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森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年8月20日(月)17時02分~17時37分)

【質疑応答】

問)

長官の方から何かございますでしょうか。

答)

特にございません。

問)

先日、日本銀行が追加的な金融緩和に踏み切ったことに対する長官のご評価を伺えればと思いますが。

答)

先日、大臣も申し上げたかと思うのですけれども、8月14日でしたか、日銀が追加的な金融緩和政策に踏み切ったということですが、これは当然景気の下支え効果ということで歓迎すべきことだと思っておりますし、さらにそれによって経済が良くなれば、金融庁が責任を負っています不良債権処理の問題、これに当然その環境整備という面で良い効果が出て来ると、そのように思っております。

問)

さはさりながらですね、本日になってまた株価がバブル後の最安値を更新するなど、依然そういうマーケット環境が好転しないという状況が続いております。銀行に対する影響ということで言いますと、自己資本比率などにはそれほど影響がないかなというふうな考えもあるものの、公的資金を入れている優先株の配当原資の問題など、いろんな問題が出て来るのではないかと考えられますが、株安と金融界への影響という観点から、長官はどのようにお考えなっていらっしゃるでしょうか。

答)

今ご質問になられた記者の方と同じ認識を持っております。日経平均株価で言えば1万1200円台でございますか、TOPIXで言えば1155くらいまで本日下がったわけですけれども、これはご承知の通りグローバルに、アメリカも欧州も良いニュースが無い、そこは日本も同じわけですけれども、そういう悲観材料が相乗的に重なって、こういう低い株価の水準になっているのかと思います。

ただ、いつも申しますように、日々の株価はいろいろ投機筋の思惑も含めて、いろいろな要素によって動くわけでございますので、その日その日の株価に一喜一憂すべきではないというふうに思っております。さはされど、基本的には経済の先行き見通しについて、なかなか明るい材料がグローバルに出て来ないというところが、今日の株価の低迷の大きな要因であることはその通りだと思っておりますので、何とか早く、日本で言えば小泉内閣の下で構造改革を進め、規制緩和を進め、新規需要が出てきて、経済が上向いて行くという先行きの見通しが早く出てくることを強く期待しております。

株価の銀行への影響は、ただ今ご質問された記者の方の仰る通り、今年から時価会計が導入されているわけでございまして、自己資本比率という観点からは、主要行について1万1千円程度に落ちても0.5%程度の限定されたマイナスの影響しかないと思いますけれども、今の記者の方が仰られた通り、配当可能利益とか、そういう点には当然この中間決算期から影響してくるわけでございますので、銀行に対しては、より一層の収益力向上、リストラを含めまして収益力向上のための一層の努力を促していきたいというふうに思っております。

問)

柳澤大臣が来月から欧米諸国を訪問されるということですけれども、森長官として、今回の訪問に期待されることはどのようなことがございますでしょうか。

答)

大臣も仰っておられるかと思いますけれども、大臣は昨年12月に2度目の金融再生委員長に就任され、さらに今年の1月6日からは金融担当大臣ということで、金融一般に責任を持たれる大臣になられたわけですけれども、国会等がございまして、諸外国からの、いろいろな方面からの来訪を求められていたにもかかわらず、なかなか日本を離れるわけにいかなかったと。

そんな中で、日本の経済の構造改革というコンセプトの中で、特に金融部門の構造改革という観点から、不良債権問題というものが今年の前半から大きな課題になり、それに対応して、緊急経済対策、さらに骨太の方針の中で我が国の不良債権処理の方向性、手順というものを大臣に決めて頂き、そしてそれを公表したわけですけれども、まだまだ日本の不良債権問題について主要国の理解が十分であるというところまでは達していないという現状にあると思います。従いましてこの際、大臣に世界の3大金融センター、東京を別にすればロンドンとニューヨーク、さらには米国の金融当局者のいるワシントンというところにご訪問を大臣にお願いいたしまして、大臣の生の声で日本の金融機関の不良債権の状況、またその処理の方針というものを伝えて理解を得ますとともに、世界経済、金融情勢等につきまして幅広い意見交換をして頂きたいというふうに思って、大臣には大変ご苦労をかけるわけですけれども、短期間のうちにヨーロッパとアメリカに行って頂く事になりました。何卒よろしくお願いいたします。

問)

不良債権の処理に絡んで、自民党などの一部に企業を建て直すための「産業再生委員会」というものを、政府主導で作ったらどうかという案が出ているんですけれども、これについては長官はどういうようなご見解をお持ちでしょうか。

