佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成21年5月11日(月)17時02分~17時37分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私の方からは特にございません。どうぞ。

【質疑応答】

問)

まず、先週金曜日の大臣会見でも出たのですが、アメリカの大手金融機関に対するストレステストの結果について、先週の会見では前向きな大臣の評価だったと思うのですが、よくよく内容を見れば、前提となる見通しが甘いですとか、IMF(国際通貨基金)の試算に比べてだいぶ損失が少ないですとか、いろいろな指摘をされていることがありますが、改めて長官としてその結果に対する評価を聞かせていただければと思います。

その中に、以前から長官は、厳格な資産査定というのが正常化を取り戻すために必要なことだというふうにおっしゃっていたかと思うのですが、今回のプロセスで、これからの正常化に向けて死角はないのかどうか、リスクみたいなものはまだあるのではないかと思うのですが、そのあたりについてどういうふうに見られているのでしょうか。

答)

まず、全体についての感想のような話ですが、今回の米国当局の取組みは、米国の金融セクターの健全性について、各銀行共通の基準でチェックをしたということでございますので、全体としての透明性の向上に資するものであるというふうに思います。それから2点目に、金融機関にある程度先を見据えた資本調達を促すという仕掛けになっているわけで、全体としての健全性の向上に向けた環境整備を図るという役割も担っているのかなという気がいたします。それから3点目に、日本の経験に照らしたときに、金融システムの安定のためには、損失とその損失の発生源を正確に認識すること、巨額の不良資産や不良債権といったものはできるだけバランスシートから切り離すこと、そしてそれらの結果として自己資本不足ということが確認されれば、速やかにその状況を是正するということ、こういった3つぐらいのことが非常に重要かなという教訓があろうかと思いますが、今回の取組みはこういった全体としての金融セクターの安定化に向けた取組みの中で重要な取組みであると思っておりますし、米国の金融セクターの安定化に向けた重要なステップであるというふうに思っております。

他方、留意点を挙げれば、今回のストレステストでストレス・ケースで前提されているマクロ経済指標との関連で、米国の実体経済が今後どのように展開していくのか、また全体としてのマーケットの信認がどの程度回復していくのか、更には銀行の資本調達が実行されていくスピードと、その実行されたのを受けて銀行の貸出がどのように推移していくのか、こういった点の展開について、注意深く見ていく必要があるというふうに思っております。

いずれにいたしましても、今般のこの米国の取組みがグローバルな金融市場の安定化に資することを期待しつつ、今後の展開を注視していきたいというふうに思っております。

問)

今週、地方銀行や大手銀行で3月期の決算発表が相次ぎますが、もう既にほとんどのところで下方修正なり、事前に判明した分が発表されているのですが、改めて今の銀行を取り巻く経営環境についてどういうふうに見ていらっしゃるでしょうか。

あと、その中で今回の赤字の大きな原因の一つに、株をはじめとする有価証券の評価損というのがありまして、これがかなり銀行経営を左右してきたという事情がありますが、これについて金融庁でも銀行株式の買取りというような対策というので、ある意味リスクをヘッジするという取組みはしているのでしょうが、今後、銀行の株式保有について、また改めて制限を強めるというような考えがあるのがどうかを聞かせてください。

答)

多くの主要行、あるいは地方銀行において、平成21年3月期の決算が赤字の見込みである旨、公表が行われているということでございます。多くの金融機関に共通する減益要因、あるいは赤字要因と呼ぶべきかもしれませんが、要因としては、与信関係費用の増加と株式等の減損額の増加ということが挙げられております。銀行を取り巻く経営環境というのは、引き続き金融庁としても注意深く見ていく必要のある状況であろうかというふうに思っております。

それから、銀行による株式保有についてですけれども、ご案内のとおり、平成13年に制定された「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」というのがございまして、これに基づいて銀行はその株式保有をティア1、中核的自己資本と同額以下に維持しなければならないという規制がかかっているところでございます。最近は、おおむねこのティア1資本の50%程度のところにあるというふうに承知をいたしております。

