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佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成21年7月6日(月)17時01分~17時38分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私からは特にございません。どうぞ。

【質疑応答】

問)

新生銀行とあおぞら銀行が、来年10月の統合を発表しました。新社長には足利銀行の池田元頭取が就任されて、新しいビジネスモデルの銀行として生まれ変わるという説明をされています。金融庁としての期待のほどを、ぜひお願いいたします。

また、改正金融機能強化法による公的資金の投入も検討課題と思いますが、その投入するに当たっての条件や基準など、金融庁の考え方をお示しください。

答)

先般7月1日に、新生銀行とあおぞら銀行が合併する旨公表したところでございます。

ご案内のとおり、合併などの経営統合は、個別金融機関の経営判断に属する事柄でございまして、当局から逐一個別にコメントすることは差し控えるべきだろうと思います。一般論として申し上げれば、金融機関が、自らの経営判断の下で、将来を見据えた経営戦略の構築や経営基盤の強化に向けて真剣に取り組み、これによって金融機能やガバナンスの強化、あるいは企業価値の向上に結びつけていくことが重要だと思っております。

今般の両行による合併の公表においても、この本件合併により経営の安定を確保するとともに、リスク管理に留意しつつ両行の得意分野を強化する、また、これらにより、顧客及び社会に信頼され、必要とされる金融機関としてその繁栄に貢献する、という話が表明されておりまして、将来を見据えた経営判断を行い、今後、必要な取組みを進めていくものと受け止めております。

なお、公的資金の活用については、銀行側はこれから必要性を検討する旨説明しておりますので、このような段階で金融庁としてコメントすることは差し控えるべきだろうと思います。全くの一般論として申し上げれば、金融機能強化法の申請がなされた場合には、法令に定める要件に従って審査するということだろうと思います。

問)

人事のことですけれども、今月14日付で長官交代も含む幹部人事が発表されました。与謝野大臣は「適材適所」とご説明されておられますが、財務省と金融庁の間の幹部交流人事、いわゆる「ノーリターンルール」も解禁されたという見方ができると思います。今回の人事についての考え方をお聞かせいただけますでしょうか。

答)

今回の幹部の異動についての基本的考え方、これは先日3日に大臣からもお話があったかと思いますが、世界的な金融市場の混乱は足下回復の兆しを見せてはおりますけれども、金融システムの安定や金融仲介機能の確保など諸課題への対応に引き続き万全を期していく必要があり、それに相応しい人材を適材適所の観点から配置するということにしたものでございます。次期体制においても、引き続き金融行政上の諸課題に全力を挙げて取り組んでもらいたいと考えております。

それから、いわゆる「ノーリターンルール」についてでありますけれども、これは既にお答えしていると思いますが、金融監督庁の発足当時、平成10年6月に、当時の村岡官房長官から、部長以上の幹部職員、現在の金融庁で言えば局長以上に該当すると思いますが、これについて「金融監督庁に骨を埋める覚悟で金融監督行政に取り組んでもらいたい」、こういった趣旨の発言がなされたという経緯があります。今回の異動は、その経緯等に照らして、特段の齟齬はないものと考えております。

ご案内のとおり、金融庁はベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)というものを一生懸命やっているわけですが、このベター・レギュレーションの第1の柱に、「ルール・ベースのアプローチとプリンシプル・ベースのアプローチの最適な組合せ」ということを掲げてございまして、記者の皆さんには、既にこの考え方については馴染みを持っていただいていると思いますので、それに敷衍して補足させていただきますと、ルール・ベースの考え方で、このいわゆる「ノーリターンルール」というものとの関係を整理すれば、今申し上げたようなことになろうかと思います。

他方で、プリンシプル・ベースと申しましょうか、このいわゆる「ノーリターンルール」がなぜ方針として表明されたか、どういうことが狙いかという点に遡って考えますと、要するに、金融行政が高い専門性を発揮し、中立性・独立性を保って進められていく必要があるので、金融監督庁、金融庁の幹部職員は、そういった趣旨に則って、金融行政に専心努力するということが狙いであったかと思っております。

そういったルール・ベース、プリンシプル・ベースの頭の整理をした上で、現在の金融庁による金融行政の遂行のありようというものを振り返ってみれば、財務省とは別の独立した行政機関として法令上位置付けられており、金融庁に金融行政上の権限は専属しているわけであり、それに基づいて、10年余りにわたって、金融庁として金融行政上の実績を積み重ねてきておりますので、名実ともに、これは大臣もおっしゃっていますけれども、金融庁と財務省は、別々のそれぞれ独立した行政機関としての位置付けが明確になってきているということかと思います。

