佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成19年12月3日(月)17時00分~17時33分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

冒頭私から二点ほどございます。

第一点は、先週11月26日のこの会見でその前の週の22日木曜日に公表したサブプライムの関連商品に対するエクスポージャー、及び損失額について、ご質問を受けて「新生銀行、あおぞら銀行が含まれていないことはない」というお答えを申し上げましたけれども、それは私の勘違いでございまして、先々週、発表いたしましたのは主要行というグルーピングでございましたので、その両行は含まれていないということでございました。申し訳ございませんでした。先週30日に公表したものがあるわけでございますけれども、これで保有額にして約1兆4,000億、評価損が1,350億、実現損が1,410億という数字でございますが、こちらの方には新生、あおぞら、それから協同組織金融機関の中央機関、さらには労働金庫、信農連、信漁連、といったものが含まれているということで、農協を除きまして預金取扱金融機関をいちおう一通りカバーしているということでございます。

第二点目は、金融庁のウェブサイトの構成の見直しについてでございます。金融行政に関する情報へのアクセスの改善の一環ということでございます。ご案内のとおり、金融庁は「金融規制の質的向上(ベター・レギュレーション)」を、これからの金融行政における大きな課題として位置づけておりますが、この中で、4つの柱の一つに「行政対応の透明性・予測可能性の向上」を掲げておりますし、また5つの具体策の一つに「情報発信の強化」を、掲げているところであります。こういった考え方に立ちまして、今回は金融庁ウェブサイトについて、次の二つの改善を図りましたのでご紹介をさせていただきます。

まず一つ目は、金融制度や検査・監督の枠組みを一覧性のある形で閲覧できるページを新設しました。金融検査マニュアルや監督指針、行政処分の考え方といった検査監督上の着眼点、あるいは法令解釈に関する資料などは既に公表されたものがたくさんあるわけでございますけれども、これまではウェブサイト内に散在していたためわかりにくかった面もあろうかということで、これらの資料へのリンクを一つの画面に体系的にとりまとめたということでございまして、金融行政の透明性の向上ということで、これまでやっている取組をよりわかりやすく整理をさせていただくという趣旨でございます。

もう一つは、「ベター・レギュレーション」の取組を紹介するページを開設したということでございます。今日のこの時点では、これまでの「ベター・レギュレーション」に関する説明等を書いてあるわけでございますけれども、今後、このページにおいて、「ベター・レギュレーション」に向けた具体的な取組の進捗状況等を随時紹介させていただきたいと思っております。

今後とも、ウェブサイトの一層の充実改善をはじめといたしまして、情報発信の強化に引き続き努めていきたいと思っております。

私からは以上でございます。

【質疑応答】

問)

幹事から数点お伺いします。今おっしゃられた二つ目のウェブサイトの改定・見直し・改善ということで一番最後におっしゃった、ベター・レギュレーションの具体的な取組、進捗状況を紹介するというのは、どういったイメージなのでしょうか。

答)

これは、まだアイデアの段階で、庁内で議論している段階でございますので、具体的には申し上げられませんけれども、掲げました4つの柱、5つの具体的な施策に関わるような取組が実績として行われた場合に、それらをそのページに順次掲げていくといったイメージでございます。

問)

証券税制についてですけれども、先週財務省が独自の案といいますか、以前から出している金融庁の案とは違った案を出してきました。一部の配当については認めるですとか、一定額について少額の方を中心に配慮をするという案だと思うのですけれども、この案についての金融庁の考え方についてお聞かせ下さい。

答)

各党の税制調査会において、平成20年度税制改正に向けたご議論が行われておりまして、与党税調に財務省から証券税制の見直し案の提示があったということは承知をいたしております。まさに今議論が行われている最中でございますので、具体的な各論についてのコメントは差し控えさせていただいた方がよいのではないかと思いますけれども、ご案内のとおり、金融庁の税制改正要望は上場株式、公募株式投資信託の配当所得については長期安定的な投資の促進、法人税と所得税との二重課税の調整の必要性といったことを踏まえて、現行の10%という税率を恒久化するということ、そして譲渡所得につきましては、貯蓄から投資への流れが定着するまで、当分の間、現行の税率10%を継続していくということ、また上場株式、公募株式投資信託等の譲渡所得と配当所得との間の損益通算を認めること、損益通算にあたっては、特定口座を最大限活用すること、こういった内容の要望をさせていただいているところでございまして、私どもの要望について、関係者のご理解が得られるように引き続き努力をしていきたいということでございます。

問)

