森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年3月26日(月)17時06分~17時40分)

【質疑応答】

問)

長官の方から何かございますか。

答)

特にございません。

問)

東京生命が更生特例法の適用を申請しましたけれども、生保に対する契約者の不安というのも再燃しかねない状況にあると思うんですが、生保の信頼回復に向けて金融庁の取り組みについてお伺いしたいのですが。

答)

東京生命の破綻でございますけれども、大変、私としては遺憾なことだと思っております。

東京生命もご承知の通り、昨年の9月末の時点では、ソルベンシー・マージンが370%と、そして資産超過4億円という状況であったわけでございまして、確かに実質資産負債差額は、十分な資産超過ではなかったわけですが、それでも、ソルベンシー・マージンは370%あったと、それが半年も経たないうちに、なぜ破綻したのであろうかということですが、やはり一番大きかったのは、私は逆ざや問題というものが世の中に出ている中で、千代田生命、協栄生命と破綻して、次の破綻はどこかといったような社会の風評が蔓延して、東京生命にターゲットが向けられ、確か昨年の9月末から破綻までの間に、3,000億円近くの資産がはげ落ちていったと、これはもちろん解約によるものであって、そういうここが危ない、あそこが危ないといった、言わばそういう風評が解約を押し進め、解約をするためにはその資金が必要なわけであって、東京生命としては株式市場が低迷している中で、損切りをしても、有価証券の処分をしていかなければならなかった、そういう中で体力が急激に衰え、破綻に至ったということが、私は主たる原因であったと、今から振り返ると、そう思っております。もちろん、一部の新聞が書いてございますように、逆ざや問題がなかったとは申しません。ただ、それも年間100億円の水準でございまして、死差益と費差益で十分賄えるほどの水準であったわけでございますので、私はこの逆ざやが決定的に破綻をもたらしたものだというふうには、数字の上からはそうは思えないわけでございます。

今のご質問でございますけれども、今後、生保の信認はどうやって回復するのかということかと思いますけれども、これまで生保業界は何かと言えば、逆ざやというところに焦点を当て、26社ベースで1兆6,000億円の逆ざやが出るとか、こう仰っておりますが、三利源で合計で行けば、十二分にそれを上回る益が出ているわけでございますので、私は、むしろそれを表に出して、各生命保険会社が自分の会社の健全性というものを契約者に訴えていかなければいけないと思うわけです。

そういう観点から、ご存じの通り、金融庁は既に実質ベースの新ソルベンシー・マージン基準というものを発表致しましたし、更に三利源合計に相当する、言わば業務純益を表すものを、この3月期から出して欲しいということ、その計算の仕方も発表してございます。私はこういうものがこの3月決算から適用されますので、新ソルベンシー・マージンと業務純益で、私はこの5月と言いましょうか、いつ頃になるのか、少なくとも3月期決算を各社が発表する時には、この2つの数字が出てくるわけでございますので、それを見れば、他に心配なところはないんだということが、契約者には分かって頂けるというふうに思っております。

問)

大和銀行が東京生命への支援を打ち切った形になったんですけれども、それに対する評価は如何ですか。

答)

これは一言で言えば、やむを得ないことだったと思います。

と申しますのも、皆さん、ご承知のように東京生命の生き返り策というものが、言わば新会社を作って、東京生命の資産・負債を営業譲渡するものです。なぜそういう格好を取るかと言えば、今後、自己資本の充実を図りやすいように株式会社方式に持っていくということを目指したと聞いております。そうなりますと、今回発表の実質資産負債差額は▲341億円ということになるわけですけれども、東京生命が相互会社のままであれば、こういう実質のマイナスというのは出てこないわけですけれども、営業譲渡すれば、即、負債超過の会社が出来上がるわけです。そういう負債超過の会社に大和銀行が300億円基金に増資しても、一瞬にして、消えてしまうわけでございますので、大和銀行からすれば、そういうリスクは取れないと思いますし、そういうリスクを仮に取った場合には大変なリーガル・リスクにさらされることになるわけですから、大和銀行の経営判断としてそれはできないという結論に最終的に至ったのは、やむを得ないことだと思っております。

