証券市場を巡る課題と取組み

平成19年9月20日
金融庁長官 佐藤隆文

はじめに

ただ今ご紹介を賜りました金融庁の佐藤です。

証券界の各社、各団体の代表者の皆様方が、このように一堂に会する場で、金融行政についてお話しする機会をいただき、大変ありがたく思っています。

本日は、私が就任した時にアナウンスいたしました、「金融規制の質的な向上」、いわゆるベター・レギュレーションの実現と、その背景にある考え方についてお話しした上で、金融商品取引法施行後を見据えた、金融商品取引業者に対する監督の考え方についてお話ししたいと考えています。

大きく分けると本日の話は三部構成で、第一部がこのベター・レギュレーション、第二部が監督方針、第三部が平成20年度の税制改正要望となっています。

第一部 金融規制の質的向上について(ベター・レギュレーションの取組み)

(ベター・レギュレーションとは)

「ベター・レギュレーション」とは、より良い規制環境を実現するための金融規制の質的な向上を指しますが、このベター・レギュレーションをこれからの金融行政における大きな課題として位置付けたいと考えています。

まず、なぜ今ベター・レギュレーションが必要なのかについてお話ししたいと思います。この点につきましては、大きく二つの文脈があると思います。

一つ目は、我が国金融・資本市場の活性化・国際競争力の強化という政策課題との関係です。

少子高齢化が進み、人口減少時代の到来を迎える中、我が国経済が持続的発展を遂げるためには、金融分野においても、個人金融資産や年金資金が有利かつ確実に運用され、その利益が国民に還元されることが大事になります。また、高い付加価値を生み出す金融サービス業が経済全体の中で中核的な産業として位置付けられることも重要であり、また、我が国金融・資本市場が内外の投資家にとって魅力的であることや金融サービスの利用者にとって一層利便性の高いものとなることが求められています。さらには、我が国市場をマザーマーケットとする金融機関の活躍の場を広げることが、市場の競争力の強化や利用者利便の向上につながると思っています。金融規制の質は、その規制が適用されるマーケットの国際競争力を左右する重要な要素であり、ベターレギュレーションの取組みを進めていくことは、我が国金融・資本市場の活性化や競争力の強化に貢献しうるものと認識しています。

もう一つの大きな文脈は、我が国の金融セクターを巡る局面が変化している中で、それに合わせて金融行政の手法も変化していかなければならないとの認識です。

ご案内の通り、金融行政には「金融システムの安定」、「利用者の保護・利用者利便の向上」、「公正・透明な市場の確立と維持」という三つの大きな目的があります。FRBのバーナンキ議長も最近の講演において次のような発言をしています。

我々は、政策責任者として、金融イノベーションの速度がどれほど加速されようとも、本質的に変わることのない金融行政上の目的を3つ定めている。それは、(1)金融システムの安定、(2)投資家保護、(3)市場のintegrityである。」

(参照http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20070515a.htm新しいウィンドウで開きます

ということです。この三つの目的は、世界の主要な金融規制当局の間で広く共有され、かつ簡単には変わらないものと認識しています。

他方、我が国の金融セクターを取り巻く局面の変化とともに、この三つの政策分野を巡る状況は大きな変化を遂げています。

まず金融システムの安定に関しては、ちょうど10年前の平成9年頃は、大型の金融破綻が起きて、日本の金融システムそのものがどうなるのかといった不安が生じた時代でした。その危機を、厳格な検査・監督、資本注入や破綻処理等を通じて何とか乗り越えた後も、しばらくの間、不良債権問題の解決が最優先課題となっておりましたが、現在では不良債権の処理が進み、例えば主要行の不良債権比率は諸外国の大手銀行と比較しても遜色のない水準まで低下しています。

また、利用者保護の政策分野に関しては、金融機関の業務執行において、過去3~5年、様々な問題のあるケースが多数顕在化する局面が到来しました。これに対し利用者保護ルールの整備や監督上の対応を重ねてきました。さらに、証券市場においても、不公正取引、ディスクロージャーを巡る不適切な事例などの問題が発生し、それに対し、法制面、あるいは実施面での対応を行ってきました。それぞれの分野において、直面する問題に官民を挙げて取り組んできた結果、枠組みの整備が進み、かなりの程度実態面の改善が進んできたと思います。

