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佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成20年10月16日(木)17時01分~17時38分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私の方からは特にございません。

【質疑応答】

問)

先般、中川大臣から金融市場対策が公表されました。その意義付けや実際の効果についてはいろいろな見方があるかと思いますが、長官のご所見はいかがでいらっしゃいますでしょうか。

答)

現在のこのグローバルな金融混乱は、国際的な協調の下で解決される必要があるということかと思います。このため、先般のG7(七か国財務大臣・中央銀行総裁会議)においては、各国があらゆる利用可能な手段を活用して断固たるアクションをとるといったことが合意されたわけであります。G7を受けた当面の我が国としての対応を、G7終了後、速やかに決定し、発表したという性格のものかと思います。

我が国の金融システムは、欧米と比べれば相対的には安定しており、セーフティネットも整備されているところでありますけれども、最近の急激な株価の変動が、我が国の金融や、あるいは実体経済に与える影響ということも考えられますので、必要な対策を迅速に講じるという趣旨で、G7から中川大臣が戻られた直後の14日に、談話という形で発表したところでございます。具体的には、市場の安定化、透明性確保の観点から、自社株買い規制の緩和と、取引所による空売り情報開示の拡充というものを織り込んだわけでありまして、これは既に実施しているところでございます。それから、金融機能強化法の強化・活用による中小企業金融の円滑化、そして、生保(生命保険)のセーフティネットへの政府補助の延長の件について検討すると織り込んだところでございます。

更に昨日、金融機関の代表者を集め、大臣より、金融円滑化に向けた要請を行ったところでございまして、金融庁としてこれら一連の取組み、あるいは、その迅速かつ着実な実施が、金融・資本市場や地域経済の状況の改善に資することを期待しているということでございます。

問)

その市場対策のことなのですけれども、追加案については、大臣は、「状況を見ながら判断する」という趣旨のことをおっしゃっておられます。昨日の意見交換会では、時価会計の停止といったようなことを要望した地銀もありました。昨日、今日と、日米ともに株価が非常に下がっておりまして、かつ、今日の夕方には、政府・与党の経済政策に関する会議も開かれます。仮に追加策が必要であるのならば、いつ、どのようなタイミングで、どのような内容が適切とお考えでしょうか。

答)

今申し上げたとおり、現下のグローバルな金融の混乱というものは国際的な協調の下で解決される必要がございますけれども、G7直後の14日に、我が国において当面必要な対策について発表をさせていただいたということでございます。まずは、この大臣談話に盛り込まれた対策をしっかりと実施していきたいと思っております。

他方で、我が国の金融システムは、欧米と比べますと相対的には安定しているということではありますけれども、最近の株式市場等の大きな変動にも見られるように、国際的な金融市場においては、引き続き緊張が一層高まっておりまして、このことが、世界の実体経済にも悪影響を与えていると思います。そういう意味で金融庁としては、引き続き高い警戒水準の下で、市場や実体経済の動向について十分フォローしていく必要があると思っております。また、大臣談話にもありますとおり、情勢の変化があれば適時適切に対応できるよう努めていきたいと考えております。

時価会計の取扱いにつきましては、我が国においては、たまたま本日開かれた企業会計基準委員会(ASBJ)において、公正価値、時価の算定方法を明確化するため、国際的に整合的な解釈指針案を公表するということが議決されたものと承知をいたしております。この国際的に整合的な解釈指針に関しましては、例えば、去る9月30日に米国の証券取引委員会(SEC)と財務会計基準審議会(FASB)の公正価値の算定方法の明確化の指針というものが公表されたわけですけれども、そのポイントとしては、まず第一に、市場に十分な取引がある場合にはその取引価格を時価とする、そして第二に、市場が無秩序(ディスオーダリー)な状態にあるために取引価格が極端な場合、又は取引価格の大幅な補正が必要な場合には、会社内部のデータに基づいて推計することが可能、といった考え方を示しているところでございます。

