五味金融庁長官記者会見の概要

(平成18年12月25日(月)17時01分~17時22分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

日興コーディアルグループについて、今日の臨時取締役会において経営トップの辞任が決まりました。こうした経営責任の明確化についての対応につきまして、長官ご自身のご所見をお願いいたします。

答)

人事そのものは私がコメントする立場にはない、これは会社の経営判断なりの問題であるということでございますが、現状、日興コーディアルグループにとっての急務は、企業としてのガバナンスを早急に回復確立することであります。日本有数の大手証券会社を子会社として持つ、そうした持株会社について、こうした状況になっているわけですので、日興コーディアルグループ全体がガバナンスを回復するということは、即ち日本の証券市場に対する信任の回復のために不可欠であるということであります。新しい経営陣の皆さんにはここを十分に自覚していただいて、ガバナンスの回復確立、これに今日から大いに努力をしていただきたい、そう考えております。

問)

今日が今年最後の記者会見ということですが、今年1年を振り返ってみて総括といいますか、長官ご自身のご所見をお願いいたします。

答)

ライブドア事件に始まって、日興コーディアルグループのお話で終わりにしたいのですが、まだあと何日かありますが、今年が終わるということで、そうした話題をさらうような事件というものが多かった年でありますが、それに目を奪われていてもいけない。冷静に見ますと私はこの1年間というのは、アウトプットの年であったかなと思います。このアウトプットを来年以降、アウトカムに結びつけていくか、これを真剣に考えていかなければいけないということであったように思います。言うまでもありませんが、市場の整備という観点から言いますと、既に数年前になりますが西武鉄道、カネボウ、こういった事件に始まり、その後様々なことが起こる中で、市場の整備のための枠組み作りといった色々な形で必要になっているということが認識をされ、その都度対応をして参りました。今年の出来事ということで申しますれば、何よりも金融商品取引法制、これができたということでございます。そして、それに留まりませんでこの市場ということに関連しますと、与謝野前大臣の下に有識者懇談会が設けられまして、そこで、証券取引所に関する相当基本的な問題について、明快な方向性が示されたと。それに沿って東京証券取引所を中心に様々な取組みが開始されているということ。或いは監査法人を巡る問題も噴出いたしましたけれども、これに関連して公認会計士制度部会からの報告書が出されまして、法制化の作業も既に着手されているといったこともございました。企業のガバナンス、ディスクロージャーの正確性ということに関しましては、同じくこれは当庁の審議会におきまして、内部統制の報告制度といったようなものが提言をされたということがございました。このように制度の面で具体的な枠組みというものが出来上がり、或いはその骨格が示されて具体化を待つばかりというようなことになってきた。こうしたような1年だったと思いますし、またこうした市場のメカニズムと少し違ったところで、着眼する必要があります全般的な利用者保護、投資家、消費者、一般を含めました広い意味での利用者の保護という意味では、やはり貸金業法の改正というものが行われた。これはアウトプットでございますね。そういうものもございますし、また、利用者の中でも大事な部分を占めます中小企業者の皆さん、こうした皆さんの資金調達の迅速化、或いは拡大ということに係るための電子債権、電子登録債権制度こういったものについても法制化に向けての具体的な考え方が示され、法務省と共同で作業ができることになった。色々ございましたけれども、このように様々なアウトプットがここ数年の課題といったものに対応して出てきた1年間であったと思います。課題はこれを具体的にアウトカムにつなげて効果的な思索というものにつなげていって、その成果が現れて日本の市場の信任というものを確立し、さらにその利便性を高め、国際的にも評価されるものにしていくと利用者の保護というものが実効性のあるものとして、利用者の皆さんからも指示されるような形で実行されていくような体制を整えていく。これが課題となるというような、総括というとこんなことではないかと思います。

問)

日興コーディアルの問題ですが、監査法人の責任について、今となっては明らかに誤った決算について承認を与えていたわけで、その点についてどのようにお考えになるか、そして、どのように対応なさる方針かお聞かせください。

