日野前長官・森新長官記者会見の概要

(平成13年1月6日(土)14時17分~14時48分)

【冒頭発言】

  • 日野前長官) 私の方から申し上げたいと思いますが、今朝、総理官邸で森総理から金融庁長官の辞職を承認するという辞令を頂きました。また、先程柳澤大臣から森金融庁長官発令にかかる金融庁顧問を命ずるという辞令と、それから柳澤大臣から金融庁の職務の重要な施策に関する問題についての顧問としての委嘱状を頂きました。この2年半、本当にプレスの皆さんにはいろんな形でお世話になりました。ご迷惑をかけたこともいろいろあったかもしれませんし、情報発信も必ずしも十分でなかったという点でご批判をいろいろ受ける点もあるかもしれませんが、本当にお世話になったことを改めて御礼申し上げたいと思います。本当にどうもありがとうございました。

  • 森新長官) 本日付で日野長官の後任として金融庁長官を拝命いたしました森でございます。力不足の面があるかと思いますけれども、大臣、副大臣を支えて懸命に力の限り金融行政をやっていきたいと存じておりますので、何卒よろしくお願い致します。

【質疑応答】

  • 問) それでは幹事から何点かお伺いします。まず、日野前長官にお伺いしたいのですけれども、司法の世界から金融行政のトップに移られて金融監督庁の立ち上げ、金融国会等々について大変ご苦労があったのではないかと思いますが、この間の一番ご苦労されたこと、思い出に残っていることなど感想をまずお聞かせください。

  • 日野前長官) 申し上げるとすれば何日かかっても尽くせないぐらい思い出はたくさんありますけれども、この場ですからできるだけ簡単に申し上げたいと思います。まず、期間の面では、やはり金融監督庁を立ち上げた平成10年6月22日から金融再生委員会の発足するまでの半年間というのが一番厳しい半年間だったなあと思います。まず金融監督庁を発足した時に来て感じたことなんですが、やはり新しく設立された役所なものですから、極端に言うと…これはちょっと誇張かもしれませんが、紙も鉛筆も揃っていないというような状態で発足したわけですが、ちょうどその時ご案内の通りのような長銀を巡る様々な問題が既に出ておりまして、こちらに着任する前から当時の大蔵事務次官あるいは日銀の理事などからいろんな引き継ぎを頂いたおりましたけれども、やはりこちらに来て一番先に長銀の問題に直面して、この処理が本当に大変でありました。当時はご案内のように再生法もありませんでしたし、そのような法整備の前の時代でしたので、いろんな処理の仕方としておそらく今から考えると、裁量行政の最後の本当の時代だったなあというふうに振り返ると思います。長銀問題に対しての対処方針としてはいろんな案が考えられたわけで、(故)小渕総理がちょうど金融監督庁が設立された時には総理府の外局として内閣総理大臣の下に直接ぶら下がるような形で出来たわけですね。そういった意味で内閣総理大臣が、今のように金融担当大臣がおられませんでしたので、内閣総理大臣が直属の上司ということで、全て内閣総理大臣に…最初は橋本総理でしたが、当時の小渕総理に長銀の問題についていろいろ御指導頂きながら、あの時は住友信託銀行との合併を模索したり、いろんな点で大変な時期だったと思います。なにしろ当時はまだ職員も今に比べると非常に少のうございましたし、深夜までいろんな案を…これは長銀に限りませんけれども、いろんな案を議論しながら、私自身は大体12時頃には帰らせてもらいましたけど、その後、おそらく多くの部長、課長あるいは課長補佐職員は早朝までおそらく残っていろいろ議論をしたり仕事をしたりしたという生活がずっと続いてきたのではないかと思います。特に秋の金融国会の時には、これはもう大変に日本発の金融恐慌が起こるのではないかといったようなこともございましたので、本当に緊張した日々の連続であったというふうに思います。しかし、お蔭様で職員の中からはこれといった病人とか何かも出ることなく本当によくやってくれたと思いますし、国会答弁のために毎朝4時か5時頃やっと出来上がった分厚い答弁資料を私の宿舎の前に置いてある宅配便の箱の中に毎朝のように入れてくれる職員の姿には本当に私も有り難いなあというふうに感動しながら毎日を過ごしておりました。そうしているうちに、国会が進展するに従って、再生法や早期健全化法が成立しましたし、金融再生委員会の設置法も出来て金融再生委員会が出来上がり、金融監督庁は今度は金融再生委員会の下に置かれることになりましたので、再生委員会という立派な後ろ楯というか上部機関が出来たために、非常に仕事の面では森事務局長が支えておられた金融再生委員会のおかげで、その後の2年間というのは本当にしっかりした仕事をさせて頂いたなあというふうに思っているわけです。いろいろ話は長くなりますが、このくらいにさせて頂きたいと思います。