問)

大和銀行も含めて、あさひ銀行等、赤字決算をやることを決めたのですが、その点も踏まえて、その点の評価と、大和銀行についてはリストラ計画等の発表が遅れているようなんですけれども、その点については如何お考えでしょうか。

答)

あさひ銀行と大和銀行は、同じ赤字決算及び3月期の配当取り止めのプレス・リリースを先週金曜日に出したわけでございますけれども、それぞれ事情が違うわけです。

まず、あさひ銀行について言えば、何と申しましても、通期で2,000億円の不良債権処理ということで計画が立っていたところを、不良債権の最終処理に向けた、より一層厳格な自己査定を行ったということ、更に系列ノンバンクについての最終処理を行ったことから、2,000億円の不良債権処分損が3,000億円と、1,000億円増加したということが、この赤字の主たる原因であると認識しております。

同時に、あさひ銀行は役員数、報酬の削減という経営姿勢の明確化を致しましたし、また、リテール特化路線の徹底ということで、大企業取引の見直しだとか、あるいは国際業務からの撤退だとか、そういうことも同時に発表されておりますし、コスト構造の改革ということで、現在の経営健全化計画の前倒し実施、あるいは更なる人員削減、店舗統廃合、こうしたことを一緒にやると発表しております。

ただ、経営健全化計画との関係で申し上げれば、前もこの席で申し上げました通り、我々としては、まず第一に業務純益の方は予定通りなのかと、つまり業務純益力といった方がいいでしょうかね、業務純益力が衰えているわけではあるのか、ないのかというところを見るわけですけれども、これについては今年3月期の当初計画が1,395億円だったのに対しまして、1,600億円計上する見通しになっているということで、あさひ銀行の業務純益力は落ちてないと、落ちてないどころか、予想以上に上がっているということは言えると思いますし、また不良債権処理への姿勢も評価できるものだと思っております。

更に3月の期末配当を見送るということ、当然かもしれませんけれども、やはり株主にも痛みを分かち合ってもらうということ、そして先程申しましたリストラ計画の前倒しによって、年間200億円のコスト削減効果を生むと、これによって将来的には公的資金の返済計画を先延ばししなくて済む、そういう代替措置も打ってあるということは評価できるのではないかというふうに思っております。

もう一つ大和銀行でございますけれども、これは280億円ぐらいの通期の黒字が出る予定であったかと思うのですが、東京生命の更生手続き開始ということによりまして、現在、東京生命に拠出しております基金及び劣後ローン、合計320億円、これについては引当てざるを得ないということで、実際は320億円の税効果がございますので、その6割ですから、約200億円ですか、200億円狂いが生じたということかと思います。前回予想が280億円…、昨年の11月の中間期における当期純利益予想が280億円だったという意味です。申し訳ありません。ですから、逆算すれば200億円下がって、▲80億円なるということは東京生命の要因を除いて、自己査定を厳格にした結果、プラス120億円ぐらいだったんですかね、決算できるところが、それが▲80億円になったということかと思います。

いずれにしても、どういう原因であれ、赤字決算になったということは極めて遺憾のことでございまして、当然、理由は大まかに分かるわけですけれども、それに対する代替措置はきちんととってもらわなければ、困ると思っております。

ただ、大和銀行にとってみれば、言わばうまくいくと思った東京生命が予定外の方向に走ってしまったということでございますので、まだ、当然そういう代替措置というのは、先週の金曜日段階では考えていなかったかもしれませんけれども、早急にリストラを含めた代替措置はお考えになられるというふうに思っておりますし、これから経営健全化計画のフォローアップ作業の中で、そういう点については厳しく見ていきたいというふうに思っております。

問)

不良債権処理の問題なのですが、柳澤大臣が破綻懸念先債権の処理に前向きというか重点的に進める考えを示されたのですが、その中で保有期限みたいなガイドラインを設けるようなお話も出たようなのですけれども、その点についての長官のお考えをお聞かせ願いませんか。

答)

