平成22年3月16日
金融庁

味の素株式会社社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、味の素(株)社員による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成21年6月19日に審判手続開始の決定(平成21年度(判)第8号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「法」といいます。)第185条の6の規定に基づき課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、本日、下記のとおりPDF決定(PDF:187KB)を行いました。

1 決定の内容

  • (1)納付すべき課徴金の額及び納付期限

    金39万円  平成22年5月17日

  • (2)課徴金に係る法第178条第1項第16号に掲げる事実

    被審人は、カルピス(株)と株式交換契約の締結の交渉をしていた味の素(株)の社員であったが、同社の他の社員が同契約の締結の交渉に関し知った、カルピス(株)の業務執行を決定する機関が味の素(株)との間で株式交換を行うことについての決定をした旨の事実(以下「本件重要事実」という。)を、その職務に関し知り、この事実が公表された平成19年6月11日午後3時00分より前の同日に、妻の名義で、自己の計算において、カルピス(株)の株券合計2,000株を総額221万3000円で買い付けた(以下「本件株取引」という。)ものである。

  • (3)課徴金の計算の基礎

    平成20年法律第65号による改正前の金融商品取引法第175条第1項に基づき、課徴金の額は、

    (重要事実が公表された翌日の終値等)×(買付株数)
    -(買付価格)×(買付株数)
    で算出される。

    したがって、本件重要事実の公表翌日である平成19年6月12日のカルピス(株)の株価の終値は、1,306円であることから、課徴金の額は次のとおりとなる。

    (1,306円×2,000株)-(1,106円×1,000株+1,107円×1,000株)

    =399,000円

    課徴金の額は1万円未満を切り捨てるため、39万円となる。

2 本件の経緯

平成21年6月19日

証券取引等監視委員会が課徴金納付命令の勧告
金融庁が審判手続開始決定

8月21日

被審人が答弁書を提出(違反事実を否認)

9月10日

第1回審判期日

10月8日

第2回審判期日

11月16日

第3回審判期日

平成22年1月28日

第4回審判期日

3 本件の争点

本件の争点は、被審人の妻による本件株取引について、

  • (1)本件重要事実を知った被審人が、被審人の妻に対して指示したと認めることができるか(争点1)

  • (2)被審人が自己の計算で行ったと認めることができるか(争点2)

の2点である。

4 争点に対する審判官の判断の概要

  • (1)争点1についての判断

    被審人が味の素(株)の他の社員から本件重要事実の説明を受けて間もないうちに、本件株取引が開始されていることは明らかである。そして、被審人の妻は、本件株取引前にカルピス株の買付けをしたことがなく、また、本件株取引当時、カルピス株の買い材料となるような事実は公表されていなかった(むしろ、当時、カルピスの子会社が輸入販売していたミネラルウォーターから細菌が検出されたという報道があり、カルピス株の株価の下げ要因が存在したといえる。)。これらのことに加え、カルピス株は、平成19年中に被審人の妻が行っていた株取引において選択した株と比べると、流動性が低く性質を異にするものであったことを考え合わせると、被審人の妻の本件株取引は、被審人から本件重要事実を伝達された上での取引であったことが強く疑われる。

    そして、本件株取引が行われたころには被審人の社内パソコンの操作を行っていなかった3回の空白時間が存在し被審人には被審人の妻と連絡を取る機会があったと考えられる上、3回の空白時間と本件株取引の行われた時間帯の関係をみると、1回目の空白時間の直後に1回目の買建発注が行われ、2回目の空白時間に2回目の買建発注が行われ、3回目の空白時間に指値変更が行われているという関係がみられ、これらはそれぞれ時間的に極めて近接していること、被審人は本件株取引後の時間帯に、パソコン上で味の素株やカルピス株に関するサイトを閲覧するなど、本件株取引が行われた後、カルピス株等について関心を有していたといえることをも総合すると、3回の空白時間に、被審人から被審人の妻に対して本件重要事実が伝達され、本件株取引の指示が行われたと認められる。

    被審人は、3回目の空白時間におけるABA京橋ビルと味の素本社A棟との入退館は、被審人が仕事上の用事で入退館していたものであり、被審人の妻と連絡を取った事実はないと主張するが、被審人が3回目の空白時間において仕事上の用事をしていた事実を認めるに足りる証拠はない。ABA京橋ビルと味の素本社A棟との間を往復した被審人には、被審人の妻に連絡を取る機会があったことに変わりはなく、被審人の主張は上記認定を覆すに足りるものではない。

    さらに、被審人は、1回目の空白時間の直後、被審人の妻は、まず、味の素株の買建発注をしているが、被審人からカルピス株を買い付けるよう指示があったとするならば、まず、カルピス株の買付発注をするのが自然であり、別の銘柄の株の発注をするなど不自然であるとも主張する。

    しかしながら、被審人から被審人の妻に対する本件重要事実の伝達があったことを前提にすると、味の素株の買建発注をしたことが直ちに不自然であるとはいえない上、味の素株が本件重要事実と密接に関わる株式であることを考慮すると、むしろ、被審人が被審人の妻に本件重要事実を伝達し本件株取引を指示したことを推認させるものというべきである。

    以上によると、被審人は、本件重要事実を被審人の妻に伝達し被審人の妻に対して本件株取引の指示をしたものと認められる。

  • (2)争点2についての判断

    上記認定のとおり、本件株取引は被審人の指示に基づき行われたものである。そして、被審人の妻名義の証券口座に係る権利は、被審人が実父より相続した資金を原資とする、被審人の財産であることからすると、当該口座を使用した本件株取引の利益は被審人に帰属するといえる。

    よって、本件株取引は被審人の計算によるものであると認めることができる。

  • (3)結論

    以上によると、本件株取引は、被審人が被審人の妻に対して指示したものと認められ、かつ、被審人が自己の計算で行ったものといえるから、被審人の行為によるものと認められる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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