Cooperation、以下「EoL」)を締結いたしました。

バングラデシュは近年目覚ましい経済発展を遂げており、また証券分野においても精力的に活動しており、同国とのより一層の金融協力を確認するため、この度EoLを締結する運びとなりました。

BSECのシブリ委員長は、世界各国の証券監督者の集まりである証券監督者国際機構(IOSCO)の中にある4つの地域委員会の一つであるアジア太平洋地域委員会(APRC)において、2022年10月より副議長を務めています。当庁の有泉国際総括官もAPRCにおいて議長を務めており、当庁はBSEC・シブリ委員長とともにAPRC会合の会議運営を担っております。

EoL締結時の集合写真

2.EoLの概要

今回当庁とBSECとの間で締結するEoLの内容は下記のとおりです。

  • 金融商品、金融市場に関する法的・規制的枠組み及び進捗、法執行に関する経験及び情報を共有すること。
  • グローバル金融連携センター(GLOPAC)及びその他の国際セミナーを含む人材交流または研修プログラムなどにおいて継続的な経験や専門知識の交換プログラムを行うこと。

署名式では、両国の協力関係の強化の重要性を双方が確認しました。 

BSECシブリ委員長(左)、中島長官 (右)の写真
写真:署名式の様子。BSECシブリ委員長(左)、中島長官(右)。

3.バングラデシュ貿易・投資サミット

4月27日には、BSECとバングラデシュ投資開発庁(BIDA)が主催、日本貿易振興機構(JETRO)等が共催し、「バングラデシュ貿易・投資サミット」が行われ、シェイク・ハシナ バングラデシュ人民共和国首相の下、EoLの交換式を行いました。

同サミットでは、ハシナ首相より、バングラデシュは世界の投資家に投資機会を提供することを歓迎するが、実質的な投資はまだ少なく、バングラデシュに来て、事業や投資機会の可能性を探ることをお勧めする旨、バングラデシュは2026年までにLDC(後発開発途上国)の地位を卒業する予定であることから、二国間の貿易・投資を拡大するための経済連携協定を可能にするよう日本と協力している旨が述べられました。

また、BSECのシブリ委員長からは、バングラデシュへの投資リターンが一貫して高いことに言及しつつ、バングラデシュのビジネスに優しい財政・非財政政策とインセンティブ、安定した民主主義、慎重なガバナンスとリーダーシップは、外国からの投資が良い価値をもたらす旨が述べられました。

金融庁からは、山下国際政策管理官と名古屋(筆者)が出席しました。

写真:バングラデシュ貿易・投資サミットのEoL交換式の様子(写真はJETRO提供)。EoLを掲げている中央の二人のうち、左側が山下国際政策管理官、右側がBSECのMr. Md. Mahvubul Alam, Exective Director。山下国際政策管理官の左が筆者、 Mr. Md. Mahvubul Alamの右がBSECのMs. Farhana Faruqui, Director、さらにその右にはハシナ首相。


※ 2016年、金融庁が金融市場に係る諸課題について検討を行い、金融インフラ整備支援に活用すること及び海外金融当局との協力関係の更なる強化を目的に設置。新興国等の金融当局からの研究員の招へい、金融市場の課題等に係る調査研究、国際会議・セミナー等の開催などを行っている。 https://www.fsa.go.jp/en/glopac/index.html


「全資産担保を活用した融資・事業再生実務に関する研究会」報告書

監督局銀行第二課地域金融企画室

課長補佐 松本  亜衣

係長   佐々木 祐介

監督局銀行第二課

課長補佐 谷   崇彦

1.はじめに

金融庁では、不動産担保や経営者保証に過度に依存しない、企業の事業性に着目した融資を後押しする観点から、2020年11月に立ち上げた「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」※1や、2021年11月に設置した金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」※2において、事業全体に対する担保制度である事業成長担保権の検討を進めてきました。