今回の、当方がいろいろ検討しております不良債権処理、とりわけ直接処理ですね、そういうものの対象となる債権として何を考えるかといった場合には、大臣の仰るように破綻懸念先以下の債権が中心になろうかと思います。と申しますのも32兆円のリスク管理債権のうち大まかに言って破綻懸念先以下が約24兆円でございます。約3/4が破綻懸念先以下でございますので、当然そこを中心に物事を考えていく、検討していくということになろうかと思うのです。

ただ、そしてまた大臣の仰るように破綻懸念先のままで長く保有するということは決していいことではないわけでして、まさにミシン目を付けて例えば一方を要管理まで引き上げ、一方を破綻に持っていくと。あるいはミシン目を付けて一方を要注意まで上げて、一方について債権放棄をして、更に経営を継続させると、いろんなことが考えられるわけでございますけれども、早い決断というものがやはり望まれるわけでございまして、そういう面から私も大臣の仰るとおり破綻懸念先以下の債権につきまして銀行が長く握ったままという状況は好ましいことではないと思います。

ただ、今ご質問になった記者の仰られる、ではどれくらいという、そういう数値目標的なものというのはこれは非常に難しいものでございまして、そもそも何処で不良債権を直接処理するかというのは高度に経営者の判断する経営判断の問題だと思うわけでして、それを一律のいろいろな業態もあり、いろいろな銀行と取引先との関係がある中で、果たして一律にそういう数値目標的なものを出せるかどうかということは、今検討中でございますので、もう一度そういう面からも検討してみたいと思いますけれども、慎重に考えざるを得ないのかなあというふうに思っております。ただ、もちろん検討材料でございます。

問)

株式の買取機構なのですけれども、今日与党のプロジェクトチームがありまして、自民党などからは金融庁に対する慎重姿勢に対する批判も強いようなのですけれども、取り組みに対するスタンスをもう一度お伺いしたいのですけれども。

答)

本日の与党PTではですね、主として株式買上機構の目的、即ち当初私がここで申しましたように銀行が株を持っていることによるリスクを軽減するという、言わば金融の構造改革という視点だけから物を見るのか、あるいは持ち合い株解消、即ち銀行だけではなくてその持ち合っている相手は産業界なわけですけれども、持ち合い株解消というもっと広い視点で考えるのかというそういう目的に関する議論があったと聞いております。また、これから1、2週間、集中的にいろいろ与党におかれても議論されるということも聞いております。

我々としては、その議論を注視しつつ、どういうものがフィージブルな案として考えられるかということを、もう時間もないわけでございますけれども民間サイドとも意見交換しつつ懸命に案になり得るものを考えていきたいというふうに思っております。

問)

慎重という意識はないのですか。

答)

いや、慎重という意識はございません。これはやはり与党3党の経済対策に盛り込まれておることでございますし、我々としては重く受け止めてフィージブルなものが出来るならば案を考えたいというふうに思っております。ただもちろん先般も申しましたとおり、また大臣も申しておりますように、基本はやはり市場原理に叶った買上機構案というものを追求していくということかと思います。

問)

株式買上機構の件ですが、今長官ご自身が二つの見方があると仰いましたけれども、その二つの見方に関して、もうちょっと金融庁としてはどういうふうな方向で考えたいのか、考えているのかご説明願いますか。

答)

正直申しまして、これは与党の緊急経済対策から出てきた話でございますし、最初から当方が何かを求めて理想的なものがこれだということで検討してきた話でもございませんので、金融庁としてどう考えるのか私は確か前回、前々回の会見で申したかと思うのですけれども、基本的には与党の緊急経済対策にこの株の買取機構の案がですね、何処に出てたかということを皆さん思い出していただきたいのです。それは決して「株式市場の活性化」とか「株の需給対策」とかいうところに出てきているわけではございませんで、最初の「産業及び金融の再生」という項目に出てきているわけですございますので、やはり中心としては、やはり金融の構造改革、即ち金融が株を持つリスクを軽減するということを中心に据えて考えてきました。きましたけれども、その民間との意見交換の中でも、また与党の中でもやはり二通りの考え方があるわけでございまして、まだそこは収斂していないというふうに思っております。

