ディスカッションペーパー

21年度ディスカッションペーパー

2010年3月19日

  • 「海外における金融規制に関する政策評価の動向-英国・EUの政策評価の現状とわが国への課題-」
    杉浦 宣彦 中央大学大学院戦略経営研究科教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    近藤 哲夫 NRIヨーロッパ社長

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2010年3月19日

  • 「新興市場と新規株式公開のレビュー」
    岩井 浩一 金融研究研修センター研究官
    保田 隆明 金融研究研修センター専門研究員

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2010年3月19日

  • 「中小企業のデフォルトリスクとその期間構造:大規模財務データによる実証分析」
    藤井 眞理子 東京大学先端科学技術研究センター教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    竹本 遼太 東京大学先端科学技術研究センター協力研究員

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2010年3月19日

  • 「日本企業の負債政策と税制:パネル分析」
    國枝 繁樹 一橋大学国際・公共政策大学院准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)

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2010年3月19日

  • 国際化に伴うリスクのマネジメントに関する研究会報告書「アジア域内におけるリスクのマネジメントと金融機能の提供について」

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2010年3月12日

  • 「内部格付手法における回収率・期待損失の統計型モデル-実績回収率データを用いたEL・LGD推計-」
    三浦 翔 金融研究研修センター専門研究員
    山下 智志 総合研究大学院大学統計数理研究所准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    江口 真透 総合研究大学院大学統計数理研究所教授

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2010年3月12日

  • 「買収防衛策導入の株価への影響について」
    竹村 泰 日本生命保険相互会社
    白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    川北 英隆 京都大学経営管理大学院教授

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2010年2月3日

  • 「Additional Evidence on Earnings Management and Corporate Governance」
    三谷 英貴 金融研究研修センター研究官

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2010年2月3日

  • 「A Note on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral」
    藤井 優成 東京大学大学院金融システム専攻博士課程
    嶋田 康史 株式会社新生銀行キャピタルマーケッツ部部長
    高橋 明彦 東京大学大学院経済学研究科教授
    (金融研究研修センター特別研究員)

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2009年11月30日 (※12月28日にPDFを更新いたしました。)

  • 「The Optimal Basel Capital Requirement to Cope with Pro-cyclicality: A Theoretical Approach」
    吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授
    (金融研究研修センター長)
    平野 智裕 金融研究研修センター研究官
    三浦 翔 金融研究研修センター専門研究員

    要旨へ  PDF本文へ(PDF:307K)

2009年7月22日

  • 今後の証券市場の在り方に関する研究会報告書「金融危機後の金融・資本市場をめぐる課題」

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2009年7月13日

  • 「長期的株式投資パフォーマンスの視点から:再考と展望」
    白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    鈴木 雅貴 金融研究研修センター専門研究員
    吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授
    (金融研究研修センター長)

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2009年6月30日

  • 「企業の社会的責任投資(SRI)ファンドの収益性について」
    白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)

    要旨へ  PDF本文へ(PDF:380K)

2009年6月26日

  • 「銀行倒産における国際倒産法的規律」
    嶋  拓哉 北海道大学大学院法学研究科教授
    (金融研究研修センター特別研究員)

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ディスカッションペーパー要旨

海外における金融規制に関する政策評価の動向-英国・EUの政策評価の現状とわが国への課題-

杉浦 宣彦 中央大学大学院戦略経営研究科教授
(金融研究研修センター特別研究員)
近藤 哲夫 NRIヨーロッパ社長

政策を策定する上で、エビデンス(証拠)に基づいてその影響の検討を行うべきという考え方はグローバルに定着した流れである。政策実現のために導入される規制(案)が、エビデンスに基づいて検討されたものであるかどうかを検証するツールである規制影響評価は、わが国でも、政策を事前事後に評価する仕組みが運営されているところである。

しかし、金融規制の評価に関しては、環境や交通、健康に関する規制に比べると、総じて影響の範囲が広範であり分かりづらい。そこで、EUや英国における金融規制に関する評価は実際にどのように手がけられ、活用されているのか、また、規制の影響評価の品質を高めるためにどのような工夫を行っているのか、そもそも規制の影響評価自体についてどのような評価が行われているのかについて、本稿では、規制の影響評価(事前)を日本よりも先行して進めてきた英国やEUでの実情を検討・紹介し、今後の日本の金融規制に関する政策評価のあり方についての示唆を探る。

