森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年5月14日(月)17時05分~17時35分)

【質疑応答】

問)

銀行の保有株式取得機構の設立について、先週、小泉総理が多岐にわたる検討が必要で時間的に厳しい状況だというふうに仰っておられましたけれども、金融庁の検討の進捗状況及び今国会の法整備についての見通しは如何でしょうか。

答)

まさに小泉総理が仰られますように、多岐にわたる検討が必要でございまして、保有制限の話とそれに伴います言わばショックアブソーバーとしての一時的な株式取得機構の立ち上げという問題を我々は2つに分けて考えております。

保有制限につきましてはご承知のとおり、既に金融審議会で立ち上げ、何回か審議をして、いろいろなご意見を伺っておりますし、更に今後、部会とワーキンググループの合同会合とか、精力的に少なくとも毎週1回ぐらいのペースでやっていきたいというふうに思っております。ただ、何かデッドラインを設けて、その時までに結論というわけにもなかなかいかないわけでございまして、そういう意味におきまして、できるだけ早く成案を得るべく努力しているという状況でございます。

株式取得機構につきましては、これは言わば行政そのものだということでございます。もちろん、どの程度の保有制限をかけるのかとも絡まる話でございますけれども、現在、そのスキームにつきまして、特に全銀協、これは基本的には銀行が中心となって作る機構というものの考え方をしておりますし、買い上げる株式も銀行が保有する株式に限定した考え方をとっているわけでございますので、どうしても銀行界のご意見というものを重視したいと思いますし、一生懸命、成案を目指して、今話し合いに入っているという状況でございます。

そういう話し合いの中から、何らかの公的な枠組みというものが必要であるということになるならば、財務省との話にも入らなければいけないということでございまして、なかなかお答えになっていないかと思いますけれども、いろいろな検討をするところがございますので、今国会中での法案の提出というものを行政として、完全に断念したわけではございませんけれども、現実の衆議院、参議院でのそれぞれ財務金融委員会なり、財政金融委員会でのスケジュール等を頭に浮かべますと、総理の仰るように厳しい状況にあることは、そのとおりだというふうに思っております。

問)

金融庁の中でも準備室を立ち上げて、いろんな検討をされているかと思うのですが、現時点で政府の出資とか、機構の運営の方法ですとか、アイディアの段階なんでしょうけれども、何が考え得るのか、その辺は如何ですか。

答)

これはいろいろ報道にも一部出ておりましたけれども、いろいろなアイディアというものは考えられるわけでございます。そういうアイディアにはそれぞれメリット、デメリット、考えられるものがいろいろあるわけでございまして、今の段階で具体的にこのアイディアで詰めるんだというところまで、銀行界との間で話が詰まってはおりません。そんなことでございますので、複数の案を前に置きながらの、いろいろな話をしているという段階でございますけれども、それだけいろいろ難しい問題もあるということで、若干のお時間を頂きたいというふうに思っております。

問)

銀行への公的資金の注入について、一部閣僚から必要なら再注入をといった考えも出されていますけれども、改めて金融庁として公的資金の銀行への再注入についてはどう考えていますか。

答)

資本再注入論、いろいろなところから必要だというご意見もマスメディアの報道を通じて、我々、承知しております。大まかに言って、再注入論の論拠と言いましょうか、平成11年3月に7兆5,000億円余り資本注入したわけですけれども、どうしても再度の注入が必要かという論拠をいろいろな方が仰るのを我々が分析してみますと、2つの観点に分けられるのかなあと思います。

第一は、金融機関が抱える多額の不良債権というものを構造改革ということで、今後、懸命にそういうものの最終処理をしていけば、当然、金融機関に損失が生じ、それが資本を毀損して、自己資本を過少にするのではないかと、一つはその不良債権の方から出てくる、アスペクトと言いましょうか、論点ですね。

第二は、これは株価から来る論点でございまして、本年度から時価会計が導入されるわけですけれども、そうした中で株価が大幅な下落をすれば、本年9月期以降の金融機関の決算において、株式の評価損がダイレクトに自己資本を毀損する、まあ自己資本から評価損が控除される、そこから自己資本が過少になるのではないかという論点ですね。

