広報コーナー 第18号
 
若杉企業会計審議会会長から報告を受ける村田副大臣(1月25日(金))
 
<監査基準の改訂に関する意見書(企業会計審議会報告)14年1月25日>

 企業会計審議会(会長 若杉 明 高千穂大学教授)は、平成14年1月25日に総会を開催し、「監査基準の改訂に関する意見書」を公表しました。


監査基準の意義

 監査基準とは、公認会計士が財務諸表の監査を行うにあたって遵守すべき規範であり、財務諸表の作成規範である企業会計の基準とともに、適正なディスクロージャーの確保を通して、自己責任原則に基づく公正な市場を構築するための重要なインフラストラクチャーのひとつである。
 財務諸表の監査には、証券取引法に基づく監査、商法監査特例法に基づく監査などがあり、公認会計士(監査法人を含む)だけが監査人として監査を行うことができることとなっている。したがって、監査基準は公認会計士が企業の財務諸表に対して行う監査を対象としている。
 近年、我が国の企業活動の複雑化・資本市場の国際的な一体化を背景として、公認会計士監査による適正なディスクロージャーの確保と監査の質の向上が求められており、また、経営破綻後に大幅な債務超過であったことや経営者が不正(粉飾)を行っていたとされる企業が、直前まで適正意見を付されていたことなどに関し、監査の有効性に対する厳しい批判や指摘が行われた。このような状況を背景として、我が国の公認会計士監査を一層充実強化するため、今般、従来の監査基準をほぼ全面的に見直す大幅な改訂が行われたものである。監査基準は、「監査の目的」、「一般基準」、「実施基準」、「報告基準」から構成されている。


改訂のポイント
 


 監査の目的の明確化
 監査という言葉は一般的にも使われることから、まず、監査の持つ意義とその役割についての基本的な理解を示すため、監査の目的を明らかにしている。
 「監査の目的」として「経営者が作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明することにある」としている。これは、財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査人の責任は意見を表明することにあるとの区別も意味している。公認会計士は、監査業務の他に財務諸表の作成業務を行うこともできるが、監査人となったときには、あくまで第三者の立場で意見を表明することが求められるため、自ら監査を行う企業の財務諸表作成業務を行うことはできない。
 また、「財務諸表の表示が適正である」旨の意見には、「財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たという監査人の判断を含んでいる」ことを明確にしている。監査において、個々の取引などが会計基準に従って処理されているかを確認することは基本ではあるが、投資者が監査に期待するのは、要は財務諸表に重要な虚偽がないかどうかである。監査人の権限や監査時間には制約があるので、絶対に重要な虚偽はないとまでは言えないが、自ら相当程度の心証を得るまで監査を行うことが求められる。


 一般基準
 監査全体を通じて基本となるべき事項として、(1)専門能力の維持向上、(2)独立性の保持、(3)懐疑心の保持、(4)不正発見の姿勢の強化、(5)監査内容の記録、(6)監査の質の管理、(7)守秘義務の7項目が、一般基準に挙げられている。
 今回の改訂で、特に強調された事柄としては、いわゆる粉飾決算などの不正に対処していく姿勢が強化されており、実施基準においても、不正の存在を想定した監査計画の策定、不正を発見した場合の経営者等への報告や監査手続の追加などが定められている。
 また、今日では監査対象の企業が大規模化し、取引も国際化・複雑化していることから、監査も組織的に行わなければ、このような状況に対応できない。そこで、監査人自身における監査業務の管理のみならず、監査事務所などの組織としても監査の質の管理を徹底することとしている。


 リスク・アプローチの徹底
 リスク・アプローチとは、企業固有の事情や内部統制の状況などの評価を通じて、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、リスクの高い対象を重点的に監査することにより、効果的かつ効率的な監査を実現しようとする考え方である。
 我が国では、検証作業に重点をおいてしまう傾向があるとの指摘もあり、一定の決まった作業をこなすという形式的な監査では、変化の激しい経済環境の中で、適切な監査が実施できないことになる。一方、米国では、企業を取り巻く経営環境や企業固有の種々の問題を把握したり、内部統制を評価するといったリスクの分析作業に多くの時間を費やして、監査のポイントを明確にすることを重視していると言われている。過度に監査のポイントを絞り込むことには弊害があることも理解した上で、企業の問題点を的確に把握する監査が求められることになる。
 さらに、大規模で複雑な企業においては、内部統制の良否が不正や虚偽の発生を左右する重要なポイントとなるので、リスク・アプローチにおける内部統制の評価は極めて重要であることが指摘されている。
 なお、従来、内部統制とは内部牽制組織といった形で理解されていた点を、国際的な概念と合わせて、統制の機能として理解すべきことを明らかにしている。すなわち、一定の組織があっても、モニタリングを含め、その機能が適正かつ十分に発揮されているかどうかがポイントになる。


