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佐藤前長官・三國谷新長官記者会見の概要

(平成21年7月14日(火)17時01分~17時59分場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

特にありません。

【質疑応答】

問)

新旧両長官にお聞きしたいのですけれども、就任と離任に当たって、与謝野大臣からお言葉は何かありましたでしょうか。

佐藤前長官)  

私に対しましては、簡潔な労いのお言葉を頂戴いたしました。あとは、適宜、雑談をした程度でございます。

三國谷新長官)

私は、粛々といただきました。

問)

佐藤前長官にお聞きします。金融監督庁発足時からのメンバーのお一人として、それ以前も含め、長年、金融行政に携わってこられたことと思います。この間のご感想ですとか、印象深い出来事などをお聞かせください。

また、前長官の強調してこられた、いわゆるベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)は、どの程度、今、金融界に定着しているか、そのあたりのお考えを含め、よろしくお願いいたします。

佐藤前長官)  

まず冒頭に、記者の皆様のこれまでのご支援、ご協力に深く感謝申し上げます。金融庁は、国民のための金融行政に取り組んでいるわけでございますので、国民の皆様の理解が不可欠でございまして、そういう意味でも的確な情報発信が必須でございます。この点において、皆様から多大なご協力、ご支援をいただきましたことに、改めて御礼申し上げます。

振り返りますと、私は、1996年以来、一貫して金融行政に関与させていただきました。苦労も多かったですけれども、全体として大変幸運なことであったと思っております。

お尋ねの点につきましては、これは答えになるかどうかわかりませんけれども、これまでのこの10年余りの回顧と、それから現在のタイムリーな問題との接点とも捉え得る話を一つ申し上げたいと思います。

それは、今般のグローバルな金融危機を、「100年に一度の危機である」と形容していることへの異論でございます。

私にとりましては、あるいは日本にとりましては、今回の危機は「100年に一度」ではなくて、「10年で2度目」でございます。ご案内のように、我が国は、1990年代の末に深刻な金融危機を経験したわけでございまして、私に言わせれば、日本にとっては、前回の危機の方がより深刻であったと思います。前回の危機は、日本自身が作ったバブルでございますし、銀行がそのバブルの生成に深く関与していたということでございます。錯綜した債権・債務関係が生じ、その中には「飛ばし」と呼ばれるような形もございました。不良債権問題というのは、借り手の側から見れば過剰債務問題ということでもございました。こういうことで、いわば内生的に発生した危機、内生的な危機であったと思います。

他方、今回の問題というのは、米国のサブプライム・ローン問題と、それから、典型的には証券化という金融技術を活用したオリジネート・トゥ・ディストリビュート、組成・転売ビジネスモデル、及び、それにまつわる様々なモラルハザードが引き起したものでございますけれども、日本にとっては、今回の危機は外生的な要因で影響が及んでいるということかと思います。海外で組成された不明瞭な不良資産へのエクスポージャーという問題はございましたけれども、その規模は相対的には限定されていたということでもございます。

そういう意味では、前回の危機は深刻な内臓疾患であったと思います。診断が難しいだけではなくて、外科手術なり栄養補給なり様々な治療が必要でありましたし、回復に時間を要したということかと思います。それに対して、今回の危機というのは、外傷性の疾患に例えられるかと思います。そういう意味では、この外傷性の傷が化膿しないように気をつける、あるいは、それが内臓疾患に発展しないように処置する、こういった対応をしてきたということに例え得るかもしれません。

金融当局の対応も、前回の危機のときは、セーフティネットや破綻処理スキームが未整備でございましたし、また健全性を図る尺度、健全性の基準であるとか、あるいは、破綻を予防する枠組みなども未整備でございました。そういう中での取組みでしたから、ある程度の試行錯誤が不可避であったと思います。それに引き換えまして、今回、私どもが対応した環境というのは、健全性規制の枠組みが、ある程度整っている状況の下での対応になりました。そういう中で、早期診断・早期対処、あるいはストレステストを行う、また、そのモニタリングの結果を情報発信するということができました。また、さらに日本の場合は、金融セクターは相対的に健全でしたけれども、実体経済が急速に悪化したという特徴もございましたので、金融セクターによる金融仲介機能の発揮という点に重点を置いた対応をしてきたということでございます。

