平成21年論文式試験の出題趣旨

【会計学】

第1問

問題1

本問は、等級別総合原価計算についての理解を問う問題である。組別総合原価計算から等級別総合原価計算に原価計算方法を変更する企業の事例を通じて、等級別原価計算の適用条件、及び計算方法を問うている。更に、等級別総合原価計算の有効性を左右する等価係数の設定に関する適切な原価配分の考え方についても問うている。

問題2

本問は標準原価計算の製造間接費の差異分析に、ABC(活動基準原価計算)の考え方を取り入れる応用力を問うている。製造間接費の発生額が変わらないときの能率差異と操業度差異の関係を問い、そのような関係をもとに、未利用キャパシティが存在するときに能率差異を削減する努力をどう評価すべきかについて考えさせようとしている。

第2問

問題1

本問は、「自製か購入かという業務的意思決定にとって有用な会計情報とは一体何か」を問うている。製造間接費の取り扱いを中心に、差額原価分析のために必要とされる原価概念、並びに関連原価としての差額原価の算定に関する問いを設けている。特に意思決定の状況が変化する時、関連原価の範囲も変化し、結果として差額原価の数値も変化することに注意する必要がある。問4は、更により長期的な視点から、自製か購入かの意思決定に生産方法の変更が及ぼす影響を論じさせている。

問題2

本問は、事業部制を採用している企業で、事業部の評価について、プロフィット・センターとしての評価とインベストメント・センターとしての評価という2つの視点から問うている。具体的な設問としては、様々な業績評価指標を計算させるだけではなく、全社最適と事業部の部分最適の問題、事業部間の取引に関する忌避権を前提とした場合の内部振替価格の問題など、1つの事業部に限定した問題ではなく、全社の中での事業部という位置づけでの思考を求めている。

第3問

問1

個別ベースのキャッシュ・フロー計算書項目から、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する基本的能力を問う総合問題である。在外子会社のものを含む個別キャッシュ・フロー計算書項目を合算・修正し、連結会社相互間の消去仕訳に係る増減額等を調整し、連結会社相互間のキャッシュ・フローを相殺して連結キャッシュ・フロー計算書を作成する方法についての理解度を問う問題である。

問2

本問は、キャッシュ・フロー計算書における「資金概念」、「キャッシュ・フローと利益の関係性」、及び「営業活動におけるキャッシュ・フロー」における「営業活動」の意義についての理解度を問う問題である。

第4問

問1

返品条件の付された販売取引の会計処理について、従来の返品調整引当金による処理の問題点と、返品されないことが見込まれるようになった段階で収益認識する処理の根拠を問うている。

問2

金銭債権の貸倒見積高に関連して、見積りと実績との相違の取り扱いを決定する要因、及び貸倒懸念債権の貸倒見積高の算定においてキャッシュ・フロー見積法における貸倒れの意味に関する理解を問うている。

問3

転リース取引に関して、(1)では、個別貸借対照表における相殺表示と両建て表示の処理とその根底にある考え方、すなわち、為替予約に関する振当処理と原則的処理(独立処理)に関する理解を問うている。また、(2)では、連結財務諸表における内部取引の処理とリース取引の性格を問うている。

問4

債券の発行・購入取引を題材として、資料を読んで取引内容を正確に理解する能力、及び当該取引に会計基準を適用する能力を問うている。

第5問

本問は、複数の事業部を有するある企業集団が置かれている経営環境の下で、様々な事業分離の会計処理が個別財務諸表及び連結財務諸表にどのような影響を及ぼすかを中心に各会計処理の論拠を多面的に問う問題である。また、部分的に、財務会計に関する法令及び会計基準を参照する能力も問うている。

問1

四半期連結財務諸表を作成する能力を問うている。棚卸資産の評価、のれんの償却、全面時価評価法などの個別論点の会計処理について正確かつ具体的な知識を有していることが必要である。

問2~問4

移転利益などの計算を通じて、様々な事業分離の会計処理に関する総合的かつ具体的な理解を問うている。

問5

減損処理後の償却原価法の適用の可否を検討することを通じて、有価証券の会計処理に関する理解を問うている。

問6

共通支配下における事業分離の対価の違いがもたらす会計処理の差異に関する理解を問うている。

問7

のれんの会計処理に関するわが国の会計基準と国際的な会計基準との相違点を題材に、わが国とは異なる会計処理の依って立つ論拠についての理解を問うている。

問8

株主資本がマイナスである事業部を譲渡したケースについて、具体的にどのような会計処理が導かれるかを問うことにより、会計専門家としての応用力、論理展開力を問うている。

