三國谷金融庁長官講演「我が国市場を巡る状況と諸課題」(日本証券業協会「平成22年度代表者セミナー」(22年9月16日(木))

金融庁長官の三國谷です。

最近の世界経済の動向、あるいは諸外国のストレステスト等につきましては、既に大和総研の武藤理事長から色々お話があったかと思いますので割愛させていただきます。

まず、資料の1ページ目は、この数十年間の日本の株式市場の動向を時系列的に並べたものでございます。この表は同時に日本の経済の状況等を俯瞰できるものではないかと思っております。真ん中あたりに日経平均の最高値がありますが、その直前にベルリンの壁が崩壊しました。その後、日本は右肩下がりの経済状態となり、いわゆる金融危機も生じました。この過程において、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券、あるいは日長銀・日債銀、住専の問題等もありました。この間、金融監督庁が発足し、その2年後に金融庁が発足しました。こういったものを様々な形で乗り越え、ようやく右肩上がりと思っていたところに、サブプライムローンあるいはリーマンブラザーズの問題に直面するわけでございます。昨日9月15日で、リーマンショックから約2年間が過ぎました。この2年間で、いかに経済・金融あらゆる面で全世界的に世の中が大きく変わったか申し上げるまでもないと思います。当時、3連休でございましたが、3連休の最中に日本リーマンに対し業務停止命令、資産保全命令を発出するなど、迅速に対応しました。このほか、リーマンの破綻に加え、日本でも10月10日に大和生命が破綻しております。リーマンの破綻は直ちに資本市場に大きな影響を与えましたし、年末にかけて資本市場が枯渇しました。これらの様々な指標は先ほど武藤理事長から話があった通りです。

資料の次頁以降は、中小企業の業況について、私どもが3ヵ月毎に商工会議所にアンケート調査をしているものであり、20年5月にこの調査を開始しました。我々としてはその数ヶ月前から、これは、サブプライムローンが終わり、リーマンショックに突入する半年前ですが、この調査の必要性を感じており、当時、不動産・建設等がかなり厳しいものになるではないかと考え、このアンケート調査を開始したものであります。2ページ目の営業の悪化の要因は、マル1の、原油・原材料価格等、仕入原価の上昇という項目は、当時、石油の価格が急に上がった事を反映しております。また、マル6にある規制の強化・緩和の影響とは建築基準法等も意識したものであります。4ページの折れ線グラフは業況に関するアンケート調査の結果を時系列で並べたものです。この右側で分かるように、最初は仕入れ価格の減少、原油の高騰が、大変国民生活に影響を与えました。この当時出された緊急経済対策は原油などのコスト対策が中心でした。この要素が次第に薄れてきて売り上げの低迷が問題になり、さらに販売価格の転化が出来ないという問題が生じました。また、最近は販売価格が下落しているという問題が右肩上がりになってきております。3ヶ月調査はその瞬間、瞬間は、断面的に見ると、数値自体はどれほど正確かという問題はありますが、こうやって時系列にまとめるとその間の流れが良く見て取れると思います。

続きまして、5ページ目では、資金繰りの観点から捉えたものであります。私どもとして興味があります、金融機関の融資態度・融資条件がどのように受け止められているか、当初28.8%、30%を超えたこともありますが、この要素は、だんだん低下しております。また、昨年からは金融円滑化法の関係もあると思いますが、その数値がさらに半減しております。一方で、中小企業の営業要因、販売不振、あるいは在庫の長期化という要因がどんどんウエイトを増してきています。こういったことを踏まえながら、金融庁としては引き続き関係省庁とも連携を取りながら、金融の円滑化には着実に取り組んでいきたいと考えております。

以上は国内全体におけるひとつの側面でございますが、一方で今回のリーマンショックを境に国際的にも危機を再発するような規制の強化をするべきではないかという議論が生じてきました。この間、世界を舞台としてはどのような会議が行われたのか。まずG20でありますが、2008年9月のリーマンショック以降、まずワシントン・サミットでひとつの原則合意が行われ、その後ロンドン・サミット、ピッツバーグ・サミット、トロント・サミットと流れていくわけでございます。最初は、緊急事態を、いかにベールアウトするかというような状態でありました。それから金融システム全体の脆弱性を克服するにはどうしたらよいかという議論に移り、最後は金融危機後の規制の再構築に向けた議論が進んできたわけあります。