こう振り返りますと、前回の危機があった後に、こういったセーフティネット、破綻処理スキーム、健全性規制の枠組みの整備に努力していただいた先人の方々に、深く感謝したい気持ちでございます。

もちろん、今回の危機の方が深刻であるという側面もございます。今回の危機は市場発の危機でございまして、広く金融市場に蔓延しております。前回の危機が、いわば日本の金融セクター、銀行セクターに限定されていたということで、発見、特定が容易であったということがありましょうし、また、今回の場合は、実体経済を含めて世界同時不況という様相を呈しておりますので、外需依存型の日本経済にとっては、実体経済面でのダメージも大きいという特徴があろうかと思います。

ただ、いずれにいたしましても、この10年余りを振り返りますと、金融機関のリスク管理、また当局の規制監督の双方において、かなり改善が進んできておりまして、日本の金融システムの強靱性、あるいはショックに対する耐性と言ってもよいかもしれませんが、それは相当程度、改善してきていると思います。そのような前提に立って、今回のグローバル金融危機の教訓も踏まえて、さらにその強化・改善に向けた進化が求められているといった状況かなと思っております。

それから、ベター・レギュレーションについてのお尋ねにつきましては、対話についてのお尋ねがございましたので、その点については、昨日発表させていただいたアンケート調査の結果を見ても、対話と双方向の議論について、一定の進捗が読み取れるのではないかと思っております。

いずれにいたしましても、広くベター・レギュレーションにつきましては、その進捗と定着というのは一様に進むものではなくて、おそらくばらつきを伴って進んでいくものだろうと思います。金融庁の取組みを主体的に活用していこうという金融機関と、受け身と自己保身に終始する金融機関とでは、おそらく業績や企業価値の面で、いずれ大きな差がついてくるのではないかと予想いたしております。

以上です。

問)

三國谷新長官にお聞きしたいのですけれども、世界的な金融危機が発生して以降ですが、日本の金融行政も、海外の動向を前にも増して意識しなければならなくなったと思います。一方、現在、国内の政局も非常に流動的で、政権交代の可能性が高まるなど、いろいろな意味で今までにない難しい環境に置かれていると思います。長官として、今後の舵取りの方針や、課題について現時点でのお考えをお聞かせください。

三國谷新長官)

まず、本日、長官を命ぜられました三國谷でございます。非才ではございますが、精一杯頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ただいまのお尋ねの点につきまして、私も少し準備したものがございますので、ご説明させていただきたいと思います。

大きく三つの視点でございますが、まず第一の基本的な視点といたしまして、金融庁は3つの任務、ミッションを持っていると考えております。1つは金融システムの安定、2つ目は利用者の保護・利用者利便の向上、3点目は公正・透明で活力ある市場の確立でございます。この任務は不変のものであり、私どもは、今後ともこの任務を達成するために最大限の努力をしていく、これがまず基本であろうと考えております。

二つ目の捉え方といたしまして、現在、私どもは、ただいま佐藤前長官からご説明がありましたように、厳しい経済情勢の下で、金融円滑化のための各般の取組みを行っているところでございます。また、同時に、ベター・レギュレーション、あるいは市場強化プラン、こういった課題にも取り組んでいるところでございます。私どもは、引き続き、これらの諸課題の達成・深化に更に努力してまいりたいと考えております。

三つ目の捉え方でございますが、次のような問題意識を持ちながら、今後の職務を遂行してまいりたいと考えております。

第1点ですが、我が国では、1990年代の金融危機の経験等を踏まえまして、様々な制度的枠組みの整備や金融行政の改善に努めてきたところでございます。これにつきましては、今、佐藤(前)長官も申し上げたところかと思います。具体的には、不良債権処理や、個別金融機関の破綻処理などへの的確な対応、各般のセーフティネットの構築、先を展望した、決済制度や金融商品取引法の制定などのインフラ整備、消費者の視点に立った各般の制度整備ということと運用をしてまいりました。こういったことをしてまいりましたが、一方、この間も金融取引の複雑化や、産業構造等を取り巻く環境は変化してきているところでございます。そういったことを踏まえまして、更にフォワードルッキングといった観点から制度・運用を点検してみたいと考えているところであります。

