平成26年10月31日
金融庁

国際石油開発帝石株式会社の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、国際石油開発帝石(株)の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成25年12月2日に審判手続開始の決定(平成25年度(判)第30号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:312KB)を行いました。

決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金54万円

  • (2)納付期限平成27年1月5日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))

被審人(株)スタッツインベストメントマネジメント(以下「被審人」という。)は、東京都千代田区平河町一丁目7番20号に本店を置き、投資顧問業務等を目的とし、投資運用業及び投資助言・代理業を行うことにつき、内閣総理大臣の登録を受け、被審人がケイマン籍ユニット・トラストのギンガ・サ-ビス・セクター・ファンド(Ginga Service Sector Fund)の取引子会社であるA社との間で締結した投資一任契約に基づいて、同ファンドの資産の運用権限を有し、また、被審人がケイマン籍ユニット・トラストのユビキタス・マスター・シリーズ・トラスト・クラス・ディ・ファンド(Ubiquitous Master Series Trust Class D Fund)(以下、上記二つのファンドを併せて「本件各ファンド」という。)の投資運用者であるB社との間で締結した投資一任契約(以下、上記各投資一任契約を併せて「本件各投資一任契約」という。)に基づいて、同ファンドの資産の運用権限を有していた会社であるが、被審人役員として本件各ファンドの運用を担当していたCにおいて、遅くとも平成22年7月2日までに、D証券株式会社(以下「D証券」という。)機関投資家向け営業部門の営業員として日本株の営業の業務に従事していたEから、D証券引受部門の社員Fが、東京都港区赤坂五丁目3番1号に本店を置き、石油・天然ガス、その他の鉱物資源の調査、探鉱、開発、生産、販売等を目的とし、その発行する株式が東京証券取引所市場第一部に上場されていた国際石油開発帝石株式会社(以下「国際石油開発帝石」という。)との引受契約の締結の交渉に関し知り、その後、Eがその職務に関し知った国際石油開発帝石の業務執行を決定する機関が株式の募集を行うこと(以下「本件公募増資」という。)についての決定をした旨の重要事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、本件各投資一任契約に基づく運用として、同重要事実の公表(以下「本件公表」という。)前の平成22年7月6日、G証券株式会社等を介し、株式会社東京証券取引所において、国際石油開発帝石株式(以下「本件株式」という。)の売付けを行い、もって、本件各ファンドの計算において、本件株式合計456株を売付価額合計2億1,847万3,000円で売り付け(以下「本件売付け」という。)た。

(違反事実認定の補足説明)

  • 争点

    被審人は、違反事実のうち、Cが、Eから重要事実の伝達を受けた点を否認しているから、この点につき、以下補足して説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が積極的に争わず、そのとおり認められる。)。

  • 前提となる事実

    • (1)関係者等

      • 被審人

        被審人は、投資顧問業務等を目的とし、投資運用業及び投資助言・代理業を行うことにつき登録を受けた株式会社であり、平成22年7月当時、本件各投資一任契約に基づいて、本件各ファンドの資産の運用権限を有していた。

      • Cは、平成22年当時、被審人において、役員を務め、本件各ファンド等の運用を担当していた者である。

      • D証券

        D証券は、本件公募増資に関し、国内における一般募集の共同主幹事証券会社であった金融商品取引業者である。

        平成22年当時、D証券本社には、機関投資家向けの営業部門が置かれ、同部門は、国内機関投資家向け営業部門と海外機関投資家及びヘッジファンド向け営業部門に分かれていた。両部は、毎朝合同で朝会を行うなどして情報共有を図っていた。

      • Eは、平成22年当時、D証券の海外機関投資家向け営業部門に所属する営業員であった者である。Eは、担当顧客に対し、個別銘柄や市場動向等について情報提供を行うとともに、投資に関する意見を提示することなどを日常の業務とし、前記ウの朝会に出席したり、自ら株式需給を調査したりするなどして情報収集した上、投資に関する意見をまとめ、当時の担当顧客であった被審人のCらに対し、チャットなどを用いて日々の情報提供等を行っていた。

