「今後の地域産業の発展と地域金融機関の役割」

平成20年1月16日
金融担当大臣 渡辺 喜美

はじめに

福田総理の指示がございまして、ぜひ大臣はそれぞれの地域に赴いていろんな意見を聞いてくるように、こういうことでございました。何故この燕・三条地域を一番最初に選んだかと申しますと、やはりこの地域が「ものづくり日本」という地場産業を持ったシンボリックな地域である、この地域の浮き沈みというのがまさに世界経済とつながっている日本を象徴するものではないか、そういう発想に基づいて、まず第1号で選ばせていただいた次第でございます。

I 最近の金融・経済情勢

残念ながら世界経済の中での日本の競争力が非常に落ちてきているという現状がございます。例えば、スイスの国際経営開発研究所(IMD-インターナショナル・インスティチュート・フォー・マネジメント・ディベロプメント)が発表しております国際競争力ランキングにおきましては、ご案内のように日本は06年の16位から24位へと大きく後退をいたしております。07年における首位は、昨年同様アメリカ、第2位がシンガポール、第3位が香港というぐあいになっております。注目された中国は3つ前進をして15位に来ているわけでございます。こうした中でサブプライムローン問題をきっかけとした世界的な金融・資本市場の動揺、それに付随をして原油価格の高騰、その他一次産品価格の高騰、そういう状況があるわけでございます。皆様方には釈迦に説法でございますが、原材料価格の高騰によって企業収益が圧迫をされる。もしこれから円高が進んでいったりいたしますと、製品価格に直接的な影響を及ぼしていく。大変な危機認識を持って事に当たらなければいけない、そういう事態を迎えているわけでございます。

今の日本の置かれた現状につきまして若干申し上げますと、資料の1ページ目ありますように名目GDPでございますが、アメリカが右肩上がりというのに対して、日本は残念ながら横這いの状況です。かつてはアメリカ経済というのは日本経済の倍の規模と言われていたのが、今や3倍の規模になっております。一方、新興諸国を代表する中国は、まさに右肩上がり、着実に日本との差を縮めてきているという状況にございます。

一人当たりの名目GDPにおきましては、まさに我が国は右肩下がりです。OECD加盟国の中で、93年の第2位というのが最高でございました。今や残念ながら18位という状況でございます。

この間の雇用者所得というのは非常に停滞をしております。01年、02年から03年にかけての危機的な状況のもとで名目賃金が大きく落ち込んだところでございます。若干回復傾向にございますが、残念なことにデフレ経済の脱却が最終的にできていない大きな要因になっているわけでございます。

4ページ目の図は世界のお金の流れというものをあらわしたものであります。日本からアメリカにお金が相当行っているのではないかということが言われていたわけでございますが、実際アメリカの大変な不均衡を支えているお金というのは、日本からよりもはるかに多くがイギリス経由、あるいは中国から行っているということがこれでおわかりいただけるかと思います。イギリス経由のお金というのは、おそらく資源の高騰を背景に中東などから来ているものと推察をされるわけであります。

5ページ目の図は世界の証券市場における時価総額の伸びを示したものでございます。1990年と比べて一体どのくらい時価総額が伸びているかということでございますが、東京市場では大体1.5倍しか伸びていない。アメリカでは5.7倍ぐらいの伸びになっております。それに対して香港、深圳、上海という中国の3市場を見てみますと、それぞれ20倍、25倍、55倍と、とんでもない伸び率になっているということがわかるわけでございます。こういう高い伸びを示しているところに自然とお金が集まっていく。お金が集まることによって、さらに投資主導の経済成長が促進をされる。中国あたりでは逆に、今大変な過熱をどうやって冷やすか、そういうことに腐心をしているような状況でございます。

こうした中でサブプライムローン問題というのが起こったわけでございまして、先日、SEC(米国連邦証券取引委員会)のコックス委員長がたまたま証券監督者会議で東京に来られました。そのときに大臣室に来られましたので、ひとしきり懇談をしたのでございます。

日本ではBSE騒動というのがあったんです。そのときは、日本の焼き肉屋さんはがらがらになってしまった。つまり、BSE騒動によって牛肉を食べようということがなくなってしまったんですね。そういたしますと、一たん信頼が失われるとどうなるか。私の選挙区では牛の数が人の数より多いんじゃないかと言われているところでございますが、実は人の数のほうが多いんですけれども、うちの実家のすぐそばに家畜市場というのがあるんです。毎年お正月の4日には子牛の初競りが行われまして、うちの子供らを連れてよく行っていたのであります。小学生だったうちの次男坊がかわいい子牛を見つけて、1頭買って帰ろうと言って聞かないんですね。結局殺し文句は「ダイちゃんね、この子牛は1頭12万円もするんだよ。君のお年玉じゃ買えないでしょう」と言って説得していたわけでございます。BSE騒動が起こりました翌年の初競り、1頭12万円していた子牛は何と1頭5,000円とか1万円とか、あるいは値段のつかないものが出てきてしまった。あのときうちの子供を連れていったら、お年玉で買って帰ってきたかもしれない。そういうとんでもない事態が発生をしたんですね。