日本においてはまだ馴染みのない担保制度の考え方となりますが、米国・英国では、既に類似の担保制度である全資産担保を活用し、事業キャッシュフローに着目するキャッシュフローレンディングを行う実務が根付いているとされます。金融庁では、こうした海外の先行する制度や実務を研究し、日本に新たな担保制度が導入された際の融資実務や活用のあり方のイメージを具体化するため、米国・英国の全資産担保に関する制度や実務慣行の特徴や、そこから得られる日本の実務への示唆について委託調査を実施しました。本年3月31日に本委託調査における成果を取りまとめ、報告書を公表しました※3。本稿では、本報告書の主なポイントをご紹介します。

2.米国・英国の全資産担保や全資産担保を活用した融資実務の概要

米国・英国では、両国において担保制度の違いはあるものの、将来取得する資産も含めた全ての資産(all assets)に対して担保権を設定し、担保権の実行時等においては事業を一体として処分する方法が認められています。日本でも、LBOファイナンス等では、不動産、動産、売掛債権等の事業を構成する個別資産毎の担保権を設定し、事実上全資産に担保を設定するという実務が行われていますが、こうした担保権はあくまで個別資産を積み上げて、換価価値を把握するにとどまります。また、特に債務者の協力が得られない場合に事業全体を一括して処分する実行方法が制度上整備されているものではありません。

米国・英国では、中小企業向けを含め、全資産担保を活用したキャッシュフローレンディングの実務が浸透しています。このような実務においては、事業キャッシュフローが第一の返済原資として捉えられるため、債権者と債務者の双方に、両者間で良好なリレーションを構築・維持し、モニタリングを通じて債務者の経営状況の悪化について早期に気付き対応することを動機付けています。

3.融資契約・期中管理における米英の全資産担保を活用した実務の特徴

(a)財務コベナンツの設定

債権者と債務者間の関係性の明確化や債務者に対するモニタリングの実効性確保を実現する観点から、米国・英国における全資産担保を活用したキャッシュフローレンディングでは、契約時に、事業キャッシュフローやバランスシート等に関する項目について一定の水準を下回らないよう維持することを求める財務コベナンツ(中小企業向け融資の場合は2~3項目程度)やその報告義務に関する条項を設定する実務が定着しています。

日本では、シンジケートローン等以外の融資において、財務コベナンツが設定されることは一般的でありませんが、債務者の特性に応じた財務コベナンツ等を設定する米国・英国の融資実務は、日本における中小企業向けを含む融資において、債務者とのコミュニケーションを深化させる上で参考になり得ると考えられます。

(b)債権者間協定の締結

米国・英国の全資産担保を活用した融資では、後順位の担保権が設定された場合、担保権者間であらかじめ極度額や担保権実行時の充当方法等を定めた債権者間協定が締結されることが一般的です。契約時に債権者間の利害関係の調整を図っておくことで、債務者の経営状況が悪化した場合においても、債権者間の調整に時間を要することなくリストラクチャリング等を進めやすくなります。こうした実務は、日本においても、債権者にとっては事業性融資におけるコストや不確実性をコントロールしやすくし、債務者にとっては多様な資金調達を可能にするような融資実務を発展させていく上で参考になり得ると考えられます。

4.実行・再生局面における米英の全資産担保を活用した実務の特徴

(a)経営悪化時の対応

全資産担保の活用により、債権者にとっては、担保価値である事業価値の毀損を防ぎ回収価値の最大化を図るインセンティブが生じ、債務者にとっては、担保権実行等による事業譲渡等を回避するため、財務コベナンツの遵守、ひいては、事業価値の維持・向上に対して強いインセンティブを有することになります。債権者と債務者との間で事業継続に向けた目的意識を共有することで、モニタリングを通じた早期の経営悪化の察知や、経営改善に向けた早期かつ積極的な協議や対応の着手が可能になっていると考えられます。こうした実務は、事業者支援に資する融資実務のあり方について検討する際に重要な要素であると考えられます。

(b)多様な担保権実行等の方法

米国・英国では、全資産担保の実行方法等について、債務者との合意に基づく任意の事業譲渡、強制的な実行方法として裁判所が関与しない方法及び裁判所が関与する方法といった多様な手段が用意されています。多様な実行方法等が用意されることで、仮に、担保権実行等に至ってしまった場合にも、債務者の状況に応じて、事業を継続した形での対応を柔軟に行うことが可能になると考えられます。こうした制度や実務は、日本においても事業価値の維持・向上に着目した実務を促進させるものとして参考になり得ると考えられます。

