柳澤金融担当大臣閣議後記者会見の概要

(平成14年8月2日(金)11時12分~11時44分)

【閣議案件等】

本日の閣議ですが、子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画というものが策定されたという報告がありました。防衛白書についても報告がありました。労働福祉事業団の理事長の人事について了解が行われました。前国会の法律案等についての成立の状況について報告がございました。武部農水大臣と村井国家公安委員長の海外ご出張に伴い、それぞれ臨時代理の指定がございました。

閣僚懇に移りまして、総理の方から会計検査院報告を活用するようにということで、各閣僚は所管の事項についての検査院報告を事務方からそれぞれ聴取するようにというご指示がありました。13年度のタウンミーティングの状況についての報告がありました。

以上で通常の閣僚懇が終わりまして、次に概算要求基準の8月7日閣議了解を目指しての一つの過程として、閣僚の懇談が行われました。各閣僚の発言等はご発言の閣僚からご報告があるかと思いますので、私からは時間も取りますので敢えて申しません。私の発言につきましては、金融庁は若い役所でもあるし、次々と新しい施策あるいは新しい所管も増えているので、そういうことについての定員・予算面のご配慮をお願いしたいということだけ、手短に話しておきました。

次いで、行政改革推進本部の会合が別室でございまして、公務員の採用試験について新しい方針を取り入れようということ、それから2番目に公益法人について論点整理が行われまして、パブリック・コメントにかけるという報告がございました。以上でございます。

【質疑応答】

問)

先日のペイオフ全面解禁の見直しに関する首相の指示で、ペイオフの全面解禁の見直しということになりましたが、これは、これまでの柳澤大臣のご主張とは全然違うと、金融行政の転換ではないかという声が各方面から出ていますけれども、この点について大臣の考えをお聞かせ下さい。

答)

ペイオフを我々が構造改革の一環として位置付けてきたと、このことは揺るぎません。徐々に認識が進んできているのではないかと見ておりますが、最初発表された時は何か一部先延ばしみたいな話も、あるいは評価も一斉に出たような受け止め方をしましたが、その後段々理解が進むにつれて、これはちょっとそう簡単な話ではないよということになっているのではないかと思います。このことにある意味で象徴されているように思いますけれども、つまり金融機関の構造改革の努力というのは、あるいは収益性・健全性の向上のための努力というのは、引き続いて同じような緊張感を持ってやらないと、決済システムの保護ということではなかなか一筋縄では乗り越えられないよ、ということについては、やはり認識が深まっているのではないかと思います。今の状況を延長しようというような方々からは、今度の案については不満足というような声も上がっておりますが、これも段々認識が深まってきていることの現れかなというように思います。要すれば、私どもはペイオフというものが、今の金融に必要だと考えている構造改革に資する政策だというように思っていますが、ここは揺らいでいないと。しかし同時にですね、そういうことを実行することによって、金融システムとされるものの中で、非常に重要な要素を占める決済システムというものは、やはり安定を確保しなければならないということになっているということは、我々は一貫して申し上げてきておりますけれども、この点についての認識が進んできているのではないかと、このように考えております。

問)

新札の発行について、相当な景気刺激策になるのではないかということが既に出ていますけれども、新札発行に伴う景気刺激策についてどうお考えかという点と、金融界の方は逆にATMのコスト増とか、それからペイオフの見直しに伴う預金保険料の引き上げ等もあって、相当な反発も出ているようなのですけれども、景気刺激策についてどう思うかという点と、金融界の反発について、またかなりコストアップになって、場合によってはこれが再編の促進策になるのではないかというようなことも考えられるのですけれども、その辺についてお尋ねしたいのですが。

答)

これはちょっと先程落としてしまいまして恐縮でございましたが、概算要求のことについての閣僚懇の最終の所だったと思うのですが、財務大臣からご報告がありました。ご報告によれば、当然のことですけれども、より偽造のし難いものを作りたいという目的であるということでございました。景気刺激というか、記者の方が先程仰られた、いろいろなある種の需要増を作るというようなこともちょっとお触れになりましたが、そこはまた官房長官の方から「そういうことではないですよね」という確認がありまして、本来の目的は偽造の防止であるということを財務大臣も確認されておりました。これはいつも間違える訳ですけれども、デノミなどもそうなのですね。デノミなども景気対策でやったらどうかみたいな議論がある訳ですけれども、これは私も専門の経済学者ではないので確言するという訳ではないのですが、中間財の需要というのは、つまり最終需要者、消費者からの需要でない需要というのは、本当の意味の需要とは違うのだという説がありますね。つまり企業だとかあるいは金融機関だとかが帳簿を変えなければいけない、コンピュータソフトを変えなければいけない、ATMのハードを変えなければいけないというような需要というのは、GDP上は設備投資だとかそういうものかもしれないけれども、本当の意味の需要とちょっと違うんだというようなことが、デノミの時にも論じられたことがござます。だからそこは非常に誤解をしては駄目だというような意味で、私も勉強したことがありますけれども、今回のことも同じですね。ですから私はそうした意味での景気への影響ということについては、これは簡単な需要拡大というように捉えるのは誤っているのではないかというような気持ちで見ているということです。明らかに需要が増えて、機械なりソフトなりの需要が増えるけれども、それは全く見合いのコストが生じてしまっているというのが実態だと思います。ただ偽造防止ということであれば、ある意味でこれは受忍しなければならない性質の事柄だと、こういうふうに考えています。