ちょうどこのサブプライムローン問題というのは、そのときの状況にそっくりだなと私はつくづく思うのでございます。こういった非常に複雑な経路を通じて証券化商品が世界中にばらまかれたわけでございます。計測可能な不確実性をリスクと申しますけれども、計測不能な不確実性、真の不確実性というものが世界中で起こってきてしまった。まさに時価のつかないものが出てきた。類似商品価格もないものが出てきてしまった。いわゆるレベル3と言われるものにお値段がつかずに疑心暗鬼の種になってしまっているというのが今の状況でございます。

今朝のニュースにもございましたようにLCFI(巨大複合金融機関)の一角においては決算上大変なロスが出ている。オフバランス化されていたものをオンバランス化することによって損失をみずから抱えることになる。結局、日本がたどったことと非常によく似ているわけでございますが、最終的に資本が足りない、そういう大問題が生じているわけでございます。日本でも相当すったもんだいたしまして、資本増強の枠組みというものをつくったわけでございますが、大体日本では最初の金融危機からそういった資本増強の枠組みをつくるのに何と5年もかかってしまったわけでございます。コックス委員長に私はぜひ日本の教訓というものを参考にしてほしいということを申し上げたところでございます。

7ページの為替の状況でございますが、これは青い線がドル/円関係でございます。傾向的にこういう感じでありますから、どうもこれは三角形の形になっているような気がいたします。一方、ユーロ/円については、ユーロ高の傾向が続いているという状況でございます。

8ページの図はドルの実質実効為替レートの推移であります。かつてドルが実質実効レートにおいて相当安い時代がございました。79年とか、あるいは95年です。このあたりからいわゆる強いドル政策というのが始まるわけでありますけれども、そういう意味では今の実質実効ドル相場というのが最安値圏に近づきつつあるという状況でございます。

そういう中で日本の企業というのは一体どういう状況に置かれてきたかということでございますが、バランスシートを法人企業統計からとってみますと、ほかの資本主義国に比べて顕著に違う点がございます。というのは、ここでは負債/資産比率をとって65%と言っておりますが、裏を返せば資本と負債の比率が資本35、負債65ということでございます。つまり、資本というものが非常に小さいという特徴が日本経済には内在をしています。早い話がインフレの時代には借金をするということが非常に有利な資金調達の手段だったわけでございます。一方、デフレになりますと、残念ながらこのやり方では大変な苦労をしなければいけない、そういうことを意味しているわけであります。インフレ時代には小さな資本を資産サイドで支える土地というものがございました。あるいは持合株式というものがございました。しかし、一旦資産デフレが起きますと、この構造は大変にもろいものであるということが、この十数年間の我々の教訓だったわけでございます。

一方、アメリカだけではございませんが、先進資本主義国というのは、資本と負債の比率というのは、いずれも資本のほうが大きいというのが普通でございます。アメリカでは、大体資本が57、負債が43という状況でございます。フランスなどではもっと資本のほうが大きいということなんですね。一番日本と近いと言われるドイツにおいても日本ほど資本は小さくないという状況にございます。

この20年間の設備投資とキャッシュフローの関係を10ページの図で見てみますと、バブルの時代にはキャッシュフローを上回った設備投資が行われてきた。しかし、バブルが崩壊をいたしまして、キャッシュフローのかなり低い範囲の中でしか設備投資は行われてこなかったというのがこのグラフでございます。

民間の非金融法人の資金調達の状況というものを11ページの図で見てみますと、この青っぽい部分が借り入れによって賄ってきたものでございます。案の定バブル崩壊以降、借入れによる資金調達というものが激減をする。つまり、借金返済に走るということになったわけでございまして、この間借金返済第一主義が行われ、ようやく最近になって借入れによって資金調達をしていこうという傾向が出てきたということであります。

次に貸出金の推移を12ページの図で見てみますと、こちらの棒グラフが貸出金の残高であります。今の水準でいきますと、400兆円をちょっと超えるぐらい。この折れ線グラフで見ますと、大体GDP対比で80%ぐらいのところまで水準が落ちてきた。おそらく大体GDPの8割というのが一つの目安ではないか、こう言われているところまで落ちてきたということでございます。