  • 問) 組織面では最初は金融監督庁として発足して、それから去年の7月には企画立案部門も引き継いで金融庁となるというふうに、事務も変わってきたと思うのですけれども、その辺りの組織の衣替えの面で苦労された点はあるのでしょうか、あるいは衣替えの出来栄え等についてはどのようにお考えでしょうか。

  • 日野前長官) 金融監督庁が検査部と監督部だけの時は非常に法律を執行するという立場ですから純粋なところがあったと思います。法律の執行官庁という純粋性がありました。企画立案部門が大蔵省の方から参りまして、最初皆さんがご心配になったのは、検査や監督を企画立案部門が何か上から押さえつけるようなことになるのではないかというご心配を皆さんしておられたようですけれども、いざ一緒になってみると、むしろやはり兄貴分の検査・監督の方がやはりどちらかというと一日の長というか、2年間先輩なものですから私の見ている限りでは決して企画部門が何か検査や監督に対して圧力を加えるとか、そういったような印象は全くありませんでした。ただ組織として私は総務企画部…今は総務企画局になりましたが、総務企画部という組織を、これは1府12省庁の中央省庁の改革などのことがありまして、総務と企画部門が一緒になっているわけですけれども、私自身としては総務と企画を分けて金融監督庁当時のように官房と企画を本当は分けることが出来れば良かったなあと心残りなんですけれども、まあこれは新しい森長官に一つ是非お願いして将来は官房長と企画局長と、そういうふうに分けてはっきり庁全体のロジスティックを担当する官房部門と、それからやはり企画立案を担当する企画局とはきっちりやっぱり組織の上でも分けた方が私は望ましい姿なのではないかなあというふうに思っております。それと、やはり企画に関してはかなりのプロが、立法のプロが要求されるわけで、おそらく大蔵省金融企画局当時は企画局だけで足りない陣容については季節労働が終わった後、主計などに応援をお願いするようなこともできたんだろうと思いますけれども、金融庁に来て見ますと、おそらくそういう応援をお願いすることもできませんし、庁内でということになるとなかなか難しい点もあると、将来できればそういった面の人員の増強がやはり望ましいのかなあというふうに私は思っておりますので、新長官一つその点をお願いしたいなあと思います。

  • 問) 今、組織面等の新長官へのお願いというのがあったのですけれども、行政課題の面で現在抱えている点ですとか、あるいは後任の森長官にメッセージ等がございましたらお願いします。

  • 日野前長官) これは先程、柳澤大臣のお話にありましたように、あとペイオフまで残された期間が1年3か月になったわけですね。何と言ってもやはり揺るぎのない金融システムを構築するということが、大臣は先程ちょっと後ろ向きかもしれないというふうに仰ってましたけれども、やはり私はこれが最大のこれからの課題ではないだろうかと思います。その課題を果たすためには、やはり問題を先送りせずに出来るだけ情報を公開し、金融監督庁が発足した時の初心ですね、なぜ大蔵省から金融監督庁が独立して設立されたかという初心を忘れることなく、揺るぎのない金融システムの構築に努力することがやはり必要なのではないかなあと、それを森長官にお願いしたいと思っております。

  • 問) それでは続きまして森新長官にお伺いします。今の日野前長官のお話ですとか、あるいは先程の柳澤大臣のお話…特に顧問会議の運営については森長官の運営にかなり期待されているようですけれども、その辺も踏まえまして抱負をお聞かせください。

  • 森新長官) 考えてみますと、この2年半でございますか、財金分離の中で金融監督庁が誕生いたしまして、日野長官を迎えて明確なルールに基づく公正かつ透明な行政というものをスローガンにして、そして金融行政を言わば飛行機に例えれば、最初はボーイング 727ぐらいで飛び立ったのが、段々段々とボーイング 747ジャンボ機のように、今お話がございましたように企画立案能力も備えまして大きくなって、そしてテイクオフを見事に日野長官が果たされて、これから段々安定飛行に向かうその時期に私がバトンタッチしたというふうに認識しております。ただ、大臣もあるいは日野長官も仰られました通り、現在の金融行政を取り巻く環境というのは、2年半前とは比較にはもちろんならない、やはり相当程度安定してきたとはいえ、金融はある意味で経済あるいは景気との相関関数でございますので、こういう厳しい緩やかな回復基調に入ったとはいえ、目先厳しい環境の中で金融行政が抱える課題、不良債権であれ地域金融の一層の安定、さらに敢えて言えばペイオフを1年少しあとに控え、ペイオフというものの意味するところをもう少し国民にしっかりと伝えなければいけないということ、これはもう私としては皆様方マスメディアを通じて国民に語りかけるしかないわけですけれども、何とかもっと分かりやすい言葉で、ただ単に端的な言って預けたお金は1,000万円しか返ってこないというような誤解が世の中からなくなるようにそういう面でのきちっとした広報もしていきたい、そんなことが心によぎっております。

