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佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成20年9月22日(月)17時03分~17時44分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私の方から特にございません。

【質疑応答】

問)

アメリカの財務省が20日、最大7,000億ドル、(日本円で)75兆円の公的資金による不良資産の買取り案を発表いたしました。2年の買取り期間中で、住宅ローンや関連証券化商品を買い取ることによって金融危機を乗り越えるという内容ですけれども、まず買取り案に関する評価をお聞かせください。また、ポールソン財務長官が会見で、日本や欧州にも同様の制度を設けるよう促す方針を示しましたが、現時点で日本に対してこういった要請がきているのかどうか、また今後正式な要請がきた場合は、日本の当局としてどのように対応するお考えなのかお聞かせください。

答)

この20日に、米国当局が金融市場の安定のため公的資金による不良資産買取りプログラムを公表し、その規模が総額7,000億ドルに上るということを公表されました。米国政府におきましては、このサブプライム・ローン問題をきっかけとするグローバルな市場の混乱に対して、これまでも問題の解決に向けて所要の取組みをなさってきているものと承知をしておりますけれども、今般、市場の安定化に向けて更なる取組みを図っていくということになったことを歓迎したいと思います。また、今般発表された措置が速やかに実施されることを期待しているところであります。

後段のお尋ねで、米国の不良債権買取りプログラムと同様の仕組みを日欧などにも促すといった点につきましては、そもそも当局間の個別のやりとりへの言及というものは差し控えるべきであろうかと思っておりますけれども、現時点で米国から金融庁に対して具体的な要請があったとは承知をいたしておりません。この問題を考える際には、基本的には、それぞれ権限と責任を有する当局が、自国の市場、自国の金融セクターの状況に応じて、それぞれ的確な対応をとるということが一番重要ではないかと思っております。我が国の金融セクターに関して申し上げれば、従来から申し上げておりますように、このサブプライム関連、あるいは、それに類似した高リスク商品等の保有が、欧米の大手金融機関と比べて相対的に限定されているということで、この問題そのものが、現時点において我が国の金融システムに直接深刻な影響を与えるという状況にはないと認識をいたしております。したがって、まずは我が国の金融・資本市場の動向、我が国の金融セクターの健全性について、引き続き注意深く見ていくということが重要ではないかと思っております。ただいずれにせよ、今回の金融危機というものはグローバルに、かつ極めて急速に伝播するという性格を有しておりますので、引き続き高い警戒水準を維持しつつ、内外の関係当局とも一層緊密に連携しながら適切な対応に努めていきたいと思っております。

問)

一部報道で、経営破綻(はたん)したリーマン・ブラザーズの欧州部門、もしくは日本部門の買い手候補として、国内証券最大手の野村グループが浮上しています。事実関係についてどうかということと、金融不安がなお収まらない中で、国境を越えたこうした金融再編の動きが加速していますけれども、日本の金融機関がこうした再編の動きにどうコミットしていくのか、また、どうコミットしていくべきなのか、日本の当局としての見解をお聞かせください。

答)

リーマン・ブラザーズについてはご案内のとおり、9月15日月曜日に米国の持株会社が米国ニューヨーク南部地区裁判所に対して倒産手続き開始の申立てを行ったということでございます。これに引き続きまして、当該持ち株会社の傘下にある各国の拠点についておさらいをいたしますと、次のような動きがあったというふうに承知をしております。まず米国拠点、これは米国投資銀行であるリーマン・ブラザーズですけれども、証券業務を継続することとし、米国当局も顧客保護に万全を期する旨を表明したところであります。その後、北米に所在する投資銀行部門及び資本市場部門について、9月17日に英国の銀行バークレイズが買収する旨を公表したと承知をいたしております。次に、日本拠点であるリーマン・ブラザーズ証券株式会社については、同社が長期的に見ると支払い不能に陥る恐れがあるという報告をしてまいりましたので、15日、同日ですけれども、金融庁から業務停止命令を発出したところでありますし、また翌日16日、同社から東京地方裁判所に対して民事再生手続きの開始を申し立て、19日に当該手続きの開始が決定されたということでありまして、今後の同社の経営は申立て代理人、同社の代理人弁護士や、監督員、裁判所の指名によって同社の財務、業務を監視する弁護士らの助言等を踏まえて行われるものと承知をいたしております。更に、ヨーロッパを始めとするその他の地域の拠点についても、各国の法制等に照らして、現地法人及び各国当局において所要の対応がされていると承知をいたしております。