 実質的な監査判断の要請
 従来の監査基準においては、「会計処理が会計基準に準拠しているか」、「会計方針を変更していないか」、「財務諸表の表示方法が基準に合っているか」という個別の3点が、適正かどうかの判断要件とされていた。このため、ともすれば、これらの要件が形式的に満たされているかどうかという監査判断に陥らせるとの指摘があった。この3点を確認することは当然必要であるが、改訂基準では、監査人が意見を形成して財務諸表の適正性を判断するには、会計基準を踏まえつつ実質的な判断に基づかなければならないとしている。
 例えば、複雑な金融取引や情報技術(IT)を利用した電子的な取引について、経営者が採用した会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうか、監査人は自己の判断で評価しなければならないと述べられている。


 監査報告書の記述
 監査報告書の記述方法は、「監査の対象」、「実施した監査の概要」、「財務諸表に対する意見」という三区分に分けて記載し、それぞれ、基本的に、米国などの諸外国の監査報告書と同様の記述を行うように、内容が充実されている。
 また、監査意見を、「無限定適正意見」、「除外事項を付した限定付適正意見」、「不適正意見」に区別し、そのいずれかで表明することとし、重要な監査手続を実施できなかった場合には意見を表明してはならないことを明確にしている。
 また、本来は監査意見の中で記述すべき適正性の判断に関わる事柄を「特記事項」として記述することにより、監査人の判断が曖昧になっている場合があるとの指摘があった。このため、従来の「特記事項」は廃止し、監査人が特に説明や強調を要すると判断した事項は「追記情報」として、監査意見とは明確に区別して記載することとされた。


 ゴーイング・コンサーンへの対処
 企業が事業を継続していくとの前提(ゴーイング・コンサーン)に問題があるような場合に、投資者としては、企業が存続の危機にあるかどうかを知りたいところであろう。企業の経営責任は経営者にあり、企業の存続を監査人として保証することはできないし、それは監査の役割を逸脱することになる。しかし、監査人にも何らかの対応が求められている。そこでまず、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合には、経営者が、その旨、当該事象等の内容、継続企業の前提に関する重要な疑義の存在、当該事象や状況に対する経営者の対応及び経営計画、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否かについて財務諸表に注記を行う。監査人は、そういった事象や状況の存在や経営計画等の合理性を検討し、必要な事項が適切に注記されているか否かにより財務諸表が適正かどうかの意見を表明する。ただし、監査報告書において企業の事業継続能力そのものを保証するような記述はされない。
 また、継続企業の前提に係る財務諸表の注記が適切になされていると判断して、無限定適正意見を表明する場合であっても、そういった事象や状況等について監査報告書に追記情報として必ず記述を行わなければならないこととされている。
 
 
<注記を要する事象の例示>
財務指標の悪化の傾向(売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過)
財政破綻の可能性(重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶)
その他の事項(事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等)


実施時期等

 改訂監査基準は、平成15年3月期の決算監査から実施することとされている。したがって、平成14年9月中間決算については、現行の監査基準が適用されることになる。また、実務上の指針については、今後、日本公認会計士協会が整備することとなっている。なお、監査基準が改訂されたことに伴い、中間監査基準の見直しも必要となるが、現在、企業会計審議会で引き続き検討が行われている。
 


「企業会計審議会第二部会の意見書の公表について」

 
<財務局長会議 14年1月29日>

 1月29日、金融庁は本事務年度第三回目の財務局長会議を開催した。会議においては、柳澤金融担当大臣、村田金融担当副大臣からのご挨拶のほか、長官からは、ペイオフ解禁を控え、金融庁と密接な連携をとりながら、管下金融機関について適切な監督を行って頂きたい旨の発言があった。また、各財務(支)局長等から、ペイオフ解禁に係る広報活動への取り組み、資本増強行の経営健全化計画のフォローアップ等について報告があったほか、当庁各局及び証券取引等監視委員会から、証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律案(仮称)、金融機関等による本人確認等に関する法律案(仮称)、空売り規制、IMF金融セクター評価プログラム、証券取引等監視委員会の体制・機能強化への取り組み等についての説明及び意見交換が行われた。

