久世委員長退任記者会見の概要

【平成12年7月30日(日)於:金融再生委員会会見室】
  

委員長:今日は、お休みの日にもかかわらず、皆様お集まりを頂きまして申し訳ないと思っております。先程、官房長官にお会いいたしまして、金融再生委員会委員長の職を辞する旨の辞表を提出いたしました。皆様ご承知の通り、一昨日以来私の個人に関する事について色々な報道がされております。臨時国会の審議入りを明日に控えております。内政外交に関する内閣が全力を持って取組むべきこの重要な時期に、私の個人に関する事がいささかでもその妨げになり、あるいは金融問題について私の個人的な事が妨げになることは、絶対に避けるべきであると考えまして、私自ら辞任の決断をいたしました。私自身の判断で辞任をする旨を官房長官に申し上げました。このような事態に立ち至りましたことにつきまして、全く私の不徳のいたすところでございまして、お詫びを申し上げたいと思っております。
 この際、金融について、一言触れさせて頂きたいと思います。言うまでもなく金融は、現在の我が国の社会経済において、最も重要な分野でございます。私がこの職を拝命いたしました7月4日からわずか1ヶ月足らずでございましたが、私自身2つの非常に大きな問題に一生懸命に取組んでまいりました。
 その一つは、そごう問題であります。これにつきましては、7月12日にそごう自らの決断で民事再生法の適用申請が行われたところでございまして、今後このような法的な枠組の中において適切に対処する事を期待いたしたいと思います。
 二つ目の問題は、日債銀の譲渡についてでございます。この問題につきましては、私の判断によりまして1ヶ月延期をする事といたしました。この1ヶ月の間に、国民に十分な説明をして、その理解を得て、瑕疵担保条項を含めて現在の契約によって円滑に譲渡される事が、我が国の金融経済にとって極めて重要であると考えております。
 金融再生の道のりは今だ半ばでございまして、決して容易なものではございません。金融再生委員会は、来年の一月までであり、その総仕上げを行うことなく職を辞する事は心残りではございますが、一日も早い我が国金融の再生を願って、私のお別れの挨拶とさせて頂きたいと思います。皆様には大変お世話になりまして、厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

  

【質疑応答】

 問:森内閣が発足した時には、問題がないという事で再生委員長の職を引受けられたと思うのですが、その時の判断については全く間違いはなかったというお考えは、今もお変わりありませんか。
  

員長:なかったと思います。

  

 問:大京側からの1億円の経緯についてご説明願います。
  

員長:これは10年近く前、前々回の選挙の前の年だったと思います。はっきりした事は覚えておりませんし、事務手続き等も私はよく知らないのですが、大京観光の社長であった横山さん、この方は霊友会の顧問格で、応援団の顧問格の方でございまして、そういう関係でかなり古くからお付き合いをさせて頂いた方です。この方が、大京の組織で霊友会もたくさんおりますし、それを含む霊友会の党員を3万3333人分、これが党費に直すと職域負担分でちょうど1億円に当るわけですが、党費分を払って頂きました。当時私共の比例代表の選挙、自民党の場合においては、膨大な党員数を集めなければいけないということになっておりました。霊友会の党員はIIC職域支部という自民党の支部を作ってやるのですが、その時IIC職域支部は、たしか10数万人集め、その内の3万3333人分の党員について横山さんが党費をお支払いになったという事でございます。

  

 問:大臣からご依頼されたのですか。
  

員長:それは私共の後援会が、党員を全体としてこれだけやりましょうと、それに当っては霊友会がどれだけ、地方自治体がどれだけ、他の商工関係団体がどれだけという割当のお願いをやりまして、それに伴ってこの党員を現にやって頂くとともに、党費は党員自身が支払う場合もあるし、その組織が党費を見る場合もあったかと思います。詳しい事は覚えておりませんが、大体そういう仕組みでございます。

  

 問:金曜日の朝の会見の時点では、辞めるつもりはなく職責を全うするのが責任だと仰っていいましたが、何時の時点で辞任される事を決断されたのですか。
  

員長:金曜の夜から土曜にかけまして、国会日程がどんどん入ってまいりました。野党各党は代表質問で私の問題を取り上げ、それから予算委員会においても取り上げていくという情報でした。今度の予算委員会は、金融問題についても、そごう問題あり、日債銀問題あり、金融システムの全体的な問題ありで、予算委員会の争点の大きな一つでしたから、私はその問題を予算委員会において取組むべく準備をしておりました。予算委員会が他の分野においても大事な問題があると思います。そういう矢先に、私が得た情報によりますと、私の個人的な問題、これは全て法律に触れることは全くないのですが、道義的な問題とか、あるいは運用上の問題があると。そういう時に、先程も申し上げましたように、私の個人的な問題が、この重要な内閣が取組まなければいけない課題にいささかでも妨げになることがあっては、これは申し訳ないと思って、そういう過程において決意を固めました。

  