キーワード: 金融規制、規制影響評価、Cost Benefit Analysis

新興市場と新規株式公開のレビュー

岩井 浩一 金融研究研修センター研究官
保田 隆明 金融研究研修センター専門研究員

本稿は新興市場と新規株式公開に関するレビュー論文である。内外の既存研究を概観することを通じて、本邦市場の制度設計への示唆を引き出すこと、及び、今後の研究課題を整理することを目的としている。

新規株式公開は多くの市場参加者が関与する各種の手続きから構成されており、その結果、多様な利害対立が内在している点に、その最大の特徴を求めることができる。換言すれば、新興市場や新規株式公開の望ましい制度のあり方は、市場参加者によって異なったものとなる。こうしたなか、既に国内でも行政当局、自主規制機関、業界関係者、研究者等によって、新興市場や新規株式公開の望ましい制度のあり方に関して活発な議論が進められてきたが、これら議論の多くは市場参加者間の利害対立をどのように調整すべきかについて、必ずしも、統一的な視点あるいは公平な立場から整理してきたわけではないように窺われる。そこで本稿では、既存研究を丹念に調べることを通じて、新興市場や新規株式公開の制度設計を考察するうえで重要となる切り口を提示し、これをもって、既往の議論に対して新たな洞察を提供することを企図している。

こうした目的のために本稿は幅広い論点に亘り新興市場や新規株式公開を考察している。議論は2つの柱から成る。第一は新規株式公開を巡るアノマリーを通じた考察である。具体的には、過小値付け問題(アンダープライシング)、中長期アンダーパフォーマンス、IPOサイクルに注目する。これらアノマリーの発生原因に関する理論・実証分析を概観することを通じて、制度設計上の課題を浮き彫りにする。第二の柱は、新興市場と新規株式公開に係わる各種法制度に関する考察である。価格決定・割当方式、上場基準・上場手数料、新規公開時の情報開示制度、需給調整制度、売買制度、上場廃止制度が本稿の分析対象である。各制度について、それが果たす経済的な機能、その機能が発現しているかに関する実証的分析を点検することを通じて、制度設計上の留意点を整理する。こうした作業を経たうえで、最後に、今後の制度設計に対する示唆と研究課題を取り纏める。

キーワード:新興市場(junior markets)、新規株式公開(IPO)、アノマリー(anomaly)、制度改革

中小企業のデフォルトリスクとその期間構造:大規模財務データによる実証分析

藤井 眞理子 東京大学先端科学技術研究センター教授
(金融研究研修センター特別研究員)
竹本 遼太 東京大学先端科学技術研究センター協力研究員

デフォルトリスクの評価にあたっては、公開企業の場合には株価をはじめとする市場の情報が有用な変数となることが多いが、非公開企業では財務データをいかに有効に活用できるかが重要なポイントとなる。本稿では、中小企業の大規模財務データに基づくデフォルトリスク評価のモデルを構築し、デフォルト確率の推定とその期間構造に関する実証分析を行った。

具体的には、代表的な財務変数およびマクロ経済変数を用いた多期間ロジットモデルにより実証分析を進めた。その結果、第1に業種によりモデルの説明力に違いがみられること、第2にデフォルト確率に与える影響の大きさを比較すると、流動性(現預金/総資産比率)やカバレッジ(売上総利益/支払利息)が重要な変数となっていること、第3に、足元の財務指標にもとづいて2年後、3年後のデフォルト確率を推定すると統計的に有意な結果が得られ、このデフォルト確率の期間構造と説明変数が与える影響の大きさの関係を分析すると、流動性は近い将来への影響が大きいのに対し、負債比率の悪化は時間の経過とともにデフォルトリスクを高め、2年後、3年後のデフォルトに対してより大きな影響を与えていることなどが示される。

キーワード:デフォルトリスクの期間構造、中小企業、多期間ロジットモデル

日本企業の負債政策と税制:パネル分析

國枝 繁樹 一橋大学国際・公共政策大学院准教授
(金融研究研修センター特別研究員)