そこで、お尋ねに対するお答えでございますが、その後日本法人を始めとするアジアの拠点やヨーロッパの拠点をめぐって、各国の金融機関による買収の動き等について様々な報道がなされていることは承知いたしておりますけれども、個別金融機関に関わる、しかも報道ベースの話でございますので、当庁としてコメントすることは差し控えたいと思います。一般論として申し上げますと、金融機関の経営再編や統合につきましては、それぞれの金融機関が、将来を見据えた経営戦略に基づいて、責任ある自らの経営判断の下で検討すべき問題であると考えております。金融庁としては、各金融機関が適切な経営管理の下で、かつ質の高いリスク管理を行いつつ、金融仲介機能を適切に発揮されるようになることを期待しているところであります。いずれにいたしましても、金融庁としては国内国外の金融当局と連携しつつ、国際的な金融市場の安定のために適切に対応してまいりたいと思っております。

問)

ちょっと確認なのですが、日本の金融システムについては深刻な問題はないということなのですが、仮にアメリカ政府から今回のような公的資金による不良資産の買上げ措置と同様なものを日本政府も作ってくれと、もしくは検討してくれという要請があったとしても、現状日本でそういったものを作る必要性はないという認識だということでよろしいのでしょうか。

答)

そのような仮定のご質問に対して直接お答えするというよりは、先ほど申し上げた基本的な考え方を繰り返させていただく方がよいかと思います。すなわち、権限と責任を有する当局が、自国の金融セクター、自国の市場のそれぞれの状況に応じて、的確な対応をとるということが基本であるということであります。

問)

アメリカ、オーストラリア等、最近株式市場での空売り規制が始まっているのですが、日本政府の方でそういった規制を今後行う可能性というのはありえるのかどうかお答えいただければ幸いなのですが。

答)

今般の一連の動きの中で、先週、米国、英国に加えてドイツ、フランス、カナダ等においても、金融株について空売り規制の強化の動きが見られたところでございます。実はご案内のとおり我が国においては、金融株に限らず、全ての上場株式の空売りについて以下のような規制が設けられているところでございます。第一に、明示・確認義務として、売付が空売りであるか否かの別を明示・確認するということで、それを取引者等に義務付けているということ。第二に、価格規制として、原則、金融商品取引所が直近に公表した価格以下の価格での空売りを禁止しているということでございます。既に、こういった規制が存在しているということでございます。

また、我が国の市場の状況をざっと見てみますと、現状においては金融株が顕著に空売りによって売り崩されているという状況は目立っていないということでございます。こういった、既存制度の状況とマーケットの状況を踏まえますと、我が国では現時点で直ちにこの制度を改めるという必要性は低いのではないかと思っております。ただ、現在のグローバルなマーケットの状況を踏まえて、改めて空売り規制の厳正な執行、あるいは相場操縦等の不正行為の防止には全力を挙げていく心積もりでございます。

問)

先ほどのアメリカの買取りの話なのですけれども、買取り資金が巨額に上りますので、米国債を発行して調達するのではないかと見られているのですけれども、その場合、日本が米国債を引き受けるということが、金融不安を鎮める日米の協力体制の一つになるとお考えになることはできますでしょうか。

答)

今発表されているものはプラン、アメリカの財務省が議会に法案を提出し、これから議会の了承を得て初めて動き出すものでございます。その成立した暁に、具体的にどういったオペレーションによってその実施に取り組んでいくかということは今後の話でございますので、今の時点で言及は差し控えた方がよろしいかと思います。

問)

先ほど、米国の大手証券会社ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが、銀行持株会社としてFRB(米連邦準備制度理事会)の規制下に入るということが決まったようですが、これは資金供給を受けやすくなるという狙いがあると思うのですが、そのあたりをどうご覧になっているのかということが一点。日本において、いわゆる投資銀行業務というのは大きなウエイトを占めてはいないという印象を受けていますが、単独で証券会社傘下でやっているのは実質的には野村(ホールディングス)だけで、ほかの銀行関連会社は、銀行規制というかバーゼル II の規制を受けやすくなっているのですが、野村に対してはどのように現状取り組んでいて、今後どのように対応していくのか、野村に限らず、投資銀行業務というものに対しての考え方を伺えますか。

答)