また、ご案内のとおり、金融庁はプロフェッショナリズムに基づく高い専門性と、明確な目的意識、すなわち常々申し上げている金融行政の三大目標、金融システムの安定、利用者の保護、市場の透明性・公正性の確保、こういった主要三大目標についての明確な目的意識を持って、そこに向かって組織全体が運営されているという実態がございます。そういった意味からすると、金融行政が他の事情で何らか歪められるというリスクは、非常に小さくなってきていると私は認識いたしております。

したがって、このいわゆる「ノーリターンルール」というものは、今申し上げたようなプリンシプルとしてその趣旨を捉えれば、引き続き重要な心構えであって、今後ともしっかりとこの点に留意していく必要があろうかと思います。

問)

銀行保有株の買取りなのですけれども、(銀行等保有)株式取得機構ですとか日銀による実績が、6月の時点でかなり好調になってきています。背景には株式相場の好調もあると思いますが、金融庁の方針どおり、銀行と企業の持合い解消が、銀行側の自助努力で進んでいるということを裏付けているものかとも思います。それに加えて、持合い解消に向けて、今後、例えば情報開示を義務付けるですとか、そういった新たな規制強化なり、ルール作りに取り組まれるお考えはありますでしょうか。

答)

最近の動きについて、前向きのご評価をいただきありがとうございます。そのようなポジティブな解釈も不可能ではないかなと期待しているところでございます。

規制のあり方でございますけれども、銀行等の株式保有制限を現段階で直接規制によってさらに強化するということについては、当面は慎重に考えているということでございます。その理由は、以前もお答えしたかと思いますけれども、一つは、株式の保有というものは、銀行等による金融仲介機能の一環として、エクイティ性の資金を提供するというようなツールになる場合も考えられるということ。それから、世界的な金融市場の混乱の影響や国内の実体経済の悪化が未だ見られる状況下において、株式保有について直接規制によって性急に制約を強めるということは、金融市場、あるいは経済の回復に水を差すおそれがあるということなどを意識しております。

他方で、ご質問の中でも触れていただきましたように、おそらく日本の銀行経営者の皆さんにおいては、これまでの経験から、株式保有というものが非常に大きなリスクにつながるものであって、株価の下落によって自行の財務の健全性が損なわれる可能性があるということを学ばれていると思います。したがって、こういった株式取得機構のようなセーフティネットも用意しつつ、かつ、各銀行における株式保有にかかるリスク管理の強化、一般的には、株式保有の削減について自主的な取組みを促しているところでありまして、当面は、その自主的な取組みを注視し、適切なリスク管理が行われているかを継続的にチェックしていくという姿勢で対応していくことになります。

他方で、この銀行の株式保有という銀行サイドの財務の健全性の関連の議論とは別に、株式の持合いについては、一般的には、これは投資者の投資判断に際して重要な情報であると考えられております。これについて、先般の金融審議会、我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ、この報告、「上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて」というタイトルですが、この報告における提言においても、株式の持合いの状況は投資判断に際して重要な情報であり、一定の持合状況の開示について、制度化に向けて検討されるべき、という旨の提言がなされております。

金融庁としては、今後、この提言を踏まえながら、有価証券報告書等において株式の持合いの情報の開示を求めるよう、今後、市場関係者との意見交換等を行いつつ、検討を進めていくということを考えております。

問)

先だってのイギリスのフィナンシャル・タイムズへの寄稿の中で、長官ご自身が、英米で進む銀行の自己資本比率規制の強化について、過度の規制を牽制する趣旨の発言をされておられるかと思います。改めて、この件についての金融庁としての考え方をお聞かせいただけますでしょうか。

答)

ご指摘のとおり、先週、7月1日付のイギリスのフィナンシャル・タイムズ紙に、「行き過ぎた資本規制強化は過度のリスクテイクをもたらしかねない」、翻訳するとこういうタイトル、見出しの原稿を寄稿いたしました。

ご案内のとおり、現在、国際的には、銀行の自己資本規制の強化に向けた議論が進められているところであります。本寄稿は、この規制の重要性ということは前提としつつ、行き過ぎた一律の規制の強化というものは、かえって金融システムを不安定化させかねないということについて、注意を喚起したものでございます。