三つ目の捉え方のうちの2点目でありますが、家計・産業等の実体セクターと金融セクターの関連は、ますます密接になってきていると考えております。また、少子高齢化も進展しております。「家計・産業等を支える金融」と「産業としての金融」、この両立・好循環を実現していくという心構えで臨みたいと考えているところであります。

三つ目の捉え方のうちの3点目でありますが、今回の世界的な金融危機の教訓を踏まえまして、一つは、金融システム全体のリスクを迅速・的確に把握していきたいと考えております。かつ、日本銀行との連携・海外当局との連携に一層努めてまいりたいと考えております。この世界的な金融危機の教訓の二つ目でございますが、システミックなリスクへの対応につきまして、我が国は過去の経験のほか、ひとつには、制度面では、各般のセーフティネットが整備され、また、もうひとつには、システミックなリスクへの対応につきましては、体制面でも、金融サービスを一元的に監督する体制が整備されるなど、欧米に比べても進んでいるところがございます。運用面でも適切に対応してきたところであります。一方、今次の世界的な金融危機は業態を超えた横断的なものであり、かつ、複雑なものがございます。この観点から、国際的な動向も踏まえながら、先取り的な勉強もしてみたいと考えております。世界的な金融危機の教訓の中の3つ目でございますが、当然のことながら、国際的な議論への積極的参加と、国内外におけるバランスのとれた規制の構築に努めてまいりたいと考えております。

問)

新長官にお聞きしますが、金融庁が旧大蔵省から分離して、もう10年以上がたち、独立官庁としての存在感を高めつつあると思いますが、一方で、人事面の独立性を保ちながらも、財務省や日銀との連携をより深める必要もあると思います。現時点での課題があるようでしたら、お願いいたします。

三國谷新長官)

今、申し上げた点で、相当重なる点もあろうかと思いますが、金融庁の任務、ミッションは、極めて明瞭なものがあると考えております。中立性・独立性を保ちながら、そのミッションの達成に向けて全力を尽くすということかと思います。その上で、それぞれのミッションを大事にしながら、関係当局との連携、先ほども日銀や海外当局との連携と申しましたが、そういったことを行う、あるいは、必要な人材の確保・育成をしていくということであろうかと思います。

金融庁は、この10年来、三つのミッションということを大事にしてまいりました。これを、引き続き維持してまいりたいと考えております。

問)

新長官にお聞きしたいのですけれども、改正金融機能強化法などの活用をめぐり、金融機関の側には、いまだ一部に金融当局に対する不信感が根強くあると思います。そうであるとすれば、それはどうしてなのか、今後どう解消していくお考えか、お聞かせいただけないでしょうか。

三國谷新長官)

まず、金融機能強化法について申し上げたいと思いますが、私はこれまでいろいろな制度の制定に携わってまいりましたけれども、いろいろな制度ができるときには、必ずその時代の背景とニーズがあると考えております。今日、金融機能強化法というものが制定され、そしてまた、それを活用する金融機関も増えてきているということは、まさしくそういった時代の背景に基づくものだと思っております。各金融機関におかれましては、「先を読む経営」の中で、様々な資本増強策の中で、この金融機能強化法の活用も積極的に検討していただければ、と思っているところでございます。

私どもといたしましては、一つは、この活用の検討の呼びかけを行いますとともに、商品性等、これも相当この時代に即したものにしておりますので、これを丁寧に説明していく、あるいは、ベター・レギュレーションといった行政手法の中で、金融機関との対話を重ねながら、あるいは情報も発信しながら、様々な距離感というのは詰めていく必要があろうかと考えております。

いずれにいたしましても、この制度につきまして、様々な経緯と思いがあろうかと思いますが、前へ向かいまして、私どもはこの制度のきちんとした説明を行い、それがまた適正に利用・活用されていくということを期待しているところでございます。

問)