  • 問) 顧問会議の運営については何かお考えの方はございますか。

  • 森新長官) それは大臣が仰いました通り、私が議事進行役を引き続きやらせて頂きたいと各委員及び大臣にご提案し、その通りになったのですが、私の心の中は大臣が仰いました通り、確かに権限と責任という意味では3条委員会とはまるで違うわけですけれども、できる限り同じ雰囲気の下で同じようにできるだけ同じように運営することによって3条委員会の良いところを残したい、即ち独任官庁として世の中から見た場合に、いろんな有識者に意見を聞かなかったのかと言われることのないよう有識者の意見を十分に聞いた上でこういう判断をしたんだということの説明、アカウンタビリティーが果たせるような機関に持っていきたいというふうに思っております。

  • 問) それから先程の日野長官のお話の中でも監督庁が大蔵省から分離して発足したという話がありまして、日野長官が司法の世界から長官に就任されたその辺りに意味合いがあったと思うんですけれども、今回、森新長官は大蔵省のご出身ということで、大蔵省のご出身の方が金融行政のトップに立たれるということについてご自身ではどのようにお考えですか。

  • 森新長官) 私は昭和41年に社会に出てからちょうど34年半ほどになると思うんでございますけれども、確かに社会に出てすぐ入ったのは大蔵省であることはその通りでございますけれども、実はその間に大使館とか国際機関を含めて海外に15年おりましたし、民間に2年半いて、再生委員会に2年いたということで、まあその34年半のうち考えてみれば19年半あたりは大蔵省の外でいろいろ仕事をしてきたというところが、実は私自身そんなに自分が大蔵省出身であるということを強く意識したような仕事はしてこなかったものでございますから、私を任命された方は記者会見で理由を述べられておりますけれども、私からすればそういうことに、なかなか任命を受けた方でございますのでコメントし難いところがございます。

  • 問) 森新長官にお伺いいたします。改めてご就任おめでとうございます。現在の株価及び為替の水準について、経済情勢の水準についてどのようなご認識を持っていらっしゃいますか。

  • 森新長官) 株式市場にしろ為替市場にしろ、いずれにしても水準そのものについてコメントする立場にないわけでございまして、いずれにしてもファンダメンタルズというものを自然に反映しながら安定的に推移することが望ましいということに尽きるわけでございます。ただ株式市場につきましては、いろいろ柳澤大臣も仰られております通り、私の所管である金融機関の健全性に、日本の場合はアメリカと違いまして政策保有株というものを金融機関が持っているだけに、銀行の経営の健全性というものに深く関わってくることは否定できないわけでございまして、そういう意味から株価の動向につきましては終始注意深く見守っているということでございます。

  • 問) 日野長官にお伺いしたいのですが、2年半やってらっしゃって前半はセーフティーネットがある分野の処理が多くて、後半は保険会社の処理の問題とかなかなかセーフティーネットがないところで、ルールもなかなか確立されていないところで、やり方とかについて戸惑いなり苦しい部分があったのではないかなあというふうに思うのですが、その辺はルールがない分野についてどうするかと、なかなか辛いことがあったと思うのですが、そこら辺はどのようにお感じになっていらっしゃいましたか。

  • 日野前長官) そうですね、やはり金融行政といっても法律に基づく行政ですから法律あるいは政省令という規則がなければなかなか行政もやりにくいわけですし、そういうところがない部分については、まあいわゆる裁量を働かせなければならないわけですが、ご指摘のように保険の問題については、これは破綻処理を幾つか行われておりますが、前半…つまり更生特例法が出来る以前の段階と更生特例法が昨年の6月の国会で成立した以後の段階では随分ルールの整備という意味では変わってきたのではないかなあと思います。昨年の6月の通常国会でお蔭様で成立した更生特例法によって、非常に早い段階で、つまり保険会社の保険契約者がそれほど減らない、あるいは資産それほど劣化する以前の段階で申立てをすることが出来るようになったこと、また監督官庁である金融庁も出来るわけですけれども、このように出来るようになったというその意味では非常にルールの整備が進んだし、セーフティーネットもより一層強化されたということが言えるのではないかと思います。ですから、そういう意味では仰る通り、そういったルールが整備される以前の段階の破綻処理というのは非常に苦しい部分があったということは仰る通りです。土曜、日曜と誰もこの庁舎の中に出勤していない時に誰にも気付かれないようにみんなで協議するためにこの庁舎のある所に皆で集まっていろいろ協議したといったようなこともありましたし、先程から申し上げているように昨年の6月の前の段階と後の段階では随分違ってきたなあということは言えるだろうと思います。