問9

事業分離の会計処理について、総合的に分析する能力を問うている。併せて、具体的な会計処理の長所や問題点を当該企業・企業集団が置かれている状況に照らして検討することを通じて、公認会計士としての分析力、判断力、表現力(コミュニケーション能力)なども問うている。

【監査論】

第1問

継続企業の前提に関する経営者による情報開示と監査人による保証のあり方は、開示情報に対する監査人の関与のあり方、とりわけその責任との関係において、かねてより理論的にも実務的にも重要な検討課題とされてきたところである。

そこで、本問は、監査報告書上の追記情報が持つ意義について、継続企業の前提を題材として、監査人の対応に関する基本的な考え方を理解し、論理的に記述できるかどうかを問うものである。

問題1

追記情報は、監査人が財務諸表の表示に関して適正であると判断した上で、その判断に関して説明を付す必要がある事項や、財務諸表の記載について強調する必要がある事項を、監査報告書に重ねて記載するものである。本小問は、このような追記情報の意義を正しく理解しているかどうかを、継続企業の前提に関する連結財務諸表注記と関連づけて問うものである。

問題2

追記情報の記載は、財務諸表に係る二重責任の原則を前提としており、監査意見と混同されるような記載や財務諸表の注記内容を超える記載は認められない。また、財務諸表は継続企業の前提に関する重要な疑義の存在や解消に関わらず、継続企業を前提として作成される。本小問は、具体的なケースに基づいて、継続企業の前提に関する連結財務諸表注記に対する追記情報の記載内容が適切かどうかの判断を求めるものである。

問題3

継続企業の前提に関する判断は、決算日時点について行われるものである。本小問は、決算日後、連結財務諸表の作成日までになされた増資による連結債務超過の解消を具体的な検討材料として、継続企業の前提に関する注記を省略することができるかどうか、後発事象に係る開示との関係で監査人がどのように判断を下すかについて、その論拠を問うものである。

第2問

問題1

問1

経営者は、企業の内部統制を構築・維持するとともに、適正な財務諸表を作成する責任があるため、その責任の遂行状況について経営者とディスカッションすることは監査人にとって、内部統制の評価の観点から有益であるとされている。

こうした観点を理解した上で、監査計画の策定に当たり、企業及び企業環境に関する情報の入手や不正の防止・発見のために企業内に構築されている内部統制の整備及び運用状況の評価の結果を経営者から聴く必要があることを理解できているかどうかを問う問題である。

問2

経営者に、監査人とのディスカッションが必要な理由を十分に説明したにも拘わらず、最終的に経営者が断ってきた事実から、経営者の誠実性に疑念を持たざるを得ない。

こうした状況から判断して、監査人は、特別な検討を必要とするリスクとして扱うとともに、監査役へその旨を報告し、適切な対応を要求する必要がある。このような対応をしてもなお、経営者の誠実性に疑念が残る場合には、監査契約の解除も視野に入れることが必要であることを理解できているかどうかを問う問題である。

問題2

わが国の年度財務諸表の開示制度では、連結財務諸表と個別財務諸表の両方が開示され、かつ、それぞれが監査の対象となっている。四半期財務諸表の開示制度では、四半期の連結財務諸表のみが開示対象となっており、かつ、四半期レビューの対象となっていることについて、連結子会社株式及び固定資産の評価に関連付けて理解できているかどうかを問う問題である。

問題3

年度財務諸表の監査に当たって、問題2で解答した子会社株式及び固定資産の評価に関連して、連結財務諸表及び個別財務諸表に対する監査意見の形態が、監査人の対応と経営者の対応のあり方によって、それぞれどのように変わるかの理解を確認する問題である。

【企業法】

第1問

本問は、公開会社における違法又は不公正な新株発行(第三者割当て)について、株主が会社法上どのような主張をすることができるかを問うものである。問1では、株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行について、株主が、その効力発生前に新株発行の差止めを請求できるか、また、その効力発生後に新株発行の無効の訴えを提起できるかを、検討することが求められる。問2では、新株の不公正発行について、問1と同様に、株主が新株発行の差止めを請求できるか、また、新株発行の無効の訴えを提起できるかを、検討することが求められる。

第2問

本問は、株式会社の取締役、会計監査人の解任について、基本的な理解を問うものである。問題となる株式会社の機関設計を確認した上で、問1では、取締役を解任する方法について、問2では、会計監査人を解任する方法についての検討が求められており、加えて、問2では、会計監査人の解任について、取締役を解任する場合と異なるところがある理由の検討が求められている。