      • 国際石油開発帝石

        国際石油開発帝石は、海外における石油資源等の開発を主体とする株式会社であり、その発行する株式が東京証券取引所市場第一部に上場されている。

    • (2)本件公募増資についての決定

      国際石油開発帝石は、平成21年9月頃、公募増資により資金調達を行うことについて具体的な検討準備を開始し、平成22年1月以降は、D証券等の共同主幹事候補会社との間で、新株式の引受けに係る交渉を進めていた。そして、同年2月17日、国際石油開発帝石の取締役執行役員らは、同社代表取締役会長及び同社長に対し、調達額が5,000億円から7,000億円の公募増資を実施すること、実施時期は同年6月23日に予定されていた定時株主総会から1週間ないし10日後を目標とすること、共同主幹事証券会社をD証券及びH証券株式会社等とすることなどを内容とする本件公募増資の実施計画を説明したところ、同代表取締役会長及び同社長は、これを承認し、本件公募増資についての決定をした。なお、国際石油開発帝石は、同年5月26日、社内定例会議において、本件公募増資に係る発行決議の予定日を同年7月8日とする方針を固め、同日の臨時取締役会において、本件公募増資について決議した。

    • (3)Eが本件公募増資について知るに至った経緯

      • D証券引受部門の社員であったFは、D証券と国際石油開発帝石との間で進められていた引受契約の締結に係る交渉事務を担当していたところ、平成22年2月9日、D証券調整部門の社員であったIに対し、本件公募増資の実施日程等に係る情報を提供した。

      • 公募増資の実施日程の調整等を行うなど本件公募増資に向けた作業を進めていたIは、平成22年5月下旬頃、D証券国内機関投資家向け営業部門の社員であり、公募増資案件等に係る部内の取りまとめを担当していたJに対し、翌月から翌々月にかけて大きな案件が2件あることを伝え、また、同年6月下旬頃には、Jに対し、その実施業種は公益セクターであること、実施規模は数千億円程度であること、決議日は翌週の後半であること、グローバル案件で、共同主幹事証券会社はH証券株式会社等であることなどについて伝えた。

      • Jは、公募増資銘柄は国際石油開発帝石であることをほぼ確信し、平成22年6月下旬頃、Kを含むD証券国内機関投資家向け営業部門の全営業員に対し、現在株価が激しく下がっている銘柄が近い将来に公募増資の実施を公表すること、当該銘柄は公益セクターであること、グローバル案件であること、実施規模は数千億円であることなどを伝えた。

      • Jなどからの情報提供により本件公募増資に係る事実を知ったKは、平成22年7月1日又は同月2日頃、Eに対し、業務上の情報共有の一環として、D証券の社内において、「次、INPEX(注・国際石油開発帝石を指す。)らしいですよ」、「5,000億円くらいらしいですよ」などと言い、また、本件公募増資に係る公表が翌週に行われることを伝えた。そのため、Eは、D証券営業員としての職務に関し、国際石油開発帝石が公募増資を実施すること、そのおおよその実施規模及び公表時期等、本件公募増資について知るに至った。

    • (4)EとCの間でやり取りされたチャットの内容等

      Cは、平成22年7月7日午前9時45分頃、Eに対し、チャットで「まだかなぁ」とのメッセージを送信した。その後、EとCは、同日中には、チャットによるやり取りは行っていない。

      また、Eは、同月8日午前8時29分頃から、Cに対し、毎朝行っているのと同様に、チャットで、市場動向等に係る情報提供を行った。その後、Cは、同日午前8時51分頃、Eに対し、チャットで「電話おわりました」とのメッセージを送信した。そして、Cは、同日午前10時35分頃、Eに対し、チャットで「なくなったんですかね」とのメッセージを送信した。