國枝・高畑・矢田(2009)においては、我が国の上場企業のクロスセクションのデータに基づき、法人税の非対称性や損金繰越しの存在を明示的に勘案し、各社ごとの限界税率の推計を行った上、各社の直面する限界税率の差異が日本企業の負債政策にも重要な影響を与えていることを明らかにした。本稿においては、さらに我が国の上場企業の直面する限界税率およびその他の財務政策に関連する指標のパネルデータを作成し、分析を行った。分析結果は、パネルデータの対象期間が非常に短いこともあり、個別固定効果を勘案した場合は限界税率の負債政策への影響は確認できなかったものの、各年度のクロスセクション、プーリング推定、時点固定効果のみを勘案した場合等においては、國枝・高畑・矢田(2009)の結果と同様に、日本企業の負債政策に限界税率が影響を与えているとの結果を得た。こうした分析結果は、米国企業の負債政策に各社の限界税率が影響を与えるとするGraham(1996)等の先行研究の結果と整合的である。法人税法上、負債が株主資本と異なる取扱いを受けていることが日本企業の負債政策を歪めているとすれば、負債と株主資本の取扱いを同一にする方向での法人税制改革が我が国においても望ましいこととなろう。

キーワード:負債政策、資本構成、限界税率、法人税

内部格付手法における回収率・期待損失の統計型モデル-実績回収率データを用いたEL・LGD推計-

三浦 翔 金融研究研修センター専門研究員
山下 智志 総合研究大学院大学統計数理研究所准教授
(金融研究研修センター特別研究員)
江口 真透 総合研究大学院大学統計数理研究所教授

2007年3月から邦銀に対してバーゼルII (新BIS規制)の適用が始まった。これに伴い、信用リスク管理において、各行独自のリスク評価手法の開発が認められるようになり、基礎的内部格付手法(FIRB, Foundation Internal Ratings-Based approach)から先進的内部格付手法(AIRB, Advanced Internal Ratings-Based approach)への移行に際して推計値が必要とされる債権回収率(RR, Recovery Rate)、またはデフォルト時損失率(LGD, Loss Given Default)の推計精度の向上が求められている。しかし、債権回収のデータベースの構築が充実していないことや、債権回収途中のデータの取り扱いなどに対する一般的な手法が確立されておらず、いまだに回収率推計モデルの研究は進んでいない。

本研究においては、内部格付の低下(要注意から要管理への変更)によりデフォルトを定義した場合の、担保や保証協会による保証などを勘案した回収率推計モデルの構築を行った。モデルのパラメータ推計には銀行の格付および回収実績データを用いている。また、実際の回収が長期間にわたることや、正常格付への復帰の影響を考慮することによって、より実際の回収を反映したモデリングを提案する。

その結果、担保カバー率、保証カバー率が回収率の有力な要因であることがわかり、それらの関数としてEL(Expected Loss)が推計可能であることを示すことにより、実データによる内部格付手法に応じた信用リスクの計量化を実現した。

キーワード:信用リスク、内部格付手法、債権回収率、LGD (Loss Given Default)、EL (Expected Loss)

買収防衛策導入の株価への影響について

竹村 泰 日本生命保険相互会社
白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
(金融研究研修センター特別研究員)
川北 英隆 京都大学経営管理大学院教授

金融危機以降、買収防衛策が話題に上る機会は著しく減少したが、依然として多くの企業が防衛策を存置している。本稿では、事例の蓄積も踏まえて、代表的な買収防衛策であるライツプラン導入の株価への影響について、既存の短期的視点からの研究とは異なり、中長期的な視点からの実証分析を行った。

その結果、株式市場は、ライツプラン導入した企業について全般的にマイナス評価していること、中でも流動性資産比率が低くフィナンシャルバイヤーに狙われにくい企業や、持合い株式比率が高く追加的に防衛策を導入する必要性が低い企業がライツプランを導入した場合、株価へのマイナスの影響の度合いが大きいことが判った。