佐藤(前)長官に伺いたいのですが、先ほど一般的なお話があったと思います。ベター・レギュレーションをさらに進めていくのだ、ということなのですが、新長官への引継ぎというか、具体的な幾つかの重要なテーマが国際的な議論の中でもあると思うのですが、何かやり残したというか、これから喫緊の課題としてこれに力を入れてほしいとか、そういった金融庁新長官への課題というか、こういうものがあるのではないか、というのがもしあれば、伺えればと思います。

佐藤前長官)  

行政官庁にとって課題というのは、常時、新たに発生し、時代とともに流れていきますので、それに沿った対応をしていくということだろうと思いまして、特にやり残したといった認識を持っている課題はございません。継続して取り組んでいただく課題というのは、もともと山ほどあると思っております。

これは、引継ぎで申し上げたというよりは、今、三國谷長官から話がございました大きな金融行政の方向性、典型的にはベター・レギュレーション、三つの大きな行政目標を大前提としつつ、時代の要請に沿った的確な行政を行っていく、その一つの行政手法の進化について、明確な、いわばパッケージとしての取組みを整理したのがベター・レギュレーションでございますので、それをさらに進めていくという方向性を示していただいたわけですけれども、そういう方向性については100%、私も、そうあってほしいという意味で共有しているということでございます。

いずれにいたしましても、金融行政の大きな目標をしっかりと抱きつつ、そのときそのときの時代の要請に沿って、質の高い行政をやっていくということであろうかと思います。具体的な政策のテーマについては、新体制の下でご判断をいただくということだろうと思います。

継続的なテーマとしては、これも先ほど三國谷長官からございましたけれども、今回のグローバルな金融危機の教訓を踏まえますと、個別の金融機関の健全性をチェックすることによって金融システムの安定を図るという伝統的なミクロ・プルーデンシャルポリシー、これも重要ですけれども、これだけでは必ずしも十分ではないという意識が広がっております。マーケット全体を見ていく、その中に共通のリスク要因がないかどうかをモニターしていく、それを個別の監督に活かしていく、また、そういった要因が、個別金融機関の行動、ビヘイビア(行動パターン)にどういった影響を与えるかといったあたり、それらのビヘイビアとマーケットの動向との間の相互依存関係にも注意を払う、さらに広げれば、実体経済と金融セクターとの相互依存関係といった点にも目を配っていくといった、いわゆるマクロ・プルーデンシャルポリシーの重要性が高まっているという点も、これまで金融庁として強い意識を持ってきたところでございまして、一つの例としては、継続的な課題の典型例として、このマクロ・プルーデンシャルの手法に則った金融行政の手法の進化ということは、おそらく典型的な例として挙げられるのではないかと思っています。

問)

佐藤前長官に、もう一つだけ。1998年に、金融監督庁が旧大蔵省から分離しまして、金融行政が金融監督庁ということで新しく進められてきて10年以上たちましたが、その当時、総務課長として出られて、ほぼ一貫して金融行政のところに立たれてきて、この10年間余りで、国民から非常に不審の目で見られていた旧大蔵省における金融行政は変わったとご判断されていますか。そうであるとすれば、どのように変わったかという点でご見解を伺えればと思いますけれども。

佐藤前長官)  

行政というのは、もともと法令に則って、国民のため、あるいは国民経済の発展のために行われるものでございまして、そういう意味では旧大蔵省時代も現在も、全く変わりがないと思っております。その基本的な位置づけにおいての変化はないでしょうし、また、そういった点を目的として意識しつつ、金融システムの安定などに取り組んでいくという点においても、大きな差はないのではないかと思っております。

他方で、行政の枠組みが、先ほどもちょっと申し上げましたように、かなりきちんとしたものに整えられていった、そういうプロセスと金融監督庁の発足の前後というのは、時期的にオーバーラップしているということでございます。その枠組みが整ってきた、また、その整った枠組みの下で、より客観的な基準に基づいて、より明確な判断が下せるようになってきた、その判断の結果を、できるだけ高い透明性を持って世の中に対して発信していくという仕組みが定着してきた、こういう点においては、かなり大きな進化を遂げたのではないかと思っております。

