森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年5月28日(月)17時00分~17時29分)

【質疑応答】

問)

長官からは何かございますか。

答)

特にございません。

問)

これまでに大手銀行の決算が出揃いました。特に不良債権について伺いたいのですけれども、処理の進捗状況、また残高について長官として、どのような評価をされていますでしょうか。

答)

まず、残高について申し上げれば、各行の個別の不良債権残高等は各行の決算発表で既に皆様ご承知の通りでございますし、またその集計した数字も一部の報道にも出ておりましたけれども、当方からは、あくまで大手16行ベースということを前提にお話させて頂きますと、不良債権残高について言えばリスク管理債権という概念でとらえますと、平成12年3月期が18.0兆円、それが平成13年3月期には17.4兆円と、約6,000億円下がった水準になっております。

また、金融再生法開示基準という基準をとれば、平成12年3月期は18.5兆円、そして平成13年3月期は18.0兆円と、まあ5,000億円ぐらい下がった水準になっております。

また、オフバランス化という観点から見れば、これは各行に対して、破綻懸念先以下という、あくまでもこの間の緊急経済対策との絡みで、破綻懸念先以下について昨年の9月を発射台にして、どれ程オフバランス化したか、今回初めてそういう集計をとり始めたわけでございますが、そういう前提を置きましてオフバランス化がどの程度進んだかと言えば、4.4兆円がオフバランス化された。しかし、昨年の10月からの半年間で新たに3.4兆円入ってきたわけでございますので、差し引きは1兆円ぐらいのオフバランス化ということになろうと思います。

まあ、これらは皆さんもご承知の通り、景気動向、足元の景気というものに大いに影響を受けていること、あるいは債務者の業況悪化というものにも影響がなされているということ、更に今年の3月期の一つの特徴として言えば、いろいろ再編に伴う基準の厳格化ということを各再編行は行ったということ、まあこういうところがいろいろ影響しているのかなあというふうに思っております。

問)

その緊急経済対策との絡みですけれども、これから金融機関に対して、どんな形でどういうことを促していくことになるのでしょうか。

答)

これは枠組みはもう決まっているわけでございまして、あくまで対象を大手16行、今度、三井と住友が合併しましたから対象が15行ということになるかと思いますけれども、15行を対象に致しまして、昨年の9月期に既に破綻懸念先以下になっているものについては2年間の間にオフバランス化してください。更に、その後に出てきたものについては3年後にはオフバランス化してくださいということは、もう既に要請済みでございまして、その実行を担保するために各行にオフバランス化の実績等を半期ごとに出して頂くと、今回そういう雛型もフォーマットも当方で作りまして、それに基づいて各行ともそれに掲載して出して頂いているわけですけれども、各行の実行、履行状況というものを今後フォローアップの中で精査し、また国民に公表もして、言わばパブリック・プレッシャーによって、その履行を確保していきたいと、このように思っております。

問)

先程、長官からもご紹介がありましたけれども、今回初めて新規発生分はいくらかということが分かったわけですが、3.4兆円という、これはどうでしょうか、半年にしては多いとお考えでしょうか、それともこんなものでしょうか。

答)

正直申しまして、これは昨年下期、ある景気の足元の下での、また更に先程も申しましたように基準を厳格化したという下での数字でございまして、いずれ皆さんにこの8年半を逆上って見れば、処分損の累計額68兆円のうちの約8割がオフバランス化しているという推計値を出しましたけれども、そういう推計値として、いずれ平成12年度といいますか、昨年の上期を通じた数字も推計できるのかなあと、そういう数字を推計するように指示しておりますけれども、そういう数字がいろいろ出てきた時に、この3.4兆円というものの位置付けというものができるのかなというふうに思っております。

問)

これも少しご紹介がありましたけれども、査定の基準を厳格化して、不良債権の残高が大きく増加した銀行がある一方で、むしろ減ったところもあるのですけれども、こうした違いについてはどうお考えですか。

答)