では、どういった議論がなされてきたかは、7ページ目にあります。これまで様々な事が言われておりますが、1点目は国際的に活動する銀行の自己資本・流動性規制の問題であります。いわゆるバーゼル3とも言われているものであります。ここで自己資本の質量の問題、レバレッジ規制、流動性規制等が議論されております。2点目は、システム上重要な金融機関にそのリスクに応じた規制・監督を強化できないかという議論でございまして、これは今後も引き続き議論が行われることとなっております。3点目は、格付会社の規制・監督であります。これは登録制の導入という措置が既に講じられたわけであります。4点目は、ヘッジファンドの規制・監督であります。日本は既に、ヘッジファンドにつきましては、登録等の措置が行われておったところであります。5点目は、店頭デリバティブ市場の規制・監督であります。これは中央清算機関を通じた、決済や取引情報の報告等の問題であります。6点目は、金融セクターへの負担金の問題であります。日本は既に預金保険法という相当洗練された制度が整備されているところであります。この様な6項目、その他にもございますが、こういった同時並行的に議論される中で先般マル1につきましては、その水準において一定の合意がなされたものでございます。

しからば、それがどのような枠組みで行われているのかは8ページ目の表であります。G20の首脳会合の下に、FSB、これがございまして、それがバーゼル、IOSCO、IAISという機関に分かれて様々な規制の見直し、あるいはレギュレーションの統一化等の議論が行われているわけであります。この表には載ってはいませんが、2点付け加えたいと思います。ここに、銀行、証券、保険とありますが、そしてもうひとつ大きな流れは会計だと思います。会計の方のIASBにおきまして、これも、現在変革の大きな議論が行われており、これから私どもとしても仕事の中でも大きなウエイトを占めるものと思っております。あともう一つ、私も出席しているGHOS、中央銀行総裁と監督当局の長官会合というものでございます。そこでバーゼルに関する水準等の議論が大体の合意を得ました。こういった会合につきまして、私どももこれから国際的な議論を相当日本の制度・施策にも影響を与えるという観点から、大変な力点を置いていかなければならないと考えております。この中でIOSCOのテクニカルコミッティ、最も中心的な委員会でございますが、その副議長に金融庁の国際担当の河野総括審議官が今般就任しております。同じように、会計の方で、レギュレーターが作りますモニタリングボードがありますが、そのメンバーの一人は私ですが、そのモニタリングボードのガバナンスを見直すワーキンググループの議長に河野総括審議官が就任しまして、そういう場で国際的な舞台における発信力、あるいは情報収集力の強化を高めていきたいと思います。同時に、今般の人事異動に伴い、大変金融庁は人の数・ポストの数も少ない中、なかなかやりくりに苦労する組織でございますが、その中で国際担当の参事官を更に2名増員し、こういった流れに乗って対応していかなければならないと思います。色々なルール作りをする際に、ルールに対して守るという側面だけではなく、これからは、やはり提案ということも大変重要な課題かと思います。金融庁の組織としては出来上がったときから非常に小さい組織ではありますが、色々とやりくりをしながら先々をにらんだ運営をしていきたいと思います。

