III -5 行政指導等を行う際の留意点等

III -5-1 行政指導等を行う際の留意点

銀行に対して、行政指導等(行政指導等とは行政手続法第2条第6号にいう行政指導に加え、行政指導との区別が必ずしも明確ではない情報提供、相談、助言等の行為を含む。)を行うに当たっては、行政手続法等の法令等に沿って適正に行うものとする。特に行政指導を行う際には、以下の点に留意する。

  • (1)一般原則(行政手続法第32条)

    • マル1行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されているか。

      例えば、以下の点に留意する。

      • イ.行政指導の内容及び運用の実態、担当者の対応等について、相手方の理解を得ているか。

      • ロ.相手方が行政指導に協力できないとの意思を明確に表明しているにもかかわらず、行政指導を継続していないか。

    • マル2相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはいないか。

      • イ.行政指導に従わない事実を法律の根拠なく公表することも、公表することにより経済的な損失を与えるなど相手方に対する社会的制裁として機能するような状況の下では、「不利益な取扱い」に当たる場合があることに留意する。

      • ロ.行政指導を行う段階においては処分権限を行使するか否かは明確でなくても、行政指導を行った後の状況によっては処分権限行使の要件に該当し、当該権限を行使することがありうる場合に、そのことを示して行政指導をすること自体を否定するものではない。

  • (2)申請に関連する行政指導(行政手続法第33条)

    申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしていないか。

    • マル1申請者が、明示的に行政指導に従わない旨の意思表示をしていない場合であっても、行政指導の経緯や周囲の客観情勢の変化等を勘案し、行政指導の相手方に拒否の意思表示がないかどうかを判断する。

    • マル2申請者が行政指導に対応している場合でも、申請に対する判断・応答が留保されることについても任意に同意しているとは必ずしもいえないことに留意する。

    • マル3例えば、以下の点に留意する。

      • イ.申請者が行政指導に従わざるを得ないようにさせ、申請者の権利の行使を妨げるようなことをしていないか。

      • ロ.申請者が行政指導に従わない旨の意思表明を明確には行っていない場合、行政指導を行っていることを理由に申請に対する審査・応答を留保していないか。

      • ハ.申請者が行政指導に従わない意思を表明した場合には、行政指導を中止し、申請に対し、速やかに適切な対応をしているか。

  • (3)許認可等の権限に関連する行政指導(行政手続法第34条)

    許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合にもかかわらず、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従う事を余儀なくさせていないか。

    例えば、以下の点に留意する。

    • マル1許認可等の拒否処分をすることができないにもかかわらず、できる旨を示して一定の作為又は不作為を求めていないか。

    • マル2行政指導に従わなければすぐにでも権限を行使することを示唆したり、何らかの不利益な取扱いを行ったりすることを暗示するなど、相手方が行政指導に従わざるを得ないように仕向けてはいないか。

  • (4)行政指導の方式(行政手続法第35条)

    • マル1行政指導を行う際には、相手方に対し、行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示しているか。

      例えば、以下の点に留意する。

      • イ.相手方に対して求める作為又は不作為の内容を明確にしているか。

      • ロ.当該行政指導をどの担当者の責任において行うものであるかを示しているか。

      • ハ.個別の法律に根拠を有する行政指導を行う際には、その根拠条項を示しているか。

      • ニ.個別の法律に根拠を有さない行政指導を行う際には、当該行政指導の必要性について理解を得るため、その趣旨を伝えているか。

    • マル2行政指導について、相手方から、行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を記載した書面の交付を求められた時は、行政上特別の支障がない限り、原則としてこれを交付しているか(ただし、行政手続法第35条第3項各号に該当する場合を除く。)。

      • イ.書面の交付を求められた場合には、できるだけ速やかに交付することが必要である。

      • ロ.書面交付を拒み得る「行政上の特別の支障」がある場合とは、書面が作成者の意図と無関係に利用、解釈されること等により行政目的が達成できなくなる場合など、その行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を書面で示すことが行政運営上著しい支障を生じさせる場合をいう。

