五味金融庁長官記者会見の概要

(平成16年8月30日(月)17時04分~17時29分)

【長官冒頭発言】

私から2点申し上げたいことがございます。

最初は、先週23日のこの場の会見において、検査結果通知前に検査予告を行った金融機関に関連するお尋ねがございまして、ちょっと調べると申し上げました。その件の御報告を申し上げます。

主要行の通常検査と致しましては、8月18日にみずほコーポレート銀行、それから三井住友銀行、この2行に対して検査予告を行ったところです。この両行それぞれにつきまして、前事務年度の通常検査の検査結果通知が行われていないという状態での検査予告ということになっております。金融庁といたしましては、検査結果通知の的確な銀行業務への反映という観点から、こうした事例がないように極力努力をしていきたいと考えております。しかしながら、御承知のように主要行に対しましては、平成14検査事務年度から通年・専担検査体制の下で通常検査を実施しているということから、結果的に前回検査との間隔が短くなっております。このために限られた人員の下では、片や弾力的・効果的な立入検査を実施するという要請があり、また一方で適切な検査結果通知を申し上げるという点で十分な審査をする必要があるという要請もあることから、前事務年度の検査の結果通知が行われていない段階で、翌事務年度分の検査を実施せざるを得ない状況になる場合もあることは、御理解を願いたいと考えております。いずれに致しましても、先程申しましたように、こうした事例がないように極力努力をしていきたいと考えております。これが第1点でございます。

それから二つ目でございますが、私の出張に関するお知らせでございます。目的地は、オーストラリアのシドニーでございます。日程は、9月2日木曜日の夜、出発致しまして、9月4日土曜日の夕刻に帰国致します。出張の目的・用務でございますが、これは金融庁とオーストラリア証券投資委員会との間の証券分野の情報交換取極、これに署名をするというのが主な用務でございます。併せてこの機会に、オーストラリアの当事者でございます証券監督当局との意見交換、及びオーストラリアの銀行監督当局の長官との意見交換といったことを行う予定でございます。この取極は、証券取引がグローバル化していく中で、証券市場を適切に監視・監督するためにオーストラリアの証券投資委員会との間で証券分野の情報交換枠組みを設定するというためのものでございます。こうした情報交換の枠組みは、これまで3カ国と結んでおりまして、中国、シンガポール、そして米国でございます。このオーストラリアが従って、4カ国目ということになります。以上が2点目でございます。

私から申し上げますのは以上でございます。

【質疑応答】

問)

ダイエーなのですが、再建計画について長官は常々、「市場が納得する手順の透明性や説明が重要だ。」という認識を示されていますけれど、産業再生機構を活用した場合に透明性の確保に関する効果をどのようにお考えかということと、あと透明性の確保ということで言えば、私的整理ガイドラインなどを活用する手段もあるかと思うのですが、産業再生機構の活用がより効果的だというケースがあるとすれば、それは債務者がどういう状況にある場合であるかとお考えでしょうか。

答)

本件は個別金融機関の個別取引先のお話ということですので、この件についてのコメントというのは差し控える必要があります。一般論で申し上げます。一般論で申し上げますと、企業再生に当たりましては、債務者たる企業において事業再生に向けた再生計画というのがしっかりした内容で作られること、すなわち透明性が高く市場の評価が十分得られるようなそうした内容の再生計画が作られること、そしてその上でその計画が着実に実施されていくことが重要であるというふうに考えています。そうした中で、産業再生機構などが再生計画の確実度というものを高める効果を有しているということは認識しております。ただ、具体的にどのような形で市場の評価を得るのか、そしてまた透明性を確保するのかということについては個別のケースに応じて区々であるというふうに思われます。従って一概には言えないということだと考えます。ですからいずれにしましても、債務者企業と債権者側たる金融機関との間でしっかりした議論が行われるべき問題だというふうに考えます。なかなか個別具体のお話なので、この程度のお答しかできないということで御容赦をいただきたいと思います。

問)

UFJなのですが、現在の刑事告発に関する検討状況などをお聞かせいただけますか。

答)

告発を行うかどうかという点については、何度も申し上げましたので恐縮ですが改めて申し上げますと、幾つかの点を総合的に勘案する必要がある。すなわち、第一に本件検査忌避などの悪質性、第二に今後の検査一般の実効性に与える影響、第三に金融行政の目的遂行の確保、第四に一般国民又は私企業の処罰を求めるということの重大性であります。こうしたことなどを総合的に勘案して検討する必要があるということであります。現時点で具体的なコメントを行える状況にございません。差し控えさせていただきます。また、いつ判断するのかというお話もございますけれども、こうした点についてもコメントは控えさせていただきます。姿勢としてはいずれにしても法令に則ってしっかり対応するということでございます。