金融担当大臣挨拶

 金融担当大臣の柳澤でございます。財務局長会議の開催に当たり、一言ご挨拶申し上げます。
 我が国経済は、厳しい雇用情勢を始めとして、悪化を続けています。こうした状況の中で、金融庁の任務である金融機能の安定、預金者・投資者等の保護や金融の円滑化に向けて引き続き全力を尽くし、我が国経済の再生を目指していく考えであります。
 本年の重要な政策課題を申し上げますと、第1に、昨年に引き続き不良債権の最終処理の積極的推進です。昨年4月の「緊急経済対策」、6月の「骨太の方針」や10月の「改革先行プログラム」を踏まえ、不良債権処理の強化を図るための各般の具体的施策を早急に進めているところです。
 まず、主要行に対し、通常の検査の強化を図ることに加え、特別検査を厳正かつ的確に実施するとともに、市場の評価に適時に対応した引当を確保します。また、昨年の臨時国会における金融再生法改正によるRCCの機能拡充を受け、RCCを活用した不良債権処理と企業再生に積極的に取り組みます。これらの施策を着実に実行することにより、集中調整期間終了後の平成16年度には、不良債権問題が正常化するよう努めます。
 第2に、本年4月には、ペイオフ解禁という金融行政の新たな転換点を迎えます。預金等の全額保護は、金融危機対応のための臨時異例の措置であり、ペイオフ解禁は予定どおり実施すべきと考えています。財務局におかれても、名寄せ体制の整備や預金取引約款における相殺規定の整備等、ペイオフ解禁に向けた実務面での対応について留意願います。なお、金融庁としては、市場の動向や不良債権の処理状況等、金融情勢については十分注視しているところであり、その点から現在においては金融危機のおそれはないという認識を持っておりますが、今後、万一、信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがある場合には、金融危機対応のための諸措置を適切に講じる考えです。
 第3に、直接金融の推進、とりわけ個人投資家の育成であります。このため、国民が安心して証券市場に参加できるよう、透明性・公平性の高い証券市場を構築することが重要であり、「証券市場の構造改革プログラム」に掲げた施策を引き続き着実に推進します。
 また、証券市場の国際的競争力を左右する基盤である証券決済システムをより安全で効率性の高いものに改革していくことが喫緊の課題であり、昨年の通常国会において成立した法律に引き続き、公社債等のペーパーレス化の実現等を図る証券決済システム改革に係る法案を今通常国会へ提出することとしております。
 財務局長の皆様におかれては、地域金融の安定を図るという重要な責務を肝に銘じ、金融庁と引き続き緊密に連携しつつ、検査・監督・監視事務の円滑な遂行に最善を尽くして頂き、本年4月からのペイオフ解禁を万全な体制で迎えられるよう改めて要望したいと思います。
 最後になりましたが、財務局職員の方々のご健闘とご健康を祈念して私の挨拶とさせていただきます。

金融担当副大臣挨拶

 金融担当副大臣の村田でございます。財務局長会議の開催にあたり、いくつかのことを申し上げたいと存じます。
 第1に、金融庁の14年度の機構・定員についてであります。先程、柳澤大臣からお話のありました証券市場の構造改革や不良債権問題の抜本的解決を図るという重要な政策課題に迅速かつ的確に対応していくため、平成14年度予算案において、金融庁全体で134人の増員を行うこととされています。
 特に、証券市場に対する信頼性を向上させるための監視体制の整備を図る観点から、証券取引等監視委員会について、現体制122人に対して5割増の61人の増員を行うとともに、厳正かつ実効性・効率性の高い検査体制の整備を図る観点から、検査局について、46人の増員を行うこととされております。また、皆様ご承知のとおり、財務局の金融部門については、証券取引等監視官部門39人及び金融検査部門3人の合計42人の増員が行われます。こうした体制整備を踏まえ、今後、各財務局においても金融行政の課題への対応をより一層進めていただくようお願いいたします。
 第2に、金融庁では、今通常国会に2件の法律案の提出を予定しており、その1つが先程柳澤大臣からお話のあった証券決済システム改革法案ですが、もう1つの「金融機関等による本人確認等に関する法律案(仮称)」について申し上げます。
 昨年9月の米国における同時多発テロ事件の発生以降、テロ資金対策が国際社会において重要な課題となっている中、我が国としても、昨年10月末に署名した「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」を早期に締結する必要があります。このため、同条約を確実に実施し、テロ資金供与行為等の防止を図る等の観点から、金融機関等に対して、顧客の本人確認及び取引記録保存を義務づけること等を内容とする法律案を提出することとしています。
 第3に、預金者や投資家に対する金融・証券知識の普及についてであります。本年4月からのペイオフ解禁まで残り2か月となりました。預金保険制度の広報については、これまでも地方での講演会の実施や政府広報の活用等、財務局の方々に協力頂きながらその広報に鋭意取り組んで来たところであり、本日の会議においても各財務局からの報告や議論が行われたところですが、今後も引き続き積極的な対応をよろしくお願いいたします。
 また、証券市場の構造改革プログラムの柱の一つとして投資家教育が掲げられているように、証券知識の普及促進が重要です。証券分野では、例えば昨年11月末のMMFの元本割れに対して、自主規制機関である投資信託協会が1月18日に「MMFの安定性確保のための方策」を発表する等、新たな重要な取組みが行われています。投資に関する問題には専門的・技術的な側面もあり、なかなか国民にご理解を頂くのが難しい点もあります。金融庁においても、ホームページの拡充や個人投資家との意見交換会の開催といった活動を行っているところですが、財務局においては国民と直接接することが多いかと思いますので、機会を捉えて、投資に関する基礎的な知識の普及や新たな取組みについての情報提供等について、地道に取り組んでいただくようお願いいたします。
 最後になりましたが、財務局職員の皆様のご健勝をお祈りして私の挨拶とさせていただきます。