      さらに、Eは、同日午前10時48分頃、Cに対し、チャットで「みずほラージ後、自席待機と言われてます」とのメッセージを送信した。当時、D証券においては、公募増資案件が予定されている場合、その公表後に開催する営業会議への出席に備え、営業員に対し、事前に自席に待機するよう指示を出す慣行があった。

      なお、Cが、上記「なくなったんですかね」とのメッセージを送信してから、Eが、上記「みずほラージ後、自席待機と言われてます」とのメッセージを送信するまでの間には、EとCの間では、チャットによるやり取りは行われていない。

    • (5)本件公表

      平成22年7月8日午後4時30分頃、TDnet(適時開示情報伝達システム)により、国際石油開発帝石が本件公募増資についての決定をした旨の事実が公衆の縦覧に供され、本件公表がされた。

    • (6)本件株式の売買

      Cは、平成22年6月14日から同月23日までの間に、本件各投資一任契約等に基づく運用として、本件各ファンド等の計算において、本件株式合計384株を売付価額合計約2億1,098万円で空売りした。

      また、Cは、同年7月2日午前8時36分頃、L証券株式会社に対し、本件株式に係る貸株レートの提示を依頼し、同日午後3時13分頃、同社に対し、正式に借株の申込みを行った。そして、Cは、同月6日、本件各投資一任契約に基づく運用として、本件各ファンドの計算において、本件株式合計456株を売付価額合計2億1,847万3,000円で空売りした(本件売付け)。

      なお、Cは、同月9日から同月27日の間に、本件各投資一任契約等に基づく運用として、本件各ファンド等の計算において、本件株式の空売り等を行う一方、本件株式合計858株を買付価額合計約3億4,860万4,000円で買い付けた。

  • 争点に対する判断

    • (1)はじめに

      Eは、参考人審問及び質問調書において、Cに対し、本件公募増資に係る事実を本件公表前に伝えた旨供述する。一方、被審人は、Cは、Eから本件公募増資に係る事実を伝えられていない旨主張し、Cは、質問調書及び陳述録取書において、上記主張に沿う供述をする。

    • (2)E供述の検討

      • Eの供述内容

        Eは、参考人審問及び質問調書において、おおむね次のとおり供述している。

        Kは、かねてより、私に対し、近々公表される公募増資に関する情報を知らせてきていたところ、その情報には、まず間違いがなかった。Kは、遅くとも平成22年7月2日頃までには、私に対し、本件公募増資についても、情報を伝えてきた。その内容は、国際石油開発帝石が公募増資を実施し、実施規模は5,000億円程度であり、公表は翌週頃されるというものであった。その際、Kが銘柄のみならず具体的な金額を知らせてきたことに驚いた記憶がある。

        そこで、Kから知らされたその日のうちに、すなわち遅くとも同日頃までに、私の担当顧客のうち、被審人のCほか2名に対し、国際石油開発帝石の公募増資が翌週頃に公表される旨伝えた。Cらは、かねてより公募増資に興味を持っており、また、私にとって大事な顧客であった。3名のうち、Cに伝えたのは最後であった。Kから知らされたその日のうちに伝えたのは、公募増資に関するような情報は、いち早く知ることに価値があり、情報が古くなっては意味がないためである。また、公募増資に関する情報を伝えることは、よくないことであるという意識があったため、そのような情報の伝達手段としては、メールやチャット、業務用固定電話などの記録が残るものは避け、私用の携帯電話などを用いていた。

        Cに伝えた日時場所等について、正確には覚えておらず、携帯電話で伝えたのか、同日午後1時に開催した四季報外交の際に直接会って伝えたのかはっきりしないが、後者の可能性が高く、両方の手段により伝えた可能性もある。また、Cに対し、どのような言い方をして伝えたのかについても、はっきり覚えていないが、社内で取得した確度の高い情報として伝えたことは間違いない。その際、Cには、特に驚いた様子はなかった。

