長銀譲渡に係る最終契約書の概要

平成12年2月9日

.本最終契約書の基本的性格等
(1)  預金保険機構(以下、「機構」とする)、長銀及びニュー・LTCB・パートナーズ・CV(以下、「パートナーズ社」とする)は平成12年2月9日、長銀譲渡に係る最終契約書(株式売買契約書)を締結した。〔前文〕
 
(2)  本最終契約書に基づき、パートナーズ社は実行日(3月1日を予定)に長銀の既存普通株式約24億株を機構から10億円で買取り、新規普通株式3億株の引受のための1,200億円の払込みを行う(以下「クロージング」とする)。〔第1条〕
 
(3)  パートナーズ社は、機構により金融再生法に基づく損失補填・金銭贈与が実行されていること、長銀に重大な悪影響が生じていないこと、機構及び長銀に本最終契約書上の義務及び表明について重大な悪影響を及ぼす違反がないこと等を前提にクロージング等の一連の取引を行う。〔4.2〕
 
(4)  機構は、パートナーズ社に本最終契約書上の義務及び表明について重大な悪影響を及ぼす違反がないこと、パートナーズ社の買収後の経営陣・取締役の構成に係わる表明違反がないこと等を前提にクロージング等の一連の取引を行う。〔4.2〕
 
(5)  当事者が延長する旨同意した場合を除き、本最終契約書はクロージングが平成12年6月1日までに完了しない場合に終了する。但し、機構及びパートナーズ社が書面により合意した場合には本最終契約書を解除することができる。上記(3)、(4)の前提条件が成就しないことでクロージングが行われない場合、全当事者は前提条件成就のために最大限努力する。〔第12条〕

 

.買収方式・買収金額等
(1)  パートナーズ社は既存長銀株式(普通株式約24億株、優先株式1億株(注))のうち普通株式の全株(単位未満株を除く)を10億円で機構より取得する。〔3.1〕
 
(2)  既存長銀優先株式のうち約7,453万株は引き続き機構が保有し、残りの約2,547万株は無償消却する。〔3.2〕
(注)  既存優先株式は廃止された金融安定化緊急措置法に基づき整理回収銀行(当時)が長銀より引き受けたもので、購入価格は1,300億円。長銀の特別公的管理開始に伴い対価0円で機構が取得。その現行条件は以下の通り。
配当率は年1%。
 
普通株式への転換権付きで、転換価格は昨年10月1日より1株当たり180円となり、以後同額で固定。
 
強制転換は2008年で、それまでの間も随時転換可能。

 

.新規増資・自己資本比率
(1)  パートナーズ社は新生長銀の新規発行普通株式3億株を1,200億円(1株当たり400円)で引き受ける。〔3.2〕
 
(2)  新生長銀は政府に対し、早期健全化法に基づき、健全な自己資本の状況にある旨の区分に該当する金融機関として(承認日現在で自己資本比率4%以上達成が条件)、新生長銀の新規発行無議決権優先無額面株式6億株を2,400億円(1株当たり400円)で引き受けるよう要請する。その他の主要条件は以下の通りである。〔3.2、3.4〕
発行日の5年目の応当日後の8月1日以降から転換可能。
 
転換価格は5,6,7年目の応当日後の各8月1日に1株当たり400円又は市場価格(上場前は1株当たりの純資産額)のいずれか低い方に調整。(但し、300円が下限)
 
7年目の応当日後の8月1日に強制転換。
 
配当は金融再生委員会が決定。
 
(注) 2(2)の既存優先株式と併せて、普通株式へ転換した後の機構の最大持ち分は33.0%。
 
(3)  自己資本比率は13%程度(後述の保有株式含み益実現後ベース)

 

.機構による損失補填等
(1)  機構は長銀の単体ベースの貸借対照表の特別公的管理勘定に計上されている金額をもとに損失補填・金銭贈与等を行う。当該貸借対照表は長銀譲渡時の会計基準に基づき作成される。〔2.1及び2.2〕
 
(2)  機構は、基準日(実行日の前日。2月29日を予定。)の予備的基準日貸借対照表に基づき、金融再生法第62条、第72条に基づく損失補填・金銭贈与の仮払いをクロージングまでに行い、クロージング後作成される確定基準日貸借対照表に基づき、最終的な金額を確定・精算する。〔2.3及び2.4〕
 
