森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年6月25日(月)17時00分~17時25分)

【質疑応答】

問)

長官からは何かございますか。

答)

ただいま、皆様方にプレス・リリースを配布させて頂いたと思いますけれども、本日、6月25日の日本時間の午後5時、バーゼル銀行監督委員会は「『自己資本に関する新しいバーゼル合意』の作業状況について」と題したプレス・リリースを全世界で公表致しました。そのプレス・リリースの日本語訳版及びそのポイントを皆様方にお配りした次第でございます。

このプレス・リリースにおきましては、バーゼル銀行監督委員会は、いわゆるBIS規制の見直しの最終案の公表を今年の末ごろとしておりましたところを、2002年中に延期すると同時に、実施時期を2004年からと致しておりましたところを、2005年に延期するということを発表致しました。この延期につきまして、その理由等は皆様方にお配りしたペーパーのPDF「『BIS規制』見直しの今後の方向について」というところに出ていると思います。そもそも1988年に現行BIS規制がスタートしたわけでございますけれども、その規制のあり方について、現在においては既に実体にそぐわないものになっているということから、今回のBIS規制の見直しというものが始まったわけですけれども、その時にバーゼル銀行監督委員会においては幾つかの方針を明示していたわけでございます。

その一つは(1)にございますように、いわゆる標準的手法というものと内部格付手法というものの2つに分けるわけで、標準的手法におきましては所要自己資本の水準は現在の水準と総合的に同じぐらいのレベルにしようということを一つの方針として決めていたわけですけれども、今年1月に発表になりました第2次市中協議案を各国が、特に各国の金融界が仔細に検討致しまして、今年の5月までにコメントを寄こしてきたわけです。それによりますと、この第2次市中協議案では現在の規制より厳しいものになってしまうというコメントが多数寄せられたということです。従って、この第2次市中協議案についてもう一度見直して、第3次市中協議案を作ろうということになったわけでございます。ちょっとPDFペーパーの上の方に旧日程、新日程とございますけれども、新しい日程では来年のearly2002、まあearlyというのをいつごろとみるかですけれども、来年のearlyな時期に第3次市中協議案を出してコメントを求めると、そして来年中に合意をして、最終案を公表する。そして、実施は2005年にすると、こういうことです。

話を完結させますと、もう一つのポイントはオペレーショナル・リスクということについての自己資本の水準の見直し、これまで現行BIS規制についてはこのオペレーショナル・リスクという部分について欠けていたわけでございますけれども、これについて第2次市中協議案では所要自己資本全体の2割程度はオペレーショナル・リスクに必要だろうということを謳っていたわけでございます。これにつきまして各国ともオペレーショナル・リスクにそんな2割も資本を割くなんて必要はないというコメントが多数寄せられまして、この2割について引き下げの方向で検討すると、これが第2番目でございます。

第3番目に中小企業向け金融、SME(スモール・アンド・ミディアム・エンタプライシィズ)についてのファイナンシングのリスクウェイトをどの程度にするかということでございますけれども、今まで大企業向けに比べれば、中小企業向けの方が相対としてはリスクウェイトは低くなるという方向性は出されておりましたけれども、一体どれくらい低くするべきなのかということについて第2次市中協議案は何も触れていないと、もう少し明確なリスクウェイトというものを示すべきではないかというコメントも多数寄せられた。従って、この点についても第3次市中協議案に向けて見直そうということ。ポイントはこの3つの点から第2次市中協議案だけで最終合意に持ち込むのではなくて、もう一度バーゼル銀行監督委員会が第3次市中協議案を来年の初めまでに作って、そしてそれに対してコメントを求めて、そしてそれに対して合意をして、2005年から実施すると、こういうことを決めたということでございます。私の方からは以上です。

問)

今、長官からご紹介があったいわゆるBIS規制の見直しですけれども、ちょうど金融庁の方でも銀行の保有株のリスクについても検討しているところだと思いますが、見直しが日本の金融行政、金融機関に与える影響についてはどうお考えでしょうか。

