II 会計士監査の一層の充実のために会計士に求められる諸施策

                                                                        

1.投資家と発行体を正しく結ぶための会計士の積極的関与                  

                                                                        

        市場機能の有効な発揮のためには、会計士監査の一層の充実により適正

      なディスクロージャーが担保される必要があるが、会計士監査を巡る環境

      変化の中で、特に近時の金融機関や住専の破綻等を直接の契機として、会

      計士監査の有効性に疑問の声が寄せられ、合わせて、発行体自身の内部統

      制の有効性等についても問題が指摘されている。                      

        投資家を重視した企業のコーポレートガバナンスの充実とディスクロー  

      ジャー・IR活動の推進、ひいては証券市場の活性化に向けて、会計士監

      査は、監査役監査・内部監査との相互補完の下、内部統制の評価等を通じ

      て虚偽記載防止の実効性をあげるとともに、多様化するニーズに積極的に

      対応する必要がある。                                            

                                                                        

   (1)  高度化する監査上のニーズに対する積極的対応                    

        企業の不正や違法行為は、企業の内部統制の有効性と密接に関係する場

      合が多く、将来及び現在の会計情報に重要な影響を及ぼす可能性を有する

      ため、会計士監査が、適正なディスクロージャーの確保を通じコーポレー

      トガバナンスの充実に貢献することが期待されている。平成3年の監査基

      準等の改訂以降、我が国の監査実務においても、虚偽記載を防止する観点

      から監査上の危険性等を考慮する「リスク・アプローチ」等を通じた積極

      的な努力が求められている。今後とも、高度化した企業活動に対し不正経

      理の抑止に貢献するべく積極的対応が望まれる。監査に際し職業専門家と

      しての正当な懐疑心を発揮するのみならず、例えば、事前の調査や内部統

      制の評価により発行体に意図的な虚偽記載等のおそれが強い場合などには、

      特別の監査体制をとるなどの対応が図られる必要がある。              

                                                                      

   (2)  監査役監査・内部監査との相互補完                              

        監査役監査・内部監査・会計士監査は、企業のコーポレートガバナンス

      の充実を進めるうえで、相互補完的に位置づけられるものであり、双方向

      的な情報交換が進められる必要がある。                              

        このため、相互連携のためのガイドラインの整備、経営側に対する監査

      意見表明等のための監査役との協議の場の充実などが検討されるべきであ

      る。これらを通じ、会計士監査の効率性の向上という視点についても実際

      の運用に際し留意されるべきである。                              

                                                                        

   (3)  監査を義務づけられていない企業の内部統制整備等への貢献        

        我が国において未登録・未上場企業が多数存在するが、我が国経済の成

      長力を高めていく上においては、このようなベンチャー企業が、将来、証

      券市場において資金調達を円滑に進めることができるよう、また、内部統

      制整備等を通じた企業経営の適正化を進めうるよう、会計士が任意監査及

      びコンサルタント業務によって、より積極的に機能を発揮することが求め

      られる。                                                        

                                                                        

2.経済・金融のグローバリゼーションに相応しい監査の遂行              

                                                                        

        企業の経済・金融活動が多角化・国際化する状況下において、証券市場

      がその機能を発揮するためには、企業会計・ディスクロージャー制度がこ

      れに対応し企業のリスクとリターンを明示する透明性のあるものとして整

      備され、内外の投資家・市場関係者からの信認が確保されていなければな

      らない。会計基準等の整備は急務であるが、これが国際的に遜色ないもの

      として整備されたとしても、監査手法、実務体制及び監査報告がこれに対

      応したものでなければ、最終的に、投資家に提供される投資情報が適正な

      ものとはなり得ない。                                              

        21世紀に向けた企業会計・ディスクロージャー制度の整備は、国際的に、

      国際会計基準の整備と国際監査基準の整備が一体として検討が行われてい

      るように、企業会計・開示・監査を一体とし国際的に遜色なく行われる必

      要がある。                                                      

                                                                        

   (4)  監査の品質管理基準(クオリティコントロール)の整備と実務への反映

                                                                      

        国際監査基準においては、会計士・監査法人の監査の品質を一定レベル

      に高めるための指針が整備されており、これに基づく監査の遂行が必要と

      されている。品質管理基準とは、どのような教育・経験を有する会計士に

      より、どのような監査が、どのような体制により行われ、その内部審査と

      会計士の人的管理をどうすべきかを具体的に規律し、会計士監査の適正性

      ・自律性を高めることを目的とするものである。会計士協会は、今後、国

      際監査基準を念頭に置き、「品質管理基準」等の作成を予定しており、そ

      の内容が職業倫理面を含めて継続的専門教育制度と一体的に整備されると

      ともに、被監査企業に対する独立性の観点から監査法人の関与社員等の交

      替制を導入することが求められる。                                

                                                                        

   (5)  監査実務指針の体系的整備                                      

        諸外国においても、監査基準の内容は重要性・規範性が高いものに限定

      され、具体的な監査実務指針は会計士により体系的に整備されており、新

      たな課題に対応して新設・改定が進められている。                    

        我が国においても、平成3年の監査基準の改訂時において、こうした方

      針が採択され、会計士協会において実務指針の整備が求められてきたとこ

      ろであり、先般、「不正及び誤謬」「違法行為」に関する報告も明らかに

      された。会計士協会において、今後のスケジュールを明らかにしたうえで

      早急な体系的整備が必要である。                                    

        また、銀行等監査特別委員会においても、先般、早期是正措置研究会中

      間報告を踏まえた「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検

      証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」が明らかにさ

      れ、近々、当面必要とされる5つの実務指針が整備される見通しであるが、

      引き続き、これらの実務指針に基づき、金融機関の自己査定に対する監査

      体制等について、有識者からの提言等を踏まえて充実を図る必要がある。  

        なお、今後の実務指針の整備にあたっては、銀行等監査特別委員会にお

      いて、金融機関監査実務指針に関し、デリバティブや海外との資金取引の

      最新の金融実務知識等を十分に反映するため、関係業界・学界等の有識者

      からなる懇談会を組織し検討を進めたが、こうした環境変化を先取りする

      開かれた対応は、引き続き継続されるべきである。                    

                                                                      