こうした規制の枠組みの下で、経営判断によって株式をはじめとする有価証券を一定程度保有するということは、ビジネスモデルの一環として許容できる面もあるかと思いますが、他方で、多くの銀行経営者は昨今の状況の下で、株式保有に伴うリスクについて大きな教訓を学び取られたのではないかというふうに思っております。そういう意味で、各銀行は自主的な経営判断の下で、株式保有に係るリスク管理をより一層的確に行うことが求められているところだと思います。このことを前提に、当面は各銀行の自主的な努力に期待したいというふうに思いますし、その努力の動向を注視していきたいというふうに思っております。

問)

一部報道で新生銀行とあおぞら銀行の経営統合について大筋合意したというような報道がありますが、金融庁としてどこまで把握されているのでしょうか。

また、これは2週間前にもお聞きしたかもしれませんが、今回の経営統合に関連して、(金融機能)強化法に基づく公的資金の申請が取りざたされているようなのですが、既に(公的資金が)1回入っていて、なおかつまだ返済の見通しが立っていないような、なおかつ現時点では地域の中小企業に対する融資というのをあまりメインに置いてないと思われるような、こういった金融機関に対しても、本人たちの意向などが、経営方針の転換などがあれば、こういう強化法を使い得る対象になるのかということについて聞かせていただければと思います。

答)

ご指摘の報道があったことは承知しておりますが、経営統合については個別金融機関の経営判断の問題でございますので、当局から直接コメントすることは差し控えたいと思います。それから、追加の公的資金注入に関してのお尋ねでございますが、これも仮定のお話についてコメントすることは差し控えたいと思います。

あくまでも一般論として申し上げれば、どこの銀行であれ、金融機能強化法の(適用)申請がなされた場合には、金融機能の強化を通じ国民経済や金融システムに資するかどうかといった観点を踏まえつつ、法令に定める要件に従って審査するということかと思います。

問)

今の新生、あおぞらに関して、新生、あおぞらは公的資金がまだ残っていますが、収益見通しが赤字であって、いわゆる3割ルールにも該当するし、公的資金の返済のめどがなかなか立たない中で赤字が続いている、そのことに関して長官はどのように思われますか。

答)

全くの抽象論としてのお尋ねであればともかく、まさに個別の案件を前提にしたお尋ねでございますので、いかんともお答えのしようがないということかと思います。

いずれにいたしましても、本件がどうこうということよりも、公的資金の申請がなされた場合には、根拠となる法令の趣旨に沿って、また法令の定めに沿って、粛々と審査をしていくということかと思います。

問)

ちょっと質問の仕方を変えて、公的資金注入行がいわゆるサブプライムで予想外の赤字の状況に陥って、予想どおり経営健全化計画を達成できない、もしくは公的資金の返済のめどがなかなか見えないという状況に陥っているところが地銀、大手行を含めて幾つかあると思うのです。そういうところの現状に対してはどのように思われていますでしょうか。

答)

公的資金の注入というのは、その政策目的は、皆様よくご承知のとおり、我が国の金融システムの安定を図る、その中で各金融機関にしっかりとした資本基盤をベースとして積極的な金融仲介機能を果たしていっていただく、ということでございます。その際に、公的資金によって資本注入するということでございますので、言ってみれば、当局は納税者の資金をリスクのある投資に振り向けるということでございますから、その的確な回収のために、様々な形で注意を払っていくことは当然でございます。であるがゆえに、公的資金注入行に対する様々なルールが定められているということだと思います。それで、そもそもの公的資金注入の大きな政策目的というのがあるわけでございますので、その政策目的をできるだけしっかりと充足しつつ、かつ、納税者の資金をできるだけ有利な形で回収していくということも大事だと思いますので、そういう心構えでこれまでも金融庁は様々な取組みをしてきているということだと思います。