現在、我が国の金融セクターは、これまでの経験で教訓として学んだものをしっかりと定着させ、更にこれを深化させるという局面にあると認識しています。その中では、各金融機関の自己責任と自助努力による様々な課題への取組みが極めて重要となってきます。例えば、リスク管理の分野においては、金融機関自らがその規模や特性に応じリスク管理体制を高度化させることが望まれており、銀行の分野で今春からスタートしたバーゼル II の枠組みにおいても、そうした視点が導入されています。利用者保護の分野においても、金融機関自らが、問題を発生させないための実効性ある管理体制やチェック体制を構築していくことが大きな課題になっていると思います。証券市場においては、整備された制度の円滑な施行や、策定されたルールが適切に遵守されるよう取り組んでいく必要があります。こうした中、金融規制のあり方も、改めて金融機関の自己責任を重視し、自助努力を促すように変わっていかなければなりません。

加えて、最近においては、金融取引のグローバル化、金融商品や販売チャネルの多様化が急速に進展しています。証券会社につきましても、経営形態の多様化やコングロマリット化が進展しています。更には、市場における投資ファンドの影響力が飛躍的に拡大するといった新しい事態が発生しています。こうした新しい状況に的確に対応していくためにも、常に規制、監督手法の進化を図るというベター・レギュレーションの取組みが必要と認識しています。

(ベター・レギュレーションへの4つの柱)

次にベター・レギュレーションの中身ですが、私どもでは、大きく4点をその柱と位置付けております。これは、当局職員の心構え、あるいは、今後の監督手法の進化の方向性を示すものとも言えるものです。

第一の柱は「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な組合せ」です。ルール・ベースの監督は、詳細なルールを設定し、それを個別事例に適用していくという手法であり、金融機関にとっての予測可能性を確保し、行政の恣意性を排除するというメリットがあります。他方、プリンシプル・ベースの監督は、いくつかの主要な原則を示し、それに沿った金融機関の自主的な取組みを促す枠組みで、金融機関の経営の自由度が確保されるというメリットがあります。

ルール・ベースの監督が有効な分野としては、行政権限に基づいて不利益処分を行う場合や不特定多数の市場参加者に共通のルールを適用する場合が考えられます。他方、金融機関の経営管理やリスク管理、法令等遵守の態勢の整備を促す場合には、金融機関の自主的な努力が不可欠であり、プリンシプル・ベースの監督が有効です。また、新しい金融商品・サービスや販売方法について、あらかじめ全てをカバーしてルールで定めておくのは不可能ですので、そのようなケースではルールの隙間をプリンシプルで補うという対応も求められるケースがあると思います。

さらに、プリンシプル・ベースの監督については、それが有効に働くためには金融機関の自己規律が重要であると認識しています。すなわち、「法令違反ではないからいいじゃないか」という文化ではなく、「法令違反でなくても、望ましくないことはしない」という文化ができあがることが大事だと思います。特に市場仲介者として公共性を担っている証券会社等の金融機関については、こうした文化の醸成が必要だと思っています。こうした各社の倫理規範と自己規正が強く働くことが必要であり、その意味で、それを業界レベルで合意する自主規制機関の役割にも期待がかかっています。

このルール・ベースとプリンシプル・ベースの2つの監督手法は、二者択一のものではなく、むしろ相互補完的なものであり、2つの監督手法を最善な形で組み合わせることによって、全体としての金融規制の実効性を確保していくことが重要と考えています。

両者の組合せ方については、諸外国においても様々な取組みが行われています。例えば、最近、英国のFSAは金融機関が遵守すべき原則として11のプリンシプルを示し、プリンシプル・ベースの監督を進めていく旨をしきりにPRしています。もっとも、英国では8,500ページに及ぶ詳細なFSAのルールブックが存在しているため、ルールによるがんじがらめの規制への反省から、ルールとプリンシプルのバランスの軸足をよりプリンシプルに移していく局面にあると捉える方が正確かもしれません。

