森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年4月23日(月)17時01分~17時29分)

【質疑応答】

問)

政局なのですけれども、自民党の総裁選で小泉氏が、確実なような形になってきているようなのですが、掲げている政策の中で銀行の不良債権処理に対してですね、公的資金の注入についても積極的な構えを見せているようなのですけれども、その点でこれまで資本注入等の考えについて、金融庁の方では慎重な構えを見せているのですが、そういう点も踏まえて小泉さんの政策についてどのような評価をされているのかお伺いしたいのですが。

答)

政局につきましてコメントを差し控えるべきだと思いますし、また現在の総裁候補の方々の具体的な施策について正直のところ新聞報道以上には承知しておりません。

今ご質問の不良債権処理に伴う資本再注入というご質問であるならば、基本的にこの3月期各主要行とも積極的に不良債権の処理を行っていると認識しております。ただ基本的には、その財源の大きなところは業務純益でございますし、金融庁としては不良債権処理をきちっとやることが、まず最も大切なことでございますけれども、それをした結果として資本が過少になり国から再注入する必要があるのかということは、現時点においてそのような必要性まであるとは思っていないという認識に立っております。

問)

G7なのですけれども、不良債権処理に対する日本側の回答も一つテーマになっていますが、これまでの対策を踏まえて、海外からはどういった評価を受けるかが一つのテーマになってくると思うのですけれども、その点、長官としてのご見解は如何でしょうか。

答)

G7は基本的には皆様もご承知のとおり、世界経済の現状についての意見交換を中心としながら、3極と言いましょうか、米国・欧州・日本、更に欧州は参加国の各国の経済状況、そういうことを分析しながら意見交換を行う場だというふうに認識しております。

そんな中で、日本の経済の現状及びそれに対する政策につきましては、ご承知のように先般のパレルモG7、さらにその前の回のG7におきましても、我が国の構造改革に視点を置いた記述がなされておるところでございまして、そこからの我が国についての経済のデベロップメントを眺めて見た場合に、やはり今回も同じようなところに、つまり日本経済の構造改革、更に細かく言えば、産業界の中での構造改革の必要性と金融界の中における構造改革の必要性とその両方が取り上げられて議論されるであろうというふうに思っております。

そんな中で我が国は緊急経済対策というものを4月6日に発表いたしまして、その中でノン・パフォーミング・ローンズとコーポレートデッツの一体的な処理というものの枠組みを提示したわけでございまして、それを今お聞きになった記者の方は回答という言葉を使われたかと思いますけれども、我々としては問題解決の枠組みを少なくとも明確にしたというふうに思っております。今後はヴィゴラスインプリメンテーションと言いますでしょうか、きちっとした実行というものが求められていくと思うのでございますけれども、それについても我々は粛々とそれを実行していく覚悟でございます。

いずれに致しましてもG7という場は、ピアプレッシャーに基づく自由な意見交換の場であるということが基本であり、その中で問う問題につきましては、財務大臣が日本を代表してご発言いただくわけでございますけれども、きちんと現在の日本経済の現状とそれに対する処方箋というものを財務大臣がきちっとご説明してくださり、また各国の理解も得られるものと期待しております。

問)

銀行保有株式の取得機構なのですけれども、先般検討準備室が作られましたが、今後のスケジュールとかですね、準備室の役割等についての考え方を聞きたいのですが。

答)

前にも申しましたとおり今回の緊急経済対策の中で、銀行が株を保有することから生ずるリスクというものを銀行のリスク管理能力の範囲内に収めることが必要であるという観点から、一方においては銀行の株保有に関わるレギュレーションというものをどういうふうに作るかと、これは金融審議会を立ち上げまして、金融審議会の中でWGを立ち上げまして、そこでの議論及び同時並行的に各界の有識者から意見を聞きながらまとめていくということになっているわけでございます。そして同時に銀行がそのようにレギュレーションを受けて、保有株式を放出しなければいけない。また、その放出に伴う一時的な混乱というものを回避するため、吸収するため、ショックアブソーバー的に、一時的な株式取得機構というものを立ち上げようということも緊急経済対策に盛り込まれているわけでございますけれども、それにつきまして金融庁としては準備室というものを立ち上げまして、出来るだけ早く成案を得たいと考えております。

ただ、このレギュレーションと取得機構というものは、やはり関連性の強いものでございますので、同時並行的に出来るだけ早くということしか今の段階では申し上げづろうございますけれども、とにかく毎日24時間働くつもりで頑張っていきたいというふうに思っております。

問)

金庫株の関連でお伺いしたいのですけれども、与党が今検討している金庫株解禁に伴う商法の改正の中で、法定準備金を株主総会の了承を得れば減少できるという規定が入るような感じなのですが、ただ与党の一部の中に自社株取得以外の目的でも法定準備金を取り崩してもいいというような考え方があるようなのですが、この点についてご見解をお聞かせください。