こういう2つの論点があるわけですけれども、金融庁としての検証を申し上げてさせて頂ければ、第一の論点、不良債権につきましては、現在、主要行とも十分な自己資本、平成12年9月期で12.2%ぐらい、この3月期というのは、決算がもうじき発表されるわけでございますけれども、基本的に私は12%程度だろうと、つまりそれ程減っていないというふうに主要行については思っておりますけれども、そうした中で各行とも不良債権の処理は当然、大いに進めるわけでございますが、これは業務純益で賄えきれたかと言えば、おそらくこの3月期、業務純益をややオーバーするのではないかと。

しかし、先程申しましたように、業務純益をオーバーすれば、その分だけ自己資本が減ったではないかと言われますが、私は先程、そんなに変わらないだろうと申し上げたのは、やや私の各行からのヒアリングの感じを私なりになかなか定量的に今申し上げれず、定性的に申し上げられることでお許し願いたいのですが、昨年度の上期に相当の株の売却益があって、やはり売却益で大方賄えたのではないかなあというふうに思っております。

ちょっと話が横にそれたのですけれども、不良債権のこれからの処分と、それから自己資本が過少になるのではないかというところに絞って物を申し上げれば、例えば、我々が今回打ち出した緊急経済対策というのはご承知のように、既存の破綻懸念先以下の12.7兆円を2年で片付けるというものですけれども、そこに絞って、一つの試算をお話させて頂きます。その12.7兆円というのは、大体保全率で87%ぐらいまでいっております。つまり、残りの13%がアンカバー部分、カバーしていない部分でございます。12.7兆円が全部例えばオフ・バランス化するということになりますと、13%分が言わば損として立つわけでございますけれども、この13%分が自己資本比率に与える影響は0.2%ちょっとというふうに我々は推定しております。

勿論、不良債権の処理というのは、この主要行の12.7兆円だけではなくて、新しく落ちてきたものは3年内にというのは、そういうものも加わってきますから、私は決して0.2%で済むとは申しませんけれども、一つの12.7兆円を基盤にすると、こんなような推定だということを皆さんにちょっと分かりやすく申し述べただけで、私が申し上げたかったのは、言わば十分な自己資本を充実している今の主要行で不良債権処理をしても、この程度のインパクトだということと、それから当然これが絡む業務純益というのは稼ぐわけございますので、私はリキャピタラィゼーションが再注入が必要とするほど、今の銀行の資本勘定が毀損されるとは考えておりません。

それから、株価下落の方でございますけれども、いろいろ皆さんにもご心配を頂きましたけれども、今年3月末の日経平均を例にとれば、3月末の株価というのは1万2,999円70銭だったわけですね。これは昨年9月期の1万5,700円ぐらいに比べると、2割弱ぐらい減っているわけでございますけれども、主要行について申し上げれば、株式の3月末での株式含み損は大体3,000億円強ぐらいだと思います。今後決算で明らかになると思いますが、まあ発表したところもございますですね。一方、その他有価証券で眺めた場合には債権の含み損益をこれに加味しなければいけないわけでございまして、主要行で発表していないところもございますので、丸めた数字でお許し頂きたいと思いますが、債券の含み損益が4,000億円強の益に出ましたものですから、差し引き1,000億円強はこの3月末でも含み益が出ているというのが現状ではないかと。そうであるならば、現時点で1万4,000円程度であれば、相当程度この状況から更に改善しているのではないかなあというふうに思っております。もちろん、株価というのはいろいろな要素で今後、言わばアンプレディカブル、予想できない部分でございますので、私は現在の株価がこうだから大丈夫ですなんて、そういう短絡的なことを言うつもりはございませんけれども、少なくとも現時点において、この株価の面から資本を再注入する必要があるんだという状況には今ないのではないかということを申し上げたくて、今の話をした次第です。

問)

公的資金の再注入をする必要はないということですね。

答)