問)

新長官に伺います。危機後の金融規制をめぐる国際的な議論というのが、本格的に始まっていると思います。FSB(金融安定理事会)の中でも、日本の金融庁がステアリングコミッティ(運営委員会)で、そういう委員の位置を占めまして、積極的に新しい規制環境作りに関与していくのだと思いますが、例えば、その具体例の一つとして、新しい自己資本規制のあり方とか、または可変的な引当てといった問題、ダイナミック・プロビジョンとか、そういういろいろな個別のテーマが出ておりますが、三國谷長官として、日本はどのようなことを主張していくのか、どう貢献していくのかというご見解を伺えればと思います。

三國谷新長官)

まず、日本は1990年代の様々な経験から、我々なりに様々な制度の整備、あるいは監督手法の改善といったことに努めてきたということかと思います。これが、一つの縦軸としてあるのだと思っております。

一方、横軸といたしましては、現在、国際的に様々な金融危機が起きているという、その中で国際的な枠組みをどうこしらえていくか、あるいは、それに対して日本がどう対応していくか、そしてまた、日本の国内でどう対応していくかといった局面になってきているのかと思っております。

私といたしましては、国内外におけるバランスのとれた制度というのが大変重要かと思っております。これまでも様々な出来事に対して、有効に対処し得た制度なり運用手法というのは大事にしながら、また、その有用性も説明しながら、また一方で、それが時代の中で、あるいは点検する必要があるとすれば、そういったものも我々の中でもきちんと点検しながら、意見を発すべきところは発していくということが大事かと思っております。

問)

佐藤前長官にお伺いします。先ほど、三國谷長官からは、家計や産業セクターと金融のセクターというのは、ますます密接になっているというお話がありましたけれども、これまでの金融行政の経験から、日本の金融業界、特に銀行を中心とした金融業界というのが、産業全体を見たときにどういう存在であるべきというのを、ある意味、金融業界に対するメッセージというか、どうあってほしいかというようなところを聞かせていただけますでしょうか。

佐藤前長官)  

金融システム、金融セクターの役割というのは、大雑把に捉えますと、国民経済全体の中で、資金決済機能と金融仲介機能を担っているということだと思います。資金決済というのは、財貨・サービスの売買に伴って発生するものでもあり、また、債権・債務関係を構築する、あるいは解消する際に不可欠なものであり、これは国民経済全体の血液の循環みたいなものだろうと思いますので、これがしっかりと、しかも効率よく、低いコストで、高い信頼性を持って運営されていくということは、必要不可欠なことだと思います。普段、これはそのありがたみを感じないのですけれども、数年前に、メガバンクの一つでコンピューターシステムの大トラブルといったものが起きましたけれども、こういったことが起きると、そのありがたさというか、その重要度が改めて意識されるということだろうと思います。

それから、もう一つの重要な役割は、金融仲介機能ということでございます。これは、今、手元にお金があるけれども、当面は使う当てがないという人と、それから、今、手元にお金はないのだけれども、お金を使って投資して事業を起こす、あるいは生活を改善する、そういった人との間をつなぐという役割でございます。ここを仲介するというのも、間接金融、直接金融、市場型間接金融、様々なチャネルがあるわけでございまして、この金融仲介チャネルも、より多様で、より便利で、もちろん信頼性が高くて、かつ、コストがなるべく安くてという形で、企業社会、そして生活者としての国民に提供されるということが、大変大事だと思っております。

今回のグローバルな金融危機の中で、一つ教訓として共有されつつある認識としては、金融のための金融と申しましょうか、金融商品、金融の仕組みの上に、三重、四重に金融商品を作って、見かけ上、何か付加価値がついているかのような、そういう金融業というものは、本来必ずしも望ましいとは言えない、大きな役割を果たすケースもございますけれども、必ずしも一般的には望ましいことではない、つまり、実体経済をきちんと支える、国民経済全体として見て最適な資源配分を実現する、そのプロセスを円滑化し強化する、こういう役割が金融セクターに期待されているのだという認識が今グローバルにも広まりつつあるのだろうと思っております。

