五味金融庁長官記者会見の概要

(平成18年3月13日(月) 17時01分~17時20分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

先週金曜日、関東つくば銀行が茨城銀行との合併見送りを発表しました。両行の合併は、金融機能強化法に基づき合併時に公的資金を注入する第一号として注目されたものですが、発表は関東つくば銀行から突然一方的に行われたもので、茨城銀行側は損害賠償請求も視野に入れているようです。長官としては、こうした経緯も踏まえてこの問題についてどの様に考えておられるのか、金融システムへの影響や今後の対応はどうか、御所見をお願いします。

答)

先週金曜日10日に関東つくば銀行が茨城銀行との経営統合を見送る旨の発表を行われたこと、そして、同日茨城銀行が当該経営統合の見送りには合意していない旨述べられたということを承知しております。更に、茨城銀行は本日経営統合に向けた今後の協議を中止することを公表したと聞いております。

一般論で申し上げることになりますが、経営統合というのはすぐれて銀行経営者の経営判断の問題でありまして、それぞれの銀行経営者の誠意と責任のある対応が重要であると認識しています。特に経営統合というのは当事者間の合意と共通認識が重要でありまして、当事者間の適切な意思疎通が欠かせません。一旦合意をし、且つ発表をした統合を見送るというのであれば、経営統合に合意できないということについて双方が合意をする、その上で発表をするべきものであろうと考えます。当事者の一方による一方的な統合解消の宣言というのは、取引先、株主或いは従業員の皆さん、こういった広い意味でのステークホルダーを戸惑わせるものであると考えています。

なお、金融システムへの影響というお話ですが、両行の財務状況は不良債権処理を含めまして改善の途上にあると承知をしており、両行それぞれ改善に向けた努力を継続していくものと承知しております。いずれにしましても当局としては、今後両行が適確な経営管理の下で、健全、適切な業務運営を行っているかどうかの点について注意深く見守っていくこととしたいと考えています。

問)

先週、あいおい損害保険が積立保険の商品説明に誤記があったと発表しましたが、今日、損保ジャパンでも同様の誤記があったと発表しています。長官の御所見と金融庁の対応についてお願いします。

答)

あいおい損害保険において、積立保険の商品説明に注意文言の記載漏れがあったということでございますが、この点については、保険契約者保護及び保険募集の公正等の観点から、誠に遺憾であります。当局では2月に監督指針を改正して、各保険会社の広告審査体制の一層の充実促進の観点から留意点の追加をしております。一つは募集用の資料等について、本社で集中管理する等の方法によって表示内容に係る審査がもれなく行われる体制となっているかどうか、或いは第二に契約者からの苦情等において表示上の問題が指摘されているというような場合等には、その内容について分析をして、問題が認められた場合は改善のための適切な対応がとられる体制となっているか、こういった留意点を追加しているわけです。保険会社におかれましては、こうした観点も踏まえて、まずもって自ら適正な募集管理態勢の構築に努めることが必要であると考えております。

なお、御質問の中に損保ジャパンのお話がございましたが、損保ジャパンにおいて商品説明に誤記があった旨の発表を行っておられることは承知をしておりますが、現在損保ジャパンにおいてこの点についての調査を進めておられる段階であるということでございまして、当局からこの段階でのコメントは控えさせていただきたいと思います。いずれにしても、なぜこういう問題が発生するのかという原因の究明が非常に大切でありまして、広告審査体制の一層の充実を当局としても各社に促して行きたいと考えています。

問)

日銀の量的緩和策が解除されましたが、今後の金利動向や金融機関の業務に与える影響についてどの様にお考えになるでしょうか。

答)

今後の金利動向ということになりますと、これは日銀において引き続きゼロ金利政策が実施されるという点、或いはマーケットの実際の動向等、色々な要素によって決まってくると考えられますので、どういう動向になるということを一概に言うことは難しいと考えています。

金融機関の業務に与える影響ということは、一般論で申しますと、仮に今後金利が上昇して行くと仮定しました場合には、債券価格の下落による評価損が金融機関に発生することが考えられます。他方で今回の量的緩和策の解除というのがその背景としてデフレ脱却が前提となっているということで企業業績の改善が同時進行していると考えるとするならば、金融機関にとっては信用コストの低下、或いは保有株の価格の上昇、こういったことが金利上昇と同時に発生する可能性があるわけです。こうした場合にはこれらの効果が債券価格の下落による評価損を打ち消す面もあるであろうということで、一般論としては、こういったメカニズムもひとつ有り得るかなということでございます。

いずれにしましても各金融機関では、この金利変動リスクを注視して適切なリスク管理を行っていただくことを期待したいと考えています。金融庁としてはどんな場合であっても金融機関の経営の安定を確保して、利用者が安心感を持って利用できるような金融システムを構築することが行政の基本でございますから、今後も引き続き適切な検査・監督を実施して金融システムの安定を図りたいと考えます。

なお、金利の変動に関連して、変動金利型の住宅ローンが増加しているという実態がございますので、この点を踏まえますと、仮に今後金利が上昇した場合には、金融機関の利用者のうち住宅ローンの利用者の負担が上昇することが考えられます。この住宅ローンについてのこれまでの取組みとしては、当局側では平成14年銀行法を改正いたしまして、貸出しを含む業務全般について十分な説明体制の整備を義務付けました。昨年の主要行等向けの監督指針において、住宅ローンに関する説明についての具体的な規定も盛り込んだところです。また、業界側、全銀協におかれましては平成16年12月に変動金利型等の住宅ローンについて、利用者に対して十分な説明を行うこと等を内容とする申し合わせを行っておられます。