【租税法】

第1問

問題1

問1

減価償却資産の取得価額の意義と少額減価償却資産の処理を問うものである。

問2

再使用される可能性がない建設機械に係る税務上の処理(一般に有姿除却といわれる)を問うものである。

問3

横領された法人の資産に係る税務上の処理を問うものである。ちなみに、横領に係る損害賠償請求権の計上に関し、両建てで経理すべきとする最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決(最高裁判所裁判集民事92号607頁)がある。

問4

役員に対する債務免除(役員給与)に係る処理を問うものである。

問題2

問1

資産の取得費の意義を問う。

問2

土地に対する消費課税のあり方を問う。

第2問

問題1

本問は公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な法人税に関する基本的な知識を問うものである。すなわち、損益計算書に示された当期純利益に必要な加算、減算を行い法人税法上の課税所得の金額、更に納付すべき法人税額を求める過程を問う問題である。

必要な調整項目の論点として(1)有価証券の評価、(2)受取配当金の益金不算入、(3)法人税額控除所得税額、(4)各租税公課項目、(5)減価償却・減損、(6)貸倒損失及び貸倒引当金、(7)交際費等の損金不算入、(8)交換に係る圧縮記帳及び(9)借地権に関する調整額が含まれている。

問題2

本問は時価よりも低い価額で土地の譲渡を行った場合の税法上の取扱を問うものである。問題は、当事者双方が法人の場合及び個人の場合の2つのケースについて、それぞれの当事者の法人税法上又は所得税法上の譲渡損益を求めさせるものである。

問題3

本問は公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な消費税に関する基本的な知識を問うものである。ここでは示された資料を基に問1は、基準期間の課税売上高、問2は、課税標準額及び課税標準額に対する消費税額、問3は、課税売上高及び非課税売上高、問4は、仕入れに係る消費税額、問5は、差引税額を求めさせる問題となっている。なお、その中には論点として(1)売上に係る対価の返還、(2)低額譲渡、(3)交換取引、(4)輸入取引及び(5)保険料などに関する消費税の取扱が含まれている。

【経営学】

第1問

問題1

本問は、近年、特に注目を集めている企業と顧客との関係性に関する問題である。企業が新しいマーケティング活動に取り組む際のいくつかの重要な用語について理解を問うている。また、市場細分化の有効性に関する知識を試している。

問題2

本問は、企業の成長戦略の二つの大きな柱である多角化と国際化に関する知識を問うている。多角化の態様の理解とともに、経営の国際化に伴う問題点とそれに対応する組織、及び多角化や国際化に関わる企業間の連携についての知識を試す問題である。

第2問

問題1

時価主義の傾向が強くなる近年の会計実務においては、企業資産の評価が、ますます重要になってきている。企業資産の評価には、資本コストを資本市場におけるリスクとリターンのトレードオフの観点から、資産評価作業に反映させる能力が必要となる。こうした問題意識をもとに、資本市場の知識と企業資産の評価方法の両方を問うている。

問題2

本問題は、無リスク資産が存在する場合のポートフォリオ選択に関する知識を問うものである。リスクに対する態度とリスク・リターン平面上に描かれる無差別曲線との関係に加えて、期待効用最大化原理に基づく最適ポートフォリオを具体的に求められるかどうかも問うている。

問題3

オプションを組み込んだ金融商品のうち、企業の財務部門や投資家にとって身近であり、新聞紙面等でもよく取り上げられる基本的な商品について、その仕組みと評価に関する理解度を問う問題である。

【経済学】

第3問

問題1

消費者の最適行動から需要関数を導出して、それによる消費者余剰の大きさを求める問題である。最適化問題に関する基本的な計算力を試す問題である。

問題2

パレート最適な資源配分の持つ基本的特徴を問う問題である。加えて効用関数の特性及び競争均衡の条件についての基礎的理解も試される問題になっている。

問題3

独占均衡と競争均衡の基礎的な理解を問う。特に、均衡価格、総余剰、限界収入関数の概念の理解と基礎的計算力があるかを問うのが出題の意図である。

問題4

外部不経済を抑えるための費用は誰が負担すべきか、という問題に対する経済学的知識を問う。汚染者と被害者の交渉を考え、どの水準から交渉を始めても、到達点は社会的便益を最大化する水準となるという主張を、具体例を解くことによって確認する問題である。

第4問

問題1

マクロ経済学の用語に関する基礎的知識を問うとともに、基本的な関係式について理解を問う。

問題2

閉鎖経済を前提としたIS-LM分析を用いて、マクロ経済の均衡を求める問題である。完全雇用を達成するための金融政策及び財政政策に関する知識を問う。特に、税収が所得に依存する場合や消費に資産効果が存在する場合における財政政策のあり方を問う。