米国・英国の全資産担保融資実務のイメージ

5.おわりに

事業成長担保権の活用が契機となり、金融機関と事業者との緊密な信頼関係の構築やコミュニケーションが促進されることで、金融機関は事業者に対して、支援の幅をより広げることができると考えられます。金融機関が事業者のニーズに応じた多様な支援を提供することは、金融機関と事業者の双方にとって重要です。

金融庁では、本報告書の内容も踏まえ、引き続き、金融機関と事業者等の制度利用者にとってより使いやすい制度設計の検討を深めていくとともに、事業成長担保権の活用も含め、金融機関が企業の事業性に着目した融資により一層取り組みやすくなるような環境整備に関する議論を進めてまいります。

本報告書が、事業成長担保権の活用を検討する、金融機関をはじめとする関係者の皆様にとっても一助となれば幸いです。


※1 「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」の詳細は、こちらをご覧ください。https://www.fsa.go.jp/policy/jigyou_tanpo/index.html

※2 本年2月10日公表 「金融審議会『事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ』報告の公表について」:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210.html

※3  公益社団法人商事法務研究会(受託先)において、弁護士や金融実務家等をメンバーとした研究会を設置し、全資産担保制度を活用した米国・英国の制度や実務慣行等について調査・議論を行い、報告書を公表しました。https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230331/20230331.html


地域金融機関の事業者支援能力向上を後押しする取組み(後編)

~AI技術を活用した経営改善支援の効率化~

監督局銀行第二課地域金融企画室  

課長補佐 薄井 廣太郎、岡村 龍嗣

係長   松本 伸弥、横山 祐希 

(前)監督局総務課地域金融支援室  

課長補佐 吉原 翼        

1.地域金融機関の事業者支援能力の向上に向けて

地域金融機関は、地域経済の要として、事業者を支えることを通じ、地域経済の成長に貢献していくことが期待されています。特に足もとでは、幅広い地域・業種の多くの事業者において、新型コロナウイルス感染症や物価高等の影響が生じ、事業者にとって身近な地域金融機関が、効果的・効率的に支援に取り組む重要性が高まっています。

アクセスFSA4月号では、地域金融機関の事業者支援能力を向上させる「自助」の取組みの後押しとして、金融機関の現場職員が取引先企業への経営改善支援の初動対応において着目すべき点を業種別に整理するための調査の成果として取りまとめた『業種別支援の着眼点』についてご紹介しました。本稿では、「地域金融機関の事業者支援能力向上を後押しする取組み」の後編として、AI技術を活用した経営改善支援の効率化に向けた事業をご紹介します。

2.AI 技術を活用した経営改善支援の効率化に向けた調査・研究

地域金融機関では、膨大な取引先企業に対して、より早期の経営改善が必要な先を選定して、営業現場等での支援に繋げています。こうした、取引先企業の中で早期の経営改善支援に着手するための優先順位付けを、より効率的・効果的に行うために、AI技術を活用する仕組みを構築できないか、といった調査・研究を、あずさ監査法人を委託先とする委託調査事業として実施しました。

当該調査・研究では、まず、企業の個別の財務データ(貸借対照表や損益計算書のデータ)及び属性データ(業種や業歴などの企業の性質や特徴を表すデータ)に関するビッグデータと、GDP成長率や原油価格といった外部環境データの関係を、機械学習の手法で分析することにしました。

企業のビッグデータについては、2022年4月にデータ提供が可能な共同研究先を募集し、信用調査情報を有する株式会社帝国データバンクや金融業界の横断的な信用リスク情報サービスを提供する業界団体その他の4社の協力を得ることになりました。これら4社から提供いただいた、企業の個別の財務・属性に関するビッグデータと外部環境データの関係を用いて、