まず前段の話につきましては、本日、米国時間ですと昨日の深夜ということでしょうか、FRBがゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを銀行持株会社として承認するということを公表したと承知をしております。これによりまして、両グループは銀行持株会社としてFRBの監督対象となる一方で、両グループの傘下の証券子会社についてもFRB等が提供する流動性補完の枠組みの全てを活用できることとなるという意味では、商業銀行と同様のファシリティ(融資制度)を活用することができるようになるという意味で、流動性の確保の面で業務の遂行がしやすくなるという効果をもたらすのであろうかと思います。米国当局と民間金融機関との間の措置について、金融庁として直接のコメントは差し控えるべきだと思いますけれども、各国金融当局において、国際的な金融市場の安定のためそれぞれの立場で最善の措置を講じるよう取り組んでいくということが重要であると考えております。

翻って、我が国の状況に関して言いますと、詳細は承知しておりませんけれども、我が国の場合、日本銀行が証券会社に対しても相当広範囲な流動性供給のファシリティを用意しているということが制度的にはあろうかと思いますし、また、日本の大手証券会社の状況について緊急に何かの対応をしなければいけないといった状況にあるとは承知をいたしておりませんので、両方の面から、我が国の場合には米国とは少し事情が異なるのではないかと思っております。

問)

証券会社のことに関連して、日本における証券会社への検査のあり方について何問か伺いますが、監視委員会が金融庁と独立していることを承知のうえで質問いたしますが、先週監視委員会が「証券検査に係る業務点検プロジェクト」を実施していくと公表しています。証券会社への検査については、3年ほど前に金融庁から監視委員会に移管されたことは承知しておりますが、監視委員会の検査は犯則調査やコンプライアンスの検証が中心になりがちで、今世界的に問題になっている証券会社の財務の健全性やリスク管理態勢の検証が不十分であったり実効性を欠いているという批判や指摘が内外でされていて、こないだ監視委員会が公表したプロジェクトがこうした批判に対応したものになっているのかどうかということと、また、証券会社への検査権限を監視委員会に移管した妥当性についてどのようなご見解をお持ちなのか伺います。

答)

監視委員会が発表した「証券検査に係る業務点検プロジェクト」の実施は、金融商品取引法施行による検査対象業者の範囲の拡大といった制度面の変更やベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)の取組みといった新しい動きを踏まえて、これまでの証券会社の財務の健全性やリスク管理態勢の検証を含む証券検査の実効性を改めて確認しつつ、改善すべき点があるかどうかについて検証するものであると思っております。

金融庁検査局が行ってきた証券会社等の財務の健全性やリスク管理態勢を含む態勢面の検査権限は、ご指摘のとおり平成17年7月以降証券取引等監視委員会に委任されているわけですが、これは証券会社等に対する検査の実効性や効率性の向上を図るためのものであったと理解しています。他方で、こうした権限の委任を受けて監視委員会では、これまでも証券検査を通じて適切に市場に対する投資者の信頼の保持に向けて努力してきていると承知していますが、昨年9月の金融商品取引法の施行を踏まえて態勢面の検証を充実させるべく検査マニュアルを全面改訂し、公益の確保や投資家保護を念頭に内部管理態勢に着目した検査を実施してきていると承知しております。

詳細については監視委員会にお問い合わせいただきたいですが、いずれにしましても、監視委員会におかれては、今後このプロジェクトの成果を生かした、より効率的で効果的な証券検査の実施に努めていただきたいですし、証券会社等の財務の健全性やリスク管理態勢を含む態勢面にかかる検証を適切に行うことで、市場に対する投資者の信頼保持になお一層努めていただくよう期待しております。

問)

追加で伺いますが、証券会社の財務の健全性やリスク管理態勢を適切に検証していくうえで、以前やっていて金融庁検査局は止めましたが、事前通告するかどうかという問題があると思います。監視委員会の場合はどうしても違反事例やコンプライアンスの問題が中心になっておりますので、事前通告すると証拠が隠されてしまうといった問題があるので事前通告しにくいということですが、今般のプロジェクトでもここがひとつの論点になっていて、リスク管理態勢を適切に検証していくには無予告ではなくて事前に予告して相手方にしっかりとした準備をさせたうえで検証していく必要性があると思いますが、長官のご見解を改めてお聞かせください。

答)

個々の検査で、リスク管理態勢に重点を置くのか、コンプライアンスや法令違反面に重点を置くのかによって、検査の具体的な進め方として予告が良いのか無予告がよいのか、望ましさの程度について差が出てくることは事実だと思います。