問)

金融界からコストアップに繋がるという反発の声が出ていますが。

答)

ですから、その点についてお答えしたわけですけれども、これは偽造防止ということであれば、やはり受忍しなければならないことであろうと、こういうことです。

問)

今回のペイオフの対策ですけれど、これはやはり地域の金融機関がペイオフになった場合は混乱が起こるという考えの上で採られるのではないですか。

答)

要するに、前から言っているように、地域の金融機関も構造改革をしてくださいという、その一環として合併等があるとしたら、それは環境整備というか支援をいたしますということを言って、今、施策の立案に努力をしているわけでございます。ですからそういう地域の金融機関の懸念とか心配というのは、まっとうに自分たちが構造改革をやることによって克服されるべきものだと我々は思っているわけです。

しかし一方、決済システムという非常に重要な、金融が担うべき機能というものに混乱が起こってはいけないということで、こういうことを致しているわけです。それで、そういうことをある種どういうふうな仕組みにするかというのはこれからの検討課題ということになっておりますから、それ以上のことを言うのはどうかと思いますが、あえて言えば、そういうことで作られた勘定をこの際活用するという人があっても、それは別に良いではないかということです。

問)

この新しい施策によって場合によっては、例えば個人向けの新しい口座を作ったり、当座預金を何らかの形で保護するということになると、資金がかなりそちらの方に移動して、決済を保護するという名目の上で、ペイオフが骨抜きになるという心配がありますが。

答)

無いのではないでしょうか。そういうことにはならないのではないでしょうか。つまり、仰られるようなことであれば、延期を求めている人の間から不満は出てこないでしょう。しかし、政府の案には我々は不満ですという声が上がっているのです。

問)

それは相沢会長は全面延期したいと思っているからでしょう。

答)

それとは違います。しかし、例えばセキュリティーボックス代わりにそこを利用したいという人があったとしても、それはあっても差し支えないのではないかという、これからのことで分からないですけれど、そういうことは言えようかということです。だけれども、やはりそれは資産運用の口座とは違いますよね。だから資産運用としての預金口座というものを考えたら、やはりそれの安全を競うとしたら、当該の金融機関が懸命になって健全性確保に努力をして、それをまさにリレーションシップバンキングとして預金者にアピールしていくという正当な方法しかないのではないかと思います。だからそこのところの緊張感というのは絶対に緩めてはいないと。

問)

例えば今のゼロ金利ということで、金利が上がれば金利のつくところに資金が流れると思いますけれども、当面デフレが続く間、多分2年ぐらいはこういう低金利政策が続くと思いますが、そういうことを見るとやはり延長という感じもしますが。

答)

そこはご質問された記者の方の議論に対して、私が口角泡を飛ばして反論しようということはしませんが、なかなか一概に言えないことに表れているように、それぞれの預金者が選択するという点は全然変わっていないのではないかと思います。

問)

ですけれど、大臣がこれだけ重要なことを、これだけ重要であればなぜもっと早くこういう議論が金融当局あるいは政府内でなされなかったのですか。何かどたばた劇みたいに偶然出てきて、みんなが騒いでいますが、金融当局として、金融システムを安定させるためになぜもっと早いうちに議論しなかったのですか。

答)

どたばた劇とかいうことは、全く私は受け入れ難いことです。数年前から私は保護されるべきものは何かということについて考えていたわけで、その当時は私はこの職にあったわけではないのですけれど、やはり決済機能なのですよ、という有力な説がありました。金融のシステムとして保護されるべきものは何かということで、それは決済機能であるというのは極めて有力な説なのですね。他方、今1,000万円までというのは何かというと、これは少額預金の保護といういわば社会政策的なものなのですね。ですからかなり発想の原点が、視点がこの1,000万円の保護ということと決済機能の保護ということとは違うということをきっちりと押さえていただかないと、やはり方向転換ではないかという先程の話もありますし、どたばた劇というような、何か思いつきでそういうことをやっているのではないかというような感想も抱かれるかと思いますが、私はまともに保護をすべき、預金保険で保護をされるべきものは何かということをずっと考えてきた人間です。

問)

それはわかりますけれども、これから先ですけれども、政府が与党の要求に対応していると多分見られると思いますが、臨時国会で与党が全面延期の法案を準備した場合はどうされるのでしょうか。

答)

政府は政府の考え方で、与党は政府に与していただいている党ということですから、その点は政府の考え方をよくご理解いただくように我々が努めて、政府に与していただけるように努めるということに尽きます。

問)

やはり交渉の中で足して2で割るということもありえますよね。

答)