答)

金融再生委員会があった時代から、そういうご議論があることは良く承知しております。ただ、これは金融庁の意見というよりも、金融庁として産業再生委員会なるものに対して公式にコメントする立場にもないものですから、金融庁としての意見を取りまとめたわけではないので、私個人の意見ということになるかと思いますけれども、銀行については銀行法で銀行の公共性、公益性の観点から、当局がしっかりと監督する、それによって預金者保護と善意かつ健全な借り手の保護ということが関係法令で謳われておりまして、そういう観点から厳しい監督も行わさせて頂いておりますし、さらに金融再生委員会の当時は、破綻処理、そして公的資本の注入といったことも委員会方式の下で、そういうことも決めさせて頂いたわけです。

ただ今の記者の方のお話にありました産業再生委員会の詳細を、私はつぶさに承知しているわけではございませんけれども、構造改革を進めて行くには貸し手側の銀行の構造改革だけではなくて、確かに借り手側の産業の構造改革も進めて行かなければいけない、これはまさに裏腹の関係にあるわけですので、それは当然重要な問題でございますけれども、一般企業の生き死にというものを委員会行政で決めて行くということは大変大きな問題であるわけでして、金融機関について金融再生法に基づきまして、金融再生委員会がいろいろな行政を行ったわけですけれども、全くそれと同次元で産業再生委員会というものを作って、企業の生き死にを決めて行くというのは、なかなか難しい面があるのではないかなあと、私は個人的にはそういうふうに思っております。

問)

先程のご発言にも関係するのですけれども、先日IMFの方が報告を出しまして、その中で「不良債権処理を行った結果、過少資本に陥る銀行があった場合は、公的資金の再注入も必要である」というような表現もあるかと思うのですが、こういった日本の当局と、当局と言いますか海外の方でのミスマッチというのはどういった意味で起こるのか、そういった問題点についてどのようにお考えでしょうか。

答)

IMFの4条コンサルテーションがあって、その一環としてスタッフから日本の金融についてのリポートが理事会に報告された、そしてさらにそれが公表された。その中身については、ただ今の記者の方の仰ったような部分も含まれていることは認識しております。

ミスマッチング、つまり認識のミスマッチングのようなものを私もここ数カ月痛感しておりますし、どうしたらこれは埋められるのだろうと悩みもし、また海外からの訪問者には、私なりにきちんと説明しているわけでございますけれども、問題は不良債権、ノンパフォーミングローン、NPL、こういうものをどう認識するかの問題だと思うのですね。これは一つのルールが無ければその額及びその中身、一言でNPLと言っても、一般要注意、要管理、破綻懸念、実質破綻、破綻と、これだけ債務者の程度が破綻に向かって濃くなるわけですね。それをどういう基準で債務者区分をして行くかと、そのルールというものが一番重要なんですね。日本の場合と言いますか、これは世界のグローバルスタンダードで同じなわけですけれども、まず公認会計士協会の実務指針というものがあり、それを受けて当局の金融検査マニュアルというものがある。それがグローバルに通した基準で債務者区分を行うようになっている。その債務者区分ごとにグルーピングをして、そのグループにおける貸倒実績率に基づいて将来の予想損失率を出している。

これは、私は不良債権問題がここ2年、3年、これだけ問題になってきているもので、ここにいらっしゃる記者さんも含めて、相当皆さん分かってきていると思うのですが、それでありながら、IMFのリポートが引用している市場アナリストの見解によると、不良債権額は、例えばですね、70兆円とか75兆円とかいう数字を上げて、それに対する引当が20兆円必要だとか、25兆円必要だと。私はそれを聞くと「何なんだろう、これは。一体どういうルールに基づいて75兆円が出て来るんだ」と。