問)

今日ですね、最高裁で住友信託がUFJ信託との統合に関して行っていた許可抗告の結論が出まして、住友信託以外との交渉をUFJ信託に認めるという内容の結果が出ましたけれども、これについての長官のお考えであるとか、今後の金融業界に与える影響であるとかお話いただけますか。

答)

お話があった旨の内容の報道がなされていることはつい先程知りました。具体的な内容は私ども銀行から伺うしかないわけですが、銀行からまだ伺える状況ではありません。従って、コメントというのがなかなかしづらい状況であります。しかしこの点については、以前から申し上げていますように、当事者の間で司法の場での御議論も含めてそうした手続も含めて十分な話し合いをしていただくということが基本でありまして、当局がこれについて何かをコメントするという立場にはないというのが基本でございます。この決定の詳細を伺いました後でもあまりそのコメントというのは違わないというふうに思います。またそうした決定を踏まえた統合を巡る様々な当事者の皆様の動きということにつきましても、基本的には民間企業同士の統合再編の話し合い、交渉のお話でございますから、この点について当局側からコメントをするということは控えるべきだろうと思います。

問)

今の点なのですけれど、今までずっとペンディングというような中途半端な状況になっていたのが、これで新しいステージと言うか、新しい状況になる見通しがついたというふうに言えるかと思いますが、そういうことについても特に・・・。

答)

統合を巡る様々な動き、幾つかの重要な要素が並行して動いている状況であろうと思いますけれども、その中の一つについて、まだ報道ベースでしか私承知しておりませんが、ある方向性が出たということでありますと、その要素について何か全体の動きに与える影響というのは有り得るかもしれません。ただ、それを踏まえた別の動きというようなことがあるのかも知れませんし、そういったことは私ども予測はできませんので、この点についてはそうした具体的な動きも踏まえて当事者間で更にお話をしていただくということが大事なのだろうと思います。

問)

明後日9月1日に北海道銀行と北陸銀行が経営統合しますが、主な営業地域の異なる地域銀行同士の統合のメリットについてどのように見ているのかという点と、両行の統合について全体的に期待される点を教えてください。

答)

広域で再編するというのはあまり多いケースではないですね。地域金融機関同士の広域とういうことでございますので。この広域の地域金融グループとしての新しいビジネスモデルというものを確立しようというお話でございますから、こうした特異な形をとるということのメリットを生かして経営の効率化とか営業力の強化、或いは経営基盤の安定化ということを再編の目的ですね、これが達成できるように努力をしていただきたいというふうに思います。金融庁といたしましてはこういった取り組みをなさることで、両行を中心としたグループ企業間の連携の強化、或いは経営の一層の効率化というものが図られて、広域グループが一体となった総合的な金融サービスの提供ということを通じた地域経済の活性化への貢献、こういうことが実現するように期待したいと思います。新しいパターンですから非常に期待をして見ております。

問)

ダイエーのお話なのですけれども、一般論でお答えいただければ幸いなのですが、ダイエーが今、策定しようとして銀行団と協議中のこの新しい再建計画と、この9月期に始まる金融庁の特別検査というのはどういう関係があるかということをお伺いしたいのですが、恐らく特別検査を行っている途中で、まあどういう形かわかりませんけれども、新しい再建策が出るということになると思うのですけれども、その新再建策というのを9月期の特別検査でチェックしたりされるものなのでしょうか。その再建策は次年度以降の計画であるわけでありますけれども、この9月期の債務者区分の判定にどういう影響を与えるのかということを教えてください。

答)

特定債務者のお話ということでなくて、一般論でお答えをいたします。特別検査はいわゆるリアルタイムチェックでございますので、対象となっている債務者の決算策定過程における直近の状況といったものを検査官、銀行そして監査人共同で確認をし、検証をして正しい債務者区分というものを確定していくという仕組みでございます。従いまして、その特別検査の過程において再建計画が関係者間で確定をするという事情があれば、そうした確定した再建計画、まあ確定と言いますか、そもそも確定しているかどうかの検証も含めてですけれども、その再建計画というものも検査におけるチェックの対象となってまいります。具体的にそれが債務者区分にどう影響するかというところは、その再建計画の固まり具合ですとか、関係者間のコミットの度合いはどうなっているかとかいうところに影響してくるわけで、例えば、計画の構想が示されたというようなケースではそれに基づいて債務者区分を判定するというのは中々難しいと思いますし、計画に基づく債権放棄なりの金融支援が既に当期中に実行されるというようなところまでいけば、これは恐らくその計画の内容というものが債務者区分の根拠になるということになると思います。その間色々なケースがあると思いますが、確定の度合いがよほど高くないとその経過そのもので判定をするというのは難しいと思います。