9ページ目と10ページ目は、バーゼル委員会による銀行の自己資本等の見直しの合意された内容となっております。2つに分かれております。上は2010年7月26日、先ほど申しましたGHOSという会合でございまして、そこで自己資本の質についての合意が得られました。自己資本については、ピュアな普通株式から様々なハイブリットな商品まで、様々な資本で構成されていますが、現実にショックが起きたときに、その損失吸収力という面では、かなり見劣りするものもあるのではないか。さらに議論は、ゴーイング・コンサーンで図るべきか、ゴーン・コンサーンで図るべきかの議論であります。これから先は基本的にゴーイング・コンサーンをベースに考えていくことが大事であるのではないかということで、自己資本の質の改善の議論が行われているところであります。ただ一方で、自己資本の質の改善について、現実世界の中に投影した場合に、過ぎたるが及ばざるがごとしの状態になってはならない、バランスの取れた措置も必要であろうと議論が行われ、結果的には、繰延税金資産、無形固定資産、少数株主持分について、一定の条件の下で参入が認められる形となりました。このような点については、日本の法人の場合には、良い意味で大きな影響があるものと思っています。この他に7月にはレバレッジ規制の大体の方針、流動性規制の考え方、こういったものも決定しているところであります。続きまして10ページ、これは9月12日、私も帰ってきたばっかりでしたが、そこでは全体の水準として、普通株等が中心的な物の考え方として最低水準を4.5%、資本保全バッファーとは、最低水準とは違い、下回っても内部留保の方を優先するという領域に入るものです。また、そのバッファーは2.5%にするというものであります。カウンターシクリカルな資本バッファーとは、マクロ的に、将来市場が過度に膨張する時には、そのバッファーを拡大することも制度として仕組むというものであります。その実施というのが、この施行時期あるいは、グランドファーザリングと大変大きな関連を持つものであります。リスクの取りすぎを規制する、あるいは自己資本を厚くするということにつきましては。これは私どもの基本的な考え方と同じであります。ただ、一方におきまして、過度の規制となった場合に、貸出しの抑制等に繋がるのではないかと思われます。バーゼル規則の構成というのは、分母と分子からなっております。分子の規制が達成できなければ、逆に分母を縮小することにより達成するというような形になっては、経済全体に影響するというような考え方もあるわけでございます。大変な議論の結果でありますが、2013年1月に始まりまして、各種経過措置も、2019年までに新水準に段階的にフェーズインするという合意になりました。これから、この合意を基にサミット等でも議論が行われるわけですが、この見直しを前提に、各金融機関においては今後の自己資本の充実等に取り組んでいただければと思っております。こういったレギュラトリーミニマムという規制の問題と、各銀行が自らのビジネスモデルとしてどの様に先を展望し、将来を見据えていくかという問題は、違う側面もありますので、各金融機関におきましても、自らの判断において適切に判断していただきたいと思っております。

ここまでがバーゼルの流れでありますが、先ほども申し上げましたとおり、現在、国際的にグローバルの中で、一方で日本の歴史とか制度の制約もありながら、他方でグローバルにどう対峙していくかという点で、大きな話としては2点あると思っております。一つは今のバーゼルの話であります。これと同じような話はこれから保険や証券の世界の中でも生じてくるかもしれません。

もう一つは、会計基準の話でございます。これも、このグローバル化する中で、IFRSを中心として、会計基準とどうやって向き合っていくか、ただ一方でそれぞれの各国の歴史とか慣行とかあるいはビジネスのスタイルがあると、これをどう織り成していくかが大きな課題かと思っております。11ページ目に3つの極の考え方というか、日本とEUとアメリカというのを3つ並べております。それぞれ証券当局というのがあり、さらに会計基準の設定主体というのがあり、それから会計基準というものがあります。この3つがこれからどう折り成していくかとういう事でございます。先ほど申しましたIASBのモニタリングボードにつきましては、この3極がメンバーとして加入しております。これにIOSCOがメンバーとして入っておりますが、この中で日本の過去の歴史を振り返ってみますと、グローバル化等を背景といたしまして、アメリカ財務会計基準審議会(FASB)とIASBが、ノーウォーク合意でコンバージェンスの合意をするといったことを踏まえ、2008年ぐらいまでに、ヨーロッパでの同等性評価を達成すべく関係者が一丸となって努力してきました。この間、企業会計基準委員会での会議、あるいは意見書、その後の東京合意等を踏まえまして、同等性評価につきましては、これは達成してきております。ただ、当時、同等性評価が一つの目標かと思っておりましたが、時代はさらに進みまして、同等性評価にとどまらず、これをIFRSとの関係で、適用をどう考えていくかと局面にもなってきております。既に今年の3月から任意適用が上場企業について認められる状態に入っておりますが、これからグローバル化の中で全体の問題も含めまして、大変大きな山を乗り越えていかなければならず、大変大きな課題として認識しているところでございます。個人的な体験を含めましても、この会計基準というのは十数年前にも大きなうねりがあったわけですが、大変多くの方々のご参加と議論をいただくことが必要かと思っております。今、任意適用の後のその次のあり方を巡って、経済界の皆様、あるいは金融界の皆様とも色々な議論を展開しているとことですが、これにつきましても、宜しく議論にご参画いただきたいと思っているところでございます。