  • 問) 森新長官にお伺い致します。ご自身ではどういう点を買われて長官に任ぜられたと思われますか。分析をお願い致します。

  • 森新長官) 申し訳ありませんけれども、私自分を顧みて、優れたところも能力もあるところも正直言って見つかりません。正直言って今の質問に応えるだけのアレがございませんで、どうぞ任命された方にお聞き頂ければと思います。

  • 問) 森長官にお伺いしたいのですけれども、先程地域金融の一層の安定ということを仰られたのですが、地銀・第二地銀には今年の3月末に申請期限が切れ、協同組織金融機関はもう1年、資本注入の枠組みがあるということですけれども、地域金融に対する安定に向けてどのようなスタンスで望まれるのでしょうか。

  • 森新長官) 11年3月に大手行への資本注入をして以降、11年9月以降、地銀にも幾つか入れて参りました。ただ、正直申しまして当初考えていた注入行数と言いますか、注入はこれぐらいの銀行が申請してくるだろうと予想していたよりは、確かに少のうございました。ただ、11年3月期から12年3月期の地銀の各行の決算を眺めてみますと、一番特徴だったのは、自力調達を相当しているということでございます。即ち、確かに国には資本注入は申請しなかったわけですけれども、地元での自力調達ということに自分の体力を考えて弱いと思うところはそういうことを懸命にやったと、その成果が出て11年3期に比べまして12年3月期は大体平均的な自己資本比率が2ポイントほど、つまり2%ほど上がりまして、地銀でいけば約10%、第二地銀でも約8%ぐらいかと。ただ、これは平均の数字でございますので、私は決して全部の地域金融機関、協同組織金融機関も含めまして全部の地域金融機関が万全の体制になったというにはまだ少し早いのではないかと思います。これはやはり12年9月期の決算が出た昨年の11月からまだ1~2か月経ったところでございますけれども、やはり各金融機関自らの体力、即ち不良債権処理後の体力というものを自ら診断して、もし弱いところがあるならば銀行、第二地銀以上につきましては今年の3月までが手を挙げる期限でございますので、当方の方に相談があるのではないか思いますし、相談があれは我々としても積極的に対応していきたいと、こういうふうに思っております。

  • 問) 森長官にお伺いしたいのですが、先程飛行機の例を言われて日野前長官を取り巻かれた経済情勢をご説明されましたけれども、新長官を待ち受ける経済金融情勢についてはどのように展望されますか。

  • 森新長官) 私はやはり日野長官のおかけで先程申しましたように、見事なテイクオフから安定飛行に移ろうとしている時であるこは間違いないと思いますけれども、金融行政というものはどうしても…先程大臣も仰られましたけれども、パッシブな面というのが非常に大きいわけですね。つまり、金融は人間に例ればよく動脈と言われますけれども、動脈をいくら掃除してみたってパワーにはならないわけでございまして、どうしても経済というものが磐石になっていかない限りどうしても金融というのはパッシブな影響が出てくるわけでございます。これも大臣が言われましたように、不良債権の処理という面で、確かにリスク管理債権というのは10年3月期以降見ましても全銀行で大体30兆円ぐらいで不良債権は横ばいでございますけれども、不良債権の処理損失額を見れば10年3月期が13兆2,000億ぐらいでしたか、11年3月期が13.6兆円ぐらい…これは資本注入もありましたものですから、まあ相当な処理をした。そして、12年3月期が約7兆…6兆9,000億ぐらいだったと思います。そして今年の3月を迎えるわけですけれども、12年9月期を見る限り、つまり私が言いたいのは11年3月が約14兆、12年3月期が約7兆で半分になってきて、今度も全国銀行ベースでございますけれども、ほぼ4兆ぐらいの風速なのではないかなあと、即ち不良債権処理損失額で言えば、約半減ずつしていると、これは何を意味しているかというと金融庁の検査に応えて各銀行が適正な資産査定と適正な引当を積んで、そしてそれによる言わばいろんな不良債権の影響に対する対応力というものが各銀行は非常に付けてきていると、それだけにリスク管理債権額は30兆で横這いながらも、処理損失額は半分になってきているということを意味しているわけで、そういう意味から銀行の経済といいますか景気に対する対応力は確実に上がっているということは言えると思うのですが、今のご質問に答えるならば、ではもう本当にこたつに入ってミカンでも剥いていればいいかというと、そうもいかないので、これは大臣が仰るようにまなじりを決して、これは金融機関もまなじりを決してやっていかなければいかんと思いますし、我々レギュレーターの方もまなじりを決してやっていかなければいけないと、こういうふうに思っております。

  • 問) それではどうもありがとうございました。

  • 新旧長官) ありがとうございました。よろしくお願い致します。

(以上)

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