それから、これは一部報道にも先般ございましたけれども、金融商品の保有区分の振替、具体的には、金融商品に関して、例えば売買目的の区分からその他の区分への振替といったことでございますけれども、この点につきましては、先般10月13日に国際会計基準審議会(IASB)が会計基準の見直しを行ったことを踏まえまして、これも本日開かれた企業会計基準委員会において、国際的な整合性の確保及び公正妥当な会計基準の開発・適用という観点から検討を開始したと承知をいたしております。

会計基準そのものは、企業の活動、特に上場企業の活動について、その成果を含め正確に広く市場に情報を提供する、その基準、物差しとして極めて重要な役割を果たしているものでございまして、時価会計を含めて、その会計基準全体としての透明性、一貫性、整合性というものについて、十分な信頼が維持されるということが重要であろうかと思います。他方で、この時価会計の具体的な、現実における運用のあり方については、マーケットが非常に混乱しているような状況、例えば対象となる金融商品の流動性が極端に枯渇していて、ごく少ない量の例外的な取引だけが成立しているといったような場合に、そこで観察された価格が全てに適用されることによって、結果として出てくる財務報告がそれによって振り回される、あるいは、実態から極端な乖離が出てくるといったようなことについては、金融庁としても問題意識を持っているということでございます。

いずれにいたしましても、我が国においては、ただいま申し上げましたように、企業会計基準委員会において、国際的な整合性も勘案しながら、適時適切に会計基準の設定が行われていくものと考えております。

問)

先週の大和生命の経営破綻(はたん)についてなのですけれども、市場環境の悪化による影響が大きいというお話を伺っておりますが、前回の検査から今回の検査に至るまでの間隔がかなり空いていたのではないかですとか、監督当局としてもう少し早く手を打つことはできたのではないかというような声も市場周りから聞こえてきますが、いかがお考えでしょうか。

答)

大和生命は、先般10月10日、平成20年9月末時点で債務超過となる見込みとなったことから、東京地裁に対して会社更生手続の申立てを行ったところでございます。今般、大和生命がこのような事態に至ったのは、高コストの保険事業を、高利回り・高リスクの有価証券運用で補填するという同社の特異な収益構造が続く中で、昨年来の市況の悪化によって有価証券の損失が拡大したためであると、私どもも認識をしております。

金融庁では、保険会社に対しては従来より、保険業法に基づいて、業務の適切性、財務の健全性等について、オンサイトでの立入り検査、オフサイトでのモニタリングなどを、状況に応じた頻度で的確に実施することによって検査・監督に努めてきているということでございます。特に、昨年の夏以降、サブプライム・ローン問題に端を発するグローバルな金融市場の混乱が顕在化してからは、有価証券運用を始めとする金融機関のリスク管理の状況について、警戒水準を高めてフォローしてきたところでございます。こうした中で大和生命では、財務基盤強化の観点から資本提携交渉などの努力を行ってきておりまして、金融庁としても契約者保護の観点からヒアリングなどによってその状況をモニターし、注視してきていたわけであります。9月末を迎えて、債務超過を回避できなかったといった事態に至ったことはまことに遺憾でございますが、当局としては今後、更生計画の策定に当たって、保険契約者等の保護の立場から適切に対応していきたいと思っております。

検査のタイミングについては、一般論として申し上げたいと思いますけれども、検査全体を効率的・効果的に行うという観点も意識しつつ、各金融機関の経営状況や、金融機関自身が自主的に取り組んでいる業務改善の実施状況、これらを含め、様々な要因を総合的に勘案したうえで、実効性の高い検査が適時に行われるよう、具体的な検査の実施先及び実施時期を決定しているというところでございます。

いずれにいたしましても、グローバルな金融市場では緊張が続いておりますので、保険会社についても引き続き注意深くモニター等を続けていきたいと思っております。

問)

