日野金融庁長官記者会見の概要

(平成12年11月6日(月)17時01分~17時30分)

【質疑応答】

問)

長官の方から何か。

答)

特にございません。

問)

今日、イトーヨーカ堂が銀行業の営業免許の予備審査の申請書を金融再生委員会に提出されたようなんですけれども、それについての感想と今後の見通しをお聞かせください。

答)

先程、担当部課、銀行1課ですけれども、予備審査の申請書を受理したというふうに承知しております。これから法令で定められた申請書類を得て審査を行うことになるわけですので、現段階で何か一定の評価をしたわけではございません。これは個別の事項ですので、なかなか難しいのですが、一般論として申し上げると、銀行法第4条に書いてあります財産的基礎であるとか、収支見込み、あるいは社会的信用に加えて、「運用上の指針」に掲げる免許審査に係る留意点についても十分な検討が行われるものというふうに考えております。いつ頃かというお尋ねですが、これから予備審査が開始されるところですので、現段階で免許時期などについて見通すということは、なかなか難しいことですけれども、できるだけ速やかに審査を行って参りたいというふうに考えております。

問)

先週、相沢大臣の方から保険業法を改正して、保険会社の予定利率の引き下げを破綻前にも可能にするように措置を採るというか、検討していきたいというような発言があったわけですけれども、これまでに金融庁との間でそういう検討があったのかどうかということと、長官ご自身のお考えはどうなのかということをお聞かせください。

答)

現在、生命保険会社は逆ざやということで大変厳しい経営環境にあるわけですけれども、こういったことを踏まえて、大臣の問題意識につきましては、私もお話を伺っているところです。現行法上はご案内の通り、既契約者に対する予定利率の引き下げというものは、破綻した保険会社について保険業法、あるいは更生特例法に基づく破綻処理手続きにより処理される場合にのみ認められているところでございます。平成7年の改正前の保険業法、この保険業法はカタカナで書かれて、戦前、私の記憶に間違いなければ、昭和14年に制定された法律だったと思いますけれども、ここには主務大臣、大蔵大臣ですが、大蔵大臣の行政命令によって保険金の削減であるとか、あるいは相互会社における社員自治における定款の定めに基づく保険金の削減を可能とする規定が設けられておりましたが、これらの規定につきましては、現行法では削除されているわけでございます。これはその際の議論を振り返ってみますと、予定利率の引き下げによって、保険契約者の保険料を引き上げることは不利益変更を既存の契約者に及ぼすこととなり、不適当ではないかといったようなこと、あるいはそもそも契約を守れない保険会社というのは解約の増加によって、結局契約者を維持できないのではないかといったような議論があったようでございます。前段の方は法律論でございますし、後段の方は実際問題としてそういった現象が起こるのではないかという危惧だろうと思います。先日生命保険業界との間でも意見交換を行いましたが、その内容について私の方からコメントすることは差し控えますけれども、業界の方からは保険業法を改正して、保険会社が既契約の予定利率を引き下げることを可能とすること、ないしは行政当局から一律の予定利率引き下げ命令を出せるようにすることを要望するとの意見がありました一方で、そういった措置は生命保険に対する国民の信頼にも関わるので慎重でなければならないといった議論もあるようでございまして、生命保険業界内部でも意見が分かれているようでございます。今申し上げましたようにこの問題を考えるにあたりましては、我が国の法体系上、そのような規定を設けることが認められるかどうか、先程申し上げた前段の議論、この規定が削除された際の前段の議論ですね、予定利率の引き下げによって保険契約者の保険料を引き上げることは不利益変更を既存の契約者に及ぼすこととなり、不適当ではないかということ、もう一つは契約者の保険業に対する信頼をどういうふうに考えるかということ、つまり契約を守れない保険会社は解約の増加によって、結局契約者を維持できなくなるのではないかといったようなことなど、幅広い観点からの検討が必要となるのではないかというふうに考えているところです。