我が国においても、証券監督の分野においては、従来から様々な取引規制、行為規制があらかじめ法令で詳細に定められており、それらに基づき、どちらかといえばルール・ベースの監督を実施することが中心となってきました。しかしながら、証券業や金融商品の多様化、金融取引の高度化・複雑化、投資家層の拡大等に伴い、全ての事象をあらかじめルールで明確に定めることは、年々難しくなってきております。こうした中で、市場全体の信頼性を向上していくためには、証券会社の信頼性の向上、すなわち、市場仲介者として高い公共性を担う証券会社が、自己規律の維持を通じて、適切にその機能を発揮することが求められています。こうした意味において、証券会社の自主的な取組みや日本証券業協会等の自主規制機関の取組みを通じた、プリンシプル・ベースの監督の機能が、今後ますます重要になってくるのではないかと考えています。

その一つの取組み例としては、昨年3月に監督局に設置しました「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会」の「論点整理」と、それを踏まえた日本証券業協会等における自主ルールの検討が挙げられるのではないかと思います。この懇談会では、昨今の投資家による不公正取引及び発行体による不正行為、あるいは、株式市場における誤発注等の事例など、我が国証券市場を巡る多くの課題を踏まえ、

(1) 市場仲介者としてのオペレーションの信頼性の向上

(2) 発行体に対する証券会社のチェック機能の発揮

(3) 投資家に対する証券会社のチェック機能の発揮

(4) 市場プレイヤーとしての証券会社の自己規律の維持

という4つのテーマに沿って検討を行ってきました。

検討の結果として「論点整理」に示された方針に基づき、日本証券業協会において様々な自主ルールの整備が順次行われ、例えば「有価証券の引受け等に関する規則」の改正などは既に施行され、非常に有意義な成果をもたらしています。

このように、必ずしもルールでカバーし切れない分野について、協会や各証券会社が自主的な取組みを行っていくという形は、言わばルール・ベースのアプローチとプリンシプル・ベースのアプローチを結ぶ架け橋のような役割を果たすもので、この二つのアプローチの組合せの一つの望ましい姿なのではないかと思います。

自主規制機関は、金融商品取引法の下でその機能が拡充され、また、自主ルールの対象範囲の拡大についても、各協会で積極的な検討が進められていると承知しています。

証券業、金融商品取引業の分野は、今後も新しい商品や新しい取引形態が次々に現れてくる発展的な分野であり、そのため、これからの監督も、他の業態に比べて、ルール・ベースとプリンシプル・ベースの2つの監督手法の相互補完的な組合せがますます重要であり、また、最も馴染む分野であると認識しています。今後も自主規制機関との積極的な連携を図りつつ、2つの監督手法の最善の組合せを模索していきたいと考えています。

さて、ベター・レギュレーションへの第二の柱は、「優先課題の早期認識と効果的対応」です。これは、限られた行政資源をいかに有効活用するかという問題意識にも基づいています。米国や英国では別の角度からこの点を捉え、リスク・フォーカス、又は、フォワード・ルッキングなアプローチと呼んでいます。深刻な問題がひそんでいる分野、将来大きなリスクが顕在化する可能性がある分野を、先を見越してできるだけ早く発見・認識し、そのような重要課題への対応のために行政資源を効果的に投入していくというものです。このような早め早めのアプローチをとることにより、リスクへの対応に際し、可能な選択肢も広くなると考えられます。また、我々の行政資源は限られていますので、これは一方で金融行政の目的に照らして優先順位の低い枝葉末節には固執しないということを意味します。

金融システムに内在するリスクを早期に認識するためには、グローバルな経済、市場で何が起こっているかをモニターするとともに、金融機関がどのような戦略で、どのようなビジネスを行っているかについてできるだけ正確かつタイムリーに認識しておく必要があります。金融庁と金融機関の間で密度の濃いコミュニケーションを図っていくほか、現在グローバルにその影響力を強めているファンド等とも直接・間接のコミュニケーションを図っていく必要があると感じています。

