I  基本的考え方

I -1 認可特定保険業者の検査・監督に関する基本的考え方

  • (1)平成17年の保険業法(平成7年法律第105号)の改正(保険業法等の一部を改正する法律(平成17年法律第38号。以下、「改正法」という。))においては、保険契約者、被保険者、保険金受取人その他の関係者(以下、「保険契約者等」という。)の保護を図る観点から、特定の者を相手方として保険の引受けを行う事業についても、原則として保険業法の規制を適用する等の措置を講じるとともに、改正法の施行の際現に当該事業(特定保険業)を行っていた公益法人等については、経過措置として、一定の条件のもと特定保険業を継続して行うことを認めることとした。

    他方、上記の保険業法改正前から特定保険業を行ってきた団体の中には、改正後の保険業法の規制に適合することが直ちには容易でない者も存在している。また、公益法人については、公益法人制度改革により、平成25年11月までに新法人に移行することとなっており、新法人への移行後は、そのままの形態では、特定保険業を継続することができない状況にある。

    このような状況を踏まえ、改正法の附則を改正(「保険業法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(平成22年法律第51号。以下、「平成22年改正法」という。))することにより、改正法の公布の際現に特定保険業を行っていた者(以下、「旧特定保険業者」という。)のうち、一定の要件に該当する者については、当分の間、行政庁の認可を受けて、特定保険業を行うことを可能とするとともに、保険契約者等の保護の観点から、行政庁の認可を受けて特定保険業を行う認可特定保険業者に対する必要な規制を整備することとしたものである。

    本監督指針では、業務の適切性及び財務の健全性を確保するため、認可特定保険業者に対して監督を行っていく際の着眼点等を記載することとした。

  • (2)認可特定保険業者の検査・監督の目的は、認可特定保険業者が行う特定保険業の公共性にかんがみ、認可特定保険業者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することにある(保険業法第1条参照)。

  • (3)金融庁としては、発足当初より、明確なルールに基づく透明かつ公正な行政を確立することを基本としている。

    このため、監督をはじめ検査・監視を含む各分野において、行政の効率性・実効性の向上を図り、更なるルールの明確化や行政手続き面での整備等を行うこととしている。

    また、認可特定保険業者の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規正を促し、保険契約者等の自己責任原則の確立を図るため、認可特定保険業者のディスクロージャーの充実を継続的に推進することも重要である。

  • (4)行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本であることから、金融庁及び財務局(福岡財務支局及び沖縄総合事務局を含む。以下同じ。)としては、認可特定保険業者の規模や業務特性に応じて「保険会社向けの総合的な監督指針(以下、「総合指針」という。)Ⅰ-1-1保険検査・監督に関する基本的考え方」に準じた取扱いをすることにより、各業者の規模・特性や財務の健全性・コンプライアンス等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ認可特定保険業者によるより良い実務に向けた様々な取組みを促していく。

    (参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)

    (5)認可特定保険業者の検査・監督に携わる職員は、(1)から(4)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

    • マル1国民からの負託と職務倫理の保持

      自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、Ⅰ-1(2)における認可特定保険業者の検査・監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

    • マル2綱紀・品位、秘密の保持

      金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

    • マル3大局的かつ中長期的な視点

      金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

    • マル4公正性・公平性

      法令等に基づく適正な手続きに則り、各業者の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行し、認可特定保険業者間で、法令等に基づく合理的な理由なく、異なる取扱いを行わない。

    • マル5認可特定保険業者の自主的努力の尊重

      認可特定保険業者の検査・監督の目的を達成するためには、認可特定保険業者による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、私企業である認可特定保険業者の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

    • マル6自己研鑽

      諸外国を含む保険に関する諸規制や認可特定保険業者の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各業者固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

    • マル7適切かつ密接な組織内外の関係者との連携

      実効性の高い検査・監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、金融庁及び財務局内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I -2 監督指針策定の趣旨

  • (1)平成22年改正法は、改正法の公布の際現に特定保険業を行っていた者のうち、一定の要件に該当する者については、行政庁の認可を受けて、特定保険業を行うことを可能とするものである。