それぞれ銀行はいろいろな債務者を抱えているわけであって、一般論で増えたところもあれば、減ったところもそれはあるんだろうと、債務者の業況というのは各銀行、全く同一であるはずがございませんので、それはいろいろ差が出てくることは確かかと思います。ただ、今のご質問の中で増えたところもというので、ある銀行の要管理債権が1兆3,000億円程増えているわけでございますけれども、我々もそこに注目して、一体どういう事情で増えたのかということを聞いているわけでございますし、またその銀行は記者会見においても、その要因を皆様方にディスクローズしているわけでございますけれども、まあ要管理債権というのは、皆さんご承知のように、条件緩和または3カ月以上の延滞とこうなっていますが、問題なのは条件緩和というのをどうとらえるかというところかとも思うのですけれども、まあ敢えて言えば、金利の変更ですね、金利の変更があるかないかという認識判断が一番重要だと思うのですが、その際に当該銀行はそれまでは貸付金のコストに応じたスプレッドをとっていたと。しかし、今回言わば信用リスクに基づいて、もうちょっと具体的に申しますと、ある人に貸す時にその人と同じ状況にある他の人に一体いくらのスプレッドをとって貸しているかということを見ながら、実は当該債務者に対して、どれ程のスプレッドをとるのかというのを決めなくてはいけない、これが信用リスクに基づく金利設定なのですけれども、それをしてなくて貸付金の原資の調達コストから積み上げていたということを、その当該銀行はディスクローズされてますけれども、これは金融庁の監督局の事務ガイドラインからすれば、明白に信用リスクに基づいてスプレッドはとりなさいということを言っているわけでございまして、言わば当然のことを今回修正された結果、出てきた要管理債権の増加ということでございまして、そういうような特殊事情が他の銀行にあったというふうには聞いておりません。

そういうことで、一慨に、ある銀行は不良債権が増えてて、ある銀行は増えてないのはおかしいのではないですかというのが、今ご質問された記者の方の趣旨であるとすれば、そういうことではないということは言えるかと思います。

問)

公的資金注入行の中に赤字決算に陥ったところが幾つかありますけれども、例の3割ルールの適用との関係ではどうお考えでしょか。

答)

それは今まで会見において何度も申していますように、行政上の措置の発動の検討という観点からは、まず第1に業務純益(ROE)の達成状況というのを見させて頂くと。第2には3割以上低下した原因が主として不良債権の厳格化処理によるもの、特に不良債権のオフバランス化への積極的な対応ということが大きな原因であるかどうかというのを第2番目に見させて頂く。第3番目に当然、3割以上低下するということは当該銀行の償還計画といいましょうか、国が注入した資本を償還していく計画が遅れるわけでございますから、その代替措置というものをきちんととっているか、リストラを更に深堀するとか、そういうことをしているかどうかということを3番目に見させて頂く。第4番目には、いずれにしてもそういう3割以上乖離したような決算を発表した後においても市場の評価が得られているかどうかということを検証させて頂くと、そういうことを全部合格していれば、それに対して敢えて行政上の措置をとる必要はないと、我々は考えております。

問)

確認ですけれども、今回は行政処分の対象にはならないということですか。

答)

その4つをこれからフォローアップの中で検証致しまして、それについて全てパスしているということであるならば、何か新たな行政処分を打つということは考えておりません。

問)

債権放棄などの私的整理のガイドラインのための研究会の進捗状況は如何でしょうか。

答)

前も申しましたように、あくまで私的整理のガイドラインという観点からすれば、あくまで再建型の私的整理ということであれば、民-民が使いやすいもの、使おうとするもの、こういうガイドラインが出来なければいけないというふうに考えておりますので、あくまで全銀協主体にまずガイドラインを作る検討の場というものを立ち上げて頂きたいということを要請しているわけでございますし、企業の過剰債務と、まあ企業の再生と金融の再生の一体的解決という観点からは、当然企業側のことにも詳しい人にも参加してもらいたいということで、全銀協は産業界に声をかけているというのが現状だと思いますけれども、双方の理解も相当深まっていると思いますし、私は検討の場が立ち上がるのに、もう大詰めの段階に来ているのではないかなあというふうに思い、また期待しております。

問)