繰り返しになりますが、時価会計の見直しについて、昨日、メンバーから中小企業の融資にも影響が出てくるという声があったのですが、そのような状況も勘案して、見直しというか凍結の必要性についてどのようにお考えですか。

答)

銀行などの金融機関の財務の健全性、特に自己資本の十分性に問題が発生すると、そのことが当該金融機関のリスクテイク能力、より具体的には貸出のキャパシティー(能力)に影響を与えるというのは一般論として事実であろうかと思います。他方で会計基準というのは、先ほども申し上げましたように、特に上場企業の業務の成果あるいは財務の実態等について共通の物差しで広く市場に情報を提供するという枠組みの中で重要なインフラストラクチャーとなっているわけでありまして、時価会計を含め会計基準というのは一貫性、整合性、信頼性というものが維持されるということはきわめて重要なことです。ただ、先ほども9月30日に発表された米国SECとFASBの指針で引用させていただきましたけれども、例えば市場が無秩序なために金融商品の取引価格が極端な値を示しているような場合に、そのことによって企業の財務報告の結果というものが大きく振り回されて高いボラティリティー(変動性)を示すということについては我々も問題認識を持っています。したがって、時価会計自体を凍結すべきという意見は支配的なものになっていませんが、時価会計の適用・運用の仕方については今のような問題意識があるということかと思います。そして、繰り返しになりますが、本日開かれた企業会計基準委員会において、時価あるいは公正価値の算定方法を明確化するために国際的に整合的な解釈指針を本日公表するということを議決したということです。

問)

金融機能強化法ですが、単に復活ではなく強化ということで、中川大臣も、より柔軟に積極的にやれるように、と話していますが、従来の強化法では注入銀行に経営強化計画の提出を求めたり、単独で申請する銀行には経営責任を求めるなどの諸条件をつけていますが、このあたりの比較で、新しい強化法の中身についてどういうイメージを持たれているのか教えてください。

答)

金融機能強化法については、内容の拡充も含めて法案の中身の検討を行い、法案作成作業に全力で取り組んでいるところです。具体的な内容については、今、ご質問の中で挙げられたような論点を私どももある程度意識しておりますが、具体的な内容は作業中ですので、お答えは差し控えるべきだと思います。いずれにしましても、改正法案を早急に国会に提出できるように全力で作業を進めてまいりたいと思います。

問)

検討・作業中ということですが、注入銀行の経営責任とモラルハザードの関係について、現段階での長官のお考えをお願いします。

答)

先ほど申したように、中身を含め作業している段階ですので、恐縮ですがお答えは差し控えさせていただきます。

問)

強化法は今年の3月に申請の期限が切れましたが、3月といえばサブプライム・ローン問題がすでに発生しておりまして、それから6月ぐらいの段階で長官は、「金融機関の資本増強は独力で民間から資金調達すべきで、安易に公的資金に頼るべきではない」とおっしゃられたと記憶しておりますが、そこから数ヶ月経った今、結果として状況は変わってきているわけですが、どういう外部環境の変化や日本の金融システムの変化、又は健全性に対する必要性を含めて、どういう変化があったのか改めてご説明ください。

答)

端的に申し上げれば2点だと思います。グローバルな金融の混乱が極端に大きくなってきて、その結果として我が国の金融市場においても市場・民間ベースでの資本調達、本来の形での資本調達の難易度が急に難しくなったということがあると思います。これは特に、9月のリーマン(・ブラザーズ)の破綻以降明らかに緊張度が格段に高くなってきているということも言えようかと思います。

もう一つは、地域金融機関の資本増強の効果として、先ほども申し上げたリスクテイク能力が高まる、その結果として中小企業に対する与信能力が大きくなるという効果が期待されるわけですが、地域金融機関による中小企業向けの与信のニーズも、地域の経済あるいは中小企業の状況を含め、ここにきて大幅に悪化しているということで、ニーズの方も急速に高まってきているという大きな状況の変化があったと認識しております。