答)

これはやや技術的なことでございますので、若干会見に馴染まないかも知れませんけれども、やや皆さんに解説させていただくことをお許しいただきたいと思うのですけれども、現在、今仰られた記者の方が仰るとおり、金庫株の解禁に合わせまして、そういう方面での商法改正法案が議員立法として提出されるべく、与党内で検討されている途上という認識にございます。

では、どういう改正案かと申しますと、まず商法一般ということと銀行にだけの特例ということの、二つに分けてお話させていただきたいと思うのですけれども、現在の商法では毎年利益が出た場合は、その10分の1ずつ利益準備金に積みなさいと、そしてその利益準備金は資本の4分の1に達するまで積みなさいと、そういう商法の大原則がございます。即ち利益準備金として積んで、その積み上げの限度、積み上げの義務がずっと続く限度というのは、資本金の4分の1まで積みなさいということがございます。

一方、取り崩しの方は商法はどうなっているかと申しますと、資本の欠損の補填、即ち繰欠になってしまったという場合ですね、それと資本への組み入れ、この二つの場合以外は取り崩してはいけませんと、こういうことになっております。

これを今回、商法を改正してどのようにするかと申しますと、まず先程、10分の1ずつ利益準備金を積みなさいといったところを、利益準備金と資本準備金をまず合わせると、まずコンセプトを変えます。利益準備金だけではなくて資本準備金も加えると。そして利益準備金プラス資本準備金、これを法定準備金という名前で呼ばさせていただきます。この法定準備金が資本の4分の1に積み上がるまで積み続けなさいと、まずそういうふうに変わります。積み上げ義務のところが変わるのであって、10分の1ずつというところは変わらないと認識しております。一方取り崩しの方は先程申しましたように繰欠の場合か資本への組み入れの場合以外は、取り崩してはいけませんと言ったところですね、使途を限定せず資本の4分の1まで取り崩し可能、即ち資本の4分の1を残しなさいと、資本金の4分の1に相当する額は残しなさいと、それを残しておけばそれまでは取り崩し自由ですと。使途を限定しないというのは何かと申しますと、それは配当に使うために取り崩しても結構ですし、自己株取得のために取り崩しても結構ですと、そこのところで金庫株と絡まってくるわけですね。これが一般企業をガバーンしている商法における現行と今度の改正案とのものでございます。

これに対して銀行はどうするのかということが問われるわけでございます。現在銀行はどうなっているかというと、銀行法で商法の特例を設けておりまして、現在は先程申しました4分の1というところが4分の4、即ち資本金まで積み上げなさいと。それから先程10分の1と申したところが5分の1となっております。これが今の現状でございます。一般企業をガバーンしている商法が、先程言ったように改正するのに伴って、銀行の方がどうするのかということが現時点で問われているわけでございますけれども、まず基本的に先程申しました商法の方が利益準備金を利益準備金プラス資本準備金、即ち法定準備金に概念を変えたところ、これは銀行についても同じように平仄を合わせるのが自然だろうと考えております。

最後に多分今日ご質問になった最大の関心事は、では取り崩しの方はどうするのだということでございますけれども、やはり銀行について4分の1を4分の4まで積み上げなさいというこれまでの思想から見ますと、やはり取り崩しの方も資本金の4分の1まで取り崩せるということではなくて、やはり資本金は残して、資本の額に相当するまでは残して、それ以上になるのならその部分は勿論取り崩していいのでしょうけれども、やはり一般企業が資本金の4分の1まで、つまり4分の1を残して後は取り崩せると言うのは、銀行の場合は資本の額を残して後は取り崩せると、こういうふうにパラレルにものを考える方が、やはり銀行については特に資本充実というのが求められるわけでございますので、そう考えるのが自然ではないかというふうに考えながら現在検討を行っているところでございます。

問)

議員立法の方だと、確か10月1日施行となっていましたが、関連法としてやる時には同じ10月1日になるのですか。

答)

そういう金庫株関連の中でやるとなるとそういうことになるでしょうね。商法改正に関わる整備法ということで一括処理になるというふうに考えております。

問)

10月1日というのは確定バージョンですか。

答)

失礼いたしました。10月1日というのは、皆さんの新聞でしか承知しておりませんので、ちょっとコメントを差し控えさせていただきます。

長官)

ちょっと皆様の方から何もございませんでしたら私の方から一つ付け加えたいことがあるのですが、先週の金曜日、証券税制に関わる税調のまとめがございまして、皆様ご承知の通りの結果になっているわけでございまして、それについて我々としても今後株式市場にいかに個人資産を引き込んでいくかという観点から、大変望ましい結論が出たと思っていると同時に、今後の検討課題に残された税率の引き下げ部分や、あるいは損失の繰り越し部分というのは非常に重要なものでございまして、それについての検討というものは速やかに行われることを強く期待しているわけでございます。

