新 聞 発 表

 

平成11年7月2日

大  蔵  省

会計士監査の在り方についての主要な論点

 

1.  公認会計士審査会の「会計士監査に関するワーキンググループ」(座長・三原英孝元証券取引等監視委員会委員)は、4月23日の第1回会合以来、5回にわたって、各界の専門家から意見を聴取しながら、会計士監査の在り方について幅広い検討を進めてきました。
2.  同ワーキンググループでは、引き続き、公認会計士監査の充実に向けて、所要の検討を行うこととしていますが、今般、現時点における主要な論点を整理し、これを公表することといたしました。

 

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会計士監査の在り方についての主要な論点

 

一 はじめに
二 主要な論点とその考え方
  1.開示及び監査の内容の充実
  2.監査の体制及び手続きの充実
  3.監査法人制度の改善
  4.社会に対する説明
  5.公認会計士の質及び数の充実
  6.日本公認会計士協会の役割
三 今後の検討

 

 はじめに
 
 公認会計士及び監査法人は、その専門的能力及び実務経験に基づき、独立かつ公正不偏の立場から、職業専門家としての正当な注意を払いつつ、適切な監査手続きを実施していくことが求められている。
 近年、我が国企業の活動の複雑化や資本市場の国際的な一体化等を背景に、公認会計士監査による適正なディスクロージャーの確保とともに公認会計士監査に対する国際的な信頼の向上が、一層重要になってきている。
 また、公認会計士に対して、監査の結果を踏まえた企業経営に関する助言等も求められるようになっている。
 公認会計士審査会においては、平成9年4月に「会計士監査の充実に向けての提言」を取りまとめたが、提言から約2年が経過した。その間、金融システム改革が実施され、市場の機能の有効な発揮による証券市場の活性化のための環境が整備されたが、その基礎となるディスクロージャーの適正性を確保するためには、公認会計士監査を一層充実させ、厳格な監査を実施することが不可欠である。
 また、連結中心のディスクロージャー、退職給付会計、金融商品の時価評価等、国際的な会計基準との調和も踏まえつつ、会計基準の抜本的な改革が進められてきた。この改革により、従来の比較的形式を重視した基準から、より実質的な判断を求める基準に変更される。このことから、公認会計士監査においても、一層高度な判断が求められるようになっている。
 公認会計士監査を一層充実させ、市場機能を有効に発揮させるためには、公認会計士はもとより、企業、財務諸表の利用者、研究者、行政当局も含めた全ての関係者が一体となって、現行の公認会計士監査における様々な問題点を明らかにするとともに、欧米の公認会計士監査の状況も参考としながら、必要な対応を講じていくことが急務である。
 更に、最近、経営が破綻した企業の中には、直前の決算において公認会計士の適正意見が付されていたにもかかわらず、破綻後には大幅な債務超過となっているとされているものや、破綻に至るまで経営者が不正を行っていたとされているものもあることから、なぜ、公認会計士監査でこれらを把握することができなかったのか、公認会計士監査は果たして有効に機能していたのか等、厳しい指摘や批判もある。
 加えて、米国において公認会計士に対する訴訟が多数みられるという例を踏まえて、我が国においても、責任の範囲を明確にする等のため、監査の手続きや手法の見直しが必要になるとの見方もある。
 このため、公認会計士審査会委員や企業会計審議会委員を中心に、「会計士監査に関するワーキング・グループ」を設けることにより、所要の検討を行うこととなった。
 当ワーキング・グループは、4月23日の第1回会合以来、5回にわたって、各界の専門家から意見を聴取しながら、議論を重ねた。これを踏まえ、現時点において、主要な論点とその考え方について整理を行ったが、その内容は、以下のとおりである。
 

 

 主要な論点とその考え方

 
1.

開示及び監査の内容の充実
 
主要な論点

 開示及び監査の内容の充実のため、国際的に調和のとれた会計基準の整備が進められてきたが、開示及び監査の内容について、更に改善すべき点はないか

  (考え方)
    (1)  開示及び監査の内容の充実のためには、会計基準の整備が重要である。この点については、国際的に調和のとれた会計基準の整備が進められ、順次実施されているところであり、今後とも、経済の実態に即し、国際的な整合性に留意しつつ、適切に対応していく必要がある。
    (2)  一般に、企業の財務諸表は、企業が継続能力を有していることを前提として作成されるが、企業の継続能力に関する情報に関しては、現在の我が国では、特別のルールに基づく開示及び監査は求められていない。この点について、我が国においても、企業の継続能力に関する情報が、一層重要になっており、諸外国の例を踏まえ、その開示及び監査の基準を早急に整備することが必要であるとの意見が多かった。また、企業の継続能力に関する情報の開示というと、企業の破綻か存続かという極端な状況での情報の開示が想定されるようであるが、むしろ、企業経営に関わるような将来のリスクを、早い段階から、監査を経て開示することが重要であるとの意見があった。
 ただし、企業の継続能力に関する情報開示は、これが企業活動や経済全体に大きな影響を与えかねないことに、十分配慮すべきであり、拙速な対応は問題であるとの意見もあった。
    (3)  公認会計士は、会計基準に準拠していることを監査するだけでなく、仮に形式的には会計基準に違反していないようにみえても、経済実態を反映していない場合は、適正意見を出した後に企業が破綻した例がみられたという状況に照らし、より実態を踏まえた監査意見を述べるべきであるとの意見が多かった。更に、このことを、監査基準等において明示すべきであるとの意見があった。
   

2.

