平成24年論文式試験「出題の趣旨」

【会計学】

第1問

問題1

標準原価計算の問題である。【問1】では原価標準に仕損費を含めない方法のメリットとデメリット、【問2】は原価標準の計算を問うている。【問3】では修正パーシャル・プランによる仕掛品勘定の完成、【問4】では当社における原価低減の意義および標準原価差異分析の結果を踏まえた原価低減の具体策を問うている。

問題2

予算と標準原価計算に関する問題である。年次の基本予算編成を全部原価計算方式に基づいた場合の問が、【問1】と【問2】である。【問1】は予定操業度差異、【問2】は損益分岐点の計算である。月次の差異分析が【問3】、【問4】および【問5】である。【問3】では、予算営業利益と実際営業利益の差異の要素別計算である。【問4】は直接材料費差異の発生した原因を問うている。【問5】は製造間接費の操業度差異に関する問題である。【問6】は直接原価計算方式の大綱的利益計画である。

第2問

問題1

本問は、設備投資の経済性計算の代表的な手法である正味現在価値法の基礎的な計算原理が具体的な経営の場面でどのように利用されるかについての理解を問うものであり、併せてその手法が抱えている運用上の限界および正味現在価値法と並び立つ手法である内部利益率法との属性の違いを問う問題となっている。

問題2

事業部別の利益管理、業績評価についての理解の程度を問うこと。特に社内借入金、社内資本金についての理解を問うている。

セグメント情報開示のマネジメントアプローチへの変更により、こうした視点での考え方が重要になることを背景とした。

第3問

問1

外貨建取引、繰延税金資産、投資有価証券、社債、退職給付引当金、自己株式、その他有価証券評価差額金、新株予約権等の会計処理を理解しているか、そして在外子会社の財務諸表の換算も含めて、親会社および子会社の個別財務諸表に基づいて連結財務諸表がどのように作成されるのか、を理解しているかどうかを問う総合計算問題である。

問2

(1)わが国の外貨建取引等会計処理基準についての知識を問う理論問題である。在外支店の貸借対照表の換算方法と在外子会社の貸借対照表の換算方法について、異なる換算方法を採用している理論的な考え方の違いを理解しているかを問うている。

(2)わが国の自己株式の会計処理についての知識を問う理論問題である。自己株式の取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する理由、自己株式の取得にあたって生じる付随費用の会計処理とそうした会計処理を行う理由を説明させ、自己株式の処理における資本取引・損益取引の理論的な考え方を理解しているかを問うている。

第4問

問1

近年の会計基準においては、研究開発費の資産計上の可否をめぐって議論が続いている。そこで、討議資料『財務会計の概念フレームワーク』と会計基準の背景にある考え方を理解しているかどうか、「一定の条件をみたした場合に資産として計上する処理」(条件付資産処理)を論理的に導出できるかどうかを問うている。

問2

財務諸表上の重要な構成要素である資産について、概念的な理解を確かめるとともに、それに関連して、討議資料『財務会計の概念フレームワーク』および「連結財務諸表に関する会計基準」に示されている支配の考え方の理解を問い、もって、連結財務諸表における報告主体の範囲に関する制度上の意義を問うている。

問3

資産除去債務の割引価値の算定における将来キャッシュ・フローの見積りと割引率の関係について、「資産除去債務に関する会計基準」や「退職給付に係る会計基準」などでの負債の現在価値への割引のあり方に関わる基準の整合性とともに、債務不履行のリスクである自己の信用リスクの反映のあり方の理解を問うている。

問4

討議資料『財務会計の概念フレームワーク』で用いられている「リスクからの解放」という考え方の具体的な内容を問うとともに、現金や金銭債権の取得等を条件とするか否かに違いがあるとしても、ソフトウェア取引における収益の認識基準とストック・オプション取引における収益の認識基準が「リスクからの解放」という考え方に基づいて一貫していることについての理解を問うている。

第5問

本問は、厳しい経営環境下にある企業を題材にして、減損会計、リース会計、企業結合会計を中心に、総合的な会計処理の知識、能力および理論的考察力を問う問題である。また、会計基準を参照して論点を判断する能力や、公認会計士としての注意力も問うている。

問1

固定資産に関する臨時償却と減損処理に関する基本的な理解を問うとともに、企業会計基準第24号で示された臨時償却に関する取扱いの基本的知識を問うている。

問2

リース取引に関して、基本的な計算能力、ファイナンス・リース取引とセール・アンド・リースバック取引の会計処理比較を通じて、評価(測定)属性の特質に係る理解を問うている。