確かに12年3月期で見ますと全預金取扱機関の要注意先以下の貸出額というのは150兆円あると。いろいろな市場アナリストのレポートなんか見ていると、その半分は不良債権化していると、だから75兆円だと、半分が不良債権化していると。「どうしてそういう結論が出て来るんだと、その根拠を示して欲しい」と、私は逆に言いたいわけですね。我々はきちっとしたルールに基づいて、まず銀行の自己査定、さらに銀行の外部監査、そして金融庁の検査と、この3重のチェックによって、しかも同じルール、まあ金融検査マニュアルという同じルールに基づいてその金額は12年3月期で48兆円でしたか、「48兆円ですよ」と、「一般要注意というのはアメリカでも不良債権とは言ってませんよ」という説明をしている時に、「いや、それはもう、今後の経済の先行きを見れば、150兆円の一般要注意以下は、半分は不良債権化する」と決め付けられる。どうしてそんな決め付けができるんだと思うのですが、そういうことを決め付けている。では「20兆円、25兆円積みなさい」と。これはある意味で、私はIMFほどの国際機関がどうしてこんな、要するにマクロの専門機関なので、ミクロ金融についての専門機関ではないのでそういうことを書かれるのかなとも思うのですけれども、そのフォワードルッキングの引当をすべきだとか、そういうような書き方も中にはありますね。会計の世界ではそういうフォワードルッキングの引当とかというのは考えられないわけです。

つまり、経済が上向くのか下振れするのか分からない時に、必ずこれだけ下振れするんだということを前提に引当を積むということは、ある意味でその企業は株主に対して、いわば背任をしていることになりますね。つまり、会計基準の上ではしなくても良い余分な引当をすることによって配当を無くすということは、これは株主に対する責任の問題が出て来る。そういうことを考えると、やはり会計基準というのは中立的でなくてはいけませんし、債務者区分や引当も客観的なものでなくてはいけない。

そういう意味において、私は、今聞かれた記者の方はIMFレポートを引用されましたけれども、例えばIMFレポートなんか見ますと、確かに今回は、「金融庁はこう言ってます」ということも書いてくれてます。しかしその前に、「市場アナリストはこう言ってます」と。

私の言いたいのは、権威のある国際機関なら、「市場アナリストがこう言ってます。それによると、こうです」というようなレポートというのは、極めて私は無責任だと思っております。自分できちっと分析して、もし日本の会計基準によってもそれは少な過ぎるというのなら、その根拠を示して欲しいと思います。そういう根拠を示さないで、「市場のアナリストがこう言ってますので、日本の引当は不足なのではないか」と、「その不足を埋めたら、過少資本になるのではないか」と、もしそういうことを仰っているというのだったら、全然我々の認識とは違いますし、できればそういうところも大臣にきちっと正して頂きたいというふうに思っております。

そういう面で私が一言で申し上げれば、不良債権というのは感覚的に何かが不良債権か、不良債権でないかではなくて、一つのルールに基づいて不良債権かどうかを見なければいけないので、そういう意味では、グローバルスタンダードに則した日本の会計基準にのっとって、金融庁が各銀行の自己査定に基づいて出している不良債権の額というものは一つであって、それ以上でもそれ以下でもないと、私はそういうふうに思っております。

問)

その市場アナリストの件で関連してお伺いしたいのですが、今日、INGベアリング証券という外資系の証券会社に対して、金融庁が、アナリストが発表した誤った内容のリポートに基づいて株の売りを勧めたということで業務改善命令を出されています。アナリストの信頼性というか信認に対する問題というのは世界的にいろんなところで取り上げられているのですが、金融庁としてのスタンスについて改めてお伺いしたいと思います。

答)

前の会見でもちょっと申したことがあると思いますけれども、私はこれから日本の市場を間接金融中心から直接金融の方にシフトさせていきたい、そのためにいろいろなインフラ策について、「証券市場の構造改革プログラム」という表題で金融庁としての案を発表させていただいたわけですけれども、そうして直接金融市場の裾野を広げる努力を懸命にこれから金融庁としてやっていきたいと思います。

そうした中で、直接金融市場の担い手、これはもちろん証券会社が中心になるわけでございますけれども、その証券会社に対する信認というものが非常に大きなものになっていくわけです。この前金融庁が発表したプログラムも、そこに念頭を置いたものになっていますけれども、それと同時に投資家が投資判断する際には、何か拠り所が必要なわけですね。その時に企業の収益予想等について投資家に情報提供を行うという意味において、私はアナリストの役割というのは非常に大きなものがあると思っておりますし、こうしたアナリストの活動自体は投資家の利便性向上の観点からも大いに奨励しなければいけない。そういう意味においては、私は市場アナリストにもっと活躍してくれと言うと同時に、その責任の大きさも自覚して欲しいということを市場のアナリスト達に申し上げたいと思います。

そうした中で、本日ブリーフィングをさせていただきました案件、これは先般の「証券市場の構造改革プログラム」の中で、行為規制違反は今後は全部公表させてもらうというふうに謳わせていただいた1項目を思い出していただきたいと思うのですが、今までは業務改善命令程度は当庁から特に発表することはなかったのですけれども、この前のプログラムに基づきまして今回発表させていただいたわけです。