 

監査の体制及び手続きの充実

 
主要な論点

 監査の体制及び手続きを充実させ、監査の質を高めるためには、どのようなことが必要か。

  (考え方)
    (1)  監査の体制や手続きに関して、最低限期待される水準や監査人の責任の範囲を、監査に当たってのルール等により、明らかにしておくことは、監査が社会の期待に的確に応えるためにも、また、監査が適正になされたかを事後的に検証するためにも、重要である。
    (2)  日本公認会計士協会においては、監査の実務指針の整備を進めてきているところであるが、更に残された事項について、早期にその整備を図る必要がある。
    (3)  現在、実施されている監査の体制及び手続きについては、次のような指摘があり、必ずしも十分ではないとの意見が多かった。これらの指摘事項をはじめとして、監査の体制及び手続きの充実については、各監査法人等における自主的な取組みが基本と考えられるが、今後、公認会計士界を中心に、実態を踏まえた上で、必要に応じて速やかに改善策を検討していく必要がある。
      イ. 監査の人数や日数など、監査の規模を拡充することが必要ではないか。
ロ. 監査役との連携を一層強化することができないか。
ハ. 監査に際して、積極的に他の分野の専門家を活用するべきではないか。
ニ. 監査法人等の本部における審理体制を強化する必要があるのではないか。
ホ. 特定の企業の監査を担当する公認会計士が一定の期間で交替することが、監査の品質管理にとって極めて重要ではないか。
ヘ. 経営者レベルでの不正の摘発のための方法を整備することが必要ではないか。
    (4)  監査報告書について、企業の実態等をよりよく反映するよう、その記載事項等の見直しを行う必要があるのではないか、また、監査報告書とは別に、監査の結果を踏まえて、経営上の諸問題についての意見を述べることが、コーポレート・ガバナンスの強化という観点からも有益ではないかとの意見があった。
    (5)  日本公認会計士協会は、「監査の品質管理」に関する実務指針等を策定しているが、日本公認会計士協会において、各監査法人等から、その内容を、マニュアル等の形で文書化したものを提出させ、管理及び監督をする必要があるとの意見があった。
    (6)  公認会計士に対しては、監査業務だけでなく、会計に関した経営上の助言など、多様な会計サービスの提供が社会から求められており、その傾向は、今後、一層強まることが想定される。公認会計士が、このような社会の期待に応えることは重要なことであると考えられるが、その際、監査以外の業務のノウハウの蓄積が監査の強化にも有益か、逆に、監査以外の業務での被監査会社との関係の緊密化が、監査業務の独立性を阻害することにならないか等、利害得失について十分留意する必要がある。
    (7)  大企業に対する監査は、複雑多岐にわたるので、個人の公認会計士が単独で実施することは困難であると考えられる。また、個人の公認会計士が単独で担当する場合、長期間同一の公認会計士が継続的に担当することになり、過度に親密な関係を築きやすいとの意見があった。このため、少なくとも一定規模以上の企業の監査は、個人の公認会計士が単独で行うことがないようにすることについて、検討する必要がある。
 また、監査法人による監査の場合であっても、単独の公認会計士が関与している場合は、同様の問題があるとの意見があった。
   

3.

 

監査法人制度の改善

 
主要な論点

 社会の要請に応え、監査の専門化や高度化に対応するために、監査法人制度は、どうあるべきか。

  (考え方)
       近年、公認会計士監査の専門化や高度化が急速に進展し、監査法人が大規模化せざるをえない状況であるが、現行の監査法人制度は、合名会社や組合に準じ、社員が無限責任を負う制度となっているため、監査法人の大規模化に適合しにくい制度となっているとの意見があった。他方において、監査の品質向上の観点から、監査法人の社員に対する責任追及を制限するべきではなく、監査法人の有限責任化は時期尚早であるとの意見もあった。今後、これらの意見を踏まえつつ、株式会社や米国の有限責任パートナーシップなど有限責任の法人形態を採用することや、公認会計士以外の者が公認会計士と同等の立場で法人に参加することを可能にすることについて、検討する必要がある。
   

4.