要管理債権が増加している銀行の件なのですけれども、これはきちんと金利改定交渉を債務者企業とやった上でこのように判断しているというふうにお考えでしょうか。

答)

これはですね、全く債務者の知らないうちに何かということはないわけでございまして、基本的には条件緩和の要請を受けて条件を改定しているというふうに考えております。

問)

あまり突っ込んだ交渉をしていないと言っている債務者企業も中にはあるのですけれども、それについてはどうでしょうか。

答)

それはケース・バイ・ケースでございまして、日本の場合はSECの基準と違って、必ずしも要請文とか要請レターとか、そういうものを必ず出すとかそういうふうにはなっていないと聞いておりますので、そこはどういう、つまり様式行為というものが必ずしもはっきりしていないのではないかと思うのですけれども、少なくとも貸し手と借り手の間に条件改定の認識というものは当然あるというふうに考えております。

問)

そこのところは、非常に浅い認識でやっているとですね、場合によっては、これは予備的引当ではないかというような見方も出来るのではないかと思うのですけれども、そういう認識は今長官は持っておられないということですね。

答)

その辺は、当該銀行と私自身もいろいろ話をしましたけれども、そういうものとは聞いておりません。

問)

信用リスクをとってスプレッドを決めるというのは、至極当然のことであるというふうに仰いました。全くその通りであると思いますけれども、要注意先債権について、必ずしもそうなっていないということは、かなり日本の金融界全体にとって問題ではないかという指摘は、予てからあったと思うのです。要注意先債権については、必ず一般貸し引きというものがあって、他の正常先債権とは違う稼働資産であっても必ずしも効率の良い資産ではないと、これをきちんと信用リスクをとれば、効率も上がっていくのでしょうけれども、必ずしもそうなっていないという指摘もありましたけれども、この点について今回の動きについてどういうふうな影響を金融界全体にもたらすのかという点についてどうなのでしょうか。

答)

まず金融界の中で言えば、監査法人がきちっと見ている話でございますし、当然実務指針、金融検査マニュアルに基づいて自己査定の世界で銀行の経理部なら経理部が作りそれを監査法人がチェックする。そして更に当庁の検査局がチェックする。こういう体制になっているわけでございますけれども、当庁の検査においては、そういう監督局の事務ガイドラインに沿った分類というものをしているのかというのは、大きなポイントでございます。

今、お聞きになった記者の方は、要注意一般で申しますけれども、要注意一般の引当率は、そこから個別貸し引きにどれくらい貸倒れをするかの率を基準として、それで予想損失率というのを決めて一般貸し引き率が決まるわけですけれども、一般の要注意と要管理は、これは全然違う話だということでございます。

従って、事務ガイドラインにきちっと合っていない、一般の要注意と要管理では3、4倍引当が違う話でございますので、そこを銀行によっては、今の質問から受けた印象では、きちっとしていないというのは、私は正確ではない。そこはきちっと検査局が見ておりますし、そういうことはない。一般要注意と要管理は、ある意味で全然違う世界だと、だからこそ不良債権というのは要管理以下を言うというふうにしているわけでございますので、そこは各銀行とも十分意識してやっている話だと思っております。

問)

要管理を除く一般要注意先債権について伺いますけれども、これについても一般貸し引きというのはかかっているのであって、本来であればそれをオンした金利水準をとっているはずだと思うのですけれども、実際そうなっているのですか。

答)

それはですね、大体短期の転がしで言えば、TIBOR+スプレッドがどれ位かということですね。その時にあなたの仰るのは、一般要注意の貸倒引当率ほどとっているかどうかということのご質問かと思いますけれども、それは各銀行の経営判断の下で十分それを賄った金利をとっているというふうに認識しております。

問)

生命保険会社の件で伺いますが、三利源を足すとですね、過去3年度1兆2千から2兆3千億円の黒字だということが集計されているようですけれども、この絶対的水準でもってですね、これほど黒字であるから生保はかなり経営的に大丈夫だというふうに認識されているのか、あるいは今後死差、費差というのは、これ以上の増加は望めないし、一方で利差というのは増減が激しいので放置していては、やはり大変で何らかの措置が必要と見られているのか、どちらでしょうか。

