貸出条件緩和債権関係Q&A

○各論

【基準金利】

  • (問1) 「信用リスクに基づく適切かつ精緻な区分を設け、その区分に応じた新規貸出約定平均金利を基準金利とすること。」とはどういう意味か。

(答)

  • 1. 基準金利とは、「当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利」であるため、基準金利を設定する際には、「同等な信用リスクを有している債務者」をグループ化する必要がある。

  • 2. 具体的には、貸出条件緩和債権の判定の対象となる要注意先の債務者について、信用リスクを適切に反映した複数の区分を設け、それぞれの区分に応じた新規貸出約定金利注を貸出金額で加重平均するという算出方法により、基準金利を設定することとする。

    • (注1) 貸出形態等にかかわらず、債務者の信用リスクに応じた区分を行っている場合で、かつ、区分に属する新規(過去1年以内に新規約定を締結した)貸出債権であればすべて平均金利に勘案することとするが、割引手形といった債務者の信用リスクに関連しない金利で実行されるものについては、平均金利に勘案しないことは認められる。

    • (注2) なお、区分における新規貸出約定金利のサンプルが少ない等により適切な平均金利の算出が困難な場合には、すべての区分の平均金利の算出において「新規貸出」と認める期間を過去2年間以上に延長する方法や、その区分に限り理論値を採用するといった方法により算出することを妨げないこととする。

  • 3. なお、単なる「要管理先」及び「その他要注意先」の区分は、信用リスクに基づく区分とは言えないことに留意が必要である。

    また、過去のデータ蓄積が不十分である等により信用リスクの精緻な計測を行うことができない場合には、要注意先全体を一つの「同等な信用リスクを有している債務者」のグループとみなし、基準金利を設定することも当面認められるが、データの蓄積等を行った上で、将来的には信用リスクに応じた適切かつ精緻な区分を設けることが望ましい。

  • (問2) 「基準金利は経済合理性に従って設定されるべきである」とあるが、その中で、基準金利を、理論値ではなく新規貸出約定平均金利としている主旨如何。

(答)

  • 1. 貸出条件緩和債権の判定基準は、マル1再建・支援目的で貸出条件の改定等が行われ、かつ、マル2信用リスク等注1に見合ったリターンが確保できていない場合であるかどうかである。

    • (注1) 監督指針の「開示区分」部分において、「信用リスク」とは債務者のデフォルトリスク(倒産確率)を意味し、「信用リスク等」という場合は、デフォルトリスクのみならず回収可能性等も勘案した貸出金にかかるリスクである。

  • 2. その判定に必要となる基準金利とは、信用リスク等に見合ったリターンが確保できているかどうかの判定に当たり、貸出条件緩和債権に対する適用金利と比較するためのものであり、定義上、「当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利」とされており、また、「経済合理性に従って注2設定されるべき」とされている。

    • (注2) なお、「経済合理性に従って」いるということの挙証責任は、経営情報を有する金融機関側にあるものと考えられる。

  • 3. ところが、基準金利が満たすべき「経済合理性」の解釈としては、かつて、「設定が恣意的でなく、信用リスクに見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できるもの」ということしか規定されていなかったため、独自に設定した方法に基づき算出した「理論値」を基準金利として用い、その金利が「通常適用される新規貸出実行金利」と大幅に乖離したものとなっているケースが一部にみられたところである。

  • 4. 当該規定の主旨は、基本的には、新規貸出約定平均金利が基準金利である旨をより明確化することで、このように一部にみられた実態と大幅に乖離した基準金利の設定方法を、より金融取引実態に即したものに修正することを促すことである。

  • (問3) 基準金利を新規貸出約定平均金利とすると、元本回収リスクをカバーできていない金利であっても、基準金利として認めることとなるのか。

(答)

  • 1. 当該規定の主旨は、かつて、基準金利としている金利が、場合によっては実態と大幅に乖離する場合があったことに鑑み、基本的には新規貸出約定平均金利が基準金利である旨を明確化することであって、貸出条件緩和債権の判定基準が、マル1再建・支援目的で貸出条件の改定等が行われ、かつ、マル2信用リスク等に見合ったリターンが確保できていない場合であるかどうかであることを否定するものではない。