次に企業の資金調達額と家計の金融資産額の推移を13ページのグラフにあらわしてございます。アメリカでは、家計の金融資産とほぼ非金融法人の資金調達というものがパラレルになっております。しかし、日本では、家計の金融資産の推移に対して非常にアンバランスな企業の資金調達の構造になっている。まさに日本がデフレ経済の中で借金返済に走ったということがこのグラフの特徴でございます。

II 地域経済の現状

こうした中で地域経済がどういうぐあいになっているか、これは皆さん方がまさに身をもって感じてきておられることかと思います。国際的な競争の激化の中で需給のミスマッチが地方経済には厳然としてある。日本がデフレから脱却できていない最大の理由は、まさにこの地方経済の中にあるような気がいたします。

そういう中で、各地においていろいろな取り組みが行われてきています。例えば世界経済とつながって地域発展を遂げていこうと。これは北海道の倶知安町の例でございますが、ここにはパウダースノーというお宝がございまして、このお宝に気がついたのは日本人ではなくてオーストラリア人だった。オーストラリア人の投資が行われることによって倶知安町ではちょっとバブル化をしている、そういう傾向さえ出てきているわけでございます。

また、国際経済とつながらずに国内経済の中で活性化を図っている滋賀県の長浜市のようなケースもございます。ここは中心商店街が大変疲弊をし、昭和60年代には数えてみたら、1時間に人が4人しか通っていない。犬が一匹通っているだけだ。でも、地域の有志が集まって、何かここにもお宝があるのではないのかと考えたんですね。で、気がついたのが、明治時代につくられた黒壁銀行と呼ばれる建物だったわけでございます。この建物を買い取って、そうだ、この路線でいこうというので街並み景観づくりが始まったわけでございます。人がだんだん集まるようになりまして、それでは、こんなに人が来るようになるんだったらお土産づくりをやってみようじゃないかというので、かつてこの地域には何があったかを考えたんですね。そうすると、長浜城というのがあったよな、羽柴秀吉の時代だよ。あの時代にポルトガルの宣教師が来たじゃないか。そうだ、ガラスだ、ステンドグラスがあるよなというのでガラス工房をつくってみたところ、これがばか当たりをした。まさに地域活性化の一点突破、全面展開の成功事例でございます。

離島においてもこうした取り組みは行われております。島根県の海士町では、地場産業と呼ばれるものはほとんどない。でも、考えてみたら、ここでは昔から牛を飼っているよね。海士牛というのは草を食べている牛なのでありますけれども、海の豊富なミネラルを風が運んできて、それを牛が食べる牧草の中に含まれている。そういう黒毛和牛のブランド化が始まりました。また、ご当地では定番の家庭料理のメニューにサザエカレーというのがあるのだそうでございますが、おお、じゃ、こういうものをちょっと島まるごと百貨店みたいにして売り出してみたらどうか、そういう取り組みを行うようになりました。小さな島でございますから、じゃ、島に戻るかという人たちがあらわれて、人口が増え始めたというおまけまでつき始めたわけでございます。

今の時代が大変厳しいのだったら昭和の時代を振り返ってみるかと、レトロ路線に復帰をした町もございました。大分県の豊後高田では、まさに始まったばかりでありますから、成功するか失敗するか、我々もかたずをのんで見守っているのでございますが、こうした昭和のまちづくりというものが行われてきております。

ご当地、燕・三条地域におきましては、私が今さら言うまでもございませんが、金属加工技術を根幹として長年にわたる絶え間ない業種転換によって需給のミスマッチを解消してこられたという経験がございます。さらに、地域ブランドを立ち上げ、積極果敢に世界経済とつながり、かつ新素材を活用したり、新商品を開発したり、その意味では我々はこの燕・三条に大いに着目をしているところでございます。まさに市場のニーズを的確にとらえ、高度なアンテナとしての役割を果たしてこられたことは、ほんとうに尊敬に値する地域でございます。

こうした中にあって、地域金融機関にも新たな任務が加わっております。最近では過度に土地担保に依存しない融資というものを積極的に行っていこうという試みが行われております。動産担保融資あるいは売掛債権担保融資、こういう取り組みがございます。昨年は債権の流動化や債権譲渡の安全性を確保することと、企業の資金調達をより円滑に行うことを考えまして、電子記録債権法というのを国会で通していただきました。かつては手形、小切手の担っていた分野でございますが、今やペーパーレス化の時代でございます。中小企業においても売掛債権というのは何十兆円もあるんですね。大企業、中堅企業を入れますと100兆円をはるかに超える売掛債権の世界が眠ったままになっている。こういうものを電子登録をしてもらう。それによって公信力を認めてしまうんですね。したがって、ここのところが革命的な話なのでございますが、公信力の認められた電子登録債権が流動化をしていくということになれば、まさに企業の資金調達が一変していくということがあり得るわけでございます。