答)

進行中の事案ですので、一般論でお答えいたします。公認会計士或いは監査法人は、企業財務情報の信頼性確保についての重大な役割を担っております。従って仮にその職責を果たさず、適正な監査を行なっていなかったということが確認されましたならば、法令に基づいて職業専門家としての責任が問われていくことになるということでございます。監督当局としての対応、これも一般論でございますが、情報収集を行いまして、公認会計士法上の問題となる事項があることが確認されましたならば、必要な調査を行いまして、法令に則って適切な対応を取る。こういうことになります。

問)

日曜日、協同組織金融機関の新しい仕組みといいますか、問題について報道されたところなのですが、おそらく、将来的な問題と地域経済の活性化みたいな話が絡んでくるような気がするのですが、現在の状況やお考えのようなものがありましたらお願いします。

答)

規制改革民間開放推進に関する第三次答申の案が公表されているわけでございまして、そこで信用金庫、信用組合が果たすべき今日的な役割を踏まえて、業務や組織のあり方を総合的な観点から見直しすべく検討をする必要があると、こういうことが言われているわけでございます。振り返りますと、信用金庫と信用組合のあり方についての検討というのは、平成2年に当時の金融制度調査会で議論されまして以来16年経過しておりまして、その間、様々な金融を巡る制度も、また金融を巡る環境も変わってきているわけでございますので、そうした点から、こうした答申案が出されたのであろうと思います。現状の認識としては、私は、信用金庫、信用組合を含めまして地域金融機関というものは、やはり地域密着型金融をビジネスモデルとして、それを自らの特性や地域の特性に合わせて有効に活用していく。或いは育てていく。それによって、地域も良くなり、自らもその役割をますます万全に果たせるようになる、これが理想であると思っています。こういった視点から、もし制度面で見直すべき視点があるのであれば、それは、こういう答申の方向性に沿って、様々な検討を今後していく必要があると思います。現状、具体的な方向性ですとか、業務形態自身の見直しをあるパターンで行なうことを決定したことはございません。もっと広い視野からの検討を行なっていく必要があると思います。

問)

先程お答えいただいた内容と少し重なるかもしれませんけれど、やや長い時間軸で証券業界というのは、非常に規制緩和が随分進んできて、他の銀行法や保険業法などと比べて規制緩和を進めてきたわけです。免許制から登録制の流れとかですね。そのような中で、今時点どういう位置にある中でこういう問題が起きて、さらにこの後金融商品取引法の改正でまたさらにどう変わっていくという、規制緩和の流れを踏まえて少しご見解をいただければと思います。

答)

日興コーディアルに関連したご質問ということのようですが、これは証券会社に対する規制の緩和の問題というよりは市場の枠組みの問題でございます。これは、証券会社が起こした問題、正確に言うと証券会社が証券業の遂行の中で起こした問題というのではなくて、一般企業と同じ発行体が発行に当たってウソをついてしまったという、市場を規律すべき情報開示と公正取引というこの二つ車輪のうちの片一方において大きな間違いを起こしたということが基本にある。これがしかもただの事業会社ではなくて、その傘下に日本有数の証券会社を持っておって、証券会社の役割というのは、こうした発行体による不適切な開示といったものをチェックする、それによって市場の信任を確保するという機能を持っている。その機能を持っている者が母体となって設立された持株会社自身が、それをないがしろにするようなことをしてしまった。ここに大きな問題があるということです。そこで、規制緩和でございますけれども、市場の持っている可能性を最大限に発揮できるような枠組みを作るというのは大変重要な課題でありまして、これは引き続き遂行して参ります。ただ、随分規制緩和というのはこの市場の枠組みという意味では行われておりまして、証券関連の法律で規制緩和をしなければならないような部分というのは、もうほとんど残されていないように思います。国際的に見てもそれはそうだと思います。従いまして、課題としては、こうした市場で活動をする様々な主体。つまり一つは発行体でございます。それから投資家、そしてこれを仲介する証券会社、実際に取引が行われる場であります取引所。こういったようなそれぞれの活動主体において、適切な倫理観を持って、自らのプレイングフィールドである市場の信任というのをどう確保していくかということ、これを考え、かつ実行していただく。特にこうした主体の経営者の人たちが主となってそうしたことをしていただくことが大事だろうと思います。規制の緩和にこうしたそれぞれの主体の倫理観、或いは市場の信任というものへの自覚、こうしたものが追いついていなければ当局による行政処分ですとか、さらなる規制の強化といったようなことが行われざる得ない。これは大変不幸なことであります。私は、少し長いスパンでというお話でございましたけれども、ここしばらく色んなことが起こっています。オペレーションの失敗で大きな問題を起こしたところもありますし、このような不正行為で大きな問題を起こしたところもある。まず私が強調したいのは、これだけ自由度を高めているのだから、その自由度を損なうような行為をしないで欲しいと。そうした倫理観がないのであれば、自由度を制限していかざる得なくなるわけで、それは誰にとっても幸せなことではありません。市場の自由度を高く保ちつつ同時に市場の信任を確保する。そのための最も大切な手段というのは、市場における参加者が高い倫理観を持って行動すること、それに尽きると私は考えます。