      • ハ.単に処理件数が大量であるだけの場合や単に迅速に行う必要がある場合であることをもって、「行政上特別の支障」がある場合に該当するとはいえないことに留意する。

III -5-2 面談等を行う際の留意点

職員が、銀行の役職員等と面談等(面談、電話、電子メール等によるやりとりをいう。以下同じ。)を行うに際しては、以下の事項に留意するものとする。

  • (1)面談等に参加する職員は、常に綱紀及び品位を保持し、穏健冷静な態度で臨んでいるか。

  • (2)面談等の目的、相手方の氏名・所属等を確認しているか。

  • (3)面談等の方法、面談等を行う場所、時間帯、参加している職員及び相手方が、面談等の目的・内容からみて相応しいものとなっているか。

  • (4)面談等の内容・結果について双方の認識が一致するよう、必要に応じ確認しているか。特に、面談等の内容・結果が守秘義務の対象となる場合には、そのことが当事者双方にとって明確となっているか。

  • (5)面談等の内容が上司の判断を仰ぐ必要のある場合において、状況に応じあらかじめ上司の判断を仰ぎ、又は事後に速やかに報告しているか。また、同様の事案について複数の相手方と個別に面談等を行う場合には、行政の対応の統一性・透明性に配慮しているか。

III -5-3 連絡・相談手続

面談等を通じて行政指導等を行うに際し、行政手続法に照らし、行政指導等の適切性について判断に迷った場合等には、金融庁担当課室に連絡し、必要に応じその対応を協議することとする。

III -6 行政処分を行う際の留意点

III -6-1 行政処分(不利益処分)に関する基本的な事務の流れについて

III -6-1-1 行政処分

監督部局が行う主要な不利益処分(行政手続法第2条第4号にいう不利益処分をいう。以下同じ。)としては、マル1法第26条に基づく業務改善命令、マル2法第26条に基づく業務停止命令、マル3法第27条に基づく業務停止命令、マル4法第27条に基づく免許取消しがあるが、これらの発動に関する基本的な事務の流れを例示すれば、以下のとおりである。

  • (1)法第24条に基づく報告徴求

    • マル1オンサイトの立入検査や、オフサイト・モニタリング(ヒアリング、不祥事件等届出書など)を通じて、銀行のリスク管理態勢、法令等遵守態勢、経営管理態勢等に問題があると認められる場合においては、法第24条に基づき、当該事項についての事実認識、発生原因分析、改善・対応策その他必要と認められる事項について、報告を求めることとする。

    • マル2報告を検証した結果、さらに精査する必要があると認められる場合においては、法第24条に基づき、追加報告を求めることとする。

  • (2)法第24条に基づき報告された改善・対応策のフォローアップ

    • マル1上記報告を検証した結果、業務の健全性・適切性の観点から重大な問題が発生しておらず、かつ、銀行の自主的な改善への取組みを求めることが可能な場合においては、任意のヒアリング等を通じて上記(1)において報告された改善・対応策のフォローアップを行うこととする。

    • マル2必要があれば、法第24条に基づき、定期的なフォローアップ報告を求める。

  • (3)法第26条に基づく業務改善命令等

    上記(1)の報告(追加報告を含む。)を検証した結果、例えば、業務の健全性・適切性の観点から重大な問題が認められる場合、又は、銀行の自主的な取組みでは業務改善が図られないと認められる場合などにおいては、法第26条に基づき、業務の改善計画の提出とその実行を命じることを検討する。

    なお、単独で、又は、下記(4)若しくは(5)の行政処分と同時に、制度改革等により可能となった新規業務への進出を一定期間行わせないこととする等の措置を命ずることが検討される場合がある。

  • (4)法第26条に基づく業務停止命令

    上記(3)の業務改善命令を発出する際、業務の改善に一定期間を要し、その間、当該業務改善に専念させる必要があると認められる場合においては、法第26条に基づき、改善期間を勘案した一定の期限を付して当該業務の停止を命じることを検討する。

  • (5)法第27条に基づく業務停止命令

    上記(1)の報告(追加報告を含む。)を検証した結果、重犯性や故意性・悪質性が認められる等の重大な法令等の違反又は公益を害する行為などに対しては、法第27条に基づき、当該業務の停止を命じることを検討する。併せて、法第26条に基づき、法令等遵守態勢に係る内部管理態勢の確立等を命じることを検討する。