一番金額的に大きかったのは、早期健全化法(金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律)に基づく資本注入ですけれども、この早期健全化法に基づく資本注入では、これまで8割から9割方が回収されていますが、そこの部分について、相当規模のキャピタルゲインを実現して回収ができているということでございます。そのことだけが目的ではないわけですけれども、先ほど申し上げた政策目的と、納税者の資金をできるだけ有利かつ確実に回収するという狙いの同時達成を目指して、引き続き努力していくということかと思います。

問)

今の質問で関連してもう一回お願いしたいのですが、既存の株主として、今、国が資本参加している銀行があります。その銀行が更に、普通株ではないにしても、(金融機能)強化法のような仕組みを使って資本増強する場合、株主としての国の立場は、資本増強を一概にとどめるものではないという理解でいいでしょうか。いろいろな状況を考えて見れば、追加的な公的資金注入をマイナス要因としてとらない、という理解をすればいいんでしょうか。

答)

既に資本注入がなされている、ということですか。

問)

そうです。

答)

そういうご質問ですと、かなり一般的ではありますが、かなり個別のケースを前提にお尋ねになっているという感じがいたしますが、それは先ほど来お答え申し上げておりますように、資本注入の根拠となっている法令の趣旨、大きな政策目的に照らして、当該案件が全体の政策の中で、あるいは我が国の金融システム、我が国の経済のために、高い必要性があるのかどうか、そういったことを踏まえて、仮に申請があれば審査をしていくということかと思います。

問)

昨年後半から金融危機対策ということで、政府の方で、金融庁が中心になって諸々の金融円滑化策をとられてきたと思うのです。ただ、なかなか企業倒産が減らないということで、3月も14%、ふた桁超の伸びを示しておりまして、10カ月連続で前年比で増えているということで、この金融円滑化を進める一方で、企業倒産は減らないという現状について、長官はどのように見ていらっしゃるのか、ご見解を伺えればと思います。

答)

企業倒産が高い水準で推移しているということは、これは金融サイドからの取組みだけでその状況を大幅に改善できるというよりは、実体経済全体の動き、経済全体の動き、その中で金融セクターが実体経済での金融仲介機能をいかにきちんと果たしていけるかといった関わりの中での話だろうというふうに思っております。

ご案内のとおり、我が国の経済は、相当程度外需依存型の構造を持っている中で、輸出が極端に大きな減少を示し、その中で製造業等をはじめとして需要が極端に小さくなったということでありまして、このことが一番の大きな要因であるのかなというふうに思っておりますが、そういった実体経済の状況に対して、金融セクターがその悪影響をできるだけ小さくするように金融サイドからサポートしていくということは、いずれにせよ極めて重要なことだろうと思っております。民間金融セクターだけではなくて、政策金融を含め、また日本銀行による様々な取組みも含めて、当局が全体として連携しながら、様々な取組みをしているという状況かと思います。

少なくとも、金融セクターが実体経済の足を引っ張るというようなことにならないように、引き続き注意深く実態を見ていきながら、取組みを続けていくということかと思います。

問)

金融セクターが実体経済の足を引っ張っている、ということはないのですか。例えば、一部のメガバンクが強烈な貸し渋り、貸しはがしをしているという話もなお聞こえてきますし、そのあたりの懸念もなおあるのですけれども、金融セクターが足を引っ張るという…。

答)

足を引っ張っているかどうかということについての事実認定、事実判断の話は容易ではないので、この場でのお答えは差し控えたいと思いますけれども、なるべくそういうことが起きないように、金融当局として目配りをしていくということは、いずれにせよ、大事だと思います。

今の貸し渋りの話につきましては、金融仲介機能をしっかりと果たしてもらうような様々な環境整備を金融庁としてはこれまで行ってきておりますし、近いところでは、貸し渋りに光を当てた集中検査というのも実行しているところであるということでございまして、まずはそういう金融当局としてできることを速やかにやっていくということかと思います。

問)

アメリカのストレステストでクローズアップされた問題で、資本の質の話があると思うのです。特に、アメリカの、検査というかストレステストの結果後の方針では、リスクベースのティア1とか普通株調整後のリスクベースティア1とか、今までになかった指標が出されていまして、これは短期的な措置だと思うのですが、仮に、中長期的な資本の質の改革に影響したらどうなのだという懸念が邦銀の間では出ているようですが、金融庁として、普通株を中心にした資本の質の向上策に対してどのように臨まれるのか、どのようにそれを評価しているのか、現状のお考えを伺えないでしょうか。