ポイントになりますのは、やはりチャイニーズ・ウォールというものが敷かれていなかった。つまり調査部門と株式投資部門の間にチャイニーズ・ウォールを敷いていなかったと、これはやはり大きな問題だと思います。さらにリサーチ・フロントランニングというものをきちっと防止できなかったということも大きな問題だと思います。

本日の業務改善命令は、そういうところをしっかりしろということを中心にした、いわばコンプライアンス是正の業務改善命令でございますけれども、そういうところを各証券会社はしっかりとこれからは守っていただきたいと思いますし、また日本証券業協会のアナリストとの関係における規律というものが、これまではあまりにも抽象的だと思いますので、チャイニーズ・ウォールの設定及びリサーチ・フロントランニングの防止ということもきちっと盛り込んだ日本証券業協会としての規制案というものを考えて欲しいということを同時に日本証券業協会にも要請いたしました。

問)

冒頭の日銀の金融緩和についてですが、景気の下支え効果というのは仰る通りだと思うのですが、具体的に資金がそれだけ大量に供給されるわけですけれども、問題はそれを金融機関が資金需要のあるところに融資するとか、そういった形で回ってくれないと困るわけです。実際に今も資金需要が低迷している中で、日銀総裁も会見の中では、ちょっとその辺にはあまり自信がないようなことを言っていたということですが、金融庁として融資を「どうしろ、こうしろ」というのを指導する立場にないにせよ、これをどのように浸透させていくかということについてどうお考えですか。

答)

まさに非常に難しい問題だと認識しております。一方において金融機関に対しては不良債権問題というもの、不良債権問題を抱えるとどうしても銀行に不稼動資産が生じるわけですから銀行の体力を弱める。そこは銀行は公益性の観点からも強い銀行であってもらわなければいけないわけですから、やはり銀行に対しては貸出の審査機能の向上ということは当然銀行も考えなければいけないし、我々としても、「いや、そういう審査機能はもう持たなくてもいい。どこでもいいから貸しなさい」というわけには、なかなかいかないだろうというふうに思います。

一方において現在の足元の景況の下では、企業の方は、むしろ有利子負債を減らすことにより生き残りを図るという傾向があることも事実かと思います。従って、むしろ融資を返済すると、体力のある企業ほどやはりそれを考える、その結果貸出資金量というのは、ここずっと低下してきている。

そうした中で、日銀の量的緩和ということの追加緩和というものに踏み切っていただいたわけですけれども、それがどこに行くのか、それは必ずどこかには行くわけですから、私は効果があると思いますけれども、しかしそれが貸出需要に結びついてくる、それはやはり銀行の本来の役目というのは円滑な信用供与でございますので、やはり貸出に向かって行って欲しい。そういう意味からも一刻も早く経済そのものが、そのものを上向きにしていく、それによって資金需要、資金ニーズも起きてくると、そういうふうに持っていかなければいけないというふうに思っております。

問)

それに関連しまして、今、長官は「資金は必ずどこかに向かっている」ということなのですが、これまではやはり銀行は貸せるところがない場合には国債を買っているわけですね。この状況が続きますと、益々銀行が国債を抱えたりする可能性も無きにしも非ずだと。これは当然、時価会計で株式と同時に市場リスクを大きく抱えることになると。さらに調整インフレとかインフレ目標論みたいなことで、その辺の財政規律的なことで30兆円の枠をはめたと言ってもどうなるのかというのは疑問視するところもあるという状況なのですが、銀行の債券の保有の状況についてどうお考えですか。

答)

確かに各銀行の個別の預貸率を見ていきますと、明らかにやはり、例えば2000年の春の時の状況に比べると、段々預貸率は下がってきていると思います。それは今ご質問になられた記者の方の仰る通りでございまして、やはり足元の景況が大変大きく左右しているという一つの証左でもあるかというふうに思っております。

そうした中で、ただ今のご質問で仰られた通り、確かに国債の保有高も高くなっていると思いますけれども、ただ時価会計の絡みで言えば、国債の保有の管理、常に市場リスクというものを銀行経営者は意識しておりますので、国債を持っていることに関わるリスク管理というものは各銀行とも相当きちっとやられていると思いますし、そのテクノロジーも相当進んでいるというふうに私は認識しておりますので、国債の保有からするリスクが当面そんなに高まっているというふうには私は認識しておりません。

(以上)

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