問)

ちょっと当たり前のことなのですけれども、計画策定中は金融庁としては一切口出しはしないわけですよね、計画策定の過程には介入しない。で、策定された瞬間からその計画を見るということになると、それまでは現行計画の妥当性を見ているわけですよね。

答)

債務者の状況の確認という意味で言えば、債務者が経営の活動の根拠にしている計画というのはまさに、その時点において有効な計画であるわけですので、これから作られる計画というものについては当局がこれに関与するものではないわけですね。

問)

先程、専担検査の話が出ましたが、特別検査とか大口与信管理態勢検査とかもそうですし、専担検査もそうですが、この2~3年に導入された不良債権処理の終結に向けた新たな構えというようなものを来年以降どうするかという話は、例えば、重点強化プログラムなんかを決める中で一緒に決められていくことになるのでしょうか。それとも、来事務年度の判断だから相当先にそれを判断することになるのでしょうか。

答)

重点強化プログラムはこれからというか、今議論を始めているところでして、そこでどう扱うかというところまでこの段階でコメントは難しい。強固なシステムを作るというものの第一の柱の中には、競争力のある、国際的にも競争力のある金融機関というものが育つような環境を整備するようなこともございますし、第二の柱、それを自力でやっていただく、自助努力によってやっていただくのだということの中には、そのことと監督上の対応をどのように調和させるのかという視点があります。従って、検査の在り方というのも、重点強化プログラムの中では当然検討対象にはなります。なりますが、今おっしゃったような具体的な一つ一つのものを今後どう位置付けるかというところまで明快にそこで書き込む必要があるのかどうかというところはこの時点ではまだコメントのしようがありません。

ただ1つ明らかなのは、通年専担検査というのは、現状の私の認識では、主要行に対する検査の態勢として金融庁が目指していた1つの姿、これが実現しているというものですから、この態勢というものは、今後を考える上においても当然前提になる、微修正が必要とかといった意見が出るかどうかは別として、当然の前提になるものと考えています。それ以外の、例えば、特別検査のようなものというのは、当初導入の御説明からも明らかなように、特異な状況における、いわば、特殊な検査でございますので、こうした検査を現在のような形で、いつまで続ける必要があるのかということについては、基本的には各年度の検査の基本方針を定める中で議論をしていくことになるだろうと考えますが、必ずしもそれにとどまらず年度の途中であっても、もちろん議論をしてみて、翌期の扱いをどうするのかということは決める必要がある。そういう非常に短期的な検討が必要な対象のものだろうと思います。検査全体の枠組みとして、これまでのいわば集中再生期間にやってきたような、検査全体をレビューしてみて、それが今後の競争力のある金融機関を育てていくという視点に立った時に、例えば、通年専担検査態勢をとるにせよ、その態勢の中でどういう点にポイントを置いた検査であるべきなのか、あるいは、検査の手法において、これまでとは違った手法をとる方が効果的・効率的ではないのかという議論は当然していく必要があると考えています。

問)

UFJ信託を巡る裁判所の話ですが、裁判所の判断と金融行政の判断はどちらが優先するのか、すべきなのかという非常に単純な捉まえ方をしてみたいのですが、例えば、今回のケースと直接関係・観念づけることは難しいのですが、統合というケースで一方が金融不安の種、金融危機そのもの、極端な話預金の取り付けが起きるような状態とか、例えば、ある1つの統合の組み合わせが進んでいて、その組み合わせは金融行政の観点からみて国益に適わない統合で、裁判所は逆に違った判断を下す場合、金融行政と司法はどちらが優先されるべきかについてはいかがでしょうか。

答)

何をお答えすれば良いのかがよくわからないということですが、大胆な仮定が置かれているので、妙なことを言うと誤解される恐れがあって歯に物が挟まってしまうのですが、裁判というのは、当事者同士の裁判を意味しておられるわけですね、その統合すると言っている当事者同士とか。裁判に訴えられるからには、行政が訴えられるならともかく、裁判に当事者同士が出ていかれるというのであれば、それは、その世界、つまり守るべき法益はこれだと主張なさっているそれぞれの世界の中での議論を尽くしていただくのが基本であって、行政目的というようなことをその裁判に対してこちらがものを言うということはない、私人間の争いである限りにおいては。もっとも裁判所が国益とかそういう社会不安をどう取り入れられるかという要素はあるでしょう。それはそれで裁判所の判断でしょう。優先するしないというより、尺度とか根拠が違うので優先順位とはなかなか言いにくいのではないでしょうか。それから、金融不安とかという話になるのであれば、それは、裁判所のご判断が何であれ、金融不安が起こる恐れがあると思えばそれに応じた監督上の措置は別途当然とらなくてはならないと思います。

(以上)

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