財務の健全性やリスク管理態勢に重点を置く検査であれば、検査を受ける会社の側で事前の準備もあるでしょうから、予告形式のほうがより効果的であるという議論があるということは承知しております。

具体的なプロジェクトの取り進め方及びその検討結果の立入検査への反映については監視委員会の方で適切に判断されることになろうかと思っています。

問)

先ほどのゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの関連ですが、先週来アメリカの5大投資銀行のうち3つが買収や破綻、残る2つもFRB管理下ということで、これまで十何年かアメリカの収益をあげてきた投資銀行というビジネスモデルが大きく変わる局面にあり、終焉なのか行き過ぎた是正なのかという見方があろうかと思いますが、どのように今の時点で考えておられますか。

答)

全体のグローバルな投資銀行業務のあり方及びその変貌について当局から断定的に申し上げるべきではないと思っております。ただ例えば本年4月のG7(七か国財務大臣・中央銀行総裁会議)で報告されたFSF(金融安定化フォーラム)の報告書、これは金融機関と市場の強靭性を確保する、要するに今回のようなサブプライムを契機とする市場の混乱のような事態を再び起こさせないように金融機関と市場の強靭性を確保するにはどうしたらよいかというテーマ設定でできあがった報告書ですが、その中に数多くの提言が含まれています。こういったものをトータルとして見てみますと、証券化という金融技術そのものがおかしいということでは必ずしもなく、証券化という金融技術を用いて行われたいわゆる「オリジネート・トゥ・ディストリビュート」というビジネスモデルについて、あまりにも高いレバレッジをかけて短期的な利益の実現に偏っていたのではないかという反省が底流に流れているのはおそらく事実だと思います。

投資銀行業務と一口に言いましてもその中には伝統的な株や債券の引受け(アンダーライティング)あるいはM&A(企業の合併・買収)の助言など幅広い業務がありまして、そのすべてが壁にぶち当たっているということではないと思います。おそらく明らかに修正を求められているのは、先ほど申し上げた非常に高いレバレッジをかける「オリジネート・トゥ・ディストリビュート」というビジネスモデルなのであろうかと思っております。こういったひとつの流れの中で、今後いわゆる投資銀行業務がどのように展開されていくのかというのは民間の当事者の様々な努力やマーケットの動向で決まるものと思います。その中で、金融規制・監督当局としては、市場の大きな混乱を再び起こさせない、金融システムの不安定化を再び起こさせないような心構えで対応していくと思っています。

問)

先ほど、自由民主党の新しい総裁に麻生太郎氏が選出されましたが、これについての受止めを教えてください。特に証券税制など金融庁の関連する分野についての影響も含めお願いします。

答)

いつも申し上げていることですが、金融行政の目的は三つ、すなわち、信用秩序の維持ないし金融システムの安定、利用者・投資家の保護、透明・公正で活力のある市場の維持であります。こういった三つの行政目的をしっかりと意識しつつ、引き続き任務の遂行に努めていくということに尽きると思います。

問)

アメリカ政府の不良債権買取り案ですが、ポールソン長官がアメリカのメディアに対して語ったところによると、一定の条件を満たせば外国銀行というかアメリカ以外の金融機関も対象になるということですが、邦銀もその仕組みを積極的に活用すべきだとお考えなのか、それに対して金融庁も何か後押しするようなことをお考えなのかお伺いします。

答)

対象となる金融機関については、「米国において相当規模の業務を行っている金融機関」と承知しております。ご質問については、我が国の銀行がそのようなスキームを活用する、あるいはすべきというニーズがどの程度あるかということもありましょうし、また、それぞれの金融機関における自主的な判断もあろうかと思いますので、その点について金融庁として何か申し上げる段階ではないと思います。

問)

仮にアメリカ政府から日本政府に対して今回の包括的な案に対する協力を求められた場合に、何か日本政府として協力できることはあるのでしょうか。

答)

例えば、リーマン・ブラザーズの破綻についてもアメリカで起きた動きが瞬時に世界諸国に影響を及ぼしていて、このリーマン・ブラザーズのことに関しても各国当局間で緊密な連携を取りつつ、それぞれの国で市場の混乱を防ぐ、あるいは投資家の保護を図るということで連携をしているということであります。

具体的にどういうことをやるのかということよりも、こうした一つずつの地道かつ着実な取組みの積み重ねが重要だと思っております。

(以上)

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