    認可特定保険業者が行うことができる特定保険業は、保険会社等が行う保険業とは異なり、原則として改正法の公布の際現に行っていたものと同一のものでなければならないとしており、また、認可特定保険業者が特定保険業を行うことができる期間は、当分の間としている。

    このような点を踏まえ、平成22年改正法において、認可特定保険業者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保するための規制が定められ、本監督指針においては、日常の監督事務を通じて認可特定保険業者の経営状況や内部管理の状況等を把握することを目的とし、認可特定保険業者の監督行政はどのような視点に立って行うべきか、各種規制の基本的考え方、監督上の着眼点と留意すべき事項、具体的な監督手法について体系的に整備した。

  • (2)これまで金融行政は、ルールに基づく事後チェック型行政を徹底してきており、保険契約者の自己選択と保険契約者等保護を根底に置いた保険会社等の自助努力を促進する行政を進めてきた。

    金融庁においては、環境変化や新たな課題の発生に機動的・予防的に対応していく観点から、財務の健全性やコンプライアンス等に係る重大な問題発生の蓋然性等の将来を見据えた分析に基づく早め早めの対応を行うため、検査・監督のあり方について様々な見直しを行っている。

    平成30年6月に、金融行政の基本的な考え方や検査・監督の進め方、当局の態勢整備について整理し「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本指針)」を策定し、ここにおいて、保険会社のチェックリストによる形式的確認を改め、創意工夫を進めやすくする観点から、検査マニュアルは廃止することとしている。

    また、同年7月には、保険会社等の継続的なモニタリング等を効果的・効率的に行うための組織再編を行い、これまで立入検査を検査局、各種ヒアリング等を監督局が担当していた組織体制を変更し、オン・オフのモニタリングの一体化を進めている。

    こうした見直しの一環として、令和元年12月に、保険検査マニュアルの廃止と併せて、本監督指針についても、上記の見直しを踏まえた必要な改正等を行っている。具体的には、実態把握や対話等を通じたオン・オフ一体のモニタリングのあり方や監督指針の位置付け等を改めて整理、過度に細かく特定の方法が記載されている規定について修正等を行った。

  • (3)「総合指針」は基本的に保険会社を対象とするものであるが、認可特定保険業者の規模や業務特性に応じて、適宜同監督指針を参照し、これに準じることとする。

    本監督指針に記載がない項目であっても、認可特定保険業者は保険会社と同様、法が適用されることから、「総合指針」の項目を参照しつつ対応することが求められる。

    本監督指針は、取扱保険商品や会社の規模等が区々である認可特定保険業者に対して検査・監督上の評価項目の全てを一律に求めているものではなく、特に体制面の着眼点において総合指針を準用している場合、事業者の事情に併せて、小規模な事業者である場合は、必ずしも独立した部署の設立を求めるものではないよう実情に応じて判断することとする。

    したがって、本監督指針の適用にあたっては、各評価項目の字義通りの対応が行われていない場合であっても、認可特定保険業者としての対応が業務の適切性及び財務の健全性等の確保の観点から問題のない限り、不適切とするものではないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。

    一方、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、認可特定保険業者の業務の適切性又は財務の健全性等の確保の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

I -3 認可特定保険業者向け監督指針の位置付け

  • (1)本監督指針は、認可特定保険業者の検査・監督を担う職員向けの手引書として、検査・監督に関する基本的考え方、事務処理上の留意点、具体的な監督手法、監督上の評価項目等を体系的に整理したものである。

  • (2)金融庁は、検査・監督に関する方針として、本監督指針のほかに、分野別の「考え方と進め方」や各種原則(プリンシプル)、年度単位の方針、業界団体等への要請等の様々な文書を示しているが、検査・監督を行うに当たっては、各文書の趣旨・目的を踏まえた用い方をするとともに、認可特定保険業者に対し当該趣旨を丁寧に説明することとする。

  • (3)財務局は、本監督指針に基づき管轄認可特定保険業者の検査・監督事務を実施するものとし、金融庁にあっても同様の取扱いとする。その際、本監督指針が、認可特定保険業者の自主的な努力を尊重しつつ、その業務の健全かつ適切な運営を確保することを目的とするものであることにかんがみ、本監督指針の運用に当たっては、各業者の個別の状況等を十分踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。

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