(3)  確定基準日貸借対照表は、長銀が作成し、長銀の監査法人の監査を受けた上で、機構の承認を得てパートナーズ社に提出する。パートナーズ社は自ら依頼した会計事務所にそれを検討させ、貸出関連資産等の項目以外の項目について異議があれば、長銀の監査法人と協議させる。協議が整わない場合は、第三の会計事務所に判断を求める。機構、パートナーズ社は第三の会計事務所の判断を尊重するが、紛争解決のために最終的に訴訟を提起することは妨げられない。〔2.4〕
 
(4)  機構による損失補てん等に伴い長銀に法人税等の納付義務が発生する場合には、これを加味した損失補てん等が行われる。〔2.5〕

 

.長銀保有株式(政策保有株式)の取扱い(別紙参照)
(1)  長銀保有上場株式を下記(2)〜(7)に従って売却し、合計2,500億円の含み益を実現して新生長銀の自己資本の増強に充当する。
 
(2)  長銀は、2000年1月31日現在の保有株式の銘柄、数量、簿価及び同日現在の時価の一覧表をパートナーズ社に交付済。同日現在で含み損のある上場株式は、クロージング前に機構に対して(当該株式が(5)に係る株式である場合)又は市場で売却する(機構に対する売却価格は一覧表記載の価格)。〔7.1〕
 
(3)  パートナーズ社は、一覧表の含み益のある上場株式の中から含み益の合計が新生長銀の自己資本比率を4%以上とするために必要となる金額になるような株式(「第一次売却株式」)及びその含み益の合計が2,500億円から上記金額を控除した額となるような株式(「第二次売却株式」)をそれぞれ指定し、機構及び長銀に通知する。〔7.3〕
 
(4)  含み益を有する上場株式のうち第一次売却株式及び第二次売却株式以外の保有株式はクロージング前に、第一次売却株式はクロージングの当日に、第二次売却株式はクロージング後90日以内に、それぞれ機構に対して(当該株式が(5)に係る株式である場合)又は市場で売却する(これら3つの区分に属する個別の株式の売却予定先(市場又は機構)は(3)の指定の際に決定。機構に対する売却価格はいずれも一覧表記載の価格。)。〔7.4〕
 
(5)  新生長銀の営業上必要な株式は機構が購入し、これを長銀信託に信託する。クロージング後5年間、機構は新生長銀の同意なく当該株式を売却せず、当該株式に係る名目上の所有権及び議決権は長銀又は長銀信託がこれを有し、新生長銀は、原則として随時、公正な価格で当該株式を機構から買い戻すことができる。機構は売戻しにより損失が発生する場合には売戻しを拒否することができる(信託期間が5年目に入って以降に拒否した場合には当該株式に係る信託期間は拒否時から1年後まで延長される。延長期間中に機構が売戻しを拒否した場合も同様。)。
 但し、特定の株式について長銀が書面にて通知した場合(通知は2回まで可能)には、当該通知日以降、機構は長銀の同意なくして当該株式を売却することができる。この場合、実行日から5年間、長銀は当該株式の売却に関する第一優先購入権(機構に最も有利な第三者からの条件と同一の条件で購入する権利)を有する。〔7.6〕
 
(6)  新生長銀の営業上必要ない株式は公正な価格で市場又は機構(下記(7)の場合)に売却する。機構が購入した場合には長銀信託への信託等の義務は負わない。〔7.6〕
 
(7)  長銀保有株式を市場で売却しようとする時には長銀又は新生長銀は事前に機構と協議する。機構は株式の売却に反対はしないが、株式市場の状況等によっては株式の売却先を機構に指定して公正な市場価格で当該株式を購入することができる。〔7.5〕
 
(8)  長銀は、非上場株式のうち、指定子会社株式、制約株式(端株及び単位未満株並びに実行日から少なくとも5年間発行体の同意があっても法律等により売却不可能なもの)及び経営破綻先の株式以外の非上場株式を、クロージング前及びクロージング後5年間機構又は第三者へ売却するよう努力する。クロージング後5年間に売却できた場合の損益(売却時の公正価格と基準日の評価額との差額)は機構に帰属し、売却できなかった株式については、実行日の5年後の応当日における公正価格と基準日の簿価との差額を機構に帰属させる。〔7.1及び7.2〕
 
(9)  指定子会社株式、制約株式及び経営破綻先の株式は長銀が継続保有する。〔7.1〕

 