依然、隔たりはあると思われますか。また、民主党の案も配当については配慮するという内容のものがすでに出ていますけれども、今後の議論、評価、これも含めてお聞かせ下さい。

答)

民主党の案につきましては、報道されたところによりますと、上場株式等の譲渡益にかかる10%の課税は、廃止するけれども、配当にかかる10%の課税は維持するという内容になっていると承知いたしております。財務省の案、あるいは民主党の案を含めて、先ほど申しましたように、今まさに議論が行われている最中でございますので、それぞれの案について具体的な各論についてのコメントは差し控えたいと思いますけれども、いずれにいたしましても、ご案内のとおり現在1,550兆円を超える個人金融資産の半分が現金、預金として保有されておりまして、貯蓄から投資への流れというのは、未だ道半ばでございます。この流れをより一層推進し、広く国民に投資機会を提供することによって、国民が経済成長の果実を享受し、国民一人一人が、豊かさを実感できるような仕組みを構築することができるようになると思っています。また、我が国の株式市場の安定的な構造を作るという観点からも、国内の個人投資家が直接に、あるいは機関投資家、つまり投資信託を通じてこの株式市場に参加するということが重要な課題だと思っておりまして、その意味からもこの証券税制、非常に重要なものであると思っております。

問)

サブプライム問題ですけれども、アメリカでは住宅ローンの貸し手が金利を減免するというような案も出てきています。来年以降、負担が上がって焦げ付くのではないかという恐れがあった中でのこの案ですけれども、まずはこういった案の市場への影響をどう考えるかという点と、大臣の戦略チームの第一レポートが先週出ましたけれども、当局として今回の一次レポートをどうやって活かしていくのかという点をお聞かせ下さい。

答)

まず、米国において今後金利が上昇するステップアップ金利型、あるいは変動金利型のサブプライム・ローンについて、金利負担の上昇分を減免する救済策が検討されているという報道がなされているということは承知いたしております。おそらくこういった減免措置は、金融機関にとっては、その金利収入が減少するという負担がある一方で、サブプライム・ローンの急激な焦げ付きの増加による損失を回避しうるというメリットも考えられると思います。また、全体としての住宅ローンにおけるデフォルト率の上昇を抑えるということに繋がれば、証券化商品への信認のさらなる低下というものを防ぐという効果もあるのかもしれません。いずれにせよ、米国における対策でございますので、今後の展開を注意深く見守っていきたいと思っております。

それから、先週でございますけれども、渡辺大臣の私的懇談会である金融市場戦略チームが、第一次報告書を取り纏められ公表をされたということでございます。この第一次報告については大変中身の濃い貴重な報告をいただいたというふうに思っております。このサブプライム・ローンを巡る事態の推移、そして市場の混乱の原因分析、さらには正常化に向けた道筋、あるいは留意点、さらには我が国へのインプリケーションといったことをカバーしている非常に内容の濃いレポートをいただいたと思っております。これを参考といたしまして、このサブプライム・ローン問題は非常にグローバルな問題でございますので、この問題の全体像を金融庁としてもできるだけ引き続き正確に認識をするように努力をするようにしていきたいと思っております。また、こういった正確な全体像の認識を官民が共有する、すなわち規制する側と規制される金融機関の側双方で、こういった全体像について共通の認識を持つということは、それをスタート台として市場の動きに対応した的確なリスク管理をそれぞれの金融機関で行っていただくための大前提として、非常に重要な材料になると思っております。また、この報告書に「我が国としての対応」という章がございますけれども、その中には例えば、監督当局による市場動向の把握・モニタリングの強化といったこと、あるいは監督当局間の国際的な連携の強化といったこと、さらには証券化によるリスク移転を前提とした融資モデル、いわゆるオリジネイト・トゥ・ディストリビュート(originate to distribute)のビジネスモデルについての問題点、あるいは証券化商品についての原債権についての追跡可能性の確保といったようなことが盛り込まれておりまして、示唆に富む内容と思っています。

これを受けまして、金融庁としてはこれまでも海外当局との連携強化には努めてきているわけですけれども、改めてそういった努力を続けると同時に、特に市場動向を的確に、かつ、タイムリーに把握できるための態勢の強化といったことに取り組んでいきたいと思っております。夏以来、この問題に関しては、我が国の金融機関のリスク管理の状況について注意深くモニターを続けてきているわけでございますけれども、引き続きそういったモニタリングを継続していくということ、その際にグローバルなマーケットの動向の展開についても十分な注意を払っていくこと、またこのグローバルな状況が正常化するにはおそらくある程度の時間を要すると言われておりますので、警戒を怠ることなく引き続きそういった対応に努めていきたいということでございます。