キーワード:買収防衛策、株式収益率、ライツプラン

Additional Evidence on Earnings Management and Corporate Governance

三谷 英貴 金融研究研修センター研究官

本研究は、コーポレート・ガバナンスと経営者の機会主義的行動の代表例である利益調整(Earnings management)との関係を実証分析するものである。コーポレート・ガバナンスを各経済主体の株式保有という観点からとらえると内部メカニズム(経営陣による株式保有、大株主の株式保有集中度、ストック・オプション制度の有無)と外部メカニズム(国内・海外の機関投資家による株式保有、株式持合、銀行による株式保有)に分類できる。本研究の目的は、これらのメカニズムが経営者の利益調整に及ぼす影響を分析することで、株主の視点からとらえたコーポレート・ガバナンスの動態(ダイナミズム)を考察するところにある。本研究の結論は次の通り。経営陣による株式保有は、利益調整を抑制できないために、コーポレート・ガバナンスにとってマイナスである。大株主の株式保有集中度は、その程度が51%程度までなら、大株主のモニタリング機能が発揮されるので利益調整は抑制される。したがって、コーポレート・ガバナンスにとってプラスである。ストック・オプションは利益調整を抑制できないためにコーポレート・ガバナンスにとってマイナスである。国内投資運用会社による株式保有は利益調整を抑制する。したがって、コーポレート・ガバナンスにとってプラスである。銀行の持株比率の程度が39%程度までなら、銀行の株主としてのモニタリングが発揮されるので利益調整は抑制される。したがって、コーポレート・ガバナンスにとってプラスである。

キーワード:利益調整(Earnings management)、コーポレート・ガバナンス

A Note on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral

藤井 優成 東京大学大学院金融システム専攻博士課程
嶋田 康史 株式会社新生銀行キャピタルマーケッツ部部長
高橋 明彦 東京大学大学院経済学研究科教授
(金融研究研修センター特別研究員)

将来のキャッシュフローの割引率(discounting rate)としてLibor(London Inter Bank Offer Rate)が広く用いられてきた。しかしながら、通貨スワップ市場において、ベーシス・スプレッドが無視できない水準で存在し、近年は同一通貨内のスワップ市場においてさえも、期間の違うLibor間の交換であるテナー・スワップ(tenor swap)においてスプレッドが明確に存在する。これらのことから、スワップ市場と整合的に金融派生商品取引の価値を評価するためには、全てのLiborを同一のものと見做すことはできない。

さらに、近年、担保を伴った金融派生商品取引が増加していることは、契約相手(counter party)に対するリスク管理の重要性の現れであるが、最近の金融危機によりこの傾向は持続・拡大すると思われる。担保付き契約における金融機関の資金調達コストは、それがない場合に比して変化するので、Liborを用いたキャッシュフローの割引は、担保付き契約の価値評価には不適当であろう。

本論では、これらの担保付き或いは担保なしのスワップ金利と整合的なイールドカーブの構成法を解説する。

キーワード:Libor, swap curve, collateral, overnight index swap, basis spread

The Optimal Basel Capital Requirement to Cope with Pro-cyclicality: A Theoretical Approach

吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授
(金融研究研修センター長)
平野 智裕 金融研究研修センター研究官
三浦 翔 金融研究研修センター専門研究員

本論文は、銀行部門、株価・地価の資産価格を含む簡単な一般均衡モデルを用いて、バーゼル自己資本比率規制の最適比率を、理論的に導出することを目的としている。

銀行貸出を安定化させるための自己資本比率は、株価・地価・市場利子率・GDPなど、すべてもマクロ変数の影響を受けるため、一つの変数のみに連動させて、景気の波の影響を抑えようとするのではなく、理論的に求められるパラメータを与えることによって、資産価格・GDP・利子率などの変数に連動させることが望ましいことが導びかれる。

さらに、すべての国に、同じ比率(たとえば8%)を適用するのではなく、国ごとに経済構造も銀行行動も異なるため、最適自己資本比率は、それぞれの経済モデルに基づいて導出されることが理論的には望ましいことを示す。

キーワード:The Basel minimum capital requirement, Counter cyclicality of capital adequacy ratio, Optimal capital requirement

長期的株式投資パフォーマンスの視点から:再考と展望

白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
(金融研究研修センター特別研究員)
鈴木 雅貴 金融研究研修センター専門研究員
吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授
(金融研究研修センター長)

