I . 基本的考え方

I -1 貸金業者の検査・監督に関する基本的考え方

  • (1) 貸金業は、消費者及び事業者の多様な資金需要に利便性の高い融資商品の提供や迅速な審査等をもって対応することにより、その円滑な資金調達に寄与しており、我が国の金融システムにおいて、預金という原資の性格上、リスクの高い融資には慎重に対処せざるをえない預金取扱金融機関の融資を補完する重要な役割を果たしている。

  • 他方、貸金業の利用については、その対価として高い金利が求められ、返済可能性を十分に考慮しない安易な借入れが多重債務化につながりやすいとの指摘がある。また、貸金業者のビジネスモデルについても、適切な規制や検査・監督を欠く場合には、このようなリスクを利用者に理解させ債務者の破綻を未然に防止する取組みが不十分なまま、過度な貸付けや債権回収が行われるおそれがあると指摘されている。

  • 貸金業法(昭和58年法律第32号。以下「法」という。)は、このような指摘を踏まえ、多重債務問題の解決と貸金業の健全化に資する措置を包括的に規定したものであり、当局としては、法に基づき、貸金業者の登録制度、業務規制、自主規制機関である貸金業協会(以下「協会」という。)の認可等を的確に実施し、貸金業者の業務の適正な運営の確保及び資金需要者等の利益の保護を図るとともに、健全な競争により市場メカニズムが十分に機能する貸金市場が構築されるよう促し、もって国民経済の適切な運営に資することを検査・監督の目的とする。

  • (2) 貸金業の検査・監督に当たっては、貸金業の実態と法に定められた検査・監督の枠組みを十分に踏まえ、関係機関との連携を図る必要がある。

  • 第一に、貸金業者の監督当局は、その営業所又は事務所(以下「営業所等」という。)の所在範囲によって、国(財務局(福岡財務支局及び沖縄総合事務局を含む。以下同じ。))又は都道府県となる一方、資金需要者等はそのような区分にかかわらず全国に拡散し、複数業者を同時に利用することもありうることから、貸金業の効果的な検査・監督のためには、資金需要者等から申し立てられた苦情を関連する監督当局に適切に回付する等、国(財務局)及び都道府県が連携して、検査・監督情報の共有と集約に努める必要がある。

  • 第二に、無登録業者による違法営業は、消費者に多大な被害を及ぼすおそれがあり、登録制度の根幹にも触れる犯罪行為であって、監督当局としても、その跋扈を看過することはできない。また、悪質業者について登録排除の徹底を図ることも重要である。このため、監督当局は、無登録業者はもとより、悪質登録業者についても、警察当局と適切に連携・協力して、徹底排除に努める必要がある。

  • 第三に、法は、業務の健全性を担保するため、業務改善命令等の規定を導入し検査・監督権限を強化するとともに、自主規制機関としての協会制度を設けた。貸金業者の検査・監督に当たっては、貸金業者の法令等遵守態勢や経営管理態勢等を的確に把握し、自主規制機関である協会との連携及び役割分担の下で、その適切な業務運営の確保に努める必要がある。また、協会に加入していない貸金業者(以下「非協会員」という。)については、加入を促すとともに、報告命令や検査権限の活用によりその業務実態の把握に特段の注意をもって臨み、協会の自主規制規則(協会の定款、業務規程、その他の規則をいう。以下同じ。)に則った社内規則等(協会の定款、業務規程、その他の規則を考慮し、当該貸金業者又はその役員若しくは使用人が遵守すべき規則をいう。以下同じ。)の作成・変更命令をはじめとする検査・監督上の措置を十分に活用して、業務の適正性の確保に努める必要がある。

  • (3) 行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本である。しかしながら、ルールを明確化しようとするばかり過度に詳細なチェックリスト等を策定し、問題の根本原因やこれが広がりをもって他の問題として生じる可能性を踏まえた実質的な検証等を行うことなく、網羅的な検証項目に基づいた事後的かつ一律の検証を機械的に反復・継続するに止まれば、かえって、貸金業者において、経営全体や問題の根本原因を踏まえた真に重要な課題の把握、再発防止に向けた根本原因の解決、将来に向けた早め早めの対応、より良い実務に向けた創意工夫の発揮が進まない等の弊害を惹起しかねない。