問3

企業結合会計に関して、応用的な会計処理に関する理解を計算過程とともに問うている。

問4

事業分離を題材に、利益の把握に関する基本的理解を問うとともに、セール・アンド・リースバック取引の会計処理において、事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という視点に係る論理的思考力を問うている。

【監査論】

第1問

独立性は、財務諸表監査の重要な存立要件の1つとして、監査人に対して強く求められているものである。監査基準では、この独立性について、公正不偏の態度すなわち精神的独立性の保持と、独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観の排除すなわち外観的独立性の保持の2つを要求しているが、これら2つの独立性のうち、究極的には精神的独立性を保持することが重要であることを明らかにしている。

そこで本問では、まず、精神的独立性との関係において外観的独立性が求められる理由について問うとともに、外観的独立性に関わる法的な規制の必要性について説明を求めている。さらに、独立性を保持するために、監査人にはいかなる対応が制度的に求められているか、また監査の指導的機能と外観的独立性との関係につき、理解を問うている。

第2問

金融商品取引法に基づく内部統制監査と財務諸表監査は、制度上、一体のものとして実施することが要請されている。その両者の関係について、時系列的なケースを設定した上で、内部統制監査と財務諸表監査を同一の監査チームで実施することが要求されている理由、いわゆるローテーションによる評価範囲の設定方法、内部統制に開示すべき重要な不備が生じている場合の財務諸表監査及び内部統制監査における対応の方法等について、その理解の程度を問うている。

【企業法】

第1問

本問は、取締役会設置会社における代表取締役の行為に関して、会社に対する任務懈怠責任の成否及び当該行為の効力についての理解を問うものである。【問1】では、取締役の善管注意義務違反に基づく会社に対する任務懈怠責任などについて、検討することが求められる。【問2】では、本件土地の譲渡が取締役会の承認を要する重要な財産の処分に該当するか否か、及び取締役会の承認を経ないでなされた当該重要な財産の処分はいかなる効力を有するかについて、検討することが求められる。

第2問

本問は、株式交換の手続についての理解を問うものである。【問1】では、株式交換について株主総会の承認決議を要する場合に、反対株主に公正な価格による株式買取請求が認められているが、その趣旨及び手続についての説明が求められる。【問2】では、略式株式交換及び簡易株式交換について、それらの意義及び株主総会の承認決議を要しないものとされている趣旨などの説明が求められる。

【租税法】

第1問

問題1

本問は、役員給与及び生活に通常必要でない資産の盗難による損失の税務処理を、事案に即して検討させることにより、所得税法・法人税法・消費税法の基本的な理解(条文構造の理解を含む。)ができているかを問うものである。【問1】及び【問2】では役員給与に関する法人税法上の取扱い、【問2】及び【問3】では役員への資産の低額譲渡の法人税法及び消費税法上の取扱い、【問4】では生活に通常必要でない資産の盗難による損失の所得税法上の取扱いにつき、それぞれ正確かつ構造的に理解しているかどうかが解答のポイントとなる。

問題2

本問は、消費税の課税仕入れの範囲、仮装経理の場合の役員給与の損金不算入、受取配当等の益金不算入、及び外国税額控除と損金算入との関係について、条文に則して基本的な理解ができているかどうかを問うものである。

第2問

問題1

公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な法人税に関する基本的な知識を問うものである。すなわち、損益計算書の当期純利益を基に申告調整を加え、法人税法上の課税所得金額、納付すべき法人税額を算定する過程を問うている。

本問における主要な調整事項は、(1)受取配当等(完全支配子会社、外国子会社分を含む。)の益金不算入、(2)減価償却計算(特別償却準備金を含む。)、(3)税務上の繰延資産、(4)租税公課・繰延税金資産、(5)交際費等の損金不算入、(6)グループ法人税制(譲渡損益の繰延べ、寄附金の損金不算入)となっている。

問題2

公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な所得税に関する基本的な知識を問うものである。本問は、(1)給与所得・一時所得等の金額、(2)各種所得控除額、(3)納付すべき所得税額を計算させる問題となっている。

問題3

公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な消費税に関する基本的な知識を問うものである。本問は、課税標準額、課税売上割合、個別対応方式による仕入控除税額、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額、納付すべき消費税額を計算させる問題となっている。

【経営学】

第1問

問題1

経営学において組織がどのようにとらえられてきたかについて、組織の機械観と有機体観をとりあげ、それらに関する基礎知識を問う。組織の機械観としてはテイラー(Taylor,F.W.)やウェーバー(Weber,M.)など、有機体観としてはバーナード(Barnard,C.I.)やサイモン(Simon,H.A.)などにおける基本的な考え方を確認する。これに加え、組織と市場との関係における伝統的なマーケティングの手法を問う。