今後で申しますと、4月から施行されます改正銀行法によりまして新たに銀行業務に係る禁止行為が定められております。13条の3という条文になりますが、その具体的な禁止行為を現在パブリックコメントにかけておりますが、施行規則に定める予定にしております。この施行規則において、顧客の判断に影響を及ぼす重要な事項について告げないこと、というのを禁止行為に挙げるということを予定して現在パブリックコメントにかけております。この様なことも踏まえまして、各金融機関におかれましては引き続き金利上昇リスク等について顧客への十分な説明を行ってその理解を図るように務めていただきたいと考えております。

問)

保険の返戻金に関する説明文言の記載漏れの件ですが、監督指針の点に触れられましたけれども、これは保険業法300条とかに直接的に違反する事実ではないのでしょうか。

答)

どの案件、どういう状況だと保険業法の説明義務違反になるかというのは、やはりその事柄の態様によって個々に判断することになります。ですから、今この段階でこの案件が法律違反かどうかという点についてのコメントは控えさせていただきます。

問)

同じくあいおい損保の件ですけれども、説明の記載漏れに伴う損害と言いますか、それに対する支払いの用意はあるということで、約200億円を支払う準備はあると言いますが、約款に基づくとこれは事情が違いまして、支払う必要がないのではないかという解釈が成り立つと。そうすると、仮にそこで支払うということは、特別利益の提供ではないかという見方があるかと思いますが、その点如何でしょうか。

答)

保険契約を行うにおいて、適切な説明を行うというのも保険会社の大事な任務でありまして、先般懇談会からも必要な説明事項を分かりやすく、読みやすくしたものを提示するという提言がなされているわけでございます。ですから、今のお言葉をそのまま解しますと、約款にさえ書いてあれば説明しなくてもいいのかと極端なところまでいってしまいますが、これはそう簡単な問題ではないと思います。あらゆる保険契約者に約款の詳細をすべて読み込み、理解した上で、契約しているはずだから、約款に書いてある以上、何の責任もないのだということは、これは成り立ちません。やはり、分かりやすい説明と契約者の理解が前提になってきます。

問)

今日、証券取引等監視委員会がライブドアを告発するようですが、今回の事件についての受け止めと、市場行政において何か課題が浮かび上がるものがあれば、改めてお伺いしたいと思います。

答)

告発に関連しては監視委員会の独立の権限ですので、私からコメントできることはありません。

前から申し上げていますけれども、証券市場に限らず金融資本市場全般が、正常に機能するために必要な二つの要素、絶対欠かせない二つの要素というのがあって、それは、投資家に正しい情報が開示されて、それに基づいて投資家が投資判断をすること。それからもう一つは、具体的な取引において、不正な取引が行われないこと。嘘といかさまがない市場でなければ、そこに参加する投資家に自己責任を問うことは難しくなるということが基本であろうと思います。

この事件は既に捜査中という話でございますから、この事件そのものについてコメントすることはできませんけれども、この正しいディスクロージャーと公正な取引という二つのものを確保するために、やらなければいけないことは監督者であれ、或いは市場に参加している発行体、仲介者、投資家、どの方であれ守っていかなければ、結果的には日本経済の発展のインフラストラクチャーとなっている市場を壊していってしまうことになると思います。当局としては、その点で、ルールメイキングの分野でやらなければいけないことはできるだけ迅速に対応したいと思います。今回の金融商品取引法でも様々な改正を織り込んで、国会での御審議を待っているところですが、それに加え具体的な監督業務、これは取引所の監督であれ、証券会社等の仲介者の監督であれ、そういった場面でもその時々の状況を踏まえて的確な市場の運営ができるような体制を求めること、そういうことをしていく必要があると思います。同時に投資家の皆さんには、金融経済教育といったものも含めて、投資家として最低限常識として持っていなければいけない知見を持った上で、市場に参加していただくことも必要であろうと考えています。こうした様々な課題に、それぞれの場面に応じて、的確に対応していきたいと考えています。

問)

損保の説明をしなかった件ですが、各社に対して一層の広告審査体制の充実を促していくというお話を先ほどされたのですけれども、これは金融庁として、具体的にどういうアクションを取っていかれるのでしょうか。

答)

ちょっと御説明が不足していました。今回のあいおい損害保険の件においての原因の究明など、更には損保ジャパンにおいても現在調査中とのことですから、何が原因であったのかということをよく分析した上で、それがその会社に特有の、言わば一過性の特殊要因によるものであったのか、或いは一般的に損害保険を経営する会社では注意しなければいけない、そういう原因に基づいている可能性があるのか、この辺をよく分析した上で、その上で必要があるならば、具体的に改善の方策を促していきたい、こういうことでございます。

問)

みずほFGが公的資金の返済目途がたったという理由で、4年間にわたって凍結されていた西村旧日本興業銀行頭取と山本旧富士銀行頭取、それから杉田旧第一勧銀頭取の元トップ3人に対する退職慰労金の支払いを検討する動きがあるようですけれども、シナリオとしては、18年度の公的資金返済の枠組みを決める6月の株主総会で併せて退職金の支払いも承認するか、完済後の来年6月の総会の二通りが考えられるということですが、2年前にも同様の動きがあって、当時の竹中大臣を始め、金融庁が公的資金注入行としての立場を踏まえた慎重な対応を求めたために支払いを見送った経緯があると承知しておりますが、こうした経緯も踏まえて今回の動きについて、どうお考えになりますか。

答)

私、そうした動きを具体的に承知しているわけではございませんし、また御相談をいただいているわけでも勿論現状ではないわけでございます。経営判断に密接に関係する話であると同時に、現状公的資金注入行として、国民の理解を得られる経営をしていただかなければいけないということがございますので、この場でのお答えは控えさせていただきます。

(以上)

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