.機構保有の新生長銀株式の売却
(1)  機構保有の新生長銀株式の時価総額が5,000億円を超えている場合には、新生長銀は機構に対し、その保有する新生長銀株式の一定の数量を市場において公正な価格により売却すること及び当該売却のために機構保有の優先株式を普通株式に転換することを要請することができる。〔3.5〕
(注1)  新生長銀の普通株式の価格が1株当たり440円になると、機構保有株式の普通株式換算ベースの時価総額は5,000億円に達する。
 
(注2)  新生長銀の普通株式の価格が1株当たり465円となっている時に、その価格で2(2)の既存優先株式を普通株式に転換して全て売却した場合、この既存優先株式から得られる機構のキャピタルゲインの額は2,500億円となる。
 
(2)  機構は上記の要請に対し不合理に拒否しないものとする。〔3.5〕

 

.貸出関連資産の継続保有等
(1)  新生長銀は、金融再生委員会の資産判定により「長銀が引き続き保有することが適当」(以下、単に「適」と言う)とされた全ての貸出関連資産を引き続き保有する。〔第10条〕
 
(2)  パートナーズ社は、新生長銀が引き続き保有する貸出関連資産に係る債務者との良好な関係を保つため、少なくともクロージングより3年間は、新生長銀に以下のような基本方針で融資の管理を行わせることを表明する。
すなわち、特段の事情のない限り、( i )貸出関連資産を売却せず、( ii )急激な回収を行わず、かつ、( iii )借換え、季節資金等当該債務者の適切な資金需要に応ずることとする。〔第11条〕
(注1)  上記( ii )の「急激な回収を行わず」とは、契約上認められた債務者の期限の利益を守り、当該期限について債務者に不利な条件変更を行わないことをいう。
 
(注2)  上記(2)に関して、「特段の事情」のある場合とは、上記( i )については、債務者の保護の趣旨に反しない長銀の資金調達を目的とするローン・パーティシペーションや貸付債権の証券化を行う場合、( ii )及び( iii )については、回収を行わない場合や借換え等に応ずる場合に新生長銀に損害が発生することが合理的に予見できる場合をいう。

 

. 当初引当金

 金融検査マニュアルに則った自己査定要領及び日本公認会計士協会実務指針に定められた基準に従って基準日において適切に計上されることとする。

 

. 貸出関連資産の瑕疵担保
(1)  クロージング時において機構は新生長銀に貸出関連資産を売却・譲渡したものとみなす。〔8.1(1)〕
 
(2)  クロージングから3年以内に、当該資産に瑕疵があり、2割以上の減価が認められた時は、新生長銀は当該資産の譲渡を債務者毎の全てについて一括して解除することができる。〔8.1(1)〕
 
(3)  解除の場合、機構は当該資産の返還と引き換えに当該資産の当初価値(当初引当金控除後ベース。以下、同じ。)に相当する金額(それまでの間に返済額があれば、その額を控除した額)を新生長銀に払い戻す。〔8.2(5)〕
 
(4)  (2)の「2割以上の減価」とは、同一債務者に対する全貸出関連資産のその時点での現在価値(その時点での引当金控除後ベース。以下同じ。)の総額が、それら貸出関連資産の当初価値の総額に比し2割以上減額していることを言う。〔8.1(4)〕
 
(5)  (2)の「瑕疵」とは、当該資産に関し金融再生委員会が「適」と判定した根拠について、長銀買収時から3年以内に変更が生じたか、又は真実でなくなったことが判明したことを言い、変更又は真実でなくなったことがクロージング後の専らパートナーズ社又は新生長銀の責めに帰すべき事由によって生じた場合は「瑕疵」に含まれない。〔8.1(2)〕
 
(6)  金融再生委員会が「適」と判定した根拠が明示されていない場合(例えば正常先の債権は原則として「適」と判定されている)等において、当該債務者に一定の客観的な事実が発生した場合には、新生長銀はそれを「瑕疵」と推定することができる。〔8.1(2)〕
(注)  例:正常先の債権についてクロージングから3年以内に元本又は利息の3ヶ月以上の延滞が発生している場合には、新生長銀は「瑕疵」の存在を推定できる。
 
(7)  債務者から債権放棄の正式要請を受けてこれに応じた時は、新生長銀は当該資産について解除権を持たないものとする。〔8.1(5)〕
 
(8)  解除権の対象となる貸出関連資産は各債務者ベースで1億円以上のものとし、クロージング後に更新借換及びロールオーバーされたもの等実質的に同一性のある貸出関連資産を含み、新規実行分を含まない。〔8.1(1)〕
 
