平成24年10月23日
金融庁

株式会社SJIとの契約締結交渉者からの情報受領者による内部者取引事件に対する違反事実がない旨の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、(株)SJIとの契約締結交渉者からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成24年3月16日に審判手続開始の決定(平成23年度(判)第30号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「法」という。)第185条の6の規定に基づき違反事実がない旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:173KB)を行いました。

主文

被審人に対する本件審判事件について、法178条1項16号に該当する事実を認めることはできない。

理由

別紙のとおり


(別紙)

  • 第1本件審判事件の概要

    本件審判事件は、被審人(A)が、平成21年8月中旬ころ、その発行する株式が上場されていたSJIと業務提携基本契約の締結の交渉をしていたデジタル・チャイナ・ホールディングスの役員であるBから、Bが上記契約の締結の交渉に関し知った、SJIの業務執行を決定する機関が、その発行する株式を引き受ける者の募集を行うこと及びデジタル・チャイナ・ホールディングスと業務上の提携を行うこと(本件資本業務提携)についての決定をした旨の事実(本件重要事実)の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、本件重要事実の公表より前の同月28日、自己の計算において、SJIの株式を買い付けたという、法178条1項16号に該当する事実につき、被審人に対し、審判手続開始の決定がなされた事案である。被審人は、審判廷において、Bから伝達を受けたのかどうか分からない旨主張ないし陳述するので、この点につき、判断する。

  • 第2基礎となる事実

    • 関係者の経歴、被審人との関係等

      • (1)被審人は、中国出身で、昭和62年に来日してからは日本に居住しているものであり、平成12年11月以降、D社の役員を務めている。

      • (2)Eは、中国出身で、昭和56年4月までに来日してからは日本に居住しているものであり、平成19年6月以降、SJIの役員を務めている。

      • (3)Cは、中国に居住しているもので、平成19年4月から平成23年3月までは、デジタル・チャイナ・ホールディングスの役員を務めていた。

        被審人は、Cが日本を訪れる際には、その案内役等をしていた。

      • (4)Bは、中国に居住していたもので、平成21年8月当時は、デジタル・チャイナ・ホールディングスの役員を務めていた。被審人は、Bとほとんど連絡を取ったことはなかった。

      • (5)Fは、中国に居住しているもので、デジタル・チャイナ・グループの創業時からの幹部であり、デジタル・チャイナ・ホールディングスの完全子会社や関連会社の役員を歴任していた。被審人は、Fと親交が厚く、頻繁に連絡を取り合っており、被審人が中国を訪れる際には、一緒に酒を酌み交わすなどし、デジタル・チャイナ・ホールディングスの動向等を聞くこともあった。

    • 本件資本業務提携の交渉経過等

      • (1)本件資本業務提携の交渉に至る経緯及び交渉経過

        Eは、平成20年以降、SJIの資本業務提携を模索していた一方、Cは、被審人から、SJIの発行済株式の時価総額が下落傾向にあることを聞き知り、SJIへの出資に興味を示していた。

        被審人は、Cから依頼を受けてEとの面談日時等を調整し、平成21年5月中旬、C、E及び被審人の三者で面談が行われた。

        被審人は、その後、CとEの面談日時等を調整し、同年6月29日、C及びEの面談が行われたが、被審人は、この面談に同席しなかった。Cは、この面談の際、Eに対し、SJIに出資する方向で話を進める意向を示しつつ、社内調整をするので持ち帰ってその結果を連絡する旨を告げた。

      • (2)被審人による本件資本業務提携の検討状況の確認等

        Eは、SJIの役員として、平成21年7月10日までに本件資本業務提携についての決定をする一方、被審人に対し、デジタル・チャイナ・ホールディングス内の検討状況を確認するよう、複数回にわたり催促していた。

        そこで、被審人は、同月19日から中国を訪れていた際、Fから、SJIへの出資に賛同するようFがCに対して助言をしたこと、同社の投資委員会でSJIへの出資が了承されたこと等を聞き、同月22日、Eに対し、この内容を伝える旨の電子メール(本件メール)を送信した。

        その後、被審人は、同年8月のお盆休みころにも中国でFと会っていた。

      • (3)デジタル・チャイナ・ホールディングスによる本件資本業務提携の決定等

        Eは、平成21年8月19日、Cから、電話で、社内調整がついて、Bを中心としたデューデリジェンスに対応するチームができたので対応して欲しいなどと連絡を受けた。本件資本業務提携に係るデューデリジェンスは、同年9月末ころまで行われたが、その過程でBが日本を訪れたことはなかった。

    • 被審人に対する質問調査の状況等

      • (1)質問調査の概要等

        I調査官は、平成23年10月18日から平成24年1月19日までの間、9回にわたり、1回当たり一、二時間前後で、被審人の質問調査をした。

        被審人は、I調査官に対し、スケジュールが詰まっているので予定の時間になったら帰る意向等を伝えるなどしていた。

      • (2)第5回質問調査までの状況等

        被審人は、平成23年10月18日の第1回質問調査で、平成21年8月のお盆休み明けころ、デジタル・チャイナ・ホールディングス側から、本件資本業務提携に係る社内のコンセンサスが得られ、これからデューデリジェンスの手続に入るとの連絡があった旨供述し、平成23年10月20日の第2回質問調査で、C又はBから上記連絡を受けたと供述した。被審人は、第1回質問調査に先立ち、SJIが本件資本業務提携に係る経緯をまとめた内部資料(本件経緯書)に目を通していた。