        Cは、同月7日、チャットで「まだかなぁ」とのメッセージを送ってきたが、私にはそれが何のことであるか分からず、違和感を覚えた。その理由は、その週より前に話したことに関するメッセージであったためであると思う。また、Cは、同月8日、チャットで「なくなったんですかね」とのメッセージを送ってきた。このメッセージを見た際、Cが、同メッセージと上記「まだかなぁ」とのメッセージにより、以前に伝えていた本件公募増資について、公表のタイミングなどを尋ねているものと理解したが、本件公募増資に係るやり取りをチャット記録に残してよいものか迷ったため、すぐには返信することができなかった記憶がある。その後、本件公募増資の公表時期を示唆する意味で、Cに対し、チャットで「みずほラージ後、自席待機と言われてます」との返信を行った。このような返信をすれば、Cには、本件公募増資の公表のタイミングが当然に理解できるものと認識していた。

      • 検討

        Eは、本件公募増資に係る事実を知り、同事実をCに伝達し、その後Cとチャットでやり取りした一連の経緯について、上記のとおり、自らの経験した事実として、その時々の感情を交えつつ述べているものであり、その供述内容は自然であって、特段不合理な点は見当たらない。また、Eは、Cへ伝達した具体的な日時場所及び方法等につき、記憶にない点はその旨述べているのであって、供述態度は真摯なものといえ、殊更証券調査官に迎合的な様子なども認められない。

        さらに、Eの上記供述のうち、Cに対し、本件公募増資が翌週頃に公表される旨伝えたところ、その後、Cから本件公表のタイミングなどについてチャットで尋ねられたため、これに回答したとの点については、本件公表の前日から当日にかけて、EとCの間で、「まだかなぁ」、「なくなったんですかね」、「みずほラージ後、自席待機と言われてます」との各チャットがやり取りされた経緯を極めて自然に説明するものであり、また、Eの供述は、客観的に明らかな各チャットの内容とも整合しているということができる。

        そして、Eの上記供述内容は、Eが本件公募増資に関する内部情報を担当顧客であるCらに漏えいし、Cがインサイダー取引に関与したことに係るものであるから、E自身及びCがそれぞれ懲戒処分等の不利益を被る可能性のある内容であるところ、EとCは職務上頻繁に交流があったこと、Cが、EがCと交流することにより機関投資家営業について研さんを積んでいた旨述べていることからすると、EにとってCと交流することは有益であったといえ、このようなEがあえて自らやCに不利益となる虚偽の供述をする動機は見当たらない。

        以上のとおりであるから、Eの上記供述は十分に信用することができる。

    • (3)結語

      したがって、被審人は、Eから重要事実の伝達を受けたものと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、そのとおり認められる。

  • (1)金商法第175条第1項第3号及び金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令第1条の21第1項第1号の規定により、(ア)運用財産の運用として当該売買が行われた月について当該売買をした者に当該運用財産の運用の対価として支払われ、又は支払われるべき金銭その他の財産の価額の総額に(イ)当該売買が行われた日から当該売買が行われた月の末日までの間の当該運用財産である当該売買の銘柄の総額のうち最も高い額を乗じた額を(ウ)当該売買が行われた月の末日における当該運用財産の総額で除して得た額。

    本件では、対象となる取引は、2つの運用財産の運用として行われているため、各運用財産について課徴金額を計算し、それらを合計する金額になる。

    運用財産1について

    (ア)14,591,134円×(イ)147,798,000円÷(ウ)5,123,624,544円

    =420,901円

    運用財産2について

    (ア)2,221,451円×(イ)72,933,000円÷(ウ)1,270,673,889円

    =127,504円

    合計 420,901円+127,504円=548,405円

  • (2)金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、540,000円となる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室
(内線2398、2404)

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