(9)  クロージングから3年以内に、戦争、自然災害、経済大恐慌等の不可抗力が生じ、その結果として債務者の状況が悪化したときには、機構の支払義務は制限を受ける。その際、機構と新生長銀は債務者の状況悪化がその不可抗力に起因するか否か等を含め公平な負担のあり方について誠実に協議する。〔8.3〕
 
(10)  解除権を行使する場合、新生長銀は四半期毎に機構に通知する。機構に異議があり双方の協議が整わない場合、双方が合意する会計事務所が検討を行う。新生長銀及び機構は当該検討結果を尊重するが、不服がある場合には裁判所に提訴することができる。〔8.2〕
 
(11)  上記のほか、貸出関連資産の瑕疵担保に係る詳細としてコミットメントライン等による貸出が行われた場合の取扱い等を規定。〔8.1等〕

 

10 .デリバティブのクレジット・リスクの軽減措置

 機構は、基準日現在長銀が保有するデリバティブについて、デリバティブの他方当事者の破産、支払債務不履行により実行日より5年間に50億円を超える損失が発生した場合には、その超価額を負担する。

 

11 .取締役会及び経営陣〔第9条〕
(1)  八城政基氏が代表取締役、会長、社長兼最高経営責任者に就任する予定である。
 
(2)  取締役の過半数は日本人とする。
 
(3)  今井敬氏、樋口廣太郎氏、ティモシー・コリンズ氏、J・クリストファー・フラワーズ氏が取締役に就任する予定である。
 
(4)  ポール・A・ボルカー氏がシニア・アドバイザーに就任する予定である。

 

12 . 表明等〔第5条〕
(1)  機構とパートナーズ社は互いに通常の企業買収契約に含まれる表明及び補償を行う。
 
(注)  例:機構は、長銀について法律の遵守、許認可の取得、知的財産権の侵害の不存在、貸付取引の適法性・有効性、昨年3月期及び9月期の財務諸表の正確性・公正性、納税申告書の正確性等を表明。パートナーズ社は主要な投資家の名称、出資比率、権限、意思決定の概要、本件取引に係る資金の十分性等を表明。
 
(2)  機構による表明及び補償についての有効期間は、法人税等の表明違反についてはクロージング日を含む事業年度の税務申告書の申告期限から5年間、法人税等以外についてはクロージング後3年間(当該3年の期間内にかかる損害発生の原因となる具体的事実について機構に対して通知することを要するが、損害額の裁判等による確定が3年間経過後であることを妨げない)とする。法人税等以外の表明違反に係る補償については、損害額の総額が50億円以下の場合は発生せず、総額が50億円を超えた後の1件1億円以上の表明違反について機構が補償する。法人税等の補償は課税後ベースで行われる。
 
(3)  パートナーズ社による表明及び補償についての有効期限はクロージングから3年間(当該3年の期間内にかかる損害発生の原因となる具体的事実についてパートナーズ社に対して通知することを要するが、損害額の裁判等による確定が3年間経過後であることを妨げない)で、損害額の総額が50億円以下の場合は発生せず、総額が50億円を超えた後の1件1億円以上の表明違反についてパートナーズ社が補償する。

 

13 誓約〔第6条〕

 機構及び長銀は、今後クロージングまでの間の行為について通常の企業買収契約に含まれる誓約を行う。
 

(注)  例:機構は長銀に対して、健全な銀行の実務に従った事業を行わせ、不適資産の譲渡を除く重要な資産の処分(健全な銀行の実務に従ったものを除く)及び定款等の変更等及び表明が虚偽となるおそれのある行為を実行させない。長銀は株式の分割、新株の発行等の資本関連取引、健全な銀行の実務に反する債務負担、買収又は投資、重大な悪影響を及ぼす恐れのある契約の締結等を行わない。長銀は本株式売買契約書締結日から実行日までの間パートナーズ社側が合理的に要求する長銀の財務・営業等の情報について合理的なアクセスを確保する。

 

(本資料は「株式売買契約書」の概要を金融再生委員会事務局においてまとめたものであり、詳細については、「株式売買契約書」を御参照下さい。)


 別紙


株 式 売 買 契 約 書
長銀譲渡に係る最終契約書の骨子

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