第三の柱は「金融機関の自助努力尊重と金融機関へのインセンティブの重視」です。既に、金融検査評定制度やバーゼル II 等において、金融機関に対して経営管理の質的向上やリスク管理の高度化に向けた動機付けをする仕組みが導入されています。また、地域密着型金融も、今年度から新しい恒久的な枠組みに移行し、各金融機関の自主性をより重視する枠組みになりました。このように、金融規制の枠組みにはインセンティブ重視、自助努力尊重という方向性がかなり織り込まれてきています。先程申し上げたように、金融セクターを巡る局面もシフトしており、金融機関の自助努力の重要性が増している中、これらの枠組みを更に中身の濃いものにしていきたいと考えております。

これまでの各金融機関における取組みが、ミニマムスタンダードをクリアすることにエネルギーを割かれていた状況とすれば、今現在、そして今後の局面としては、ミニマムスタンダードをクリアすることは当然のこととして、そこから先はより良いサービスを顧客に提供し、その対価として利益を上げるという分野でベストプラクティスを競い合う局面になっていくと思います。その意味からも各金融機関の自助努力・創意工夫が極めて重要になってきているということであり、金融規制のあり方も金融機関の自主性が発揮されるということと整合的な枠組みにならなければならないという問題意識です。

第四の柱は「行政対応の透明性・予測可能性の向上」です。金融庁では、その前身である金融監督庁の発足以来「明確なルールに基づく透明かつ公正な金融行政の徹底」を行政運営の基本的考え方としています。この考えに基づき、検査監督上の着眼点や行政処分に関する事務の流れなどを、検査マニュアルや監督指針として定め、広く周知するほか、事務年度ごとに当該年度の検査方針、監督方針を明らかにしています。最近1年間でも、行政処分の基準を公表したほか、ノーアクションレター制度についても、より使い勝手の良いものとなるように改正等の取組みを行ってきました。また、バーゼルIIのルールの解釈等についても、金融機関等から寄せられた100以上の質問に対する答をQ&Aの形でウェブサイトに掲載しております。このように透明性、予測可能性の向上の面では様々な取組みをしてきていますが、更に改善すべき点がないかどうかを皆様方のご意見も承りながら検討したいと考えています。

(ベター・レギュレーションに向けての当面の具体策)

次に、こうしたベター・レギュレーションに関する4本の柱の下、当庁が当面取り組んでいく具体的方策についてご説明したいと思います。

まず一番目は、「金融機関等との対話の充実」です。ベター・レギュレーションの構築のためには、金融機関と我々との対話の機会を一層拡大し、率直に意見交換できるような信頼関係を築くことが重要です。こうした対話の充実は、金融機関にとっての予測可能性の向上に資するだけでなく、我々当局の側にとっても、市場動向や金融の世界で何が起こっているか、何が起ころうとしているかを素早く把握する上で不可欠なものです。当局が一方的に金融機関を規制しようとするのではなく、金融機関が自らの抱える課題について当局と意見交換し、当局がそれに対するソリューションの材料を提供できるような関係を構築していきたいと思っています。また、上に述べたプリンシプルについての共通認識を醸成したり、金融システムが抱える問題について官民が協同して解決策を探っていく上でも対話は必要不可欠であると思います。

取組みの二番目は「情報発信の強化」です。これまで当庁においては、内外の関係者に我々の考え方が正しく伝わるよう、幹部による講演の実施やホームページの活用、英文による資料の提供等を行ってきましたが、今後も様々なプラットホームを活用して、より多くの情報発信に努めたいと考えています。例えば、金融関連法令等の英訳の推進や内外のシンポジウム等への積極的な参加を通じて、金融行政に関する基礎的資料や時々の金融行政の考え方に国民が容易にアクセスできる環境の整備を進めていきたいと考えています。

三番目は「海外当局との連携強化」です。金融機関の国際的な活動や金融取引のグローバル化は加速しており、各国の監督当局もこれに対応し連携を一層強化する必要に迫られています。その際、各国の規制・監督当局間で国際的な規制・監督の整合性を常に確認することが重要です。国際的な規制・監督の整合性が損なわれることにより、規制が極めて緩い国・地域に金融取引等が逃避したり、規制の緩い国・地域における不公正な取引が、他の国・地域の利用者等に被害をもたらすような事態は避けなければなりません。また、グローバルなマーケットの動向を把握する上でも、海外当局との情報共有は不可欠です。ファンドの動向に係る実態把握やグローバルなシステミック・リスクの管理等について、各国の規制当局や国際機関と連携し適切に対応していきたいと考えています。