問題2

企業は、株主のみならずその他ステークホルダーに対してアカウンタビリティーを明確にしていくことが求められている。近年、財務情報のみならず、CSRの議論の広がりと共に、環境・社会・ガバナンスにかかわる非財務情報についても、その開示が進んでいる。アカウンタビリティーのあり方が見直されている中、それをどのように規律づけていくかについて考えさせ、基礎的な知識を問う。

第2問

問題1

企業の財務管理において、企業価値の向上と整合的であるNPV法による投資評価の理解を確認した。また、資本効率の指標である資本利益率(ROA,ROE)についての理解を問うた。

問題2

財務管理や投資理論で使用する平均にはいくつかの種類があるが、これらの差異を正確に理解し、状況に応じて使い分けることが重要である。このような観点から、本問はさまざまな平均についての理解度を問うている。

問題3

新規事業を実施するか否かを決める際に、その事業価値を求めることは重要である。ここではリアルオプション・アプローチの理解を確かめる出題を行った。

【経済学】

第3問

問題1

市場需要曲線、市場供給曲線、市場均衡に関する基礎の理解と政策への応用の問題である。

基礎については市場均衡の安定性についての理解及び弾力性についての理解を問う問題である。また応用に関しては従量税および従価税の課税に関する比較静学の問題と価格弾力性を用いて消費者と生産者の課税負担割合を示させる問題を通じて基礎概念の応用力を確認する問題である。

問題2

完全競争市場における長期均衡について基礎的な理論が理解されているかどうかを試す問題である。特に、企業の側に現れる短期と長期の本質的な相違が長期均衡にどう帰結するかを計算問題を通じて答えさせることでその理解度を計るものである。

問題3

純粋交換経済におけるパレート効率性、競争均衡、コアの3つの概念、それらが満たす条件及びそれらの間の関係を正しく理解しているかを、2財2消費者のケースにおいて確認する問題である。

問題4

国際貿易の設定の下で、複占企業のクールノー均衡の理解を問う問題である。政府の生産補助金政策についての応用問題は問題文をていねいに読み題意を理解すればさほど難しい問題ではないと思われる。

第4問

問題1

マクロ経済学の用語に関する基礎知識を問うとともに、基本的な関係式についての理解を確かめる。

問題2

ケインズ経済学に関する基礎的な理解を問う問題である。問題では均衡国民所得と均衡利子率の導出過程を正確に理解した上で、マクロ経済政策の効果に関する分析を行う力を問うている。

問題3

経済成長論に関する基礎的な理解を問う問題である。成長会計や定常状態に関する正確な理解を踏まえた上で、国毎のGDP(所得)格差がどのような要因によって生じるかを考える力を問うている。

【民法】

第5問

問1

本問は、所有権および賃借権の取得時効の要件、時効の援用権者、取得時効と登記の問題を問うものである。

問2

本問は、無権代理と相続の問題において、無権代理人が本人を共同相続した場合の追認拒絶の可否、無権代理人の責任を問うものである。

第6問

問1

本問は、建物賃貸借契約の終了原因を問うものである。存続期間の定めがある場合の更新拒絶の通知の要件、解約申入れの正当事由の判断方法、定期建物賃貸借または一時使用の賃貸借の要件、無断改築が賃貸借の終了原因となるかが問題となる。

問2

本問は、賃貸目的物の修繕義務、修繕費用を支出した賃借人の費用償還請求、賃貸人の帰責事由によらない目的物の利用不能の場合の法律関係を問うものである。

【統計学】

第7問

問題1

代表的な価格指数であるラスパイレス価格指数とパーシェ価格指数の定義と解釈を(1)で問い、(2)で実際に計算させる問題である。

問題2

離散型確率関数に関する問題である。2つの確率変数の同時分布において、その定義や周辺分布、条件付分布を導出し、共分散、条件付期待値、条件付分散を計算させる内容の出題である。

問題3

度数分布表を使った問題である。度数分布の表と世帯人員に基づく階級ごとの平均を使って全体の平均を求める問題である。標本の一部を使った平均と全体の平均との関係を問うている。

第8問

問題1

正規母集団から得られた標本平均を用いて、母集団平均に関する信頼区間を求め、さらに仮説検定を行う問題である。その際、母集団分散が既知である場合と未知である場合について、それぞれ異なる手順が必要となることを使い解答を求める内容である。

問題2

正規母集団から標本相関係数の分布の性質を問い、それを使って仮説検定を求める問題である。その際、有意水準と標本相関係数の間にどのような具体的対応関係があるかを問う内容である。

問題3

(1)は推定量の性質として、期待値や分散の計算を通じて不偏性および有効性について理解を問う問題である。(2)は、最尤推定法の考え方および推定量の導出方法を問う問題である。

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