答)

まず金融機関に対する影響でございますけれども、先程も申しましたように新BIS規制の方向性というのは定まったわけでございますし、その方向性については日本も、日本の金融当局としてそれを支持して、積極的に議論に参加していたわけでございます。今日、第2次市中協議案から、もう少し第3次市中協議案を作って最終的な合意を形成しようという方向に変わった。まあ、その委員会の委員長であるマクドノー・ニューヨーク連銀総裁の決断の下に、そういうふうに変わって今日発表しているわけですが、そういうやはり銀行の経営に非常に深く関わる規制でございますので、そういう慎重な姿勢で物事に臨むということには、当局としても支持できるというふうに思っております。そういうふうにして最終合意に形成していくべきだと。その結果、新規制の導入が1年遅れるわけでございますけれども、やはりそれよりも拙速を控えて、コンセンサス形成のために、こういう慎重な手続きでやっていくということは賛成でございます。

かつ、この3つの点というのは、そもそも日本が強く主張していた点、特に(2)、(3)は日本が強く主張していた点でございまして、そういう点について、よりそのディテールをしっかりと各国でコンセンサスをとろうということについて当局として歓迎でございます。

問)

先週、経済財政諮問会議がPDF「経済財政運営の基本方針」新しいウィンドウで開きますをまとめました。その中で不良債権処理については新指標の指標ですとか、整理回収機構(RCC)の活用について盛り込まれたわけですが、長官としてはこれで不良債権処理が進むとお考えですかということと併せて、とりわけ新指標については公表しないこともあって、その意義について疑問も出ているようですが、これについては長官はどうお考えでしょうか。

答)

私は当然、緊急経済対策で我々は2年、3年ルールを決めたわけですけれども、その実行を担保するものとして、新指標というものを活用しながら、不良債権処理の状況を見るということと、かつ2年、3年の担保としてRCC、そこで処理できなければRCCという受け皿をきちっと備えますよと、そしてRCCというのは回収一本槍ということではなくて、企業の再建も考える部署を作って、そういうことにもRCCに働いてもらいますよということは、私は大きな意義があることだと思っておりますし、こういう一つのRCCという受け皿を作ることによって不良債権処理がきちんと進むと思います。またその処理が進んでいるかどうかを見る面において、新指標と言いましょうか、新しく焦点を当てるべき指標みたいなものだと思いますけれども、要するに何もその指標自体は新しいものではございません。今までだってありました。しかし、こういうところに焦点を当てて、不良債権処理が進んだかを見ますというところが新しい点でございます。そういう意味におきまして、不良債権比率であれ、与信費用比率であれ、そういうところを見ていくと。それによって不良債権の処理の進捗度合いを見ていくというところに意義があることだと思っています。

かつ、また今、公表云々と仰いましたけれども、これは当然公表致します。公表して世の中の人にもどの程度進捗したのかというのを見て頂きたいというふうに思っております。ただ、皆さんのお気持ちにあると思うので、それでは一つ、何かを目標にするのかと言えば、それはできない相談なのです。なぜかと言いますと、不良債権処理の方は既存の溜まったものについては何年以内ということは計画を立てて言えますから、そこの部分だけとればターゲットとするべきものも浮かんでくるかと思いますけれども、常に経済の足元の状況に応じて新しく不良債権というのは上から落ちて来るわけでございますので、そういうものまで含めて、不良債権比率を何%にすべきだとか、あるいは与信費用比率を何%すべきだとか、そういうことはつまり政府にとってはアンコントローラブル、銀行にとってもアンコントローラブルの部分があるわけですから、それはなかなか無理な相談だと。しかし、さはされど不良債権処理の状況を示す指標としてはこういうものを活用して、今どの程度にいるのかということを国民の皆様に示すのは意味のあることだと思っております。

問)

今月29日に大手銀行の頭取と意見交換の場があるかと思うのですけれども、ここでは金融庁としてはどんなメッセージを伝えるのか、あとまた今後銀行に対してはどんなことを期待していくのか、その辺は如何でしょうか。