四番目は「調査機能の強化による市場動向の的確な把握」です。マクロ経済や金融・資本市場の動向が金融機関の経営や金融システム全体の安定に与える影響について分析、把握するとともに、必要な監督上の対応を時を失せず講じられる体制を整備することが求められています。そのためには、マクロ経済や市場の動向について庁内の調査機能を強化するほか、皆様方を含めました市場関係者、日本銀行、外国監督当局等との対話・連携の促進を図っていきたいと考えています。

最後の五番目は「職員の資質向上」です。これまで述べたベター・レギュレーションに向けての取組みを実現させていくためには、金融庁職員が金融技術の進展や市場の動向に遅れをとることなくその資質の向上を図ることが前提となります。ご存知の通り、金融は非常に高い専門性が求められる分野であり、当局の職員も例外ではありません。職員の専門能力の向上に向けて、研修の充実、人事制度上の工夫、官民の人材交流など、様々な方策を検討していきたいと考えております。

以上、ベター・レギュレーションについての考え方を述べさせていただきました。金融行政が、先に述べました3つの目的、すなわち(1)金融システムの安定、(2)利用者の保護・利用者利便の向上、(3)公正・透明な市場の確立と維持、に向けてその役割を十全に果たせることが、市場の競争力強化や利用者利便の向上につながり、ひいては国民経済の健全な発展に結びつくと考えております。金融を取り巻く環境は日々変化しており、我々に課せられた責務も高度化・複雑化しておりますが、金融行政の最終目標を忘れることなく、利用者である国民と金融に直接携わる方々の声に耳を傾けつつ、時代の要請に応えうる規制の質的向上を図っていきたいと考えております。ここにお集まりの皆様方にも是非ご理解をいただき、ご協力を賜れましたら幸いです。

第二部 金融商品取引業者等向け監督方針について

本日の話の第二部は、先般公表いたしました「平成19事務年度金融商品取引業者等向け監督方針」についてです。

監督方針とは、行政の透明性と監督対象者の予測可能性向上の観点から、監督指針とは別に、一年間の監督上の主な検証ポイント等を示すものです。

今事務年度から対象を拡大し、証券会社だけではなく金融商品取引業者や登録金融機関、更にはプロ向けファンドや無登録業者等に向けた監督方針としています。

(金融商品取引業者共通の重点項目)

まず金融商品取引業者共通の重点事項の第一として、「適正な業務運営態勢、人的構成の確保」を掲げております。これは、財務局等において登録審査を行う段階で留意すべき事項に関する記載です。

金融商品取引業者の登録事務は、法施行前に行っている業務の継続性を阻害することのないよう迅速かつ円滑に行われる必要があると同時に、利用者保護上問題のある不適格な業者を排除するため厳正に行われる必要があります。そのため、登録審査の段階で、例えば、新たに法令や監督指針に示された登録審査の項目、すなわち暴力団・暴力団員との密接な関係や過去の刑罰等に照らし、金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しないと認められる者でないか、といった点を、ルールに基づき厳正に検証することとします。

また、適切な業務運営態勢や人的構成は、登録申請時における当局のチェックのみではなく、金融商品取引業者自身が自らの責任において、常時その確保に努めていただくべきものであり、そのため、各金融商品取引業者においては、登録後においても、内閣府令や監督指針に示された原則を踏まえつつ、適切な経営管理と役員又は使用人選任手続きの確保等のための態勢整備に努めていただくことが重要になります。

次に、「利用者保護」についての重点事項を記載しています。金融商品取引法では、適切な利用者保護とリスク・キャピタルの供給の円滑化を両立させる観点から、投資家を特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)に区分し、金融商品取引業者が一般投資家との間で取引を行う場合には、充実した行為規制が適用され、特定投資家との間で取引を行う場合には、多くの行為規制が適用除外になります。

当局としては、こうした規定を踏まえ、まずはルール・ベースの監督として、金融商品取引業者において特定投資家と一般投資家を区分するための適切な審査が行われ、適合性原則を遵守した適正な勧誘・説明が行われているか、といった点を検証することとします。