  • 2. 従って、基本的には金融機関が適切にリスクを反映していると考えられる新規貸出約定平均金利を基準金利とすることとし、一方、新規貸出約定平均金利がある信用区分において、信用リスクのみならず回収可能性等も勘案した上での「信用リスク等」に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利(理論値)を著しく下回る場合には、当該方法により求めた金利(理論値)を基準金利とすることとしている。

  • 3. こうした新規貸出約定平均金利や理論値は区分ごとに定めるため、基準金利は区分における平均的な元本回収リスクを反映しているものである。個別債権の元本回収リスクと平均的な元本回収リスクの差異は、総合的な採算を算出する際に勘案されることとなる。

  • (問4) 「新規貸出約定平均金利が、その区分において、信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利を著しく下回る場合には、当該方法により求めた金利を基準金利とすること。」とあるが、

    • (1)「信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利」とは何か。

    • (2)「著しく下回る」とは、具体的に何%程度を想定しているのか。

(答)

  • (1)「信用リスク等」とは、信用リスク(倒産確率)だけでなく、回収可能性等も勘案した貸出金にかかるリスクである。従って、「信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利」とは、理論的には[(倒産確率×倒産時損失率)/(1-倒産確率×倒産時損失率)]に調達レートと経費率を加えたものであるが、各金融機関がそれぞれのデータ蓄積状況や、貸倒引当金の算出方法等に応じて、合理的に算出しているものであれば差し支えない。

    倒産確率(PD)や倒産時損失率(LGD)を用いる場合には、貸倒引当金の算出等にあたって合理的なPD及びLGDを用いているのであれば、その算出にあたっての考え方と整合的であることが望ましい。特に与信判断に用いる金利の算出にあたって合理的なPDやLGDを用いている場合は、基準金利の算定にも同じものを利用することが求められる。

  • (2)(1)で求めた金利(理論値)と新規貸出約定平均金利との乖離については、金融機関ごとのビジネスモデルや債権のポートフォリオ等により異なるものであり、当局が機械的・画一的に(問題となる)乖離幅を定めることは適当でない。

  • (問5) 同一金融機関で、信用リスクに基づく区分ごとに基準金利の設定が「新規貸出約定平均金利」を使用したり、「他の方法」を使用したりすることは、許容されるのか。

(答)

  • 1. 基準金利の設定に際しては、信用リスクに基づく区分ごとに基準金利を算出する必要があるが、その場合、原則として同一の算出方法によることとする。従って、基本的には、すべての区分において新規貸出約定平均金利を基準金利とするという、一貫した取扱いを行う必要がある。

  • 2. ただし、仮にそうして基準金利として設定した金利が、ある区分において信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利(理論値)を著しく下回る場合には、当該金利(理論値)を、当該区分における基準金利とする。

    • (注) 当該規定は区分ごとの基準金利の算出を求めるものであり、同一区分内で複数の基準金利の算出を前提としているものではない。

  • (問6) リスク管理債権は、金融機関の単体ベース及び連結ベースにて開示することが必要であるが、連結ベースで開示する場合には、連結ベースにて基準金利を設定する必要があるのか。また、総合的な採算を勘案するにあたっても金融機関側、債務者側ともに連結ベースで判断するのか。

(答)

  • 1. 基準金利は、当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利であり、新規貸出において通常適用している金利レートは個々の金融機関の状況に応じて区々である。 このため、連結ベースにてリスク管理債権を開示する場合であっても、基準金利の設定は個々の金融機関の状況に応じて、基本的にはそれぞれの金融機関ごとに行うことが適当である。

  • 2. 基準金利との比較を行う総合的な採算についても同様であり、金融機関側、債務者側ともに基本的には単体ベースにて判断することが適当である。

  • (問7) 金融機関によっては未だに信用格付けなどを行っておらず、「基準金利」を算出していないところも見受けられる。そのような場合には、債務者の実態により、貸出条件緩和債権か否かを判断することとなるのか。

(答)

  • 1. 貸出業務は、金融機関の本来業務のひとつである。従って、貸出金の金利水準は、小売業における販売価格と同様、極めて重要な要素である。

  • 2. 少なくとも債務者区分ごとの新規貸出約定平均金利の算出は可能であると考えられるし、また、金融検査マニュアルにあるような債務者区分ごとの予想損失率の算出が定着してきており、少なくとも債務者区分ごとに信用リスク等に見合ったリターンが確保されている旨を合理的・客観的に証明できる方法により求めた金利(理論値)を算出することも十分可能と考えられる。