あまりちょっと答弁が長すぎたものですから、簡潔に言えば、2つの懸念を皆さんお持ちで、そこから再注入論が出てくるかもしれませんけれども、その一つ一つ、まず不良債権について見れば、そんなに銀行にとって損を発生させないと思いますと。株価の方から言えば、少なくとも現在の株価で言えば、とても再注入が必要だという状況ではありませんと、こういうことを申し上げた次第です。

問)

国会で先週だったと思うのですけれども、柳澤大臣が不良債権の処理について基本は法的整理であるということを仰って、これまでかなり債権放棄ということを強調されていたと思うのですけれども、その辺り何か考え方に変化があるのか、その辺り金融庁としてどういうふうにお考えなのでしょうか。

答)

丁度良い機会なので、若干報道に私から見ると、やや誤解があるのかなと覚える感じがするもので、当方から金融庁の考え方を説明させていただきたいと思うのですが、法的整理か私的整理かというものの分け方以外にですね、我々が考えていますのはどちらかというと、清算か再建かと、我々はどちらかというとそういうものの考え方をしております。

申し上げたいのは、我々は今までのオフバランスというものを多分、件数的には、こういう順序ではないかと思うのですけれども、4つのジャンルで考えております。第一番目のジャンルというのは私的な清算。どういうことを意味するかというと、私的な清算というのは、基本的には金を貸していたと、しかし向こうは返せなくなったと、それで言わば、非常に雑把な言い方をすれば夜逃げしてしまったと、残ったのは担保だけだと、それで債権者は担保を執行してですね、もうその債権はそれでなしにする。件数的にはやはり世の中これが一番大きいのだろうと思いますね。二番目は法的清算、これは破産法に基づく破産と特別清算の二つ、これは圧倒的に破産法に基づく破産が多いと思います。ここまでが清算の話でございます。三番目が法的再建、これが会社更生法と民事再生法の世界です。四番目が私的再建、これが債権放棄の話でございます。

緊急経済対策で、我々が強調したかったのは、やはり再建型の整理といいましょうか、そういうものを何とか増やしていきたいということでございまして、大臣が申し上げたかったのは、言わば再建型でも今申しましたように債権放棄もあれば民事再生法もあるという中で、結局まず債権放棄で話し合いになる、まさにこれから作るガイドラインのルールに沿って話し合いに入るのでしょうけれども、結局、話し合いがまとまらなければ民事再生法なり会社更生法でいくというふうになるわけですね。

そういう意味で大臣は、そういう全てが何としても話し合いがまとまって、債権放棄ということではないのだと、言わば再建型の法的整理といいましょうか、民事再生法とか、そういうものもやはりこれからは多く出て来るでしょうと言うことを大臣は仰られたかったのだろうと思います。

いろいろこれから透明性の観点から外部の方やメディアの方々に、いろいろ4月1日から緊急経済対策の話とか、不良債権の最終処理の部分を執行いたしまして、皆さんに決算期毎に公表いたしますということを申しておりますけど、その公表の仕方も今検討中でございますけれども、基本的には今申しましたように再建型なのか清算型なのかと、これが世の中的には私は意味が大きいことだと思いますので、そこを中心に考えていきたいというふうに思っております。

問)

銀行株取得機構についてなのですが、与党の方でもアイディアが幾つか出ているようですが、一般論としてお聞きした方がいいかと思うのですが、銀行の保有株を簿価で買い取ることのメリット・デメリットについてどのようにお考えでしょうか。

答)

今のご質問の前半部分と後半部分が巧く私の頭の中で繋がらないのですけれども、問題は政策目的が銀行が株を保有しているということのリスクを、どう最小化して金融を安定させるかというところに目的があるということで対策も発表されてきたわけです。そうであるならば金融機関の持っている株のリスクが完全にスルー・セールで、言わば移転することがやはり重要なのだろうと。果たしてその簿価での買い取りということになった場合に株式取得機構の仕組み方によるのだろうと思うのですが、今ご質問なされた方の質問を頭の中で考えていて、果たして簿価での買い取りということで、今申し上げた目的が果たして達成出来るかどうかというところについて、非常に頭の良い方ですと、そういうアイディアもこれから出てくるのかなと思いますけれども、今私の頭の中ではなかなかうまくそう出来るのかなというところで、良いアイディアが出てきませんけれども、もしそういうことを仰っている方があるのでしたら、そういうことも可能なのかなと、今後いずれにしても検討していきたいと思います。