戦前のカタカナ法の削除の経緯は長いことになりますので、特に申し上げませんけれども、旧法の第10条第3項で「主務大臣は保険契約者、被保険者又は保険金額を受取るべき者の利益を保護する為、特に必要ありと認むるときは第1項の変更認可の際、現に存する保険契約についても、また将来に向けてその契約変更の効力の及ぶものと為すことを得」という、この規定が削除されたわけでございます。平成元年の4月に保険審議会で保険業法等の抜本改正に向けた審議が開始されまして、平成4年6月に保険審議会から「新しい保険事業の在り方」と題する答申がなされました。この答申の中で変更命令権の規定についてどうするかとか、あるいは保険金の削減が受け入れがたいものとなってきていると考えられること等から保険金額の削減規定の見直しなどについて法制的な検討が行われる必要があるということで、法制的な観点からの専門的な検討を行うためにこの審議会の下に法制懇談会というのが設置されたんですね。この法制懇談会では平成4年の7月から平成6年5月まで31回にわたりまして審議を行った結果、平成6年6月に法制懇談会の報告書が保険審議会の総会に報告されて、これが了承されて、保険業法等の改正についてということで、保険審議会の結論が出されて、この際先程申し上げた保険業法第10条第3項及び第4項は削除すると、それから第46条も削除すると、第46条というのは「会社は定款をもって保険金額の削減に関する事項を定むることを要す」という規定ですけれども、これも削除すること、こういう保険審議会の答申によって平成7年に新しい新保険業法、現在施行されている、先日改正はございましたけれども、現在施行されている保険業法になっているわけです。こういった経緯もございますので、先程申し上げたような観点からの、幅広い観点からの検討が必要になるのではないかなあというふうに考えております。

問)

同じくまた保険の話なんですけれども、前々からお聞きしていた点もあるんですけれども、生保各社の9月末における経営状況の報告がまとまったかどうかということと、つきましては9月に実質債務超過だという会社とか、ソルベンシー・マージンが200%を割っているところがあったら…。

答)

前から申し上げておりますように、生命保険各社9月末時点における上半期の実績につきましては、今年は11月27日、28日に主な生命保険会社が記者会見をして、公表するというふうに承知しているところです。当庁と致しましては、前期末の決算の状況等を踏まえつつ、生命保険各社の財務状況等の把握に努めてきたところでございますが、生命保険会社の破綻状況が続きましたことを踏まえまして、念のため生命保険各社の財務状況について、取り急ぎご報告頂くよう要請したところでございました。これまでに各社から、これはあくまでも粗々の見込みの数値ですけれども、9月末の財務状況をご報告頂いたところでございます。目下その内容を精査しているところでございますが、お尋ねの実質債務超過に陥ったり、ソルベンシー・マージン比率が200%を割込んでいるところはなかったのかというお尋ねですが、ご提出して頂いた報告は粗々のものでも早期に報告を頂きたいという趣旨でご提出頂いたもので、今後変動があり得るものではありますけれども、それらの数値を基に各社の財務の状況について対外的に確たることを申し上げることは困難であるということをご理解頂きたいとは思います。しかし、そうした前提であえて申し上げると、これまでのところ9月末時点で実質債務超過となっているところとか、あるいはソルベンシー・マージン比率が200%を下回っているような会社があるとは承知しておりません。おそらく11月27日、28日に主な生命保険各社が記者会見されると思いますが、そこでもおそらく同じことをお答えになるか、あるいは更にいろいろ詳細に聞かれれば、その限りにおいていろいろ各社お答えになるのではないかなあというふうに思います。

問)

先程の予定利率の引き下げについてよく判らないんですけれども、幅広い観点からと言ったときにですね、幅広い中にはですね、見直すことを検討とするということも入っているのですか。

答)