  • (6)法第27条に基づく免許の取消し

    上記(1)の報告(追加報告を含む。)を検証した結果、重大な法令等の違反又は公益を害する行為が多数認められる等により、今後の業務の継続が不適当と認められる場合においては、法第27条に基づく免許の取消しを検討する。

なお、(3)から(6)の行政処分を検討する際には、以下のマル1からマル3までに掲げる要因を勘案するとともに、それ以外に考慮すべき要素がないかどうかを吟味することとする。

  • マル1当該行為の重大性・悪質性

    • イ.公益侵害の程度

      銀行が、例えば、顧客の財務内容の適切な開示という観点から著しく不適切な商品を組成・提供し、金融市場に対する信頼性を損なうなど公益を著しく侵害していないか。

    • ロ.利用者被害の程度

      広範囲にわたって多数の利用者が被害を受けたかどうか。個々の利用者が受けた被害がどの程度深刻か。

    • ハ.行為自体の悪質性

      例えば、利用者から多数の苦情を受けているのにもかかわらず、引き続き同様の商品を販売し続けるなど、銀行の行為が悪質であったか。

    • ニ.行為が行われた期間や反復性

      当該行為が長期間にわたって行われたのか、短期間のものだったのか。反復・継続して行われたものか、一回限りのものか。また、過去に同様の行為が行われたことがあるか。

    • ホ.故意性の有無

      当該行為が違法・不適切であることを認識しつつ故意に行われたのか、過失によるものか。

    • ヘ.組織性の有無

      当該行為が現場の営業担当者個人の判断で行われたものか、あるいは管理者も関わっていたのか。更に経営陣の関与があったのか。

    • ト.隠蔽の有無

      問題を認識した後に隠蔽行為はなかったか。隠蔽がある場合には、それが組織的なものであったか。

    • チ.反社会的勢力との関与の有無

      反社会的勢力との関与はなかったか。関与がある場合には、どの程度か。

  • マル2当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性

    • イ.代表取締役や取締役会の法令等遵守に関する認識や取組みは十分か。

    • ロ.内部監査部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。

    • ハ.コンプライアンス部門やリスク管理部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。

    • ニ.業務担当者の法令等遵守に関する認識は十分か、また、社内教育が十分になされているか。

  • マル3軽減事由

    以上の他に、行政による対応に先行して、銀行自身が自主的に利用者保護のために所要の対応に取り組んでいる、といった軽減事由があるか。

  • (7)標準処理期間

    上記(3)から(6)の行政処分をしようとする場合には、上記(1)の報告書又は不祥事件等届出書(法第24条に基づく報告徴求を行った場合は、当該報告書)を受理したときから、原則として概ね1か月(処分が財務局を経由して金融庁において行われる場合又は処分が財務局において行われるが金融庁との調整を要する場合又は処分が他省庁との共管法令に基づく場合は概ね2か月)以内を目途に行うものとする。

    • (注1)「報告書を受理したとき」の判断においては、以下の点に留意する。

      • マル1複数回にわたって法第24条に基づき報告を求める場合(直近の報告書を受理したときから上記の期間内に報告を求める場合に限る。)には、最後の報告書を受理したときを指すものとする。

      • マル2提出された報告書に関し、資料の訂正、追加提出等(軽微なものは除く。)を求める場合には、当該資料の訂正、追加提出等が行われたときを指すものとする。

    • (注2)弁明・聴聞等に要する期間は、標準処理期間には含まれない。

    • (注3)標準処理期間は、処分を検討する基礎となる情報毎に適用する。

III -6-1-2 法第26条に基づく業務改善命令の履行状況の報告義務の解除

法第26条に基づき業務改善命令を発出する場合には、当該命令に基づく銀行の業務改善に向けた取組みをフォローアップし、その改善努力を促すため、原則として、当該銀行の提出する業務改善計画の履行状況の報告を求めることとなっているが、以下の点に留意するものとする。

  • (1)法第26条に基づき業務改善命令を発出している銀行に対して、当該銀行の提出した業務改善計画の履行状況について、期限を定めて報告を求めている場合には、期限の到来により、当該銀行の報告義務は解除される。