  • 3. いずれにせよ、各金融機関においては、適切な方法で求めた理論値と新規貸出約定平均金利を比較した上で、著しい乖離の有無についての合理的な説明が可能な形で、区分ごとの基準金利を設定する必要がある。

  • (問8) 過去に条件緩和を行ったが、その時点での基準金利と照らし合わせ、基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていると認められ、貸出条件緩和債権にならなかった。その後、金融経済情勢等の変化等により基準金利が引き上げられ、基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていないと認められるに至った場合、その時点で当該債権は貸出条件緩和債権となるのか。

(答)

過去に条件緩和をした時点において、基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていると認められ、貸出条件緩和債権にならなかった債権について、その後の基準金利の変化のみをもって、(条件の変更がないまま、)貸出条件緩和債権に自動的に認定されることはない。

  • (問9) 基準金利は、「当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利」としているが、同等な信用リスクを有している債務者に対する貸出金について、担保・保証の差異や与信期間の差異等はどのように勘案されるのか。

(答)

  • 1. 基準金利は、同等な信用リスクを有する債務者のグループごとに決定されるものであり、基準金利を設定する段階では、個々の貸出金の担保・保証の差異等は勘案されない可能性がある。

  • 2. 担保・保証の差異等の個々の貸出金の属性は、債務者からの他の収入等も含め、基準金利ではなく「当該債務者に対する取引の総合的な採算」に勘案されることとなる。

    • (注) 「総合的な採算」への勘案について、具体的な担保物件の価値や保証者の信用力、活動中の先の信用リスク等、それに見合ったリターンの算定、判断の方法は、各金融機関において、業務の健全かつ適切な運営を確保するための基礎的な事項として、それぞれ開発・研鑚すべきものであるが、例えば以下のような方法が考えられる。

      • i)LGDを非保全率で代替している金融機関において、ある債権の保全率が基準金利に反映されている平均的な保全率を大幅に上回っているとすると、当該保全率の差(非保全率の差)に当該区分の倒産確率を掛けた値を、当該債権の貸出金利に上乗せして基準金利と比較するなどの方法により、「基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されているか否か」を判断することが考えられる。

      • ii)与信期間についても、その差を同様に平均PDや平均LGDとの差異として算出した上で、貸出金利に反映させるなどの方法により、「基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されているか否か」を判断することが考えられる。

【経営再建・支援目的】

  • (問10) 「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として」いるかどうかと、「債務者に有利となる取決め」を行っているかどうかは、貸出条件緩和債権の判定上どのような関係にあるのか。

(答)

  • 1. 「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として」いない場合には、たとえ「債務者に有利となる取決め」を行っている場合であっても、貸出条件緩和債権には該当しないこととなる。

  • 2. 従って、金利減免や元本返済猶予等の貸出条件の改定を実施し、当該債務者に対する総合的な採算を勘案しても基準金利と同等の利回りが確保されていない債権は、「債務者に有利となる取決め」が行われたと認められる債権であるが、その場合であっても、例えば当該条件変更が、(1)正常先の債務者に対して行われるもの、(2)他の金融機関との競争上の観点から決定されたもの、(3)当初約定時点から決められていたもの、(4)住宅ローン等の定型商品における軽微な条件変更など通常予定される貸出条件の範囲内でのものである場合等には、「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として」いないと認められ、貸出条件緩和債権には該当しないこととなる。

    また、正常な運転資金を短期貸出にて同一条件で反復継続している貸出金で実態的に経営再建又は支援を目的としていないことが合理的に説明可能な場合にも、当該貸出金は基準金利、総合採算の如何によらず貸出条件緩和債権に該当しないこととなる。

  • (問11) 他行よりの借換攻勢に対し、防衛目的での他行提示金利程度までの金利引下げは、「競争上の観点」からの改定として「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として」いないと認められるのか。

(答)

他の金融機関との競争上の観点から現状の金利を適用することが取引継続のため必要とされるような場合には、「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として」いないと認められる。ただし、その場合においても、中長期的には総合採算においてリスクに見合ったリターン(利回り)が確保される展望が必要である。

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