  • (ⅰ)経営改善の必要性が高いと考えられる先を早期に発見すること
  • (ⅱ)現状は業績が悪いが経営改善の可能性が高い先を発見すること

の2つを開発コンセプトとした機械学習モデル(以下「本AIモデル」という。)を構築しました。

本調査・研究のモデル構築イメージ

3.本AIモデルの概要

当該調査・研究では、委託先事業者において、①本AIモデルの開発手順や、採用するAIアルゴリズム、本AIモデル開発におけるデータの取扱いの検討、②構築した本AIモデルの予測精度の向上、③本モデルを金融機関実務で活用できる可能性の検討のため、AI技術に関する研究者や金融実務家等の有識者※1からなる研究会を計4回実施しました。

この中で、AIアルゴリズムの精度・予測結果の解釈の容易性・金融業界における利用実績等の軸で様々なAIアルゴリズムを評価し、本AIモデルでは「ロジスティクス回帰※2」「ランダムフォレスト※3」「勾配ブースティング※4」の3つを採用することにしました。

また、本AIモデルの母集団及び教師ラベル(本AIモデルによって検知すべき事象が発生した場合を正解とする変数)の定義においては、各共同研究先のデータの特徴や差異も踏まえて、各企業の債務者区分や信用スコアを業績評価の指標として採用しました。

具体的には、開発コンセプト(ⅰ)においては、本AIモデル母集団を債務者区分が元々は安全な区分であった企業群とし、一定期間のうちに債務者区分が下落した企業を早期の経営改善支援の必要性が高い先として教師ラベルを定義しました。

こうした検討・研究会での議論を経て、各共同研究先のデータを基に、約380種類のモデルを開発し、この中から、一定の精度が認められた本 AIモデルを開発しました。

4.実証事業・ワークショップ

構築した本AIモデルについて、地域金融機関での活用可能性を検証するため、一部の地域金融機関の協力を得て、実証事業・ワークショップを実施しました。

実証事業においては、本AIモデルに実際の地域金融機関のデータを用いることで、

  • ①本AIモデルが実際の金融機関のデータにおいても有効に機能するか
  • ②本AIモデルに実際の金融機関のデータを追加で学習させた場合、モデルの精度向上が図られるか

の2点について検証を行いました。

その結果、個別の地域金融機関の保有する取引先企業データの下でも、本AIモデルは一定の精度が得られた上、それぞれの金融機関のデータを追加で学習させた場合には、より高い精度が得られました。

また、各地域金融機関における経営改善支援の既存の業務フローに本AIモデルを用いることによる業務効率化の可能性等を検証するためのワークショップを実施しました。

本AIモデルからの出力結果をもとに、各地域金融機関の現場担当者と対話する中で、現行業務の課題と本AIモデルを活用することによる業務効率化の可能性について、以下のような点が伺え、各地域金融機関における経営改善支援に着手すべき取引先企業の優先順位付けが、より効果的・効率的に実施できる可能性が示唆されました。

(現行業務の課題)
・経営改善支援先の選定は現場担当者の主観となっている
経営改善支援先の選定は、最後は人の目で実施するため、相応の時間がかかり網網羅性がないこともある
(本AIモデルの活用可能性)
・経営改善支援先を選定する担当者ごとのバラつきを抑えることができるのではないか
・本AIモデルの活用によって全取引先企業を対象として、より容易に経営改善支援先を選定できるのではないか

本AIモデルは金融庁ウェブサイトより申請いただくことで、地域金融機関を始めとした希望者への配布も実施しています。地域金融機関においては、本AIモデルをプロトタイプとして研究・活用することをきっかけとして、保有するデータの整備や業務の効率化・高度化へのデータの利活用が進むことで、各金融機関、ひいては取引先の地域企業のみなさまの経営改善に繋がっていくことを期待しています。

AIモデルの利用申請はこちらから  https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/index.html#ai