答)

その辺は結論を言えば、今そこをまさに金融審議会に諮っていろいろ意見を聞いているところだとしか申し上げようないのですけれども。一つ言えることは生命保険契約というのは極めて長期に渡る契約でありまして、その間の支出の経済変動にも対応する必要があることから、保険料を設定する際には死亡率とか経費率等につきまして、通常ある程度の安全率を見込んでいるというのが通常でございます。

例えば、どの程度の安全率を見込むかということになりますとアクチュアリー協会の専門部会が毎年毎年、死差益でいえば、死亡率というのを検証して検証結果を当局に提出して、当局も検証すると。そうした中で、死差益というのが予定死差益みたいなものが決まってくるわけですけれども、その際にもある程度の安全率を見込んでいるのが通常でございます。

では、安全率を見込むのはけしからんではないかという議論についてはですね、これは生命保険の非常に特殊なところでございまして、通常事後的に剰余金を契約者配当という形で契約者に還元していると。従いまして、正直申しまして平成11年度を見ましても、死差益だけの剰余金は確かに出ておりませんけれども、死差益の7割位の剰余金は出ている。それを基本的に契約者に還元しているわけでございまして、そういうものであるというふうに私は認識しておりまして、敢えて言えば、死差益が、ある程度出るのが常態だというふうに考えております。

そうした中で、三利源合計で言えば生保会社は総じて黒字の状況であり、正直言いまして、今の生保会社について何か不安材料を持っているかと言われれば、そのような不安材料あるいは不安視を私の方はしておらないということで、不安だという見方はしていないということでございます。

問)

平成11年度、その死差益の配当は出ていないということで宜しいのでしょうか。死差益配当ですが。

答)

配当は、出ていますよ。

問)

死差益の方ですが、死亡の方。

答)

死差益が報道等によりますと、平成11年度2兆5千億円出ていますけれども、剰余金が1兆8千億円ほど出ていますね。その1兆8千億円が配当に回っているということでございます。

確かに、予定利回りの方は、安全弁を確かにかつては見て決めていたのでしょうけれども、結果としてこういうゼロ金利時代においては、予期せざるマイナスが出ている、これも事実でございます。それによって、死差益が全部還元出来ないのも事実でございますけれども、しかし、そのような中でも剰余金は出し、還元はしているということでございます。

問)

公表逆ざや額の定義を、長官はどのように考えていらっしゃいますでしょうか。これを出す利回りというのは基準配当利回りという、いわゆるインカムベースの利回りで出しているのですが、これでもって資産運用の実態というのが全部把握出来るとは思えないのですけれども、これでもって今大変だという議論が起きているのですけれども、この公表逆ざや額の定義あるいは意味付けについて、どう考えていらっしゃいますか、教えて下さい。

答)

これは私が長官になる遥か前から、公表27社とか26社が一つの定義の下で発表しているもので、言わば業界の慣行といえば慣行なのですね。どういう定義かと言えば利差損が発生しているもの、その損を全部加えるわけではないと。その利差損が発生しているものから、そのあるジャンルの契約をとって、費差益と死差益を加えても、更にマイナスのものだけを足し込んでいくと。従って公表逆ざや額が、平成11年度で言えば1兆6千億円位であったと、しかし全部、すなわち、費差・死差益を加えてプラスになったものまで加えて全部足し込むと約1.4兆円弱だと、その差が出て来ると。これはしかし一つの業界が定義によって発表しているものでございまして、そういう慣行で出ていると。だからそれを聞く方もそういう定義だなということを分かっていれば、敢えて言えば、いいと言えばいいということかなと。

ただ、いずれにしても我々としては、もうちょっと各銀行の業務純益力みたいなものを国民に示した方が保険契約者が安心していられるのではないかという考え方の下で、この3月期から適用するということで、いわゆる基礎利益というものを出してもらうことにいたしまして、それを今集計している最中でございます。そういうことを皆様方に発表すれば、契約者からみれば自分の契約している保険会社がそれだけの利益を生む会社だということが分かっていただけ、安心につながるかなと、こういうふうに思っております。

(以上)

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