問)

規制の意味では、国際的な議論を待つということだったと思うのですけれども、国際的な話合いの結論が出る前に、日本として先行してできることはあるのでしょうか。例えば格付機関ですとか。

答)

おそらく、テーマによって国際的な整合性を図りつつ行わないと意味のないテーマ、あるいは逆に国ごとに対応可能なテーマというのがあるのだろうと思います。後者の例としては今も申し上げましたけれども、我が国におけるサブプライム関連の投資、あるいはその周辺部分にある証券化商品への投資を含めたところの各金融機関のリスク管理の状況を、フォワード・ルッキングな視点も入れた形できちんと見ていくということは、我が国の当局としてやっていかなくてはならないことだろうと思いますし、また先ほど申し上げました市場の動向をタイムリーに、かつ、正確にモニターできるような能力の向上といったことも金融庁としてどんどん進めていくということであろうかと思います。

敢えて申し上げますと、今回のレポートは非常に内容の深いものでございますので、先ほど申し上げましたような、例えば証券化ということを前提とした信用リスクを切り離すということを前提としたこのビジネスモデル、オリジネイト・トゥ・ディストリビュートというビジネスモデルを使うにあたっての留意点と問題点といったようなことについて、先ほども申し上げましたけれども、官民が共通の認識を持つことによって、実際のビジネスを行う金融機関がそういった一連のモラル・ハザードが生じにくいようなビジネスを構築していくという方向に努力をしていただくというようなことに繋がっていけば大変よいことではないかと思っておりまして、こういった取組みというのも我が国独自でできる話であろうと思います。

問)

提言の中には、法改正が出てくるかと思います。例えば格付会社を対象に一定の規制を導入するとか考えられますが、その点については、どのように受け止められてますでしょうか。

答)

格付機関の問題は、おそらく、ある国が独自で先行して行っても、実質的な効果が必ずしも期待できない。やはり、グローバルにある程度、調和の取れた仕組みを目指す必要があるという分野であろうかと思います。現に、この格付機関の問題については、IOSCO(証券監督者国際機構)の場でも議論を行うという予定になっておりますし、金融安定化フォーラム(FSF)の場でもおそらくそのアジェンダにのっかってくるということで、現実に多国間のこういった協議の場において、既にアジェンダに載っておりますので、そういった国際的な議論の動向もよく見ながら進めていくということだろうと思います。この格付の在り方については、報告書にも具体的に書いてございますけれども、官の側が踏み込みすぎますと、官製の格付、あるいは行われた格付について、監督当局側がオーソライズしたかのような、そういう誤解を招くといったようなこともございますので、プリンシプルを重視しつつ、どういった改善がなしうるのか、ベストプラクティスとしてどういったものを共有できるのか、こういった問題意識を持ちながら、これから検討に加わっていくということであろうかと思います。

問)

報告書にも記載されていました、アメリカの場合ですとか、あるいはIOSCOの行動規範にも具体的にいくつか書いてありますが、その点は今後、具体的に詰められるのでしょうか。

答)

そういったことも当然参考になるわけですけれども、今申し上げましたように、まさに、この問題について改めて、その国際的な場で議論が現に進行中ですから、その進行中の議論をよく見ていく、勿論、その議論に我が国としても参加していく中で、その辺の議論の落ち着き所ということもよく見極める必要があるというように思います。

問)

先ほど、証券化商品について官民が共通の認識を持っていくことだということをおっしゃいましたが、その場合の「民」というのは、格付会社のことをおっしゃっているのか、それともそういう商品を運用している金融機関のことを言っているのか、どの「民」のことを言っているのでしょうか。

答)

まず、金融ビジネスを担っている金融機関が頭に浮かぶわけでありますけれども、この問題は実際にビジネスを行う金融機関、実際にリスクを取る金融機関だけではなくて、それに係わる様々な主体、格付機関も含まれるでしょうし、証券化ビジネスを行う投資銀行も含まれるでしょうし、最終投資家としてのファンドなども含まれるでしょうし、オリジネーションの部分で、銀行以外の住宅ローン専門会社といったところも含まれますでしょうし、様々なそういった関連する民間の主体も含めて考えるというイメージでございます。

問)