私はそういうことはないですね。どういう案があるか全く念頭にはありませんけれど、今の基本的な立脚点というものの延長だったら、それは政治のことですから、ただこれは何のインプリケーションもありませんけれど、いずれにせよ視点というか筋というのはきっちりとしておくのが大事だと思っている人間ですから、そこがいい加減になるようなことはないと思っています。

問)

日本が目指そうとしている仕組は、主要国では採られていないということが先日のブリーフでありまして、南米の国ではあるという説明でしたが、南米というと、今イメージ的に混乱している国が多いので、そのあたりはいかがでしょうか。

答)

混乱したから採っているのではないのですよ。

問)

そのあたりをもう少し説明していただきたいのと、それとナローバンク論というのは90年代にアメリカであったと思いますが、実践はされていないのですけれど、主要国で採られていないのを日本で今やろうということは、環境の違いというのが決済の周りを巡ってあるということなのでしょうか。

答)

日本はどこまでもフォロアーでないといけないのでしょうか。

問)

世界に先駆けてやっていくというつもりですか。

答)

勿論そうです。なにも日本が何でもかんでも外国にあるものしかやってはいけないという考え方を私は採りません。

問)

いずれ世界の潮流となっていくという、そこまで見通しているのでしょうか。

答)

それはわかりません。しかし私は必要とあれば、或は求められればいくらでも説明したいと。

問)

決済システムを何がなんでも守らないといけないという観点でいくと、誰が守るのかという話で、例えば預金保険料を通じて預金者負担にいくという議論の一方で、そこまで守りたいのであれば公的保護もありうべきではないかという話もあると思いますが、その点についての大臣のご見解はいかがでしょうか。

答)

ここは極めて経済的負担と理念の分配をどうするかという問題ですけれども、確かに公益的な側面がありますが、私どもはそれは保険制度というものを国が作ることによって、公益的な側面があることについての手当てであるというふうに割り切りたいと考えています。制度を作ることで公益性の手当てをするというものは、国の制度の中には沢山あります。制度を作ることによって、公益というものに役立てると。そこのコストについて、まさに保険そのものについてのコストというのは、保険料ということでやってもらいたいと現段階では考えていますけれども、しかしこの保険制度を守ることについてのコストというのがありますので、役所が運用しているとか、監督しているとかというコストは、我々が国民のご負担のもとで公の部分は負担するということでありますから、そこは保険そのものを公で負担しなければならないということにはすぐにはならないと思います。

問)

個人向けの決済専用の口座を設けることの背景といいますか、考え方について教えていただきたいのですが。

答)

決済システムということのなかに、不幸な事案でしたけれど、みずほのことがありましたように、ある会社がものすごい数の個人預金口座からこれを引き落とすわけで、そういうことを考えると、特に法人というか企業の当座預金だけの問題だとはなかなか言えない。やはり決済性というのはそういう口座振替などを含めて守るということが一貫した考え方から出てくるアイディアではないかというふうに思うわけで、そういう意味で、個人もこの頃は、特に日本の場合には口座振替ということが盛んに利用されていますから、そういうことも念頭に置くと。個人のことについても、ある銀行においてストレートに落とすとなるとかなりの金額になっているということです。

問)

個人の決済について1,000万円の上限の中で収まらないということは、果たして有り得るのでしょうか。普通預金で口座振替はされていますけれど。

答)

それがいけないというわけではないのですよ。どうしても普通預金で決済を落としてもらいたいと言う人に、それはだめですというのは、例えば東京電力の料金を普通預金からは落とせませんということを言うつもりは全くありません。

問)

1,000万円の上限はあくまで有るわけですから、それをさらにはみ出してしまう心配を念頭に置いているということではないのですか。

答)

そうではありません。1,000万円というのは、個人の資産運用の手段として、大体定期預金をやってらっしゃる方が多いですよね。普通預金も含めてなのですけれど、現実は資産運用なのですから、定期預金をやってらっしゃる方が多いということですよね。そういうことに表れているようにこの1,000万円の保護というのは、やはり個人の少額の資産運用を保護しようという、あえて言うと社会政策的な視点からの措置だというようにお考えいただいたらよろしいかと思います。だから個人にもそういうものとは別の決済の口座というものがありますので、こういうことでそれをこうしてくださいと言われれば、それは同じ問題ですからそうしましょうということです。

問)

そこにセキュリティーボックス代わりに利用したいという人がいても、それはしようがないという話ですよね。

答)

それは資産運用であっても、それを運用と言えるかどうかわからないですけれど、元本が保証されているということは資産の持ちようですから、それを排除しようというのは現段階では私は考えていないということです。

問)

保険料のことについてですが、新しい決済性預金の全額保護にかかる保険料の負担というのは、基本的には金融機関と預金者に負ってもらうという考え方ですか。

答)

はいそうです。今我々のコンセプトは、まだイメージですけれど、基本的にはそういうイメージに立っているということです。つまり、その制度を維持するのに通常必要な監督だとかのコストを別にすれば保険そのものの財務的な負担について、公が介在するという考えはとっていないということです。

(以上)

サイトマップ

ページの先頭に戻る