この寄稿の中には、意見にわたる部分、個人的見解にわたる部分も含まれておりますけれども、金融庁としての概ねのコンセンサスとしても、例えば、個別金融機関ごとのビジネスモデルの違いによるリスク・プロファイルの違いを的確に把握することなく、あるいは適切な資産価値評価というものを十分に重視せずに、つまり、自己資本比率を計算する際の分母の部分、分母のリスクアセットの計算の正確性ということに十分に力点を置かずに、一律に自己資本の水準を引き上げる議論というものに対しては注意が必要であるという認識を持っているということが言えるかと思います。そして、そういった趣旨の主張は、これまでも金融庁として国際会議等の場で主張してきているということでありまして、自己資本比率規制の見直しに際しては、こういった点も踏まえて、バランスのとれた議論を進めていくということが重要であると思っております。

いずれにいたしましても、この金融規制の再構築については、各国当局から様々な考え方が持ち寄られているところでありまして、我が国も、この国際的な議論にしっかりと貢献していくことが重要だと考えております。

問)

新生、あおぞらに関連してなのですが、既存の公的資金のかなりの部分がまだ残っているわけなのですが、その返済の条件につきまして、過去に金融庁は国会答弁等で具体的な条件を示していると思うのですが、その条件については、引き続き、変わりないという受け止めでよろしいのでしょうか。

答)

注入された公的資本の返済についての考え方は、預金保険機構の三原則という形で、これまでも随時お答えしてきていると思います。その三原則は、返済後の注入行の財務の健全性がきちんと維持されること、返済に伴って市場の混乱をもたらさないこと、そして、納税者の負担を極小化すること、あるいは、前提条件を置いた上で納税者の利益を極大化すること、こういった3点でございまして、今回の統合によって、この基本的な三原則に変更が加えられるということはなかろうと思います。

問)

人事の関係で、「ノーリターンルール」のところをちょっと確認したいのですが、長官は、今回の人事は、総括審議官ということで、「局長級」ということなので、局長ではないからルールには抵触していないという理解ですか。

答)

ルール・ベースの話としてこの問題の頭の整理をするときに、当時の村岡官房長官、あるいは日野金融監督庁長官のご発言等に沿って、これを現在に置き換えた場合には、今で言う金融庁の局長以上というものがその対象になるという理解をしておりまして、そういう意味では、このルール・ベースの発想からしても、これと特段の齟齬はないと理解しております。

問)

そこはちょっと詰めておきたいのですけれども、ここ10年間一度もなかった人事をやるわけですから、政治の方として与謝野大臣が「もう役割を終えた。今後はこういうものに縛られない」という決断があってやるのなら、僕は理解できるのですけれども、政治の方はそういうことを言いつつ、まだ長官の説明だと、「局長以上ではないからルールには抵触していない。このルールは続いていく」というのでは、どうも理解がすっきりいかないのです。長官としては、今後も局長以上の財務省に戻るルールはあり得ない、そういうルールは続いていくと考えるのかというところを、まずちょっと詰めたいのですけれども。

答)

先ほども、縷々(るる)ご説明いたしましたように、このいわゆる「ノーリターンルール」については、ルールそのものが何か法令に明記されているというものではないわけです。そういう中で、これをルールとみなした場合に、ルールの適用関係について、形式基準を詰めていくという話よりは、先ほど私が申し上げた、プリンシプル・ベースでのアプローチ、すなわち、このいわゆる「ノーリターンルール」が狙いとしているもの、趣旨としているもの、それは何であるかというところに光を当てて、その最終的な狙いがきちんと確保されているかどうか、そこのところが重要なのだと思うのです。

要するに、金融行政というものは、極めて高い専門性が必要です。しかも、中立性・独立性が重要です。そういう意味で、それをいわば人事の面からサポートする一つの工夫として出てきたものだと思っております。

したがって、この話は、いわゆるルール・ベースのサイドだけを細かく詮索するというよりは、ルール・ベースの側面、プリンシプル・ベースの側面、両方含めたトータルなものとして、その意義を考えていくということが重要だと思っております。

それで、与謝野大臣のご発言も私なりに理解すれば、先ほど申し上げたように、現在の金融庁の位置付け、力、それから実績、こういうことを見たときに、独立した役所として中立的で専門性の高い金融行政を遂行していく力が既に備わっている、そういう中で、つまり、先ほど申し上げた、このいわゆる「ノーリターンルール」の大きな狙いとする部分については、それが損なわれるリスクというものは小さくなっているので、恐らく、これは与謝野大臣と直接お話ししたわけではないので私の勝手な解釈ですけれども、そういう意味では、ルール・ベースとしての「ノーリターンルール」について、形式基準のみを機械的にあげつらっていくという仕方は、この全体の大きな趣旨に照らすと、あるいは狙いに照らすと、その役割が下がってきているのではないか、こういう趣旨でおっしゃったのではないかと、私は理解しているのですけれども。