答)

全般的な認識で申し上げれば、規制上の自己資本というのは、銀行が業務を継続していくためのいわば継続可能性、サステイナビリティーを高めるということで、将来損失が発生したときの備えとして、損失吸収バッファーとしての役割を担っているわけです。どういった形態で、どういった性格を持つ損失吸収バッファーを持つのが良いのかということは、恐らく、その時その時の市場の状況や個々の銀行のリスクプロファイルなどに応じて、バリエーションがあっていいものだろうというふうに思います。普通株、優先株、優先出資証券、そして劣後債務、あるいは有価証券の評価益、様々なものがあるわけですけれども、損失吸収バッファーとしてのクオリティ(質)に着目すると、吸収バッファーとしての存在の安定性、それから分かりやすさ、明確性、―分かりやすさというのは、目に見える分かりやすさというのもあるかと思いますけれども、―そういったことがいくつかの要素として入ってくると思いますけれども、他方で、いかに機動的にその損失吸収バッファーを調達し得るかといったことも重要だと思います。それから、資本調達に伴って資本調達コスト、それから資本コストというのもあるわけです。例えば、優先株に対する配当利回りなどはそれを判断する一つの要素ですけれども、そういった様々な要素を全体としてよく冷静に考えて、それぞれの状況で最適な資本政策を行うということが各銀行には求められているということだろうと思います。

自己資本比率規制というのは、国際的な、グローバルな共通のボトムラインというものがございますので、その共通基準について、国際的な議論というものが行われるのであれば、当然、我が国、我が金融庁もその国際的な議論に積極的に参画していくということであろうかと思います。

問)

連休前の話で、日興シティをSMBC(三井住友フィナンシャルグループ)が統合という方向で合意したというのが出ていますが、それへのご感想と、あとそういう銀・証の一体化が進む中で、銀・証のファイアーウォールの規制であるとか、優越的地位の濫用が起こるのではないかという見方もあります。そのあたりについて、今後どのように対応していくのかお聞かせください。

答)

本件そのものについて、直接コメントすることは、この本件が経営判断に関わる話でございますので、差し控えるべきだと思います。

一般論として申し上げますと、グローバルに見ても、金融市場の混乱が続いている中で統合・再編の動きが見られているということでございます。我が国の金融機関についてそういった動きが出てくる場合に、金融庁としては、当該金融機関において適切な経営管理、リスク管理が行われ、既存の顧客の安心及び利便性にも配意がなされ、そういう中で的確な経営判断がなされるということが重要だと思っております。その結果として、国際競争力と、顧客利便性に優れた質の高いサービスが提供されていくということを期待するというのが、金融庁の一般的な心構えでございます。

これは先般もお尋ねがあったかと思いますけれども、大手銀行と大手証券会社グループが、同一のグループに存在するような形になっていくことについては、ご質問の中でも触れていただきましたように、経営管理、リスク管理をしっかりやっていただく中で、特に利益相反による弊害や優越的地位の濫用を防止するということが極めて重要になってくると思います。ただ、他方で、そこがきちんと行われれば、それを前提として銀行・証券にまたがる総合的な金融サービスが提供されやすくなるということで、利用者利便のレベルアップにつながるのではないかということも期待されるわけであります。

折しも、来月6月1日には、ファイアーウォール規制の新しい枠組みが実施に移されるということでございます。一方で、利益相反管理のための情報の共有というのを銀行・証券の間で認めつつ、他方で、金融機関及び金融機関グループに対して、新たに利益相反管理態勢の整備を求めるということになっております。こういった大きな制度の趣旨に沿った質の高い経営が行われていくかどうかというのは、当然のことながら、金融庁としての着眼点になっていくと思います。

(以上)

サイトマップ

ページの先頭に戻る