 問:今回の辞任ということは、本意ではなかったということですか。辞めざるを得ない状況になってしまったということですか。
  

員長:私としては、そういう事態になったときに、自分の個人的な問題で内閣の大きな流れ、また自民党の責務、その重要性を感じましたときに、今までは法的問題もないし、全て過去の問題だからということで辞めるつもりはございませんでしたが、そういう大きな問題になったときに、大局の前にはやはり個人的な問題について責任を取ろうと思って辞める事に決意をいたしました。

  

 問:道義的責任、それから運用上の問題があったという事は、お認めになられるのですね。
  

員長:運用上の問題というわけではなく、私の場合においては、党員になっていただく場合の党費について、大京の場合もそうでございますし、またある社が記事として書かれました霊友会の場合もそうでございますが、みんなまじめに党員になって頂いたその親団体が党費を支払うということから、私の個人的な問題になっているわけです。これはそういうシステムの中において、どうしても比例代表の当選のランクに滑り込む為には最低の党員が必要で、その最低といっても非常にレベルが高いもので、過去3回の選挙とも党員と党費で苦労したわけでございます。

  

 問:今日、官房長官に辞表を提出したのは何時頃で、その時官房長官からお言葉はありましたか。
  

員長:特に話はありませんでした。大変ご苦労様でしたと、残念だけれど私の辞意を尊重いたしますと、それだけでございます。辞表提出は、4時頃ではなかったでしょうか。

  

 問:総理とはお話になっていないのですか。
  

員長:電話では話しました。

  

 問:総理からは何かありましたか。
  

員長:やはり同じ様な趣旨でございます。

  

 問:それは官房長官にお会いした後ですか。
  

員長:総理とは、昨晩でございます。

  

 問:その時点では辞任される事は決めておられたのですか。
  

員長:自分で一番最初に決めましたので。

  

 問:大臣の方から電話をされて、総理に直接お伝えになったということですか。
  

員長:総理の方のご都合がありましたので、電話をいただく事になっておりました。

  

 問:官房長官とはどこでお会いになったのですか。
  

員長:官邸周辺と申し上げておきます。

  

 問:国会が開会した中で、大臣個人の問題が妨げになるのは避けなければいけないというご判断という話でしたが、今までの過去の経緯は法律的には何も問題はないというお話でしたが、そういう意味でいうとそのこと自体は大臣をやるに当っては、今でも何の問題もないというお考えですか。
  

員長:それは当初から申しております。ただ、あまりにも各党全部がこの一点に絞っているようでございますので、それは国の全体の重要問題を審議しなければいけないのを、かなり妨げるのではないかと、これはやはり国会にまた国民に対して申し訳ないことだと思いましたから。

  

 問:道義的責任もないとお考えですか。
  

員長:それは私の不徳のいたすところだと思います。

  

 問:就任の時に森総理と官房長官に、この問題を既にお伝えしていたかと思いますが、にもかかわらず任命されたということで、森総理と官房長官の任命責任がクローズアップされているのですが、これについてはどうお考えですか。
  

員長:それは私から言うべきことではないと思いますが、就任の時からそういう問題がございましたが、当時まだ官房長官になっておられない幹事長代理だった中川さんと、また中川さんを通じての総理は、それはそうご判断をされて、過去の問題でもあり法律的にも何一つ問題のない問題であるということをお認め頂いたと思って、私は納得をしたわけでございます。

  

 問:派閥会長の加藤元幹事長とはお話になったのですか。
  

員長:加藤会長とは、この問題というよりは今度のそごう問題あるいは金融問題全般について、私が就任した後、たしか7月17日と18日の2日間衆参両院の委員会で審議がありましたときの直前に、柳澤初代大臣と第3代大臣の谷垣大臣と私とでお呼び頂いて、専らそごう問題あるいは瑕疵担保の問題を4時間くらい議論をいたしました。そういう過程において色々とお話を申し上げました。何回も金融問題については電話で話をしております。今回の私の個人的問題については、加藤先生とは電話でお話をいたしまして、私が決意をしてから「こういう風に決意をしました」と申しましたところ、ご理解たまわるとともに、これに対して色々と話がありました。

  

 問:就任されてからは、まずそごう問題でそごうの亡霊にうなされたと仰っていましたが、これから献金問題のようなことがありまして、この26日間を振り返ってどんなご感想をお持ちでしょうか。
  