問)
欧米の各国は、公的資金の活用というところで平仄を合わせたのかなという解釈もあると思いますが、預金の全額保護ということをヨーロッパ、アメリカは決済性の預金を、日本は決済性預金は全額保護でその他は1,000万円ということですが、全額保護すべきだという議論も永田町を中心に出つつあるように思っておりますが、必要性を含めご見解をお願いします。
答)

今、ご質問の中でもご指摘いただいたように、我が国の預金保険制度は決済性預金について全額保護、それ以外は1,000万円までの預金を全額保護し、それを超える部分については清算配当で受け取るという枠組みになっておりまして、もともと恒久制度として存在している預金保険制度がかなりしっかりしたものになっているということだと思います。 昨日発表された米国のパッケージの中にもこれと似たような取組みをするということが盛り込まれたと承知しております。

昨日発表された米国のパッケージの中にもこれと似たような取組みをするということが盛り込まれたと承知しております。

我が国の預金取扱金融機関を含めた金融セクター全体としての財務は欧米の金融セクターと比べると相対的に健全性を保っているということは繰り返し申しているところでして、預金の全額保護といった例外的な措置を講じなければならないというような状況にはないと現時点では認識しております。

G7における5つの行動計画の中に預金保険制度の頑健性、頑強性を確保していくという項目がございますが、この点もそれぞれの国においてそれぞれの市場の状況や金融セクターの状況に応じた最もふさわしい対応を取っていくという趣旨だと思います。

問)

銀行間取引における債務を公的保証するということも相次いでおりますが、これについても日本は措置しないという考えでよろしいでしょうか。

答)

そういった認識をベースとしつつ、先般、日本銀行の白川総裁もそのような措置は必要ないとお答えになっていると承知しており、私も同様の認識でございます。

問)

株価に絡んでですが、本日史上2番目の下げ幅で日経平均が8,000円台になりましたが、現時点で日本の金融機関の財務の健全性に与える影響のご所見と、株式の含み益・含み損の会計ルールの部分ですが、日本の国内ルールではTier1(基本的項目)に含み損が直接入ってくるということで欧米と比べてやや厳しいルールになっていますが、そこの改正の可能性についていかがでしょうか。

答)

有価証券の保有に関して、当該有価証券の価格の変動は評価損益を通じて銀行のバランスシートに影響を与えるということになっています。ひところに比べて我が国の銀行の株式保有は大分小さくなってきているので、それに対応した銀行の財務への影響度合いも昔に比べると小さくなってきているということは言えようかと思います。他方で、株価を中心にこれだけ大きな価格の変動があるということですので、警戒を怠ることなく、このことが我が国の金融機関の財務の健全性に与える影響を引き続き警戒水準を保って見ていく必要があると思います。

それから、有価証券の評価損益と自己資本規制の取扱いについては、自己資本規制というのは国際合意の中で設計され枠組みが作られておりますので、そういった国際的な大きな広がりの中できちんと見ていく必要があると思っております。

問)

大臣談話に関連して、政府保有株の売却凍結の方針があったのですが、これに加えて銀行保有株式取得機構による銀行保有株の買取りですが、今の話ですと、日本の株式保有は昔に比べて小さくなっているということですが、追加的な対応として銀行保有株を買い取る必要性についてはいかがお考えでしょうか。

答)

その必要性というのはどういう理由での必要性ですか。

問)

金融危機対策の追加策としてです。

答)

一般論でお答えすると、株価というのは中期的には株式を発行している上場企業の業績の実績及び将来見通し、より具体的には当該株式を保有することによって得られる将来キャッシュフローの現在価値に収斂(しゅうれん)するということだろうと思います。そういう経済合理性を反映した価格形成を行う機能が株式市場には期待されていると思います。

問)

今のお話ですと、銀行保有株を政府が買い取る必要性はないということでしょうか。

答)

今申したような株式市場の果たすべき基本的な役割に照らして冷静に考えるべきだと思います。

(以上)

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