※1 研究会委員(計13名)の一覧は以下の通り。※敬称略

  • 有竹 博史 東京信用保証協会 業務総轄室 業務総轄部長
  • 和泉 潔  東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学 教授
  • 内山 功士 浜松いわた信用金庫 デジタル推進部 デジタル業務課 課長
  • 河合 祐子 Japan Digital Design株式会社 代表取締役CEO
  • 三川 剛  株式会社エルテス 取締役
  • 鈴木 明美 大東京信用組合 常勤理事・総合企画部長
  • 筒木 光  TKC全国会システム委員会 TKC経営指標編集小委員会 委員
  • 中村 康浩 株式会社横浜銀行 融資部 担当部長
  • 名取 良訓 信金中央金庫 総合企画部しんきんイノベーションハブ 次長
  • 原 浩二 株式会社栃木銀行 事業支援部 主任調査役
  • 松﨑 堅太郎 TKC全国会中小企業支援委員会 副委員長
  • 宮川 大介 一橋大学 経営管理研究科 経営管理専攻 教授
  • 矢内 紘之 株式会社帝国データバンク 企総部 企画課長

※2 下図のようなロジスティック曲線を用いて、目的変数を回帰分析の手法で予測する方法。金融機関実務において企業の信用力評価に最も活用されているとされる。

ロジスティクス曲線の図

※3 多くの決定木モデルを構築し、多数の決定木の予測値の平均値を最終的な予測値とする方法。

決定木モデルの図

※4 決定木を構築し、当該決定木が外したサンプルに当てはまるようにウェイトを調整して、次の決定木を構築する。これを繰り返して最終的な予測値とする方法。

決定木モデルの繰り返しの図

ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正について

監督局証券課 資産運用モニタリング室

資産運用調整官 中川 元宏

近年、名称や投資戦略において、ESGを掲げるファンドが国内外で増加しており、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念(グリーンウォッシング問題)が世界的に指摘されています。金融庁では、市場の信頼性を確保し、ESG投資の促進及び持続可能な社会の構築を図るため、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(Ⅵ-2-3-5。以下「本監督指針」)を改正し、我が国におけるESG投信の範囲やESGに関する公募投資信託の情報開示と投資信託委託会社の態勢整備についての具体的な検証項目を定めることとしました。

本監督指針改正は、パブリックコメントにおいて合計323件のご意見等をいただき、比較的注目度が高いものでした。今回は、改正のポイントを簡単に紹介いたします

1.ESG投信の範囲

本監督指針は、国内籍の公募投資信託において、ESGを考慮する場合の投資信託委託会社における留意事項を定めています。そして、そのような公募投資信託の中で、ESGを投資対象選定の主要な要素としており、かつ、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、ESGを投資対象選定の主要な要素としていることの内容を記載しているもの(ファンド・オブ・ファンズ形式などの外部委託運用の場合は、投資戦略やポートフォリオ構成を踏まえて判断される)を、「ESG投信」と定義しました。「ESG投信」は、ウォッシュの懸念を避けるべく、ESGを投資戦略の中でどのように考慮しているか等の情報開示が求められることとなります。

定義における「主要な要素」の意味については、ESGが決定的に重要な要素となっている場合(例えば、設定したESGの基準を満たさない場合には投資対象に含まれない、又は、設定した基準に応じて投資割合が決定されるような場合)には、「主要な要素」に該当しますが、投資対象の選定において、財務指標等など他の要素と並ぶ一要素としてESGを考慮するような場合は、ESGが重要な要素であったとしても、「主要な要素」に該当しません。

2.ESGに関する公募投資信託の情報開示

本監督指針において、「ESG投信」に該当しない公募投資信託は、その名称や愛称にESGに関連する用語が含まれないこと、交付目論見書や販売用資料、広告等のESGに関する記載が、当該公募投資信託がESGを投資対象選定の主要な要素にしていると投資家に誤認されるような説明とならないようにすることが求められます。

「ESG投信」に求められる情報開示項目としては、投資対象の主要な要素となるESGの具体的内容や運用プロセスへの勘案方法等といった投資戦略やポートフォリオ構成に関する目標や目安、ESG指数への連動を目指す場合の参照指数におけるESGの勘案方法等があり、これらの進捗や状況等についての定期開示も求められます。開示が困難である事項がある場合には、開示できない理由を記載する必要があります。

開示に関する取組みは目論見書への反映等、一定の期間を要すると考えられるところ、対応期限は設定していませんが、合理的と考えられる期間内に、速やかな対応が期待されます。