今朝の新聞でも報じられるようにLCFI(巨大複合金融機関)も資本が足りないということになって、ソブリンウエルスファンドと言われるアラブや中国、シンガポールなどのファンドから資本を導入する。こういうのは外国のお金でございますから、議決権を付与するのはまずいだろうというので、いわゆる優先出資ということになっていますね。そうすると、こういうのは別に中小企業が導入したっていいじゃないか、地域金融機関が資本的な資金を供給することがあったっていいではないかということが言えるわけでございます。先ほど申し上げましたように、日本は資本と負債の比率が35対65という非常にいびつな形態になっております。このバランスシートの構造というものを変えていくためにも、やはり資本的な資金の供給というものをより深めていくことが考えられます。これは政府系金融機関における取り組みでございますが、資本的劣後ローンを供給するという試みも始まっております。こうした取り組みはおそらくこれから日本の地域金融の中で大いに考えていかなければならないところではないでしょうか。

また、地域が再生をしていくためには、面的な再生が必要です。点の事業再生のノウハウはさまざまに蓄積がなされてきておりますが、やはり地域として再生をしていく試みが必要でございます。来年度創設予定の地域力再生機構というのは、まさに面的な再生をもくろんだ新しい取り組みでございます。私などはこの問題に長くかかわってきた人間でございますので、ぜひ地域力再生機構が、これは私の担当ではございませんけれども、地域の活性化に大いに役立ってほしいと考えております。中小企業の企業情報あるいは地域の経済情報、社会情報、こういうものをたくさん蓄積しているのが地域金融機関でございます。地域を熟知し、地域のために尽力しようという意識の高い人材がそろっているのが地域金融機関のはずでございます。地方公共団体など公的部門にはないビジネスセンスとスピード感を金融機関はあわせて持っているはずでございます。地域力再生機構においては、まさにこうした面的再生に関連する事業再生への支援も行っていくことが予定をされています。

例えば観光地、温泉地などのように地域でお客さんを呼び込む、そういうところにはまさにこうしたスキームが必要でございます。地方百貨店の再生に合わせて周辺商店街の活性化を図っていくなどというのもこういったケースに当てはまるのではないでしょうか。また、地方の民間交通事業、こういったものの再生のために地域全体がいろいろなパッケージ、戦略を駆使して取り組むなどということもこうした面的再生の一つでございます。地域金融機関におかれましては、このような機能も念頭に置きながら、地域における面的再生にぜひ取り組んでいただきたいと考えております。

III 金融・資本市場の競争力強化

臨時国会が終わりまして、もう3日後には通常国会が始まることになっております。この通常国会において私どもが提案をする金融・資本市場の競争力の強化プランがございます。例えば日本には1,550兆円のお金があるんですね。そのうち750兆円が塩漬けになっております。リスクをとらないというわけではなくて、リスクをとる人たちもいるんですね。しかし、先ほど申し上げたように、そういう人たちは日本市場ではなくて、海外の市場にお金を持っていってしまうということがございます。そういたしますと、やはり日本市場というものをもう一度見直していく必要がある。例えば、上場投信(ETF)というのがあります。世界の商品市場が大変な右肩上がりの状況になっている中で、日本の商品市場というのは非常に小さな市場になってしまっているんですね。これは一体どういうことか。やはりそのマーケットの再構築というのが必要だ。まずはETFという形で金融商品取引所と商品取引所の融合を図っていく必要があるのではないか。また、世界中の金融のプロに参加をしてもらうプロ向け市場というものも必要ではないか。銀行・保険会社のファイアーウォール規制の見直しも行っていく必要があるのではないか。商品の現物取引というのは、なかなかこれは銀行本体では難しいものがございますけれども、兄弟会社においてやれるようにしたらどうか、あるいは商品デリバティブの世界も、大幅に規制緩和をしていく必要があるのではないか。また、イスラム世界が資源価格の高騰とともに大変な勢力になってきているという現実がございます。そういうことを考えると、イスラム金融というものについても大胆に規制緩和をできるよう見直しをしていく必要があるのではないか。そして、日本の強みというのは省エネ、低炭素技術であります。こうした中で排出権取引というものについても大幅に規制緩和を行っていく必要があるのではないか。

また、先ほど申し上げたように企業再生の株式保有というのは、これはもう今までの規制を大幅に緩和していく必要があるのではないか。こうした観点から強化プランというものをつくりまして、法改正の必要なものについては、今国会に提出をする予定になっているところでございます。

今日は私一人でしゃべるのではなくて、皆さんのご意見も聞いてこいという総理からのお達しでございますので、とりあえず私の話はここで打ちどめにさせていただきます。 ご清聴、誠にありがとうございました。

―― 了 ――

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