答)

各頭取さんもお忙しいと思いますし、当庁の大臣も忙しいので、少し気が早いと言えば気が早いのですけれども、早めにそういう会合をテンタティブに各銀行にこういう会合もあることも考えておいて欲しいということを先週伝えました。それが今週の29日(金)でございますか。その趣旨とするところは、やはり骨太というものを基本方針ですか、政府が決めさせて頂いたと申しますか、明日閣議決定する予定でございますけれども、当然しかし、それは銀行の協力なくしては成り立たない施策でございますので、大臣の方から閣議決定される基本方針の意味するところ、あるいは銀行に期待するところ、そういうことを説明して頂きたいと思いますし、ちょうど今週我々はいわゆる私的整理のガイドラインというものが全銀協、経団連を中心にして民―民の会合の中でその骨太部分が生まれることを期待できる、期待している週でもございますので、もしそういうものが出来れば、これはもう我々としては民―民にお任せしたので、作って頂きたいというお願い、まあ骨格部分でも作って頂きたいとお願いをしているわけですけれども、それが出来れば、今度は全銀協の方からそれを説明して頂きたい。まあそういう面で双方向の言わば意見交換の場としたいというふうに思っております。

先程、私はそうは理解はしなかったのですけれども、BIS規制の作業が銀行の保有株式制限の議論に与える影響という意味でお聞きになったのだとすれば、これは銀行の保有株式制限というのは2つの方向から今金融審議会で考えられていると思うのですね。一つは総量規制、一つはリスクウェイト。リスクウェイトの方では私が理解する限りでは基本的には新BIS規制というものに連関させるという方向で議論されている。従ってリスクウェイト規制の方の話からすれば、これが1年ずれるということはそれなりに明日の金融審議会で議論されるかなあという気は致します。但し、総量規制の方はこれは国内的な一つのメジャーでございまして、新BIS規制とは特にそこから独立した一つの規制として考えておりますので、それの時期がどうこう、こうこうとかそういうことには何の関係もありません。以上です。

問)

BIS規制の日本からの、全銀協ほかのコメントなのですが、これはどれぐらいのコメントが、特に(2)及び(3)について個別に件数としてあったのでしょうか。

答)

日本からという意味ですか。

問)

日本から全銀協ほかのコメントが5月末にいろいろ出されましたか。

答)

全体では250以上と聞いています。

問)

全世界ではそうですが、日本からです。

答)

それはバーゼル銀行監督委員会のWebサイトを開いてください。Webサイトに全部出てますから。

問)

Webサイトで…。

答)

はい。私は勘定をしておりません。みんなオープンになってます、Webサイトで。

問)

骨太の新指標について伺いたいのですけれども、与信費用比率で分母を減らすと数字が大きくなると、目先はやはり不良債権を一生懸命処理しているというふうにみせるには与信費用比率というのは高い方が何となく格好が良いのではないかと、もちろん分母を縮めれば、不良債権比率は上がるのだけれども、それでも努力の方を評価して欲しいと、特に与信費用比率は今回新しく政府が入れたものであるということで、一生懸命貸し渋りをする銀行が出てくるのかどうか、そういう懸念というものは持ってないのでしょうか。

答)

私はそういう懸念は持ってませんですね。ただ一つ言えることは不良債権の最終処理をどんどん進めれば、そのオフバランス化が進むわけですから、オフバランス化が進めば、今、与信費用比率の方の話で言えば、それでも貸出残高は減るんでしょうね。そういう面では高くなる方向には行くのだろうと思うのですけれども、貸し渋りして高くするというふうになるとは、私はとてもそんなふうには思っていません。

貸し渋りの議論というのは私自身ちょっとコメントさせて頂ければ、貸し渋りの議論というのは時々出るわけなんですけれども、現在銀行がどれほど貸出先に困っているか、それは国債をどれほど銀行が買っているかで分かるわけですね。ですから、私はむしろ今一生懸命銀行は貸出先を探しているところであって、確かにそれは審査というものをきちっとしなければ、また不良債権が増えるということで、それは審査というのはある程度厳しいということは承知していますけれども、与信費用比率を高めるために貸し渋りをするという発想は私にはちょっと考えられませんですね。