 

社会に対する説明

 
主要な論点

 公認会計士監査に対する信頼を高めるため、社会に対して、十分な説明をしていくことが必要ではないか。

  (考え方)
    (1)  公認会計士監査に対する信頼を高めるためには、公認会計士界として、社会に対して十分な説明をしていくことが重要である。日本公認会計士協会においては、公認会計士監査の向上のために種々の対応がなされているが、日本公認会計士協会による監査法人に対する監査である「品質管理レビュー」の結果等、それらの成果の十分な開示について、積極的に対応していく必要がある。
    (2)  監査報酬等、監査人に関する情報の開示を行うことについて、企業のコーポレート・ガバナンスの向上に資するのではないかとの意見があった。
    (3)  問題となった個別の事案について、必要に応じて、具体的な監査の状況を開示することについては、基本的には、監査手続きの透明性の向上や、監査の在り方についての改善の促進に有益であると考えられるが、他方において、個別の事案の関係者の利害状況に大きく影響すると考えられる等、課題も多い。今後、これらの課題を踏まえつつ、可能な公表の方法等について、検討していく必要がある。
   

5.

 

公認会計士の質及び数の充実

 
主要な論点

 公認会計士の質及び数の充実のため、試験制度や研修制度の在り方について、改善すべき点はないか。

  (考え方)
    (1)  今後の公認会計士監査については、高い資質をもった公認会計士が十分な規模で存在することが必要と考えられる。このためには、公認会計士試験の在り方や公認会計士に対する研修制度の在り方が重要である。これらについては、これまで種々の改善策が講じられてきたところであるが、なお一層の改善策が講じられないか、検討する必要がある。
    (2)  公認会計士試験については、社会人も含めて多数の多様な人材に受験しやすくすることにより、公認会計士の間での競争を促進し、公認会計士全体としての水準の向上が図られるような制度の在り方を検討する必要がある。その際、このことは、単に試験の水準を下げ、合格者の質を下げることとは、異なることに留意するべきである。
    (3)  日本公認会計士協会は、平成10年4月より「継続的専門研修制度」を導入したところであり、これが成果を上げることが期待される。しかし、現在の制度では、各公認会計士の自発的参加が前提となっている等、改善すべき点も多いと考えられ、今後、研修の内容の充実や履修の義務づけ等について検討する必要がある。なお、公認会計士登録を数年ごとの更新制にし、履修を更新の要件とすることも考えられるのではないかとの意見があった。
    (4)  また、試験及び研修に共通する課題として、最新の企業実務に即した内容をより重視していくべきではないかとの意見が多かった。
   

6.

 

日本公認会計士協会の役割

 
主要な論点

 自主規制機関としての日本公認会計士協会が、更に積極的な役割を果たすことが必要ではないか。

  (考え方)
    (1)  日本公認会計士協会は、「継続的専門研修制度」や「品質管理レビュー」の導入、倫理規則の全面的な見直し等、公認会計士監査の充実のための様々な取組みを行っているが、職業専門家の自主規制機関として、その役割は、極めて重要である。これまで述べてきた様々な論点について、日本公認会計士協会の自主的な対応が可能なものについては、速やかに積極的な取組みが必要である。
    (2)  公認会計士が法令や監査基準に違反する行為を行った場合には、日本公認会計士協会としても、会則等に照らし厳正に対処していく必要がある。また、必ずしも、これらに違反すると言えない場合であっても、職業専門家としての自律が求められる局面もあると考えられ、日本公認会計士協会として、「品質管 理レビュー」を活用すること等により、適切な規律を課す必要がある。
    (3)  現行の標準監査報酬制度の見直しを含め、監査報酬の在り方についての検討 が必要であるとの意見があった。
 

 

 今後の検討

 
 当ワーキング・グループにおいては、以上のように、主要な論点とその考え方について、現時点における整理を行った。
 公認会計士監査の充実は、まず何よりも公認会計士界自身により、主体的に取り組まれるべき課題であるが、関係者が幅広く検討に参加することは、実効性ある対応を講じるために、重要なことと考えられる。
 今般、公認会計士監査の充実のために、検討すべき論点を整理し、これを広く明らかにすることとした。今後、それぞれの論点の内容に応じて、関係者による検討が更に深められ、順次、具体的な取組みが始められることが必要であると考えられる。
   

 

「会計士監査に関するワーキンググループ」委員名簿

 

  (氏  名)     (現   職)
座  長 三 原 英 孝 元証券取引等監視委員会委員
座長代理 脇 田 良 一 明治学院大学教授
委  員 安 藤 英 義 一橋大学教授
奥 山 章 雄 日本公認会計士協会副会長
葛 馬 正 男 東レ(株)常務取締役
岸 田 雅 雄 神戸大学教授
関       要 日本証券業協会副会長
中 島 公 明 (財)企業財務制度研究会専務理事
永 嶋 久 子 (株)資生堂常任顧問
中 原    眞 (株)東京三菱銀行専務取締役
中 村 芳 夫 (社)経済団体連合会常務理事
林    興 治 (株)日本経済新聞社取締役電子メディア局長
山 浦 久 司 明治大学教授
     
   

(五十音順、敬称略)

 

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