問)

先程不良債権の処理に絡めて、自己資本比率への影響が0.2%強くらいという試算を仰ったのですが、先程の12.7兆円の保全率が87%ということですが、地価で土地で担保した部分がございますし、地価の…。

答)

勿論そうです、それはあなたの仰るのはそのとおりで、今担保しているのは路線価みたいなものがあるところは掛け目7割ということで、あなたの仰りたいのは7割で売れる保証があるかと、7割よりもっと下がった場合はもっと損が出るのではないかと、もちろんそれはそういうことです。ですから一つの試算でございます。

それともう一つは、不良債権の処理をしたって、たかだか0.2%強だと、そんなふうに書かないでください。それは私はそんなこと言った覚えがないので。ただ一つの試算として12.7兆円というのものを皆さんに発表しているので、この12.7兆円を処分して、且つその処分が、12.7兆円の中味は皆さんご承知のように債務者区分ごとに一分類・二分類・三分類・四分類と、いわゆる回収可能性において、そういうように分けてますね。それがこちらの前提通り回収出来たと言いましょうか、オフバランスした債権の価値がその分類通りの価値になったと仮定して0.2%強ということを申しただけでございまして、決してこれからの不良債権を処理しても自己資本比率は0.2%強程度でございましてと言うつもりは毛頭ございません。そんなことをしたら、また金融庁の査定は甘いばかりか、何を考えてそんな楽観的なことを考えているのだと怒られますので、だからあまりそんな数字は言わない方が良かったかなと思いますけれども、具体性を持ってお話した方がいいかと思いまして、その部分だけを言って、こういう仮定におけばそうだということをちょっと申し上げた次第です。

一方において0.2%の処分損が、言わばそのまま損になった場合の話でございまして、プラスの要因もあるのですね、業務純益でカバー出来たとか。そういう面もありますから。だからプラスマイナスいろいろある話で、決して一つの機械的な計算をすればそうだということでございまして、誤解のないように宜しくお願いいたします。

問)

自己資本の問題もそうなのですけれども、もう一つ配当余力の問題で、大手銀行の今後に絡んでくる問題があると思うのですけれども、その絡みの中で今後中間期の配当をどうするかという問題があって、制度上それは出来ないところと、それからいろいろ選択肢がまたあるところといろいろあるかと思うのですけれども、不良債権処理の行方とも絡む話で、非常に変動要因も大きいので中間配当を見送るという考え方もあるのではないかという議論もあるのですけれども、その点について現時点でお考えがありましたらお願いします。

答)

これまで主要行大手16行を頭に置いた合算ベースの話をしているわけでございまして、個々の銀行の決算につきましてはこれから出てきますので、皆様方それぞれ新聞紙上等でコメントなされると思うのでございますけれども、今の時点で、そっけない話で大変恐縮なのですけれども、9月末の株価も想定出来ませんし、配当余力がどうなるかということについてコメントはなかなか出来ないなと思います。

ただ、不良債権処理というのは、配当するしないの配当余力の話とですね、決してオルターナティブな話ではないのですね。不良債権処理はこれは絶対です。これはしていただかなければ困るわけで、それは我々の金融庁の検査できちっと見させていただきますので、そういう財源が限られている中で不良債権処理に使おうか配当に使おうか、そんな馬鹿な話は有り得ない話でございます。当然、不良債権処理が先にありきでございまして、残った中からどうなるかという次の問題があるということで、それがどうなるかということについて予断を持ってなかなか言えないのだろうなというふうに思います。

ただ一般論で申し上げれば、時価会計が導入される株価というものの変動リスクというのは常にあるという中で、昨年度をとりましても9月は中間配当をしたけど3月はしなかったというところも幾つかあったかと思いますけれども、そうした中で配当政策というものは、やはり時価会計の導入によって影響を受ける金融機関も出て来るかも知れないと思います。

(以上)

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