先程申し上げましたように、平成7年に保険業法が改正されたときの削除の経緯をご説明致しましたが、そういうことによって削除されました。また今まで保険料の引き上げを既存契約に及ぼしたケースとしては、昭和34年に最高裁判所の旧保険業法第10条第3項についての判例がございまして、債務不存在確認事件、これは既契約者の一人から当該保険会社に対して、原告が既契約者で被告が当該保険会社ですが、この第10条第3項によって増額された保険料の保険料部分の債務不存在の確認訴訟が提起されたわけですね。この1年分が当時で174円だったそうです。このときの最高裁の判例はあくまでも戦前の契約に基づいて、旧憲法下で行われた行政行為で、最高裁の判断そのものは、昭和34年ですから当然のことながら新憲法が施行されてからなのですが、要旨は保険契約関係は危険団体的性格を有することを前提としてその法的性質を考えるべきであると、保険契約関係のこのような特質に鑑み、保険業法第10条第3項の「保険契約者、被保険契約者又は保険金受取人の利益」というのは、保険契約者等の立場を全体的に考察して、利益の有無を判断すべきである、第三点としては、既存契約の保険料の増額は、単に当該契約を個々的に観念すれば不利益のようであっても保険事業を維持し、経営の破綻を救う方法が他に存在しない場合においては、結局、契約者等の利益を確保し、新契約と既存契約との間の衡平を期することができると、こういうことに基づいて行政処分に基づく当該保険会社から既契約者に対する保険料の増額についての原告の請求を容認しなかったわけですけれども、これについて一つ今と事情が違うのは、この行政処分は旧憲法下において行われたということで、当然明治憲法の下でも、私有財産権の侵害については、現在の憲法とそれほど違った規定があったわけではありませんし、むやみやたらに国家権力が私有財産権を侵害することは、もちろん明治憲法下においても許されていなかったわけですけれども、最高裁判所は旧憲法下において行われた行政処分の旧憲法に違反するかどうかについては、裁判所の権限ではないということで…。

問)

すみません、検討するか、検討しないかということをお聞きしたいのですが。

答)

ですから今幅広い観点の内容を申し上げているのですけれども、そういう経緯がありまして、現在の憲法下において財産権の侵害にあたるかどうかについての最高裁判所の判例というのはないわけです。しかし学説では、様々な学説がありますけれども、そういうことは憲法に違反するのではないかという判例はありませんけれども、学説はあると。そういうことで法律上、削除をするということで、いろいろな今までの経緯を考え、更にまた最初から申し上げてますように、こういった予定利率の引き下げも条項を新たに設けることが生命保険会社に対する、あるいは生命保険の経営に対する国民の信頼に対して何かそれを裏切るようなことになるのではないかといったようなことなど、いろいろ議論がございますのでそういったことをいろいろ幅広く、いろいろな意見をお聞きしながら検討が必要であるということで、ご質問は検討するというのは改正に向けての検討かというご質問かと思われますけれども、直接的にはそれについてはお答えすることはできないわけで、その前の段階としての幅広い検討が求められているのではないかなというふうに考えているわけです。

問)

ということは、大臣は検討すると言ってますけれども、金融庁としては、見直す可能性についてまだ言及できない段階と言っていいわけですね。

答)

大臣もストレートに予定利率の引き下げについて、直ちにその法律を改正して、そういうものを設けるようにと指示されたというふうには、私どもの方ではとっていないわけで、いろいろな議論があるのでそういった議論を考えながら、幅広い観点から検討が必要ではないかというふうに仰っていると理解しております。

問)

先程長官が仰った,実質債務超過とかソルベンシー・マージン比率が200%を割るというのはないと、そういうことでは、財務の健全性について、報告徴求を行うということはなかったということでしょうか。

答)

はい、仰る通りです。

問)

また保険の話なのですが、この間閣議後の会見で大臣がソルベンシー・マージン比率以外の監督基準といいますか、事実上の監督指標を検討するように金融庁の方に指示したというような旨を発言しておられたのですが、この辺のところはどうなのですか。

答)