また、金融商品取引業者の態勢面に関して、特定投資家と一般投資家の区分に関する審査態勢、その適正性を事後的に検証する態勢について着目していきます。金融取引が高度化・複雑化し、新たな商品が次々に登場する中にあっては、全ての金融取引・金融商品についての利用者保護ルールをあらかじめ詳細に定めることは不可能です。各社が適切な態勢整備を図り、法令で示されたプリンシプルに基づき、利用者保護のための自主的な取組みを進めていくことが重要となります。当局としては、こうした自主的な取組みを尊重しつつ、態勢面での整備状況を検証することになります。

(各業種における重点事項)

続いて、各業種における監督の重点事項です。

最初に、第一種金融商品取引業の監督においては、証券会社に新たに導入される広告規制の遵守や、昨事務年度も引き続き問題となった外為証拠金取引業者の不招請勧誘禁止の遵守状況について検証することとなります。

また、先ほどもご紹介した「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会」の「論点整理」を踏まえた証券業協会の自主ルールの遵守状況、投資銀行業務やプリンシパル投資業務を行っている場合の利益相反防止態勢にも着目していきます。

第二種金融商品取引業については、いわゆる集団投資スキーム(ファンド)の持分に係る権利の販売・勧誘等を行う者の説明態勢に留意することとします。これらの者の中には、法施行以前には当局の監督対象となっていなかった者、透明性・流動性が低く、投資者にとってその実態把握や評価が極めて困難なファンドを取り扱う者があると考えられますので、注意深く実態把握をしていくことが必要だと思っています。

投資運用業については、運用財産の管理・運用や取引の執行に係る適正な業務執行体制を構築すること、恣意的な前提を設けたシミュレーションによる誤解を生ぜしめる表示などをしないこと、等について、留意して監督を行っていくことになります。

特に、不動産関連ファンド運用業者については、不動産市場における金融市場との連関の強まり(不動産の金融商品化)、海外市場との連関の強まり(グローバル化)、リスクマネーの供給の拡大といったグローバルなマーケットのトレンドに十分留意する必要があります。こうした環境下において、適正な価格形成機能が発揮されるよう、不動産取得及び売却の際のデューディリジェンス態勢や利益相反取引の防止態勢について、必要な検証及び監督対応を行っていくこととなります。なお、こうした監督が個別の不動産価格に影響を与えること等を企図するものではないことは当然です。

(ファンドに関する留意点)

今事務年度の監督方針では、昨今、G8での議論や企業買収等で話題となっている「ファンド」について、特に留意点を記載しています。

ファンドについては、一方で、その多様性の適切な発揮を通じて、マーケットの厚みが増す、あるいはマーケットの金融イノベーションが促進される、さらには我が国金融・資本市場の国際化を促進するといったポジティブな効果が期待されるわけですが、他方で、レバレッジをきかせる、あるいは動きが早いということでマーケットや金融システムに与える潜在的なインパクトも大きいものです。

そのため、サミット等の国際的な場における議論も踏まえつつ、例えば我が国に投資者が存在しない外国のファンドの取扱い業者については、一般的な動向や業界内の実務慣行の見直し・強化を注視し、カウンターパーティー(取引の相手方の金融商品取引業者等)におけるリスク管理や市場の公正性・透明性確保等の観点からのモニタリングを行うこととします。

他方、登録や届出が義務付けられている監督対象に入っているファンドの取扱い業者については、利用者保護等の観点から十分な実態把握をした上で、適切な監督を行うこととなります。

このように、ファンドの様々な運用形態に応じて、そのリスクの所在を可能な限り迅速に見極め、監督上の資源を振り向けていくことが我々にも求められていると考えています。

監督指針では、登録や届出が義務付けられる監督対象のファンド運用業者について、(1)ファンド名、(2)ファンドの類型、(3)運用財産総額の3点のモニタリング調査を行うこととしていますが、こうした調査を通じて全体的な動向を把握することに努めていきたいと思っています。また、これを契機として業者との対話を進め、業界の実態を常時把握、調査・分析し、将来のリスクの顕在化を見越した早めの問題発見・対応に努めていきたいと思います。