問)

そこは、でも、一般の国民とか我々からすると、まさにプリンシプルで幹部級の人事を、できるだけ最高幹部については戻ったりしないように、というプリンシプルがあって、ルールが決まっていたと思うのです。そうすると、「局長」という名前がついていなくても「局長級」とか、ある程度上の方の人は戻らないという基本がないと、「いや、そこはもう全体ができたから、個別判断でできるのだ」というようなことを、しかも、政治の側ではなくて官僚の側がやり出すと、抑えが効かなくなると思うのです。そこがちゃんと保てているというものは、誰が判断するのでしょうか。

答)

そこの大きな狙いというものは、幹部級の交流をしないということそのものが最終目標ではなくて、先ほど来申し上げているように、金融行政が、その政策目標に忠実に、しかも機動的に、高い専門性を発揮しつつ、きちんと遂行される、そのための一つの工夫なわけですから、その目的に照らしたときに、ほかの様々なサポートをしてくれる要因と一緒に考えていくということが大事なのであって、私は、この金融行政の独立性・中立性・専門性、これは決して否定されてはいけない重要な要素であると思っておりますので、この点に資するための工夫はどんどんやっていったら良いと思いますし、先ほど、プリンシプル・ベースとしての「ノーリターンルール」というものについては、引き続き重要な心構えであって、今後とも留意すべきだと申し上げたのは、そういう意味でございます。

問)

札幌のFX(外国為替証拠金取引)の業者が投資家とトラブルになっていて、近く400人規模の訴訟になるというような動きがあります。金融庁として、このFX取引をめぐるトラブルはいろいろあろうかと思うのですが、こういった受け止めと、金融庁としての対応策について、何かお考えがあればお示しいただければと思います。

答)

ご指摘のような報道については承知いたしておりますけれども、個別の民事訴訟に発展する可能性のある事案でございますので、直接、金融庁としてコメントすることは差し控えるべきだと思います。

なお、金融商品取引法では、外国為替証拠金取引の媒介等を行ったり、投資家が出資した財産を外国為替証拠金取引に運用したりするような業者については、金融商品取引法上の「金融商品取引業」の登録が義務付けられております。これとの関連で申し上げますと、報道されている業者については、「金融商品取引業」の登録は受けていないと承知いたしております。

これは一般論になりますけれども、金融庁・財務局においては、仮に投資者からの苦情等を端緒として、無登録で「金融商品取引業」を行う者がいるということが明らかになった場合には、警察当局との連携や、当該者に対する警告の発出などの対応を行っているところでございます。また併せて、ホームページなどを通じて、一般投資家の皆さんに対して、FX等の金融商品取引を行う際の注意喚起を行ってきているところでございます。

いずれにいたしましても、こういった取組みを含め、金融庁・財務局としては、投資者保護の観点から必要な対応を行っていくということが基本的な対応ぶりでございます。

問)

新生とあおぞら銀行の先ほどの公的資金の部分で、ややテクニカルな話で恐縮なのですが、今、両行には合わせて4,000億円の公的資金が簿価ベースで入っていて、これを返済するのが、10年ぐらい前の答弁だったと思うのですけれども、預保の三原則とは別に、これに一定金額を上乗せして返済するように、という条件だった、それでいくと、多分、両行で4,000億円の簿価に対して、おそらく5,800億円ぐらいにして返済を受けるというようなことになっていて、今も株価は低いですけれども、さらにかなり高いところまでいかないと返済がままならないというような状況になっているということがあると思うのですが、ここの金額面での条件というのも変更はないという理解でよろしいのでしょうか。

答)

先ほどのご質問は、そういう趣旨でしたか。失礼いたしました。

確かに、特別公的管理による処理が行われたこの銀行については、これは国会答弁がベースであろうかと思いますけれども、通常の預保の三原則に上乗せする形でのハードルが設けられているということは承知いたしております。このハードルを変更すべき特段の事情というものは、現時点において存在していないと思っております。その計算が、統合後においてどうなるかというところは、専門家の皆さんで、妥当な計算手法に則って検討がなされるということかと想像いたしております。

いずれにいたしましても、この公的資金の返済については、まずは統合後の新銀行が、しっかりとしたビジネスモデルを確立し実績を上げていくことによって、顧客、社会から高い信頼を得て、それをベースとした収益が安定的に、着実に上がることを通じて企業価値が高まっていく、こういう道筋が必要になってくるということだと思います。そういう意味においては、今のようなご努力をしっかりとしていただいて、企業価値を高めていただくという努力が不可欠であると思っています。

(以上)

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