  • 監督当局としては、各貸金業者の規模・特性やコンプライアンス等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて検査・監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ貸金業者によるより良い実務に向けた様々な取組みを促していく。

(参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)

  • (4) 貸金業者の検査・監督に携わる職員は、(1)から(3)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

    • マル1 国民からの負託と職務倫理の保持
       自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たってはⅠ-1(1)における貸金業者の検査・監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

    • マル2 綱紀・品位、秘密の保持
       金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

    • マル3 大局的かつ中長期的な視点
       金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

    • マル4 公正性・公平性
       法令等に基づく適正な手続きに則り、各貸金業者の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行する。

    • マル5 貸金業者の自主的努力の尊重
       貸金業者の検査・監督の目的を達成するためには、貸金業者による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、私企業である貸金業者の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

    • マル6 自己研鑽
       貸金業に関する諸規制や貸金業者の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各貸金業者固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

    • マル7 適切かつ密接な組織内外の関係者との連携
       実効性の高い検査・監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、庁内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I -2 監督指針策定の趣旨

我が国の貸金業は、その主たる顧客を消費者とするか事業者とするか、また、どの程度のリスクの資金需要者等を主たる顧客とするか、さらにクレジットカードやリース等の兼業を行うか否か、他業者との提携において貸金業を営むか否か等に応じ、種々の業態に分かれて発展してきた。また、同一業態内においても、その規模の違いによって機械化、システム化の度合いや、コスト構造、資金調達状況等も大きく異なっている。しかし、こうした業態等の違いを超えて、貸金業者が適正なリスクマネーの供給者として我が国経済社会の健全な発展に寄与するためには、多様な資金需要に応える利便性向上を追求するのみならず、利用者の安心と信頼を確保する取組みを強化することが不可欠である。

平成18年12月20日に公布された貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律(平成18年法律第115号。以下「改正貸金業法」という。)は、貸金業の規制等に関する法律を抜本的に改正し、多重債務問題の解決と貸金業の健全化に資する措置を包括的に規定したものであるが、金融行政は、ルールに基づく事後チェック型行政を行い、貸金業者に上記の観点からの自助努力を促すという基本に変わりはない。

ただし、改正貸金業法では、個々の行為規制が強化されたのみならず「業務の適切な運営を確保するための措置」(法第12条の2)が義務づけられ、業務改善命令(法第24条の6の3)が規定されるなど、検査・監督行政に当たっては、資金需要者等の利益の保護及び業務の適正な運営を図るために十分な態勢の確保を貸金業者に求めることとしている。また、改正貸金業法の規定が全て施行されたこと(以下「完全施行」という。)をもって総量規制及び上限金利引下げが施行されたが、その円滑な実施も含め、適正な検査・監督に引き続き努める必要がある。

このような状況の下、本監督指針は、貸金業者の検査・監督行政はどのような視点に立って行うべきか、各種規制の基本的考え方、検査・監督上の着眼点と留意すべき事項、具体的な検査・監督手法について、従来の事務ガイドラインの内容も踏まえ、体系的に整備するとともに、特に、貸金業者の経営状況や法令等遵守態勢を把握することが、事後チェック型行政を適切に行うための前提となるため、これらについて着眼点を整理することとした。なお、協会の策定する自主規制規則については、基本的には、非協会員にも同水準の社内規則等の整備を求めることとなるが、貸金業者の業態や規模の多様性にかんがみ、必ずしも全ての項目において協会の自主規制規則と一致した内容とすることができない可能性もあることから、本監督指針では、監督当局が各分野について社内規則等や内部管理態勢の整備を求める場合の留意点を記載することとした。

なお、本監督指針に記載されている検査・監督上の評価項目については、貸金業者の業態等の多様性にかんがみれば、必ずしも、その全てが各々の貸金業者に適用しえない可能性もあり、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。一方、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、貸金業者の業務の適切性等の確保の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

財務局は本監督指針に基づき管轄貸金業者の検査・監督行政を実施するものとする。また、都道府県における検査・監督行政に当たっても、本監督指針が参考とされることが期待される。なお、管轄貸金業者の検査・監督行政においては本監督指針のほか、事務ガイドライン((第三分冊:金融会社関係)のうち、「3-2-11日賦貸金業者の監督」)に留意するものとする。

サイトマップ

ページの先頭に戻る