  • (2)法第26条に基づき業務改善命令を発出している銀行に対して、当該銀行の提出した業務改善計画の履行状況について、期限を定めることなく継続的に報告を求めている場合には、業務改善命令を発出する要因となった問題に関して、業務改善計画に沿って十分な改善措置が講じられたと認められるときには、当該計画の履行状況の報告義務を解除するものとする。その際、当該報告や検査結果等により把握した改善への取組み状況に基づき、解除の是非を判断するものとする。

III -6-2 行政手続法との関係等

  • (1)行政手続法との関係

    行政手続法第13条第1項第1号に該当する不利益処分をしようとする場合には聴聞を行い、同項第2号に該当する不利益処分をしようとする場合には弁明の機会を付与しなければならないことに留意する。

    いずれの場合においても、不利益処分をする場合には同法第14条に基づき、処分の理由を示さなければならないこと(不利益処分を書面でするときは、処分の理由も書面により示さなければならないこと)に留意する。

    また、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には同法第8条に基づき、処分の理由を示さなければならないこと(許認可等を拒否する処分を書面でするときは、処分の理由も書面により示さなければならないこと)に留意する。

    その際、単に根拠規定を示すだけではなく、いかなる事実関係に基づき、いかなる法令・基準を適用して処分がなされたかを明らかにすること等が求められることに留意する。

  • (2)行政不服審査法との関係

    不服申立てをすることができる処分をする場合には、行政不服審査法第82条に基づき、不服申立てをすることができる旨等を書面で教示しなければならないことに留意する。

  • (3)行政事件訴訟法との関係

    取消訴訟を提起することができる処分をする場合には、行政事件訴訟法第46条に基づき、取消訴訟の提起に関する事項を書面で教示しなければならないことに留意する。

III -6-3 意見交換制度

  • (1)意義

    不利益処分が行われる場合、行政手続法に基づく聴聞又は弁明の機会の付与の手続とは別に、銀行からの求めに応じ、監督当局と銀行との間で、複数のレベルにおける意見交換を行うことで、行おうとする処分の原因となる事実及びその重大性等についての認識の共有を図ることが有益である。

  • (2)監督手法・対応

    法第24条に基づく報告徴求に係るヒアリング等の過程において、自行に対して不利益処分が行われる可能性が高いと認識した銀行から、監督当局の幹部(注1)と当該銀行の幹部との間の意見交換の機会の設定を求められた場合(注2)であって、監督当局が当該銀行に対して聴聞又は弁明の機会の付与を伴う不利益処分を行おうとするときは、緊急に処分をする必要がある場合を除き、聴聞の通知又は弁明の機会の付与の通知を行う前に、行おうとする不利益処分の原因となる事実及びその重大性等についての意見交換の機会を設けることとする。

    • (注1) 監督当局の幹部:金融庁・財務局等の担当課室長以上

    • (注2) 銀行からの意見交換の機会の設定の求めは、監督当局が、当該不利益処分の原因となる事実についての法第24条に基づく報告書等を受理したときから、聴聞の通知又は弁明の機会の付与の通知を行うまでの間になされるものに限る。

III -6-4 金融庁等との連携及び関係当局等への連絡

上記 III -6-1-1(1)から(6)の不利益処分等をしようとする場合には、財務局金融監督担当課は監督局担当課との十分な連携によりこれらの事務を行うものとする。

また、必要に応じて、財務局間において密接な連携に努め、さらに、必要に応じて、関係当局等への連絡を行うものとする。

III -6-5 不利益処分の公表に関する考え方

  • (1)上記 III -6-1-1(4)から(6)の不利益処分のうち、業務停止・免許の取消しを命じたときは、法第56条第1項第1号又は第2号に基づき、官報に告示しなければならないことに留意する。

  • (2)上記(1)以外の公表の取扱いについては、「金融監督の原則と監督部局職員の心得(行動規範)」の「 I -5.透明性」に規定された考え方によることに留意する。

  • (3)上記 III -6-1-1(3)から(6)の不利益処分については、他の金融機関等における予測可能性を高め、同様の事案の発生を抑制する観点から、財務の健全性に関する不利益処分等、公表により対象銀行等の経営改善に支障が生ずるおそれのあるものを除き、処分の原因となった事実及び処分の内容等を公表することとする。

サイトマップ

ページの先頭に戻る