時間の関係で次に進ませていただきます。そういった中で、私どもこれからどうやっていくかということであります。たまたま先ほど、リーマンショックの後に、その現状からどう窮状をどう打開していくかという時に、個別のベールアウト等の局面、あるいは個別の処理の問題、セーフティネットを作る話と、将来のインフラを作る話がございましたが、日本も過去の金融危機以降、私の整理ではございますが、そういう個別の処理をしっかり行うこと、しっかりとしたセーフティネットを作ること、将来を展望したインフラを作っていくこと、例えば証券決済システムとか金融商品取引法を作っていくこと、4点目としては、消費者・利用者の保護をしっかりしていくこと。それによって市場の信任を勝ち得ていくことが大事なことだと思っております。今回の危機で諸外国と取っている行動も日本が過去に行った行動を一にしておりますが、その中でこれからの先としましては新成長戦略が必要かと思っております。本年6月に設定されました、新成長戦略、それにおける金融戦略がどういうものかと書いてございます。ここにお集まりの皆様はほとんどご案内の話ばかりかと思いますが、この成長戦略、あるいは将来の金融像をどうするのかというのは、これの問題にとどまらず、長期的に長い目で取り組んでいかなければいけない課題かと思っております。

15ページにはその中で税制改正要望に対する基本的な考え方も掲げておりますが、今回は現下の金融経済情勢等に鑑み上場株式等の軽減税率の延長も私どもとして要望しているところでございます。その他税制には様々なものがございます。

これは16ページにありますが、昨年、金融審議会金融分科会基本問題懇談会で議論していただいた報告でございます。

4つの枠に分かれておりますが、これまで貯蓄から投資へということも含めまして、複線的な金融システムというものを出来るだけ目指していこうと、バランスの取れた強靭な金融システムをこしらえていこうことで取り組んでまいりました。しかしながら、なかなかその成果が出てきていないものも実態でございます。また、今次の世界的な金融危機の影響において、一時こういった資本市場というものに対して、相当懐疑的な意見も出たわけでございます。しかしながら、そういったことを踏まえてもなお、金融システムの課題としては、銀行部門、市場部門でバランスの取れた金融仲介が必要であるということであります。逆に日本の金融危機は十数年前に銀行部門にリスクが集中することによって生じました。一方、今回の世界的な金融危機は市場部門にリスクが集中することによって生じました。結局のところは、銀行部門であれ、市場部門であれ、行き過ぎは良くないということだと思っております。両方とも大変大事な機能であります。こういったことに、もう1回着実に取り組んでいこうということで、右側の下の4でありますが、去年やるべきことについては、その4つ目の枠に記したことに取り組んでいくこととしたわけであります。さらに新成長戦略もございます。これからもそれにとどまることなく、やはりこの日本の金融資本市場の強靭にしていくためにも様々な取組みが必要かと思いますので、よろしくお願いしたいと思っております。

続きまして、17ページ目であります。そういったことを翻ってみますと、また元に戻る話ではございますが、金融行政の目的・任務というのは、上にあります金融システムの安定と利用者保護・利用者利便の向上であります。また公正・透明で活力ある市場の確立でございます。そういったものの取組みしましては、繰り返しになりますが、一つは不良債権や個別金融機関の破たん処理等への個別の適格な対応、これは愚直に着実にやっていく必要がございます。それから各セーフティネットの構築、先を展望した決済制度、あるいは金融商品取引法のインフラ整備を行うこと、消費者の視点に立った制度整備と運用を行うこと。この運用につきましてはまさしく皆様方にやっていただきたいことでございます。そういう中で、我々としては、こういったことを踏まえつつ、現在ベターレギュレーションというものも展開しているところでございます。これについては何度も申しましたので省略させていただきます。

20ページ目では、ベターレギュレーションの進捗状況を示させていただきました。そういうことを踏まえまして、今年の金融商品取引業者向けの監督方針のポイントがかかれております。そこにポイントを記しておりますので、我々の考え方を読み込んでいただければと思っております。

(以上)

PDFセミナー資料「我が国市場を巡る状況と諸課題」(PDF:633K)

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