先週の30日に、日銀の福井総裁が講演の中で、日本の金融機関の収益性の低さは一般的な預金とか貸出とか、皆がやっていることしかやっていない、そういうビジネスモデルしか立てていないことに問題がある、と強調されているのですが、この点について、長官あるいは金融庁としてどのようにご覧になっているか、また、日本の金融機関の収益性が低いならば、どのように高めていくのかということについて、金融審の議論も含めて、もう一度教えてもらえないでしょうか。

答)

福井総裁のご講演を直接伺っておりませんので、必ずしも正確ではないかもしれませんけれども、まずは、個々の金融機関においてどういうビジネスモデルを採用し、どういったビジネス戦略を持って、どのような経営を行うかということが、まずは各金融機関の経営者によってきちんと判断をされるということが大事だろうと思います。そして、その判断というのは、あくまでも個々の金融機関の経営判断でございますから、規制当局、監督当局の側から、こういうビジネスモデルでなければならないと、あるいは、こういうビジネスモデルの方が望ましいといったようなことを申し上げるのは、差し控えたほうがよいかと思います。おそらく、各金融機関において、マーケットの動向ときちんとモニターをし、顧客からの金融サービスに対するニーズというものをきちんと抽出し、特定するということを通じて、顧客のニーズにあった質の高いサービスを提供していく、そのためのイノベーションに心がける、こういったことがきちんと行われていけば、それに沿って収益性というものも高まっていくという因果関係はおそらくあろうかと思います。このきちんとしたリスク管理、それを大前提としたイノベーション、それに基づいた質の高いサービスの提供、その結果としての高い収益率、といったものが良い循環として回っていくような、そういう金融業の在り方というのが望ましい方向性であるというふうに私も思っております。より高い収益性、高い収益力があれば、おそらく、新しいビジネスに取り組む余地がより大きくなるでしょうし、リスクテイクをする能力も高くなっていくということでありましょうし、いわば、イノベーションを行っていくゆとりが出てくるということだと思います。また、期間収益の水準が安定をしていて、かつ、そこそこ高い水準であれば、予期せざるリスクの顕在化等で損失が生じた場合でもそういったものを期間利益の中で吸収することが可能になりますから、きちんとしたリスク管理と結びついた形でマネージにされるということであれば、それはおそらく金融システム全体の安定性にも貢献をするということであろうかと思います。

問)

古い話ですが、2週間前に新生銀行がTOBと増資を発表し、J.C.フラワーズが筆頭株主になるという発表をしましたけれども、公的資金が入っている銀行ですが、フラワーズないし潜在的に株主になりえるポルテ現社長も含めて、新生銀行の企業価値を高めているかということは疑問があるという指摘がマーケットから出ていると思いますが、それがさらにコミットメントを増すということについて、株主の立場として正しいやり方なのかどうかというお考えを聞かせてください。

答)

個別の金融機関の資本政策の話でございますので、一番コメントをし難いテーマであろうかと思います。通常の銀行の場合は、銀行法に基づく監督ということで我々としては対応していくわけですが、こういう公的資金注入行の場合には、銀行法だけではなくて、早期健全化法等に則った監督も行う必要があります。後者の世界というのは、国は大口株主の立場も考慮する必要があるというところで、少し普通の銀行にはない観点が必要になってくるというのは、まさにご質問の中でご指摘いただいたとおりであろうかと思います。個別の銀行の資本政策ということでございますので、基本的には経営判断を尊重するというのが、金融庁の基本的な立場ですけれども、大口株主という立場からいたしますと、とにかく、将来に向けて確実に企業価値を高めていっていただきたい、その結果として国が保有している株式の価値も高めていっていただきたいということでありまして、そういう中で、公的資金の最終的な回収については、我々は従来から納税者の利益というものを重視しながらやってきておりますので、そういう中で最大限の回収を行っていくという立場に変更はないということであります。その際、従来から申し上げておりますように預金保険機構の3原則というのがございます。それは、返済後においても、当該金融機関の財務の健全性が損なわれないこと、そして、市場に対する撹乱要因とならないこと、そして、国民負担の極小化、この3つでございまして、この考え方に沿って今後も対応していくという点について変更はありません。

問)

企業価値を高める増資になりうるというふうにお考えになっているという理解でよろしいでしょうか。

答)

資本政策というのは先ほども申し上げましたように、個々の金融機関、あるいは個々の企業における、おそらく、経営者にとってはもっとも重要な経営判断に属する話であろうかと思います。そういった資本政策を判断する際には、当然のこととして、経営者は企業価値の向上に繋がるかどうかということは考慮に入れているというふうに、一般論として考えております。

(以上)

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