金融庁2014
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1つのイノべーションによりガラッと変わったのではなく、少しずつ進歩を重ねてきた結果、今がある。金融の法整備も似たようなもので、時代のニーズに即して小さな改革を積み重ねていくことが大切なんだと考えています。あえて今後の見通しに踏み込むなら、変化のスピードは速くなりこそすれ遅くはならないでしょうし、問題の複雑さ・不確実さは増大の一途をたどっていくのでしょう。そうなると、まずは情報を十分に集め、きちんと咀嚼して体系化された解決策を設計・構築していこうとしても、設計・構築中どころか、情報収集中にでも前提が変わってしまいます。まずはできることから一歩進め、そのフィードバックに基づき次の一歩を進める、このサイクルをなるべく迅速・円滑に回していく、そんな組織文化がますます重要になっていくのだと思います。齊藤 海外の先例に学ぶことが中心だった従来の行政では、議論を尽くしてリスクの芽をすべて摘み取りながら匍匐前進していました。つまり、ディフェンス重視ですね。これからは、金融の円滑化や金融仲介業の発展を主眼に置き、「何をすべきか」を自分たちで考え出していくことが求められる̶オフェンス重視の時代なのだと思います。ひと昔前は、世界の主要な金融市場としてヨーロッパならロンドン、アメリカならニューヨーク。それに続けとアジアでは東京が頭ひとつ抜き出た存在でした。しかしアジアでは、失われた20年の間に香港やシンガポールが台頭してきて、東京はアジアのタイムゾーンにおいてもローカルな存在になりつつある。投資は少しでも効率的で魅力的な市場に流れていきますから。海外に対する東京の競争力を再び高めていくためには、知恵を集結してアイディアの種を得ることが重要だと考えます。そして、アイディアは民間事業者側が持っているものです。それをスピード感をもってサポートし、発展させるのが役所の使命だと思いますね。若原 金融行政のグローバル化がいわれていますが、決して最近の課題とは思いません。金融は今も昔もグローバルでした。昔からずっと、ヒトやモノに比べはるかにたやすく、カネは国境を越えてきたのですから。齊藤 リスクヘッジなどのために、金融機関などが国際的にデリバティブのような金融取引を盛んに行っており、従来にない傾向が出てきていると思います。それにともなって、各国で独自に行っていた金融機関に対する規制・監督について、統一的な国際原則を確立していく必要が出てきました。このためのさまざまな調整を各国当局間で行う必要性が従来よりも強まっていると感じます。̶̶最後に、2人が考えるこれからの金融庁にとって、求められる人材像を聞いてみた。若原 金融に限らず、どのようなジャンルでも、高度化・複雑化が進んでいます。ならば高い専門性が必要だ、となりがちですが、そういう時代だからこそ、行政官としてはいざという時にあえて高い専門性を捨てる勇気が求められると思うんです。普通のビジネスは合意に基づき物事が進んでいきますが、裏を返せば、納得できないことには合意しない自由があり、合意しなければ何も縛られることはありません。しかし、国の政策にはそのような自由はなく、法律ができてしまえば、納得できない人々にも効力は強制的に及んでしまいます。納得できないことに無理矢理従わせられることほどの不満の種はないので、行政がサステナブルであるためには、そうした納得できなさを少しずつでも減らし続けていかなきゃいけない。時代の最先端は定義上ごく少数の人にしか理解されないものなので、多くの人の納得を得られるものというのは、最先端からは多かれ少なかれ遅れたものでしかあり得ませんが、高い専門性が導きだす「正しさ」と多くの人々の「納得」が対立した際、まずは「正しさ」ではなく「納得」にシンパシーを覚えられるかどうか。他者に何かを納得してもらえることが如何に難しくてありがたいことかを知っている人にこそ、金融庁で働いて欲しいですね。齊藤 多くの職員が指摘していると思いますが、金融庁の仕事は実に多彩です。金融のあらゆる分野の専門性を持つ人材が豊富であることはもちろんですが、その他にも法令作成に秀でた人、法執行のバランス感覚に長けた人、優れたアナウンス能力を携えた人など、さまざまな次元で専門性をもった人が協力し合って成り立っているんですね。この点を踏まえると、人材として「かくあるべし」という枠組みはないと思います。多種多様なステージのなかから、高めていきたい方向性を自分自身で見つけ出し、邁進していけるようなチャレンジ精神がある方にとっては、とてもやりがいに満ちた職場だと思いますよ。 金融庁。若原幸雄総務企画局企画課保険企画室長1994年大蔵省入省。銀行局総務課や金融会社室で、公的資金注入など銀行の不良債権問題の対応等を担当。金融(監督)庁発足後は、監督局総務課金融危機対応室、総務企画局市場課等の課長補佐を経て、現在、総務企画局企画課保険企画室長。齊藤将彦総務企画局市場課課長補佐(総括)2000年金融(監督)庁入庁。総務企画局企画課等で、急落した株価の対策や金融機関の破綻処理のスキーム構築等を担当。その後、2005年より2年間、地域金融機関等の監督担当者として近畿財務局に出向。現在、総務企画局市場課課長補佐(総括)。23

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