員長:私は非常に残念でございます。この会見で、単に今回辞職を決意したという事だけを申し上げようかと思ったのですが、わずか1ヵ月間足らずの期間ではございましたが、大変金融政策上重要なそごう問題と日債銀問題から出てくる諸々の問題に取組ませて頂きました。初めはそごう問題はどちらかと言えば引き継いだ問題という事で、最善の処理をしていこう。本当に当面してどうしていいか分からない頃に、政治的な判断も加わったとはいえ、そごうが自主的な判断で民事再生法の道を歩んでくれたことは、一つの大きな解決の方法だからそれに従うべきだということが私の痛感した1点目です。2点目は、日債銀の問題についてどうするかということについて、私自身1ヶ月延長ということを決断させていただきました。これは勿論ソフトバンク・グループ3社の要望もあったわけですが、要望と私の決断の両方で、1ヶ月足らずの間で色々と勉強させて頂いて、その結果私なりに大事な問題について一つの方向性を示すことができました。今26日と仰いましたが、1ヶ月足らずでございましたが大変感慨無量でございますし、また金融問題についてようやく私なりの一歩を踏み出そうとする時に極めて残念でございます。また、この記者会見の席上皆様方から色んな質問を頂き、財研の皆様が中心となって専門的に金融問題についてそれぞれがお考えをもっておられる。非常に感銘を深く拝聴した事もございます。夜も私の家にかなりの方に来て頂き、私もむしろこれを一つの自分の勉強の場としてお話ができた事も、非常に思い出の深いものがございます。

  

 問:正直言ってこんなに大変だとは思はなかったのではないですか。
  

員長:これは大変だとは思いましたが、やはり私として従来あまり取組まなかった分野であっただけに、本当に土曜も日曜もなく幹部の皆様方と勉強会を重ねてこの20日くらいを過ぎた時に、私なりにも自信ができてきましたし、自分の判断をするとそれはどうだろうかと幹部の方に聞いて、それが間違いでなかったと思うこともしばしばございました。

  

 問:先程、心残りと言われましたが、一番大きな心残りは日債銀譲渡の件になるのですか。
  

員長:そごう問題、日債銀譲渡問題の両方に共通する問題ですが、瑕疵担保特約という問題は非常に重要な問題であって、あそこに一つの道を求めたということは、やはり優れた判断だと今でも確信をしております。法理と申しますか、私法の原理というものを、久し振りで思い出し、その適用について考えさせられました。リーガル・マインドについて考えさせられた問題でした。日債銀問題は、今1ヶ月延ばしましたが、これは先程申しましたが、延ばしたのはあくまでも説明責任と申しますか、国会にそして国民によく説明する事によって、本当に理解の中において従来通りの契約をやっていきたいという考えを今は強くしているから、ある意味においては日債銀問題は当面する問題として最も重要な問題かと思います。

  

 問:今仰った日債銀譲渡の問題は、現行の契約のままで譲渡契約を行う事について、後任の相沢委員長にも引き継がれるのですか。
  

員長:後任の相沢先生は、金問調会長としてのエキスパートでおられますし、私が日債銀問題について、実は何回かご相談を電話でした方でございます。従ってこの点は申し上げるつもりでありますが、相沢先生は本当に専門的なまたご経験豊なご判断があるでしょうし、特にここ数日は金問調を連日開いて頂き、その中においても多くの意見の集約をされたわけでございますので、私はそれに一言加える程度にしたいと思っております。

  

 問:今回政治問題になったポイントは、三菱信託と長い付き合いがあったことを踏まえながら金融再生委員長になられて、仮にこのまま委員長を続けられた時に、三菱信託の問題が起きた時に正しい判断が行えるかどうかということが非常に大きな問題だと思うのですが、そこのところが大きな問題だとしても委員長は続けるべきだと思われたのですか。
  

員長:私は続けるべきだと思いました。

  

 問:間違った判断は下さないということですか。
  

員長:私はあらゆる問題についてこれが言えるのだろうと思います。私が長年やりました地方自治体の場合は、私が勤務した2、3の県には、大変愛着・愛情を持っていますが、だからといって行政の公平を乱す事は絶対にあり得ないということは確信を持って言えます。それと同じ様に金融行政の責任者になった以上は、過去において例え付き合いが長かったとしても、それは公正・公平・厳正な中立の立場においてやるべきだと確信をしております。

  

 問:就任した当初は、この一連の問題はこれほど大きくなると思っておられましたか。
  

員長:全く思っておりませんでした。私にとりましては、三菱信託の金融の問題とか、信託の問題をうんぬんしていた関係なら別といたしまして、どちらかと言いますと私の元々の専門である地域政策とか地方自治について自由な勉強をする研究会の場を作ってあげましょうという事でございましたし、その前から引受けた顧問もそういうような問題に関する顧問として、国土政策と地方自治の分野にウエイトをもったものとしてやっていましたので、就任の時にこれがこういうことになるとは夢だに思っておりませんでした。

  

 問:結局は、国会審議にこれだけ影響を与えると事前に思われて辞めるわけですが、就任前から大臣を含めて任命権者の森総理も官房長官も認識に甘さがあったと思いませんか。
  

員長:その問題は、初めは私は金融の問題とか信託の問題で長く付き合っていたと誰もが思うかもしれませんが、官房長官にも総理にもそういう関係ではなく、私が長年やっていた地域政策とか地方自治の諸問題を、「やってください」と、「幅広い勉強の場を作ってあげます」と、「その座長になってください」という関係でありましたから、そういう感じを私は持ちませんでした。

(以上)


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