平成22年12月9日
金融庁

JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、JVC・ケンウッド・ホールディングス(株)に係る有価証券報告書等の虚偽記載の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成22年6月21日に審判手続開始の決定(平成22年度(判)第8号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、本日、下記のとおり決定(PDF:177KB)を行いました。

決定の内容

  • (1)納付すべき課徴金の額金8億3913万円

  • (2)納付期限平成23年2月10日

  • (3)課徴金に係る金融商品取引法第178条第1項各号に掲げる事実

    • 被審人JVC・ケンウッド・ホールディングス(株)(以下「被審人」という。)は、関東財務局長に対し、下表のとおり、平成20年法律第65号による改正前の金融商品取引法(以下「旧金商法」という。)第172条の2第1項及び第2項に規定する「重要な事項につき虚偽の記載がある」有価証券報告書等を提出した(以下「継続開示書類の虚偽記載」という。)ものである。

      番号 提出日 書類 虚偽記載
      会計期間 財務計算に
      関する書類
      内容(注) 事由
      平成21年
      2月12日
      第1期事業年度第3四半期連結会計期間に係る四半期報告書(平成20年12月第3四半期報告書) 平成20年4月1日~平成20年12月31日の第3四半期連結累計期間 四半期連結
      損益計算書
      連結四半期純損益が▲11,065百万円であるところを▲3,337百万円と記載 ・負ののれんの計上及び償却による利益の過大計上並びに正ののれんの不計上及び一括償却による損失の不計上
      ・費用の過少計上
      平成21年
      6月24日
      第1期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書(平成21年3月期有価証券報告書) 平成20年4月1日~平成21年3月31日の連結会計期間 連結
      損益計算書
      連結当期純損益が▲30,734百万円であるところを▲18,795百万円と記載 ・負ののれんの計上及び償却による利益の過大計上並びに正ののれんの不計上及び一括償却による損失の不計上
      ・減損損失の不計上
      ・費用の過少計上

      (注)金額は百万円未満切捨てである。また、▲は損失であることを示す。

    • 被審人は、関東財務局長に対し、下表のとおり、金融商品取引法(以下「金商法」という。)第172条の2第1項第1号に規定する「重要な事項につき虚偽の記載がある」有価証券届出書を提出し、同有価証券届出書に基づく募集により、平成21年7月28日、320個の新株予約権証券を18,580,884,000円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)で取得させた(以下「発行開示書類の虚偽記載」という。)ものである。

      提出日 書類 虚偽記載
      会計期間 財務計算に
      関する書類
      内容(注) 事由
      平成21年
      7月10日
      有価証券届出書 平成20年4月1日~平成21年3月31日の連結会計期間 連結
      損益計算書
      連結当期純損益が▲30,734百万円であるところを▲18,795百万円と記載 ・負ののれんの計上及び償却による利益の過大計上並びに正ののれんの不計上及び一括償却による損失の不計上
      ・減損損失の不計上
      ・費用の過少計上

      (注)金額は百万円未満切捨てである。また、▲は損失であることを示す。

  • (4)課徴金の計算の基礎

    • 継続開示書類の虚偽記載

      旧金商法第172条の2第1項及び第2項の規定により、被審人の第1期事業年度第3四半期連結会計期間に係る四半期報告書(以下「第3四半期報告書」という。)及び同事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書に係る課徴金について、個別決定ごとの算出額は、

      • (イ)被審人が発行する算定基準有価証券の市場価額の総額に10万分の3を乗じて得た額(1,348,627円)

      • (ロ)3,000,000円

        を超えないことから、

        第3四半期報告書については、3,000,000円の2分の1に相当する額である1,500,000円
        同有価証券報告書については、3,000,000円

        となるが、第3四半期報告書及び同有価証券報告書が、いずれも第1期事業年度に係るものであることから、旧金商法第185条の7第2項の規定により、3,000,000円を個別決定ごとの算出額に基づき按分することとなり、

        第3四半期報告書に係る課徴金の額は
        3,000,000×1,500,000/(1,500,000+3,000,000)=1,000,000円
        同有価証券報告書に係る課徴金の額は
        3,000,000×3,000,000/(1,500,000+3,000,000)=2,000,000円

        となる。

    • 発行開示書類の虚偽記載

      金商法第172条の2第1項第1号の規定により、重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集により取得させた新株予約権証券の発行価額の総額18,580,884,000円(当該新株予約権証券に係る新株予約権の行使に際して払い込むべき金額(18,560,000,000円)を含む。)の100分の4.5に相当する額である836,139,780円について、金商法第176条第2項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて、836,130,000円となる。

