佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成20年1月21日(月)17時02分~17時24分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

お待たせいたしました、私の方からは特にありません。

【質疑応答】

問)

通常国会が始まりましたけれども、今国会に予定されております法案、及びその狙いについて、現時点でわかることを教えていただければと思います。

答)

今国会には、昨年末に取りまとめました「金融・資本市場競争力強化プラン」に盛り込まれております諸施策の具体化のための法案をまとめて提出をしたいと思っております。

我が国の金融・資本市場の競争力強化が喫緊の課題とされているわけであります。一つには、1,500兆円に及ぶ家計の金融資産に適切な投資機会を提供する、二つ目には、内外の企業等の成長資金が適切に供給されるような環境を作る、三つ目に、我が国の金融サービス業が高い付加価値を生み出し、それを通じて経済の持続的な成長に貢献していく、という大きな狙いがあるわけであります。金融庁としては、盛り込まれた諸施策にスピード感を持って取り組むということが重要であると思っております。

具体的には、今通常国会に金融商品取引法等の改正案という形で提出すべく、現在法制化のための作業を進めているところであります。プランのうち、法律事項を取り出して法案にまとめるという作業でございまして、大きく言うと次の三点が柱になろうかと思います。一つ目は、多様な資産運用あるいは資金調達の機会を提供するということ、二つ目には、多様で質の高い金融サービスを提供するということ、三つ目には、公正・透明で信頼性のある市場を構築するということでございます。一つ目の「多様な資産運用、資金調達機会の提供」という趣旨では、プロ向け市場の創設あるいはETF(上場投資信託)の多様化といったことが含まれようかと思います。次に、二つ目の「多様で質の高い金融サービスの提供」という趣旨に関しては、証券、銀行、保険会社の間のファイアーウォール規制の見直し、銀行等の業務範囲の拡大あるいは利益相反管理態勢の構築といったことが含まれようかと思います。三つ目の「公正・透明で信頼性のある市場の構築」というテーマに関しては、課徴金制度について算定方法の見直しや対象範囲の拡大、除斥期間の延長といった措置が含まれることになろうかと思います。今後、法案の提出に向けて立法府とも十分ご相談しながら検討を進めていきたいと思っております。

問)

サブプライムと株価についてですが、今日の株価の大幅な下落の要因として、これまでずっとサブプライムと言われてきましたけれども、先週からさらに500円以上下がっているという要因はどうご覧になっているかということと、サブプライム損失が国内の金融機関に拡大しているということだと思うのですけれども、この辺の規模とこの影響について改めてお聞かせ下さい。

答)

これは、いつも申し上げていることでございますが、株価の動向、市場の動向は様々な市場参加主体がそれぞれの判断に基づき投資行動を行った結果として、決定されるものでございますので、その要因について当局として断定的なコメントを申し上げることは差し控えるべきであろうかと思います。本日の動きについても同様であります。

ただ、市場関係者の皆さんの声等を聞いてみますと、我が国の最近の株式市場の動きについては、様々なことが言われているわけですけれども、例えば、外国人投資家が売買シェアの約6割を占めているという構造、サブプライム問題等の影響を背景とするグローバルな金融市場における不確実性の高まり、さらには、グローバルな投資資金の質への逃避(フライト・トゥ・クォリティ)という動きを背景として、株式市場から債券市場やあるいは金融市場以外の商品市場(コモディティのマーケット)等への資金の移動が起きているといったこと、またさらには米国の株安・景気後退懸念、ドル安といった種々の要因が指摘されていると承知いたしております。

一部の方々による「日本株の下げが際立って大きいのではないか」というご指摘については、これも様々なお立場の方が、様々な見方をされているというふうに思いますけれども、一つには、一方で中国とかインド等といった新興経済諸国と比べて将来の成長性という観点から見ると、その成長期待というものが相対的には低くならざるを得ないといった要因を指摘する見方が一部にございます。他方で、昨今日本株が他の市場に比べて下落率が大きいということについては、その主因は円高ということであって、仮に日本の株価をドルベースに換算してみると、例えば日米の株価の動き、下落幅等は概ね連動しているのではないかという見方もあると承知しております。

いずれにいたしましても、サブプライム・ローン問題を背景としてグローバルな金融市場の混乱は続いているわけでありまして、金融庁としても今後も引き続き市場動向や金融機関の健全性を注意深くフォローしてまいりたいと思っておりますし、また先ほども話題になりました「金融・資本市場競争力強化プラン」の着実な実施によって、魅力的な市場の構築に向けて政府一体となって強力に推進していくということも重要ではないかと思っております。