ところで、4月20日に発表になりました緊急経済対策に関わる税制上の措置の中に、上場型株式投資信託(ETF)にかかる税制の整備という項目がございましたことは皆様ご承知の通りでございますけれども、それにつきまして金融庁としては、ETFの導入も極めて有意義なものだと考えておりますし、我が国の証券市場の活性化に役立つものだと歓迎しているわけですけれども、その早期の実現を図ることを金融庁としては考えておりまして、これを実現するための金融庁関連の政令及び府令等につきまして、パブリック・コメント等の手続きを経た上で改正を行いまして、6月上旬を目処に施行したいと考えております。

ただ、このETFのスタートというのは、単に投信法令の改正だけでは目的を達成するわけではございませんで、税務関係の制度整備が重要なわけでございますけれども、これにつきましても財務省におきまして、同様なタイミングで必要な制度整備が行われるというふうに認識しております。

具体的には、皆さんETFというのはもうご承知だと思いますが、市場にある指数に連動して価値が変動する、バリューが変動する投資信託、現物出資型上場投資信託と言っていますが、要するに上場投資信託でございますけれども、ではその中の指数として何を取り上げるのかということてございます。あくまでスタート時点ではというお断りをさせていただきますけれども、まずTOPIX、次に日経株価指数 300、そして日経平均株価(日経 225)及びS&P/TOPIX 150、この4つをとりあえずスタートとしては取り上げまして、これに連動することを目的として運用されるものであって、その運用の対象とする各銘柄の株式の数の構成比率に相当する比率により構成される上場株式ということで投資信託の中身を構成するというふうに考えております。

問)

税調で申告分離課税の一本化を2年後を待たずして、前倒しで検討することを先週の税調の会見で発表されているのですけれども、これについて金融庁はどのようにお考えでしょうか。

答)

正直言って当方は、昨年暮れにどういう立場をとったかと申しますと、まず申告分離課税については今までいろいろ、今回その一部が実現したわけですけれども、いろいろ言っておりました。それとともに源泉分離課税の併存も言っておりました。ただし、その二つが両方とも併存する中では、年間選択制ということも言っておりました。そういうような立場が金融庁の立場であったわけでございまして、今ご質問された記者の方の仰る申告分離一本化への前倒しという話が出ていることは新聞報道で承知しておりますが、今後の議論の中で具体的にどういうふうに展開されていくのか注意深く見守っていきたいというふうに思っています。

問)

先程の自己資本の取り崩しの件で、自己資本相当までそれだけ残していたら余った部分については取り崩してもいい、その方向で検討されるということだったのですが、それで各銀行がその余った部分を取り崩して配当に充てると、それでその銀行の財務体質としてはちょっと弱くなるのではないかと思うのですが、そういう銀行が一杯出てきた場合に金融庁としては、それはそういう決まりだから仕方ないと容認する形になるのでしょうか。

答)

まず我々が見るところでは出てきません。あまりそういうものに該当するところはありません。確かに利益準備金と資本準備金を足すわけで、そして資本金と比べるわけですから、簡単に言えば利益準備金と資本準備金を足したものが資本金より多ければ、その多い分は崩せるということになりますが、まず大手行ではございません。あとは地銀レベルで一部出てくるとは思いますけれども、もともとそういうところは逆に言えば自己資本の充実が非常にきっちりとしているところでございまして、私は問題があるとは思いません。

ただ、私が先程ちょっと皆さんに申しましたが、一般の商法改正の考え方がまず動いているということを言いながら、それを受けて、では銀行に対する特例はどうするかというところを現在検討しているということです。ただ、考え方としては一般企業をガバンするルールが、こうであるならば今の考え方に従えば、こういうふうに平行移動すれば、こうなると考えるのが自然ではないかというふうに申し上げたわけでございまして、まあそういうことから言ってまだ検討中であるということを言いたいことが一つと、そういうような考え方の中ではこれまでの考え方と基本的には同じ厳しさと言いますか、中立性を保つということであって、特に銀行を甘やかすつもりもございませんし、特にこれを機会に厳しくするということでもないということです。

逆に言うならば、今ご質問になった方の話からすれば、現在銀行法は取り崩しの原則はございません。ですから、現在銀行にある特例というのは積み立ての原則だけです。それを4分の1を4分の4にしていくというだけですから、そこだけしか変わらなかったら取り崩しの方は商法の原則が生きます。そのまま放っておくならば記者の方が仰るように、相当剰余金が出てくるでしょう。取り崩せば剰余金が出てくるでしょう。まあ、それを配当に回していいのかという議論にはなると思いますけれども、そういう議論もあろうかと思うので我々としては平行移動的な考え方の方が適当なのかなあというふうに現在考えているということを申し上げた次第でございます。

(以上)

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