      以上より、課徴金の額は次のとおりとなる。

      1,000,000円+2,000,000円+836,130,000円=839,130,000円

本件の経緯

平成22年6月21日

証券取引等監視委員会が課徴金納付命令の勧告

金融庁が審判手続開始決定

7月5日

被審人が答弁書を提出

  • 上記1(3)イの違反事実等について、すべて認める。
  • 上記1(3)ロの違反事実等について、事実は認めるが、課徴金額について認否を留保(後日、留保部分を否認。)。
10月27日

第1回審判期日開催

本件審判事件の争点

本件の争点は、以下の2点である。

  • (1)新株予約権が行使されることなく消滅し、かつ、発行者が得た発行対価全額が取得者へ交付された場合、金商法第172条の2第1項第1号の規定による課徴金が課されるか(以下「争点1」という。)。

  • (2)金商法第172条の2第1項第1号にいう「新株予約権の行使に際して払い込むべき金額」とはいかなる金額を指すか(以下「争点2」という。)。

争点に対する審判体の判断の概要

前提として、被審人は審判手続開始決定書記載の課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実を認めていることから、上記1(3)記載の各事実があると認めることができる。

  • (1)争点1についての判断

    金商法第172条の2第1項は、「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている発行開示書類を提出した発行者が、当該発行開示書類に基づく募集…により有価証券を取得させ…たとき」に当該有価証券の発行価額の総額を基礎として計算した課徴金の納付を命ずる旨規定し、文言上も、課徴金納付命令の要件はかかる有価証券を取得させた時点で具備するとされ、有価証券を取得させた後の事情は何ら課徴金納付命令の要件とされていない。実質的に考えても、違反行為者である発行者が、受領した発行対価を交付して有価証券を消却した場合に、金商法の課徴金に関する規定の適用がないと解することになると、違反行為者である発行者は、課徴金納付命令が発出される前に発行対価を交付して有価証券を消却することにより、課徴金の納付義務を免れ得ることになり、不当である。

    よって、金商法第172条の2第1項第1号の規定による課徴金の額は、重要な事項に虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得させた時点で確定し、その後、新株予約権が行使されることなく消滅し、発行者が得た新株予約権証券の発行対価全額が取得者に交付されたとしても、同号の規定が適用されることに変わりはなく、同号の規定による課徴金が課されるというべきである。かかる解釈は、金商法第172条の2の解釈を所管する当庁総務企画局企業開示課の見解とも整合的である。

  • (2)争点2についての判断

    金商法第172条の2第1項第1号の規定による課徴金の額は、上記(1)のとおり計算されるものであり、重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている発行開示書類を提出した発行者が、当該発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得させた時点で確定するものである。

    そうすると、「新株予約権の行使に際して払い込むべき金額」は、発行者が重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類を提出し、当該発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得させた時点における新株予約権の行使価額を基準に計算して得られた金額と解すべきである。かかる解釈は、金商法第172条の2の解釈を所管する当庁総務企画局企業開示課の見解とも整合的である。

    この点に関し、被審人は、主位的に、金商法第172条の2第1項第1号の規定による課徴金の額は、審判手続終結時点の最善の見積りで判断すべきであると主張し、予備的に、有価証券を取得させた日又は有価証券届出書を提出した日における株価に基づいた資金調達の合理的見込額(具体的には、新株予約権証券を取得させた日を基準にした場合、平成21年7月28日の被審人株式の終値61円に掛目0.92及び取得可能株数160,000,000株を乗じて得られた8,979,200,000円となる。)を基礎とすべきであると主張する。しかしながら、被審人が主張するいずれの計算方法も、課徴金の額を一義的、明確に算出できるよう計算方法を法定している金商法の規定の趣旨に反して課徴金の計算方法を曖昧、不明確にするおそれがあり、採用できない。

  • (3)補足

    なお、このような方法により金商法第172条の2第1項第1号の規定による課徴金の額を計算すると、現実の資金調達額を大幅に上回る課徴金が課されるケースも生じ得る。しかしながら、新株予約権証券を発行する場合、発行者は、新株予約権証券自体の発行価額のみならず、新株予約権の行使による株式払込金額を含めた資金調達額を想定しているものであり、発行開示書類の虚偽記載という違反行為の十分な抑止を図るという課徴金制度の目的に照らせば、新株予約権が行使されたとしたら受け取ることになる金額を含めた調達可能額を基準として課徴金の額を計算するという方法には一定の合理性があるというべきである。

以上より、本件において、「新株予約権の行使に際して払い込むべき金額」は、被審人が新株予約権証券を取得させた平成21年7月28日における新株予約権の行使価額を基準に計算されるものであり、具体的には、被審人の同月10日付け取締役会決議により定められた行使価額116円に取得可能株数160,000,000株を乗じた18,560,000,000円となる。よって、この金額と新株予約権証券自体の発行価額である20,884,000円の合計である18,580,884,000円が、金商法第172条の2第1項第1号に規定する「有価証券の発行価額の総額」となる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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