そういう意味では、家計や企業の金融サービスに対するニーズ、これをしっかり踏まえた質の高い金融サービスが提供されるように、ぜひ日本の金融業の皆さんにもご努力をいただきたいと思っております。

問)

三國谷新長官にお聞きしますが、金融機関の不祥事が、やはりなかなかなくならないという状況は変わっていないと思うのです。金融庁は、「金融処分庁」などと揶揄されたこともあると思いますが、国民からすれば、そういう違法な問題とか、おかしい問題があれば厳しい姿勢で臨む官庁であってほしいという期待感もあると思います。そういう不祥事なり、これからの行政処分対応について、どのような理念なり、スタンスがあるのか教えていただけませんか。

三國谷新長官)

これはもう基本的には事案に応じて、是は是とし、非は非とするという、これに尽きると思います。様々な事象があれば、それを的確に把握し、それに応じて適切な対応を行うという、この基本は変わらないのだと思っております。

問)

三國谷さんは「100年に一度の危機」とされていることについて、どうお考えでしょうか。

三國谷新長官)

実は、私も佐藤(前)長官と同じように、10年前の危機のころから、この金融の世界におりまして、ちょうど金融監督庁が発足したときは、当時、佐藤(前)長官は金融監督庁にいらっしゃいましたけれども、私は当時の大蔵省の企画局におりまして、制度面からの対応をしておりました。

ものの捉え方でございますけれども、全世界的に見れば、今回は「100年に一度」ということかもしれませんが、日本の経験から言うのであれば、それは少なくとも今に勝るという言葉が正しいかどうかは別として、今より大きいような困難を克服してきたということはあろうかと思います。その時に、我々はアメリカの制度でございますとか、アメリカの1929年の例、あるいは貯蓄貸付組合・銀行の例とかも参考にしながら、様々な勉強もしながら、セーフティネットの構築、あるいはインフラの整備に取り組んできたところでございます。

今回、様々な事例がありましたが、一つは結構日本の場合には、制度と運用面というのが、ある程度整備されていたということが、それなりに今回いろんな意味で、対応をそれなりにできたということの一因ではなかったかと勝手ながら思っているところでございます。ただ、金融、あるいは経済全体を通じることですが、10年前あるいは十数年前と今では、我々のミッションは変わらないにしても、取り巻く環境は大きく変化しているということは事実かと思います。経済取引というのが基本的に物々交換であれば、金融というのは関係ない話であったとしても、これだけ経済価値というものがインターネット上でも飛び交い、世界中に、瞬時に経済取引が行われると、その反面には、必ず決済または貸借ということがあるわけでございまして、今回の危機というのは、そういった形で全世界的に広がったと、こういう意味での経験ということでは、これは十数年前のものではなかったということかと思います。

したがいまして、私どもといたしましては、これまでいろいろな形で努力してきた、そういったものも大事にしながら、また過去の経験も大事にしながら、これからの時代に、これまでのことを縦軸とすれば、これからのことを一つの横軸と考えまして、それを適切に織りなしていくように対応していきたいと考えております。

問)

10年前にもとっていなかった自己資本比率の算定の問題、緩和であったり、条件緩和債権の取り扱いだったり、そういう異例の政策を続けていらっしゃるわけですけれども、そういう取り扱いを正常化に戻す出口戦略について、どういうご所見がありますでしょうか。

三國谷新長官)

まず第一に、10年前と今回の状況というのが全く同じかと申しますと、おそらく金融庁の任務、ミッションというその基本は変わっていないのだと思います。ただ、それを取り巻く環境というか、地形という面でいきますと、今回の場合には、全世界的に、急速に実体経済のデマンドも含めて激しく落ち込んだということかと思います。そういったときに、金融システムの安定というのは、金融セクター独自だけで成り立つものではなく、やはり金融セクターと実体経済セクターが相互に支え合いながら、その結果として、金融システムの安定なり経済システムの安定ということにつなげていくと、それが今回の局面であったかと思います。翻って、全世界を見渡しますと、全世界的にも同じような手法がとられているということが言えるかと思います。