 

<主な出来事>(1月)
     
9日(水) 「公認会計士試験第3次試験口述試験受験資格者について」発表
「公認会計士試験第3次試験口述試験の施行について」発表
10日(木) 「資産を買い取る場合の価格を定めるための基準及び資産の買取りの決定に係る承認を行うための基準を定める件を改正する告示案」に対するパブリック・コメントの結果公表
11日(金) 企業会計審議会第一部会開催(第16回)
「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行令等を改正する政令等」に対するパブリック・コメントの結果公表
投資一任契約に係る業務の認可
「銀行等の株式等の保有の制限に関する命令案」及びこれに基づく告示案の公表(パブリック・コメント)
12日(土) 永代信用組合に対する金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分
15日(火) 金融トラブル連絡調整協議会開催(第9回)
長崎第一信用組合に係る管理を命ずる処分の取消し
16日(水) 「金融分野の業界団体・自主規制機関における苦情・紛争解決支援のモデル(案)」の公表(パブリック・コメント)
「タリバーン関係者等と関連すると疑われる取引の届出について(追加要請その5)」発表
17日(木) 自動車損害賠償責任保険審議会開催(第117回)
「タリバーン関係者等のリストの一部削除について」発表
18日(金) 大和銀ホールディングスによる子会社取得の予備審査通知
大和銀信託銀行(株)に対する銀行業の免許等
「石川銀行の検査結果について」発表
神栄信用金庫及び千葉商銀信用組合に対する金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分
「銀行法等の一部を改正する法律の一部の施行等に伴う宅地建物取引業法施行規則及び不動産特定共同事業法施行規則の一部改正案」の公表(パブリック・コメント)
21日(月) オニール米財務長官の大臣表敬訪問
23日(水) 「特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令等の改正案」に対するパブリック・コメントの結果公表
24日(木) 銀行持株会社(三井トラスト・ホールディングス株式会社)の設立認可
中央三井信託銀行株式会社及びさくら信託銀行株式会社の産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画の認定
事務ガイドラインの改正(「証券会社、投資信委託業者及び投資法人等並びに証券投資顧問業者等の監督等にあたっての留意事項」)
25日(金) 企業会計審議会総会開催(第3回)
企業会計審議会固定資産部会開催(第19回)
金融審議会金融分科会第二部会開催(第9回)
「企業会計審議会第二部会の意見書」の公表(パブリック・コメント)
船橋信用金庫、相互信用金庫及び石川たばこ信用組合に対する金融整理管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分
  事務ガイドラインの改正(預金取扱い金融機関関係)
28日(月) 「抵当証券業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令案の概要」の公表(パブリック・コメント)
不動信用組合に係る管理を命ずる処分の取消し
29日(火) 財務局長会議開催
銀行等保有株式取得機構の設立等の認可
「タリバーン関係者等のリストの一部削除について」発表
30日(水) 「銀行等の株式等の保有の制限に関する命令案及びこれに基づく告示案」に対するパブリック・コメントの結果公表
31日(木) 「資金洗浄対策の観点から監視を強化すべき取引について」発表