3.投資信託委託会社の態勢整備

ESGを取り扱う投資信託委託会社の組織体制について、投資戦略に沿った運用を適切に実施し、実施状況を継続的にモニタリングするためのリソースを確保していること、ESG評価・データ提供機関を利用する場合には、当該機関の組織体制や評価の対象等のデューディリジェンスを適切に実施していること等を求めています。

この部分については、「ESG投信」以外のESGを考慮する公募投資信託を設定・運用する投資信託委託会社にも適用されます。

4.おわりに

本監督指針は、国内籍公募投資信託及びその設定・運用を行う投資信託委託会社に対象を限定した内容としておりますが、今後の投資信託委託会社をはじめとしたESGを考慮するファンド等の運用や販売に関係する業界の対応や国際的な動向を注視し、必要に応じて見直しを行うことも考えられます。

業界関係者の本監督指針の趣旨を踏まえた積極的な開示や態勢整備等の対応を期待しております。


 監督指針の改正内容及びお寄せいただいたご意見等の概要は、本年3月31日公表 「ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」をご覧ください。https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210.html


証券取引等監視委員会「中期活動方針(第11期:2023年~2025年)」
~時代の変化に対応し、信頼される公正・透明な市場のために~

証券取引等監視委員会事務局総務課

市場監視調整官 福留 宰

係長      河西 耕三

係員      金高 彩子

はじめに

証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」)では、昨年12月、中原委員長と橋本委員が新たに就任し、再任された加藤委員とともに、第11期が発足しました。そして本年1月、新たな体制の下、3年間の任期における取組方針等を示した「中期活動方針(第11期:2023年~2025年)」を策定・公表※し、順次本方針に関する関係機関への説明会を開始しました。本稿では、本方針の概要を紹介いたします。

中期活動方針の概要

中期活動方針には「時代の変化に対応し、信頼される公正・透明な市場のために」というサブタイトルを付しています。デジタル化や国際化の進展等に加え、新型コロナウイルス感染症や地政学リスクの高まりなど、市場を取り巻く環境が大きく変化する中で、証券監視委としては、「Ⅰ.網羅的な市場監視に向けた情報収集・分析」をもとに、「Ⅱ.効果的・効率的な調査・検査」を実施し、その結果を踏まえ、「Ⅲ.市場規律強化に向けた実効的な取組み」を行うことで、違反・不適切な行為の抑制に貢献していくという「市場監視の好循環」の実現を目指していきます。また、その礎として、デジタル対応や人材育成といった「市場監視の専門機関としての能力向上」に取り組んでいきます。

証券取引等監視委員会 中期活動方針

第1の柱「網羅的な市場監視に向けた情報収集・分析」では、市場監視を隈なく行っていけるよう、有用な情報の収集や市場の変化等の把握・分析等に取り組んでいくとしています。特に、有用な情報の収集は、証券監視委設置当初より取り組んできたことではありますが、その重要性に鑑み、情報提供窓口・自主規制機関等を通じて幅広く収集していく旨を明記しました。

第2の柱「効果的・効率的な調査・検査」では、課徴金等の行政機能の迅速な発揮、重大・悪質な事案への厳正な対処を適時適切に実施していく施策を盛り込んでいます。高齢者や若年者をはじめとする多様な投資者の保護の観点から投資者被害事案に対しても積極的に取り組むほか、市場監視対象が複雑化・高度化する中で、非定型・新類型の違反行為等(潜脱的な大量保有・買付け、新たな類型の偽計等)に対しても、広い視野を持って対応していきます。

第3の柱「市場規律強化に向けた実効的な取組み」について、記者ブリーフィング、プレスリリース、事例集等の様々なチャネルを通じた情報発信の強化や、自主規制機関をはじめとする関係機関との連携等を通じて、違法・不適切行為の未然防止や市場監視の実効性の向上を目指していきます。