ただ、一方で、臨時・異例の措置というものは、それは長い間続きますと、臨時・異例ではなくなるわけでございますし、その副作用というのもあるわけでございますから、そういったことが一つ、いつごろから出口だという議論、これはサミットでも行われているところでございますけれども、現実の、ではそれをどうするかということにつきましては、そういった厳しい状況と、それから市場規律、そういったものを勘案しながら、具体的には足下、あるいは先々の状況・見通し、それから個別措置ごとの効果の検証、国際的な動向等を踏まえながら、また現状では今の情勢の中で慎重な判断をしていくことが必要な状況でもあろうかと思っております。

問)

それにちょっと関連して、足下で、空売り規制は今月期限を迎えますけれども、これは市場の状況も踏まえて再延長が必要か必要でないか、どのようにお考えでしょうか。

三國谷新長官)

空売り規制、あるいはそれ以外の措置もございますけれども、これは現在の株式市場の状況に鑑みまして、7月末までの時限的な措置といたしまして、空売り規制につきましては、ネイキッド・ショート・セリング(売付けの際に株式の手当てがなされていない空売り)、この禁止等の措置、あるいは自社株取得につきましては、1日の買い付け数量の上限の引上げ等の措置を講じているところでございます。

お尋ねの時限的な措置の取り扱いにつきましては、これは繰り返しになりますけれども、国内の株式市場の動向や諸外国の規制の状況等を踏まえて最終的に判断する必要があります。現時点で、いつということにつきましてコメントすることは、今日時点では差し控えさせていただきたいと思います。

問)

新長官によろしいでしょうか。金融庁は、2007年に市場強化プランを策定して、東京ないし日本の市場の国際競争力を強化していく方針を明確に出したと思っています。その直後の金融危機で、市場発という面もあり、市場主義、あるいは市場の力を過信することの反動というのでしょうか、反動的な見方が出ているような印象を受けていますが、現状の危機が長引く中で、それでも市場を強化していく必要があるのか、どのような姿勢で、新体制で望まれていくのかを伺えないでしょうか。

三國谷新長官)

いろいろな制度の見直し、あるいは改善ということにつきましては、必ずや作用、それと反作用というか副作用といったものも常にあろうかと思います。しかし、トレンドといたしましては、やはり日本はこれから、一方で、少子高齢化社会を迎えるわけでもございます。個人も大変大きな金融資産を持っていらっしゃる、そういったものを国全体としてどういう具合に活用していくか、あるいは個々人もそれをどういう具合に活用していくというのは、大事な視点かと思います。もちろん、今回、サブプライムで起きましたように、物事の行き過ぎというのは、それは絶えずチェックしていかなければいけないと思いますけれども、一方で、世界の全体の市場の中で、日本もそれ相応の役割を果たしていくことは必要かと思っております。

冒頭申し上げましたけれども、私どもはこれまで様々な制度改革、それぞれの中には先々を展望したものもございます。決済改革、あるいは金融商品取引法、あるいはこの前の市場強化プランといったものも、ものによりましては世界に先駆けているのもあろうかと思います。そういったものの、仮に行き過ぎがあったとすれば、それは点検していく必要もございますけれども、全体として、日本全体としての経済の活力というのも、少子高齢化というものも考えながら、それも大事にしていくと、当然のことながら、一方で、これだけ家計と産業と金融というものの関わり合いがあるとすれば、その機能と、そういった更に積極的に活用するという、この機能の両立と好循環をどう目指していくか、そういったことにつきましては、庁内でも議論をしてきたいと思っているところであります。

また、この議論というのは、おそらく企画的な要素と運用的な要素、国際的な要素と3つ、様々な視点からの対応が必要かと思っております。そういった意味では、庁内横断的に様々な議論をしていきたいと考えているところでございます。

問)

政権交代の可能性が高まってまいりまして、今まで民主党なり野党の皆さんが言ってこられていた政策についても無視できない状況にこれからなってくると思います。そこで、民主党の方で今まで言っていたような、例えばSEC(証券取引委員会)を拡大・格上げするとか、経産省や農水省が持っている商品先物について金融庁で管轄すべきであるとか、こういった見方、ご意見について、今後どのように対応されていくおつもりか、今時点でのお考えがあればお聞かせいただけないでしょうか。