(監督手法)

最後に、「監督手法」として、検査部局との連携、自主規制機関との連携、金融商品取引業者等との関係、海外当局との連携について触れています。

特に、今回、自主規制機関等との連携の部分では、新たに4つの点に触れています。

(1)第一に、「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会 論点整理」を踏まえた自主ルールの策定等の取組みのフォローアップと、業者の遵守状況の検証についての連携を図っていくこと、

(2)第二に、規制の質的向上に取り組む中で、横断的な利用者保護ルールの徹底という金融商品取引法の趣旨が、自主規制のレベルでも実現されることが重要との観点から、日本証券業協会、投資信託協会等の5つの協会に取りまとめていただいた「金融商品取引業協会のあり方について(中間論点整理)」を踏まえた各協会の取組みをフォローアップし、必要な協力を行っていくこと、

(3)第三に、暴力団等の排除に関し、証券保安連絡会を通じた関係機関との連携を図るなど、適切な連携を進めていくこと、

(4)最後に、認定投資者保護団体については、その認定に係る基準その他の必要事項を定め、同認定制度が利用者保護の観点から真に効果的に機能するよう、適切な対応を行うこと、

です。

金融商品取引業者等との関係では、業者との積極的な対話を通じて、相互の共通理解の促進、当局からの情報発信やマーケット動向の把握の強化、当局の対応の透明性・予測可能性の向上を図っていくことが重要です。

特に、金融商品取引法の施行に伴い、当局は金融商品取引業者等が必ずしも法令等に違反していない場合でも、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、業務の方法の変更等を命ずることができるように法体系の転換が行われています。金融商品取引業者等の経営者の方々には、法令規制の背後にある原則的な考え方や規制の趣旨・目的を踏まえた上で、適切な内部統制の確保をしていくことが求められています。そのため、当局としては、こうした点について経営者の方々と十分な意見交換を行うとともに、内部統制についての自主的な取組みを尊重しつつ、その実効性について検証することとなります。

以上説明いたしました監督方針に基づき、本事務年度、金融商品取引業者等に対する監督を始めることとなります。これだけの大きな法律を円滑かつ適切に施行に移すのは大変な仕事であると思いますが、皆様や自主規制機関との適切な連携を図りながら進めていきたいと考えております。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

第三部 平成20年度税制改正要望(証券税制)について

現行の証券税制では、上場株式等の配当所得については平成21年3月末まで、上場株式等の譲渡所得については平成20年12月末まで、それぞれ税率が20%から10%に軽減されております。

この措置は「貯蓄から投資へ」の第一歩として大きな役割を果たしているものの、例えば、我が国の個人金融資産に占める株式・投資信託の構成比は、諸外国と比較して依然として低い水準にとどまっており、その流れはまだ道半ばです。

引き続き「貯蓄から投資へ」の流れを推進するためには、リスク資産に投資しやすい環境の整備、市場の国際競争力の強化という視点を踏まえつつ、投資家の立場に立った証券税制を構築する必要があると考えています。

このため、平成20年度税制改正要望においては、

(1)上場株式等の配当所得については、長期・安定的な投資の促進、法人税と所得税との二重課税調整の必要性も踏まえ、現行税率(10%)を恒久化すること

(2)上場株式等の譲渡所得については、「貯蓄から投資へ」の流れが定着するまでの、当分の間、現行税率(10%)を継続すること

(3)併せて、金融商品間の損益通算の範囲拡大をすること

等について要望を行っているところです。

金融庁としては、これら以外にも、金融・資本市場の国際競争力の強化、持続的で安心できる社会の実現に資する観点から、必要な税制上の措置を講ずるべく、引き続き努力していきたいと考えております。

おわりに

最後に重ねて申し上げますが、監督業務を円滑かつ適切に遂行する上で、皆様方との意見交換は極めて重要であると考えており、本日このような機会を与えていただきましたことに改めてお礼申し上げるとともに、今後とも、忌憚のない意見交換をさせていただきたいと考えています。これからも我が国の金融・資本市場の発展に力を合わせて頑張ってまいりましょう。

ご清聴いただきまして有難うございました。

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