問)

この1年を振り返っての話でお尋ねいたしますが、今年は金融政策でゼロ金利解除という大きな動きがありました。それでもう一回の利上げは見送られましたけれども、また来年もう一回あるのではないかと予想される。そういう環境の中で今まで長い間ゼロ金利が続いていた頃と比べて色々金融機関を取り巻く環境というのは変わってくると思うのですが、金融機関の資産運用ですとか財務という観点から見ると、金利が上昇することによってどういうプラス面、マイナス面があるとお考えで、金融当局としてはこれからどのように注視していくつもりか、一般論で結構ですがお聞かせ下さい。

答)

金融政策にコメントするというより、一般的な問題として金融政策が金利の引き上げというような基調で動く時というのは、経済全体としては好調な時ということが言える。或いはそういう風に金融政策が動いて行く時期というのは経済全体が上向きの時期であると言えそうですね。それが前提となるとすれば、金融機関のリスク管理上の問題としては、そうした環境下では信用リスクが逓減していくという一つの効果が予想されます。ところがこれはそれだけで済まないわけでございまして、金利が上昇することによりましてかえって個別の借入人を見ますと、その借入人の信用リスクが拡大するというケースも考えられるわけです。有利子負債が非常に多い企業のような場合で、しかし業況が劇的に上昇基調にあるわけではないというような場合には、金利の上昇は逆に信用リスクを高めるというようなこともあります。信用リスク管理という面ではこうした二つの要素が働くことになりますので、経営者の皆さんはそれを十分に注視する必要がある。他にも色々なことが起こりうると思います。それからもう一つは当然のことですが金利が上昇するということは、債券の価格にこれが反映してまいりますから、ポートフォリオ管理上ですね、債券を保有している場合にこれをどうリスクコントロールしていくかという点は従来以上に神経を使っていく必要があります。特にゼロ金利が長く続いた中ではそうした視点からの管理というものにあまり神経を使う必要がなかったということがございます。そうした中で十分な技量が維持されているかどうかということも経営者の人はよく見ておく必要があります。ただ、これもそれだけを恐れていればいいのかといいますと一般にそういう状況では、株式の価格は上がるということも考えられますから、保有する株式の価格が上がることによって財務状況が改善するという逆の動きもまたあり得るわけです。すなわち、全体的には自分の金融機関が持っているポートフォリオの内容というものを十分に分析していただいて、金利の上昇というものがもたらす様々なリスクファクターへの影響というもの、それはプラスの方向に働く場合、マイナスの方向に働く場合色々なケースがありますのでそれをよく見ていただいてリスクを統合的に管理していただくことが大事なことだと思います。

(以上)

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