   (6)  外部の専門家の活用                                            

        今後、会計士のみでは十分に検証しがたい専門領域に監査が及ぶことが

      予想される。監査において、年金数理人・コンピューターエンジニア・税

      務専門家等の活用を図るとともに、これら外部専門家の活用についての実

      務指針を整備する必要がある。                                    

                                                                        

   (7)  監査報告書の情報提供の拡充                                    

        国際監査基準等においては、監査報告書における情報提供を重視する観

      点から、我が国には見られない種々の内容の記載について対応が図られて

      いる。                                                            

        監査報告書における情報提供を考える際、単に提供される情報を量的に

      充実することが目的ではないことはいうまでもない。しかし、質的に充実

      した監査が実施されることによるディスクロージャーの適正性の担保を前

      提として、投資家の投資判断に際し実質的に有用と考えられる情報の提供

      について検討が必要である。                                          

        具体的には、発行体の存続に重要な影響を与える事象について国際的に

      標準的な枠組み(注)による投資家への情報提供を進めるとともに、二重

      責任の原則等監査責任の範囲についての明確化、監査手続に関する具体的

      な記載、内部統制状況等に対する評価等についても検討を進める必要があ

      る。                                                              

      (注)発行体が存続に重要な影響を与える事象とその対処方針を開示し、

          監査報告書では当該ディスクロージャーが開示書類に含まれているこ

          とを記載。                                                    

                                                                      

                                                                        

3.会計士監査に対する信頼を確保するための会計士協会の機能の発揮        

                                                                        

        会計士監査に基づきディスクロージャーの適正性が担保されることによ

      り、投資家に対する個々の会計士監査の責務が果たされるところであるが、

      投資家の会計士監査に対する全体としての信頼が低下し、投資情報への不

      信を生じることとなれば、市場機能は有効に発揮されないこととなる。  

        したがって、独立職業専門家の自主規制・監督を司る会計士協会におい

      て、監査の品質を適正に管理するための諸施策が進められ、自律性が十分

      に確保されていることについて、常時、対外的に広範な理解が得られてい

      る必要がある。                                                  

                                                                        

   (8)  監査法人・会計士の監査に対する事後的審査の実施                

        監査結果に対する事後的審査は、同じく職業専門家である同僚の監査法

      人・会計士によらなければ実質的に不可能であるため、会計士間による監

      査の審査を厳正に行うことにより、会計士界の自律性が十分確保されてい

      ることについての信認を高めていく必要がある。                      

        監査法人・会計事務所内部における監査(内部審査)については、既に

      相当程度整備されていると認められるが、審査会において、「更に内部審

      査状況の総点検を行い実効性を確保する必要がある」との指摘がある。    

        会計士協会からは、他の会計士による事後的審査(米国では「ピアレ    

      ビュー」として制度化)の実施を検討するとの見解が明らかにされており、

      その審査結果を指導監督等に活用するとともに、外部への公表もしくはモ

      ニタリングを進めることが求められる。なお、ピアレビューは、米国でも

      審査する側とされる側の軋轢を生じコストが膨大であることから、会計士

      協会による事後的審査の方法で同様の効果が期待できるのであれば、必ず

      しもピアレビューによる必要はないと考えられる。その場合においても、

      会計士協会による事後的審査の方法として、監査業務審査会もしくはこれ

      に替わる機関において、個別監査事案の適正性を検討し、改善施策等を報

      告するとともに、検討結果についてモニタリングを行うことが求められる。

                                                                      

   (9)  継続的専門教育制度の実施                                      

        職業専門家である会計士に対する社会的信頼を維持するうえで、資格取

      得後も社会経済環境の変化等に対応し継続的な専門教育を受け、その能力

      ・識見を維持向上させていることが重要であることは言うまでもない。こ

      うした観点から、既に諸外国においては、会計士の継続的専門教育制度が

      導入されている。会計士協会においても、単位制を念頭に置いた継続的専

      門研修制度の導入が検討されており、早急な実施が求められる。        

        教育内容としては、社会・経済環境の変化を踏まえた監査に必要な最新

      の実務知識(金融商品、債権評価、コンピューター監査技法等)・ケース

      ワークの他、職業倫理面に関する事項が重要である。会計士協会において

      は、エキスパート育成のための研修プログラムの検討とあわせて倫理規程

      の整備等に取り組むとの説明があった。                            

                                                                        

   (10)  会計士界の活動に対する開かれた議論の推進                      

        会計士界の自律性・指導性に対する信頼を維持するためには、(8)(9)の

      自発的施策等について、対外的PR・啓蒙活動を充実するとともに、その

      プロセスにおける開かれた議論を推進することが重要である。          

        会計士協会においては、ホームページの設置等による双方向的なPR活

      動を予定している他、監査基準委員会の報告書作成にあたっての監査問題

      協議会や銀行等監査特別委員会の有識者懇談会のように第三者とのディス

      カッションの場を設けているが、今後とも、こうした意見交換の場を設け

      ていくことが求められる。更に進めて、(8)で述べた監査の事後的審査結果

      等に関する外部への公表もしくはモニタリングの他、会計・監査実務指針

      の策定にあたり、議事録を公表したり、外部からのコメントを求める等、

      会計士界の活動に対する開かれた議論の推進が求められる。            

                                                                          


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