これは前に協栄生命が会社更生法の適用の申立をした際の記者会見でも申し上げたかと思いますけれども、私どもはソルベンシー・マージン比率といった単一の指標だけで、保険会社の経営の状況を把握することは困難であると考えております。金融庁と致しましては、それだけではなくて有価証券の含み損益などを踏まえた保険会社の資産や負債の状況、あるいは損益の状況、あるいは新規契約、あるいは解約の状況といった、様々な業務の状況を総合的に判断して、この生保を監督していかなければならないと考えております。もちろんソルベンシー・マージン比率というのは、保険金の支払能力の充実の状況を示すものとして、現在通常の予測を越えるリスクに対応する保険会社の支払いの余力を占めす数値として用いられているわけでありまして、早期是正措置もソルベンシー・マージン比率の度合いに応じた早期是正措置を発動するようにと定められているわけです。そういったことで、これだけに頼っているわけではありませんけれども、ソルベンシー・マージン比率につきまして、これまでの破綻のケースや今後の会計基準の変更なども視野に入れて、更に見直すべき点がないかどうか引き続き検討して参りたいというふうに考えております。また将来収支分析を今年度決算から適用すべく現在具体的な詰めの作業を行っているところでありまして、今後保険会社に対しては、こうした分析を踏まえた早期の対応を促していくなど、種々の指標を総合的に踏まえた監督に努めて参りたいと考えております。

大臣から指示を受けているのかというご質問でしたけれども、早期是正措置を発動することなく破綻に至った事例がございますので、現行のソルベンシー・マージン基準は、必ずしも保険会社の財務の実態を的確に表していないのではないかと言われる相沢大臣の問題意識については、金融庁としても十分承知しているところでございます。今申し上げましたとおり、ソルベンシー・マージン比率をはじめ、その他の種々の指標を総合的に勘案して、今後監督に努めていくこととしているところでございまして、その中で早期是正措置を、より適切に運用していくために、ソルベンシー・マージン基準につきまして、これまでの破綻のケースやあるいは今後の会計基準の変更なども視野に入れて更に見直すべき点がないかどうかも検討していきたいというふうに考えているところです。

問)

異業種の企業による、銀行の設立の具体的な動きは、今後あるのではないかと思いますけれども、改めてその意義あるいは期待している点、また課題だと考えている点についてお聞かせ願えますでしょうか。

答)

既にご案内のとおり異業種の参入につきましては、私どもの方で指針を出しているところなのですが、現在の金融審議会においていろいろご議論を頂いておりまして、おそらく銀行法の整備などにつきましては、今年の末を一つの目処として、次期の通常国会での法制化を目指していくことになろうかと思います。いろいろな論点を現在金融審議会でご審議頂いているところで、まだ確たる方向が示されているところではございませんけれども、例えば親会社を含む銀行等の主要な株主に対する監督当局の関与のあり方などについてもいろいろ検討されていくことになろうかと思います。今のご質問は、異業種の参入全般についてどういうふうな感じを持っているかというお尋ねだと思いますが、私自身としては、そういった異業種からの参入というのものは銀行業界にとっても将来新しい血液が入ってくることによって、活力が増していくのではないかと考えているところです。

問)

イトーヨーカ堂銀行なのですが、実質的に本格的な異業種参入の初のケースになってくるのですが、そういう意味では異業種の参入指針の初適用ということになると思いますけれども、この辺の審査、予備審査、免許審査で特に何か意を図るようなものはあるのでしょうか。

答)

予備審査の申請書を受理したばかりで、まだ内容を精読したわけではありませんし、それから申請内容の概要については、おそらくプレス・リリースが行われることになるのではないかと思いますので、私どもとして、ご質問のようにどういった点に重点を置いて、どこに審査のポイントがあるかということなのですが、あくまでも中身を見たわけではありませんから、一般論としてしか申し上げられませんけれども、銀行法第4条に掲げられている財産的基礎がどうであるのか、あるいは収支の見込みがどうであるか、あるいは社会的な信用がどうなっているかといったようなことに、更に加えまして既に公表しておりますこの「運用上の指針」に掲げております免許審査に係る各留意点、これについて十分な検討を行わなければならないというふうに考えているところであります。

(以上)

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