三國谷新長官)

私どもは、行政庁といたしまして、金融庁に与えられたミッションを粛々と遂行していくということに尽きるかと思っております。したがいまして、引き続き冒頭申し上げましたような考え方で、日々の行政に粛々と対応してまいりたいと考えております。

問)

三國谷新長官の冒頭のご発言の中に、今般の金融危機において、業態横断的にいろんな問題が起きてきていると。そういうことを勘案して、金融庁の監督体制を見直すと、見直すとまでおっしゃっていませんが、そういう業態横断的に、例えば監督局などでも、業態ごとに銀行、証券とか保険とかいろいろありますが、それぞれ及ぶ権限に違いもあると、さらに、そもそも強い監督権限を持っていない金融業態もあるという状況があると思うのですが、そういう中で、今回のアメリカで起きたような、業態横断的にいろんな問題が起きたということを踏まえて、監督体制を見直すとか再検討していくとか、そういったようなお考えはお持ちでしょうか。

三國谷新長官)

現時点で、先取り的な結論というものを現在もってお話し申し上げているわけではございません。ただ、一方におきまして、これはこれまでの制度改正をごらんいただいても分かると思うのですが、実は昔は銀行なり証券なり保険という、それぞれのエンティティー(事業体)に対しては、それぞれの商品とそれぞれの規制なり手法というのがワンパッケージであったと、しかしながら一方で、例えば販売にいたしても、横断化の流れが強まってきているわけでございまして、そういったものに対しましては、機能が同じであれば極力同一の行為、ルールと申しますか、あるいは市場、ディスクロージャーも含めまして、同じような対応をしていこうということでやってきていることでございます。

したがいまして、そういった基本的な流れの中で、またその傾向が高まってきているということに対しまして、それではこれまでの制度で対応できている部分があるのか、あるいは点検する必要があるのか、あるいはもう少し先取り的な勉強をする必要があるのかということをこれから勉強もしていくということでございまして、現時点で一つの結論をもって現在お話し申し上げているわけではございません。

問)

個別の話で恐縮なのですが、都議選で民主党が第一党になりました。その民主党の政権公約に、新銀行東京の経営から早期撤退するということを掲げていたと思います。この結果を受けて、金融庁の新長官としてどのようなご見解を持たれているのか、また金融庁として今後どのような対応をしていくのかというお話を伺いたいと思います。

三國谷新長官)

一つの銀行に対して、株主という立場と行政当局という立場がそれぞれあろうかと思いますが、私どもは行政当局という立場からこの問題に対応しているわけでございます。したがいまして、適切な行政手法に則りまして、必要があれば必要な対応をしてきたというのがこれまででございます。したがって、そのことは今後も変わらないと思っております。

問)

佐藤前長官にお聞きしたいのですけれども、この2年を振り返って、いろいろなエピソードがあったと思いますけれども、これを振り返って、ちょっと後悔していらっしゃるところ、あるいはこれはもう少しやればよかったと思っていらっしゃるところは何かございますか。

佐藤前長官)  

2年前の就任時に、「浅学非才でありますが、全力で頑張りますのでよろしくお願いします」というふうに申し上げた記憶がございまして、改めて浅学非才であったなという認識を持っているわけでありますが、長官・佐藤の個人のパフォーマンスとして反省すべき点の一つとして、もっと常に上機嫌で職員の皆さんと接触すればよかったなというふうには反省をしております。難題が次から次へ降りかかってくるとか、あるいは、たまに問題の本質を捉えていない分析や対処方針などが長官室で提案された場合などには、私は割合と単純な人間なものですから、そういう状況を反映して不機嫌になることもあったかなというふうに思っております。

リーダーの一つの役割として、そのリーダーを務める組織のメンバーの人たちが最大限力を発揮できるような、そういう環境を作ると、そういう任務があろうかと思いますけれども、この点においては、反省することしきりでございます。

佐藤前長官)  

ありがとうございました。

三國谷新長官)

よろしくお願い申し上げます。

(以上)

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