        その後、被審人は、同年11月18日の第5回質問調査までには、本件重要事実の伝達を受ける前後の状況につき、C又はBから、デューデリジェンスのために今度日本に行くので、そのときはよろしくと言われた旨供述する一方、本件メールの作成経緯等につき、記憶があまり明確でない旨供述しており、第5回質問調査では、同月19日から中国へ行くので、Fに当時の話を聞いてくると述べていた。

      • (3)第6回質問調査以降の状況等

        被審人は、平成23年12月2日の第6回質問調査において、もしかしたらFから聞いたかもしれない旨供述したが、I調査官から、Fが、その立場上、デジタル・チャイナ・ホールディングス内のデューデリジェンスに参加するとは考え難く、デューデリジェンスのために今度日本に行くなどと言わないのではとただされ、上記供述を撤回した。

        I調査官は、同月15日の第7回質問調査で、被審人が、C又はBからデューデリジェンスを行うとの連絡を受けた旨を録取した質問調書を作成し、被審人は、これに署名押印した。

        被審人は、平成24年1月17日の第8回質問調査で、I調査官から本件重要事実の伝達者について再確認され、明確に思い出せないが、Bから聞いた可能性が高い旨供述した。これを受け、I調査官は、同月19日の第9回質問調査で、Bらからデューデリジェンスを行うとの連絡を受けた旨録取した質問調書を作成し、被審人は、これに署名押印した。I調査官は、その際、被審人に対し、本件は軽いスピード違反のようなものである旨述べていた。

  • 第3争点に対する判断

    • 被審人の質問調査の段階における供述について

      被審人は、本件重要事実の伝達をCかBかのいずれかから受けた旨供述し、最終的には、Bから聞いた可能性が高いと供述しているもので、その旨を録取した質問調書に署名押印もしている。

      しかし、被審人が現に伝達を受けていたのであれば、その伝達を受けたときないし伝達の前後の状況についても、何らかの記憶があってしかるべきであるのに、被審人は、これらの状況につき、一切供述していない。他方、被審人は、第1回質問調査に先立ち、本件経緯書に目を通していたというのであるから、被審人が上述のような伝達の時期ないし文言を具体的に供述しているのは、実際は記憶がないのに、本件経緯書に基づく推論を供述したためと考えられる。

      また、本件資本業務提携については、被審人を通じて面談日時等の調整をし、Eと交渉をしていたのはCで、Bは、この過程に一切関与しておらず、デューデリジェンスの過程で日本を訪れてもいない。そうであるのに、被審人の質問調査の段階における供述によれば、そのようなBが、当時はほとんど連絡を取っていなかった被審人に対し、いきなりデューデリジェンスの手続に入るとの連絡をし、又はデューデリジェンスのために日本を訪れる旨を伝えてきたこととなり、唐突な感が否めない上、Bが日本を訪れることがなかったことにつき、首肯し得る説明がなされていない。また、被審人とE、C及びBとの関係並びに本件資本業務提携の交渉経過等からすると、Cから本件重要事実の伝達を受ける可能性よりもBから伝達を受ける可能性の方が相対的にみて低いのに、これに反する供述をすることの説明もない。このように、被審人の質問調査の段階における供述のうち、Bから本件重要事実の伝達を受けたとする部分は、不自然ないし不合理な内容のものである。

      さらに、被審人が質問調書に署名押印しているのは、仕事及び時間に追われるなどしていた中、本件が軽微なものであるとの印象を与えかねないI調査官の言辞があったことから、できるだけ早く質問調査を終わらせようとしたことによる可能性も否定できない。

      そうすると、被審人の質問調査の段階における供述のうち、本件重要事実の伝達に係る部分は、信用性が乏しく、採用し難い。

    • Fから伝達を受けた可能性について

      被審人は、審判廷においてはもとより、第6回質問調査においても、Fから、本件重要事実を聞き知った可能性を述べている。

      Fは、デジタル・チャイナ・グループの創業時からの幹部で、本件資本業務提携に対するデジタル・チャイナ・ホールディングス内の検討状況を被審人に伝えていたことから、同社の内部事情を一定程度知り得る立場にあったと推認される。被審人は、平成21年8月のお盆休みころに中国を訪れた際、このFと会っていたものであるから、Fから、本件重要事実の伝達を受けたことも十分に考えられ、上記陳述ないし供述は、このような客観的事実に符合する。

      被審人が当初Fの名前を出していないのは、本件経緯書に基づいて供述する中、本件メールを示された上、Fと会ったときに記憶が喚起されたものと考えられ、また、いったんはFの名前を出しながら、すぐにその供述を撤回したことも、I調査官の理詰めにその場で対応できなかったにすぎない。

      そうすると、Fから本件重要事実を聞き知った可能性を述べる被審人の陳述ないし供述は、相応に信用できる。

    • まとめ

      被審人の質問調査の段階における供述のうち、本件重要事実の伝達に係る部分は、信用性が乏しく、採用し難いもので、被審人がBから本件重要事実の伝達を受けていた可能性は、観念的なものにとどまる上、Bからの伝達を裏付ける他の証拠もない。他方、それ相応に信用できる被審人の陳述ないし供述及び客観的事実によれば、被審人がFから本件重要事実の伝達を受けていた可能性も相当程度存在する。

      そうすると、被審人が平成21年8月中旬ころに本件重要事実の伝達をBから受けていたとは認められない。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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