問)

不良債権の残高そのものについて、圧縮の数値目標みたいなものを設けるかどうかという考えを公明党の神崎さんが仰ってましたが、それについてはどうお考えですか。

答)

不良債権の全貸出額に対する比率みたいなものですか。

問)

まあ、そういうやり方をするのか、実額ベースにするのか分かりませんけれども、要するに残高を2年で半減するとかですね、そういう目標を作ればいいのではないかと。

答)

それは先程のですね、破綻懸念先以下の保有年数みたいな話と同じでございまして、私は各銀行の経営判断というものが、つまり引当でこのようにしておくと、しかしここから直接処理に切り換えるのだと、それは取引先の財務状況等によっていろいろ経営判断のしようがあるわけでございまして、今仰られた記者は個々についてはそうでも、それの集合体としてはある程度目標を定めてもというお気持ちかも知れないのですが、そういう経営判断の集合体みたいなものについて数値目標を果たして作っていいのかどうか。数値目標を作ってそれが達成されなかった時にではどうなるかのかと。と申しますのも、個々の企業の相手方の状況にもよると申しましたけれども、より大きく言えば景況との関連ですね、景気との関連、これがやはり最も大きいのだろうと思うのですね、不良債権の額がどうなるのかと。従って、これから半年先、一年先、二年先の景気がどうなるかについて、不確定要因をはらんだまま、そういう数値目標で縛りつけるということが果たして適当であるかどうかということに、ある程度慎重さも必要なのでないかなあと思います。いずれにいたしましても検討中でございます。

問)

先程の直接処理の問題で、前から一つの処理策、処理促進策と言った方がいいですか、そういうスキームをお考えになっていると言ってますが、他方では与党では4月6日という一つの期限を設けて、要するに4月にずれ込むという方向が強くなっておりますけれども、金融庁の方の処理策も、依然として3月末までに作るという考えはどうなっていますか。

答)

いや、私3月末までにというのは一言も言ったことはございません。

それは3月末前後を一つの目処にすると、私は思っておりました。即ちいずれにしたってこれは3月決算の問題ではないわけですから。敢えて言えば来年の決算に向けた環境整備作りの話でございますから、3月30日に発表するか、それまでに取りまとめるのか、果たして4月2日で取りまとめるのか、私は意味のない問題だと初めから思っておりましたので。今でも3月末までに出来れば発表したいと思いますし、ずれ込んでも仕方がないというふうに、そこは柔軟に思っております。

ただ、あまり政府の緊急経済対策に盛り込まれたことでございますから、緊急であろうことに変わりがないことですから、いつまでものろのろと検討しているわけには行かないこともよく承知しております。

問)

柳澤大臣の方から株価の危機ラインというか、逆算して1万2,600円ということを言われていて、大分感じが変わって今の株価があるわけですが、現在の株価の水準についてどういうようにお感じになりますか。

答)

元々私は日本の経済力、いろいろ確かに足元厳しうございますし、デフレという認定も出て非常に厳しいのはそのとおりでございますけれども、しかし、確か1,180くらいまでTOPIXが下がったのでございますかね、そこはやはりあまりにもオーバーシューティングな状況ではないかなと。私が申しますのも、基本的には先週から今週にかけてTOPIXも1,330くらいまで回復したわけですけれども、自律反転の地合いだったと私は思いますね。

ですから私は何を申し上げたいかというと、株価というのはいろいろな要因で動くわけでございますので、株価の日々の水準には一喜一憂しても仕方がないと思っておりますし、何れにしろ予算が今日上がるわけでございますけれども、着々と政府としてやるべく施策をとっていくと、そして経済がこの踊り場のところから、また着々と階段を上り始めるということが一番重要なことかと思います。一喜一憂しないというような言葉は確かにそれは一喜一憂しないようにしておりますけれども、現在の大手行の総体としての確か株式の含み損益がゼロになるという基準がTOPIXで大体1,360ぐらいだったと思います。そういう面では、かなりそれに近づいてきたということは金融機関を監督する立場からすれば、安定性を増す方向に動いているということは有難いことだと思っております。

(以上)

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