本稿では、長期的視点に基づいた株式投資のパフォーマンスについて再考する。まず過去に実現した株式投資の平均的なパフォーマンスについて概観し、これまでに高い株式リスクプレミアムをもたらしてきた要因を整理した後、これが今後の長期的な株式投資パフォーマンスに与える示唆について考察する。次に、長期的な株式収益率の予測可能性に関して、これまでに得られている研究結果を紹介する。特に株式配当利回り、株価収益率および株価純資産倍率といった株式ファンダメンタルズ指標と将来の株式収益率との関係性を整理し、これらのファンダメンタルズ分析に基づいた株式投資戦略の有効性について考察する。最後に、株式への長期的な投資が株主による経営関与等により企業の収益性にポジティブな影響を与え、これが投資家の株式投資パフォーマンスを改善させる可能性があることを、簡単なモデルを用いて示す。

キーワード:キーワード:長期的視点、株式投資パフォーマンス、株主による経営関与

企業の社会的責任投資(SRI)ファンドの収益性について

白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
(金融研究研修センター特別研究員)

日本のSRIファンド関連株と通常の株との投資収益リターンに関する実証分析の結果,2種類の株式パフォーマンスには違いがあり,SRI関連株式は有意にアウトパフォーマンスであることが判った.

また,SRIファンドの種類によって中期株式リターンの特徴や感応度に違いがあり,SRI関連株式は他の株式に比べると,市場の動向に対して比較的無頓着な傾向があるとも言えるかもしれないが,むしろ,市場のトレンドに安易に追随するものはなく,市場動向に安易に連動しない安定性の高い株式であると解釈できる.つまり,SRI関連株は市場全体の動きの過敏に左右され過ぎない性格のものであり,安定性の高い,市場の幅を広げる新たな金融商品である.

さらに,いくつかの種類のSRIファンドでは,中期株式リターンとSRI格付けとの間に,直接的に正の関係が有意に見られる.SRIスクリーニングは,企業価値創造に関する情報生産機能があり投資パフォーマンスにプラスの影響を与えていると言え,社会的な非金銭的パフォーマンスのみならず中期的な投資パフォーマンスの点からも収益性に貢献していることがわかった.

要するに,中期投資の観点から見ると,SRI関連株式は,市場の動向に安易に連動しない安定性の高い株式であり,SRIスクリーニングは投資の収益性に貢献していることが確認された.

キーワード:SRI,スコアリング,株式リターン

銀行倒産における国際倒産法的規律

嶋  拓哉 北海道大学大学院法学研究科教授
(金融研究研修センター特別研究員)

本稿の主たるテーマは、銀行倒産について、我が国の法制を参考に概観し、その特殊性に関する分析を行ったうえで、かかる銀行倒産手続が国際倒産法上如何に取り扱われるべきかを論じることにある。金融の国際化の中で、金融取引のクロスボーダー化が進むとともに、取引の担い手である銀行組織も多国籍化してきた。そのため、銀行倒産についても、単に一国の中での事象として捉えるのではなく、複数国家に跨る問題として国際倒産法上の視点からの検証が必要不可欠になっている。より具体的には、国際倒産法における普及主義の下で銀行倒産をどのように位置付けるかがクローズアップされることになる。

もっとも、各国の銀行倒産法制は当該国における預金者保護や金融システム全体への信認の維持・確保という目的を有しており、日米の法制度に見られるように、特別法に基づく独自の破綻処理手続を整備しているケースが多い。そこでは、行政機関やその命を受けた預金保険制度の運営主体が中心となって、国家主導による公権的な破綻処理体制が整備されている。銀行倒産の国際倒産法上の検証を進めるに当たっては、こうした銀行倒産法制の特殊性すなわち公権的性格も考慮に含める必要があると考えられる。

また、国際倒産法上の検証を行うに当たっては、平成12年に制定された外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(以下「外国倒産承認援助法」という)に基づく承認ルートと、従来より学説・判例が唱えてきた国際民事手続法的アプローチによる外国倒産の内国効力自動承認ルートを共に念頭に置きつつ、各々について、銀行倒産手続の承認対象性を検討する。その過程においては、これら2つのルート相互の関係にも言及することとしたい。

キーワード:銀行倒産、監督当局、預金保険機構、外国倒産承認援助法、国際民事手続法的アプローチ

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