問題3

労働市場を明示的に取り扱ったマクロ経済モデルを用いて、雇用量、総生産量、物価水準を計算させる問題である。問1から問3までは、古典派の労働市場を考察している。他方、問4では、名目賃金が硬直的であるケインズ的な労働市場を前提として、基礎的な知識を問う。

【民法】

第5問

問1

抵当権抹消登記の権限を与えられた代理人が、本人に無断で自己へ所有権移転登記を行い、自己所有不動産として第三者に売却した場合の、当該不動産の所有権の帰属先を問うている。第三者が第94条第2項の類推適用により保護されるためには、本人の帰責性と第三者の善意が必要であるが、判例は第110条を類推適用して第三者になお無過失を要求する。

問2

土地と建物の共同抵当において建物が焼失し建物が再築された場合に、再築建物につき法定地上権は成立するかどうかを問うている。共同抵当の設定当事者間では法定地上権の負担のない担保価値を念頭に置くのが通常であるから、判例は焼失前と同一条件の抵当権が設定されない限り法定地上権の成立を認めない。

第6問

問1

請負契約とはどのような契約かという基礎的理解、及び建物の建築が不可能になった場合の危険負担の問題を問うている。Bは、工事を完成する義務を負っているから、工事の続行が可能である以上、それを続行する義務を負い、工事の続行が不可能になった場合にのみ危険負担の問題となる。

問2

民法第613条の基礎的理解、及びAがCの賃料不払いを理由としてA・C間の賃貸借契約を解除した場合の法律関係を問うている。民法第613条第1項は、転借人の賃貸人に対する直接の義務を規定しており、この義務には転借人の転借料支払義務も含まれると解されている。AがCの賃料不払いを理由としてA・C間の賃貸借契約を解除し、Dに対して建物の明渡しを請求した場合には、明渡しまでの間のDの使用収益について不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務が問題となる。

【統計学】

第7問

問題1

記述統計に関する2つの問題で構成されている。

1.度数分布表及び選択肢にあげた代表値についての知識を問う初等的な問題である。

2.不平等度を測る方法として代表的なローレンツ曲線とジニ係数に関する問題である。ローレンツ曲線、ジニ係数の定義を理解していれば容易な問題である。

問題2

1.債券価格の3項モデルを題材にしているが、実質的には確率論の初等的な概念、特に、期待値、分散、独立性に関する基本的な理解を問う問題である。

2.3つの問題から構成される、初等的な確率の計算問題である。それぞれ二項分布、ポアソン分布、正規分布を題材としている。基礎知識があれば容易に解くことができる、典型的な問題である。

問題3

1.(1)は正規分布に関する確率を正規分布表から正しく求められるかどうか、(2)はベイズの定理を理解しているかどうかを問う問題である。

2.代表的な景気指標として、日本銀行の短期経済観測、内閣府の景気動向指数(DI)を素材として、景気指標の意味を問う問題である。

3.経済指数の基本である価格指数及び数量指数を題材とした基本的な問題である。指数算式として、ラスパイレス、パーシェ及びフィッシャー指数の概念を理解していれば、容易に求められる数値例である。

第8問

問題1

ファイナンスに関連する問題を素材とした2つの独立した小問から構成される。

1.資産選択理論で重要な確率変数の線形結合の平均、分散の求め方、及び正規分布に従う確率変数の線形結合が正規分布に従うことを理解しているかどうかを問う問題である。

2.資産価格の変動を表わすのによく使われるランダム・ウォークと対数正規分布に関して正しく理解しているかどうかを問う問題である。

問題2

分散分析に関する2つの問題で構成されている。

1.分散分析の考え方を理解する上で必要となる基本的な概念としての、全変動、グループ間変動、グループ内変動と、それらの関係の理解を問う問題である。

2.分散分析の基本的な問題である。出題にある予想営業利益変化率の表から分散分析表を完成させるのではなく、全変動、グループ間変動、グループ内変動の関係を利用する。また仮説検定に関しては、その理解を問う典型的な問題である。

問題3

回帰分析を題材とする2つの問題からなる。

1.最小二乗推定量が最小分散(線形)不偏推定量になるための誤差項の仮定や誤差項がそれらの仮定を満たしているかどうかの検定に関する基礎的な問題である。

2.単回帰の計算問題であり、対数変換によって線形性が明瞭に表れるようなデータを対象としている。最小二乗法による回帰係数の推定、決定係数、予測、回帰係数に関する区間推定を扱い、入門的な回帰分析の教科書に記述されている範囲にとどめている。

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