それから、もう一つお尋ねの日本の金融システムに与える影響ということでございますが、昨年9月末のいわば断面図として、我が国の預金取扱金融機関のサブプライム関連金融商品の保有額とそれに関連した実現損及び評価損を集計ベースで公表させていただいたところであります。これは、既に何度か申し上げていますが、この9月末の時点で保有額にして約1.4兆円、そのうち9月末時点における評価損が約1,350億円ということでございましたが、この10月以降、サブプライムに関連した、あるいは直接関連のないものも含めて、この証券化商品の価格というのがグローバルに低下をしておりますので、先ほど申し上げたこの評価損1,350億円というのはその後拡大しているということが推測されるわけであります。ただ、これも以前から申し上げておりますけれども、最終投資家としてのエクスポージャーいうものが1,4兆円という規模でございますので、そのエクスポージャーも若干の変動はあるかもしれませんけれども、基本的には、こういったオーダーのエクスポージャーに対して、そのうち評価損がどのくらいになるかということでございますので、日本の場合には底が見えないという状況ではないということであります。昨今、欧米の大手金融機関が一社で兆円単位の損失を計上しているといったことに比べますと、国際比較の観点から見て、我が国の金融機関のサブプライム関連のエクスポージャーというのは相当限定されているということが言えるでしょうし、また、もう一つ別の観点から見て我が国の金融機関の自己資本の厚みあるいは期間利益の水準と比べた場合においても、相対的に限定をされているということが言えようかと思います。こういったことを踏まえまして、今般の金融市場の混乱が、直ちに我が国の金融システムに直接深刻な影響を与えるものとは捉えていないということであります。

ただし、いずれにせよこのグローバルな金融市場の混乱は続いておりますし、市場の正常化にはなお相当程度の時間が必要であると承知いたしております。このため、金融庁としては引き続き警戒を怠ることなく、金融機関のリスク管理状況や金融市場の動向等について関係当局と連携しつつ十分注視してまいりたいと思っております。

それから一つ補足でございますけれども、この株価下落が日本の金融機関の財務の健全性にどの程度の影響を及ぼすのかという点でございますけれども、この点も含めて金融庁としては各金融機関からのヒアリングや情報交換ということをやっているわけであります。一般的には、ストレステストといった手法を使っているわけでございますけれども、相当程度大きな株価の下落が昨年の9月末と比べても起きているということでございますが、そういった点を踏まえたストレステストを行っても、例えば自己資本比率といった指標で見たときに、その影響はある程度の範囲に収まっているということであります。もちろん、これは個別の金融機関ごとにそのポートフォリオの状況や財務の構造が違いますので、個別金融機関ごとの差異というのは当然あろうかと思いますけれども、全体としてそういう認識を持っているということでございます。

問)

先週18日にモノライン(金融保証専門保険会社)と言われる、アンバック・フィナンシャル・グループがフィッチによって格下げされていまして、他のところでもこのような動きがある、格下げ方向で見直すという動きがあると思います。これに対して、日本の損害保険会社などが再保険の引受けなどをしていると思うのですが、この影響についてどう把握されているのか、影響があるのか、どれくらいの規模なのかということも含めて、今、金融庁としてどう対応しているのかお聞かせ下さい。

答)

サブプライムの問題は、非常に多様な原因・結果の働くチャネルがあるということだと思います。今ご質問のいわゆるモノライン保険会社の話も、米国のモノライン保険会社の格付けが下がることによって、当該保険会社が金融保証を付している証券化商品の格付けが連動して下がり、当該金融商品の価格が下がるという因果関係が働いているということだろうと思います。

また、先ほどは預金取扱金融機関の話を中心にさせていただきましたけれども、我が国の保険会社がこのような金融保証といった業務あるいは米国のモノライン保険会社との取引関係等々がある場合には、先ほど来申し上げた多様なチャネルを通じて、その影響が伝播してくるということを踏まえることが大事だと思っております。

そのような問題意識から、預金取扱金融機関だけではなくて、保険会社や証券会社からもヒアリング、情報交換等を行っているということでございます。いずれにいたしましても、金融庁としては、引き続き各金融機関(預金取扱金融機関、保険会社、証券会社等)のリスク管理の状況について、十分に注視していく必要があると思っております。

問)

日本の保険会社が保証している、引き受けている総額といいますか規模感というのはどのくらいと見ていらっしゃるのでしょうか。

答)

基本的には、このような関わりを持っている、実質的な意味でエクスポージャーを持っているというのは、大手の損害保険会社が主でありまして、これまでヒアリング等をした結果からすれば、それぞれの大手保険会社において十分管理、コントロール可能な範囲内であると承知しております。

問)

先ほどの株価下落の件なのですが、これは銀行だけではなく、保険会社についてもウォッチしているというか注意深く見ているという理解でよろしいのでしょうか。

答)

特定の要因に特化して議論するというよりは、それぞれの金融機関について、それぞれのリスク管理の状況や財務の健全性の度合いを幅広くチェックするという心構えで対応しているということであります。

(以上)

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