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監査の目的の明確化
監査という言葉は一般的にも使われることから、まず、監査の持つ意義とその役割についての基本的な理解を示すため、監査の目的を明らかにしている。
「監査の目的」として「経営者が作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明することにある」としている。これは、財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査人の責任は意見を表明することにあるとの区別も意味している。公認会計士は、監査業務の他に財務諸表の作成業務を行うこともできるが、監査人となったときには、あくまで第三者の立場で意見を表明することが求められるため、自ら監査を行う企業の財務諸表作成業務を行うことはできない。
また、「財務諸表の表示が適正である」旨の意見には、「財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たという監査人の判断を含んでいる」ことを明確にしている。監査において、個々の取引などが会計基準に従って処理されているかを確認することは基本ではあるが、投資者が監査に期待するのは、要は財務諸表に重要な虚偽がないかどうかである。監査人の権限や監査時間には制約があるので、絶対に重要な虚偽はないとまでは言えないが、自ら相当程度の心証を得るまで監査を行うことが求められる。 |
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一般基準
監査全体を通じて基本となるべき事項として、(1)専門能力の維持向上、(2)独立性の保持、(3)懐疑心の保持、(4)不正発見の姿勢の強化、(5)監査内容の記録、(6)監査の質の管理、(7)守秘義務の7項目が、一般基準に挙げられている。
今回の改訂で、特に強調された事柄としては、いわゆる粉飾決算などの不正に対処していく姿勢が強化されており、実施基準においても、不正の存在を想定した監査計画の策定、不正を発見した場合の経営者等への報告や監査手続の追加などが定められている。
また、今日では監査対象の企業が大規模化し、取引も国際化・複雑化していることから、監査も組織的に行わなければ、このような状況に対応できない。そこで、監査人自身における監査業務の管理のみならず、監査事務所などの組織としても監査の質の管理を徹底することとしている。 |
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リスク・アプローチの徹底
リスク・アプローチとは、企業固有の事情や内部統制の状況などの評価を通じて、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、リスクの高い対象を重点的に監査することにより、効果的かつ効率的な監査を実現しようとする考え方である。
我が国では、検証作業に重点をおいてしまう傾向があるとの指摘もあり、一定の決まった作業をこなすという形式的な監査では、変化の激しい経済環境の中で、適切な監査が実施できないことになる。一方、米国では、企業を取り巻く経営環境や企業固有の種々の問題を把握したり、内部統制を評価するといったリスクの分析作業に多くの時間を費やして、監査のポイントを明確にすることを重視していると言われている。過度に監査のポイントを絞り込むことには弊害があることも理解した上で、企業の問題点を的確に把握する監査が求められることになる。
さらに、大規模で複雑な企業においては、内部統制の良否が不正や虚偽の発生を左右する重要なポイントとなるので、リスク・アプローチにおける内部統制の評価は極めて重要であることが指摘されている。
なお、従来、内部統制とは内部牽制組織といった形で理解されていた点を、国際的な概念と合わせて、統制の機能として理解すべきことを明らかにしている。すなわち、一定の組織があっても、モニタリングを含め、その機能が適正かつ十分に発揮されているかどうかがポイントになる。 |
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実質的な監査判断の要請
従来の監査基準においては、「会計処理が会計基準に準拠しているか」、「会計方針を変更していないか」、「財務諸表の表示方法が基準に合っているか」という個別の3点が、適正かどうかの判断要件とされていた。このため、ともすれば、これらの要件が形式的に満たされているかどうかという監査判断に陥らせるとの指摘があった。この3点を確認することは当然必要であるが、改訂基準では、監査人が意見を形成して財務諸表の適正性を判断するには、会計基準を踏まえつつ実質的な判断に基づかなければならないとしている。
例えば、複雑な金融取引や情報技術(IT)を利用した電子的な取引について、経営者が採用した会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうか、監査人は自己の判断で評価しなければならないと述べられている。 |
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監査報告書の記述
監査報告書の記述方法は、「監査の対象」、「実施した監査の概要」、「財務諸表に対する意見」という三区分に分けて記載し、それぞれ、基本的に、米国などの諸外国の監査報告書と同様の記述を行うように、内容が充実されている。
また、監査意見を、「無限定適正意見」、「除外事項を付した限定付適正意見」、「不適正意見」に区別し、そのいずれかで表明することとし、重要な監査手続を実施できなかった場合には意見を表明してはならないことを明確にしている。
また、本来は監査意見の中で記述すべき適正性の判断に関わる事柄を「特記事項」として記述することにより、監査人の判断が曖昧になっている場合があるとの指摘があった。このため、従来の「特記事項」は廃止し、監査人が特に説明や強調を要すると判断した事項は「追記情報」として、監査意見とは明確に区別して記載することとされた。 |
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ゴーイング・コンサーンへの対処
企業が事業を継続していくとの前提(ゴーイング・コンサーン)に問題があるような場合に、投資者としては、企業が存続の危機にあるかどうかを知りたいところであろう。企業の経営責任は経営者にあり、企業の存続を監査人として保証することはできないし、それは監査の役割を逸脱することになる。しかし、監査人にも何らかの対応が求められている。そこでまず、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合には、経営者が、その旨、当該事象等の内容、継続企業の前提に関する重要な疑義の存在、当該事象や状況に対する経営者の対応及び経営計画、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否かについて財務諸表に注記を行う。監査人は、そういった事象や状況の存在や経営計画等の合理性を検討し、必要な事項が適切に注記されているか否かにより財務諸表が適正かどうかの意見を表明する。ただし、監査報告書において企業の事業継続能力そのものを保証するような記述はされない。
また、継続企業の前提に係る財務諸表の注記が適切になされていると判断して、無限定適正意見を表明する場合であっても、そういった事象や状況等について監査報告書に追記情報として必ず記述を行わなければならないこととされている。
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<注記を要する事象の例示> |
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財務指標の悪化の傾向(売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過) |
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財政破綻の可能性(重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶) |
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その他の事項(事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等) |
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