問)

先程の銀行の株式の保有制限のところで、2つ考えていると、総量規制とリスクウェイトということを仰いましたけれども、今仰ったお話…。

答)

いや、考えているということではなくて、そういう議論になっているというふうに聞いています。

問)

その実際に銀行法の改正をする時に、それではそのリスクウェイトの部分はバーゼル銀行監督委員会の議論の方向性が固まるまでは規制を導入せずに、当初は総量規制の部分だけでいくという、そういう理解でしょうか。

答)

執行が全然違う、確かリスクウェイトは告示か何かです。法律改正ではないはずです。ですから、全然次元が違う話です。

問)

それはもう方向性を、あと告示で加えていくということですか。

答)

要するに、何と言いましょうか、新BIS規制が決まれば、さっと告示を変えるだけの話であって、そんな法律改正みたいな話は、そっちは違う話ではないということです。チェックしてください、私はそういう理解でおります。

つまり、リスクウェイトの方の話というのはこれだけグローバル化した日本の金融業の話でございますので、明日、金融審議会があるので、それを先取りしたような議論は私は控えるべきだと思いますけれども、私はそのリスクウェイトの議論というのはある意味で、バーゼル銀行監督委員会のコンセンサスがそのまま日本の体系に持ち込まれる話だというふうに思っておりまして、いわゆるナショナルメジャーとして、何かリスクウェイトをやるというような物の考え方というのは馴染みにくいのではないかなあと。総量規制はナショナルメジャーです。しかし、リスクウェイトというのは基本的に我々は1988年以来、国際合意の中のリスクウェイトで決めてきたわけですから、それを何かナショナルメジャーを国際合意とは少しタイミングであれ、内容であれ、ずらして何か実施すると、何か皆さんの報道の一部にはですね、何かそこら辺がやや混同して、ナショナルメジャーとしてのリスクウェイトみたいな感じが受け取られるところがあったのですけれども、私はそういう考えは持っておりません。

問)

あともう一つ、バーゼル銀行監督委員会での日本政府の交渉の姿勢について教えて頂ければと思うのですけれども、これも銀行の株式保有に関してですが、標準的手法の方で現在の100%を150%にすべきだというような意見を日本政府として持っているのかという点と、もう一つ内部格付けの方で信用リスクだけではなくて、市場リスクも加えるべきだという考えに立っておられるのか、その2点について教えて下さい。

答)

お答えをすれば、それは極めて各国が日本の当局の交渉姿勢に注目をしているところでございまして、交渉の手の内をこういう会見の場でお話するということは大変申し訳ないですが、差し控えさせて頂きたいと、それほど微妙な問題でございます。ただ、事実として言えば、今ご質問になった記者の方が仰った標準的手法において、100%が150%だなんて日本が主張している事実はございません。

それから、内部格付け手法について、信用リスクと市場リスクというものの考え方をどういうふうに整理していくか、これについては非常に微妙な、今G10国の中の駆け引きがあるわけでございまして、その点についてはちょっとコメントを差し控えさせて頂きたいと。

いずれに致しましても、日本の金融界の実情も踏まえるとともに、日本の金融界の将来の財務の健全性も十分に踏まえた上で、交渉すべきだと思っておりますし、かつその最終的な結論というのは日本の金融界の国際競争力を決して害するものであってはならないと、そういう姿勢で交渉していこうと思っております。思っておりますけれども、今私がご質問にまともに答えしまうと、バーゲニングパワーが全くなくなってしまいますので、まあ勘弁して頂きたいと思います。

(以上)


(参考)

  1. 「自己資本に関する新しいバーゼル合意」の作業状況について
  2. PDF「BIS規制」見直しの今後の方向について
  3. PDF「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」新しいウィンドウで開きます

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