以上3つの「市場監視の好循環」の礎としての「市場監視の専門機関としての能力向上」については、高速取引の増大を背景としたデータ処理力の向上や研修・OJT等による職員の育成・活用等を通じて、組織としての能力の向上に努めていきます。また、市場監視機能の一翼を担う全国各地の財務局との協働・連携は証券監視委の使命を果たしていく上で不可欠であるとの考えの下、今回中期活動方針にその旨を明記しました。財務局とは引き続き情報共有等をしっかりと行い、一体的な業務運営を図っていきます。

中期活動方針の説明会の開催(関係機関との連携強化に向けて)

証券監視委は、市場の公正性・透明性の確保や投資者保護の観点から、自主規制機関や金融商品取引業者、監査法人等の市場関係者との連携が不可欠であるとの考えの下、これらの関係者を対象に、中期活動方針に盛り込んだ各種施策に関する説明会を順次開催しております。こうした説明会の場をはじめ様々な機会を捉えて、市場監視に関する情報や問題意識の共有等を適時に行っていきたいと考えております。

写真:中原委員長(上)、加藤委員(左下)、橋本委員(右下)による説明会の様子。説明会はオンラインと現地開催のハイブリッドで、各地で開催している。


 本年1月27日公表 証券取引等監視委員会 中期活動方針(第11期:2023年~2025年)~時代の変化に対応し、信頼される公正・透明な市場のために~:
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230127-1.html新しいウィンドウで開きます


「グローバル・マネーウィーク2023 金融庁特別企画 ~みんなで考えよう!これからの金融教育~」の開催

本年3月29日、グローバル・マネーウィーク2023金融庁特別企画 ~みんなで考えよう!これからの金融教育~ を開催しました

グローバル・マネーウィーク(Global Money Week)は、2012年から始まった子供・若者に対する金融教育・金融包摂の推進のための国際的な啓発活動で、現在はOECDに事務局を置く「金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)」が主催しています。本年、日本においては、3月11日から31日までの約3週間をグローバル・マネーウィークの開催期間としておりました。そして本イベントは、INFE参加当局である金融庁の主催企画として、金融経済教育を中心的に担っていただく教職員や教育関係者をメインターゲットとして開催されました。

イベントでは、東京学芸大学附属高等学校 桒原智美先生、桜修館中等教育学校 原直子先生、㈱イー・カンパニー代表 八木陽子氏をお招きし、約1時間にわたるパネルディスカッションを実施、その様子をオンラインで配信しました。

イベントの様子

2022年4月の高校家庭科における新しい学習指導要領の実施に伴い、金融経済教育の内容が拡充されて約1年。この1年の間に、先生方からは授業の進め方に対して、多くの戸惑いの声が寄せられておりました。そこで、教育現場の現状や金融教育の実践例、工夫点、今後の課題等について、桒原先生、原先生からご紹介いただきました。加えて、金融教育に関するイベントの企画・運営なども行っているファイナンシャル・プランナーの八木様から、自身の経験を交えてコメントや質問をいただき、白熱した議論が展開されました。

イベントでの集合写真

ディスカッションの終盤には質疑応答の時間を設け、視聴者からの質問に対してパネリストが経験を交えながらお答えしました。「これからの金融教育を考えるにあたって大変参考になった」、「パネリストの先生方にご紹介いただいた授業を参考に、自らも工夫して金融経済教育に取り組んで行きたいと思った」等、視聴者からは前向きなコメントが多く寄せられました。


 「グローバル・マネーウィーク2023金融庁特別企画 ~みんなで考えよう!これからの金融教育~」 の詳細はこちらをご覧ください。 https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230303/20230303.html


先月の金融庁の主な取組み(令和5年4月1日~4月30日)


編集後記

GW中「コロナ前の水準」「コロナ前を上回る水準」というニュースを多く耳にすることができ、日常が戻ってきたこと実感しました。

これからますます本格的な回復、そしてコロナ前を超える活気を期待したいと思います。

そんな中、ふとカレンダーを眺めていたら、10週間ほど祝日がない現実に気づいてしまったのですが、ときには戻って来た賑わいを楽しむ心の余裕を持ちながら、海の日に辿りつきたいと思います。

  • 金融庁広報室長 守屋 貴之
  • 編集・発行:金融庁広報室

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